「目標着弾まで240秒。」
「目標数6。」
「各発射台、射角調整良し。固定を解除。」
「発射。」
Patriot防空ストライカーのブースターが点火、ウィッチを猛烈な加速でニューヨークの空に押し出した。
「相変わらずとんでもない加速だな。」
モニター上のウィッチの高度を表す数字が猛烈な勢いで増えている。
「えぇ、我が国の最新技術と精鋭ですから。」
「今回はパトリオットミサイル装備型が5機、RMK 30装備型が4機です。」
ニューヨークの空は地上の摩天楼に照らされて星が見えない。薄明るい夜空では一等星だって見つからない。
今日は明るい夜空に9つの星が打ち上げられた。一等星よりも明るく、流れ星よりも派手だ。
「こちらホーク1、レーダーがネウロイを捉えた。30秒後にホーク1から5はミサイルを発射。今日は…ソフィアお前が損害評価だな。」
「…了解。」
他のウィッチよりもまだ幼気のあるウィッチが口を尖らせて返事をした。
「あっ、お前嫌な顔したろ。」
「そっ、そんなこと─!」
「はいはい、二人ともそこまで。隊長、目標への割り振りは完了しました。」
「よし、10秒後に斉射。」
5、4、3、2、1─発射。
ニューヨークの夜空にさらに10つの星が増えた。弾道攻撃型ネウロイを捉えたレーダーと誘導装置がパトリオットミサイルを誘導する。
「ミサイルのビーコン消滅、ホーク1から4は離脱する。」
ソフィア以外はパトリオットミサイルのコンテナとレーダー、誘導装置を切り離して降下に入った。レーダーと誘導装置がパラシュートを展開し、緩衝用バルーンに空気が入る。
「目標1番を破壊─2番に命中するも目標健在。続いて5番、6番を破壊っ!」
ソフィアからの報告の度に現場と司令部が喜びを噛みしめる。
「2、3、4番が抜けた!」
レーダー上の輝点のうち3つが消えずに地上に向かっている。
「あとは頼むぜ!ランサー隊!」
「任された!」
パトリオットミサイル装備型Patriotを使用するホーク隊よりも先行していたRMK 30装備型Patriotが4機、増速して弾道攻撃型ネウロイに近接する。ストライカーの左舷に設置されたRMK 30と右舷の照準装置が同期して微調整を行う。頭部に装着したHUDにも目標の高度、相対速度などが映される。
「ランサー隊、攻撃隊形を取れ。距離400まで引き付ける。」
4機のストライカーが少しずつ軸をずらして目標2番に接近する。照準装置が照準用レーザーを照射し、RMK 30がそれに追従する。
「距離600…400!」
左舷に装備されたRMK 30の射撃。薬室が回転し、次々に弾薬が薬室の前方から装填される。無反動砲特有の仕組みとして、後方に噴射された燃焼ガスとマズルフラッシュがチカチカと視界を照らす。4本の30mm弾の奔流が弾道攻撃型ネウロイのコアを本体ごと粉砕した。
「次!」
水の流れのように滑らかな機動で目標3番に向かって再度の射撃。同様の効果が得られたのを確認して次の目標へRMK 30をストライカーごと指向する。
「最後!気を抜くな!」
その時、四人がネウロイの先端の形状が変化していくのを視認した。紡錘形の先端がゆっくりと開く。
「ネウロイの弾頭の形状が変化してる…早すぎるぞっ!」
「ここで撃つ気かっ!」
彼岸花のように咲いた先端部が赤い光を集める。12本の光がニューヨーク上空を迎撃に当たったウィッチごと切り裂いた。1番機の左舷を掠めた熱線がRMK 30の砲身と薬室を歪ませた。さらにその熱に焼かれた弾薬が連鎖的に爆発する。1番機の破片やビームを浴びて2番機、3番機も小さな火球に包まれた。
現場よりも先に防空司令部のオペレーター達が、モニター上で点滅した後に消滅した輝点を見て悲鳴を上げた。
「ランサー1、2、3撃破されました!」
「バイタル反応無し!」
『こちらランサー4、再度突入する!』
「やめさせろ!1機では何もできん!」
一度ネウロイを通過したランサー4がブースターが瞬間的に燃料を喰らって増速する。自身に高速で近づく物体に対してネウロイも気づいたのか、ビームの弾幕がさらに厚くなる。回避運動の間にRMK 30の短連射を織り込む。
「くっ、隙が─」
12本のビームから更に枝分かれしたうち一本がRMK 30と連動した照準装置を焼いた。精度がガタ落ちしてもなお、RMK 30の射撃を続ける。
そうしているうちに僅かな命中弾によって割れたネウロイの装甲から正十二面体が現れた。
「コア発見─」
その時、不意にRMK 30の射撃が止んだ。銃が射撃を止めるのに一番単純な理由─弾切れだ。「empty」の文字の上のランプがチカチカと発光している。
「それなら!」
ストライカーの手の届くところに括り付けられている大型ポーチに手を伸ばす。そこから防水袋に収められたAR-18系の銃─M16から続く系譜の中に数ある枝分かれの一つ。本来は不時着したときに救助が来るまでのサバイバル用だ。床尾を展開、槓杆を引いて初弾を薬室に押し込む。
今一度旋回してネウロイに最接近する。照門と照星をコアに重ねて引き金を引く。RMK 30よりも遥かに少量の火薬のガスが小さな弾頭を銃身から押し出した。
「なっ!当たらない!」
曳光弾の軌道は逸れて露出したコアよりも数十センチ程離れた装甲部に火花を立てるばかりである。
「クソッ機体が横滑りしてるっ!」
すぐに弾を打ち切らないように、指切りで連射しても撃針が空を叩く。またしても弾切れ。手当たり次第に予備の弾倉を探す。日頃からレスキューバッグの中身を整備していなかった自分を呪う。
「どこだっ!どこにあるんだマガジンは!」
『深追いはするな!』
『ランサー4は帰投せよ。繰り返す、ランサー1は帰還せよ。』
レスキューバッグを弄る指先に金物が触れた。弾倉にしてはゴツゴしている。指でいじると何かが擦れる音と共に指先に細かい痛みが走った。注意して取り出すと艶消し用の塗料に包まれた刃が現れた。
「こちらランサー4より司令部へ、ネウロイは私が仕留める。手出し無用!」
『何を言うか!』
オペレーターからマイクをむしり取った司令の一言目だけを聞いて通信を切った。M9銃剣を装着して槍と化した銃の銃床の末端に手のひらを当て、機関部を上から掴む。
「まさか空でコレをやるとはね…」
古くから戦闘において多用されてきた、シンプルかつ非常に衝撃の強い戦術。眼前の敵を仕留めるのには銃よりも効果的と言わしめたほどである。
RMK 30をパージ。レスキューバッグも固定を外して投げ捨てる。残ったのは自分の体とストライカー、槍のみ。
ブースターの出力を再度上昇させてネウロイに接近する。ビームの雨をロールとピッチ、ヨーを織り交ぜて回避を重ねる。
「私の…私達の空に踏み入るな!」
ネウロイのコアに向かって突入。ビームを回避しながらの不安定な飛行のために、軸線がブレてコアの真正面に立てなかった。
「畜生ゥ…それでも!」
司令部では必死にランサー4に向けての通信を回復させようとしている。オペレーターが別の回線を開いては呼びかけている。大モニター上の2つの輝点が近づきつつある。
「ランサー4がネウロイに接近─接触した模様!」
「ランサー4との回線が通りました!」
『うわぁぁぁ!』
マイクからの音声が司令部に響く。誰も声を出せなかった。
取り付いたランサー4を排除するためにネウロイがコア付近からビームを斉射。そのうちの一本がネウロイの表皮ごと右脚を穿つ。2射目が下腹部近くを鋭く割いた。皮一枚と肉だけで辛うじて繋がっていた右の膝から下が完全に千切れた時点で痛みはピークに達していた。胴体はハーネスやベストの締め付けのおかげで、臓腑が飛び出るというような事態は抑えられているものの、出血が激しい。当の本人は大量のアドレナリンの分泌によって「下腹部が温かい」程度の認識のようだ。
コアの露出している破孔付近に手をかけて体を手繰り寄せた。正十二面体が手の届く範囲に収まる。
「うぉぉぉぉ!」
「槍」を両手で保持した後に振り下ろす。ガラス細工を落としたような音がして、手応えが両手に響く。コアに深々と刺さった銃剣を抜いてもう一度振り下ろす。二度目で完全に勝負が決した。
司令部ではオペレーターの声のみが発された。誰もが沈黙を破ることなく報告に耳を傾けている。
「ネウロイ消滅!全目標の撃破を確認。」
「ランサー4は!?ランサー4は離脱できたか!」
「ランサー4、自由落下しています!あっ─」
ランサー4の大モニター上のビーコンとバイタル表示が地上付近で消失したことはその場にいる皆が視認したが、誰も口にしない。
「げ…迎撃終了…。」
ニューヨークは今日も廻る。星が一つの減ったことも知らずに今日も世界を廻している。
書きたいものを詰めて書いたので完成度は期待できないと思いますね。この話に続きとか前日譚はありませんが、気が向いたら同様の部隊の話とか続きとか書きたいと思います。