陰の復讐者となりて   作:橆諳髃

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新しい話までに評価をつけて下さった読者の方々

☆10 ウィザード62 様
☆9 ラスク71 様

ご評価いただき誠にありがとうございます! まさかこんなにも早く評価をつけて頂けるとは思っていませんてましたので、物凄く嬉しいです‼︎

また感想も2件頂いておりまして、こちらを書いて下さった読者の方々にも感謝です‼︎ 本当にありがとうございます‼︎

さて今回はサブタイトルにもある様に、お姉さんを助けに行く話です。ですが本来ここで出てくる登場人物は、過去にアルジによって助けられているので少し内容を変えております。

本作通りの進行が良いと感じられている方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承の程よろしくお願いいたします。




3話 復讐者、拐われた姉さんを助ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャドウガーデンを立ち上げてから数日後、アルファから悪魔憑きにかかっている者達の情報を多く貰った。それにしてもこんな短時間で集められるなんて本当に凄いと感じる。

 

 そしてシャドウの姿となった兄さんと、スライムスーツに身を包んだアルファと共に悪魔憑きにかかっている者達を癒やしていった。

 

(にしてもアルファのその格好は……)

 

 確かに陰に潜むという名目では全然間違っていない。間違っていないんだが……

 

(身体のラインが浮き出て強調されて……)

 

 うん、直視出来ても数秒が限界だ。最近生前の一般男性と同じくらい性欲がある事に気付いて……知らぬ間に自分も下世話な人間になったのだと落胆した。

 

 綺麗で可愛い子がそんな身体のラインが浮き出る程の衣装を着ているのを見るだけで……自分で思っといて気持ち悪いが、興奮している自分がいる。本当に俺は真面目な場面で何を考えてんだろうな……

 

 それで悪魔憑きの者達を治療していくと……なんともまぁエルフ率が多い事で、その次に獣人で……

 

(しかも治した子達皆女の子なんだよな〜……)

 

 なんで百発百中の確率で女の子なのか分からんが、魔人ディアボロスよ……そんなに女性が憎かったのか?

 

 とまぁ規模としては少人数ではあるが増えていった。

 

 そして月日が流れるのが早くて、シャドウガーデンを結成しておよそ3年……俺と兄さんは13歳になり、姉さんは15になった。15歳になると、魔剣士の家系に生まれた子は王都にある魔剣士学園に入る事が多い。

 

 入学審査は色々とあるが、そこで優秀だった者はどれだけ田舎の出であろうと特待生として入学する。多分今年は姉さんが特待生として入るんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそこで事件は起きたんだ……

 

 姉さんが王都に行く日……何故か姉さんがいなかったんだ。前日に準備していて、今回ばかりは素直に抱き枕でもなんでもなるかと覚悟して部屋で寝ていたんだ。だが、その日姉さんは来なかったらしい。

 

 俺は、まぁ15歳にもなったんだからそろそろ弟離れするんだろうと……少々寂しくも感じていたんだ。

 

 でも屋敷の中、そして周辺の魔力感知にも姉さんの魔力は感じられない。こんな大事な時に遠出するなんて姉さんからしたらありえないし……

 

(……まさかまた女神サイドからの介入があったのか?)

 

 俺の事を転生してくれた女神様に悪意などない事は、初めて会った日から分かっている。だから俺が会っていない、若しくはあったとしても頻度は低い神が首謀者の可能性が高い。全くもっていらない事ばかりしてくる。

 

(それも俺自身じゃなくて俺に関わってくれた人達に……)

 

 本当にソイツは……俺に怒りと憎悪の感情を持たせるのが上手いな。そんな賞があったら真っ先に付いてくるトロフィーをソイツの顔面に突き刺してやりたい。

 

 でも今はそんな事を考える時間が勿体無い。さて、闇雲に探しても時間を浪費するだけだし……

 

(姉さん程の実力者を攫える奴が相手側にいる。用心する事に越した事はないか)

 

 まぁそれも俺を邪魔する神が送り込んだ刺客かもしれないが……

 

 そして程なくして兄さんが俺を呼びに来る。理由は勿論姉さんを助けに行く為に。

 

(行こうか……姉さんに手を出したらどうなるか、怒りと憎悪をもって教えてやるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄さんに教えてもらった場所に行くと、そこにはここ3年でシャドウガーデンに入った子達が勢揃いしていた。アルファを含めて7人の女の子……『七陰』と名称される彼女達は、アルファがどこからともなく情報を拾い、俺と兄さんで助けて来た子達だ。

 

「アスタロト、今回の敵はおよそ五十人で構成されているわ。その手下を従えているのも、『ディアボロス教団』の幹部クラスに匹敵する腕前を持つと言われているわ」

 

「『ディアボロス教団』……ね。まぁ姉さんを攫えるとしたら奴らぐらいか。だが何故攫ったのかが問題だな」

 

「どうやら貴方のお姉さんを『英雄の子孫』として疑いをかけて攫ったみたいね」

 

 確かに俺の姉さんが保有する魔力量は……そんじょそこらの魔剣士達よりも大分多い。だからその情報をどこからか嗅ぎつけ、姉さんが王都に行くタイミングを見計らって攫ったと……。

 

 俺は再びこみあがりそうになる怒りを抑える為に上を向きながら大きく息を吸って、ゆっくりとはいた。

 

「分かった……ありがとう」

 

「いいえ、貴方の役に立てて嬉しいわ。それと……我慢しないで」

 

 俺の右手を両手で優しく包み込んでくれるアルファの手……その顔は本気で心配してくれている顔だ。精神年齢としては俺の方が何十倍も上の筈なのに、本当にしっかりとした子だな。

 

 でもその気遣いが、今の俺には心地良い。徐々に怒りが胸の内に収まっていくのが分かる。

 

「本当に……君は頼りになる」

 

「っ⁉︎/// も、もぅ……唐突に反則だわ

 

 急にアルファが俯き出した。お礼を言っただけなのだが……

 

あぁ……アスタロト様の微笑みが今日も綺麗……んんっ! アスタロト様、シャドウ様はどちらに?」

 

 そこに銀髪で眼鏡をかけたエルフの少女が問いかけてくる。彼女は『ベータ』といって、アルファの次にシャドウガーデンに入った子だ。剣術ではアルファの次に強い。ただ戦闘には興味がなく、最初の頃は盗賊を殺しただけでも夜中眠れない程だった。

 

 そこを俺と兄さんが子守唄というわけではないが、童話や心安らぐ様な歌をチョイスして落ち着かせたものだ。

 

「シャドウか……既にアジトに潜入してるなこれは。それも俺達が行こうとしている正規ルートからではなく、別のルートから……。まぁシャドウの考えは分かるから、俺達は邪魔せずにこのまま攻め入るとしよう」

 

 魔力探知を行なって兄さんを探すと、どうやら俺達が仕掛ける出口よりも後ろ側の地下に既にいた。多分待ち切れずに侵入したんだろうなぁ……と容易に予想が出来る。

 

(正直言って説明するのが面倒だし、まぁそれとなく言っとけば納得するだろ)

 

「さ、流石はシャドウ様‼︎」

 

 ベータが感嘆を表現するのを皮切りに他の七陰達も同じ様な表情になって、この場にいない兄さん褒める。

 

「その知略……感服致します」

 

 次に言葉を発したのは『ガンマ』と呼ばれる子で、この子もエルフだ。シャドウガーデンに加入した3人目の子で、藍色のロングヘアーと、その歳では考えられない程の頭脳を持つこれまた優秀な子だ。

 

 ただ運動神経が全然で、何もないところで転けてしまう程……いや、どうしたらそう転けてしまうのか。それで付けられた二つ名が『最弱のガンマ』だ。

 

 そして兄さんが剣術を教えた時に中々上達しないから、匙を投げて教えるのを諦めたぐらいに彼女の運動神経は皆無だった。幸いにもガンマは魔力保有量が高い。だから兄さんもその一撃に魔力を込めて叩き切った方が良いと教えていたのだが……

 

(それだと得意な事しか伸びないよな?)

 

 だから俺は剣術云々の前に彼女の普段の歩きから観察する。そこで分かった事は……彼女は転ける若しくは躓く際、必ずと言っていいほど内側にひねる。

 

 その為に俺はアドバイスをした。足の内側に神経を集中させて歩く様にと。それを続ければ自ずと何もないところで転ける回数も少なくなる筈だと。

 

 それと同時に、つまさき立ちをする時は親指に力を入れてその姿勢を保つ様にとも言った。これがやってみると案外難しい。それを出来る時にやって欲しいと言ったのだが、ガンマは毎日それをやっていた。

 

 だから今では転ける確率も前と比べて10分の1の確率で減ったし、兄さんが諦めて教えるのを断念した剣の振り方なども続けた。するとどうだろう……確かに七陰の中では未だ戦闘力は最弱ではあるが、それも今の内だろう。彼女の戦闘力が自身の頭脳に比例するぐらいになった時は、力任せだけでなく搦手も使って相手を圧倒すると思っている。

 

「ボスと裏ボスは最強なのです‼︎」

 

 次に黒髪で獣耳と尻尾を生やした犬型獣人の子、『デルタ』が兄さんの事を褒める。因みに裏ボスというのは……うん、俺の事だ。この子は素直と言えば素直なんだが……考え方がどうも自然界の方向に偏り過ぎている。現に兄さんや俺の事をボスという手前、群れ意識が1番強い子だ。だから強い者順に順番を付けたがり、さっき紹介したガンマの事を戦闘の才能が無いという風に馬鹿にする言動も見られる。

 

(でも俺からしたらデルタもそうなんだよなぁ〜)

 

 確かにデルタは強い。七陰の中でアルファに次ぐほどと言ってもいいだろう。

 

 だが……彼女は考えなしに突っ走る戦闘だ。それはいくらなんでも危ないと考えた俺は、彼女に考えさせる習慣を身につけさせる事にした。そして一番考えが身につく環境下は……やはり実戦だろうな。

 

 だから俺とサシで何回も勝負をする事にした。

 

「うぅ〜……アスタロト様は卑怯なのですぅ〜‼︎」

 

 そう言われた理由は、俺が訓練をする場所にトラップを幾重にも仕掛けていったからだ。その度にデルタは引っかかる。その為か最初の頃は散々そう言われたな。

 

(だが戦場では勝った者が正義という考え方もある。俺自身その言葉はあまり好きな方では無いが……)

 

 これもデルタに考えさせる習慣を身につけさせる為……俺自身も心内は痛いが、心を鬼にして彼女に接する。

 

 そうして数日後、デルタから本気を出して戦って欲しいと言われた。ここの所トラップなどに引っかかって俺とまともに勝負が出来ないでいたから、そろそろフラストレーションも溜まりに溜まってきたのだろう。まぁ獣人で戦闘好きにしては我慢した方だと思う。

 

 だから俺は条件を出したんだ。俺と本気で戦った後は何事も考えて行動する習慣を身に付ける様に、と。デルタは二言返事でそれに了承した。

 

 辺り一面が平野の場所で俺と対面するデルタは、いつも通りスライムスーツを身に纏い、指には一番得意とする獣爪をこれまたスライムで創り出す。

 

 そして俺はというと……

 

「っ⁉︎ な、なななな何なのですかその武器は⁉︎」

 

「えっ? 俺が結構得意とする武器だが?」

 

 結果を言おう……一振りする前に勝負は終わってしまった。デルタの野生の勘ともいえる部分が危険だと判断したのか、彼女が降参したのだ。後で話を聞くと、俺が顕現させた武器から底知れない恐怖を感じたのと同時に、俺からも今まで感じたことが無い威圧を感じてしまったのだという……

 

(俺からすれば少し本気を出した程度だったんだが……)

 

 それからデルタは、何事も少しずつ考えていく様になった。彼女からすればやりにくい事に変わり無かっただろうが、今以上に強くなる為に必要だと俺は思う。

 

 後は……無闇矢鱈に仲間を貶さない事。これは聞いていてとても悲しかったからな……ライバル意識を持つ分には良いが、一緒に行動する仲間なのだから、出来れば皆仲良くが俺としては好ましい。

 

 それとあの勝負からデルタが俺の事をアスタロトから裏ボス呼びになった。いや……俺はボスの器でもなんでも無いんだが……

 

「主様ならば当然の事ですわ!」

 

 デルタの言に同調して『イプシロン』が続いて言う。この子は水色の髪をツインテールにしたエルフだ。それにしてもそれをドヤ顔して言う事だろうか? まぁ会話として成立しているから別に良いか。

 

(にしてもまた膨らみが大きくなっている様な……まぁいつもの事か)

 

 そしてイプシロンは、なんか毎回会う度にとある部分が大きくなっている気がする。多分スライムスーツの応用だろうが、まさかそんな風に使うとは思わなかった。でも用途は人それぞれだ。アイディアとしては面白い方向性だと感じる。

 

「主の意図を瞬時に理解できるのはアスタロトだけ。それとアルファ様はいつまでアスタロトの手を握っている?」

 

 俺を褒めてくれたのは『ゼータ』と名付けられた子で、猫型の獣人だ。彼女は何でもこなせる万能型なのだが、一番得意とする事が諜報活動で、今回ディアボロス教団が根城にしていると思わしき所をピックアップしたのも彼女だ。

 

 ゼータとも結構接していた時間は長い。彼女の役割が諜報活動という事もあって、何回か一緒に行った事もある。それと同時に剣の方も見ていたからというのもあって、結構懐かれてしまった……と自分では思っている。現に……

 

「アスタロトからお日様の匂いがする……」

 

 俺に態々近付いてきた匂いを嗅いでくるし、ちゃっかりアルファとは逆側の手を握ってくる。

 

「そうそう……アスタロト様からは、お日様の匂い。抱き枕〜」

 

 と、のんびり口調で今度は『イータ』というエルフの子が抱き付いてくる。この子も魔力量が桁違いに多く、主に技術・研究担当の子だ。兄さんから陰の叡智として色々と吹き込まれた事から、元々好きだった分野が更に開花した。

 

 その為に睡眠とか忘れて何徹も研究に没頭する。でもそれだと発育に悪いと感じた俺がそれを辞めさせて寝かしつけたりしていたのだが……いつの間にか俺がイータの抱き枕になったりと……

 

(あれ? 今思えば姉さんと同じ事されてるよな?)

 

 流石に俺がその辺の管理もし始めてからは、5日を超えての徹夜はしなくなった。だがそれでも治らなかったものがある……それが寝相だ。彼女は立って歩いたまま寝る事がしょっちゅうだ。

 

 そして今は右手にアルファ、左手にゼータ、正面からイータに抱きつかれていると……

 

(あぁ〜……ヤバイ恥ずかしいっ‼︎ このままじゃ恥ずか死ぬ‼︎ 誰か俺を助けてくれ‼︎)

 

 まずアルファに目線を送るが……なんか顔を赤くして目を逸らされる。というかゼータの言う通りいつまで俺の手を握っているんだ⁉︎

 

 ベータは……なんか俺の状況を見ながら目を輝かせてメモを必死に取っている……あの、ベータさん? 助けて欲しいなぁ……

 

 今度はガンマだが……

 

「むぅ……」

 

 なんでほっぺを膨らませているんですかね〜? この状況を助けて欲しいんですけど……

 

「ぷぃっ……」

 

 あっれぇ〜……? なんで顰め面で顔を背けるの? 助けてお願い……

 

「う、裏ボスはやっぱり裏ボスなのです‼︎ メスの取り合いなのです‼︎ こ、これはデルタも参加した方が……」

 

 デルタはデルタで訳の分からん事を言ってるし……というか混ざりたそうな顔を向けてくるな‼︎ こっちはもうお腹一杯なんだよ‼︎

 

「あ、アスタロト様……なんと破廉恥な‼︎」

 

 おいそこイプシロン! 俺のせいだという風に目線を向けてくるな‼︎ しかも顔を両手で覆っているつもりかもしれんが……指の間からこっちをガン見してるよな⁉︎ ガッツリ見てるよな⁉︎ そんなことする暇があったら助けてくれ‼︎

 

「アスタロトの側……落ち着く……」

 

 ゼータが腕に絡みついてきた。しかも頭を俺の肩あたりに擦り付けてくる。その度に良い匂いが俺の鼻孔をくすぐってくるんだが……いやもうマジで勘弁してくれ……

 

 それで正面から抱きついてくるイータは……

 

「すぴ〜……ぐすぴ〜……むにゃむにゃ……」

 

 か、完全に寝てやがる⁉︎ さっきまで意識あったのに僅か数秒で夢の中に旅立ちやがった⁉︎ しかもがっしりと俺の胴体ホールドしてやがるし……

 

(兄さ〜ん……助けてくれぇ〜……)

 

 一方のシドさんは、盗賊退治に夢中で地下道を彷徨っていました……

 

 

 

 

 

 

 ——数分後——

 

 

 

 

 

 

「よ、漸くここまで来れた……」

 

 あの後なんとか皆をまとめてディアボロス教団が根城にしている所に侵入できた。

 

(全く……ここまで来るのに滅茶苦茶時間がかかった……)

 

 なんで時間がかかったか? いやそこは察しろ……俺は疲れたからそこの説明は省くぞ。

 

「そういえばアスタロトはずっとそのままの格好で行くつもりなの?」

 

「ん? あっ……そういえばそうだな」

 

 アルファに言われて寝巻きからいつもの服に着替えてそのままだった事に気がつく。

 

(まぁアスタロトとかを纏う以外だったらこの衣装しか考えられんな)

 

 俺は転生後からずっと身に付けていた衣装をイメージして魔力を身体に流す。すると俺の服装は、今まで着ていた田舎貴族風の衣装から上下黒で纏めたスーツになる。ジャケットの下は白いカッターシャツで、紅色のネクタイを付ける。

 

「この格好で変じゃないか?」

 

「「「……」」」

 

(えっ? 皆無言⁉︎ まぁ場違いな格好だとは思うが……)

 

「そ、それがアスタロトとして活動する時の服装……なの?」

 

 アルファがまるで皆が言いたそうにしている事を代弁する。

 

「ば、場違いな格好だなとは自分でも分かっているんだが……こういった場面ではこれじゃないと落ち着かなくてな……」

 

「い、いえ……その、なんというか……」

 

「あ、アスタロト様がとても大人な方に見えてしまいます!///」

 

「そ、そうなの! とても大人な雰囲気を醸し出すからビックリしたの///」

 

 アルファが言い淀んでいた所でガンマがそう言った。あぁ……確かにビジネススーツは大人が着る物だしな。この世界ではこの衣装が使われているかどうか分からんが……

 

「う、裏ボスからお、オスの匂いが漂ってくるのです〜……頭がクラクラしてきたのです〜……」

 

「おい馬鹿犬! しっかりしろっ‼︎ ……くっ! でも確かにこの格好のアスタロトを見ていると……」

 

(えっ? ただ単にビジネススーツに着替えただけだけど? それにそんな効果はこのスーツにカケラも付与されてないし……)

 

「は、はわわわわわっ……///」

 

「こ、これはっ……⁉︎ (アスタロト様に抱き締められたいって欲求が……た、耐えるのよ私! 確かにアスタロト様も素敵だけど、私にはシャドウ様が‼︎)」

 

 何故だか分からないがなんで今日はこうも変な事に巻き込まれるのか……姉さんの誘拐然り、兄さんに呼び出されて七陰と合流したら恥ずか死ぬ思いをする然り、それで今はスーツに着替えただけでこの状況……訳が分からん。

 

(だがこのままでは姉さんを救出に向かえないな……)

 

 だから俺は認識阻害の効果を付けた、これまた黒色の中折れハットを被る。するとさっきまで取り乱していた七陰達は落ち着きを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side アルファ

 

 

 

 

 

 

(あ、危なかったわ……)

 

 アルジが見慣れない格好になったと思えば、何故か私の心臓が高鳴っていた。いえ、確かにいつもアルジの事は、優しくて格好良い人だと感じるし、照れた顔も可愛い。それに側にいれば自分がとても落ち着くというのは理解しているわ。でも……

 

(急にあの格好は反則よっ‼︎)

 

 なんかあの姿になったアルジを視界に収めると……何故か分からないけどドキドキしたの。あのままアルジを見続けていたら……衝動のまま彼に抱き付いていたと思うわ。それは多分……他の子達も似たり寄ったりでそう感じた筈。

 

 でも異変を感じたアルジがすぐに見慣れない帽子を被ると、その衝動も治ったわ。

 

 そう、私達はここへアルジのお姉さんを救いに来たの。いつまでも道草を食っている時間はないわ。

 

(……今度時間がゆっくり取れる時に今の姿になってもらって、そして抱きしめてもらいましょう)

 

 内心そんな事を思ってアルファはアルジの後に続く。

 

 ですがそんな思考を持ち合わせていたのはアルファさんだけでなく、最低でも後2人はいたと言います……

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side クレア

 

 

 

 

 

 気付いたら見知らぬ所で両手を壁から伸びる鎖で繋がれていた。辺りを見回すと、ここが牢屋の中だという事が分かる。どうやら昨夜のうちに何者かに拐われてしまったようね……

 

(情けないわ……)

 

「おや、もう起きたのか」

 

 牢屋の外から男の声がした。男の2人組で、片方はハゲなお父様と同じくらいか、それよりも若く見える風体の。グレーの髪をしていて、着ている物から察するに、私達と同じ貴族家系の様ね。

 

 もう1人は、金髪の青年。確かにこちらも貴族と同じ衣服だけど、歳は二十歳にも満たない様に見える。そして軽薄な表情をしながらこちらを見ている。

 

 その2人は私が繋がれている牢屋の中に入って来た。

 

「にしても綺麗な肌をしているな。調べではこの嬢ちゃん、魔力保有量がとても高いというのに暴走を引き起こしていない……」

 

(魔力暴走……)

 

 少しだけ心当たりがある。それは私が12歳の頃……朝起きたら身体が怠く感じる事があった。それはすぐに治りはしたけど……その症状が数日間続いた事を覚えているわ。

 

 でもある日シドにマッサージと称して肩揉みをしてもらってから、その症状が出る事は無くなった。その日に悪夢を見たけど……悪夢にアルジが出て来て私を救ってくれた。

 

 多分その時が、魔力暴走を引き起こした兆候。でもその日から私は魔力を制御していくことにも力を注いだ。なぜ出来ているか分からないシドからと……綺麗な魔力の流れをいつも作り出しているアルジから。

 

「何か余裕そうだな嬢ちゃん。魔封の鎖で繋がれているというのによ」

 

 金髪の男が私の様子を見て不審に思ったのかそう言ってくる。私は負けじと余裕そうな笑みを返して言った。

 

「そうね……私の弟と剣での稽古をする時に比べたら、今の状況は何でもないわ」

 

「弟か。確か2人いたな」

 

「えぇそうよ。全然ね」

 

「でもさぁ……!」

 

 金髪の男が急に私の顔面目掛けて踏みつける様な蹴りを入れてくる。私はそれを少し顔を左にずらして避けた。多分私に直接当てて恐怖を植え付けようとしたんでしょうけど……

 

「あら? ハエでも止まっていたかしら?」

 

「成程……確かに今の蹴りを避けれると言う事は、それなりに経験を積んでいると言う事だな。武術然り魔力操作然り。よほど優秀な弟がいると見える」

 

「優秀? いいえ、生意気な弟よ。戦えばいつも私が勝つわ。でも私はその弟から剣を学んでいるの。だけど弟は私からは何も学ばない。だからいつも虐めているのよ」

 

「ほぅ……毎日虐められている弟達が不憫でならないな。ならば私達はその虐めを受けていた弟達を救った英雄という事だ」

 

「……あなた話を聞いてなかったのかしら? 私は()()()()()と言ったのよ? もう1人の弟の話はしていないわ」

 

「ならそっちは虐めてないっていうのかい?」

 

「少しも虐めていない……というのは嘘になるわね。あの子は私が過度に近付いて何かするだけでアタフタするし、その様がとても可笑しいものに見えるわ。でもそれを見ているだけでも、私は幸せに感じるわ」

 

「へぇ〜……なら俺もそのもう1人の弟くんとやらのアタフタする所を実際に虐めてみてm《ガシャンッ‼︎》おっと危ない危ない」

 

あの子に何かあったら許さないっ‼︎

 

「っ⁉︎ まさか拘束を力尽くで解いたというのか⁉︎ 腕の肉を削いでまで⁉︎」

 

 グレーの髪の男が驚く。何故ならそこには拘束が解かれたクレアがいるからだ。右での方は腕輪が付いているものの、鎖を途中から引きちぎられる。左手の方は完全に腕輪が無い状態で、腕を見ると肉を削いで力尽くで腕輪から外していた。

 

「そんな事をしてみなさい……私がお前達の愛する家族、娘や友人も全て皆殺しにして……」

 

 クレアがそう言い切る前に、金髪の男が全力でクレアを殴り飛ばす。それによってクレアは意識を意識を失った。

 

「さっきの仕返しってね。にしても弟達も拐って来た方が良かったな〜」

 

「フンッ、まぁ良い。どうせ『適合者』かどうかは血を調べれば分かる」

 

「ゲール様! レグ様! 大変です‼︎」

 

「何事だ‼︎」

 

「し、侵入者です‼︎」

 

「侵入者だと⁉︎ 数は!」

 

「数は8人! ですがこちら側が一方的にやられており、我々だけでは止める事が出来ません‼︎」

 

「へぇ〜、なら俺達でそいつらをやれば良いのでは?」

 

「うむ、お前達は守りを固めろ! 侵入者は我々で対処する‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教団の根城に侵入してから数分後、かなり奥まで進んだと思う。現に開けた場所に出た事だし……

 

「それにしても貴方はいつも凄いわね。敵を斬り伏せているのに相手からは血が吹き出る事なく倒れているんだもの」

 

 アルファの言う通り、アルジには返り血一つ付いていない。

 

「あぁ……まぁこのやり方が一番慣れているからな」

 

「ですが裏ボスが倒した奴らは皆生きているのです! 何故殺さないのですか?」

 

「まぁ色々と考えあってのことだが……(言えない……コイツらを斬りつけたと同時にディアボロス教団絡みの事を全て記憶として摂取し、今後滅多な事で人を傷付けない仕掛けを施して奴隷として売り捌き、兄さんの野望に協力するなんて……)理由を言うのであれば、少しでもコイツらから情報を引き出すためだ。全て殺してしまっては何も得られない事もあるからな」

 

「な、成程なのです……」

 

「でも刃物で斬りつければ少なからず相手は出血する筈……」

 

「後で洗ったりするのが面倒なだけだな。だからこの術を身につけたと言っても良い」

 

「そ、それ……私達にも出来ますか?」

 

「さぁ……これは俺が長年かけて編み出したからな。出来るかどうかは最低でも10年くらいかかるんじゃないかな」

 

「10年……長くは感じるけれど、その技術を身に付ければ、相手の死因が何であるのかを分からなくさせることも出来るし、無駄な血で汚れる事も少なくなる。習得しても損にはならないわ。だから後で教えてくれると助かるわ」

 

「まぁ教えるくらいなら大丈夫だな」

 

「えぇ、約束よ」

 

「おいおい……マジかよこれは」

 

「なっ⁉︎ き、貴様ら! 一体何者だ‼︎」

 

 そこにゲールとレグが現れる。因みにグレーの方がゲールであり、金髪がレグだ。

 

「我らは『シャドウガーデン』」

 

「『ディアボロス教団』の壊滅を願うもの」

 

「そして我らは全てを知っている」

 

「『魔人ディアボロスの復活』と『英雄の子孫』」

 

「そして『悪魔憑き』の真実」

 

「まぁそれはさておいて……返してもらおうか。俺の大切な人を

 

 

 

 

 

 

 

side ゲール

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアボロス教団っ⁉︎ 貴様ら……その名をどこで知ったぁっ‼︎」

 

 ゲールが焦った表情で剣を抜きアルファに特攻する。しかしアルファは焦ること無く簡単にゲールの剣をいなしてみせる。

 

(っ⁉︎ 手強い‼︎)

 

「考え事をしている暇があるのかしら?」

 

「なにっ⁉︎ グアッ⁉︎」

 

 少しの隙を突かれてゲールの身体にアルファからの攻撃が刻まれる。

 

「な、舐めるなぁ!」

 

 負けじとゲールも攻撃を加えていくが、全て見透かされたかの様に弾かれ避けられる。逆に攻撃を受ける度に自分の傷が増えていった。

 

「ぐっ……まさかこんな小娘1人にここまでされるとは」

 

「人を見かけで判断しない様にと習わなかったのかしら?」

 

「……ふっ、だがその余裕もいつまで持つかな?」

 

 ゲールが懐から何か取り出す。それは透明な瓶に入る赤い円盤状の薬。それを数粒口に放り込んだ。

 

 するとゲールの体を紫色の電流が迸り、肌の色も先程より黒くなる。

 

「これならどうだぁ‼︎」

 

 先程よりも早く攻撃を仕掛ける。だがアルファはその状況でも冷静に対処していった。

 

(なっ⁉︎ 先程よりも力も速さも上がっているのに……対処してくるだと⁉︎)

 

「そこね」

 

「グッ……⁉︎」

 

 ゲールの身体に傷がまた増える。

 

(まさかこれ程とは……それに後ろに控えている7人もこの者と同等かそれ以上か。ここは……)

 

「ウォォォッ……」

 

 ゲールから魔力が溢れ出る。それを警戒したアルファは飛び退いた。その一瞬の隙にゲールは地面を魔力を纏った剣で全力で叩く。叩いたと同時に砂埃が舞い、アルファ達からは一瞬ゲールの姿が見えなくなる。

 

 砂埃が収まると、ゲールの姿は無く、代わりに先程までゲールが立っていた所に人1人が通れる穴が空いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げたわね」

 

「追いますかアルファ様?」

 

「いいえ、逃げた相手はシャドウに任せましょう。私達はこのまま救出任務に移るわ」

 

「おぉっとぉ〜。俺を忘れてはいないかな?」

 

 レグがわざとらしく大きな声で言い放つ。

 

「にしてもこんなに可愛いお嬢ちゃん達にやられるなんて……本当に使えない連中だねぇ〜。まぁその尻拭いも上司の勤めってね? さぁ〜て……どの子から可愛がってあげようかな〜」

 

「き、気持ち悪い奴ですね……」

 

「でもさっきの男より強さは上の様ね」

 

「……オイ」

 

「あん?」

 

「その右手にこびり付いている血……誰を殴った?」

 

 そこに先程まで口を開かなかったアルジがいつもよりも低い声でレグに問いかける。

 

「あぁこの血? さっき生意気な口をきいた娘っ子を黙らせる為に殴っただけさ〜。別に対したことh「あぁ?」っ⁉︎ 」

 

 レグの表情が一変する。先程まで余裕の表情を浮かべていたが、アルジから発せられた威圧の如き声によって崩れ去る。

 

「……分かった。テメェはここで、俺が殺す

 

 

 

 

 

side レグ

 

 

 

 

 

 

 

 

(な、何だよコイツは⁉︎ 得体の知れない化け物か⁉︎ クソッ……簡単な仕事だって言ってたくせに、あの野郎!)

 

 レグはどうやら誰かに命令されてここにいる様だ。

 

「(だ、だが……この力を使えば!)そ、そんな事出来るわけないだろう? 俺には……この力があるからなっ‼︎」

 

 レグがそう叫ぶと同時に身体から溢れ出る魔力……それはレグの身体を覆いきる。覆いきったと同時にそこには、全身を見た事がない甲冑を身に纏うレグの姿があった。

 

 外見は主に赤、白、黒の色味が施され、頭部分はまるで西部劇に出てくるガンマンが付けるテンガロンハットを被った様な出立だ。

 

「フハハハハッ‼︎ さぁ! 誰が最初に相手になってくれるのかなぁ〜⁉︎」

 

 甲冑で包まれても分かるほどの下卑た笑いをアルジ達に向けていた。それは余裕から来るもので、現にレグが纏っている甲冑はそんじょそこらの攻撃では傷1つ付かないものだ。

 

「す、姿が変わったのです⁉︎」

 

「それに表面を纏っている魔力量も尋常じゃないみたいですね」

 

「これは流石に皆でやらないと骨が折れるかしら……」

 

「ここは俺1人でやる」

 

「アスタロト様?」

 

「あの屑野郎は俺の大事な姉さんを拐った挙句傷付けやがった……だからここは、俺がやる」

 

「……分かったわ」

 

「ありがとう、アルファ」

 

『おぉ? 誰が出るか決まったかな? 別に全員でかかってきても良いんだぜぇ?』

 

「黙れ屑野郎。テメェの相手は俺1人で十分だ」

 

 アルジは一歩前に出ながら中折れハットを右手で放り投げる。

 

「……来い!」

 

 するとアルジの頭上の空間がヒビ割れ、まるでガラス玉が砕ける様に割れた。そこから大きな両刃の大剣がゆっくりと現れ、アルジの右手に握られる。

 

「っ⁉︎ あ、ああああああれっ‼︎」

 

「どうした馬鹿犬? そんなに興奮して」

 

「う、ううううう裏ボスは怒っているのです! 本気で怒っているのです‼︎ あの武器が出てきたと言うことは相手は終わりなのです! 降伏するしか助かる見込みはないのですっ‼︎」

 

「……でもあれ」

 

「彼は許さないでしょうね……」

 

「あれがアスタロト様が本来使う武器なの……?」

 

「んっ……凄い魔力を感じる。測定……してみたい」

 

 アルファ達もアルジが扱う武器を初めて見たのか、皆思い思いに言葉を口にした。そしてアルジから憎悪と怒りを注がれる者は……

 

(はぁっ⁉︎ な、なななな何なんだよこれはっ⁉︎ こんなの聞いてねぇぞ⁉︎)

 

 アルジが武器を呼び出してからすっかり余裕は消し飛んだ。自分が攫った娘を殴った事で目の前の男は怒り、その時点で相手を怒らせてはいけない存在だと分かった。

 

 だがこちらも奥の手を出した。それが今纏っている甲冑だ。これはここに送り出される前に、もしもの事があれば使う様にと見慣れないアーティファクトを貰ったもの。魔力を流し込めば誰でも装着できると説明もされていた。

 

 そしてこの甲冑は特殊で、そんじょそこらの物理攻撃は通さず、魔力攻撃はほぼ無効という、喉から手が出る程誰もが欲しがる物だ。だからこそ、相手が8人がかりであろうと、こちらが勝てると踏んだのだ。

 

 だが……

 

 

 

 

(あれ……どう見たってそんじょそこらの物理攻撃に当てはまる訳ねぇじゃねぇか‼︎)

 

 そう、アルジが握る大剣は……素人目に見てもそんじょそこらのレベルでは無かった。

 

「オイ……」

 

「……っ⁉︎」

 

「この世からおさらばする遺言の準備は……出来たよな?」

 

 そう言いながらゆっくりとした歩調で近づいて来る。

 

「(た、確かコイツには……っ! あった‼︎)それはテメェの話だっ‼︎」

 

 レグは腰にマウントされていたライフルを取り出し、アルジに向けて発砲した。この世で普及している単発銃よりも連射性が高く、両サイドにマウントされているカートリッジという物を空の物と取り換えればすぐ撃てる。

 

 レグは一心不乱に乱射した。それは後ろに控えているアルファ達にも向けてだ。アルファ達は初めて見る形態の武器に驚きながらも冷静に自分の獲物を手にして迎撃体制に入る。

 

 だが銃弾の一つもアルファ達には届かなかった。何故なら……

 

「遅い……」

 

(は、はぁ?)

 

 レグは呆然とした。何故なら撃ち込んだ弾丸が全てアルジの左手によって回収されたからだ。

 

 普通に考えて飛んでくる銃弾を手掴みで回収するなど無理な話だ。だがそれを涼しい顔をしてこの男はやってのける。

 

「返すぞ」

 

 その弾丸を全てレグに向けて撃ち返す。左手の親指の爪でデコピンをするかの様に少し力を貯めて弾丸を弾く。それらを目にも止まらない速さで全て弾く。

 

 それらはアルジの思い描いた弾道そのままで、レグが放ったライフルよりもさらに強い威力で撃ち込まれた。

 

「ガァァァァァッ⁉︎」

 

 それを受けてレグが悲鳴を上げた。分厚い装甲に囲われていてもアルジから放たれた攻撃は相当効いた様だ。

 

「うぅっ……まだだ……まだだぁぁっ‼︎」

 

 レグは最終手段として口の中にゲールが持っていた錠剤を含んでいた。それを噛み砕く。先程よりも増した魔力……それを両腰にマウントされていたナイフを逆手で持ち、流し込む。ナイフの形状に沿って魔力が灯ると、アルジに向けて一気に駆け出した。

 

「テメェはこれで終わりだぁぁぁっ‼︎」

 

 アルジの懐まで入り込み、勢いのままナイフを振るう。

 

 ガキンッ‼︎

 

「……はっ?」

 

 だが目の前で思い描いた結果とは違う現象が起こる。相手を斬り刻む為に振るったナイフが、両方とも弾かれていた。

 

 明後日の方向に飛んで行くナイフの次にアルジを見ると、大剣が上段に構えられていた。そして気のせいか……先程よりも刃が伸びている。

 

人前では……

 

「っ⁉︎」

 

帽子を脱げぇぇっ‼︎

 

「ガァァァァァッ……」

 

 レグは装着した甲冑ごと真っ二つになった。ここでレグの命は絶たれたのである……

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 邪魔者を倒して奥に進むと牢屋が見えた。その中には薄着で倒れている姉さんがいて……

 

「姉さんっ‼︎」

 

 檻をぶち壊して姉さんに駆け寄る。殴られた跡と、その時に生じて出来たであろう鼻血。左腕の手首の肉が少し削ぎ落ちているものの、それ以外に目立った外傷はない。気絶はしているものの、呼吸はしっかりとしていた。

 

「姉さん……良かった……良かったっ‼︎」

 

 俺は……久々に泣きじゃくったと思う。姉さんが無事でいてくれて……初めて転生した時の過ちを繰り返さなくて……

 

 その場で姉さんを治療し、後は負担にならない様にお姫様抱っこをして帰る。

 

 後日、何事も無く姉さんが屋敷に戻ってきていた事に両親は驚いていた。それからの数日間は経過観察で屋敷に留まって、そして今日、いよいよ姉さんが王都へ発つ。

 

「シド、剣の稽古は怠ってはダメよ?」

 

「はーい!」

 

「(……本当に大丈夫かしら?)それと……アルジ」

 

「はい」

 

「シドは貴方のお兄さんではあるけど、貴方の方がしっかりしているわ。だからシドがサボらない様にちゃんと見てあげるのよ?」

 

「分かりました」

 

「よろしい。後……」

 

「姉さん? ……っ⁉︎」

 

 姉さんが急に近付いて来たと思ったら、いつの間にかキスされていた。

 

「んっ……はぁ……ふふっ♡ 顔を赤らめて……可愛いわね。ねぇアルジ、やっぱり私と一緒に王都へ行きましょう。大丈夫、私がアルジを養ってあげるから!」

 

「い、いやいや⁉︎ それは無理だって‼︎ それにさっき姉さんも言ってたよね? 俺に兄さんの事を見る様にって‼︎」

 

「むぅ〜……分かったわ。ならこうしましょう。偶の休みの日には……私の所に遊びにいらっしゃい。その時は一緒に王都を案内してあげるから」

 

「えっ? でも路銀とか……」

 

「それはお父様が出してくれるわよ。ねぇ? お父様?」

 

「えっ?」

 

出してくれるわよね?

 

「は、はいっ! 勿論出させて頂きます‼︎」

 

 父さん……それで良いのか?

 

「わかれば良いのよ……それじゃあアルジ、次の休みの日を楽しみにしているわね♡」

 

 そう言って姉さんは馬車に乗って王都に旅立って行った。

 

(……なんか色々と忙しくなりそうだな)

 

 だかこの日常も……邪魔さえ入らなかったら全然良いのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

———おまけ———

 

 

side アルファ

 

 

「ねぇアルジ……この前の姿になってくれないかしら?」

 

 アルファから急にそう言われたアルジ。

 

「えっ? 唐突だけどどうしたの? まさかこれから『ディアボロス教団』のアジトに行くのか?」

 

「いえ、そうではないのだけれど……」

 

「だけれど?」

 

「その……確かめたいことがあって」

 

「確かめたいこと? ま、まぁ別に良いけど」

 

 そしてアルジはクレアを助けに行った時に身に纏ったスーツ姿となる。

 

「取り敢えずなったけど……」

 

「じゃあ……失礼するわね」

 

「は……っ⁉︎ な、何して⁉︎」

 

「少し……このままでいさせてちょうだい」

 

 アルファはスーツ姿のアルジに抱き付き、何か確かめようとしていた。そして抱き付いているアルファは……

 

(や、やっぱりこの姿……相手に対しての魅了効果があるわ! んっ……もう我慢、出来そうにないわ)

 

「あ、アルファ? 抱き付いたまま固まってどう「アルジ……」ど、どうした?」

 

「ごめんなさい……なんかもう我慢できなくて……」

 

「はっ? えっ? ちょ、オイ⁉︎ ふ、服を脱がそうとするな⁉︎ だ、誰か助けてくれ‼︎」

 

 尚アルジさんがいつもの衣装に一瞬で着替えると、アルファさんにかかった魅了効果は消え去り、アルファさんは本当に申し訳なさそうにアルジさんに謝っていました……

 

 また一部始終を見ていたとある2人は、アルファさんの事を羨ましそうに見ていました……

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回は拐われたお姉さんを助ける会でした。

なんか書いていて結果的に、アルジの身に纏っていたスーツが何の効果も付与されていないにも関わらず、アルファ達には魅了付与として認定されてしまったり、お姉さんを助けた後クレアさんがアルジに対して更にブラコン化(血は繋がっていないので合法)してしまったりと、今回も作者としては暴走してしまいました。申し訳ありません……



解説

▪️アルジが身に纏っていたスーツと中折れハット

転生前の現代ではどこにでも見られる一般的なスーツ。基本的に違う世界へ転生した時もこの衣装を身に纏って活動していた。その活動期間が長過ぎてしまった為に、本人としては普通のスーツとしての認識だが、ある一定の条件を満たした者に対しては魅了の効果を与えてしまう。

本人としてはごめん被りたい効果である。

その効果を打ち消す為に急遽中折れハットを作成し、同時に認識阻害をかけた事によって魅了付与を打ち消した。因みに中折れハットは一般的な形で黒色。

▪️レグが身に纏っていた甲冑

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ー月光ー』に出てくる『トリアイナ』という機体をモチーフにした甲冑。今回はアーティファクトという形で作品に出ており、魔力を流せば誰でも身に纏うことが出来る。

また甲冑の効果で、そんじょそこらの物理攻撃は効かず、魔法攻撃も一切受け付けない。その為例え魔剣士が剣に魔力を通して攻撃しても効かないという厄介な代物。その為圧倒的な物理攻撃でなければ破壊出来ないという、その世界で言えばチート級のアイテム。

だがアルジは圧倒的物理で一刀両断して破壊している。

▪️アルジが手にした大剣

名称はデモリッションナイフという物で、通常時は畳まれた形で見た所両刃の大剣に見える。だが鋒に可動式のパーツが埋め込まれており、そこを起点に両刃の大剣からアルジの身長を超える程の片刃の大剣に姿を変える。

しかしナイフと言っておきながらアルジの身長を超える程の大剣。ナイフとは一体……

今回はここまでです。次回は、いよいよシドとアルジが王都の魔剣士学園に入学する所辺りから始めていきたいと思います!
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