マダラとの戦いを終えた千手柱間と扉間は、里の未来を若者たちに託し、生涯を終えるはずだった。だが、目覚めればそこは見知らぬ世界。どうやら、冒険者がモンスターを狩る異世界に子供の姿で転生してしていたようだ!これは冒険者もギルドも知らない千手兄弟が異世界の常識を学び、クエストを一つこなしたところで終わる短編物語。

※作品タイトルが書きたかっただけで話はちゃんと考えてません。
なので誰か続きを書いてください。

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これは千手兄弟の卑劣な異世界転生だ

 目を覚ますと草原にいた。

 そして起こしたのは幼い姿をした兄だった。

 

「兄者?」

「扉間! 気が付いて良かったぞ!」

「なんの冗談だ? なぜ子供姿の兄者がいる? そしてここはどこだ」

 

 身体を起こした扉間は怒涛の質問責めを兄にした。

 

「俺も分からん! 目が覚めたらここにいた。試してみたが、幻術や穢土転生の類には思えん。扉間、お前なにか新しい技でも俺にかけたか?」

「そのどちらでも無いなら俺も見当がつかない。そもそも子供の姿で転生するなんて聞いたことも無い」

「そうか! だがこうなっては仕方あるまい! お互い、鎧の無い袴姿なのが心もとないが、俺らならどうにかなるだろう!とりあえず俺は腹が減った! 猪でもいればいいのだがなぁ」

 

 柱間がそう言ったからだろうか。

 二人の視界に暴走する巨大な猪が出て来た。

 だが、記憶よりもやけに大きいし、いかつい。

 

「む? 初めて見る種類だな。扉間、食べられると思うか? あれ?」

「火を通せば大概どうにかなるだろう。毒があっても兄者なら回復できる。試してみたらどうだ」

「うむ! そうだな! 木遁・黙殺縛りの術」

 

 暴走猪がいとも容易く地面から生えた木の枝に捕らえられた。

 逃げようと暴れるが、勿論まったく外れる気配はない。

 千手兄弟は近くまで寄って猪を観察した。

 

「うーむ、顔は猪らしい顔をしているが、なんで牙が10本もある?」

「この牙、クナイの代わりにちょうど良い。素材が多くて良い猪だ。兄者、どいてくれ。俺の水遁で部位ごとに切断する」

「む! 扉間よ、こういうのは丸焼きの方が良くないか? ほれ、こう、ロマンが……」

「兄者……この猪、俺らの10倍の大きさはある。全部焼きあがるのを待っていたら日が暮れるぞ。それに初めて見る生体だ。解体し、可食部と非可食部を分けた方が良い。内臓に変なものがいたらどうする」

「しかしだな、扉間よ。やはりロマンが……」

「黙れ! ロマンしか言いたいことが無いならこのやり方でいく。いいな?」

「む……仕方あるまい」

 

 柱間がうじうじと落ち込んでいる隙に扉間は水遁・水断波でスパスパと猪を解体していき、中身が普通の猪とそう変わらないことを確認した。

 解体が終わるころには柱間の機嫌も持ち直し、巨大な骨や牙に目を輝かせた。

 

「おおー! 見ろ扉間! この骨、かなり大きいぞ! それにこの牙! 10本もあって邪魔そうに思えたが、切れ味が良いな! 皮も加工したら良い上着になりそうだ!」

「ああ。とりあえず、剥いだ皮の一部を巻物代わりにし、素材を口寄せ空間に収納する。デカい猪だから素材もかなり多い」

「よぉし、じゃあさっさと肉を焼いて食うぞ!」

 

 柱間はウキウキ気分で火遁を猪?肉に当て、扉間は風遁を吹き付け火の調整をした。

 こんがり肉が出来上がり、良い匂いが当たりに漂う。

 じゅるり、と柱間は涎を垂らした。

 

「ものすごく美味そうだ……」

「そろそろいいだろう。兄者、ほれ」

「うむ! いただくとしよう!」

 

 柱間はあーんと大口で肉にかぶりついた。

 

「美味い! なんだこの脂の乗った肉は! 扉間! 早う食え! これはかなり美味いぞ!」

「俺はもう少し肉の調子を見る。兄者は好きに食え」

「そうか? うむ、美味い、今まで捕まえたどの猪よりも美味い肉だ!」

 

 柱間がバクバクと半分ほど食べ進めたあたりで扉間も口を付けた。

 

「兄者の言う通り、かなりの美味だ」

「ガッハッハ! いやぁ、急にこんな子供の姿でしかも良く分からん草原にいたが、これほど美味い肉が食えるとはな! 山があれば美味いキノコも見つけられるのだがなぁ」

「見る限り草原しかないな。かなり歩けば見つけられるかもしれんぞ、兄者」

「ああ。だが、その前に人が密集していそうな場所に行った方が良さそうだな」

「今の俺らの足だと半刻も歩けば着くはずだ」

「よし、じゃあ先に腹ごしらえぞ! さあ食え、扉間!」

 

 二人ともバクバクと食べ進め、すっかり満腹になった。

 そして、人がいそうな場所を感知しながら歩き始めた。

途中で街道を見つけたおかげで歩きやすくなり、予想よりも早く町に着いた。

そこは壁に囲まれていて、門番らしき者たちが立っていた。

 

「珍妙な鎧を纏っているな。扉間、見たことあるか?」

「いや。侍もあんなもの着ていない……あそこに並んでいる連中も似たような恰好をしている。妙な形の刀を腰に下げているから侍の一種か?」

「とりあえず俺らも並ぶぞ。町の中に入ってみよう」

 

柱間たちの前に並ぶ男たちは門番にカードを見せ、通してもらっていた。

そんなものを持ってなく、他の者たちとは少し違う格好の兄弟がいるのだから当然、門番は首を傾げた。

 

「ん? 妙な格好したガキどもだな。お前ら、冒険者か?」

「ぼーけんしゃ? なんぞ、それは」

「この近くの田舎から出て来た。こんなに立派な場所は初めてでな」

「ナーハッハッハッハ! こんな辺境の町が立派な場所だとぉ? おめーら、かなりの田舎から来たみてーだな! ヘッヘヘ、そんじゃあ、冒険者も知らねーのは訳ねーか。しょうがねえなぁ、このナイスな俺様が教えてやるよ」

「おお! それはありがたいぞ!」

 

 門番は無精ひげを生やした20代後半くらいの男だ。

 精神年齢においては柱間や扉間よりもかなりの年下だが、それに気づくことも無く子供相手に教えてくれた。

 

「いいか? ここはタコパって町だ。王都から馬車で10日も離れた場所だからな、お貴族様なんて当然来ない。けど、商人はそれなりに来る。なんでか分かるか?」

「ちょい待ち。オート、とはどこだ? オキゾクという奴は誰だ?」

「はあ?! お前ら、そんなことも知らねーのか? 一体、どういう教育を受けてんだよ、最近の田舎のガキはよぉ。まさか王様の名前も知らねーなんてねーよな?」

「オー様? また新しい名前ぞ! お主の主人の名前か?」

「…………」

 

 ナイスな門番は絶句した。

 

「俺らは世間知らずな子供だ。この世界の常識を教えてくれるとありがたい」

 

 扉間は顔色を変えずに言った。

門番も、「そうみてーだな」と答え、説明を始めた。

 

「そもそも、俺らが住んでいるのはトットコ王国。これはいいよな?」

 

 初めて知ったが扉間は頷いて続きを促した。

 

「んで、王国って言うぐらいだから、国の頂点にいるのが王様ってわけだ」

「なるほど、王とは地位の名前か」

 

 扉間は柱間に耳打ちした。

 

「……兄者、俺らで言うところの大名と同じだ」

「そういうことのようだな。国が違うと地位の名前も違うか。しかし扉間よ、トットコ王国なんて聞いたことあるか?」

「ない。俺らも知らぬ小国なのだろうか」

 

 兄弟はヒソヒソ話しながら門番の話を聞いた。

 

「王様の次に偉い人たちが貴族だ。どんぐらいいるのかは俺も知らねーけど、王様の代わりにいろんな場所を治めている。例えばここ、タコパの町はドツクゾ様の領地だ。さっき、貴族は来ないって言ったがドツクゾ様は別だ。まあ、あの人は貴族っぽくねーんだよな。金ばっかり遣ってギラギラした贅沢な格好はしねーし、代わりに俺らみてーに剣と鎧で戦うのが好きな変わり者だから」

「ほぉ……強いのか、そのドツクゾとやらは」

 

 目を輝かせた柱間に門番は怒鳴った。

 

「おい! 様をつけろ! 様を!」

「す、すまんすまん! 貴族というのは贅沢をする者もいれば、ドツクゾ様のように戦う者もいる為政者というわけだな」

「そういうことだ。お前、ダサい髪型でバカっぽいけど、理解力はあるみてーだな」

「だ、ダサくてバカっぽい……」

 

 柱間はズーンと落ち込んだ。

 弟はそんな兄を気遣うこともせず、囁いた。

 

「ドツクゾだけなら火影のような立場に思えるが、他の貴族の様子を聞くに、必ずしも強さは必要とはされていないようだな。大名に準ずる立場の者が国内で里をいくつか持っている、といったところか」

「俺らの里と国とは全然違う制度のようだ。国を離れれば考え方も違う。面白いものぞ」

 

 回復した柱間は門番に尋ねた。

 

「戦うと言ったが、この国では戦争があるのか? どこの国と争っている?」

「はぁ? 戦争なんてハムタ王様が許すわけねーだろ。あの人は超・超平和主義。痛いことは大っ嫌いなんだから。まあ、その割に冒険譚は好きだけどな……ともかく。戦うって言ったらモンスター相手に決まってるだろ」

「もんすたー?」

「ん? お前らが住んでいるところじゃ違う呼び方なのか? 有名なのだとドラゴンやクラーケン、身近なところで言うと……スライム、ゴブリン、ワイルドボアとか」

「…………」

「…………」

 

 柱間はすぐ扉間に耳打ちした。

 

「扉間、扉間! あの男の言葉、理解できたか?」

「全く分からん。本当にここは一体どこなんだか……フー……」

 

 扉間はため息を吐き、門番に言った。

 

「俺たちがいた場所では違う呼び方をしているから、一般的な名称はあまり知らん」

「マジかよっ?! クソ田舎すぎるだろ! ナイスな俺様も心配になってくるレベルだぜ。というか、よくそんな状態でここまで来れたな。途中で、粘り気のある動く液体とか、緑色でちっこい不細工な小人みたいのとか、牙が4本ある猪って見なかったのか?」

「牙が10本ある猪なら見たぞ!」

「はああああっ?!」

 

 柱間が無邪気に言うと、門番は目が飛び出そうなくらいに驚いた。

 

「おまっそれ、ボアキングじゃねーか! よくここまで逃げられたな!」

「逃げたのではな……もがっ」

 

 扉間は兄の口を手で塞いだ。

 

「モンスターというのは奇妙な形をした生き物の総称で合っているか?」

「え? 今その確認するのか? いや、それよりボアキングの方だよ! あのな、お前らは運よく見かけただけで済んだだろうけど、アイツはBランク以上の冒険者チームじゃねーと死ぬ強さだ!」

「ほぉ、モンスターと戦うのは冒険者の仕事か。そして、強さに応じてランク分けしてある。そうだな?」

「そうだ! って、また今その確認かよ! これだからガキは事の重大さに気づいてねー! おい、ボアキングはこの町の近くで見かけたのか?」

 

 喋れない柱間が頷く前に扉間が答えた。

 

「いや、かなり遠くの方でしかも進行方向も全く逆だった。ここには来ないと思う」

「そっかぁ……ちょうど繁殖期だから街道近くも歩いていただけか。いやあ、良かったぜ。びっくりさせやがって」

 

 ナイスな門番はホッと一息。

 やっと扉間に解放された柱間はプハーっと一息。

 

「まあ、一応あとで冒険者ギルドに警告はしておくか。ボアキングがいきなり襲撃してくる可能性もあるからな」

「冒険者ぎるど……もしやそこは冒険者を取りまとめている組織か? 冒険者のランク分けもそこが?」

「おっ鋭いじゃねーか白髪のガキ。お前は……ダサくはねー髪型だし頭良さそうな顔だな」

 

 褒められた扉間は表情を変えずに話を続けた。

 

「モンスターを狩った報奨金の管理も冒険者ギルドがしているということだな」

「ああ、そうだぜ。タコパの町は特に冒険者ギルドが充実している町でよ。こんな辺鄙な場所だとそれだけモンスターも多い。ボアキングみたいな大物の素材が手に入った日にゃあ、大儲けってわけだ。だから、ここに来るのは冒険者が多いってわけだ。素材を狙った商人もな」

「なるほど、そこで初めの話に繋がるということか。冒険者というのは俺たちもなれるのか?」

「おお! それは面白そうだぞ、扉間! で、どうなんだ?」

 

 門番は見上げる兄弟にナイスな笑顔を見せた。

 

「おう! なれるぜ! でもオメーらみたいなガキはせいぜい薬草集めと子守ぐらいしかできねーだろうけどな! ナッハッハッハッハ! モンスターを狩るなんて5年早い! 地道に頑張れよ!」

「ほぉ! それは中々面白そうな任務だな! 扉間、ここは童心に帰ってキノコ狩りの任務をしようぞ」

「兄者が食いたいだけだろう。門番、冒険者ギルドの場所を教えてくれるか」

「ったく、しょうがねーなぁ。この門を入ったら右手側にまっすぐ進み続けるんだ。そうすっとデカい建物がある。さっきお前らの前に並んでいたような鎧を着た連中が出入りしてっからすぐに分かるぜ」

「そうか。色々と世話になったな」

「うむ! お前のような優しい男が守る町だ。きっと良い町なのだろうな!」

 

 にこやかに兄弟が門をくぐろうとすると、門番がその肩を掴んで止めた。

 

「チョーッと待った。お前ら、これだけ色々聞いてタダってわけにゃいかねーよ」

「……そうは言われても俺たちは金銭の類は持ってないぞ」

「おいおい、ガキから金を巻き上げるほど俺も落ちちゃいねーよ。そうじゃなくてな。冒険者ギルドに入ったら腰ぐらいまである黒髪の可愛いお姉さんのところに並べ。それで、こう言うんだ。『とっても親切でハンサムでナイスな門番のライスさんに紹介してもらいました!』ってな。いいか? 『とっても親切でハンサムでナイスな』……」

「一度聞けば覚えられる。つまり貴様のアピールをその女にしろってことだな」

「その女じゃなくてゼルダちゃんだ! いいか? 無知で田舎もんなガキのお前たちにすっげー優しくしてやったんだ! そこをちゃーんと言うんだぞ! とにかく俺がハンサムでナイスな男だってことをゼルダちゃんに覚えてもらうんだ! ガキに優しい男はモテる! つまりお前らにかかっている!」

「そういうことなら任せておけ、門番よ! お主が惚れたおなごにしかとアピールして来よう! 扉間、愛の千手の力の見せどころよ! 気合を入れるぞ!」

「はぁ……兄者よ、千手にそんな力はない。ライスと言ったか。貴様、ゼルダとやらとはどれほどの仲だ? 話したことは? 食事を共にしたことは?」

「あったらお前らに頼むわけねーだろ!」

 

 ナイスな男の悲痛な叫び。

 柱間は得心した様子で門番に言った。

 

「なるほど、まだ始まってすらいないのだな。話しかけることすらできないから俺らに頼むのか」

「う、うっせーな! 着実に俺の傷口をえぐるんじゃねーよ! ダサおかっぱ!」

 

 今度は門番の罵声が柱間の心をえぐった。

 柱間は体育座りをし、うじうじとした顔で門番を見た。

 

「だ、ダサ…………ひどいんぞ、あんまりぞ。そこまで言うならお前が話しかけるぞ。…………まあ、出来たらいいがな」

「こ、このダサおかっぱ……! なまじ落ち込んでいるように見えるから追撃しずらい! 卑劣な技を使いやがって!」

 

 扉間は一つため息を吐き、言った。

 

「兄者、そうライスをいじめるでない。誰もが兄者のようにはいかぬのだから。ライス、貴様の依頼、受けてやろう。だがな、お前は俺らをゼルダに紹介した形になる。だとしたら、当然紹介を受けてくれた礼もゼルダにした方が良いのではないか?」

「つまり?」

「俺たち兄弟をギルドで面倒見てくれてありがとう、ということで飯にでも誘え。そうすれば貴様は見ず知らずの子供のためにそこまでする親切な男として認識される」

「白髪……お前、天才か! よし! それでいくぞ! ナーッハッハッハッハ! 任せたぞ、ガキども!」

 

 元気になった門番、またしてもすぐに回復した柱間、いつも通りの扉間。

 こうして千手兄弟は門番からの期待を背負い、冒険者ギルドへ向かった。

 

 

 

 

 ギルドに入ってすぐ、柱間は「腰ぐらいまである黒髪の可愛いお姉さん」、つまりゼルダらしき人物を見つけた。

 

「扉間、きっとあのおなごぞ! …………そこの者。ちと、よろしいか」

「あらどうしたの、坊やたち? クエストを依頼に来たの? それとも冒険者になりたいのかな?」

 

 子供姿の柱間と扉間に、受付嬢は優しく声をかけた。

 

「うむ! 冒険者になりたいのだが、えーっと、とっても親切でハンサムでナイスな門番の……確かナイスという男の紹介で参った」

「兄者、ナイスではない! ライスだ!」

「む、そうであったか。とっても親切でハンサムでライスな門番の」

「そうでない! ライスという門番が親切にも色々とこの町や冒険者ギルドのことを教えてくれてな。何分、俺らは田舎から来た世間知らずだ。出来たら基本的なことから教えていただけるとありがたい」

 

 兄者に任せては話が進まない、と扉間が引き取りサクッと受付嬢に事情を説明した。

 

「あら、そうだったのね。門番の人っていっぱいいるから誰かは分からないけど、良い人に当たって良かったわね。ひどい人だと賄賂を要求する人もいるもの」

 

 すかさず柱間が笑顔で言った。

 

「あの門番の男はとても良い男だったぞ! 俺のことはダサおかっぱというところはどうかと思うが、この国のこともモンスターの存在も教えてくれた! ああいう男と一緒に飯に行けたらきっと良いのだろうなぁ」

「そんなに仲良くなれたなら門番の仕事が終わったころを見計らってご飯に誘ってみなさいな。きっと美味しいところに連れて行ってくれるわよ」

 

 ゼルダと門番が食事に行くよう取り計らうつもりだった柱間はすぐ扉間に振り向いた。

 

「扉間! ちとしくじったか?」

「これ以上のごり押しは逆に不自然だ。本題に入るぞ、兄者。…………ライスのことはともかく、冒険者とやらは俺達でもなれるか?」

「ええ。勿論よ。この針に指を刺してちょうだい。血を宝玉に登録させるから」

「口寄せ契約のようだのぉ……」

「どこも考えることは同じか……」

 

 二人ともチクッと登録、サクッと完了。 

 ゼルダはそれぞれにカードを渡した。

 

「はい、これがギルドカードね。あなたたちの名前やランク、任務の達成状況が分かるわ。無くしてもいいけど、再発行にはお金がかかるから気を付けて」

「ほぉ、このカード一枚でそれだけ管理できるのか! 便利なものぞ!」

「他人のカードを見ることも可能か?」

 

 無邪気に喜ぶ柱間に対し、扉間がすかさず尋ねた。

 

「いいえ。さっき宝玉に登録した血をキーにしているから、本人にしか見れないわよ。冒険者なんて特に秘密主義者が多いからね」

「受付のおなごよ。このカードの情報はどうやったら見られるのだ?」

「カードに向かって“ステータスオープン”って念じると出て来るわよ」

「おおー! 文字が浮かび出て来たぞ! 扉間! 俺らのランクはDだ!」

「言わんでも分かる! というか言うな! 本人だけが見られると言われたばかりだろう!」

「ガッハッハッハッハ! 悪い悪い!」

 

 全く悪びれない柱間にゼルダは微笑んだ。

 

「任務をこなせばランクも上がるわよ。あそこのボードに依頼が出ているクエストがあるから、受けたいものがあったら受付に持ってきてちょうだい。あなたたちはDランクだから“D”って書いてあるクエストだけよ」

「ほぉ! ここは自分で任務を選べるのか! もしや、依頼をランク分けしているのは無理な任務で子供を死なせないためか?」

「子どもに限らず、冒険者ってのは死にやすい稼業だからね。モンスターも強さによってランク分けしているから、自然とクエストも討伐するモンスターによってランクが分かれるの。あとは、あなたたちがこれからするだろう採取クエストの場合、見つかりやすい薬草とそうでない薬草によってランクが変わるわ」

「あのようにボードに依頼を貼り付けるくらいなら、ギルドが冒険者に対してクエストを割り振れば良いのでは?」

 

 扉間は木ノ葉隠れの里のやり方を思い出しつつ言った。

 上層部が任務を割り振るのではなく、冒険者それぞれに選ばせるギルドのやり方は馴染みが無い。

 

「町に所属している冒険者ならこちらからクエストを指名することもあるけれど、普通は難しいわよ。冒険者は基本的に根無し草。ずっとこの町にいるとは限らないわ」

「なるほどな。扉間よ、その辺りは俺らの里とはちと違うようだな」

 

 柱間は受付嬢に聞こえない程度の声で弟に言った。

 すると、扉間も小さく頷いた。

 

「そのようだな、兄者。国同士の戦争が無い分、戦力の管理にも余裕があるのだろう」

「よし、ならば俺らもクエストとやらを受けようではないか! 受付のおなごよ。丁寧に説明してくれて感謝する!」

「いいクエストが見つかったらまたおいで。頑張ってね、小さな冒険者さんたち」

 

 ゼルダはにこやかに手を振ってくれた。

 柱間たちは受付から離れ、巨大なボードの前に立った。

 ランクごとに依頼の紙が貼られている。

 

「Dランクが一番簡単だからか、依頼量も多いな。そういえば扉間よ、さっき俺らが狩った猪、あれも討伐依頼が出ていたのだろうか」

「門番がギルドに知らせると言っていたからそのうち出るかもしれんな。もう少し様子を見て、子供が狩っても問題ないモンスターであるなら俺らが討伐したことを報告しよう」

「そうだな……お! 扉間! キノコ狩りの任務があるぞ! あれにしよう!」

「待て兄者。これは採取依頼ではなく、討伐依頼だ。第一、ムキムキノコなんか聞いたことが無かろう」

「キノコのようなモンスターを狩れば良いのだ。そう難しくはない」

「ダメだ。ここはフィールドワークを兼ねて“フツウノ薬草”の採取依頼を受ける」

「しかしだな、扉間よ。俺らはフツウノ薬草もよく分からないではないか」

「そこはゼルダに教えてもらえばよい。この薬草は他の薬草の採取クエストよりも低ランク、見分けやすいはずだ。クエストという制度に慣れるためにも初めは低ランククエストからこなすのが確実だ。それでいいな? 兄者」

「うぐ……まあ、良い。もしかしたら採取の途中でキノコも見つかるかもしれぬしな」

 

 戻って来た扉間たちが渡したクエストを見て、ゼルダは頷いた。

 

「うんうん、定番クエストだね。この薬草、子供なら親の手伝いで採ってきたことがあるから難しくないでしょ」

「いや、俺らはどんな薬草か知らない。姿形を教えてくれないか?」

「えっ?! とことん珍しい子たちね。いいわ、ちょうど納品されたばかりの薬草があるから。……………ほら、これがフツウノ薬草よ」

 

 ゼルダはわざわざ薬草を取って来て見せてくれた。

 

「フツウノ薬草は町の中で育てている人もいるけど、勝手に取っちゃダメよ。ボコボコにされるから。町を出て北の方向に30分ほど歩くと森があるから、そこで採ってくるのよ」

「北の方向……街道があったな」

「ええ。森までは町の人もよく行くから領主さまが道を作ってくれたの」

「ゼンマイによく似ておるな! これなら俺らも見分けがつきそうだ」

「ゼンマイ?」

「いや、俺らが勝手にそう名付けていただけだ。もしかしたらフツウノ薬草だったのかもな」

 

 首を傾げるゼルダに扉間はすかさず説明した。

 弟にギロリと睨まれた柱間はすまんすまん、と手で謝った。

 

「そうだ。初クエストを受ける前に言っておくわ。クエストに失敗したら違約金を3割払うことになるから気を付けてね」

 

 二人は頷き、クエストを開始するためギルドを出た。

そのまま町を出ようとしたら、待ち構えていた門番に絡まれた。

 

「おいガキども! ちゃんとこのナイスな俺様のことをアピールしてきたか?」

「お、おう……お主の言う通りのことは言っておいたぞ……」

「そうか! あのカワイ子ちゃん、俺のことなんか言ってたか? あ、もしかして俺のこと知ってたりして……!」

「…………」

 

 柱間は気の毒そうに門番を見、扉間に囁いた。

 

「あのおなご、門番の区別がついていなかったが……言った方が良いか?」

「知らん方が良いこともある。アイツが浮かれている間にさっさと行こう、兄者」

「うむ。……門番よ、俺らはこれからフツウノ薬草を採取して来る。だからここで失礼する」

「おう! フツウノ薬草ならこの道をまっすぐ進んだ先の森にあっからすぐに採って来れるぜ! 気を付けろよ! ナーッハッハッハッハッハ!」

 

 門番の機嫌が良いうちに兄弟は大急ぎで駆けた。

 

「あれ? あのガキども、走るの早くねーか?」

 

 瞬身の術も飛雷神の術も使っていないものの、忍の走りは門番も驚くほどの速さだった。

 

 

 

 

 

 柱間は走りながらニコニコしていた。

 

「他の忍の目が無い場所でこれほど自由に走るなんて初めてだなあ、扉間」

「そうだな。しかしこの国、俺らの里と似ている部分もあるが、それ以上に違う部分の方が多い。モンスターにギルド、王……兄者、もしかしたらここは俺らがいた世界とは別世界かもしれん。文化があまりにも違いすぎる」

「別世界か。俺らが子供の姿で生まれ変わった時点でそう驚くことでもないな。また六道仙人様に関わることだろうか」

「だとしたら今度は早めに説明してほしいものだな」

「もし六道仙人様が関わっているならマダラもこっちの世界に来ているのではないか?」

「それならなおさら早めに説明してほしいものだ」

 

 扉間は走りながら顔をしかめた。

 もうすでに二人の視界に森は入っている。

 

「あれか。美味いキノコがあればいいが」

「俺らが採取するのはフツウノ薬草だ」

「ゼンマイと似ているのだろ? ならどこに生えているのかは見当がつく。ほれ」

 

 森に入った柱間はさっそく見つけた。

 

「これなら採取には時間がかからなそうだな。扉間、何株必要だ?」

「10株だ。確かにすぐにこなせる任務だが、子供が受けるものとしては妥当な難易度だな」

「まさか下忍気分を死後に味わえるとは思わなんだ」

 

 あっという間に採取を終えた柱間は弟に言った。

 

「俺らのクエストは急ぎではない。扉間、ここらの地理を掴むために探索は必要だと思わんか?」

「兄者はキノコを探したいだけだろう。だが、一理ある」

 

 そうして兄弟はズンズンと森の奥へ足を進めた。

 残念ながらキノコは見つからなかったものの、二人は森に生えている植物や木の実などを把握することができた。

 

「フツウノ薬草は姿かたちこそゼンマイに似ているが、匂いが俺の知るゼンマイとは違う。それに、リンゴらしき木の実はリンゴの味がせんし、キノコはないし……なんとも奇怪な場所だ」

「土地が違う場所であっても何かしら同じ植物を一つは見つけられるはずだ。だというのにどれも見たことが無いということは、兄者の言う通りやはりここは異世界かもしれんな」

 

 兄弟は町へ戻る道を駆けていた。

 日が傾き、星が見え始めている。

 

「おい、扉間! 空を見よ!」

「……星の並びが違う。はぁ……これで異世界ということは確定か」

「ガッハッハ! まさか異世界でもお前と共になるとはな、扉間よ! こうなりゃ戦の無いこの世で冒険者として暮らそうではないか!」

「致し方あるまい」

 

 二度、穢土転生された記憶を持つ二人だ。

 異世界転生をしていると分かっても動揺はせず、悲壮感も高揚感もなく受け入れた。

 二人の冒険は新たに始まったばかりだ!

 



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