おはようございます!!挨拶は大事。
起きてまず思う、体が軽い。そして気が付く、初めての経験。俺って実はベッドで寝たことなかったんだよね。
村では藁敷いてて、王都は金が無いから路地裏の硬い地面。発展してるってのは罪だね。土なら柔らかくできたのに。旅の道中お世話になりました。ありがとう土。ちなみに雨の日は木の上で寝てた。仲間?俺は先に寝てたから知らないよ。
で、ちゃんとベッドで寝るとどうなるか。それ即ち体力の全回復。要はこれまで出せなかった全力が出せるようになります。つまりレヴィアタン様のお役に立てるってことだ!やったね!
適当に体を動かして調子を確認。体感だと昨日までの体力は3割程度ってところかな。単純に考えれば今の俺は3倍以上の力が出せる訳で、もし旅に出る前に王城で1泊してたら1週間でここまで来てたかもしれない。魔王を1日1殺ってマ?
まぁ存在しない可能性の話はどうでも良くて、考えるべきは今から何をすれば良いか、要は指示待ち人間の俺には魔王様の御言葉が必要なのだ。そして魔王様が何処にいるか分からないのが一番の問題。
じゃあ探しに行こう!ってのは出来ない。勝手に城内彷徨いてたら残党と戦いになるかもしれないからね。今はもう同僚な訳だし、殺すのはちょっとね。レヴィアタン様がやれって言ったらやるけど。洗脳で仲間になったよ!っていうのを、レヴィアタン様から周知して頂かないと出歩けない。そもそも洗脳されてるなら、自由に出歩くのは不自然か…?勇者は訝しんだ。
という訳で、レヴィアタン様が来るまで初めてのベッドを堪能することにした。サボりではない。歴代の勇者達の記憶で知識はあったけど、実際に体験すると印象が変わるというか、今まで寝心地が良くなかったこともあって起き上がれない。決してサボりではない。ベッド気持ちいいなぁ……
「勇者よ、起きているか?」
「はい」
レヴィアタン様の声が聞こえた瞬間に起き上がり、言い終えるまでに魔王様に選んで頂いた服に着替え、自然な間で返事をして扉を開く。そこには女神様がご降臨なさっていた。
「おはようございます。レヴィアタン様」
「……うむ」
早朝から女神様のご尊顔を拝謁賜れるとは……丁寧な言葉難しいな。やめよう。ついでに女神とかいう格下の存在でレヴィアタン様を喩えるのもやめよう。あんなの邪教だよ、邪教。
「私にとって、貴様は何であると思う?」
なんだろうこの質問。俺にとってのレヴィアタン様なら永遠に語れるんだけど、俺ってどう思われてんのかな。勇者、臣下、仇、部下、人間、道具……分かんないや。
一応洗脳されてることになってるはずだから、仲間意識みたいなのは無いのかな。勇者って呼んではいるけど、別に敵として殺す訳もでもなく服や部屋を与えてる。魔王軍には入れてそうだよなぁ……
やっぱ道具かな。他の魔王殺してるし、流石にそこそこ強い自覚はある。仲間を殺された恨みは当然あるだろうから、使い過ぎて壊れたらむしろ嬉しいはず。壊れるまで便利に使える道具、なんか良い感じな気がする。この間わずか0.2~0.3秒。
「魔王様の剣、あるいは人類への反戦の一番槍。翻した反旗の旗印でしょうか」
あらやだ、レヴィアタン様ってばジャンヌダルク。ジャンヌダルクって聖女なんだっけ?元仲間の自称聖女なんかより余程聖女然としてるよ、レヴィアタン様は。
「……そうか。今日は配下達に勇者パーティを撃退したこと、新人が入ったことを伝え、人類に攻め込む決起会とする。その際、貴様の分身体を死体として配下に見せる。本物の仲間の死体と共にだ。分身体に着せる元の装備を持ち、仮面を付けて着いてこい」
「承知しました」
あ、答えとかは無いんだ。どう思われてるのか知りたくはあったんだけど。まいっか。
レヴィアタン様の吐いた息を吸うために仮面付けなかったけど、これからはずっと仮面付けてないとなのかな。レヴィアタン様の命令だから全然良いんだけどね!
ということでやってまいりました決起集会。まだこんなにいたんだってぐらい多くの魔物達が集まっている。全部殺そうとしたら瞬きくらいの時間はかかっちゃうかも。
「皆良く集まってくれた。既に知っている者もいるだろうが、我はあの勇者を討伐することに成功した!その死体はここにある!」
レヴィアたんが壇上に立って話してる。かっこかわいい。
配下に合図して4つの死体がライトアップ。キモグロい。落差で落下死しそう。俺って落下死できるのかな?
ライトアップと同時に驚愕の声とか拍手とか歓声とかでざわざわ。レヴィアタン様が話してる途中でしょうが。静かにしなさい。
「これを成せたのはある者の尽力あってこそ。その者を新たな側近として迎え、本日より人類に反撃を開始する!紹介しよう、全てを切り捨てる漆黒の騎士──ジェラだ!」
あ、俺の名前決められてる。聞いてない。あと側近の話も知らない。サプライズ嬉しい。
名無しは流石にまずいから当然か。洗脳設定だから事前に伝えるみたいな配慮必要無いし。あれ、サプライズではないのでは?というか俺の名前浸透してないから偽名使わなくても勇者ってバレない気が。嬉しいからなんでもいっか。
呼ばれたので壇上に上がって聖剣(偽物)を黒く塗っただけの嘘の塊剣を掲げる。偽りの剣って言うと響きだけかっこいい感じがする。
ちなみに本物は先代が壊した。しかも戦闘中ではなく一人で勝手に折った。何しとんねん。
今持ってるのは街の商人曰く先代が今際の際に持ち帰った本物の聖剣。先代は聖剣壊して街に帰れなくなってどの魔王とも戦わず死んだので普通に嘘。何しとんねん。
偽物と分かってて買ったのは、王様から貰ったひのきのぼうを王都出た瞬間に投擲して魔王城破壊したせいで武器持ってなかったから。何しとんねん。
「本当にこの者が…?」
「強そうには見えないけどなー」
「実力を証明しろ!」
おや、疑いの声。レヴィアタン様が嘘をつくとでも?お前ら本当に魔王様の配下か!盲信しろよ!まぁ嘘はついてるけども。
「ジェラ、あれをやるぞ」
「承知しました」
反射で答えたけどなんも分かってない。あれって何ですか?聞いてませんよ?
と思いつつ、魔王様が翼を生やして飛び上がり構えた様子で察した。炎を斬れば良いんですね。簡単なお仕事です。
「ヘルファイア!」
「はぁ!」
一応配下達の前なので気合いをいれた声を出したが、そっちに集中したせいで太刀筋がブレた。まぁ炎は斬れたから大丈夫だけど。しっかり寝てて良かった。
「なん…だと……!?」
「私は最初から強いって思ってたよー」
「剣で魔法が斬れる訳ないだろ!どうやったか説明しろ!」
さっきの疑いの声が即ひっくり返ってて面白い。まだ納得してない奴もいるけど。何あの喋るソーセージみたいなの。見た目おもろ。
「ジェラ、説明してやれ」
「承知しました」
レヴィアタン様が壇上に戻って命令されたので説明する。洗脳設定ってこの辺面倒臭いよね。まぁ洗脳関係なく喋るソーセージの言うことを自主的に聞く気はなかったけどね。
「この世界には原因と結果が存在する。魔法は原因を担い、魔力は魔法の発動に使われる。生み出された炎に魔力は宿っていない。魔法の炎も、木を擦ってつけた炎も、原因は違えど炎という結果は同じ。そこに違いはない。魔法と同等の結果を生み出せる原因さえ用意できるのなら、魔力を使わずとも魔法は相殺できる」
という勇者の記憶の受け売り。これ思いついたのすごいね。この代以降の勇者みんなやってるし。先代以外。先代は出来なかったみたい。何しとんねん。
「信じる他あるまい…」
「私の弟子にしてあげてもいーよー」
「そんなの机上の空論だろ!!」
お前今何見てたんだよ。机上の空論って言いたいだけだろ。反抗期の子供かな?イヤイヤ期でもいい。イヤイヤ期に机上の空論とか言ってくるのやば。
「さぁ、皆の者立ち上がれ!これからは我ら魔族の時代だ!」
「「うおおおお!!!!!」」
あ、レヴィアタン様もソーセージは無視するんだ。輪を乱してて普通に邪魔だししょうがないね。なんか周りと一緒に歓声上げてるし、本当に机上の空論って言いたいだけだったのかも。
──────
朝になった。一度寝たからか冷静になった。なってしまった。現実逃避して二度寝したい。
駄目だ。今日から配下達が集まってくる。しかも各地の代表のみ先んじて転移魔法で送ってくるはずだから、今日だけはどうしても働く必要がある。気が重い。
さて、悲観するのはここまでだ。現実を見よう。
今日配下に伝えるべき内容は3つ。勇者パーティの討伐、新たな側近、人類への反撃の宣誓。とりあえずこれだけでいいだろう。その他細かなものはもっと集まってから、各代表を通じて伝達すればいい。
まず勇者パーティの討伐。これは死体を見せれば終わりだ。しかし勇者の死体が問題となる。他の3人の死体はあるのに、勇者だけ死体が残らなかったというのは不自然だ。生存を疑われないためにも勇者の死体は用意したい。
今日中に別の人間を殺して偽の死体を用意する時間は無い。勇者を一度殺すのは洗脳が解けるリスクを考えるとやりたくない。それ以前に蘇生に必要な条件を整えて殺すのは手間がかかるし時間も無い。
やはり分身体を殺すのが手っ取り早いか。持続時間を考えれば分身体を作るのは決起会の直前。服も用意する必要があるか。分身体に洗脳が引き継がれていない可能性……否定は出来ないが、確率自体はかなり低い。
というか一晩経ったが洗脳はどうなっている?隣室から暴れているような物音はしないから解けていないのだろうが、まだ寝ているだけかも知れない。なんか不安になってきた。どうしよう。
ちょっと怖いけど確認しに行こう。どっちか分からない状態で時間が経つ方がしんどい。でも怖い。扉開けた瞬間死ぬかも。嫌だぁ…
最低限の身支度だけして隣室の扉の前に来る。とりあえず深呼吸。うるさい心臓を落ち着かせる。深呼吸、深呼吸……大丈夫、私は大丈夫。
10分くらいで落ち着いてきた。思ったより早かった。昨日の服選びで慣れたのかもしれない。あれ、服選びしなければ時間あったんじゃ……いや、この世には気付かなくていいものもある。止めよう。
「勇者よ、起きているか?」
「はい。おはようございます。レヴィアタン様」
「……うむ」
え、なんで扉の前にいるの怖い。服ちゃんと着てるし今起きたって訳じゃないよね。私が来るまで待ってたの?こっっっわ。人間の忠誠ってこれが普通なの?それはそれとして選んだ服を着てくれるのは嬉しい。
まぁ、洗脳は大丈夫ってことだよね。うん。前向きに捉えよう。よし、威厳ある感じに切り替えよう。
「私にとって、貴様は何であると思う?」
「魔王様の剣、あるいは人類への反戦の一番槍。翻した反旗の旗印でしょうか」
あ、駄目だ全然切り替えれてないわ。洗脳状態の確認の為に勇者にとっての私を聞こうとしたのに、質問が逆になっちゃってる。
しかも勇者即答してるし。怖いよ人間の忠誠。魔王軍もこういう感じにした方が良いのかな。息苦しそうだし嫌なんだけど。
なんかもう要件だけ言って離れよう。というかあれだ、威厳だ。よし……行くぞ。
「……そうか。今日は配下達に勇者パーティを撃退したこと、新人が入ったことを伝え、人類に攻め込む決起会とする。その際、貴様の分身体を死体として配下に見せる。本物の仲間の死体と共にだ。分身体に着せる元の装備を持ち、仮面を付けて着いてこい」
「承知しました」
扉から3歩離れたところで勇者が出てきた。準備速いよ!もっと心を休ませてよ!!
会場に着くと全員の視線が一斉に集まる。大勢の前で話すのは未だに少し緊張するが、日常的に魔王演説テンプレート集を愛読している我に隙は無い。既に台本は頭に入っている。
壇上に上がり声を張り上げる。日頃の発声練習の成果だ。歌の練習でもある。聞かせる相手はいない。
「皆良く集まってくれた。既に知っている者もいるだろうが、我はあの勇者を討伐することに成功した!その死体はここにある!」
配下に指で合図を出し、死体に光を当てる。別にこの部屋は言うほど暗くはない為既に見えてはいたのだが、注目を集まるという意味では十分な効果がある。
久しぶりに分身体を作ったが精度は問題無いようだ。誰も偽物を疑っていない。
さて、次は勇者の、もとい側近の紹介だ。あれ、そういえば勇者の名前は何だったか。いや知らないはずはない。ひと月とはいえあれだけの快進撃だ。勇者の名は広まっているはずだし、そんな初歩的情報を掴めないはずがない。
覚えていない?いやしかし、こんな簡単なことすらすぐに忘れるような頭脳なら、謀殺のレヴィアタンなどと呼ばれることはない。知らなかった?誰も勇者の名を口にしなかったのか?そういえば勇者の仲間達の名前も分からない。人類は勇者パーティに興味を失っている?
考察は後だ。人類を攻めるにあたって派遣する斥候に調べさせてからでも遅くはない。とにかく不自然な間を空けぬよう話を続けなければならない。名前は……昔飼ってたトゲネズミの名前でいいか。
「これを成せたのはある者の尽力あってこそ。その者を新たな側近として迎え、本日より人類に反撃を開始する!紹介しよう、全てを切り捨てる漆黒の騎士──ジェラだ!」
「本当にこの者が…?」
「強そうには見えないけどなー」
「実力を証明しろ!」
疑いの声。まぁ当然だな。見た事もない新参者がいきなり魔王の側近……つまり自分の上に立つ訳だ。言葉だけで納得はできまい。
しかしここは実力主義の世界。力を示せば簡単に納得できる。むしろ仕えたいと思う者もいるだろう。その点勇者ならば何も問題は無い。
「ジェラ、あれをやるぞ」
「承知しました」
あれで伝わるかは分からないが、洗脳状態の者にいちいち説明する必要も無い。今からする行為が敵対的なものではないと示せれば十分だ。
実力の証明は派手に、分かりやすく、独自性を持って、簡潔に。
「ヘルファイア!」
「はぁ!」
「なん…だと……!?」
「私は最初から強いって思ってたよー」
「剣で魔法が斬れる訳ないだろ!どうやったか説明しろ!」
狙い通り勇者は魔法を斬った。そしてこれも狙い通りに配下が質問を投げた。どうやって魔法を斬ったのか説明しろ勇者。
「ジェラ、説明してやれ」
「承知しました。この世界には原因と結果が存在する。魔法は原因を担い、魔力は魔法の発動に使われる。生み出された炎に魔力は宿っていない。魔法の炎も、木を擦ってつけた炎も、原因は違えど炎という結果は同じ。そこに違いはない。魔法と同等の結果を生み出せる原因さえ用意できるのなら、魔力を使わずとも魔法は相殺できる」
言うは易し、行うは難しというやつだな。少し前に人類で流行っていた言葉だ。情報屋が真似したせいでこっち側でも流行ってしまった。ちなみに我は流行りに乗る方だ。その方が面白い。
そして火球を斬った説明になってない。魔法と同等の結果、剣を振って起こすなら風だろうか。最高位の炎魔法を最高位の風魔法で打ち消すのは不可能ではない。勇者が魔力を使わずして最高位の風魔法を連発してくると考えると悪夢だ。化け物め。
だが今の勇者の一太刀は風が発生していない。最高位の風魔法と同等の風が起これば、この場所は普通に滅茶苦茶になる。何より風魔法では火球は真っ二つにならない。しかし風魔法以外の候補もない。もう少し詳細に説明しろ。
「信じる他あるまい…」
「私の弟子にしてあげてもいーよー」
「そんなの机上の空論だろ!!」
配下達は納得したようだ。仕方ない、後で個人的に問い詰めよう。
ところであれは誰のお子さんだ?というかなんと言う種族だ?見た事がないぞ。なかなか特徴的な見た目をしているが……まぁ今はいいか。
「さぁ、皆の者立ち上がれ!これからは我ら魔族の時代だ!」
「「うおおおお!!!!!」」
何はともあれ、無事決起会は終わった。このことは、明日から続々と集まってくる同胞達に各代表が伝えてくれるだろう。
勇者に魔法について聞きたいところではあるが……今日はとりあえず戻って二度寝だな。