BOCCHI THE ROCK!   作:豊饒 ゆう

5 / 5
始めシリアス中アーパー赤い子泣くとも気を許すな。

お待たせいたしました。
残念ながらエタってはいませんよ。
仕事が繁忙期なのとコロナになってました。
味覚がおかしいままでつらみ。これ治るの?

それと短編のまま放置していたタイトルを改題。
タグも真面目にしたほうが良いですかね?
pixivのノリなんですよねぇ……。






















第五章 仁者無敵-Twilight Angle-

 すべての始まりは路上ライブ。

 偶然通りがかった其の場所(みち)で、青の君を知ったのだ。

 気づけば追って、追って、追い続けていた。

 最初は観ているだけで良かったのに。

 其処からいなくなってしまった青の君を探すうち。

 気づけば虚言を吐き、己を偽って、触れようとした。

 青の君に────。

 

 出逢いは偶然で、声をかけたのは必然だ。

 桜を流して歩く姿に、心を奪われて桜の君に魅入られた。

 近づいて知ったのは、桜の君の歩む其の場所(みち)の険しさだ。

 必死に追いかけ足掻いても、辿り着けない境地を知った。

 其処で諦めさせてくれれば良かったのに。

 手を差し出されて、私は其の場所(みち)に進もうと誓ったのだ。

 桜の君に────。

 

 ギターはまだ弾けない。

 歌唱力はカラオケレベル。

 とても人前には、其の場所(ステージ)には立つ資格がないけれど。

 

 だから────、

    ごめんなさい────。

 

 それでも私は────、

       其の場所に往こうと思う────。

 

 

第六節/天使様

 

 

 遠く何処かに別れを告げる言葉が飛び交っていた。

 刻限の旋律で帰宅する子どもたちのものであろう。

 空には姿の見えぬカラスの群れが鳴き、耳を澄ませば車のエンジン音やクラクション、自転車のベルの音も聴こえた。

 鼻をつくのは近隣住宅の夕餉。食欲を促す甘くもしょっぱい香りは煮物の類で、混じり合う匂いは焼き魚であろう。

 

(なんだか下北ってノスタルジックな町よね……)

 

 下北沢の住宅地の一角。

 茜に染まる閑散とした小さな公園で、語るべきを終えて深く腰折る郁代は、いやに周囲の情報を冷静に分析していた。

 普段であれば気にも留めない細かな物事が、今はどうしても気になって堪らず。落ち着きなく動き出さんとする自身の体を、少女は必死にその場へ縫い止め続けんとする。

 本心を語れば、郁代はすぐにでも逃げ出したかった。

 謝罪をして。侘びの品を渡して。二度と会わないことこそがもっとも後腐れなく、何よりも楽な選択肢であったのだ。

 そうしなかったのは、できなかったのは────。

 

(ひとりさん……)

 

 後藤ひとりの音楽に対する真摯な姿勢を、純粋な想いを、烈火のごとき情熱を、間近に見てしまったからであろう。

 生まれて初めて郁代は目にしたのだ。

 人生を懸けてまっすぐに進む人間の、夢に、好きなことに、全力をもって向き合う全身全霊の在り方を、魂の猛火を。

 つまるところが感化されてしまったのである。

 あるいはひとりの(すがた)に焼かれてしまったのかも知れない。

 心の底から『カッコいい』と惚れ込んでしまったのだ。

 日々を惰性で生きてきた少女に、ひとりは魅せつけた。

 全力をもって生きる人生の楽しさを。

 全力をもって臨む人生の素晴らしさを。

 全力をもって生きる人間の力強さを。

 全力をもって臨む人間の気高き美しさを。

 魅せ、刻みつけ、郁代の空っぽであった心の中へ、決して消えることのない鮮烈なる猛火(ゆめ)を灯してみせたのだ。

 ひとりの横で、肩を並べて同じ景色を望むという猛火(ゆめ)を。

 ゆえにこそ、郁代は逃げる訳にはいかなかった。

 憧れへ近づくためだけに嘘を吐いてまでバンド入りした少女を、疑うことなく笑顔で受け入れた山田リョウと伊地知虹夏の二人。その当時、リーダーの虹夏にいたっては大げさなほどに喜び、ささやかながらも歓迎会まで催したほどだ。

 そのような相手に不義理を働いたまま、同じ道を歩んでゆけるほどに郁代の性根は腐っても曲がってもおらず。何よりも音楽を志す者が、音楽に背を向ける訳にはいかなかった。

 

「そっかぁ~喜多ちゃんギター弾けなかったんだ~……ああ、だから頑なに音合せ避けてきたんだね~納得だよ」

 

 郁代の後頭部を目がけて、ブランコへ腰掛けた伊地知虹夏の声が降り注ぐ。

 それは怒りや呆れの色を含まぬ、穏やかな声音であった。

 

「本当にごめんなさい、伊地知先輩」

 

 深く、更に深く、郁代は腰を曲げて謝罪する。

 罵詈雑言は覚悟の上で。

 殴られる可能性も視野に、彼女は腹を括っていた。

 本音を言えば怖く、郁代の手足は幽かに震えている。

 それでも、逃げ出したい衝動を抑えてただ沙汰を待つ。

 ケジメとは、恐怖も含めたそういうものだと信じて。

 この先にこそ、自身の望んだ(ゆめ)があるのだと信じて。

 ゆえに謝罪をして。ゆえに許しを請うて。可能であればバンドへ再加入して。願わくば、あわよくば、焦がれる天才ギタリスト、後藤ひとりの参加をも認めてもらうために。

 そのためにライブを翌夜に控えた今日この日、無理を承知で郁代はバンドメンバー(、、、、、、、)に時間をもらったのだ────。

 

「喜多ちゃん、正直に言ってくれてありがとう」

 

 ブランコの軋む音に続いて、軽い靴音が響いた。

 その音に思わず肩を跳ねてしまった郁代の心臓が、かつて無いほどの激しさで脈動を刻んでゆく。

 ひと気のない公園に伸びた二つの影。腰折る影の対面の、尻尾を揺らす小柄な影はゆっくりと動き始めた。

 視界一杯に、地面を映す郁代の鼓動が激しさを増す。

 一歩々々、側頭部の尻尾を揺らしつつ影は近づいていた。

 二つの影の距離はさしてないにも関わらず。近づく影を見つめ、無性に時を永く覚える郁代の気分は、さながら断頭台へかけられた、ギロチンの執行を待つ罪人のそれであった。

 そうして────、

 

「だからさ」

「っ……、え?」

 

 落とされたギロチンは静かに郁代の頭へ乗って。

 そのまま、虹夏は続けた。

 

「もう頭を上げてよ」

「い、じち、せんぱい?」

 

 壊れ物を扱うかのように、優しく、丁寧に。

 幼子へ言い聞かせる偉大な聖母のごとくに、慈愛に満ちた虹夏の手は赤毛を愛おしそうに撫で梳いてゆく。

 

「ど、どうして……なんで、怒らないんですか?」

「怒らないよ。むしろリーダーとして、最初に見るべき所を疎かにしちゃった私の方が怒られるべきかなー? なんて」

 

 喜多郁代(ギターボーカル)の参入に目が眩み、目先の欲に囚われて、ついつい舞い上がってしまったのだと虹夏は苦笑した。

 

「あはは、リョウのやつになんて言われることやら」

「そ、そんなことあるはずありません! 私が────」

 

 それは慰めの言葉か、あるいは虹夏の本心からの自嘲か。

 真意を解せぬ虹夏の言葉に、思わず彼女の手を振り払うかのような形で顔を上げた郁代は、視てしまった。

 

「じゃあお互い様ってことで、ね?」

 

 後ろ手に前かがみで、上目遣いのままに微笑む虹夏の姿。沈みゆくきらびやかな夕日に照らされて、黄昏に燃える横髪(サイドテール)を風に流す姿は、夕影へ舞い降りた天使のようで。

 

「────────」

「あれ? おーい喜多ちゃ~ん? もっしも~し?」

 

 郁代は、虹夏に天使(げんそう)を視てしまった。

 息を呑み、忘我する郁代の前で天使(にじか)が手を振っている。

 首を傾げて、顔を寄せて、大丈夫かと天使(にじか)が言葉を紡ぐ。

 それらすべてが美しいものだと、尊いものなのだと、郁代は純粋に心の奥底から思った。

 郁代は、虹夏に天使(げんそう)を視てしまった。

 

「ねえ、ちょっと本当に大丈夫? 喜多ちゃ~ん?」

 

 黄昏た公園、周辺環境(シチュエーション)は最適だ。

 山田リョウに始まった倒錯嗜好、性的素質(テンペラメント)は抜群であった。

 極度の緊張状態からの開放、精神状態(ムード)は最上であろう。

 あらゆる要素は、揃っていた。

 

「もう! 喜多ちゃんってば!」

「────あ……、すみません! 天使(にじか)様!」

「虹夏様ってなに!? あといま絶対名前のニュアンスがおかしかったよね!? この一瞬でなにが起こったの!?」

 

 慌てふためく虹夏を他所に、郁代は片膝を地に跪く。

 そのまま両手を結ぶと、虹夏を静かに見上げて、口零す。

 

天使(にじか)様、私は心を入れ替えてバンドのために全力を尽くします。だからどうか、私の願いを一つだけ聞いてください」

「ちょーちょーちょーちょーちょー! 待って! ちょっと待って!? 少し落ち着こうよ! ねえ!?」

「私は落ち着いてます、天使(にじか)様!」

「どの辺がかな!?」

 

 口元を引きつつ、額に汗する虹夏の叫びがこだました。

 時は夕暮れ、場所は閑静な住宅地。公園内にひと気はなくとも、面した通りにはそれなりの人目があるものだ。

 

「ねえねえ、なにあれー?」

「さあ? 宗教じゃん?」

「あの金髪の子、祈られてんじゃん! ウケる」

「青春だねぇ~ひゅーひゅーなーんてアハハハ、ング、ぷはぁ~あー酒が染み渡るぅ~、ところでここ何処ぉ~?」

 

 道行く女子高生(どうねんだい)の会話に、一足早く呑んだ暮れた酔いどれ女性の野次に、虹夏の顔が瞬く間に朱へ染まってゆく。

 それでも、郁代は止まらない。

 否、周囲の状況を認識すらしてはいなかった。

 

「実は先程お話しした、私にギターを教えてくれている師匠(せんせい)────天才ギタリストの後藤ひとりさんなんですけど」

「何事もなく続けるの!? せめて場所を変え」

「明日のライブに彼女をギタリストとして出してくれませんか! できればこの先もずっと、バンドメンバーとして!」

「聞いて! あたしの話しも聞いてよ喜多ちゃ……て、え? ギター!? 喜多ちゃんの先生が代わりに出てくれるって……ウチに入ってくれるってこと!? 本当に!?」

 

 郁代の言葉を受け、羞恥の感情よりも喜色が上回ったらしい虹夏は、花咲く満面の笑みを浮かべつつ言い募った。

 身を乗り出して、郁代と鼻先の触れ合う距離で。結ばれた郁代の手を両手で包み込みながら、新たなるバンドメンバーの可能性に喜びの感情をこれでもかと発露してみせた。

 

「はぅぁ!?」

 

 結果として視界一杯に映り込んだ天使の笑顔に、天使の存在そのものに、郁代は悶え苦しむ羽目となってしまう。

 鼻孔をくすぐる甘くフローラルな天使の芳香は、いまだかつて郁代の香ったことのない素晴らしいものに思えた。

 彼女の手を包む御手は小柄な容姿と同様に小さく愛らしいもので、間近に覗く琥珀の瞳は深く美しい輝きを魅せる。

 時が経つほどに、郁代の視界の天使の魅力は増していた。

 

「その、後藤ひとりさん? は、ギター弾けるんだよね!? 凄いって言ったもんね!? 喜多ちゃんに教えてたってことは明日のセトリも楽譜(スコア)も大丈夫なんだよね!? ね!?」

 

 天使の吐息はミントの香り────。

 郁代は茹で上がる思考の中で、しっかりと記憶した。

 

「大丈夫なんだよね!? 明日のライブでギター探ししなくても、後藤ひとりさんが出てくれるんだよね!?」

 

 天使の御手は郁代の手を離れ、肩を握り締めていた。

 二人の距離はすでに胸を押し付け合うほどに近い。

 

(柔らかい良い匂いちっちゃくて可愛い天使(にじか)様素敵)

 

 郁代の記憶はそこで途絶えた。

 後に残されたのは、気絶した郁代を前に右往左往する虹夏と。おっとり刀を装いつつも、その手に楽器店の買い物袋を複数下げて現れた、ホクホク顔の山田リョウであった。

 

「二人してなにしてんの?」

「とりあえずオマエは集合時間ブッチした言い訳くらいしろよ。というかせめて取り繕う努力はみせろ」

「ごめん、おばあちゃんが危篤で病院えぐぅっ!?」

 

 天使の拳は容赦なくリョウの腹部へ沈み込む。

 これは魔王の初ライブを控えた前日譚。魔王が下北沢に降臨する前の、平和に満ちた一幕であった────。

 

 

終わり
























結束バンドが喜多ちゃんの楽園になった不思議なお話し。
そしてちょっと作者がフライングしたお話しでした。
正直に、
コロナで怠い中、ラッキー執筆チャンスとか思ってチマチマ書いていたものを、今日完成させましたが……自分的にイマイチでした。書き直すのも手間でそのまま公開しましたが、自己採点では67点くらいです。小説って書くの本当に難しい。その時の精神状態に思いっきり左右される私は特にブレ幅が広いと自己分析したりしなかったり。筆が乗らない時は本当、小学生の作文みたいなものが出来上がります。

そんな訳で、今話で下準備は完了としていいでしょう。
感想にも書かれましたが、無駄に過去話だとかを挟んでしまいました。
私的には味を出すのに必要と判断しましたが、いい加減にしろと思っていた方も多いと理解しておりますので……。
ようやく次話、原作結束バンドがスターリーに揃います。
いや、長かったですね。
執筆速度遅くて申し訳ない!
中身頑張るから許してネ!

早くPAさんとひとりが書きたい!



新話ではなく番外編ができました。
https://syosetu.org/novel/324915/

あなたは「ぼっち・ざ・ろっく!」の……

  • 原作、アニメ共に把握。
  • 原作のみ把握。
  • アニメのみ把握。
  • 二次小説のみ把握。
  • 当作品のみ把握。
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