人里のある甘味処にて吸血鬼と人間の男が向かい合って座っていた。
男は茶と三色団子を三本頼み、吸血鬼は少し考える素振りをし、茶とみたらし団子を三本頼んだ。
待ち時間、吸血鬼は何か企み顔で男に話しかける。
「時に、ここの給仕はえらくドジで有名らしいわ。何も無いところで転んでは甘味を台無しにしてしまうらしいの。」
吸血鬼はある提案を持ちかける。
「ねえ、一つ賭けをしない?あの給仕が転ぶか転ばないか。賭けに負けた方は勝った方に自分の団子を一本あげるの。どうかしら?」
男は吸血鬼の妙に自信ありげな顔に権謀術数の類いを感じ取ったが「いいだろう」と賭けに乗ることにした。
吸血鬼はニヤニヤと笑いながら宣言した。
「じゃあ、私は転ぶ方に賭けるわ。アナタは転ばない方ね。」
しばらくして団子の甘い匂いがしてきた。見れば奥から件の給仕が男と吸血鬼が頼んだものであろう品を盆に載せて持ってこようとしている最中であった。
盆を持つ手は少し不器用に震えて危なっかしいものであったが、足取りの確かなのを見て半ばにて勝ちを確信し始めた男はしたり顔で吸血鬼の顔色を伺った。
だが男の期待とは裏腹に吸血鬼は余裕のある顔で、あまつさえ狐の様な笑みを浮かべていた。
ギョッとして男は給仕に向き直る。給仕の足取りは依然として変わらない。
男は、彼女はオレを不安がらせようとニタニタと笑みを浮かべているに違いない、と自分に言い聞かせ、だが不安な面持ちで事の成り行きを見守った。
給仕は慎重にゆっくりと歩を進ませこちらに近づいて来る。一歩また一歩、ほとんど摺り足ともとれる歩幅で確実に近づいて来る。
男はそれを見て、かかり始めた不安を払い再び勝ちを確信し始めた。
だが勝ちを確信した束の間、給仕は噂通り虚につまづき、豪快に転ぶと共に盆を投げ出したのであった。その上中空を舞った団子と茶は勢い良く男を目掛け飛んで行き、見事に男の衣装に命中したのだった。
思いがけぬ災いに降りかかられた男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で唖然とした。
吸血鬼はくつくつと笑いそれから耐え切れず高らかに声を上げて笑うのだった。
しばらくして品が再度確実に運ばれ、吸血鬼は男の皿から三色団子を一本ヒョイと取り上げ自分の皿に移した。
そして冗談混じりに「
男は「馬鹿言え」と少し悪態をつき、汚れ湿った衣装に不快感を表しながら茶を啜った。
吸血鬼は「運命は私に味方したようね」と言い、勝ち誇った顔で嬉しそうに三色団子を頬張った。
人里のある小間物店にて男は買い物をし吸血鬼はそれに付き添っていた。
男は日用品置き場で物色していた。気になった品を手に取って鑑定し眉を顰めては定位置に戻していた。吸血鬼は面白くなさそうに店内を歩き回り品から品へと目を移していた。
装身具置き場に差し掛かった時、吸血鬼はある髪飾りに目を光らせた。吸血鬼はそれを手に取り男の元へ向かった。
手に持った髪飾りを背の後ろに隠し、もう一方の手で目当てをつけたらしい顔の男の背を軽く叩き、話しかける。
「そういえば、この店では一定の金額まで購入した客は景品くじを引けるらしいわ。見たところ景品は一等二等三等の三つみたいね。」
吸血鬼はある提案を持ちかける。
「ねえ、一つ賭けをしない?あのくじ引きでアタリが出るかハズレが出るか。賭けに負けた方は勝った方の買い物まで払うの。」
「生憎アナタと私の買い物じゃくじを引ける金額には届かないわ。だからあの客の結果を予想するの。」
そう言って吸血鬼は店主のいる方を指差す。そこにはくじ引きの権利を得るには十分足り得る量の商品をまさに勘定せんとする客の姿があった。
男は甘味処での屈辱を思い出し、半ば躍起になって賭けに乗った。だが男も見え透いた勝率を逃すほど酔狂ではない。「ただしどちらに賭けるかはオレが最初に決める」と条件をつけた。吸血鬼は依然として余裕のある表情で条件を承諾した。
男は辺りを見渡す。店内は閑古鳥が鳴くほどガランとしてはいないが、お世辞にも客足が多いとは言えない様子である。ここの店主もそう当たりを引かれては商売あがったりだろう。そもそもよりも多く外れを入れているに違いないと男は予想する。念を押して勝ちを確信した男は吸血鬼に「オレはハズレを選ぶ」と言い放った。
だが吸血鬼の顔に浮かんだのはニタニタとした笑みであった。その先の自らの勝利を確信しているような笑みであった。
一瞬間男は甘味処の情景を思い出す。途端に男はあの時に重ねるように不安がり始めた。いや景品くじと言うのは必ず外れが当たりよりも多くあるから景品くじなのであって、だが何時ぞやのことを鑑みるとまさかまさか、と混濁する意識が男の頭の中を反芻していた。
そうこうしているうちに例の客はくじを引き始める。その客は念じるわけでもなく手短にくじを引いた。店主はくじの先を見ると他の客にも聞こえるような大きさで「お客さん三等さ、おめでとう。」と叫んだ。気持ち良く響く店主の声は男の右耳から入り錯落した思考を掻っ攫って左耳から出ていくと共に男には敗北を吸血鬼には勝利を宣言した。
吸血鬼は「運命に嫌われちゃったのかしら?」と男を挑発し、くすりと笑った。男は少し腹を立てながら目当ての品と手渡された髪飾りを手に渋々勘定に向かった。
店を出てその軒下で吸血鬼は平たく柔らかい山にフリル状の裾をもつ独特な帽子を脱ぎ、髪飾りをつける。
そして男の方を向き「どう?」と嬉しそうに笑みを浮かべて聞いた。
内心その姿に魅力を感じていたが、不貞腐れていた男は口を尖らせて「別に」と言い捨てた。
吸血鬼は態度とは真逆に赤面する男を見て、満足げにそして少し恥ずかしげに頬を赤らめながらくすくすと笑った。
吸血鬼の根城、紅魔館、そのテラスにて男と吸血鬼がテーブルを隔て向かい合って座っていた。
男は吸血鬼をそっちのけに黙々と読書に勤しんでいた。吸血鬼は頬杖をつき、静かに男を眺めていた。
完璧で瀟酒なメイドがティーセットを手に二人の元に歩いて来てそれぞれの手元にティーカップを置き、順々に紅茶を注いでいく。男は軽くお辞儀をし、吸血鬼はもう一方の手をひらひらと振る。メイドは一礼をすると去っていった。
吸血鬼は頬杖を外し、紅茶に口をつける。そして白髪混じりの男の髪をチラリと見て、神妙な面持ちで言った。
「ねえ、不死に興味はない?」
男は眉をピクリと動かし本を開いたまま机に伏せ、訝しげな顔で吸血鬼を見た。そして小首を傾げ、顎の無精髭を撫でながら少しの間考え耽り「ない」と答えた。
男は「急にどうした」と逆に問い質す。
「アナタが死んでしまうのが怖くなった、って言ったら笑うかしら。」
吸血鬼は依然とした面持ちで答えた。
いつもと違う感傷的な彼女の予期せぬ言葉に男は間の抜けた顔で呆然とし、困ったように頭を掻いて上を向いて考え込んだ。
「生き物なら生きて死ぬのが運命よ。飛び立った鳥は何処までも何処までも広く高く飛んでいくの。けどいつからか自分がもう飛べないことに気づいてそして最後には地面に落ちてしまうの。それが私には目に見えて怖いの。アナタのそれが見えて怖い。」
吸血鬼の話を聞きながら、男は腕を組んで上を向いたまま唸る。そしてしばらくして吸血鬼に向き直り「まあ、せいぜい今を楽しもう」とはにかんだ笑顔で言った。
それを聞いた途端吸血鬼は狐につままれたような素っ頓狂な顔をしたが、だんだんと顔が綻んで行き、終いには高らかに声を上げて笑いながら言った。
「いや、ごめんなさい。調子の狂ったアナタが可笑しくて可笑しくて。言葉を選んだのね。当たり障りが余りにもなくて」
けたけたと笑われた男は恥ずかしさに赤面し少し腹を立てたが、いつもの調子の彼女が見れたせいか嬉しさ半分苛立たしさ半分といった面持ちでいた。
咳払いをし調子を整えた吸血鬼は男にある提案を持ちかける。
「ねえ、一つ賭けをしない?そうね、今回は単純にじゃんけんにしましょう。一回勝負よ、それで運命が決まるの。今日一日負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くの、どう?」
男は要求の大きさに少々嫌な顔をしながら、仕方なく「はいはい」と勝負に応じた。結果は吸血鬼も男も分かっている。すっかり勝負は形骸化してしまっていたが二人とも嫌な気分ではなかった。
勝負に勝った吸血鬼は嬉しそうに微笑んで男に要求する。
「何を頼もうかしら。まずは本はもうお終いよ。今を楽しむのでしょう?私といっぱいお話ししましょう。」
ニコニコとした笑顔で本を取り上げられ男は露骨に嫌な顔をする。
「まだまだ今日という日は続くわ。これからされるお願いに心するように。」続け様にそう言って吸血鬼はくすくすと笑った。
「あ、あとそれと」と吸血鬼は付け足すように言う。
「アナタの運命が終わるその日までずっと私といっしょにいてね。」
男は一瞬目を丸くしたがすぐに少し恥ずかしげに「ああ」と答えた。
永遠亭、連なる病室、その一室にて男は病床に臥し、吸血鬼はその側でそれを見下ろし佇んでいた。
大きく傾いた月の光が病室に差し込み、微かに上下に揺れる蒲団を照らしている。
その鼓動の弱々しさが男の命がまさに消えんとしていることを吸血鬼に冷酷にまじまじと見せていた。
吸血鬼は臥した男の前に跪き、男の手を両の手で握り、祈るように言う。
「一つだけ賭けさせて。アナタは生きるの。生きて、私とずっと一緒にいて」
吸血鬼は賽を振る。今までそうしてきたように。最善の未来を掴むために。
吸血鬼は引き裂く。終点へ、死へと収束する運命の糸を縋る思いで掴み引き裂く。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。________待って。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。________止まって。
吸血鬼は賽を振る。運命は収束する。
吸血鬼は賽を振る。賽に亀裂が入る。運命は無慈悲に、それでも止まらない。
吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。やめて。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。奪わないで。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振る。吸血鬼は賽を振った。途端、
パリン。
賽をその亀裂を大きく
運命は静かに終点へと向かい、そして収束した。落ちた鳥が飛ぶことはもうない。
吸血鬼は男の手を強く握る。手にはまだ微かな温もりが残っていた。
温もりが溢れぬよう、男の手を自分の頬に添える。そして震える声でぽつりぽつりと呟く。
「____賭けは、私の負けね。」
呟きは赤らんだ空に掻き消されるように消えてゆき、吸血鬼の啜り泣く声がいつまでも静かに響いた。
レミリアの能力の解釈はどっかで見たか、誰かの受け売りです。
数多の確率論的未来が見えていて、自分の気に入った未来を決めてその未来が起こる確率で賽を振って引き当てて確定させるみたいな。