ただ当たるばかりが正解ではないのも、また世の常人の常。
滑って転んで屁をこいて、その日その日で呑気にどうにか行きましょうよ。
きっと無駄にはならないから。
三人よれば文殊の知恵、とは言うけれど船頭多くして船山に上るとも言う。船頭が多いくらいで山に上れる船も大概だとは思うけど、要するに寄り合って知恵を出しあっても良い結果になるとは限らないわけだ。
つまりは世の中ケースバイケース、その時々の都合なんだろう。諺ってそういうもんだ。
そしてその意味では私は、結構失敗したのかもしれない。ある意味では成功とも言えるんだけど。
せめてどっちか一人だけを頼っていたら、私は大喜とくっつくことができたかも知れなかったのかな。
まあ、それはそれで良いんだけどさ。起きたことは、もう変わらないんだから。
「いのた、何にも分かってない! ちーちゃんバスケ部の松岡ってのが好きなんだし、ひなっちにすれば良いのに!」
まるで自分の事みたいに怒ってくれるのは良いんだけど、菖蒲はどうも極端すぎる。私にだってプライドってもんがあるんだから、そんな妥協した感じでは来てほしくないな。滑り止め扱いは嫌だ、千夏先輩を好きなまま形だけこっち来られても困る。
あと千夏先輩がその人を好きだって言うのは、多分違う。
仲は良さそうだけど、どうにも雰囲気が噛み合ってないしそれに――。
「無いわよ、あのバカに靡くのは初見のバカ女だけ。顔と運動神経以外腐ってるよ、あの性欲モンスター。あれと同じクラスにいたら、半年で愛想も尽きるわ。幼馴染みとして言うけど、あれは無い」
自称「幼馴染みの親友」である
「あの猪股ってのがナツの好きな人なんでしょ、なら話は早い。二人が本格的に付き合い出してから、一気に奪い取ってやりなさい雛ちゃん。その方が深い傷になって良いわ」
……なんというか、スゴい性格が悪い。親友親友言う割に千夏先輩を目の敵にしているらしく、如何にして痛め付けるかばかり考えている。この人には大喜と先輩が同居しているとかは言えないな、何をやらかすか分かったもんじゃない。まあ菖蒲にだって言えないけどさ、さすがに。
菖蒲は私と大喜をくっつけようとしてくれてて、夢佳さんは千夏先輩から大喜を引きはなそうとしている。二人の利害は完全ではないけど一致していて、
すーぐ言い争いになるのはともかく、私に仲裁させようとするからなぁ。「いつまでも喧嘩したくないから早くどうにかしろ」ってオーラ全開、つまりは女子のめんどくさい部分を全力で出してくる。この松岡って人の事で揉めるのも、もう何回目だ。
やれやれ、今日も雛様が間に入ってやるか。まったく世話が焼けるんだから。
「そもそもさーぁ、ちーちゃんがいのたを好きってのが有り得ないよぉ。あんな可愛いだけの小動物……」
「むしろ、そこが理由でしょうよ。オトコっぽく無いし、扱いやすそうじゃない」
気が付けば二人の話は大喜の扱いへとシフトしているけど、そういうのは私にも刺さるから控えてほしい。理由は違えど、その扱いやすくて可愛い小動物が好きなんですよ私はさ。その辺をちゃんと考えてくれませんかね、お二方。
まあでも実際、千夏先輩が大喜を好きなのはもう確定だと思っている。だからこそ「告白しました」と突き付けたんだ、身を引いてほしいから。勿論大喜が先輩を好きなのは分かっている、現状では勝てる訳がない。あの二人に割り込める程、私は強くない。
でも人を好きになる喜びも楽しさも、そして痛みも苦しみも。大喜のお陰で、大喜のせいで、知ってしまった。
だからこそ私は諦めたくない、諦められない。
その為なら臆面も無く人を頼るし、泣いてすがって見せてやる。手段を選べる状態じゃないのは承知している、どうにかするしかないんだ。
でもなあ、うん。本当にこの二人をあてにしてて良いんだろうか。そうは考えど、一方で私は思ってしまっている。
――こういうの、楽しいな。部活でもなんでも勝った負けたばかりの生活が長いから忘れていたけど、私はそうじゃないのが好きだった。滑った転んだと笑いあって、毒にも薬にもならない停滞した呑気な日々が、意外と性に合っていたんだ。
なら、今はまだこれで良いや。このバカみたいな友達と三人で、バカやっていよう。
どうせ時期になれば、嫌でも状況は動くんだろうし。
さぁて――どうしようか、これから。