陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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今回早めに出来上がったので投稿します。

途中原作の視点で話を描いた際、こちらの解釈違いで異なるシーンが出てくるため、読みにくい描写になっている箇所があるかと思われますが、何卒ご了承下さい。

それでは、最新話をご覧下さいませ!


51話 復讐者、大切な者達の危機に駆け付ける

 

 

 

 赤い月がこの地を照らしていた。

それは綺麗よりも恐ろしいが勝るほどに不気味で、それによってその地にいたグールが活発化。

 

 グールについてはアルジ達が鎮静化させたものの、それをしただけでは赤い月は終わらない。

赤い月がなぜ起こっているのか?

それを突き止めて元の状態に正さなければ、この騒動は終わらない。

 

 そしてアルジは今……その赤い月とは本来関係がない、否、そもそもこの世界にすら関係がない存在と戦っていた。

 

 アルジが持つナイフの一振りで、この地に突如として現れた者達は複数体粉砕され、もう片方の手に持った対物ライフルが、射線上の敵を一気に穿つ。

 

(にしたってこれはまた数が多いな……)

 

 現在アルジが対峙している存在は、とある世界では『ゾンビ兵』と呼称される存在で、これらは元人間である。

ゾンビ兵が存在する過程として、まずとある細胞に感染してしまうことから始まる。

 

 その細胞は『DG細胞(デビルガンダム細胞)』と呼称され、その細胞に感染してしまった存在は、徐々に『デビルガンダム』と呼ばれる兵器の先兵となるのだ。

 

 そしてゾンビ兵になってしまった者達は、最終的にデビルガンダムが生み出す『デスアーミー』と呼ばれる兵器の生体ユニットとして、その存在が活動停止になるまで動き続ける……そんな悲しい存在となってしまうのだ。

 

 それをアルジは殲滅する。

元は人間だった者だとアルジば理解しているし、自身もその存在達がいた世界に飛ばされたからこそ、目の前に蔓延る存在については、この世界の誰よりも分かっている。

 

 だが、こうなってしまった存在を、アルジには、こうして身体を破壊することでしか彼らを救うことが出来ない。

感染が身体全体に広がる前までの状態であれば、彼はなんとか救うことが出来る。

方法については……それを知れば誰もが脳筋と思うだろう方法で、そう言われても仕方がない事ではあるが、それ程までにDG細胞の感染力は段違いに強い。

それでも感染しきる一歩手前までなら、元の人間に戻すことが可能だ。

 

 しかし完全に感染しきってしまうと、アルジにもどうしようもできない。

だからこそ……彼は目の前に次々と現れる、DG細胞に感染しきってしまった元人間であるゾンビ兵を、身体を壊すことでしか彼らの魂を救うことはできない。

 

(俺にもっと力があれば……アンタらも救うことが出来たかもしれない……)

 

 だが現実は非常で、10人中10人がアルジの事をなんでも出来る万能マンだと評価したとしても……彼に出来ないことは思った以上に沢山ある。

 

 そんな葛藤を抱きながらも、アルジは攻撃の手を緩めない。

彼は……目の前のゾンビ兵が既に助からない存在であると理解している。

理解しているからこそ、彼らがこれ以上苦しまないように……無限とも思える虚無からその魂を解放しなければならないと、そう思いながら彼はゾンビ兵を殲滅する。

 

(……姉さんは無事にあの塔から出られただろうか)

 

 そんな時にもアルジの中では、自分の姉が無事にあの塔から出られたかが心配でならない。

目の前のゾンビ兵が現れてからというものの、魔力感知にジャミングの様なものがかかっている感じがして、他人が発する魔力は感知できる状態であるものの、誰がどこにいるかまでは細かく把握できないでいた。

 

 自分の姉がまだあの塔の中にいるであろうことは、なんとなくであるが掴めている。

そして今回の騒動について、昔の文献などを調べているであろうベータ達の反応も捉えることは出来ている。

 

(姉さんがこの塔に辿り着いた時は、出入口以外の場所から現れたことは分かる。多分隠し通路みたいなのが複数あるだろうから、どうにかそこから脱出してくれているのが1番安心できる)

 

 だけど姉さんは……誰よりも正義感が強い人であることも、一緒に暮らしていて理解している。

それで姉さんと付き添っていたあの女性は、気配を見るからにヴァンパイアではあるけれども、邪悪な気配は見られなかった。

多分あの塔でやる事があるからこそあの場にいて……

 

(そして姉さんは、その人の事情を知ってて、それで自分も何かの助けになるならと思っているなら……最悪最上階に向かっているかもしれない)

 

 塔から出るルートを進んでいるのなら何も言うことはないが……もし塔の最上階を目指しているのなら……

 

(俺も早々にこの場から姉さんの元へ向かわなければ……)

 

 そう思いながらゾンビ兵を倒していると、辺りを凍える様な冷気が発生して、その範囲内にいたゾンビ兵が全身氷漬けになっていた。

 

「お怪我はありませんか、アルジ様」

 

 声が聞こえた方に視線を向ければ、全身黒衣に白い薄手のカーディガンを羽織り、黒いツバの広い帽子を被ったハカマが、優雅な足取りで俺の下に来ていた。

 

「ハカマか。怪我はこれっぽっちもしていないが、いかんせん数が多いから苦労していたところだ。ここで合流してくれて助かった」

 

「フフッ、アルジ様が何かで困っているのなら、それを助けるのが私の役目ですから、これも当然のことと言えます。それと、ここに来たのは私だけではありませんよ?」

 

 ハカマがそう言った瞬間、塔から逆方向の最奥から、ゾンビ兵達が途轍もなく大きな衝撃音が鳴ったと同時に、複数体吹き飛んでいく光景が見えた。

それは徐々に俺達の方に近づいてきて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァァァァァッ! そこを、どきなさいっ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾンビ兵達が身体をバラバラに吹き飛ばされている光景と同時に、俺の目の前に、黒衣の上に薄紫色の甲冑を着込み、目元を黒いバイザーで覆っている女の子が現れた。

 

「ふぅ……あっ、アルジくん! ようやく合流出来ました‼︎」

 

 俺の名前を言いながら、アンネローゼさんが嬉しそうな雰囲気を出しながら俺の方へと寄ってくる。

バイザーで彼女の表情は伺えないが、口元が満面の笑みに見えるから、多分喜んでいることに変わりはないだろうが……

 

「ふふふ、私も忘れてもらっては困るかな?」

 

 そんな声が聞こえると、今度はゾンビ兵達の上から血の様な槍が複数降り注いで、広範囲にいたゾンビ兵達がその攻撃により生命活動を停止した。

 

 その攻撃が来た方向に視線を向ければ……

 

「ヴァイオレット!」

 

「えぇ、私もあらかたこの街で逃げ遅れた人達は誘導し終えたわ。後は貴方のお姉さんだけなんだけど……あの子、まだ塔の最上階にいるわよ?」

 

(……やっぱり姉さんは塔の最上階まで登ったか)

 

「それとねアルジ、貴方に伝えないといけない事があるんだけど……今塔の最上階が危ないの」

 

「えっ……」

 

 その言葉に一瞬、思考が停止した。

ヴァイオレット、もといアウロラが言うには、姉さんは塔の最上階にいて、そして今最上階が危険だということは……

 

(姉さんが……姉さんが危ない!)

 

「それとアルジのところに所属している七陰の……銀髪エルフの子だったと思うけど、その子もピンチな状態よ。敵の攻撃を受けてて、なんとか凌げている状態だけれど、その敵の攻撃が厄介で、魔力の流れを阻害するの。だから一部魔力が暴走しかかっている状態ね」

 

「……はっ?」

 

 それを聞いて俺は、2度目の絶望感に近い感情が自分の中で渦巻いていると認識した。

確かにこの世界に来るまでの間で、最初のうちは何度もこんな感覚に陥った事がある。

でもそれは、俺が力を付ければ解決することばかりだった。

だからこそ、俺が言った世界で身に付けた力、その世界で初めて知った技術、どちらとも地道に鍛え上げていった。

 

 だからといって、俺が全てに対して卒なくこなすとか、そんなことは全くない。

寧ろ出来ないことの方が多いとすら思っている。

だからこそ、この世界では特に、俺の手がギリギリでも届かない範囲や分野については、俺のことを慕ってくれている子達に任せた。

ぶん投げたと表現しても過言ではないが、それでも彼女達に無理した様子は見られなかった。

 

(俺が彼女達に戦闘を教えた際、1番大事なこととして教えたのが自分の命を何より大事にすることだったからな)

 

 でも……今回はそれご出来ない状況なんだということを……痛感した。

 

(ベータが……俺の姉さんを守ろうとしている……)

 

 七陰やシャドウガーデンに属する子、それにオルバさん達の組織は、兄さんと俺の親族、家族が何か危険に晒される事がないかを常に目を光らせている。

その中には勿論俺が含まれていることも知っていることではあるが……

 

(そんな時に俺が……姉さんやベータが危険に遭っている時にそばにいる事が出来ないなんて……)

 

 

 そんな負のことを思うあまり、俺の身体から、暴力的なまでの魔力の奔流が垂れ流されている。

俺自身が保有する魔力については、この世界でも一際でかい。

だから普段からそれを自身の内に押さえ込んでいるが……今の精神状態では中々内に留まるのが難しい。

 

 自分の大切な人達を傷つける奴に対しての恨みと憎しみ……そして、力を持っていながら、大切な人達が危険な場面に遭っているというのに近くにいない自分に対しての怒りが、自分の内に留めていた魔力を外に放出させる。

 

 ある程度の魔力に対する耐性を持っている人であれば被害とか特に出ないが、魔力に対して耐性を持っていない者が俺から漏れ出る魔力を過剰に浴びてしまえば……その対象は最悪の場合死に至る。

 

 現に俺達に襲い掛かろうとしたゾンビ兵が複数体、魔力の耐性をあまり持っていないが故にその場に崩れ落ちた。

個体差はあるが、浴び過ぎてしまえば数分の内に生命活動は停止する。

 

 しかしそれでも数が多い。

ゾンビ兵がどこから湧き出るのか……現状全然分からない。

 

 今でこそ俺がこの場にいたからこそ、コイツらは俺の方に寄ってきている状態だが、この場に俺がいなかったのならすぐに街の方へと殺到するだろう事は簡単に予想できる……が、

 

(早くコイツらをなんとかして姉さんのところに行かないと……!)

 

 なんとかして姉さんやベータの下に行かなければならない。

ヴァイオレットが言う様に、塔の最上階ではベータでも手に負えない存在がいて、そんな状況でも姉さんを守るために戦ってくれている。

 

(ベータの事を信じていないわけじゃない……そんな事は断じてない……けど……)

 

 ベータや姉さんが傷付いている姿を想像してしまうと……いてもたってもいられない……

早く彼女達の下に行って助けたい!

だが目の前のコイツらをそのまま放置してしまえば、コイツらは一気にばらけて街の人達を襲いに行く……

この街に元から住んでいた関係ない人達にまで、コイツらの被害に遭わせる事は、そんな事は絶対にさせちゃいけない……

 

(どうすればいい……どうすればこの状況を切り抜けられる……早く、助けに行かないと行けないのに!)

 

 そんな焦る気持ちばかりが募っていた時、俺の右手を誰かが優しく包み込んでくれた。

視線だけを向けると、それはヴァイオレットがそうしてくれて……

 

「アルジ、言葉足らずで貴方の事を不安な気持ちにさせてごめんなさい。確かに貴方の姉さんと銀髪のエルフさんが危機的状況に陥っている事は本当の事よ」

 

 

そんな言葉と同時に、ヴァイオレットは俺の手の甲を優しくさすりながら、続けて話してくる。

 

「でも安心してちょうだい。さっき私の魂と、貴方のお姉さんの魂をリンクさせたわ。それで今は、私の魂が貴方のお姉さんの身体を借りて、上にいる子の相手をしているの。」

 

「魂を姉さんとリンク……? ならここにいるヴァイオレットは……」

 

「まぁ本体から分たれた分身の様なものね。貴方にも、それが出来るでしょ?」

 

「っ‼︎ ……あぁ、そうだった。焦っててそんな思考に辿り着かなかったな。そうと分かれば……」

 

 俺は3割の出力を投じて、自分の分身を1体創り出す。

 

「俺は今から、塔の最上階に行ってベータと姉さんを救い出す。厳しいかもしれないが……皆、ここを任せてもいいか?」

 

「っ‼︎ はい! アルジ様のご命令ならばこのハカマ、命を賭してでも貴方様の願いを叶えます‼︎」

 

「勿論ですよ! 大船に乗ったつもりでここのことは私達に任せて下さい‼︎ アルジくんも気をつけて行くんですよ?」

 

「ふふっ、本体と分かれた分身だからって、本体とはリンクをしっかりしているから心配ないわ。だから貴方は早く、銀髪エルフさんや貴方のお姉さんのことを助けに行って」

 

 ハカマ、アンネローゼ、ヴァイオレットの順に俺へそんな言葉をかけてくれる。

さっきまで抱いていた負の感情とか焦りが、俺の中からスッと消えて行く感覚がした気がして、そんな気がしただけでも、さっきまでの俺よりかは頼りに見えるんじゃあないかと、そんな気がする。

 

「ありがとう、皆! 俺が、必ず今回の騒動に片をつける。だからそれまで、持ち堪えてくれ‼︎」

 

「「「はい/えぇ!」」」

 

 頼りになる声を背にして、俺は一気に塔の最上階へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ベータ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅の塔での調査を終えた私と、今回私のサポートとして664、665、そして元ローズ・オリアナという名の666を連れて、塔の最上階へと登った。

今回の赤い月の騒動を引き起こした元凶がそこにいる可能性があることと、もし物語の通り、吸血鬼の始祖が暴走状態で蘇っていたのなら、その時は私達が食い止めないといけません。

 

 そして私達が最上階へと到達すると、そこには既に吸血鬼始祖らしき存在が復活していることと……

 

「(っ⁉︎ クレアさんの魔力が枯渇している!)664、665、666はクレアさんの応急処置と、そこにいるもう1人を守って下さい!」

 

「ベータ様はどうするのですか⁉︎」

 

「私は手筈通り、あの、吸血鬼の始祖を相手します!」

 

 666からの質問に手早く答えた私は、一気に吸血鬼の始祖の懐に入る。

そしてスライムと魔力で練り上げた剣で吸血鬼の始祖である彼女に斬り込んでいく。

 

 斬り込んでいくと同時に、始祖の身体にも私が斬りつけた傷口から血が吹き出す。

しかしながら彼女は吸血鬼の始祖であり、保有している力も強大だった。

最初に斬りつけた傷も、既に塞がりかけている。

 

(流石は吸血鬼の始祖ですね……このままの攻撃方法では倒しから事が出来ません……なら!)

 

 私はリンドブルムの騒動が終了後に、アルジ様に実演してもらった技術を織り交ぜて再度吸血鬼の始祖に攻撃を加える。

 

(アルジ様はこれを『波紋の呼吸』と呼んでいた。アルジ様が別の世界で修得された技術……あぁ……とても……とても嬉しいです♪)

 

 その呼吸方法を修得するのに時間はかかったけれど、なんとか実戦で使える程度にはもってこれた。

その証拠に、波紋の呼吸によって生じる波動が、私の剣からも感じ取れる。

 

 その感覚を持ちながら、再度吸血鬼の始祖を斬りつける。

すると、さっき付けた傷に比べて明らかに威力が高く、治りもさっき付けた傷よりも遅い。

 

「っ⁉︎」

 

 その証拠に波紋を纏った傷を負った彼女も、先程とは打って変わった様子で驚愕の表情を浮かべていた。

 

「後はこれで……倒れて!」

 

 懐からイータが作った爆薬を出して、吸血鬼の始祖に投げつけ、彼女の身体にそれが触れたと同時に起爆する。

投げた爆薬にも波紋は纏わせたけれども、私から離れた物がどれだけ効力を増すかは未知数で……

 

(アルジ様なら多分……投げた後もそのままの威力を保ったままよね……)

 

 七陰の中で1番の魔力制御を誇るのはイプシロンで、波紋についてもアルファ様に次いで修得されていた。

そして彼女が放つ魔力による斬撃波にも、彼女が『緻密』と呼ばれる通り、波紋を流した状態で飛ばしていた。

 

 私もそれに負けじと訓練して、何とかイプシロンの様に斬撃波に波紋を纏わせた状態で飛ばすことはできたけど、精度で比べればまだ負けてしまうと分かっている。

 

(でもここにいるのは私だけ……この状況を速やかに終わらせて、アルジ様のお姉さんであらせられるクレアさんを治療しないと!)

 

 クレアさんの状態を見る限りでは、首元に噛み跡が見られた。

多分コウモリが何かの類にそこから血と魔力を吸い出されたんだと思う。

それで得た魔力によって、吸血鬼の始祖は復活してしまった。

 

(外傷としては軽微だけど、魔力の枯渇と他のことも起因していてるのか彼女の状態は悪いわね……)

 

 アルジ様には……どれだけ頭を下げても許してはもらえないかもしれない。

最悪……今回のことで私の事を嫌いになってしまって……アルジ様の彼女から、ただの上司と部下の様な、そんな関係に戻ってしまうかもしれない。

それもアルジ様と顔を合わせる度に彼に睨まれて、そしてその度に自己嫌悪してしまう様な……そんな考えが過ぎる。

 

(でも……例えそんな未来になってしまったとしても……アルジ様のお姉さんは無事な姿で、アルジ様の下に帰すの‼︎)

 

 爆弾が作り出した黒煙が徐々に晴れていく。

 

(これで多少なりとも吸血鬼の始祖の動きを封じれれば御の字だけど……)

 

 でも完全に黒煙が晴れると、そこには多少傷は負っているものの、未だに強大なプレッシャーを放つ始祖の姿があった。

 

「一筋縄ではいかないと思っていたけど……(でもアルジ様から教わった波紋の攻撃はしっかり通ってる! このまま押し切れば……)」

 

「ま……マズイ……」

 

 そう思っていたベータだが、クレアさんと一緒にいた方がそんな声を上げる。

始祖から視線は離さずに彼女が何を伝えたいのか耳だけを傾けていると……

 

「あの方は……低血圧なんだ!」

 

(はっ? 低血圧……?)

 

 彼女が何を伝えたいのか全く分からずに考えていた時でした。

吸血鬼の始祖から先程とは全く桁が異なる魔力の波動を感じて、そう感じた瞬間、彼女から魔力で練り上げられた紅い針が複数、私達の方に飛んで来る。

 

「っ⁉︎ 皆! 防御の姿勢を‼︎」

 

 私はイータが開発した、魔力を流せば相手から身を隠す遮蔽物にも、そして敵からの攻撃もしっかり防御できる物を取り出す。

すぐ様それに魔力を流し込んで、私の身体を余裕で覆えるほどの遮蔽物を形成、同時に波紋を流して相手からの攻撃を少しでも和らげれる様にする。

 

 後ろに少しだけ視線を向けると、664、665、666も同じ様に盾にできる遮蔽物を展開していた。

私が形成したのは私の背後に被害が出来るだけ及ばない様に計算して、それなりの大きさにしたから、本来なら後ろの子達も自分でその遮蔽物を作らなくても問題ないくらいだけど……念には念を入れて彼女達にも防御の姿勢を命じた。

 

 それから数秒後には吸血鬼の始祖から放たれた攻撃が私達を襲う。

その攻撃は私が展開した遮蔽物に着弾して、その衝撃から今まで相手にしてきたものよりも数段階高いと感じた。

 

 そう感じたのは正しかったようで、私が展開した盾の端の方が所々その攻撃の影響で貫通していた。

私の盾を突破した紅い針は背後にいる664達を襲うけど、私の盾に当たった影響で攻撃力が下がっている様子で、664達が展開していた盾を貫通することはなかった。

 

 それから相手の攻撃が止んで、私も盾の展開をといて反撃に向かおうとした。

でも実際に反撃に移すことが出来なかった。

なんでかと言えば……

 

「おや? あの方がてっきりここまで登ってきているものと思って登ってきんしたのに……」

 

 白い着物を着て、頭にはツバが広い赤色の笠を被った女性が、階段から現れた。

 

(ここに来る前に念入りに調べてからきたけど……あれは白の塔を支配するユキメって人? でもどうしてこんなところに……)

 

 あの方と言うには、誰かを追ってきたと考えるのが普通だけど……

 

 

 

 

 

 

 

ドォーンッ‼︎

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……ようやく最上階に着いたかぁ……にしてもアイツはどこ行きやがった⁉︎」

 

 

 

 ユキメと思われる人に視線を向けていたら、今度は塔の外壁から爆発音が聞こえた。

そこから大柄で褐色肌、身に付けている着衣としては全身黒色だけど、上半身はほぼ肌を曝け出して筋肉を見せびらかしているような物を纏っている男が現れた。

 

(黒の塔を支配しているジャガーノート……ユキメと同じく誰かを探してきたんだろうけど……なんってタイミングで来るのよ⁉︎)

 

 その考えてしまった僅かな時間が……その判断のミスが、相手から突き入れられる隙を生んでしまった。

 

「っ⁉︎ また来るぞ‼︎」

 

 クレアさんと一緒にいた方から再度悲鳴じみた警告を受ける。

その声が聞こえたと同時に吸血鬼の始祖の方は再度視線をやれば、さっきよりも強大な魔力を纏った攻撃を繰り出そうとしている事に気付く。

 

「(さっきと同じ魔力だと防げない⁉︎)皆‼︎ 魔力制御に集中して防御の体制をとって‼︎」

 

 私がそう指示を出したと同時に、吸血鬼の始祖からの攻撃が放たれた。

展開していた盾は元の状態に戻していなかったから、さっきとは違って魔力制御に集中して、波紋もさっきよりも強く流せれば、何とか今の攻撃も凌げるかもしれない。

 

 でも、私のその考えは甘かった……。

 

 さっきの攻撃を防いだ時に、盾としての耐久性が下がっている事は予想できていたけれど、今回放たれた攻撃が、私の想定していたものよりも何段階も高い威力だった。

 

 さっきよりも精密に魔力制御をかけながら、流していた波紋も多く纏わせていた状態なのに、軽々と私が展開した盾を突き破ってくる。

 

 盾があった事で幾分か攻撃の威力と速度は弱められたけど、それでも常人だったら簡単に貫かれる攻撃を、私は何とか身を捻ったりしながらその攻撃を避ける。

 

「うっ……あっ……くぅっ……」

 

 ただ掠っただけなのに、当たった部位が強く揺さぶられると同時に激痛が走る感覚がした。

外から見れば軽症ではあるけれども、自分が今感じていることとすれば、たったこれだけで半分くらい体力を消耗してしまったと、そう感じていた。

 

 自分の背後を見れば、さっきの攻撃で瓦礫が散乱していた。

 

「ぶっはっ⁉︎ なんだぁアイツの攻撃は⁉︎ 化け物じみてやがんなぁ!」

 

 ジャガーノートは自分に覆い被さっていた体力の瓦礫を吹き飛ばしながら起き上がっていた。

どうやら後ろの方にまで攻撃は及んでいたようで、私が防いでいても、塔を形成していた石造りの床や壁でさえも余裕で木っ端微塵に破壊できるくらいだと改めて認識する。

 

「あらあら、避けれないほどのものではないでありんすが……連続して放たれたらひとたまりもありんすなぁ〜」

 

 ユキメは笠で顔が隠れてて表情は読み取れないけど、言葉の様子だけで余裕そうに見える。

 

 664達は見れば、傷を負いながらもまだ何とか立てる状態で、でも満身創痍一歩手前だと感じた。

でも皆生きている事に変わりはなくて、666に限ってはクレアさんを自分の身体を盾にするように覆い被さって庇っていた。

 

(これ以上アルジ様のお姉さんに傷を付ける訳にはいきませんからね……いい判断です……っ⁉︎)

 

 そんな時、私は見てしまった。

666もさっきの攻撃からクレアさんを庇って、その時に出来たであろう擦り傷が見える。

その擦り傷が……徐々に自分の体とは違う……得体の知れない何かに変わっていく事を……

 

(っ! ま、まさか……)

 

 そうして自分の受けた傷も見てみれば……徐々にではあるけれど変質していっている事が分かる。

それも……過去魔力制御が出来ずに暴走して、そのままいけば物言わぬ腐った肉塊になりそうになったあの時を……

 

「っ! 皆、魔力制御を心がけて! じゃないと自分の身体を保てないわ‼︎」

 

 その言葉が届いたのか、背後で664達が息を呑む音が聞こえた気がした。

 

(でも……この状況で戦い続けてしまったら……)

 

 恐らく……私含めて全滅してしまうだろう。

だから私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆……私はここで殿を務めます。クレアさん達を連れてここから離脱しなさい」

 

「なっ⁉︎ そ、そんな事をすればベータ様は‼︎」

 

「まだ私は動ける状態ですが、それでも常時自分の魔力が暴走しないように気を払いながら、そしてあなた達を守りながら戦う事はできません。それにそんな事をしてしまえば、私達は全滅します。だからこそ、これが最善の策です」

 

「し、しかしこのままベータ様を放っておいては……!」

 

「666番、あなたには成すべきことがあるでしょう? だからあなたは、664番たちとクレアさん達と一緒に離脱しなさい(あの時の約束は叶違えますが……どうかあなたの成すべきことが上手くいくことを願っていますよ)」

 

 ここから全力で彼女達を逃す……ユキメやジャガーノートはどうなるか分からないけど、それでも664番達とクレアさんは何がなんでもここから逃す時間は稼いでみせる!

 

 そう決意して吸血鬼の始祖に視線を向けた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう決断するのは……まだ早いかもしれないわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな声が後方から聞こえた。

 

(それにこの声は……)

 

 今回オルバの組織から派遣された1人。

でも今は、作戦上彼女は街の方に行って避難活動をしている筈……。

 

 そう思いながら振り向くと、クレアさんを介抱していた664番達の側に、クレアさんが着ていた衣服を纏ったヴァイオレット……アウロラがゆっくりした歩みで私の方に近付いていた。

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アウロラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか間に合ったみたいね」

 

 私は今、魂を分離させた状態でこの子、アルジの姉であるクレアって子に憑いている。

これについては、強引ではあるけど彼女には了承してもらっている。

 そしてもう一方の分たれた私については、今塔の下にいるアルジを呼びに行ってもらっている。

 

(私でも倒せそうだけど……なんだか嫌な雰囲気を感じるのよねぇ〜……)

 

 これは、そう……ディアボロス教団に似たような、でもそれよりも邪悪な気配を……

 

「まぁ今は取り敢えず、この場を何とか持ち堪えさせることから始めましょうか!」

 

「ちょっ、ヴァイオレット⁉︎ 何であなたがここにいるの⁉︎ 作戦上あなたは……」

 

「えぇ、それもあらかた済んだわ。他の2人も同様にね。でも今回は予想以上に大変な事になっているのよ。アルジもそれに手を取られてる」

 

「あ、アルジ様が⁉︎」

 

「でも安心してちょうだい。それも今回の騒動を起こした、この騒動を利用しようとしている黒幕を正せば元通りになると思うから」

 

「く、黒幕? それは……ディアボロス教団ですか?」

 

「う〜ん……それは私にも分からないけど、でもアルジなら知っていると思うわ。だからこの場にアルジを呼んだわ」

 

「っ⁉︎ い、いけません! この場にアルジ様を呼んでは……」

 

「あらどうして?……あぁ、まさかあなた、自分が傷を負っているところをアルジに見せたくないってこと?」

 

「うっ⁉︎」

 

 やっぱり……確かにアルジには、自分の傷付いた身体じゃあなくて、綺麗な身体を見せたいものね。それは私にも分かるわ。

 

 でも……

 

「アルジはそうは思わないでしょう? 逆に、自分の事を大切にしている人達が、どのような姿になったとしても無事でいてくれている事を願っていると思うけど、どうかしら?」

 

「そ、それは……」

 

「確かに皆を無事でいさせるために、上司の立場であるあなたがここに残るという判断は、多分間違いではないわ。多分アルジもそうすると思うしね。でも……その結果として誰かを悲しませてしまうと、私は思うの」

 

 そう言いながら私は、銀髪エルフの前に立って、吸血鬼の始祖、確か……エリザベートって名前だったと思うけど……

 

「とにかくここからはバトンタッチ、という事で……あなたの相手は私がするわ!」

 

 私がエリザベートにそう言ったと同時に、彼女は今までと同じ攻撃を放ってきた。

でもそれは……

 

「その攻撃方法って、私の方が先輩なのよね♪」

 

 エリザベートから放たれた攻撃を、私も魔力を無数の槍のように練り込んで迎撃していく。

この攻撃方法については、昔から私が得手としてやっている。

たまたま彼女も同じ攻撃手段を思いついたんでしょうけど、練度としては私の方が上ね。

 

 エリザベートを観察していると、私に攻撃が通らないから少し焦っている様子が見て取れる。

逆に私は、まだまだ余力を持たせた状態で、このままでも押し切る事が可能だって普通に思えるくらいだった。

 

(なら、そうしちゃいましょうか!)

 

 右腕を掲げて、今放出している魔力の槍とは別に、魔力を右手の先に集中させた。

これはアルジのお兄さんがやる方法だって、リンドブルムの地で一緒に歩いている時に聞いた。

 

 アルジは、「あんなの撃たせたからその後の心労が半端なかった……」って、ゲンナリした様子で言ってたけど、確かに魔力を収束させて、最後に一気に放出させるやり方は、中々に理に叶う攻撃手段だと思ったわ。

特に1体多の場合はより有効でしょうね。

 

(今回はエリザベート1人だけだけど……)

 

 でも再生能力が他の吸血鬼よりも高いから難点なのよね。

だからいっそのこと、彼女の身体が全て吹き飛んで粉微塵になるくらいの攻撃を与えた方が良いかなって思った。

 

 だから……

 

I……am……

 

「ちょっ⁉︎ そ、それはシャドウ様の技じゃ……」

 

 隣の銀髪エルフの子が、私の放とうとする攻撃が分かって声を上げたけど、その頃には魔力を大体収束し終えていて、後は一気に放出するだけの段階だったわ。

 

 その収束し終えた魔力の塊を、エリザベートに向けて放った……んだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? 腕が折れてしまったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が放とうとした攻撃は霧散して、逆に腕が折れるという結果になってしまったわ……

 

(まぁ、この子の身体の強度では限界だったかもね……)

 

 全盛期の私の状態であればなんら問題はなかったけれど、でもこの子はまだ身体が発達段階……私の魔力も、この子の身体が壊れないように抑えながらしていたけれども、そろそろ耐えきれなくなってきたかもしれないわ……

 

「く、クレアさんの身体を壊す気ですか⁉︎」

 

「いいえ? そんなことはないわよ? ただ、この子の身体で少し無理をし過ぎたみたい」

 

「無理し過ぎたみたい……じゃないですよ⁉︎ アルジ様のお姉さんなんですよ⁉︎ もっと身体のことを労ってくださいよ‼︎」

 

「そうはいっても……って、あっちの攻撃準備は出来たみたいね」

 

「っ⁉︎ あぁもぅ! ここは私がなんとかしますから、あなたは664達を連れてここから離脱して下さい‼︎」

 

「あぁ、それなら大丈夫よ?」

 

「大丈夫って……何が大丈夫なんですか⁉︎」

 

「えっ? だって……」

 

 銀髪エルフの子は切羽詰まったかのように焦りながら、私達をこの場から離れさせようとしてくる。

でも私はそこを一歩たりとも動くつもりはない。

そもそもここを離れる必要すらないと思っているわ。

 

 何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1発の轟音が鳴り響いた。

何かの小さな物体が、光を発しながら音すら置いてけぼりにする速さで私達とエリザベートの間をかけていく。

 

 それを見たエリザベートも攻撃を一時中断してからその音が鳴った方向を向いた。

エリザベートだけじゃなくて、その場にいた子達は皆その物体が飛んできた方向に顔を向けていた。

顔を向けた先にいたのは、当然……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……間に合っていないと理解しているが、とにかく皆無事だな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには上下黒のスーツに中折れハットを被った彼、アルジが、右手に黒光りする長い棒を持って、宙に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物の立ち位置からして無理矢理そのシーンに参加させてしまった方々がいるのですが、この方々をどうやってそのシーンに参加させようかと思いながら書いていったら、いつの間にか苦し紛れな内容になってしまっただろうかと思っております。

後書きを書いている最中では、無理に登場させなくても良かったかなぁ〜とも思っています。
まぁもう書いてしまったのでそのまま進めようかなと……

さて、次回は……いよいよアルジが本腰入れて暴れます!
というよりその描写を描く予定ですが、上手くいくかは分かりません!
下手なシーンが構築されてしまったら申し訳ないとしか言いようがありませんが、もしここが微妙だとかそう言った意見がありましたら、参考にさせていただきたいので仰っていただければ幸いです!

因みに皆様は、今回の話で所々陰実には存在しない筈の単語が出ている事にお気付きの方が多いかと思います。

そう、何を隠そう今回の章にてラスボスという名の踏み台については……と、ここで最後まで言うことはありませんが、皆様楽しみにしていただければと思います!

ではまた次回お会いしましょう!
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