ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え リベンジマッチ/白兎料理する

下拵え リベンジマッチ/白兎料理する

 

7年――7年ぶりに対峙するカワサキはあの時と全く変わっていなかった。7年も時が経てば老いるのが当たり前。だがカワサキは7年前の若々しいままだった。

 

「べらべらと喋るのは別に良いだろう。後でよ、さっさとやろうぜ。オッタル」

 

来い来いと手招きするカワサキに俺は地面を踏みしめ拳を構える。

 

(7年の修練はこの時の為……まずはッ)

 

まずは挨拶代わり、カワサキの驚異的な制空圏の正体を見極めると気合を入れ、地面を踏み込み間合いを詰めながらジャブで様子を見るそんな事を考えながら踏み込むと同時に強烈な痛みと共に顔が弾かれた。

 

「ぐっ!?」

 

「お、流石に頑丈だな。並大抵の奴ならこれで意識を刈り取れるんだけどな」

 

間合いは3m近い、何をされたのか分からないが……このダメージは決して軽いものではない。制空圏は恐らくおとり、この見えない打撃……これが本命だ。

 

(まずは見極めるッ)

 

カワサキの事だ。俺の知らない技術と見て間違いない、しっかりとガードを固めて、意識を集中させ……何をされたか見極める。

 

「くッ!? がっ!?」

 

「戦ってる最中に考え事をしている段階で駄目だぜ? オッタル」

 

見えない、見えない打撃に殴られている。しっかりとガードを固めているのに衝撃が突き抜けてくる……だが何をしているのかは見えた。

 

「ポケットから手を出すだけで何故殴れる?」

 

「原理は知らん。居合い拳というらしいな。空気で殴りつけるそうだ」

 

そんな中途半端な理解でこれほどの威力――カワサキの地力の高さを改めて思い知った。空気では俺の制空圏は反応しない、しかも距離を離していれば一方的に殴られる。ならば……ッ。

 

「シッ!」

 

カワサキの滑るような歩方。それを俺なりに再現した物を使いガードを固めながらカワサキとの間合いを詰める。

 

「瞬歩まで覚えたのか、大したもんだ」

 

ガード越しに殴りつけられるのを感じながらも3mあった間合いは詰めた。ここまで間合いを詰めればと気合を入れてジャブを繰り出すが……

 

「へえ……ずいぶんと努力したな。瞬歩にしてもそうだが、今のジャブも始動が殆ど見えなかったぞ」

 

「な……に?」

 

弾かれた訳でもない、逸らされたわけでもない、まるですり抜けたように俺のジャブは空を切っていた。だがここならまだ俺の間合いッ! 動かなければ畳み込まれると攻撃へと移る。

 

「シッ!」

 

回し蹴りをカワサキの胴目掛けて放つが……だがそれは悪手だった。

 

「そう慌てるモンでもないだろうよ? オッタル」

 

カワサキが腕を振り上げると俺は地面に背中を強かに打ちつけ、空を見上げていた。何をされたのか、何が起きたのか理解出来なかった。

 

「相変わらず受身がヘタだな」

 

「ッ!!」

 

俺の顔を覗き込んでくるカワサキに呆然としていた意識がハッキリし、両腕で身体を跳ね上げ立ち上がる。

 

「おおおおッ!!」

 

吼えながら左右のラッシュをカワサキ目掛けて放つ。クリーンヒットは難しいとしても1発か、2発は掠めればそこから切り崩そうとしたのだが……。

 

「制空圏は俺がお前に教えたんだ。俺が出来ないわけないだろう?」

 

両手で俺のラッシュを弾き、いなし、防ぎ滑るように前に出てきたカワサキの両手が胸に触れる。

 

「ガッ!?」

 

衝撃が突き抜ける打撃……久しぶりの衝撃に苦悶の声を上げる。

 

「な、何故動ける? 制空圏は動けない筈だ」

 

反撃や防御に秀でているが、殆ど動けないのが制空圏だ。だがカワサキは普通に動いていたことに驚き何故だと問いかける。

 

「それはあれだろ、お前がまだ完全に極めてないだけだ。そうだな、お前の完成度は5割って所か、まだまだだ」

 

「まだまだ……か、そうか」

 

動きを止め、相手の攻撃を弾き強力な一撃を叩き込む俺の技術はまだ完成していないか……。

 

「いいぞ、俺はまだまだ強くなれるってことだ」

 

「はは! お前のその向上心俺は好きだぜ? どれ、お前の制空圏で防いでみな。出来るもんならなッ!」

 

カワサキのジャブは俺よりも早く、初動も何もない。速さと威力が両立されているので下手をすればそれだけで倒されかねないほどだ。やはり見えないが、俺の身体は反射的に動き――顎を打ち抜かれ俺は膝をついていた。

 

「は……ぐっ!?」

 

「甘い甘い。制空圏なんてもんは格上には通用しないもんだ。あれは鍛錬の1つ、それに頼れって訳じゃねえぞ?」

 

目で見えなくても、気配を感じ取り俺は確かにカワサキのジャブを防いだ。だが何故か俺は倒れている……。

 

(なんだ、何をされた?)

 

目の前がくらくらと揺れるのを頭を振って振り払い、再び立ち上がり拳を構え今度は防いで見せると気合を入れる。

 

「それ、行くぞ」

 

殆ど見えない拳が再び放たれ、それを反射的に防いだ瞬間カワサキの姿がブレ……そして横っ面を殴られ顔が捻れる。

 

「ぐっ……なんだそれは、そんなインチキ何故前は見せなかった?」

 

「今度は見えたみたいだな。ただ手癖が悪いだけさ、教えるようなもんでもない」

 

「手癖が悪いだと? そんなもんじゃないだろうそれはッ!」

 

「ははッ! ただの小手先の子供騙しだ」

 

ジャブを弾いた瞬間、カワサキが踏み込み。脚、腰、肩、そして手首を連動させて拳の軌道を変えてきた。それが防いだと思ったのに俺に命中した攻撃の正体だった。

 

(体重移動で攻撃の軌道を変える……こんな事が出来るのかッ)

 

強い、本当に強い。7年我武者羅に頑張った。レベルも8になったし、ステイタスも上がった。だがそれでも尚届かない高みがある。

 

「嬉しいぞカワサキぃッ!! 俺よりも高みにいてくれて感謝するッ!!」

 

俺はまだ弱い、慢心も、驕る事など出来る訳もない。だから猛者などではない、俺は、俺はッ!

 

「俺はまだ挑戦者でいられるッ!!!」

 

俺は自分が頂点等と思ったことはただの一度もない、それなのに猛者等という2つ名は余りにも重い。俺はそう挑戦者でいたいのだ、自分よりも強い相手に挑み、それを打ち破る挑戦者でありたいのだ。

 

「オオオオオオオッ!」

 

「ははッ!! 良いぜ! 来いよ。お前が満足するまで相手してやるよッ!」

 

「お前の技術その全てを学ばせて貰うぞッ!!」

 

制空圏も心眼も役に立たない、カワサキは俺よりも高いレベルでそれを習得しているからだ。届かない、防げない。

 

「ははは……ははははははははッ!!!」

 

楽しい、楽しい楽しい楽しいッ!!! ベートを鍛えたのも俺自身がより高みに行くために、技術を磨くための組手の相手とするためだった。ベートとの組手と鍛錬は良いものだったが、それを上回る興奮が俺の胸に込み上げてくる。

 

「強いな! ああ、本当に強いッ!! だからこそ挑む価値があるッ!」

 

何十回、何百回と繰り返し磨き上げたジャブも空を切る。始動がほぼ見えずベートやアレン達が防げない拳もカワサキには何の役にも立たない。

 

「本当にお前は良いな。その向上心に闘争心、前をひたすらを見るその姿勢は俺も本気で相手をしたくなるッ!!」

 

「ぐっ!? がっ!? 男比べかッ! 今度は俺が勝つッ!」

 

「来いよッ! 真っ向から叩き潰してやるッ!」

 

全力で拳を振りきれる距離で足を止め、防御など考えず全力で拳を振るう。

 

「ぐっ! は、はははははッ!! 身体の芯に響くなッ! これだッ! 俺はこれを覚えたいッ!!!」

 

「は、はははははッ! 体重移動が甘いんだよッ! もっと、こうやって踏み込むんだオッタルッ!!」

 

轟音を響かせ踏み込み、振るわれた拳が俺の顔を弾き飛ばす。その激痛、その痛み、その衝撃――どれもが深層のモンスターとは比べ物にならない威力だ。

 

「こうかぁッ!!」

 

「ぐぶっ!? くく、ははははははははッ!! ああ、そうだッ! その感じだッ!!」

 

互いにノーガード。全力で拳を叩きつけあう、カワサキの助言を己の物とし、足踏みしていた強さを一足飛びで飛び越えている感覚に歓喜している時――俺は気付いた。

 

(カワサキが下がってる)

 

威力は確かにカワサキの方が上。だが少しずつカワサキが下がっていた。だがそれは考えれば当然――カワサキは恩恵がない、俺よりも身体能力は劣るはず……それなのに俺よりも強い強者。勝ちたい、越えたいという思いが胸をしめる。

 

「オオオオオオオッ!!!」

 

「ちっ! これは防がんと流石に不味いかッ!」

 

渾身の左フックをカワサキのガード越しに叩き込む。カワサキの身体が宙に浮き吹っ飛ぶが、カワサキは空中で態勢を立て直ししっかりと両足から着地する。

 

「おー……いてえ……流石に真っ向からはもう勝てねぇか」

 

「そのようだ。だがこれで終わりじゃないだろう?」

 

これで終わりな訳がない。カワサキは敢えて俺の土俵で戦ってくれた。ならここからは……。

 

「流石に俺も歳だ。若いのには勝てんな」

 

「何を言っている。十分若いだろッ!!」

 

鞭の様に伸びるジャブを弾きながら自分で吹き飛ばしたカワサキへの距離を詰めようとする。

 

「遅い遅い」

 

「十分俺は早いはずだがなッ!」

 

「いや、遅いな。いや、お前自身のスピードにお前が振り回されてる」

 

踊るような足捌きを使い出したカワサキは速い、いや、速さは俺が上だ。だがカワサキは距離と間合いを使うのが抜群に上手いのか、俺の攻撃の間と間にカワサキの攻撃が差し込まれる。ジャブ、フック、アッパーと連続で叩き込まれ顔が跳ね上がる。それでも歯を食いしばり、カワサキを追い掛け続けていた時にふと気付いた。

 

(なんだ。この感じ、狭くなって……)

 

目隠しして戦いつづけて手に入れた制空圏――これで俺の防御は格段に向上した。カワサキも同じ事が出来ると言っていたが間違いなくカワサキは俺よりも上の技術を身につけているのは間違いない。だから気付けた……認めたくは無いが、カワサキが俺よりも上の技術を持っていると認める事で気付けたのだ。地面を大きく蹴ってカワサキから間合いを取る。カワサキから距離を取ることを拒み、間合いを詰めよう詰めようと前に出ていたから気付けなかったのだ。

 

「気付いたか。思ったより早く気付いたな」

 

「俺の間合いをコントロールしていたな?」

 

自分の間合いを学ぶために身につけた制空圏。その防御は強力だが、自分よりも上の使い手には通用しない。だが実際はそんな甘いものではなかったのだ。

 

「俺の動きを読み、拳を置いておくことで俺は俺自身の制空圏の中に囚われていた」

 

カワサキは俺より早く動いていたのではない、俺の制空圏を削り、自分の制空圏を捻じ込み俺の動きを読んで先に攻撃を放っていた。何を馬鹿なと思うが、あそこまで何も出来ず、一方的に殴られる理由を考えればそれしか思い付かなかった。

 

「正解。殆ど無意識で防ぐのはいいが、それが通用するのはモンスターだけだな」

 

自分の間合いに雁字搦めにされ、思うように動けずカワサキに良いようにコントロールされていた。

 

「まだまだか……」

 

「ん? もういいのか?」

 

「今は良い。これ以上やっても勝つ所か得られる物も無さそうだ」

 

カワサキと再会し、浮き足立っているのもある。自分で思う以上に冷静では無かった事に苦笑する。それに手紙を貰ったからと言ってそのまま挑みに行ったのは些か失礼だったような気もする。

 

「カワサキ。お前は酒を飲む口か?」

 

「それなりに」

 

「なら再会を祝して一杯やらないか?」

 

「そういうことならご相伴しようとするかね」

 

互いに構えを解き、カワサキをホームへと連れて行き酒を飲むことにしたのだが……。

 

「俺の知り合いの神が絶賛した天上の酒がここにあります。飲むか?」

 

「良いのか?」

 

「待て待て、俺も混ぜろ」

 

「興味がありますね。一献頂いても?」

 

「先駆者よ、どうか俺も混ぜてくれ」

 

カワサキが持ち出した天上の酒と聞き、アレン達も加わり酒宴となったのだが、天上の酒は人間の俺達には強すぎて酔い潰れた……。

 

「何やってるんですか! 酔い潰れて寝るとか馬鹿なんですかッ!」

 

「「「響く……響く」」」

 

「はは、酒に飲まれるとはまだまだだな、ヘイズ。暇だから厨房借りて良いか?」

 

「え、あ、はい。どうぞ」

 

満たす煤者達の筆頭であるヘイズに朝から怒鳴りつけられる俺達を見てカワサキは楽しそうに笑い、まぁ頑張れと口にして朝食を作りに行ってしまい。俺達は朝食が出来たとカワサキの声が掛かるまで満たす煤者達に説教をされるのだった……。

 

 

 

 

ペニアさんに許可を貰ってファミリアの食材を使わせて貰える事になったので、今日はギルドに勉強に行く前にお弁当を作っていくことにしたのだ。

 

「ふんふーん♪」

 

鼻歌交じりに卵の殻を剥いて黄身と白身に分ける。黄身はフォークで潰して、白身は包丁で細かく切る。

 

「俺の知ってる作り方と違うな。ベル」

 

「あ、おはようございます。カイさん」

 

よっと手を上げる青い髪の青年――ペニアファミリアのリーダー格であるカイさんは僕の作業に視線を向ける。

 

「食感を良くする為か」

 

「はい。あと味付けしてからマヨネーズですね」

 

「そこは同じか。で、そのチーズは混ぜるのか?」

 

「ええ。半分はそのまま卵、もう半分は摩り下ろしたチーズを混ぜようと思って」

 

卵サンドは美味しいけどちょっと物足りなさを感じることもあるので、チーズでコクを足そうと思っている。

 

「お前本当に婆ちゃんのファミリア入れよ。俺らは歓迎するぜ? おじさんの弟子だし」

 

「あははー……ありがとうございます。でも僕は僕でやりたい事があるので」

 

ペニアファミリアに正式に入れよというカイさんには感謝しているが、僕は僕のやりたいことをやるために探索系ファミリア以外の選択肢は無かった。

 

「まぁあんまりリリに怒られないようにな」

 

「は、はい。分ってます」

 

怒ったら怖い小人のリリさんの事を言われて、分かってますと返事をするとカイさんはそのまま外に出て行ってしまった。

 

「本当良い人だなー」

 

1番年上で19歳。一番下で4歳とペニアファミリアの層はとても広い。だけどそれは両親をダンジョンで失い孤児になってしまった子供が多いからだ。ここでは団長などの役職は無く皆が家族でとても優しくて暖かい場所だと思う。だけどその場所に甘えては行けないと思うのだ。

 

「パンに切れ込みを入れてっと」

 

ロールパンに切れ込みを入れて卵ソースとチーズを混ぜた卵ソースを挟んだ物をそれぞれ2個ずつ作り、お弁当箱に詰める。

 

「次っと」

 

今度は余ってる食材の人参。これを使わせてもらうことにし、人参の皮を剥いて千切りにしてフライパンの中に油を敷いて、人参の千切りを炒める。

 

「醤油と砂糖」

 

にんじんの千切りに醤油と砂糖で味付けし、にんじんがしんなりしてきたら胡麻を軽く振る。

 

「これは粗熱を取ったらマヨネーズであえて……あ、そうだ。腸詰とハムも使おう」

 

肉がないのは味気ないので腸詰を炒めて、ハムはマヨネーズと一緒にはさんで……。

 

「あとは軽くサラダと……ん、よし。決まり」

 

2人分のサンドイッチとサラダを弁当箱に詰めて1回後片付けをする。

 

「よし、じゃあ次はクッキーでも作ろうかな」

 

ここには小さい子供も沢山いるし、クッキーは作るのもそう難しくないし、それにおやつはよく村でも作っていたから作りたくなってしまった。

 

「僕の我侭だし、お礼として作っていこっと」

 

食材とキッチンを借りたお礼としてクッキーを焼き、お弁当を持ってペニアファミリアを後にした後日……。

 

「え? またクッキーをですか?」

 

「おう、チビ共がえらい気に入っててな」

 

「悪いんですけどまた焼いて貰って良いですか? ベル」

 

「はい、勿論いいですよ。任せてください」

 

カイさん達に小さい子の為にクッキーを焼いてくれないかと頼まれ、勿論2つ返事で引き受けたんだけど……。

 

「あのーベル君。前にクッキー焼いて来てくれたよね? 本当にごめん! 皆がもう1回食べたいって本当にごめん。もう1回焼いてもらえないかな?」

 

「あ、あはは。はい、大丈夫ですよ。エイナさん」

 

本当にごめんねっと手を合わせるエイナさんにも頼まれて、ギルドの皆さんの分もクッキーを焼くことになるとは思っても見ないのでした……。

 

 

下拵え 迷宮都市の白兎 その3へ続く

 

 




オッタルのリベンジは技量の差+浮き足立っているのでこれ以上は無意味と判断し終了。ベル君はペニアファミリアに思ったよりも馴染み、クッキーが好評ということで再びクッキーを焼く事となりました。とこんな感じでベル君とカワサキさんはオラリオで過ごしております。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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