青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
文字数増えたけど最終回なので分割やめました。
2月14日はバレンタインデー。日本だと女子が男子にチョコレートをあげる日。もとい好きな人に贈る日。つまりチョコレートを渡すことは、告白しているのも同然。
毎年毎年この時期になると片思いの曲を弾いてほしいとコメントが来る。私には二重にしんどい時期だった。学校で青春コンプレックスを刺激されるというのに、ネットでもズタズタと刺してくる。何回かはリクエストに応えて弾いたことはある。
そしたら「ギターヒーローさんの演奏で勇気が湧いて渡せました!」とか「おかげで付き合うことになりました! ありがとうございます!」とかコメントが来たことも。その度に「もう二度と弾かない!!」と1人で宣言してた。
そんな憎たらしくもあったバレンタインデーも、今年は印象が違う。これまでは作ることがなかったからかな。いざ作る側になると、喜んでもらえたらいいなってそんな気持ちが強くなった。
「えへへ~」
「ひとりちゃんまた世界に入り込んでない?」
「あっ、今回は違います。店長さんたちに喜んでもらえたらいいなって」
「ふふっ、そうね。ひとりちゃんも一生懸命作ったものね」
「は、はい!」
(溶けるまで混ぜてもらったのと型に嵌める作業だけしてもらったけど)
虹夏ちゃんにも「うまく混ぜれてるね」って言ってもらえた。私はもしかしたら料理の才能があるのかもしれない。パティシエの道もあるのかな。取材がいっぱい来たりして。
「店長にはひとりちゃんから渡してね」
「あっはい。……はい!? む、むむむむむりです! 喜多ちゃんがしてください!」
「私は他のスタッフさんに渡すから。リョウ先輩にもプレゼントしたいし」
「じゃ、じゃあ虹夏ちゃんに。そ、そうですよ虹夏ちゃん! 虹夏ちゃんと店長は姉妹だから虹夏ちゃんにお願いすれば」
「伊地知先輩からは渡さないって本人が言ってたわよ。先輩は先輩で店長の分も用意したんじゃないかしら。『お世話になってる人へ』ってひとりちゃんの案に感心してたもの」
「そ、そうですか? ふへへ」
「完全に前半の記憶消えてるわよね。……私も両親に作ったわ。2人とも喜んでくれてた。これもひとりちゃんのおかげ」
「そ、それほどでも……あります、なんて。へへへ」
「ふふふ、ひとりちゃんはご家族に渡した?」
「へへへ……ぁ……ま、まだです」
作ってあるのに、今日の朝に渡そうと思ったのに渡せなかった。なぜか急に恥ずかしくなって、部屋から持って出ることすらついに叶わなかった。あのチョコ実はスーパー磁石かなんかで、私の部屋にくっついてるのかもしれない。
「帰ったら渡さなきゃ」
「が、がんばります」
喜多ちゃんとそんな話をしていたらスターリーに到着。決戦の時は目前に。ここは一度風林火山を唱えて士気を上げて、兜の緒を締めてから突入しよう。
「ほら入りましょひとりちゃん」
「うぇっ、え? ま、待ってください。心の準備が」
「待ってたら日付変わっちゃうもの」
ぐさっ!
「それにこういうのはノリと勢いで乗り切ったほうが楽なのよ」
「……」
「ひとりちゃん階段に気をつけてね」
きょ、今日の喜多ちゃんが鬼畜に思えてきた。いやいやいや、喜多ちゃんは陽の人間というだけだからそんなはずは。対極の私にとって今回の状況もあって刺さるだけ、のはず。
スターリーに入ると、いつも通り先輩たちが先に来てた。いつもと違うのは、パッシー先輩がテーブルに座ってて、そのテーブルの上に貰い物の山があること。すごい。なんかもう忘れちゃってたけど、パッシー先輩は人気があるタイプの陽の人だった。
「おはよう2人とも。どれか食べる?」
「おはようございます。それはお相手の方に悪い気が……」
「ここに積んであるのはクラスで交換会したやつだから食べていいよ。伊地知と山田が貰った分もあるから、ほら。こうやって同じ種類のがそれぞれ3個あるんだよ」
「あ、そうだったんですね。そういうことでしたら少しいただきますね」
「うん。後藤ちゃんも取っていいよ」
「あっ、い、いただきます」
てっきりパッシー先輩のだけかと思ったらそういうことではないらしい。お菓子の交換会……楽しそう。
「個人的に貰ったものもあるんですか?」
「それは鞄の側に置いてあるあの袋の中」
「……モテるんですね」
「他クラスからの友チョコ。市販チョコ率100%」
「コメントに困ります」
「あはは。まぁ貰えたのは嬉しかったよ。ホワイトデーのお返しの量が多いのだけは大変かな」
「それを緩和するためにクラスでは交換会したんだもんねー」
「そういうこと」
虹夏ちゃんが人数分のドリンクを持ってきてくれた。リョウ先輩もその後ろでお菓子をぼりぼり食べてる。無心で食べてる。喜びそうなイメージがあったのに目が死んでるのはなんでだろう。
「チョコ味だらけで飽きてきた」
「あっ、なるほど」
「貰い物に文句を言わない。リョウはスナック系も貰ってたでしょ」
「ポッキーもトッポもチョコじゃん」
「微妙なラインのを貰ってますね……」
味変にはならなさそう。
これだけチョコを貰ってるなら、作ってきたチョコを渡すのは逆に迷惑になるのかな。食べ切るのが大変そうだし、チョコは食べ過ぎると鼻血が出ちゃうし。
もし私が渡したやつがトドメになって先輩が搬送されたりなんてしたら……。
「わ、私自首します……!」
「なんで!?」
「話が見えてこないけど、後藤ちゃんはそんなことしなくていいからね」
話が見えてないのに肯定される……。先輩の優しさが染み込んで苦しい。
「この量を見て渡すのは申し訳ないですけど。先輩、私からもお渡ししますね」
喜多ちゃんがぶっ込んだ! え、ええぇぇ!? こんな、みんなの前で堂々と!? 喜多ちゃんの心臓どうなってるの!?
「ひとりちゃんの提案で、スターリーの皆さんに配ろうってなったんですよ」
あ、そっちか。びっくりした。そ、そうだよね。陽キャ=クレイジーモンスターじゃないもんね。
「そうなんだ。喜多ちゃんも後藤ちゃんもありがとう」
「いえ、私はひとりちゃんの提案に乗っただけですから」
「それでも作ってくれたのは喜多ちゃんでしょ? 嬉しいよ。ありがとう」
「~っ、は、はい」
喜多ちゃんが珍しく照れてる。初めて見たかもしれない。
「じゃあ私も便乗して」
「山田が……作った……!?」
「あまりにも失礼。私だって作れる」
「そこじゃなくてだな」
パッシー先輩がリョウ先輩から貰った箱を開封してる。箱の包を外して、開封して。中から出てきたのはポッキー詰め合わせ。
うん、おかしい。リョウ先輩も作ってたはずなのに。
「味の感想期待してる」
「メーカーに感想送るわ。さては山田、自分で食べただろ」
「会心の出来だった。そして美味しかった」
「お前が感想言うのかよ!」
「お菓子でも貰えただけありがたく思うといい。世の中には欲しくても貰えない人だっている」
「理論武装してくるんじゃねぇよ。これはこれで山田らしくていいと思うぞ」
「ふっ、予想通りの着地点」
「も~リョウったら。せっかくみんなで作ったのに」
「さ、次は虹夏。乗るしかないよこのビッグウェーブに」
「……あー。あたしのは
「みんな作ってくれてるのか。ありがとう」
「他の人のがメインだから、パッシーのはついで」
「お前は食べただろ」
わ、私も渡さなきゃ。紙袋の中に入れてあるやつを。
だ、大丈夫。そんな真剣な雰囲気になってない。みんなが気楽な雰囲気を作ってくれてる。このビッグウェーブに乗らないといけないのは私だ。
「あっ、ぱ、パッシー先輩」
「ん?」
「わ、私も……作ってみました。よかったら食べてください。……みんなで作ったので、味は大丈夫だと思います。で、でも形は悪いから、やっぱり気が向かなかったら捨ててもらって大丈夫です。烏の餌にでもしちゃってください。へへへ」
「そんなことするわけないじゃん」
「ぇ」
「後藤ちゃんからも貰えて嬉しいよ。ちゃんとおれが食べるし、ホワイトデーにお返しもするからね」
「ぁぅ……ぇ、へへ」
やっぱりだ。先輩の優しさが私の胸をぽかぽかさせてくれる。温かい言葉ってこういうことなのかな。
「さ、ぼっち。この勢いで次は店長にGO」
「ゔぇっ……!?」
か、完全に頭から消えてた。喜多ちゃんにも言われてたけど、みんなの中でその役目は私って決められてたのかな。私だけ省かれて? へへっ、ぼっちです。
「一緒に行こうか後藤ちゃん」
「あ、お願いします」
席を立った先輩の後ろを、店長へのチョコが入った紙袋を片手に張り付く。私のぽかぽかスポットの1つ。
「店長。後藤ちゃんからのありがたいプレゼントですよ」
「は? え? まじでぼっちちゃんから?」
あ、やっぱり私みたいな陰キャが持ってきたチョコって欲しくないですよね。
「普段お世話になってる人たちに渡すって企画したらしいですよ。他のメンバーがちょうど他の人たちに配りだしてるでしょ?」
「あぁ、そういう感じね。ふーん? ちなみに誰提案?」
先輩がチラッと私を見た。それで店長にも伝わったみたい。店長がじーっとこっち見てる。気持ち悪いことしてごめんなさい。罰として退職しますね!
「ぼっちちゃんって割とそういうところあるよな」
「ご、ごめんなさい!」
「謝ることじゃなくね!?」
「へ!?」
「めっちゃいい考えだぞ。ぼっちちゃんの人の良さが出てる。人との繋がりを大切にしたいって伝わってくるしな」
て、店長に褒められてる? 褒め殺しからのクビ宣言?
「ありがとなぼっちちゃん」
「は、はい。今までお世話になりました」
「なんて?」
「ひぇ。ごめんなさい。やっぱり何でもないです」
「なんか2人の会話って勝手に変化球になるなー。後藤ちゃん、今のは店長が素直にお礼を言っただけだからね」
「そ、そうなんですね」
「えっ、どう誤解されてたの?」
じっと見つめられて目が泳いでたら、先輩が話題をずらしてくれて窮地を脱せた。日頃のお礼をしたい日なのに、今日もまた助けられてる……。
「後藤ちゃんこの後スタ練だったよね? 頑張ってね」
「あっはい。がんばります」
「……もっとわかりやすく喜んであげたらいいのに」
「うっせ」
私がここを離れる口実も作ってくれた。先輩はいつもきっかけ作りをしてくれる。
スタ練があるのは本当だし、後ろめたいことは何もない。それなのに、ここを離れるのはちょっと寂しかった。
「ひとりちゃんうまく渡せた?」
合流した喜多ちゃんに早速聞かれてこくりと頷く。パッシー先輩がいてくれたおかげで、店長に渡すことができた。喜んでくれてたらいいな。
私はもう今日の課題を終えて疲労を感じてる。これから練習だけど、それまでは完熟マンゴーの中に篭っていたい。そう思って完熟マンゴーを引っ張り出したところで、ふと気になってしまった。わかってることだけど、喜多ちゃんは今日渡すのかなって。
「あっあの……き、喜多ちゃん」
「なぁにひとりちゃん?」
「そ、その……喜多ちゃんは……あの、えと……チョコ……」
「あ~、うん。パッシー先輩に渡すわよ」
「で、ですよね」
「ひとりちゃんは」
「が、頑張ってください!」
「……ぇ?」
「そ、その……どっちかだけを応援するのは私にはできなくて……。でも誰も応援しないのもできなくて……」
「……」
「ぅぇっ? え?」
無言で喜多ちゃんに抱き締められた。横を見ても喜多ちゃんの顔は見えなくて、見えるのはさらさらした綺麗な髪だけ。
どうしたらいいのか分からなくてそのままで固まってたら、何度か深呼吸した喜多ちゃんがそっと離れた。
あれ……? 喜多ちゃんの目……。
「ありがとうひとりちゃん。私今から渡してくるわね」
「あっはい。……えっ!? い、今からですか!?」
「うん! 勇気をもらえたから」
こ、これでもし喜多ちゃんが……そしたら私のせい……?
「自分のせいとか考えないでね」
「!」
「その時は……それは私の魅力が足りなかっただけだから。これは私のことなんだから、ひとりちゃんが背負わないで」
「あっ……! ご、ごめんなさい」
「ううん。……私もきつく言い過ぎちゃった。ごめんねひとりちゃん。行ってくるね」
「は、はい。行ってらっしゃいです」
ぱたぱたと出ていく喜多ちゃんの背中を見て、胸がまた苦しんだ。それが何なのか。私はこの時ようやく自覚した。誰かのその確定的な行動を見ないと気づけないなんて、私は私のことに鈍感なのかもしれない。
喜多ちゃんの「ごめんね」も、このことを含めてだったんだ。
「あれ?」
先輩が誰かのものになる。私以外の誰かの特別に。
そう気づいたときにはぽたぽたと涙が溢れてきた。拭っても拭っても止まってくれない。
「ぼっち」
「す、すみません床を汚しちゃって。目にゴミが」
「言わなくていい。我慢しなくていい」
引き寄せられて、私はリョウさんの腕の中で静かに泣き続けた。
私の青春は、気付いた時にはもう終わってた。
□
あたしは今も昔も気持ちが変わらない。好きになる人は1人だけ。きっと生涯変わらない。叶おうとも叶わなかろうとも、あたしは生涯でただ1人を好きになる。そんな確信がある。
それはもしかしたら、恋をしている真っ最中だからかもしれない。これが叶わなかった時、それから何年も経ったら、あるいは別の人にまた惚れることもあるかもしれない。その方がきっと現実的だ。
だけどそんなもしもは来てほしくない。1つの
「今日は送っていかないんだ?」
「山田が駅まで行くってさ」
「リョウも女子なんだけどなー」
「…………ほんとだ」
……冗談だよね? あ、これはガチだ。ガチでその事が抜け落ちてた顔だ。
はぁって自然とため息が出た。そりゃあ出るよ。親友のことを女子として見ろとは言わないけど、見てほしくないし。それでも性別くらいは覚えておいてほしい。
2人で夜の下北を歩いてる。こういう機会は意外と少ない。意図して作らないとないし、そうするならリョウの揶揄いが待っているのも確実。
正直に言えば、恥ずかしさがあって誘えないのもある。
「……ねぇ」
目的地があるわけじゃない。ただの気まぐれの散歩。家に帰るわけじゃない。だって、この時間帯で、女子の私を放っておくなんてしない性格なんだから。
どこに向かうかを聞きたいわけじゃない。決めたいわけでもない。
声をかけたのは、話を切り出すため。
「おれがイギリスに行くのは変わらないぞ」
「……知ってる」
切り出したかった話はすぐに答えが来た。私の考えが読まれたのか、それとも元々その話がしたかったのか。どっちもかな。
「理由は聞いてもいいんでしょ? そりゃあ向こうから声をかけられるなんて全然聞かない話だし、就職希望だから願ったり叶ったりな話なんだろうけど。本当にそれだけ?」
私のことながら「それだけ」なんてよく聞けたな。十分理由になる。目的と一致してるんだから、断る理由がない。
それなのに言葉が零れたのは、他の可能性も聞きたいから。私自身が私を納得させたいから。
小さな公園の前で足が止まった。星が全然見えない夜空を見ていた目が、ゆっくりと私と合った。
「おれは伊地知のドラムの音が好きだ」
「うん」
「中学の文化祭で聴いたときから惹かれてた」
「うん。……うん? え、そんな前から!?」
てっきり高校に入ってからだと思ってたのに。そうじゃなかったんだ。そんな前からあたしの音を聴いてくれてたんだ。
「文化祭に行ったのは偶々だよ。友達と家で遊んでたけど、せっかくだから文化祭行ってみね? って話になって行っただけ。ステージでの出し物を見に行ったのは、たいていの店が閉まってたから」
あたしたちのライブは昼からだった。そのタイミングで来てたなら、中学生レベルの文化祭だし閉まってるのも仕方ない。その偶然がなければ、あたしの音は聴かれてなかったんだね。
「きっかけがそこだったけど、タイミングは関係ない。中学だろうと高校だろうと、伊地知のドラムの音には惹かれる。誰よりも楽しそうに、誰よりも好きなんだって気持ちが音で伝わってくる。それはずっと変わってないからさ」
「そ、そうかな? あはは、なんか照れくさいや。……それなら、なんで? なんで近くで聞き続けてくれないの?」
「好きだから」
「っ!」
急に顔が熱くなった。違う。今のはそういう意味じゃない。音の話。話の流れからして間違いない。
それなのにあたしは瞬間で勘違いしてドキッとした。
「伊地知の音をもっといろんな人に聴いてもらいたい。それこそ世界中で」
「……その会社って」
「イベントを手がける会社だよ。その事業の中にライブもある。おれは友達と企画して旅行先で遊ぶこともあるから、そこに目をつけてもらえて呼ばれた」
ライブ……じゃあそっちに行っちゃうのは、あたしが……。
「おれは向こうで頑張るから、伊地知も結束バンドのみんなと大きくなってくれ。将来、おれが手がけたイベントに呼ばせてほしい」
「そんなの……急にいわれたって。あたし、今整理が追いつかなくなってきて……」
そう言ったら待ってくれる。そういう人なのはもうみんな知ってる。ぼっちちゃん相手だとそういう面がよく出てるからね。
気持ちを落ち着かせて、言われたことを整えていった。あたしのドラムを好きでいてくれてること。結束バンドを信じてくれてること。世界に出るきっかけを、足がかりを作ろうとしてくれてること。
「なんでそこまでするの?」
ブログとかで宣伝することだってできる。動画投稿もしてるみたいだから、それこそ紹介動画とか作ることもできる。フォロワーが多いなら十分見込みもあるのに。それなのにどうして。
「好きな人のためには頑張りたいだろ?」
「……ぇ」
「おれは伊地知虹夏のことが好きだ」
「な、ん……」
「理由を挙げろと言われたら言えるけど、伊地知虹夏だから惚れたんだ」
思わずにやけそうになるのを必死に堪えた。
言ってほしかったことを言われた。言葉が胸の内に染み込んで熱を帯びてくる。胸がいっぱいで苦しい。
それに喜多ちゃんのことが気になった。でもあたしにそれを聞く資格はない。あたしから聞く権利もない。喜多ちゃん本人が話さない限り、あたしは知っちゃいけない。
「……海外の件。伊地知に聞かれなかったら理由は話さなかったんだけどな。自分よがりの考えだし、厚かましいし」
どうだろうね。舞台を用意してくれるのは嬉しい。例えそれが知らない人だとしても、ライブの機会をくれるのはありがたい話だ。
自ら理由を語りだして「だから用意しました」とか言われたら、その時に初めて厚かましいというか、恩着せがましく思うかもしれない。そこも結局話し方と態度で印象も変わるんだけどね。
うん、やっぱり気にし過ぎだよ。
「これ。今日はバレンタインだから、伊地知用に別で作っておいたんだ」
あたしが無言だったから気まずかったのかな。一度視線が逸れてから鞄から取り出されたのは、丁寧にラッピングされた小さな箱。教室で配ってたのとは明らかに違う。あっちはそもそもラッピングされてなかったし。
あたしはそれを受け取ると胸に抱えて、あたしからも特別のチョコを渡した。
「同じこと、あたしも考えてた」
「えっと……」
「あたしも、
そう言ったら目を丸くして驚かれた。名前を呼んだことかな。それとも、それだけ鈍感だったのかな。どっちもだろうね。
榎本陽人くん。
あたしのチョコを受け取ると、そのままぎゅって抱き締められた。ううん。これも考えることが同じ。あたしからも腕を回してた。
昔とは当然違う。視線の高さも、体の大きさも、体つきも。……あたしはぼっちちゃんほどはないけど。
「今開けてもいい?」
「いいぞ。おれも開けていいか?」
「恥ずかしいからやだ」
「えぇ……」
「あはは、冗談だよ。開けて」
公園にあった1つだけのベンチ、触れ合うのも気にせずに詰めて座って、交換し合った箱をそれぞれ開けた。
「おお~、綺麗な丸型。ハートじゃないんだ?」
「ハートで作るのは恥ずかしいだろ」
「あたしはハートで作ったんだけど!?」
「伊地知はハートで作っても可愛いからいいだろ!」
「かわっ……! ~~~~っ! は、陽人くんだってハートで作ってもかわいいよ!」
「え、おれが無理」
「も~~! ホワイトデーのお返しにはハートで作って!」
「ハートは来年のバレンタインじゃ駄目?」
「駄目。来年は一緒に作るんだから」
一緒にハート型で作るのは…………うん、それはちょっと恥ずかしくもあるよね。でもいい。それでもあたしは一緒がいい。
作ってくれたチョコを1つ食べてみる。食べやすい大きさで、甘くて美味しいミルクチョコ。あたしよりも美味しく作ってない? 悔しい。
わかりやすく拗ねてみるとドヤられた。腕をつねって八つ当たり。
「向こうに行っても、遊びに帰ってきてくれるんだよね?」
「もちろん」
「それなら」
「残りの1年はずっと側にいる」
先回りされちゃった。でもいい。そう言ってくれてるんだから、それなら1年間でいっぱい思い出を作るんだ。止まってた虹夏ヒストリーも更新していこう。
2人での写真と、みんなでの写真を。……比率は2人での写真を多めにしたいかな。
「互いに成長したら、また一緒にいよう」
「約束、だからね」
一度は必ず来る物理的な別れ。今想像するだけでも辛かったけど、それを溶かすように口を重ね合って注いでいく。
チョコよりも蕩けて甘い愛を。
虹が輝くところは決まってる。明るい陽のあるところだ。
最後まで読んでくださった方々、ありがとうございます!
バレンタインデーに合わせられたらなぁと個人的に悔やんでます。
なんか本編で書き忘れたこともあるようなないような。いつものことですね。
if話も纏めて投稿しようかとも思ってたんですけど、そしたらホワイトデーにも間に合わなくなっていたので諦めました。書けたら2人分か3人分纏めて投げます。(イライザだけ前提条件から変わってくるのでズレるかも)
喜多ちゃんの出番が少ない? それも含めてif話に詰め込むよ!
そんなわけで、とりあえず本編は終わりです。2度目になりますがありがとうございました!