「おはようオルフェ。」
「おはようモルフォ。えっと、モルフォも走り込み?」
「うん。私はエリザベス女王杯に出るからね。秋華賞を勝ったからって気は抜けないよ。」
いつもの早朝のランニング。
トレセンの生徒はあまり使わないコースだけどオルフェは珍しく走っていた。
クラシック三冠ウマ娘になってメディアへの期待も大きい彼女はプレッシャーを感じてるみたいだった。
フォームは固いし……大方このランニングも気を紛らわしてリラックスするためのものだろう。
「もしもね、エリザベス女王杯の後状態が良かったら有馬記念に出走する予定なの」
まだ公式には発表されてないが、トレーナーさんたちと話して決めたことをこっそり話すと明らかに驚き、嬉しそうな顔をする。
「ホントっスか!?」
「うん。私もね、オルフェと再戦してどっちが強いか決めたいって気持ちは同じなんだよ」
正直、自信はあまりない。
オルフェはまだまだ成長するし今の実力も計り知れない。
対して自分は貴重なクラシックシーズンをリハビリに費やしていた。
つまりは少しでもいい状態にするように努力していたということで、根本的なスピードやスタミナの成長性はオルフェには届かない。
それでも私には、絶対にオルフェに負けるわけにはいかないのだ。
それは私が今後三冠ウマ娘オルフェーヴルのライバルとして走っていくために必要なことで、周囲に納得させるための戦いでもある。
だからこそ、きっと、今回のエリザベス女王杯は……
「私にとって、大事な一戦になると思うんだ」
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「モルフォ、」
「ハーツ先輩……もしかして」
「あぁ、"彼女"が来た」
放課後、水泳でスタミナを鍛えていると、普段より厳しい顔をしたハーツ先輩がやって来た。
先輩がスマホをこちらに向けると、やはり思った通りの記事が書かれてあった。
『雪の妖精スノーフェアリー、エリザベス女王杯連覇へ!日本に到着!』
にこやかに空港でファンに応対する白い薄手コートのウマ娘がそこにはいた。
前年エリザベス女王杯覇者、スノーフェアリー。
京都の内をとてつもない末脚で駆け上がり、二着に四馬身もの差をつけて圧勝し、海外ウマ娘の貫禄を見せた。
そのパフォーマンスは日本を震撼させ、「今までのエリザベス女王杯で一番素晴らしいレース」と豪語するウマ娘ファンも少なくはない。
今年の凱旋門賞は三着だったが、日本で圧倒的な走りをしたスノーフェアリーですら三着になる凱旋門賞はどれだけレベルが高いのかと思うと目眩がしそうだ。
彼女が、今回のレースで一番私の障害となるウマ娘だと思っている。
抜群の末脚、競り合いにも負けない根性、レースセンス。
全てが超が何個もつくほどの一流であり彼女を越えられなければ私は先には進めないだろう。
……と思ってるけど、明確に彼女への対抗策が見つからないのも事実ではある。
京都2200メートルが特殊なのもあるけれど、これといった欠点が非常に少ないウマ娘だからだ。
「はぁ……」
王道の逃げウマたる自分が、彼女の追撃を凌げるか……早くも不安になるのだった。