「うん、それでね……」
「へぇ……たりした?」
そのっちと机を挟んで読書をしていると、ゆーゆとたかしーの話し声が聞こえてきた。
勇者部の中でも特に明るい二人の会話は聞いてるだけでもなんだか楽しい気分になってしまう。
そんな二人の会話に耳を傾けながら、私とそのっちは読書を楽しんでいた。
「うん! それで須美ちゃんね、私のマッサージを気に入ってくれたみたいでね、たまにお部屋に来てくれるようになったんだぁ!」
「そうなんだ、結城ちゃんのマッサージ気持ちいいからね、私もしてもらったけどすっごく気持ちよかったもん!」
「えへへ、ありがとう!」
今の会話の内容に、そのっちは目をキラキラさせながら私に話しかけてくる。
「園子先輩、聞きましたか!?」
主語がないその発言も、私には理解できた。だって私も同じことを考えていたから。
「もちろんだよ~、これは帰ったら凄いネタになるんよ」
リトルわっしーは勇者部内でも特に、ゆーゆの友奈神拳の犠牲者になっていた一人だった。
毎回毎回、ゆーゆによってちにゃらされていたリトルわっしーは、いつしかゆーゆのマッサージを怖がるように、距離を置くようになった。
そんなリトルわっしーが自分の意思でマッサージをしてもらいにゆーゆのお部屋へと行く。
つまりこれは、いわゆる『堕ちたな』というやつだった。
小説では何度も書いたことあるけど、まさか実際にリトルわっしーがそうなっているなんて……もはや感動ものだ。
「ふふふ……これでしばらくはネタに困りませんぞ~」
「そうですな~、とりあえずメモメモ~」
私とそのっちはチョメチョメモを取り出して、今聞いた内容を『ほんの少し』脚色しながら書き込んでいく。
そしてチョメチョメモを閉じると、二人で感慨深げにうむうむとうなずき合った。
「それにしても、友奈先輩はすごいな~」
「わっしーがゆーゆを大好きだから、リトルわっしーもいつかはこうなるかも~とは思ってたけど……まさかあの、友奈神拳で堕ちるとはね~」
友奈神拳、恐るべし、私は強くそう思った。
「そういえば……」
そんな感じで、帰ってから書く小説の展開をどうするかそのっちと話し合っていると、たかしーの視線が私たちの方に向けられていることに気付いた。
(どうしたんだろう?)
そのっちも、私とたかしーが目を合わせていることに気が付いたみたいで、顔を後ろ、たかしーへと向ける。
するとたかしーは少し笑った後、口を開いた。
「園ちゃんズって……友奈神拳、受けたことなかったよね?」
「「!!?」」
たかしーの発言を聞いた瞬間、私達はビクッと体を震わせる。
今の言葉を聞いて、次に来るであろう言葉を予測できてしまったからだ。
もちろんそれはそのっちも同じみたいで、ギギギっという効果音がなりそうなくらいぎこちない動きで、こちらを見る。
瞳はとても不安そうに揺れていて「助けて」と、私に訴えかけていた。
(ごめんねそのっち……たぶん無理)
だって、私も不安なんだから。凄く、もの凄く不安なんだから……というか……これは恐怖だ。
心の中で謝罪する。それでもそのっちには伝わってしまったみたいで、うっすらと涙を浮かべ、口元から微かに声が漏れていた。
(そのっち……ごめんね)
もう一度心の中で謝った後、私はたかしーに視線を戻して、次の言葉を待つ。
外れてて欲しい。そう強く、強く強く願うけど、答えは決まり切っていた。
「じゃあ今からやってみようよ!!」
「やっぱりー!?」
わかっていたとはいえ、思わず叫ばずにはいられなかった。
しかし提案したのはたかしーじゃなくて、ゆーゆだ。たかしーからくると思っていただけに、予想外だった。
しかも予想外は、一回だけで終わらなかった。
「私もやるよー」
「!?」
まさかのたかしーまで参戦してきて、私は自分が冷や汗をかき始めていることに気づく。
本格的にまずいと、逃げろと、本能が告げていた。
「わ、私はこういうのいいんよ~」
「ふーん」
咄嗟に断ろうとしてみるけど、たかしーはなんでか凄いニヤニヤしていた。
「た、たかしー?」
普段なら元気を貰えるくらいの満面の笑みは、今はただただ怖いだけ。
そしてそれは、やっぱりというべきか敵中していた。
「いいって言われると、余計にやりたくなっちゃうんだよねー」
悪戯っぽい笑みをしたたかしーに、私は選択肢を間違えてしまったことに気づかされる。
しかもこれはただのミスではない。物語であればバッドエンドに一直線の、致命的な大失敗な気がしてならなかった。
そんな中、私はそのっちが静かなことに気が付く。
「そのっち…………そのっち!?」
そのっちはカバンを背負って、部室の扉を開けるところだった。
私は慌ててそのっちの手を掴む。
「そのっち……まさかとは思うけど、未来の自分を見捨てて一人だけ逃げるの?」
私の方にゆっくりと振り向いて、そのっちは悲しそうな表情をしていた。
だけどそれも一瞬のこと。すぐにいつもの、のほほんとした笑顔に戻っていた。
(あっ、これは……)
私とそのっちは一心同体どころか、同一人物。他の誰よりもそのっちの考える事はわかってるつもりだ。
だからわかる。この笑顔は、ダメなやつだと。
「私はわっしーミノさんと遊ぶのでかえりまーす!! 園子先輩、どうかご無事で~~~!!」
そう言って、そのっちはすごい速さで部室を飛び出していった。
「ずるいんよ、そのっちー!?」
静止の声はそのっちには届かない。だってもう見えないから。
そもそも届いていたとしても、今のそのっちは私を置いていってしまうだろう。
だって、私だって逃げれるなら、そのっちを置いて逃げると思うから。
「あ、園子ちゃん帰っちゃった」
「でも、園ちゃんは残ってるね?」
「じゃあ園ちゃんにマッサージだー!!」
とんとん拍子で話が進んでいく中、
二人ともすごくやる気まんまんだ。正直この状況を切り抜ける方法は思いつかない。
それでも逃げたい私は、知識をフル回転させて逃げる糸口を探し、口に出そうとする。
だけどたかしー達はそれよりも早く私の逃げ道を塞いできた。
「ちょ、ちょっとまって──」
「──結城ちゃん、保健室の方がやりやすいんじゃないかなー」
「じゃあ保健室にレッツゴー!!!」
問答無用、とはこの事を言うんだと、初めて理解できた気がした。
たかしーの言葉に同意を示したゆーゆが私の手を掴んで保健室に向かおうとする。
振りほどこうとしても、すでにたかしーが反対側の腕を掴んでおり、こっちは完全にホールドされて逃げられそうにない。
私は保健室へと連行された。
──────────
「よぉし、じゃあ園ちゃん、ベッドに横になってね」
「うん……」
私は言われた通りにベッドに寝転ぶ。
これから何をされるのか考えると不安しかないけど、覚悟を決めるしかなかった。
「あっ、服は脱いだ方がいいかも、しわになっちゃうし」
「い、いや、服は着たままでも大丈夫なんよ、そのまましていいよ〜」
服を脱いで肌を見せる事は全く恥ずかしくない。だけど問題は、ゆーゆのマッサージを直接肌で受けるのはとても危険だと脳が訴えかけているため、服は着たままがよかった。正直あまり意味はない気がするけど。
「そ、そう? じゃあこのままするね」
ゆーゆの手が背中に触れ、そして指圧が始まる。
「ここはどうかなぁ」
「んっ……気持ちいいんよ~」
ゆーゆのマッサージ自体は、やっぱり気持ちよかった。
力加減も丁度よくて、程よい気持ち良さが体を包む。
(でも、なんだか、普通なんよ)
そう、普通。気持ちはいいけど、気絶するような強い刺激があるわけじゃない。
かれこれ十分くらい身体のあちこちを押したり揉んだりしてるけど、それだけ。
「こっちはどうかなぁ?」
「んっ、そこいい~」
だけどそんな事、あるはずなかった。気持ち良すぎて気絶する人もいる友奈神拳が、この程度で終わるなんて、あるわけがない。
だって──
「よしっと、じゃあ大体わかったから、これからマッサージ始めるね!」
「…………え?」
──まだ始まってすらなかったんだもん。
「じゃあいっくよぉ!」
ゆーゆの気合の入った声が聞こえてきたと思った次の瞬間、今までとは比べ物にならない快感が全身を襲った。
「っ!!?!?」
気持ちよすぎるとか、そんな言葉で表せれる次元じゃない。未知の快感。
それがゆーゆが指圧をする度に私を襲う。
「えいっ、えいっ!」
「っ!! っっ!!!」
声を出さないように気を付けるも、身体はビクンッ! と勝手に跳ねてしまう。ゆーゆもそれに気づいてるのか、掛け声がなんだか嬉しそうに聞こえる。
優しさ百パーセントの暴力的な快感が、私を襲う。
(これがゆーゆの全力なんだ。さっきまでのは、本当に準備でしか……)
だけど、もうどうすることも出来ない。今はただ、枕に顔を埋めて声が漏れないように必死に口元を抑えるだけ。
恥ずかしいというのもあるけど、今ここで我慢せず声を上げてしまったら、多分私は元に戻れなくなると思うから。
我慢というたかが外れてしまったら、ただ喘ぐだけの無様を晒してしまうと思うから。
だから私は必死に耐える。
(大丈夫、我慢するのは慣れっこだから)
だけどそんな私の抵抗は、たかしーの一言によって完全に崩されてしまった。
「ねぇねぇ結城ちゃん。私もそろそろ、園ちゃんにマッサージしたいなー」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で抵抗の意思は完全に崩れさってしまう。。
(だめ……だめだよたかしー、お願いだから!!)
私は心の中で懇願する。
たかしー自身も、なぜかゆーゆと同じくらいマッサージが上手い。理由はわからないけど、同じ友奈というのが関係してるのかもしれない。
つまり私は、単純計算で今の二倍の快楽を受けることになる。
そんなの耐えられるわけが無い。
もしそうなったら、私は、私は。
「まって──」
「──よーしやるぞぉ!」
ゆーゆなら私が本気で止めてといえば止めてくれる。流石にこれは止めないとまずい。そう思った私はすぐに静止の声を出そうとしたけど、たかしーの声によって私の声はゆーゆには届かなかった。
というよりも、今、たかしはーわざと被せてきたような、そんな感じを受けた。
だって、普段のたかしーなら、人の言葉を遮って話すなんてことは、絶対にしないはずだから。
人の声に気づかない程、たかしーは鈍感じゃないのに。
だから私は、最悪の可能性を思い浮かべた。思い浮かべてしまった。
(まさか、まさか……たかしー、最初から……)
そんなはずはない。そう思いたかった。たかしーがわざと私を追い込むように立ち回ってるなんて、信じたくはなかった。
だけど私はさっきから、たかしーの言動を思い出していた。この発端を、たかしーの行動を。
「あ……あぁ……」
違う、違う違う。そう何度も思ってみても、その可能性が増す事実しか思いだせない。
「あっ…………」
だから私は、見た。
微かな可能性を信じて、枕から顔を離して、たかしーの表情を見た。
「あぁ…………」
絶望、その二文字が私の頭を支配する。
だって、たかしーの顔は、加虐心で満ち溢れてるような、そんな表情をしていたのだから。
「園子ちゃん」
私の視線に気づいたたかしがー、ゆーゆとは反対側に回った後、私の耳元まで顔を寄せる。
そして、私にだけ聞こえるように、口を開いた。
「ダブル友奈神拳、誰にも試したことなかったんだ~。楽しみだね♡」
「い、いや…………やめて──」
「──じゃあ結城ちゃん、始めよっか! 園ちゃんを気持ちよくさせてあげたいから、始めから全力でやるぞー!」
「うん! そういえば高嶋ちゃん、今園ちゃんと何話してたの?」
「えっとね、園ちゃん最近疲れてるみたいだから、いっぱい気持ちよくしてほしいって!」
「そっかぁ、じゃあ特別サービス! すっごいのいくよーー!!」
「私もいくね…………園ちゃん♡」
ゆー、ゆ…………おね、が、い…………きづ…………いて。
「「せ~~~のっ!!!」」
わた、し…………を…………たす…………け…………て。
「あぁあああぁぁぁぁぁ♡♡♡♡」