ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え 迷宮都市の白兎 その5
オラリオにベルが来てそろそろ2週間――ベルの話ではギルド長もアドバイザーの人も頑張ってくれているけど、所属するファミリアはまだ見つかっていない。
(意地にならなくても良いのに)
リリにカインさんも、お婆ちゃんだってペニアファミリアに入団しても良いぞと言っているのにベルはうんとは言ってくれない……住む所に加えてヴァリスまで面倒を見てもらっているのにそこまで面倒をかけるのは嫌とは言っていたが、そこまで意地を張らなくても良いのにと思う。
「480ヴァリスですよー」
「はーい、680ヴァリスです」
皆で作ったお弁当を売りながらベルに視線を向けると笑みを浮かべているが、それでも少し表情は曇ってる。
「アンニュイなベルきゅん可愛すぎるんですけど」
「目の前で大好物を取り上げられた動物みたいな顔してる……可愛いね」
ひそひそと聞こえて来る危ない趣味の人達の声が聞こえて来る。
「邪悪なショタコンめ、シネッ!」
「可愛い男の子は笑ってるのが良いんだッ!」
どっちもどっちですという言葉をグッと飲み込む。元々リリ達がお弁当を売っていると怪しい視線を向けてくる人はいました。それでもギルドナイトの人達がいるのでそれほど大きな問題にはなりませんでしたが、ベルが手伝い始めてから危ない人が凄く増えてきた気がします。
「はーい、こっちに来てくださいね」
「詳しい話はギルドで聞きますからね」
その証拠に今もギルドナイトに連行されている人が視界の隅を過ぎり、思わず溜息を吐いた。
「はい。3780ヴァリスになります。いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ美味しいお弁当をありがとうございます」
豊穣の女主人の店員が複数のお弁当を買い、ベルと一言三言と話を続ける。
「ファミリアは決まったのですか?」
「んー実はまだなんですよ、中々難しい物ですね」
「もう3週間ほどで合同入団があるのでそれを待っていては?」
「それもありかもしれないですね、はい。おつりの220ヴァリスです」
ベルからおつりを手渡しで渡され、その手を握っている豊穣の女主人の店員。
「長くない?」
「長いですね。ギルドナイト呼びますか?」
にぎにぎとその手を握っているのを見てギルドナイト案件かとリリ達が話をしていると店員は名残惜しそうに手を離した。
「いいファミリアが見つかるのを祈っています」
「はい! ありがとうございます! また来てくださいねー」
満面の笑みで見送るベルに小さく頭を下げて市場を出て行くその後姿を見送りながら手を振るベルを見て、リリはやっぱりお婆ちゃんのファミリアに入るほうが良いと思いながら次のお客さんへの接客を始めるのでした……。
それは偶然だった。カワサキが戦いの野に滞在してくれているので少し訓練などを見てもらっている間にふらりと立ち寄ったダイダロス通りで俺にカワサキがいると教えてくれた子供を見かけた。
(流石カワサキの弟子といった所か)
鍛錬をしているのだろう。カワサキと似た格闘術の動きをしている子供に思わず視線を奪われた。
(努力のあとが見えるな。良い主神とファミリアを見つければもっと伸びるぞ)
フレイヤファミリアは新規の入団をもう5年近く行なっていない。仮入団こそ受け入れるが、ロキの所のように入団を薦める事はしていない。だが……あの子供を見て俺は欲しいと思った。伸びる事が約束された光る原石が目の前におちているのだ。それを欲しいと思うのは当然……もしカワサキが俺に預けるつもりならば声を掛けてる筈なので、あの子供を俺達に預けるつもりはないのだろう。
「あの……どうかしましたか?」
「む? ああ。すまない、音が聞こえたのでな」
「そうでしたか。オッタルさんはカワサキさんに会えましたか?」
「ああ。お前のおかげで会えたよ。ありがとう」
ボコボコにされたがとても良い経験だった。もっと強くなれると分かったのでそれだけで十分だった。
「カワサキさんは強いですしね。あ、僕はベルです。ベル・クラネルです」
ぺこりと頭を下げるベル……だが俺はベルの姓が気になった。
「お前の父は……アルトか?」
「もしかして父がご迷惑を? もしそうでしたらすいません」
ぺこぺこと頭を下げるベル。確かにアルトには迷惑を多数掛けられた。フレイヤ様の下着を盗もうとしたり、湯浴みを覗こうとしたりと、何度追い回したかと思い出すだけで頭痛を覚える。だがアルトはゼウスファミリアのサポーター……その子供となれば……。
「お前はゼウスファミリアではないのか?」
「あはは……お爺ちゃんもお婆ちゃんも恩恵は駄目だって言っていたので眷属ではないですよ」
「……お前の母はヘラファミリアか?」
「……はい。内緒でお願いしますね?」
当たり前という言葉をグッと飲み込んだ。ヘラファミリアの静寂の妹が母だと言うベル。確かに光る原石なのは間違いないが、ゼウスとヘラを祖父母と呼ぶベルは余りにも劇物だ。手元で強く育つ姿を見たい気もしたが、ヘラと静寂が乗り込んでくる可能性が脳裏を過ぎり俺はこの事を胸の奥深くにしまって置くことを誓った。
「そうか、ファミリアが決まらないのか」
「そうなんです。中々難しいんですね」
そのあとはベルと世間話をしていたがベルはファミリアが見つからない様子で困っていたらしい。
「良縁があると良いな。大変だと思うが頑張れ」
「はい! ありがとうございます」
笑顔で手を振るベルに見送られホームへと帰り、それから数日後にベルに再会した時は主神を見つけたと笑っていて良かったと俺も思っていたのだが……。
「は? いまなんと」
「オッタル。私恋をしたの、あのこ……あの子が欲しいわ。見たこと無い子だけどもう何処かのファミリアに入っているのかしら? もしどこのファミリアも入ってないなら私のファミリアに迎え入れたいわ」
遠くに見えるベルを見てうっとりとしているフレイヤ様に俺は震える声を自覚しながら大事なことを伝えた。
「フレイヤ様。ベルは駄目です」
「駄目? それにベルって名前を……」
「ベルはカワサキの弟子で、ゼウスとヘラの孫です」
「………………え?」
「ゼウスファミリアのアルト・クラネルとヘラファミリアの静寂の双子の妹が両親と言っていました」
「………………嘘でしょ?」
「本当です。1度カワサキにも聞きましたが事実だそうです」
10数年ぶりに恋をしたフレイヤ様の想いは叶えて差し上げたいが、それでもベルは駄目だと諦めさせようとしたのだが……。
「何をしておられるのですか、フレイヤ様」
ヘラを祖母と呼んでいると伝えてもフレイア様はベルへのアプローチを止める所か、より激しさを増させていた。
「やっぱり無理なのよ、あの子が好き、大好きなのッ!」
「ヘラが乗り込んできますよ!?」
「それなら謝るわッ! 謝って謝り倒してベルとお付き合いすることを許してもらうわ!」
「フレイヤ様! 落ち着いて、落ち着いてください。ヘルンお前もなんとか」
「分ります。ベル君可愛いですよね」
「ヘルン!?」
「ヘルンもそう思うわよね!」
「はい!」
「やっぱり私は間違ってないわね」
「間違ってます、本当に間違っているので止めて下さい。オラリオを滅ぼすつもりですか!?」
シルの姿でベルにちょっかいを掛け始めたフレイヤ様、そしてストッパーである筈のヘルンまでもベルに恋慕しているという事実に俺は頭痛だけではなく、胃痛も覚えながら考え直してくれと頼むが2人の暴走を止める事は出来ないのだった……。
エイナさんとの勉強会を終えた僕はダイダロス通りに帰らず、そのままオラリオの外れの教会を目指して散歩をしていた。お母さんとアルフィア母さんが大事にしていた思い出の教会を見に行きたいと思ったのだ。
「ここか……綺麗だな」
カワサキさんが設置したアイテムもあり守られてる教会は今も綺麗だった。少し離れた場所には焦げた跡や穴が空いていて防衛装置が発動したんだなぁと苦笑しながら教会の扉に手を掛けようとして気付いた。
(あれ? 人の気配がする)
悪意を持って近づけば教会に反撃されるので実質廃教会になっていると聞いていたんだけど……人の気配がするので扉に伸ばしていた手を戻して変わりに扉をノックする。
「はーい! 今行きまーす」
教会の中から聞こえて来たのは元気な女の子の声だった。少し離れて待っていると扉がゆっくりと開いた。
「ヘファイストスッ! やっぱり僕……を?」
誰かと勘違いしていたのか少女は辺りを見回して、驚いた様子で僕と目があった。そして僕は僕でなんとなく気まずさで目を逸らした。
(大きい……いやいや、駄目駄目)
どこがとは言わないが、どこかがすごく大きい少女は僕を見て眼を輝かせた。
「もしかして僕のファミリアに入ってくれるのかい!? 君ッ!」
「え、え……ファミリア……も、もしかして……神様ですか?」
「え? ギルドから紹介されてきたんじゃないのかい?」
僕と女神様らしき少女の困惑した声が殆ど同時にお互いの口から零れた。
「ベル・クラネルです」
「丁寧にどうも、僕はヘスティア。こんなナリだけど女神だよ」
ふんすと胸を張るヘスティア様。だけど物凄く揺れる胸に一瞬視線を奪われ、いけないいけないと頭を振る。
「ヘスティア様のホームとは知らず勝手に入ろうとしてすみませんでした」
「良いって、まだギルドにホーム申請も出してないし、ヘファイストスにこそ仲介されてるけど、まだ手続きも完了してないしね。それでベル君はどうしてここに来たんだい?」
「あの僕のお母さんが大事にしていた教会と聞いてて、オラリオに来てあんまり上手く行ってないので1度気分転換にって」
どうして教会を訪ねて来たんだい? と問いかけてくるヘスティア様に理由を説明するとなるほどなるほどとヘスティア様は頷いた。
「なるほど、ベル君はお母さんが大事にしていた教会を見に来たんだね」
「は、はい。まさかここで暮らしている人がいるとは思ってもなくてすみませんでした」
「いやいや、気にしなくて良いよ! 僕も最近ここに住み始めたんだ。防衛装置みたいのもあるし、家具も色々と設置されてるからね。市場には少し遠いけど、良い場所なんだ。まさか君のお母さんが大事にしていた場所とは知らなかったけどね。はい、お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
差し出された紅茶をありがとうございますと頭を下げて受け取り、向かい合って紅茶を飲みながら世間話をする。
(なんだろう、この感じ……)
話をするのも、聞くのもとても楽しい。変な感覚だけど……お爺ちゃんやお婆ちゃんと話している様なそんな感じがする。ベルがヘスティアになんとも言えない安心感を覚えている中、ヘスティアも奇妙な感覚を覚えていた。
(なんだろうね、この感じ……あの困った子や、ヘラに似ている気がするよ)
双方共に不思議なシンパシーと安心感。それはまるで歯車がガッチリとかみ合ったような、そんな感覚をベルとヘスティアに与えていた。ベルはヘスティアにゼウスとヘラに通じるものを感じ、そしてヘスティアはゼウスとヘラに通じる物をベルから感じていた。
「「あのッ!」」
僕とヘスティア様の声が重なって互いに思わず笑ってしまった。カワサキさんが言っていた。理由も根拠もないが、この人なら、こいつなら信用出来るって相手に会うこともあるだろうって言っていたけど、ヘスティア様が僕にとってはそうだと思った。
「あの神様、僕は僕の主神になっている神様を探しています」
「そうなんだ。僕はね、僕の眷属になってくれる子供を探しているんだ」
互いに一瞬黙り、そして少し間を置いて僕もヘスティア様も笑みを浮かべた。
「駆け出しで冒険者とは呼べないかもしれませんが、それでも頑張ります。僕の主神になってくれますか?」
「何もない駄目駄目な主神だけど、僕の眷属になってくれるかい?」
お父さんやお母さん、それにお爺ちゃんにお婆ちゃんもちゃんとしたファミリアに入れと言っていた。ちゃんとしたファミリアであれば設備はしっかりしているし、指導してくれる先輩もいる。そういう基盤が無ければ冒険者として大成するのは難しいといっていた。だけどカワサキさんは違っていた僕がこの人しかいないと思える神様に会えたのならばそれが全てだと、合わない相手と一緒にいても辛いだけ、辛くても一緒にいて楽しいと思える相手と一緒にいる方が良いとカワサキさんは言ってくれた。僕にとっての神様はヘステイア様……この人しかいない、僕はそう思ったのだ。
「良し! 決まりだ! 行こうベル君ッ!」
「はいッ!」
エイナさんやフェルズさんには申し訳ないと思う。僕の事を考えて色々と苦労してくれていたけど、僕は今日やっと自分の、僕だけの主神を見つける事が出来た。僕と神様は手を繋いでギルドへと向かい……。
「あらベル君……その子は……神様?」
「はい! 僕の神様です!」
「ファミリアの申請に来たんだ! 書類をお願い出来るかな」
「お願いしますエイナさん!」
「え……ええ……」
困惑しているエイナさんに神様と一緒にヘスティアファミリアの結成を告げるのだった……。
メニュー46 フレンチトーストへ続く
ベル君とヘスティア様が思い出の教会で出会いファミリアの結成といたりました。原作とは違う流れですが、教会で2人が出会うがやりたかったのでこうしてみました。ここから原作の少し前の話に開始ですね、つまり白兎と同棲してつやつやなヘステイア様のターンですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない