ずっと務めていた会社を突如クビになった私、佐藤 由梨花。あこがれて入った業種なのに志望理由が思い出せなかった。
思い出そうとしても蘇るのは辛い記憶。ただそんな中でも気にかけてくれる人はいた気が…
ある日、夢を見た。高校時代の記憶だ。その頃は私の声のことを聞きやすい声、素敵な声だとほめてくれる人もいた。そんな声をかけてくれた友達や先生がいることを思い出した私は、ある決意をする。
それは、“あの時の夢だった声を使う仕事をする!”ということ。そうして私がVTuberとして活動を開始するまでの物語―。
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あの日以来、私は全てを諦めた。高校を卒業してから4年間ずっとお世話になった会社を急にリストラされた日…。親友は昇進して県外の本社へ転勤。なのに私は…何をやってるんだろう…。そんな気持ちが私を支配した。
この会社に就職する時はあんなに熱意もあったはずなの、に……あ、れ…?何がやりたかったんだっけ…?夢があったはずなのにもう思い出すことが出来ない。あんなにみんなと語り合ってきたはずなのに…思い出せない。
思い出されるのはつらい記憶ばっかりだ。
【なんだ?その声…気持ち悪い】
【うわぁ…変な声。作ってんのかよ】
【社会人にもなって…あり得ないわ】
【どうやったらそんな気持ち悪い声出せるんだかw】
思い返せば、小中といじめられてばっかりだった。私のことを認めてくれる人もいたはずなんだけど…思い出せない…。
「私なんて、な~んにも良いところがないダメ人間だったんだな…」
自暴自棄になって、そんな考えばっかりが浮かんだ。その苦しさをお酒を飲んで紛らわす日々。お酒ばっかりを飲んでいたから、体調を崩すのは必然だった。
いつものようにコンビニで買ったそれを飲んでいた時、突然激しいめまいが襲ってきた。
「な、にこれ…こんなの…経験したことないんだけど…」
視界が回る。すべてのものが回る。まるで家そのものが回転しているかのように。だんだんと激しくなるそれと共に、経験したことがないような頭痛が襲ってきた。
「あ…ぅ…ぐぁ…あっ…」
何分経っただろうか。5分、いや10分…体感ではわからないくらいの時間が経過した後…突然視界が暗転した。
『…なさい!起きなさい!!由梨花!遅刻するわよ!!』
「…へぁ?!」
私を呼ぶ声に目を覚ますと…そこには母がいた。
「なんでお母さんがここに…?」
『なに寝ぼけてるのよ!ここはあなたの家でしょう?私がいるのは当たり前。そんなことより時間!!もう6時30分よ!学校に遅れるわよ!』
「が、っこう…?」
母は何を言ってるんだろうか、学校なんてもう4年も前に卒業したではないかと思いながら反論すると、怒られた。
『いつまで寝ぼけてるの!!!!あなたは高校二年生!学生よ!』
「…?はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?」
『わっ!何急にさけんd…「お母さん!今何年!!」
『え…?今年は2017年でしょ…?何言ってるの…?』
「…え?今年は2023年のはずじゃ…」
『あなたこそ何言ってるの。今日は2017年12月20日よ?終業式!あなた準備があるから早く起こしてって言ってたじゃない』
「あぁぁぁぁぁ!!!!!そうだった!」
この日は大寒波襲来であまりにも寒いからってことで教室で集会を聞く形になったんだ!その放送機材準備を頼まれてるの忘れてた…
「ち、遅刻する~!!!」
『あ、朝ごはんは!?』
「食べます!」
朝ごはんは大事。しっかりと食べるいい子です。
なんで急にタイムリープしたのか不思議に思いながら朝ごはんをかきこむ。
「ごちそうさまでした!いってきます!」
『いってらっしゃ~い!気を付けてね!』
「うん!!」
今日までお父さんは出張。お母さんが見送ってくれた。ギリギリ間に合った電車で学校へと向かう。
でも…ほんとに6年前だ…みんなマスクしてない…。
私のいた世界では、みんながマスクをしていた。違和感を覚えながらも電車を降りる。そこには…私の母校があった。改装直後の綺麗な状態のままで。
駆け足で2-Cの教室へと入る。―まだ無人だった。そりゃそうだ。まだ7時40分。朝練してる人しかいない。
人気がまだまだ少ない校舎を放送室へ向かって歩き出す。そこには…お世話になった顧問の先生がいた。
『あ、佐藤さん。おはよう』
「先生、おはようございます!」
『今日は朝早くからごめんね…。あなたしか詳しい人が居なくて…』
「大丈夫ですよ~!それじゃセッティングしますね!」
『えぇ、よろしくね。』
私は顧問の先生のことは信頼していた。よく話を聞いてくれたし…いじめの相談にも乗ってくれた。高校に入ってからは無くなったけど、小中時代はほんとにきつかった…。
でも鈴木先生は違った。
『そんなことが…でも私は佐藤さんの声、好きだよ?』
「そう…ですか?」
その頃の私はまだ人を信用できなかった。疑いながらも理由を聞いた。
『理由?それはね…あなたの声がスピーカーから流れた時のみんなの反応を見るとすぐわかるけれど…見えないものね』
「…?」
『少なくとも職員室の先生方はみんな静かにして、放送スピーカーへ耳を傾けているし、私のところに来てさっきの子の放送はすごく聞きやすかったって。いい声してるね。っていつも言ってくださってるよ?だから…ね、自分のことを卑下しないで。あなたの声はあなただけのもの。それも個性よ。大切にしてね』
「…はい…っ」
そう言ってもらえたことが嬉しくて…泣いてしまった。
「そうだった…私の声のことをほめてくれる人もいたんだ…。すっかり忘れてた。友達にも…良い声だねって言われて…それが嬉しくて…それを仕事にしたくて…」
それを思い出した瞬間…浮遊感に包まれた気がしたと思ったら、現実世界に引き戻された。
すると、すっかりめまいや頭痛も治まっていた。
「そっか…私の夢…。それは、“声を使ったお仕事がしたい”だった…!どうしてわすれていたの!?」
ただ…今から声優を目指すには無理があった…。そんな中とあるものが目についた。それは…
「VTuber…?」
バーチャルな世界で活動をする彼女らが楽しそうに視聴者さんと話しているのがテレビで流れていた。
「…そうか…配信者…!」
そこからは早かった。まずは情報収集。事務・経理担当として4年間勤務してきた私の情報収集力舐めるなよ~!!!
それで分かったのは、個人勢と呼ばれる無所属配信者と企業勢と呼ばれる事務所所属配信者がいるということ。わたしはまず無所属でやってみることにした。
え?私にそんな話せることあるのかって?私は生粋のアニオタなのだ~!好きな絵師さんがいるからその人に立ち絵と…Live2Dモデル…?も依頼することにした。たまたま一人ですべてやってる方だったからね!
それに専用のパソコンも買った。…良いお値段しますね…。音響機器もしっかりとそろえたけれど…貯金しててよかった…。
全ての準備が出来て、調整などをしていたらあれから半年…
いよいよ初配信の日になった。
「…緊張する…私、受け入れてもらえるかなぁ…」
画面の前にはバーチャル世界での私、リリィーが映っている。時間になった。
「み、皆さん聞こえますか…?こんにちは!新人VTuberのリリィーです!」
初めて言葉を発した瞬間…コメントがある一言で埋め尽くされた。
【声可愛い…!】
と。
「えぇ?私の声可愛いですか?」
と思わず聞くと、速攻で可愛いと返ってきた。う、嬉しい…
「みんな、ありがとう…そう言ってくれて…」
色んな事がその瞬間に思い浮かんで涙が出てきた…けれどそれは悲しさによるものじゃなくて…嬉しさによるものだった。
【大丈夫?ゆっくりでいいんだよ?】
とのコメントで埋まる。
「うん…大丈夫だよ…ありがとう」
ここは…なんて暖かい場所なんだろう…
鈴木先生ありがとう…。あの時の先生のおかげで今の私がいるよ
もし見てくれているなら、この言葉を伝えます。
「ありがとう~!!!」