「はー、わたしもウルトラマンになれたらなあ」
いきなり何を言っているんだろうか。
そんな怪訝なおれにかまうことなく、防衛チームの仲間:ミネ=アンナ隊員によるコーヒータイムのぼやきは続く。
「だいたいウルトラマンってなんで男しかいないの? ウルトラウーマンがいてもいいじゃない。差別よ、差別!」
いや、そんなこと言われても。そう思わないでもなかったが、下手に言い返しても面倒なだけなのでおれは適当にお茶を濁すことにした。
「まあ、地球に来てるのが『マン』なだけで、もしウルトラマンの故郷があったら女性のウルトラマンもいるんじゃないか。ウルトラの母とかウルトラマン妹とかウルトラの姉とかさ」
「ならなんで地球に来ないのよ?」
「いや、来たことあるだろ。ジャンヌちゃんとか、グリージョさんとか」
「ジャンヌ、グリージョ? 誰それ??」
おれの何気ない一言に、ミネ隊員は怪訝に首をかしげている。
……おっといけない、ジャンヌちゃんやグリージョさんが現れたのは別のバースの話だ。特にグリージョさんのようなO-50出身のウルトラマン情報はこのバースにおける『禁則事項』、ここの宇宙の地球人にはまだ開示してはいけないのだった。
「あ、なんでもない、勘違いだ。忘れてくれ」
「ふうん……?」
慌てて誤魔化すおれに、ミネ隊員は訝しげな目線を向けていたが、やがて話を戻した。
「ウルトラマン、たしかにありがたい存在だとは思うけど、同時にちょっとムカつくのよね」
ムカつく、どういうことだ?
おれの問いにミネ隊員は「だってさあ、」と答えた。
「わたしたちがいくら頑張ってもいつもギリギリで届かなくて、最後は必ずウルトラマンが持っていくじゃない」
今朝だってそうじゃん、とミネ隊員は今日の出動を振り返りながらぼやいていた。
今回の出動で戦った怪獣は巨大魚怪獣ムルチ。ミネ隊員たち防衛チームもかなり善戦したのだが、不意打ちを喰らったこともあってギリギリで危ないところをウルトラマンに助けられたのだった。
「それが悔しい、って話よ。だったら最初からウルトラマンが出てきてくれれば、わたしたちなんか要らないでしょうが」
そんなことないと思うぜ、とおれは即座に否定した。
「ウルトラマンだって万能の神じゃあない。ウルトラマンだって目の前のことで精一杯、そんな中でも助けてくれるミネ隊員たちにはきっと感謝してると思う」
励ますつもりの言葉だったのだが、ミネ隊員は胡乱に眉をしかめただけだった。
……えっと、どうかしたか?
「……あんた、どの目線でものを言ってんのよ。まるで自分自身がウルトラマンみたいじゃない」
おっと、やべ。日頃は男勝りのガムシャラな猪武者であるミネ隊員だが、野生の勘ってヤツなのか、ここぞというところでは妙に鋭いんだよな。
すかさずおれは話を逸らすことにした。
「それに我らがミネ=アンナ隊員といえば、おれたち防衛チームを引っ張るエースだろ。実力は歴代隊員と比べても第三位! 目指すは防衛チームの隊長職! 充分じゃないか?」
「……そんなの訓練学校の話だし、それに実技でわたしに負けたことがないあんたからそう言われても、全然嬉しくないんだけど??」
「あ……」
……ま、いいわ。
ミネ隊員はそう言って冷めたコーヒーをぐいと飲み干し、空いたカップをきちんとゴミ箱へ捨てたあと席を立った。
「わたし、今日このあとは非番だから。あとはよろしくね、ハヤト隊員」
ああ、任せとけ。
そうグータッチで答えながらおれは、休憩室を出てゆくミネ隊員を見送った。
……さて、と。
人目も無くなったところで、おれは頭の中で『恒星間テレパシーデバイス』を起動した。そろそろ〈光の国〉への定時連絡の時間だ。
連絡の相手は互いに気心の知れた『姉』ではあるのだが、同時に光の国の宇宙警備隊では目上の『先輩』にもあたる。ちょっと遅れたくらいでどうこうということもない仲である一方、こちらが待たせてしまうと後が面倒くさいのである。
……まあ向こうは平気でこっちを待たせたりするから、まったく気儘なもんだと思うが。
そうこうしているうちに先方との通話が開始。こちらからいつもの定時報告と所感を伝えると、通信相手はこんなことを言ってきた。
〈そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン〉
……なんスか、その勿体ぶった喋り方は。
おれからの冷ややかなツッコミに対し、通信の向こうから『先輩』が〈えぇー、だってさあー〉といたく不満げな様子で答える。
〈あんた、通信のたびにいつも地球、それも地球人の話ばかりじゃん。どんだけ地球人のこと好きなわけー? そんなに地球が良いのなら地球の子になっちゃいなさいっ〉
地球の話って……そりゃそーでしょ、地球にいるんだから。
〈たまには故郷に残したオネーサンのことを想うとか、そういう話はないの? オネーサン寂しいんだけどー?〉
ないッスね。あんた絡みの話は特に。
おれがそう答えると、『先輩』は〈およよよよよ……〉と涙ぐんだ。
〈そ、そんな、光の国に置いてきたこの『ウルトラの姉』のことはどーでもよくなったのねっ!? ひどいわっ、オネーサン泣いちゃうっっ!!〉
そんな人聞きの悪いことを言わないでください。だいたいもとから『そういう関係』とかじゃあないでしょうが。
そう答えた途端、『先輩』はウソ泣きを即座に止めてぶーたれていた。
〈ったく冷たいわねー、小さい頃はあんなに可愛かったのに……ま、それは置いといて〉
長い前置きッスね。なんですか。
おれが続きを促すと、『先輩』はとんでもないことを言い出した。
〈わたし、今度そっち行くことになったから〉
……は? そっちって、どっち??
唖然としているおれに、『先輩』は事も無げに言う。
〈『どっち』って、そりゃあ決まってんでしょ。地球よ、地球〉
な、なんでっ!?
〈なんでってそりゃあ……愛しい弟分の顔が見たいから? あ、エースさんと隊長たちの許可は取ってあるんでよろしくー〉
は、はァ!?
〈詳細はあとで連絡するから、じゃーねー♪〉
あ、ちょ、ちょっと待っ……ああ、切れちゃった。
ったく、あの人、本当勝手だよなあ。おれの方から粗略に扱われるとすぐ臍曲げるくせに、自分の方は遅刻もするし、自分の言いたいことだけ言ったらさっさと切るし……まあ、警備隊では昔から世話になってる『先輩』だし、自他ともに認めるとおり一緒に育った大事な『ウルトラの姉』でもあるのは確かなんだが。
それにしても、である。
「ベリーズ姉さん、
これからの心労を想像し、おれは思わず眉間を指先で揉んだ。
わたし、ミネ=アンナは地球防衛チームの隊員だ。
わたしが目指しているのは『防衛チームの隊長職』。これまで女性が務めた例は一人くらいしかいないらしいのだけれど、逆に言えば曲がりなりにも前例はあるのだからわたしにだってやって出来ないことも無いだろうと思う。
とはいえ、今日の午後からは非番だ。
今朝は怪獣ムルチと一発やり合ったあとで疲れも溜まっているし、非常時でもないなら休むのも立派な仕事だと相棒からもよく言われてるしね。
まずはシャワー、できればアロマでも焚きながらゆっくりお風呂に浸かりたいカナー? それからあとはどうしようかしら。録り貯めたテレビドラマの消化、オシャレして街でお買い物、服買って、お茶して、そしてちょっと贅沢して外食ってのも悪くない。うーん、どうしようかなあ!
……とまあ、こんなふうに色々とやりたいことは山ほどあるのだけれど、現実はほとんど計画倒れで終わる。実際のわたしの過ごし方と言えば、最低限メイクだけ落として着替えたらお風呂も無しにベッドへ突っ伏して爆睡、そして起きたら時間切れでシャワーと軽食だけ摂って次の出動、ってのが大半なのだ。アハハ、わたし、立派な干物女だあ!
「……はあ。何はしゃいでんだろ、わたし」
こんな感じで、いろいろと限界な独身防衛チーム女性隊員としてのブラックすぎる日常にひとり悲しくなりながら、自宅である寮への帰途を歩いていたときのこと。
懐の携帯端末から警報音が鳴った。
――怪獣っ!?
特徴的なアラートだから、わたしもすぐにピンときた。頻繁に怪獣が出現するようになったこの昨今、地震災害の警報と同じように、怪獣出現の警報も各個人の携帯端末へ発信されるようになっている。
耳障りな警報を響かせている携帯端末をすぐさま取り出し、わたしも警報の内容を確認する。警報はやはり予想どおり怪獣出現、その出現ポイントは……げっ、かなり近いわコレ。すぐそこの川の河口じゃん。
防衛チーム内で情報共有に使ってるポータルにログインしてみると、今回出現したのはまたしても巨大魚怪獣ムルチだった。今朝に倒した個体の同族か何かが、仲間の敵討ちにやってきたのかもしれない。
……さてどうしよう、このまま防衛チームの基地まで引き返すか? そんな考えが頭をよぎる。まだ基地を出て数分歩いたくらいだから、ここから走ればすぐさま戻れない距離でもない。怪獣対応は時間との勝負だ、人手は多いに越したことはない。
とはいえ、非番なのだから無理をすることも無いのでは、という考えもある。わたし一人がいなくても相棒をはじめ防衛チームの仲間たちはしっかり任務を果たしてくれると思うし、先のムルチは川のど真ん中からいきなり現れたので対応が遅れたのに対し今回は河口、まだ本格的な上陸前だ。上手く対処できれば、ウルトラマンに頼らずとも上陸前に追い返せるかもしれない。
――まあ、そんなこと言っても、当のわたしが落ち着かないんだけどねっ!
わたしはすぐさま携帯端末をコールし、防衛チーム内の相棒へと連絡を入れた。
「あーもしもし、ハヤト隊員? こっちは大丈夫だけど、すぐ基地に戻るわ。あとから合流するから先に対応お願いっ!」
「わかった、今回は近いからそっちも気を付けろよ!」
「りょーかい、そっちこそ無茶しないでよねっ。特にあんたは撃墜されてウルトラマンに助けられることが多いんだからっ!」
「ああ、了解!」
嗚呼、今日こそはシャワーに入れると思ったのに!と一抹の後悔を抱きながら通信を切り、基地へと踵を返したときである。
突然“輝き”が降りてきた。
……輝きが降りてきた、って一体どういう状況なのかと自分でも思うが、それは本当に“輝き”としか形容しようがない何かだった。
その“輝き”はまるで真夏の太陽のような眩さに包まれていて、それを直視させられたわたしは思わず目が眩んでしまう。
「な、なにこれっ……!?」
“輝き”は、戸惑うばかりのわたしをすっぽりと包み込んだ。
ミネ隊員からのコールを受けたあと、おれは怪獣撃退のためにすぐさま出動した。
今回の相手は今朝と同様、巨大魚怪獣ムルチ。ムルチは口から吐く破壊光線が少々厄介な怪獣ではあるが、今朝も戦ったばかりだから対応はあらかた把握できている。それに今回の出現ポイントは今朝と違って沖合だし、上手くやれれば
……しかし同種の怪獣が、同じ日に2回も現れるなんて。
たしかにムルチは地球の怪獣だから、同族の別個体がいる可能性自体は十二分に考えられる。けれど、同じ日に連続して現れるなんてのは偶然にしては出来過ぎだ。特にムルチは別バースで改造された個体:通称ゾアムルチがテロ行為に使われた事例もあるし、これはあとで調査が必要だろう。
……まあ、まずは目の前のムルチを撃退してからだが。甲高い雄叫びを挙げながら海岸へと迫るムルチに、おれは吼えた。
「さあ来い、ムルチ!」
ジェットファイターを駆るおれがムルチへ挑みかかろうとする、まさにそのときだった。
“輝き”とすれ違った。
「な、なんだ今の……!?」
正体不明の“輝き”は、おれのジェットファイターでも追いつけないほどの超スピードで海上のムルチへ突貫。“輝き”の突進を受けたムルチは、甲高い悲鳴を上げて引っ繰り返ってしまう。
……まさかベリーズ姉さん、もう到着したのか?
先ほどのベリーズ姉さんとのテレパシー通信を思い出したおれは当初、『仲間のウルトラ戦士がやってきたのか』とも思った。
けれど、その考えはすぐに否決される。目の前にいる“輝き”はウルトラ戦士じゃない、よく似てはいるが別物だ。
おれが状況を注視している中、“輝き”は海岸の方へと向かい、フラッシュと共に姿形を変えた。
降り立ったのは『銀色の巨人』。
その身長はおおよそ40メートル、変身したときのおれとほぼ同じくらい。人によってはウルトラマンの仲間のようにも見えるかもしれないけれど、当のウルトラ戦士であるおれにはわかる。目の前にいる『銀色の巨人』はウルトラ戦士じゃあない、よく似た別物だ。
やがて『銀色の巨人』は胸元で腕をクロスさせ、海のムルチへと向ける。
「何をする気だ……!?」
おれが訝しむ中、『銀色の巨人』の腕から強烈な閃光が迸った。『銀色の巨人』の閃光はビームとなり、真っ直ぐな光線となってムルチめがけて放たれる。
――あの『銀色の巨人』、光線を撃つ能力も持ってるのかっ!?
『銀色の巨人』が放った光線、その直撃を受けたムルチは断末魔の悲鳴と同時に仰向けに倒れ込んで爆裂。盛大な水しぶきを上げながら跡形もなく爆死してしまった。
……なんて奴だ、本物のウルトラマンが出るよりも先に怪獣を倒してしまうだなんて。
得体のしれない正体不明の『銀色の巨人』。そんな相手にどう対応するべきかおれが考えあぐねていると、『銀色の巨人』にさらなる変化が起こった。
再び閃くフラッシュ。『銀色の巨人』の背丈がみるみる縮んでゆき、やがて見覚えのある姿へと変わってゆく。
……おいおい、マジかよ。
「おーい、みんな~!」
そう声を上げながら海岸からこちらへ手を振っているのは、防衛チームのミネ=アンナ隊員。
先ほどムルチを倒した『銀色の巨人』の正体は他ならぬ、おれの仲間のミネ=アンナ隊員だったのだ。
『銀色の巨人』に変身したわたし:ミネ=アンナが、怪獣ムルチを倒してから数日が経った。
ムルチを倒した『銀色の巨人、もうひとりのウルトラマン』について、その正体がわたし:ミネ=アンナである事実はすぐさま世間へ公表した。本物のウルトラマンがどうなのかは知らないけれど、少なくともわたしには後ろ暗いところなんか何もないもの。
ちなみにその記者会見にて、『これまで現れていたウルトラマンも、正体はミネ=アンナ隊員だったのでは?』という指摘もあったのだけれど、これについてはきっぱりと否定しておいた。これについては他のチームメイトたちが証言してくれたし、これまでのウルトラマンの手柄までわたしが奪うわけにはいかないものね。
マスコミでの記者会見のあとも幾度か『銀色の巨人』として怪獣退治に出撃していたら、わたしはいつのまにかテレビ番組にまで呼ばれるようになってしまった。
「本日のゲストは今話題の『銀色の巨人、もうひとりのウルトラマン』、防衛チームのミネ=アンナ隊員でーす!」
「は、はいー、どうもー……」
今日出演したのはテレビのワイドショー。挨拶もそこそこに、ワイドショーのコメンテータたちがゲストであるわたしのことを話題にし始めた。
「しかしミネさんの場合、ウルトラマンと呼んでしまうのはどうなんでしょうねぇ。
「でもだからって、ウルトラウーマンというのも何だか安直では? 語感も悪いですし……」
「そうですねぇ、今後は別の名前を考えなくてはいけませんねぇ」
「ウルトラ、極度、無限、インフィニット……そうですねえ、『インフィニット・パーソン』なんてどうですか。女性ヒーローには無限の可能性がある、という意味も込めて。どうでしょう、ミネさん?」
え、ええ。まあ、そうですね。いいんじゃあないでしょうか?
テレビ出演に不慣れなわたしがいい加減な相槌を打つあいだにも、ワイドショーの番組進行は続いてゆく。
「とにもかくにも、我々地球人は今度こそウルトラマンに匹敵する力を手にしたわけですね!」
「いっそ、次の防衛チームのリーダーは、インフィニット・パーソンであるミネさんがお務めになるというのはどうなのでしょう?」
「そうそう、インフィニット・パーソンであるミネさんこそ文字通り最強の地球人なのですから、ミネさんこそ次の防衛チームの隊長に相応しいのでは?」
えっ。
思わぬ言葉でわたしが戸惑っている中、コメンテータの一人がこんなことを言った。
「ええ、そうですよ! ウルトラマンみたいな正体もはっきりしない外星人なんかより、ミネさんのようにきちんと身分を明かしている人の方がよほどヒーローですよねー!」
で、でも、ウルトラマンはそんな奴じゃ。
わたしはそう言い返したかったけれど、テレビカメラが向けられていることを意識するとどういうわけか言葉には出せなかった。そうこうしているうちにも、コメンテータたちの無責任な発言が続く。
「これは諸外国から『遅れている』と批判されがちな我が国の女性の社会進出にとっても、非常に重要なケースだと思いますね。これからはミネさんのような女性が引っ張ってゆく時代ですよ!」
「ゆくゆくは、インフィニット・パーソンであるミネさんが防衛チーム史上2人目の女性隊長職に、なんてのもいいでしょうね! そう思いませんか、ミネさん?」
……いいのかな、そんなの。
薄々そう思いつつ、わたしは「まあ、そうですね。あはは……」と愛想笑いを返しておいた。
その日、おれは『研究ラボ』へと足を運んだ。
おれの目当ては研究ラボに入り浸っている
あいつ、防衛チームの要のくせにかなりの偏屈で、人見知りが激しすぎて定例のミーティングにはほとんど顔出さないし、そのくせずっと放っておくとスネるし、結構面倒な奴なんだよな。まあ“彼女”の科学力と知恵には助けられることが多いのもまた事実だし、ちゃんと付き合ってみれば結構気の良いところもあるから言うほどイヤでもないんだが。
そんなこんなで、日頃のおれは基地の研究ラボで『御茶』をするのが日課になっている。それに今回はちゃんと防衛チームの捜査に絡んだ“用事”もある、つまりこれもまた立派な防衛チームの仕事なのだ。
その『御茶』において、研究ラボの
「ミネ=アンナ隊員、今日も休みかね?」
御茶菓子を啄みながらそうぼやく科学技術担当。その視線の先にはテレビがあり、さらにその画面にはワイドショーでゲストコメンテータとして出演しているミネ=アンナ隊員が映っている。
インフィニット・パーソンのことが世間を賑わせて以来、ミネ隊員はずっとインフィニット・パーソンのオピニオンリーダーとしてメディアに出ずっぱりになっていた。
そのこと自体は防衛チームでも『特例』ということで認められているのだが、一方でその忙しさのあまり防衛チームの仕事にはあまり顔を出せなくなってしまっている。
まあ、仕方ないだろ。おれは言う。
「防衛チームの仕事も大切だけど、ミネ隊員は今やインフィニット・パーソン、世間の女性たちのオピニオンリーダーだ。世のため人のため、世の中に役立つメッセージを打ち出してゆくのも立派な仕事だとおれは思うぜ」
そうやっておれは研究ラボの主を宥めるのだが、研究ラボの主こと防衛チームの科学技術担当〈シルフィア〉はなおも不機嫌そうにしていた。
「それで本分であるところの防衛チームの仕事が疎かになっていたら世話ないと思うがね。そういう余技は本業をきちんとこなしてからだろう。それとも地球の雌は、仕事をほっぽり出してテレビに出た方がいいとでもいうのかね、君は?」
別にそんなこと言ってないだろ。あと前々から思ってたけど、シルフィアって特にミネ隊員に随分あたりが強くないか? なんか喧嘩でもしてんの?
そう訊ねると、どこか拗ねたようにそっぽを向きながらシルフィアは答えた。
「さてな。どこぞの朴念仁のせいじゃあないか」
「朴念仁って……誰のことだそれは」
「さあ。自分で考えたまえよ」
淹れたての蜂蜜紅茶を啜りながら、「ま、それはともかくだ」とシルフィアは言った。
「だいたい、あれのことは気に喰わんのだ」
「気に喰わんって、まさかミネ隊員が……?」
「いや違う。日頃のミネ=アンナ隊員には敬意を払っているさ、最近のテレビ出演以外はな」
「じゃあインフィニット・パーソンのこと?」
「ああ、そうだ」
シルフィアが不満げに頷く。
「インフィニット・パーソンだと? それはもはや“自分はウルトラマンではない”と言っているのと同じではないか。なのに地球人たちときたら『ウルトラマンと同じ力を手にしている』などとうぬぼれている。まったく、くだらんね」
「なかなか手厳しいな……」
インフィニット・パーソンについて散々辛辣にこきおろしたあと、シルフィアの舌鋒の矛先はおれの方にまで向けられた。
「ハヤト、君こそ不愉快に思わないのか。
いや、別に?
「……ふん。光の国のウルトラ戦士、その風上にも置けん奴だな。プライドは無いのか、プライドは……ぶつぶつ……」
そりゃどーも。
ちなみに、シルフィアはおれの正体が光の国のウルトラマンであることを知っている。地球人相手ならまだしもシルフィアは地球外からの外星人、そんな彼女に秘密を隠し通すのは土台無理な話だったのだろう。
しかしその一方で、シルフィアはそんなおれの正体のことを周囲に黙っていてくれている。いわく、おれは『興味深い研究対象』であり『みすみす地球人風情に渡して毀損されてはたまらん』のだという。
「……しかし意外だな。インフィニット・パーソン、科学バカのシルフィアなら興味津々だと思ったのに。いつだったか『ウルトラマンの秘密が知りたい』とかなんとか言ってたじゃあないか」
そんなおれの感想に、シルフィアは首を左右に振った。
「光の国はともかく、インフィニット・パーソンに興味があったのは最初だけだ。あんなものタネが割れればなんのことはない、ただの“ベーターシステム”の転用にすぎんしな」
「ベーターシステム?」
耳慣れない単語で首をかしげるおれに、シルフィアは「おいおい」と呆れたようだった。
「光の国では科学の授業もろくにしないのか。ベーターシステムといえば、君たちウルトラ戦士が光の巨人になるための基本システムだろうに」
あーそうだった、光の国の研修でもやったな、とおれもようやく思い出す。
ベーターカプセル、ウルトラアイ、マックススパークにメビウスブレス。おれたちウルトラ戦士が変身するためのアイテムは色々あるが、しかしそれらの基本的な原理は実はどれも同じものなのだという。それらすべての変身アイテムの根底にあるのが、シルフィアの言うところの“ベーターシステム”だ。詳しい科学原理は忘れたけど、当たり前のように使ってるから忘れてたよ。
「ったく……ともかく君たち光の国のもののように携行可能なほどの小型化に成功したケースは少ないが、ベーターシステム自体は我々外星人にとってありふれた技術だ。地球人にとってはオーバーテクノロジーかもしれんがね」
ふーん、そうなのか……。
シルフィアの説明に納得したところで、おれはいくつか気がついたことを確認する。
「ということは今回の一件、裏には〈外星人〉が絡んでることになるわけだな? 今の地球にベーターシステムは無い、つまりインフィニット・パーソンを作った黒幕は外星人、だろ?」
先ほどから頻出している
……とまあ、そんなおれの使命はさておいて、『悪意ある外星人の仕業ではないか?』というおれの推理に対し、シルフィアは「そうだろうな」と首肯する。
「おそらくインフィニット・パーソンの正体は『地球人の雌にのみ使えるよう機能制限したベーターシステム』、ミネ=アンナ隊員が手にした変身アイテムはそのクライアント点火装置だろう」
クライアント点火装置、ってことはシステムの本体は別にあるってことか?
「そうだ。クライアント点火装置はあくまでただのクライアント、変身機能そのものを提供するシステム本体は別筐体のサーバとして集約管理するのが一般的なベーターシステムだからな。変身システムの本体、サーバボックスは黒幕の手元にあるはずだ」
なるほど……あと『地球人の雌にのみ使えるよう機能制限』とも言ったけど、逆に言えば地球人の女性だったら誰でも使えるってことになるんじゃあないか?
「うむ。クライアント点火装置にはミネ=アンナ隊員の身体情報がユーザとして登録されていることと、変身機能を地球人の雌にのみ限定開放していること以外、他に特殊な認証をしているような仕掛けは見当たらなかった。理論上、ユーザの登録情報を書き換えれば地球人の雌なら誰でも使えるだろうな」
女性しか使えない、いや女性なら誰でも使える変身システムか……なんでそんなことを?
「さあな。どこの誰が、何のためにそんなくだらんことをしてるのかは知らんが、どうせろくな目的じゃあるまいよ」
ふむ、とても参考になったよ。いつもありがとな。
……しかし、めずらしいな。
「なにが?」
小首を捻るシルフィアに、「いや、な、」とおれは答える。
「あんたが『やけに苛立ってる』ように見えたんでな。いつものシルフィアなら、研究以外のことなんて目もくれないじゃあないか」
日頃のシルフィアは本の虫ならぬ研究の虫で、余計な私情は挟まないことが多い。それにさきほども『気に入らない』『くだらん』『不愉快』とまで酷評していたが、普段のシルフィアならそんな感情めいた不満を露にすることもない。
おれからそのように評されて、シルフィアは「別に苛立ってはいないさ」と即答した。
「ただ、この地球は我々〈バルタン〉にとって新たな故郷でもあり、わたしという個体から見ても最良の研究対象だ。どこの誰だか知らん余所者に土足で踏み入れられれば警戒もする。当然の反応だと思うが?」
そう早口気味に言い切ったシルフィアの言い分に、おれは思わず笑みがこぼれてしまった。
……まったく素直じゃあないな、あんたも。
「なんだって?」
聞き返してきたシルフィアに、おれは答える。
「そういうのを“苛立ってる”っていうんだよ、シルフィア。周りのことを研究するのもいいが、自分自身の心のことも研究してみたらどうだ? とてつもない大発見があるかもしれないぜ」
「ふむ、なるほど……」
おれがそう言ったのはからかい半分のつもりだったのだが、その想定に反してシルフィアはやけに深く考え込んでしまった。
「人間社会へ溶け込もうと努力はしてきたつもりだが、その振る舞いが自身の精神にも影響を与えていたとは……たしかに興味深いテーマだ、次の研究用に考えておくよ」
……いや、ただの冗談だからな? あまり真に受けるなよ。
わたし:ミネ=アンナに対するメディアからの取材地獄も収まってきて、わたしがようやく防衛チームに復帰した頃。
久しぶりの出勤早々にそのニュースを聞かされたとき、わたしは思わず変な声を挙げてしまった。
「インフィニット・パーソンの強盗ォ!?」
『インフィニット・パーソンは地球人の女性だったら誰でも使えるシステムである』。
わたしが提出した変身アイテムの分析結果からそのように報告したのは、防衛チームの科学技術担当だった。外星人である彼女とわたしは性格的にはソリが合わず、顔を合わせればつまらない喧嘩も多いのだが、少なくとも彼女の仕事だけは絶対に信用できるとわたしは思っている。そして、全世界でわたし:ミネ=アンナだけがインフィニット・パーソンの力を手にしたわけではないだろうことも予想はついていた。
しかし、まさかその力を悪用する女性が出てくるなんて。
例の『強盗』は高速道路で突如インフィニット・パーソンに変身して現金輸送車を襲撃、現金を強奪したあと空を飛び、人間体へと戻って再び姿を晦ましてしまったらしい。警察もパトカーとヘリで追跡しようとしたが、インフィニット・パーソン強盗が放った光線技によりあっさり破壊されてしまったのだという。
……ああ、まったく、やっと本業の防衛チームに専念できると思った矢先にコレかよ。内心でそう悪態をつかずにいられない。
インフィニット・パーソンの戦闘力はウルトラマン並み、警察はもちろん防衛チームの戦力でさえどうにかなる相手ではない。いっそウルトラマン本人に来てもらうのが良いのかもしれないが、人間の強盗事件ぐらいのことで来てもらうわけにもいかない。
となると当然、防衛チーム所属のインフィニット・パーソンであるわたしが出動するしかない。非番のスケジュールもメディア出演も全部キャンセル、わたしは基地での常時待機を命じられることになってしまった。
「ミネ隊員、また街でインフィニット・パーソンのコンビニ強盗です!」
はいはいわかった、今行きます!!
そしてインフィニット・パーソン絡みの犯罪が起こればすぐさまわたしが出撃、インフィニット・パーソンに変身して取り押さえに向かう。
相手はインフィニット・パーソンとはいえ所詮は素人の犯罪者、防衛チームの隊員としてきちんと訓練を受けたわたしだったら難なく取り押さえられるレベルのものばかりなのは幸いだった。おかげで今のところは死傷者も出さず、すべての事件において無事に収めることが出来ている。
だが、それが24時間体制で延々と繰り返されれば、防衛チームの隊員であるわたしといえども流石にグロッキーにもなってしまう。むしろ毎日犯罪を犯す人間よりも、週一回程度の出撃でしかない怪獣や外星人相手の方がよほど楽かもしれない。
わたしの仮眠や休憩の時間は一応確保されているものの、
「うぁー、疲れたー……」
ひとヤマ片付けてからわたしが休憩室でぐったりしていると、防衛チームの科学技術担当:シルフィア=バルタニアが現れて「大変だな、ミネ=アンナ隊員」と声をかけてきた。
「ところで、念願のウルトラマンになれた気分はどうだ。ぜひ感想を聞いてみたいのだが」
なによう、じゃああんた代わればァ?
イラついた調子で返答するわたしだったが、シルフィアは「代わってやりたいのは山々だがね」と平然と答えるのだった。
「あいにくわたしは外星人だからな。地球人専用であるインフィニット・パーソンは使えん」
じゃあ、冷やかしにでも来たってわけ?
青筋を立てながらそう言い返すと、シルフィアは「いや、研究の一環だが?」と心底不思議そうに首を傾げる。
「わたし自身では使えないから、身近なユーザである君:ミネ=アンナ隊員の感想を聞いているのだが? それとも過労でそこまで論理的思考力が低下したのか? まあ君の場合、もともとそこまで使っていなかったとも思うが」
じゃあ感想言ったげるっ。
「ほう、どんな?」
最悪よっ、サ、イ、ア、クッ!!
「君らしい率直かつ単純な回答をありがとう、ミネ=アンナ隊員。参考にはならなそうだが」
ふんっ、つくづくイヤミな奴ねあんたはっ。
「しかし、たかだか機能制限されたベーターシステムごときでこのような事態になるとはな。地球人が稚拙で未熟なのは理解していたつもりだが、その愚劣さは我々バルタンの想像を遥かに超えていたようだ。実に興味深いよ、君たち地球人の在り様は」
あーそー、そりゃあよかったですねっ!
『別にわたしが
そうこうしているうちにまたしても通報が入る。
「ミネ隊員、またインフィニット・パーソンです!」
「えぇー、まだコーヒーも淹れてないのに!?」
「今度はカップル同士の痴話喧嘩だそうですっ! 二股をかけていた男性を、インフィニット・パーソンに変身した女性二人組が今にも踏み潰そうとしているとか……」
もう、そんな最低男、踏まれちゃえばいいんじゃあないかしらっ!?
うんざりするあまりにそんなぼやきを口にしてしまうのだが、通報を伝えてくれたオペレータの人からは「なんてこと言うんですかミネ隊員!」と怒られてしまった。
「そんなことを許したら法治国家ではなくなってしまいますっ!」
「あ、あー……そうですね、失言でした、今行きますっ!」
休憩所を出てゆくわたしへ、シルフィアが「いってらっしゃい、ミネ=アンナ隊員」と軽妙に声をかけて手を振っている。
あーもー! わたしは声を張り上げた。
「こんなときに、ハヤト隊員はどこに行ったのよお!」
その頃、おれは町へ捜査に出かけていた。
「キタガワ町xx丁目xx番……ここだな」
K県K市キタガワ町、首都圏からもほど近い工場地帯の町だ。大掛かりな工場が並び立ち、トラックの群れがところ狭しと頻繁に行き交う。そんな工場町の片隅にある、小さな古い木造アパートがおれの向かう目的地である。
錆びついたアパートの階段を上って、如何にも壁の薄そうな木製のドアに身を寄せて様子を窺おうとする。しかし、おれがドアノブに手をかけるより先に室内から声がかかった。
「入りたまえ」
そう言われるが早いかドアノブが独りでに回り、ガチャリとドアが開く。すぐさまおれが屋内へ身を滑り込ませた先、ちゃぶ台を囲んだ畳の小さな居間に“そいつ”は腰掛けていた。
「ようこそウルトラマン。我々はキミが来るのを待っていたのだ」
そいつは、悪酔いしたときの幻覚に出てきそうな、異様な姿をした外星人だった。シルエットはイカやヒトデのような軟体生物を思わせる一方、色は赤青黄のけばけばしいトリコロールをしていて、各部の発光器官がピコピコと明滅している。
幻覚宇宙人は言った。
「やあ、紹介が遅れたね、ウルトラマン。我々の名は〈メトロン〉、この星の支配者になる者さ」
支配者だと、ほざくじゃないか。
そんな自己紹介もそこそこに「しかし、よく辿り着いたな」とメトロンは感慨深げな声を漏らした。
「ベーターシステムはおろか、その前段階の旧式アルファーシステムにすら手が届いていない地球人の科学力ならここまで到達できやしないと思っていたのだが。どうやら、地球人のことを少しばかり見縊っていたようだ」
ふん、おれたち防衛チームをナメるなよ。外星人絡みならこっちにだって手はあるのさ。
そう言い返すとメトロンは「……なるほど」と呟いた。
「さてはバルタン辺りの入れ知恵だな? このバースの地球にはバルタンの協力者がいたはずだ、個体名はシルフィア=バルタニア。どうだ、図星だろう?」
……ちっ、そこまでバレてたのか。おれは内心で舌を打つ。
防衛チームの科学技術担当シルフィアによれば、ベーターシステムの仕組みは地球のコンピュータ通信と考え方が同じなのだという。連携しているクライアント点火装置が手元にあれば、そのルーティングを
だからシルフィアの持つバルタンの科学力を借りたのだ。流石にセキュリティもかかっていたようではあったが、シルフィアは「バルタンの科学力をナメるなよ」とあっさり解除してくれたのだった。
「メトロン、おまえたちの目的はなんだ。地球をこんな滅茶苦茶に引っ掻き回して何のつもりだ。地球侵略か?」
「夕陽だよ」
夕陽、だと?
おれの詰問にメトロンは飄々と答える。
「この星の夕陽は素晴らしい、デートスポットに最適だ、どうしても欲しい。だけど地球人ときたら手元の携帯端末にばかり気を取られてその美しさに気づきもしない愚か者ばかり、実に勿体無い。だからこの星は我々がもらうことにした。そして最高級のリゾート惑星、カップル向けの『恋人の聖地』に改造するのさ」
そんな理由で侵略だと、ふざけるな。憤慨するおれだったが、メトロンはのらりくらりと受け流すだけだった。
「どうだね、光の国とは同胞が幾度か敵対しているが、客として来るなら歓迎するよウルトラマン。なんなら、キミのハーレム要員も呼んだらどうだい。まぁ、まずは一杯」
そういって卓袱台に置かれた缶ジュース――缶には『
……バカにしやがって! おれは言った。
「おまえたちの計画は全て暴露された。おとなしく降伏しろ!」
「降伏?」
最後通牒のつもりの言葉。ところがメトロンは声を挙げて笑い始めた。
「降伏なんてとんでもない。ハッハッハッ、我々の実験は十分成功したのさ」
「実験?」
そうだ、とメトロンは頷いた。
「教えてやろう。我々は人類が互いにルールを守り、信頼しあって生きていることに目をつけたのだ。地球を壊滅させるのに暴力をふるう必要はない、人間同士の信頼感をなくせばよい。人間たちは互いに敵視し、傷つけあい、やがて自滅していく」
どこかで聞いたような話だ。しかし、今回のメトロンの話にはまだ続きがあった。
「地球侵略において『信頼関係の破壊』が鍵であることは、過去幾度かの実験で確認されていた。あとはそれを実現する実行可能なメソッドの確立だけ、だがそれもようやく目処が立った」
メソッド、目処、だと?
おれの言葉に、メトロンは「そうだ」と頷く。
「地球人はいつだってそうだ。魔女狩り、差別、ポリティカルコレクトネス。マクロだろうがミクロだろうが関係ない、地球人たちはいつだって『誰かを区別して攻撃してもよい理由』を探してばかりいる。身分制、格差、正社員と非正規社員、富裕層と貧困層、マジョリティとマイノリティ、リア充とオタク、信者とアンチ、メジャー作品とマイナー作品のファン、勝ち組と負け組、評価バーの色、そして雌雄男女の差……我々が利用できそうな『分断』などいくらでもある、そこに付け込めばいとも容易いこと。今回の作戦はそれを実証するための実験だったのだ」
そしてそれは実証された、とメトロン。
「インフィニット・パーソンによる男女の分断、ムルチはそのデモンストレーションだ。片方の性別にだけ極端なチート能力を与えれば、両者の信頼関係はバランスを失って一気に崩壊することになるだろう。そうして男女の絆が断たれてしまえば、いくら地球人と言えども降参するしかあるまい。どうだ、最高の侵略計画だろう?」
なんて悪辣な奴だ、人の心を玩びやがって!
おれはそうやって憤慨したのだが、メトロンは「おいおい」と肩を竦めた。
「キミの方こそ偉そうなことを言える立場なのかい、ウルトラマン」
どういうことだ?
「キミの正体は最初からわかっていた。だからその行動も全て監視させてもらっていた。ひとこと言わせてもらうなら『馬に蹴られて死ね』だね」
なんだと……?
怪訝にしているおれに、メトロンは思わぬことを言い出した。
「いくら鈍感で朴念仁だとしても限度がある。ましてやキミはウルトラマンだ、馬鹿ではない」
な、何の話だ。
おれがそう応じると、「誤魔化すなよ、ウルトラマン」とメトロンは言う。
「キミは、自分が複数の人物から特別な好意を向けられていることくらいわかっているはずだろう? ミネ=アンナ、シルフィア=バルタニア、その他周囲の人々。まさに両手に花、いわばハーレム状態という奴だな?」
そ、それは。
言い返そうとするおれだったがメトロンは「だけど」と畳み掛ける。
「だけど、キミはその状況をずっと見ないフリをしてきた。キミのそのような振る舞いこそ『心を玩ぶ』というものではないのか? 外星人としての倫理、わたしという個体の感性からみてもいささか『下劣』と言わざるを得ないな、ウルトラマン」
…………。
何も答えられないおれに、メトロンはなおも続ける。
「つまり『分断』は地球人の中だけじゃあない、我々にもある。我々外星人と地球人、侵略者であるわたしと守護者であるキミ、そしてウルトラマンであるキミと地球人たちだ。だからこそキミは誰も選べない、だろう?」
メトロンからのあまりに鋭い指摘に、もはや何も言い返せる言葉がない。
黙り込んでしまったおれに「とはいえ、だ」とメトロン。
「ここまで行き着いたのは褒めてやろう。我々の計画もウルトラマンであるキミにバレてしまえば、もはや続けようがない。
よっこいしょ、とメトロンはちゃぶ台から立ち上がり、隣室のふすまを開けた。途端、今までおれたちが居た和室はパーツが一気に組み変わり、外星人らしい異形の宇宙船秘密基地へと様変わりしてしまった。
「だが、その失敗は今回かぎりだ。今回の実験のおかげで『分断のメソッド』は確立できた。我々が怖いのはウルトラマン、キミだけだ。どうせ地球人は欲深で浅はかで愚かだから、今回の件だってしばらく時間をおいて手管を変えればまた簡単に引っ掛かってくれるだろう。あとはこの成果を母星へと持ち帰って、より完璧な『分断』のプランを練らせてもらうだけさ」
「そうはさせるかっ!」
すぐさまピストルを構えたおれに、メトロンは「ふふふ」と不敵に笑う。
「同じ外星人同士で傷つけあうのは愚かなことだが、我々にとってキミごときを倒すことは問題ではない。キミがそうくるならこちらも実力でもって排除させてもらうよ、ウルトラマン」
そして外星人メトロンは、手にしたベーターシステムの点火装置を起動する。
すぐさまおれも変身アイテムを起動し、ウルトラマンへと変身した。
ウルトラマンに変身したおれと巨大化した外星人メトロン、アパートを飛び出した両者が対峙したとき外は既に日が傾いていた。
西の彼方から差し込む赤い夕陽。真っ赤な夕焼け空と、それに照らされる工場群を背にしながらおれとメトロンは睨み合う。
「メトロン、おまえに勝ち目はない。痛い目を見る前に降参した方がいいぞ」
今回の敵、外星人メトロンはどう見ても知略を駆使するタイプで、戦いのような荒事はさほど得意ではなさそうに思える。こうして巨大化したのだって、きっと追い詰められた挙句に自棄になっただけのことだろう。
……できれば殺したくはない。
いくら相手が悪い外星人だとしても、むやみやたらに殺してしまえばよいというわけではない。『同じ外星人同士で傷つけあうのは愚かなこと』なんてのはメトロンの言い草だが、実のところおれだってそれは同じだ。ウルトラマンだって、たとえ相手が悪党でも出来れば命までは奪いたくないのだ。
けれど、そんなおれの降伏勧告をメトロンは軽く笑い飛ばすだけだった。
「ハッハッハッハッ……ウルトラマン、キミはやはり詰めが甘いな。我々が、何の考えもないただの自棄で巨大化するとでも思うのかね?」
なんだと……? そのとき、思いもよらぬことが起こった。
次の瞬間、眩いフラッシュと共にメトロンの傍らへ現れたのは、巨大な『銀色の巨人』。
「これは、インフィニット・パーソン……!?」
なんて奴だ。メトロンはインフィニット・パーソン、つまり地球人を盾にする気なのだ。
……ぬかった。たしかに予測して然るべき事態だった。『インフィニット・パーソンをウルトラマンと戦わせる』、ましてやメトロンは狡猾な外星人なのだから、そういった状況を想定した仕掛けをあらかじめ施していたとしても何らおかしくはない。
だが、事態はおれが思ったよりも最悪だった。メトロンは告げる。
「切り札は最後までとっておくものだよ、ウルトラマン。よく見てみたまえ、特にこのインフィニット・パーソンには見覚えがあるはずさ」
メトロンに指摘された直後、おれも気がついた。そんな、まさかっ……!
愕然とするおれを前に、「そうだとも!」とメトロンの勝ち誇る高笑いが響く。
「防衛チームのミネ=アンナ隊員、彼女のインフィニット・パーソンだ。もちろん“中の人”も実装済みだよ。さあどうするウルトラマン、いつも怪獣を倒すように光線技でも撃つかい?」
光線は……くそっ、駄目だ。ミネ隊員を傷つけてしまう! こういう場合、他のウルトラ戦士なら救える技術も持っているのだろうが、根っからの戦闘タイプであるおれにそういうスキルの持ち合わせは無い。
手を出しあぐねているおれを満足げに嘲笑いながら、外星人メトロンはミネ=アンナ隊員のインフィニット・パーソンへ命令した。
「さあインフィニット・パーソン、ウルトラマンを倒せ!」
……あ、あれ?
つい今しがた、わたしはインフィニット・パーソンの痴話喧嘩を片付けて、ようやく基地に帰ったばかりだったはずなのに。
わたし:ミネ=アンナが気がつくと、わたしはいつのまにかインフィニット・パーソンに変身していた。場所も夕焼けが照らすどこかの町へと移動していて、目の前には見知らぬ魚介風の外星人と、いつも見慣れたあのヒーローが立っている。
――う、ウルトラマン!?
思わず声を挙げそうになったが、出るはずの声は一切出なかった。喋るどころか、指一本すら思うとおりに動かせない。変身解除しようにも、解除が出来ないようだった。
――え、なにこれ、どういうこと!? いったいどうなっちゃってるの、わたし!?
状況がよくわからず戸惑うことしか出来ないわたしの脳内に、目の前にいる魚介風の外星人――あとで知ったが、こいつの名前は外星人メトロンというらしい――から命令が飛んでくる。
「さあインフィニット・パーソン、ウルトラマンを倒せ!」
……は? どういうこと??
わたしがその命令を理解するよりも先に、わたしの身体は勝手に動き始めた。街並みを踏み潰し、その隙間を逃げ惑う町の人たちなど構うことなくわたしの身体は駆けてゆく。
――ちょ、ちょっとちょっと!?
わたしが向かって行く先は悪の外星人メトロンではなく、我らがヒーロー、ウルトラマンの方だ。駆けると同時にわたしの身体は拳を固く握り、ウルトラマンへと殴り掛かろうとポーズを構える。
――まさか、そんな……っ!?
慌てて踏み止まろうとわたしは力を込めたつもりだったが、わたしの身体はわたし自身の言うことの一切を聞かないと決めているかのようだった。足はそのまま走り続け、腕は固く握った拳を思い切り振りかぶる。
――いやァ、やめてエッ!!
わたしの心は悲鳴を上げるが、そんなものは誰にも届かない。
そしてわたしのパンチが、ウルトラマンの顔面へと炸裂した。
この際だから正直に言ってしまおう。
わたし:ミネ=アンナは、ずっと密かにウルトラマンへ憧れていた。
あんまり認めると癪にも思うので決して表には出さないようにしているのだけれど、わたしから見てもウルトラマンは本当に凄い、まさにスーパーヒーローだ。どんな怪獣だってやっつけてくれるし、外星人の悪だくみだって一捻り。悪い奴らが引き起こしたどんなピンチも、ウルトラマンだったら立ちどころに解決してくれる。人間のわたしなんかじゃあ到底足元にも及ばない、神様同然の凄い奴なのだ。
しかしそんな凄いウルトラマンの隣で、単なる引き立て役に甘んじているだけの自分が嫌で嫌でたまらなかった。
わたしたち防衛チームがどんなに力を尽くしても怪獣や外星人たちはいつもその一歩上をゆくし、それを見た子供たちが憧れるのだっていつもウルトラマンの方で、わたしたち防衛チームなどではない。
無論『それが今の地球人の限界なのだ、自分は自分の出来ることをやるしかない』『ウルトラマンだって所詮は外星人、地球人であるわたしたちが頑張ることこそ本来の在るべき姿なのだ』と理性で理解している部分もあるのだけれど、やっぱり羨ましいものは羨ましいし心の中では納得しきれていない。だからこそ「はー、わたしもウルトラマンになれたらなあ!」なんて思っちゃったりもしたのである。
だがしかし、実際にインフィニット・パーソンというウルトラマン同然の力を手にしてみて、ようやく理解できたことがある。
わたしはウルトラマンになりたかったわけじゃない。
たしかに、インフィニット・パーソンはウルトラマンにも匹敵する凄い力だ。ウルトラマンのように空も飛べればパンチもキックも最強、腕からの必殺光線で怪獣さえも木端微塵に出来る。そしてウルトラマンのような凄い力はわたしも欲しい、誰だって欲しいだろう。
だけど、わたしの本当の望みはウルトラマンになることじゃあなかった。
そして現実にインフィニット・パーソンへ変身したわたしはといえば、わたし本人の意思に反してウルトラマンに猛攻撃を仕掛けていた。
「デュワッ!」
「シュワッ!」
「デヤアッ!!」
ウルトラマンの顔面には鋼の拳によるメガトンパンチを食らわし、腹部にはビルをも砕く強烈なメガトンキック、そして怯んだところへすかさず腕からの光線技をお見舞いする。それに対しウルトラマンは、操られているわたしを慮ってろくに反撃すらできず防戦一方になってしまっている。
そんな自身の戦いぶりを当事者目線で見せつけられながら、わたしは心の中で叫んだ。
――いやっ、やめてっ! おねがい、言うことを聞いてよお、わたしの身体!!
だけどいくら必死に念じてみても、現実のわたしの身体は指一本思うとおりに動かせなかった。変身解除ももちろんできないし、そんな自分の意思を表すことさえできない。何もかも傍らにいる悪の外星人メトロンから操られるがまま。
わたしは心の中で歯噛みすることしか出来なかった。
――……ちくしょう、こんなことがしたかったんじゃあないのに!
わたしは単にウルトラマンの力だけが欲しかったわけじゃあない、ウルトラマンみたいに『誰かを助けられる力』が欲しかった。もしも本当にウルトラマンのような素晴らしい力が手に入ったなら、わたしはその力で人助けがしたかったし、誰かの役に立ちたかった。そしてウルトラマンにも肩を並べられるような、素晴らしい存在でありたかったのだ。
だけどいくら凄い力を手にしたところで、肝心の目的を満たせなかったら意味がない。ましてやそれで大切な人たちを傷つけてしまうんじゃあ、まったく本末転倒もいいところじゃあないか。
……そんな簡単なことにさえ気づかないまま悪魔の企みに乗せられて、やらかして、挙句の果てに大切な仲間であるはずのウルトラマンをこんな大ピンチに陥らせてしまっている。わたしはなんて馬鹿で間抜けだったんだろう。
そして、そんな自分を情けなく思うと同時に真実を悟った。こんな馬鹿で間抜けなわたしが『ウルトラマンになれる資格』なんて最初からあるわけなかったんだよなあ、と。
そんなわたしの愚かさ加減を、心の底から思い知らされていた時だった。
〈ミネ=アンナ……心の目を開けなさい〉
……誰だろう。どこからか優しい“声”が聞こえてくる。心の目というのがなんだかよくわからないのだけれど、気がつくとわたしの心の中にかすかな“光”が差し込んでくるのが感じられた。
そして“声”はその“光”から聞こえてきているようだ。
〈『仲間を助けたい』というあなたの強い想いがなければ、わたしもあなたの心にコンタクトすることは出来なかった〉
……あるいは幻聴だろうか。仲間を助けたいという強い思い、だって? 現実では仲間を助けるどころかウルトラマンをボコボコに叩きのめしてるわたしが? そんなはずはない。だからこれはきっと幻聴だろう。追い詰められたわたしの心が都合の良い幻の声を作ってしまっているのかもしれない。
〈……あの、聞こえてる?〉
うん、幻聴だな。迂闊に返事してはダメな奴、きっとそう。
〈いつだったかゼットくんが『地球の言葉はウルトラ難しいから気をつけろ』って言ってたけど、わたしもしかして通じない言葉を話しちゃってんのかな……えーと、はろー? うぇい、にいはおー? もしもーし? おーい、地球人類ホモ・サピエンスのミネ=アンナさーん??〉
……聞こえてるわ。
わたしがようやく返事した途端、〈ったくもう!〉と“光”からキレられてしまった。
〈聞こえてんならさっさと返事しなさいよ、わたし、とんだ間抜けじゃんっ!〉
「あ、ごめん……」
そう謝ってみたものの、なおも“光”は不満げのようだった。
〈あーもー、調子狂うわねっ! ここからはタメ口でいかせてもらうからよろしくっ!〉
あ、はい、どうも……。
不満げに唸っている“光”に、わたしは恐る恐る訊ねた。
「あなたは何者? わたしのことを知ってるみたいだけれど……?」
わたしの質問に“光”は「あー、それもそうね。やっぱり自己紹介は必要だわ」と前置きしてから名乗りを上げた。
〈わたしは〈ベリーズ〉。あんたたち地球人がウルトラマンと呼んでいる存在、その仲間よ〉
ウルトラマンの仲間、そんなのいたんだ。
〈まぁね。わたしたち光の国で地球と言えば『特大の厄ネタ炎上案件』になりがちだし、うちのウルトラマンも結構ひとりで抱え込む癖があるから別件ついでに来てみたら案の定……って奴よ〉
そう、なんだ。
ベリーズと名乗る“光”の自己紹介を受けながら、同時にわたしは思い至ったことがあった。ちょっと聞いてみるか。
「……あ、あのっ、ベリーズさんっ」
〈なあに、ミネちゃん?〉
み、ミネちゃんって。これまた気安いな……。
出鼻を挫かれたわたしだが、ベリーズは気にも留めない。
〈あ、わたしの方は“さん”は要らないから、ベリーズって呼び捨てで良いよ~。そういう堅ッ苦しいの好きじゃないしー?〉
ずいぶんノリが軽いな……まあいいか。気を取り直してわたしは訊ねる。
「ベリーズってひょっとして、女?」
〈女? なんで??〉
わたしの質問に対し、怪訝に聞き返してくるベリーズ。わたしは続けた。
「喋り方がそれっぽいなって。実際どうなの?」
わたしの問いに、ベリーズは〈うーん……〉と少し考えてからこう答えた。
〈わたしたち光の国と地球人のそれはちょっと違うんだけど……言われてみればたしかにそうかもね。そう、わたしはあんたたち地球人の基準で言えば女性よ。ウルトラマンならぬウルトラウーマンってところかしら〉
女のウルトラマン、ウルトラウーマン。いつだったかチームメイトのハヤト隊員とそんな話をしたことがあったけれど、本当にいたんだなあ。
わたしが妙に感心している一方で、ベリーズはこんなことを言った。
〈しかし地球人って細かいこと気にすんのね~。男だろうが女だろうが、そんなの別にどうでもよくなーい?〉
「どうでもよくないわよっ!」
ついつい声を荒げてしまったのだが、ベリーズは〈そうかしら?〉と事も無げだ。
〈宇宙は広いわよ~、男女の区別が無い人たちなんて山ほどいる。地球の生き物にだって『両性具有』だったり『性別がない』ことなんて沢山あるじゃん。男女がどうの~なんて同種同士でネチネチいがみ合ってんの、あんたたち地球人くらいじゃないー?〉
「それはそう、なのかもしれないけど……」
でもわたしはやっぱり納得できない。ベリーズはウルトラマンだからいいのかもしれないけど、それにしてももっとデリケートに扱ってほしい。
〈デリケート、ねぇ……? ま、わかった。そういうことにしておきましょ〉
これまた随分軽く流すのねとこちらが思う間もなく、ベリーズはマイペースに話を続けた。
〈で、それはともかく肝心なことは『男か女か』じゃなくて『仲間かどうか』、そしてその『仲間のために何が出来るか』、そうでしょ? で、ミネちゃんもわたしも仲間が困ってる、そうじゃない??〉
……たしかに、そうかも。
納得したというか半ば強引に納得させられたわたしへ〈で、これはわたしからの提案なんだけどさー〉とベリーズはこんなことを言い出した。
〈わたしたち『手を組む』ってのはどうかなー、って〉
手を組む? どういうこと?
話をわかりかねているわたしにベリーズは説明をする。
〈ミネちゃん、あのメトロンとかいう外星人に利用されてて困ってんでしょ? で、わたしたち光の国には『現地の人と合体する』って裏ワザがあんの〉
が、合体!?
〈そう、合体。『一つになる』っていうのかな。普段はミネちゃんとして生活させてもらって、いざというときはわたし本来の姿に変身! 一つの命にあんたとわたしが同居するの。あ、ミネちゃんの記憶や人格がどうこうなることはないから安心してちょーだいね、わたし、プライバシーとかプライベートとか重んじるタイプだから〉
そ、そんな手段があるのか。あるいは、今地球にいるウルトラマンもそうやって地球にやってきて、普段はごく普通の人間として正体を隠しているのかも。
〈まあ、これはわたしたち光の国でもわりと『スレッスレ向こう側の裏ワザ』なんだけどね。当人の同意が絶対必要だし、事故ったときとか、他に手がない時くらいしかやっちゃいけない奴よ〉
『スレッスレ向こう側の裏ワザ』ってそれもう『ダメ』なのでは……?
〈まーまー、細かいことは気にしなーい♪ とにかくわたしとあんた、二人が合体すればあんたは自由になれる、わたしは仲間のウルトラマンを助けられる、お互いにWin-Win! どうかなー?って〉
このベリーズというウルトラウーマン、同性同士の気安さもあるのかもしれないが、それを差し引いてもウルトラマンの同胞にしては豪快というか大雑把というか、かなりマイペースな性格らしい。
実のところわたしは『もしもウルトラマンが喋ったら、それはさぞ凄い風格のある神秘的な喋り方をするに違いない!!』なーんてこっそり思っていたのだけれど、実物は案外そうでもないのかもしれない。
そんなわたしの勝手な心境を読み取られたのか、ベリーズからは〈なにそれ、アッハッハー〉と笑い飛ばされてしまった。
〈そんなの、チェレーザみたいなこじらせウルトラオタクの妄言よ~。一番最初のマンさんからして地球人と交通事故ったのが原因だからね。あのときの笑い方がキモいって評判なんだから〉
『チェレーザ』『マンさん』というのがどこのどなただか知らないけれど、なんかしれっととんでもないことを明かされた気が……。
〈どうすんの? 手を組むの? 組まないの?? 悩んでくれてもいいけど、あんまり時間ないからさっさと決めてよね~〉
たしかにそうだ、時間は無い。
ウルトラマンが戦える時間は決して長くない、いつもの戦いぶりから考えてみてもその活動限界は三分少々といったところだろう。このままウルトラマンが倒れてしまえば、それこそ外星人メトロンの良いようにされてしまう。選択の余地はない、こっちも決断するなら急がなくては。
……だけれども。
「……いいよね、あなたたちは」
〈……はい?〉
わたしの呟きにベリーズは怪訝な様子だった。わたしは続ける。
「だってあなたたちはウルトラマンだもんね。あなたたちは凄いから、こういう時でも悩まず迷わず、さっさと決断できるんでしょう? それこそが“正しい”んだってことくらい、わたしだってわかるよ」
けどね。わたしはつい思いの丈をぶちまけてしまった。
「だけどわたしたちは人間なの、弱いの! 男女がどうのなんてどうでもいいこと気にして悩んじゃうし、いざ決断を迫られたら迷ってしまうし、何より『これ以上間違えたらどうなるか』、想像するのも怖いの! そんな今すぐになんでもかんでも決められるわけないじゃんっ!!」
……ああ、嫌だなあ、こういう自分。だから防衛チームで頑張ってきたんだけど、やっぱり大元は全然変われていない。
そんなわたしの身勝手な弱音をベリーズは黙って聞いてくれていたけれど、やがてこう答えた。
〈……で、言いたいことはそれで終わり?〉
え、ええ。まあ……。
〈じゃあ言わせてもらうけど、一言で言うなら『は? ナメんなし?』って感じよね〉
……どういうこと?
わたしが怪訝に思っていると、ベリーズは口火を切った。
〈あのね、言っとくけどわたしたち光の国、あんたたち地球人が言うところのウルトラマンも万能の神じゃない。ウルトラマンだって悩みもするし迷いもする。時には間違いや失敗だってある〉
でもね、とベリーズは続ける。
〈そこでうじうじ立ち止まってたら先に進めないし、足元にいる人たちを守れないでしょーが〉
……!
〈それにミネちゃん、あんただって防衛チームの隊員なんでしょ? 後ろには守るべき人たちもいるし、隣には共に戦う仲間たちだっているんじゃあないの? そんなあんたがそんなこまっかいこと気にして『怖いヨォ~』なんて立ち止まっちゃったら、後ろにいる人たちや隣の仲間たちはどーしたらいいわけよ?〉
…………。
ベリーズの指摘に、わたしは何も言い返せなかった。たしかにそのとおりだと思ったから。
〈……で、どうすんの? 手を組むの、組まないの、どっち? ハッキリしない奴、わたし嫌いなんだよね~。ほら、合体したらしばらく一心同体になるわけだし、どーせなら気の合う人と一緒になりたいじゃない? それにこういうのはやっぱり当人のはっきりとした同意がないとさあ、あとあとわたしの責任問題にもなるしー?〉
あとあとの自分の責任問題を気にするウルトラ戦士。そんなの正直見たくはなかったけれど、そんなことを言っている場合ではないようだ。
ふと、思ったことをわたしは口にした。
「……なんだか悪魔の取引みたいね」
わたしの言葉に、ベリーズはふふっと噴き出した。
……ようにわたしには思えた。“光”がどんな表情をするのかはわからなかったけれど、たしかにわたしには“笑った”ように思えたのだ。
とにもかくにも、ベリーズは不敵に笑みながら言う。
〈『悪魔の取引』かあ。面白いこと言うわね~? そう思いたいならかまわないけど、わたしたち光の国相手に『悪魔の取引』なんて言ってのけたのはミネちゃん、あんたが史上初なんじゃない?〉
……ふふっ、そうなんだ。
「……わたしに上手く使えるかしら。メトロン風情から好いように利用されたわたしなんかに」
〈さあ? 決めるのはミネちゃんだし、その力を使うのもミネちゃんだからね。ただ、大事なのは『これまで』じゃあなくて『これから』じゃないかしらん?〉
「……選択の余地は、なさそうね」
〈まぁ、ないかもねー?〉
よし、それなら。
わたしは手を伸ばし、眼前の“光”を掴んだ。
繰り出される猛攻撃を懸命に躱しながら、おれは反撃のチャンスをうかがっていた。
ミネ隊員は守るべき地球人の一人だし大切な仲間だ、傷つけることはできない。けれど本当の黒幕は、そのすぐ後ろで彼女を操っている外星人メトロンだ。隙を見てメトロン本人を叩ければこちらにも勝機はある。
しかし、そんなおれを、ミネ隊員のインフィニット・パーソンが阻んでくる。おれがメトロンへ向かおうとすればその前へと立ちはだかり、光線を放とうとすればその身を盾にして庇おうとする。かといって退こうとすれば、今度は向こうからこちらへ攻撃を仕掛けてくるのである。
――くそっ、どうすれば……!?
しかも、今のおれには最適な作戦を思案する時間すら与えられていなかった。おれの胸に取り付けられている『カラータイマー』が警告音と共に明滅し始めた。途端、おれの胸に激しい動悸が走り、全身から力が抜けてゆく。
――しまった、エネルギー切れかっ!
おれたち光の国のウルトラ戦士には、地球上で活動できる時間に制限がある。個人差や消耗具合にもよるが、その時間はおおよそ3分間と極めて短い。
それを知らせるための装置が『カラータイマー』だ。おれたちの胸に埋め込まれたカラータイマーは、体内のエネルギーが少なくなると、警告音を発しながら赤く点滅し始める。そしてカラータイマーの光が消えた時、おれたちウルトラ戦士は立ち上がる力を失ってしまうのだ。
そんなおれを見ながら、メトロンが再び嘲笑う。
「言ったろう、『我々にとってキミごときを倒すことは問題ではない』と。キミたちウルトラ戦士を倒すために暴力を用いる必要はない、最初から時間切れを狙えば造作もないことだ」
メトロンの言うとおりだ。ヤツからすれば、おれのことを暴力で打ち倒す必要すらない。ただひたすら消耗させてタイムアップを狙えばいいだけだ。
「とはいえ、あとから復活されても厄介だ。ここで『再起不能』になってもらおうか、ウルトラマン」
メトロンがそう言うと同時、隣にいるインフィニット・パーソンが腕をクロスさせた。
あの構えは先日ムルチを爆殺した必殺光線、アレをおれに使う気だ。そしておれの方は消耗が激しすぎて、バリアーで身を守ることすら出来ない。
万事休す、そう思ったときだった。
「…………?」
一瞬の間があって、おれは、目の前のインフィニット・パーソンの動きが停まっていることに気づいた。
突如停止したミネ隊員のインフィニット・パーソン、途端に全身から光を放ち始める。
「な、なんだ……?」
急に慌てふためき始めたメトロンの様子からすると、どうやらこの状況については黒幕のメトロンさえもあずかり知らない事態であるらしい。
輝きが収まると、そこには驚くべき光景があった。
降り立ったのは『光の女巨人』。
身長はおよそ40メートル。背丈のほどはインフィニット・パーソンとさほど変わらないのだが、その輝きは単なる無機質な金属光沢でしかなかったインフィニット・パーソンとは異なり、今目の前にいる女巨人は体の中そのものから光を放っているようにも見える。
……この星の光は間違いない、本物のウルトラ戦士だ。そしてこのタイミングで現れるとしたら、それは『一人』しかいない。
おれが思い至ると同時に、女巨人がファイティングポーズを構える。
「ウルトラウーマン・ベリーズ!」
そう名乗りを上げる心の声は、おれもよく聞き慣れた防衛チームの大切な仲間:ミネ=アンナ隊員のものだ。インフィニット・パーソンに取り込まれていたはずのミネ=アンナ隊員、だがベリーズと合体を果たすことで晴れて自由の身となったのである。
「なんだと……!?」
他方、目論見を挫かれたメトロンは虚を突かれた様子だったが、持ち前の冷静な頭脳ですぐさま立ち返ったようだった。
「こ、こうなったら、世界中のインフィニット・パーソン全てを同時点火して……」
「あら、これをお探し?」
そうやって悪足搔きしようとするメトロンの前に、ベリーズはすかさず立ちはだかった。
ベリーズが開いた掌の中には、銀色の四角い装置があった。それを目にしたメトロンが「アッ!?」と声をあげる。
「そ、それはインフィニット・パーソンのサーバボックス!? 貴様、いつのまにっ!?」
「ウルトラ眼光にウルトラ念力、こんなスゴい超能力まで使えるなんて、ウルトラ戦士って必殺光線だけじゃあないのね~。やっぱスゴいわ、ウルトラマン」
ひとしきり感心したあと、ベリーズはインフィニット・パーソンのサーバボックスを両手で力一杯に握り締めた。
ベリーズの掌中でサーバボックスがめきめきと潰れてゆき、それを目の当たりにしたメトロンが「よ、よせ、やめろオッ!」と悲鳴をあげる。
だが、ベリーズは歯牙にもかけない。
「ふんぬっ!」
ぐしゃっ、ばきっ。
インフィニット・パーソンのサーバボックスは、まるで飲み終わりの缶ジュースをひねるように容易く捻り潰されてしまった。
「さて、と……」
粉々に砕け散ったインフィニット・パーソンのサーバボックス、その破片がついた両手をパンパンとはたいてからベリーズはメトロンへ振り返る。
「……あとは、あんただけね?」
「ま、待て!」
ギロリときらめくベリーズの鋭い眼光。その矛先を自身へと向けられて、いよいよ泡を喰ったらしいメトロンがベリーズに語り掛けた。
「ミネ=アンナ、次はもっとスゴい力を与えてやろう、インフィニット・パーソンよりもスゴい、まさに最強無敵のチート能力だ! 名付けてスーパーミラクルハイパーウルトラインフィニット・パーソン! どうだ、これなら……」
「じゃかあしいっ!」
小狡い甘言で見苦しく言い逃れしようとするメトロンだったが、ベリーズはそれを一喝で黙らせた。
「『スゴい力を与えてやろう』だって? わたしたち女をナメんじゃねーッ、おまえみたいな奴から与えてもらえるチート能力なんて謹んでお断りだっ!」
「ひ、ひいっ!?」
恐れ慄くメトロンに、ウルトラウーマンベリーズは全身に怒りを滾らせながら吼える。
「そしてわたしたち人間の絆に付け入って弄ぶ悪党め! このミネ=アンナ……もとい、ウルトラウーマンベリーズが成敗してくれるわァっ!!」
そう啖呵を切ったミネ隊員……もといウルトラウーマンベリーズは両腕を胸元でクロスしてエネルギーを高めた上で、一気に上下へと広げた。
……あの構えは、まさか。おれが思わず身構える中、ベリーズがその技名を叫んだ。
「エースさん直伝、バーチカルギロチンッ!!」
ベリーズの腕から放たれたのは、縦向きの鋭い光の斬撃。それを真正面から受けてしまったメトロンはまさに顔面真っ二つで左右に両断、無論即死だ。今のお茶の間だったら到底流せない、凄まじい残酷スプラッターシーンである。
しかもバーチカルギロチンに籠められた怒りのエネルギーはメトロンを切り裂くだけでは留まらなかったのか、メトロンの体内エネルギーと反応して誘爆、メトロンの残骸を跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ばしてしまった。
とにもかくにも爆発が収まったあと、ウルトラウーマンベリーズはファイティングポーズを決めながら鼻息荒く一息。
「……ふんっ!」
こ、こわーっ! やっぱり女を怒らせると怖いわ。
……それにしても、地球人の『分断』を煽ろうと目論んだ外星人メトロン。その当人が、利用しようとした地球人女性本人によって左右に『分断』されるとは、なんとも皮肉の利いた末路だとおれは思う。
その後の話だが。
防衛チームのおれからの捜査報告によって、インフィニット・パーソンが『危険な外星人の地球侵略計画』である事実が明らかとなった。外星人メトロンによって各地にバラまかれたインフィニット・パーソンの変身アイテム、もといクライアント点火装置は官民共同の大規模ローラー作戦によってすべて回収されつつある。
もっとも防衛チームの科学技術担当であるシルフィアによれば、クライアント点火装置だけがあったところで、変身システムの大元であるサーバボックスが破壊された以上はもはや何の役にも立たないらしいのだけれど。
そして我らがミネ=アンナ隊員も、責任を追及されて処分を受けるところとなった。
「でも、謹慎処分とは大変だなあ。別に悪気があってやってたことじゃあるまいし……」
かつては女性たちのオピニオンリーダーなんて祭り上げられていたミネ隊員だったが、それが外星人の策略だった真相が明らかになってからは、マスコミも女性たちも手のひらを返して一斉にバッシングを始めた。
そんな一連の不祥事の落としどころとして当事者のミネ隊員に科せられたのは、一ヵ月の謹慎処分。防衛チームの隊長を目指しているという彼女のキャリアにとっても、決して軽くない傷がついてしまった。多少のことなら気丈に振舞えるのがミネ隊員の強いところだと思うけれど、流石に今回は堪えたんじゃなかろうか。
あんまり気になったので、おれも非番の合間を縫いながら、謹慎中のミネ隊員のところへと顔を見せたのだが。
「まあ、仕方ないわよ」
気遣うおれに、ミネ隊員はさらりとそう答えたのだった。
「知らないこととはいえ、外星人の作戦に乗せられたのは事実だしね。むしろクビにならなかっただけありがたいと思って、謹慎の一つや二つは甘んじて受けるつもり」
正直なところおれは『ミネ隊員が凹んで塞ぎ込んでいるんじゃあないか?』と心配していたのだが、実際に再会したミネ隊員当人の表情はその予想に反して涼しげだった。むしろどこかさっぱりとした様子である。
「それに、今回の件ではほとほと思い知らされたわ~」
なにを?
「いやあ、ウルトラマンって大変なんだなあって。普段はどこの誰に化けて隠れてるのかは知らないけど、自分でも経験してみると『正体の一つや二つ隠すくらいは大目に見てあげよう!』って気にもなるもの」
ふーん、そうか。
「……なんであんたが嬉しそうなのよ?」
いやあ、べつに?
ところで、とおれは話題を変えた。
「ところでミネ隊員、あの“光の女巨人”に変身していたときのことはどうなんだ? 報告では『意識を失っていた』って書いてあったけど」
「! あ、あぁー……」
そのことを聞いた刹那、ミネ隊員の目線が一瞬泳いだ。
「ウルトラウーマンベリーズのこと? 善い人なんじゃない? たぶん? わたしのこと助けてくれたわけだし? あんまり覚えてないけど、覚えてないけどっ!」
「あんまり覚えてない割には、名前はしっかり聞いてんのな」
「え、あっ、な、なにしろウルトラマンの仲間だしね! スゴく礼儀正しいのよ、きっと!!」
……そうか。まあいいや。
これ以上追及するのもいじらしくなってきたので、おれは話題を変えた。
「ま、何はともあれ、復帰後はバリバリ働いてもらうからよろしく頼むぞ、ミネ隊員!」
「りょーかいっ。そんときはよろしく頼むわねっ、ハヤト隊員!」
軽快なハンドサインとグータッチで応えてくれるミネ隊員。彼女のその笑顔は、とても晴れやかなものだった。
……とまあ、ミネ=アンナ隊員とはこんな塩梅だったのだが、ミネ隊員と会話する一方でおれは“もう一人”とテレパシーでの舌戦を繰り広げていた。
……なんでまだ地球にいるんスか。とっとと帰ってくださいよ。
〈いやー、それがさー、まだ用事終わってないんだよね〉
どんな用事ですか。あの正直者で嘘を吐けないミネ隊員が、下手な嘘で“あんた”のこと隠し通そうとしてるのが痛々しくて見てらんないんスよ、本当に。あんまりふざけてると、おれの方から光の国にチクりますよ?
〈へ~、そんなにミネちゃんを心配するとは、あんた、ああいう子が好みなのね。覚えとくわ〉
そんなんじゃねェーからっ!
〈まーまー。ミネちゃんも一生懸命に誤魔化してるから、フォローしてあげて。それに、今回はあんたも助かったんだし、そっちこそちょっとは大目に見るべきだとオネーサンは思うなあ~?〉
……ったくもう。光の国にバレたら大目玉ですよコレ。
先ほどからおれがテレパシーでやりあっている相手は他ならぬ、光の国から来た『ウルトラの姉』ことベリーズである。
たしかに『地球に来る』とは言っていたがこんなに早く、しかもよりにもよって防衛チームのチームメイトであるミネ=アンナ隊員と合体した挙句に居着いてしまうなんて。
苦言半分呆れ半分のおれの文句に、ベリーズはあっけらかんと答えた。
〈大丈夫よ~、ウルトラ戦士にこの手の“事故”は付き物、御約束みたいなもんだし?〉
そんな“事故”が御約束であってたまるかっ。
〈あ、そうそう、あんたの正体については秘密にしといてあげるから安心して。ミネちゃん善い子だからあんまりガッカリさせたくないし、なによりその方が面白そうだしねえ?〉
面白そうって、あんたねえ……。
相変わらずの気儘さに呆れてしまうおれだが、当のベリーズはまるで気にも留めずにクックックッとあくどい笑いを噛み殺している。
〈ちょっと地球にも用があるし、しばらくこんな感じで居させてもらうわ。前々から地球には来てみたかったし、色々と面白そうなネタもありそうだしね~?〉
……哀れ、ミネ=アンナ隊員。極悪非道の傍若無人なウルトラの姉に合体されてしまっては、プライバシーもプライベートもへったくれもない。ミネ隊員もきっと幼少期のおれと同じようにベリーズから弱味を握られた挙句、散々振り回されて玩具にされるに違いないのである。
〈……あんた、今ものすごく失礼なこと考えてたでしょ? あんたの正体、ミネちゃんにバラすわよ?〉
いーやまさかっ、滅相もございませんっ!
慌てて誤魔化すおれにベリーズは怪訝な様子だが、すぐさま「ま、いいわ」と気を取り直す。
〈今後ともよろしくね、ウルトラマン〉
ああ、よろしく、ウルトラウーマンベリーズ。
……嗚呼、懸念事項っていうか厄介事が増えたなあ。ミネ=アンナ隊員、ベリーズ、そして自分自身の今後を憂いながらおれは心の中で溜息をついた。
インフィニット・パーソンを用いた外星人メトロンの地球侵略計画はこうして終わったのです。男女間の信頼感を利用するとは恐るべき侵略者です。でもご安心下さい、このお話は遠い遠い未来の物語なのです。
……え? 何故ですって?
だって我々人類の男女は今、外星人に付け込まれるほどお互いを信頼してはいませんからね。
某インフィニットでストラトスなハイスピード学園バトルラブコメについて、某Discordで知人の作者たちと話していて思いついたことを基に書きました。今年もこんな感じです。よろしくお願いします。
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