陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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最近、刀剣ワールドのサイトをネットで見つけまして、日本も昔は直剣を使っていたことを初めて知りました。



基礎は大事

「―――ということがありました」

「な、なるほど。大変だったな」

 

 ミツゴシでの会合後、ブシン祭の予約受付会場でオレの代理でクレアが出場(キャンセルしても金は戻ってこないため)という形で手続きを終え、オレ達はアレクシアを連れてネーベル家へ帰還した。

 王国の超VIPが田舎貴族のところに突然やって来たともなれば、当然屋敷中は大混乱。

 ジャンもパニックになって二人目がどうのと訳の分からないことを口走ったり、アリスがシェリーの時同様微笑を浮かべながら剣に手を伸ばしたりと大変だった。

 

 ジャンとアリスのことはアンナとシェリーに任せ、オレとアレクシアは会議室にて聖地で起こったことやアイリスとの密会についてグレンとマルコに報告した。

 

「三英雄に魔人ディアボロス、不老不死…はなしのスケールが大きくなってきたな。聖教までグルとは………」

「アレクシア様、本当なのですか?不老不死に近づくためだけに悪魔憑きの少女たちの命を奪ってるって………」

「ええ、そもそもの悪魔憑きの症状は教団の実験によるものだと聖地の大司教様が認めました」

「オレも街でこれまでに死んでいった少女達の記憶を見ました。かなり非人道的で惨い最後だったようです」

「何だよそれ…人の命をなんだと思っているんだ……!」

 

 マルコは学園襲撃事件前の時同様ディアボロス教団に対する怒りをあらわにし、両拳を血が滲むほどに握りしめていた。いや、怒りの対象は別にあるか。

 それを見てグレンは彼を宥める。

 

「マルコ、落ち着け。ここで怒ってもなんの意味もない」

「っ……すみません副団長」

「………それにしても、聖教が怪しいというのに陛下が動いてくれないとは…シャドウガーデンからの情報が正しいか、ルスランと通じていたあの騎士団長に確認を取るのは?」

「私もそう考えたのですが、残念ながらその騎士団長は既になくなっていました」

「なっ!?」

「姉様によると、事情聴取の後に監房に移す最中、他の囚人にすれ違いざまに隠し持っていたナイフで刺し殺されたとのこと。他に捕らえていた役人や新聞社の人間も首を吊ったりなど…」

「口封じ、ですか」

「その後、まるで見計らったように上層部から関係者が全員死んだのならこれ以上の進展はないだろうと事件の捜査を終了するように圧力をかけてきたとのこと…教団の構成員である黒ずくめの通り魔達もルスランが金で雇った傭兵と発表したようです」

「我々の懲戒免職といい、やはり上層部にまで教団の手のものが………」

 

 まぁ、そうだろうな。教団にとって組織の存在自体決して漏れてはいけない極秘事項だ。情報漏洩は許されない。捕まった連中をどうするかは大体読んでいた。

 

「証拠保管庫が燃やされた件もありますからね。不用意に情報を持ってることを悟られるようなことは控えるべきかと。それと、ディアボロスと悪魔憑きに関する情報をマスコミに公表することもあまりお勧めしません」

「?何故だ?悪魔憑きの原因は教団だというのに」

「悪魔憑きの原因が御伽噺にでてくる魔人の細胞によるものだと誰も信じませんし、信じたとしても少女たちの身体に怪物の血が流れているとして、余計彼女たちへの迫害が苛烈になるだけですよ。それに、教団とのつながりのない人間が不老不死欲しさに寝返る確率が上がりますし」

「む、言われてみればそうだな………」

 

 無関心だった連中の反応はこんなものか。

 

「アイリス殿下にも言いましたが、聖教と事を構えるにせよ、王国内の問題を片付けるのが当面の課題です。そのためにも『紅の騎士団』のアドバンテージを確立しませんと」

「そのために団員であるマルコとクレア嬢、アレクシア様も出場すると…しかもブシン祭までにあのベガルタ七武剣とやり合えるくらい強くならないといけないなんて、流石にハードル高すぎないかヴァイス?」

「紅の騎士団の知名度を上げるには必須の条件かと…こういうことをグレンさんとマルコさんに相談せずに決めてすみません」

「あっいや、一応謹慎中の身だから気にしないでくれ。な、マルコ?」

「…」

「マルコさん?」

「えっ、悪い。聞いてなかった。何の話?」

しっかりしろマルコ

「ですから、マルコさんのブシン祭出場をこっちで勝手に決めてしまったことです」

「あ、ああ!問題ないさ。騎士団のためになるんだったら喜んでやるさ!」

 

 そうやる気があるように言うマルコだが、どこかうわの空の感じだ。

 

「グレンさんは他の団員を指揮する必要があるため、出場は遠慮願います。修行は変わらず受けてもらいますが」

「それは構わんが…その、アレクシア様は長期間王宮から離れても大丈夫なのですか?」

「問題ありません。紅の騎士団の団員として、この辺境にまだ身を潜めているかもしれない盗賊の長期調査と、ブシン祭に向けて副団長のもとで修行と陛下には説明してますので」

「あぁ…団長から聞かれたのですね」

 

 アイリスからネーベル家の暗殺未遂の話を聞いた。オレが仕組んだものだが、王宮を離れる口実としては弱いな。王立学園の信用を地に落とした元凶の一人である田舎貴族の子供より、同じ騎士団の副団長という話なら反対しづらいのはいいが、今いる場所を知られてたら噓だとばれる。いずれ使いが来るな。

 

「………では、今日はもう遅いので、修行は明日からにします」

「そうか、助かった」

「助かった?」

「あっ、いや…アリス嬢の扱きがスパルタ過ぎてな…」

 

 二人共遠い目をしていた。アリスにはほどほどにと言っておいたんだがな。

 

「なんか…すみません」

「いや、おかげで木登りを習得できたのだから」

「そうですか。では、明日確認しますね」

「?なんで修行に木登りが入ってるのよ?」

「それは明日説明します」

 

 話が終わり、会議室から出る。廊下にはアンナ達が控えていた。

 

「あらぁ、お話終わった?」

「あぁ、終わった」

「遅くなりましたが、試練の突破おめでとうございますお義兄様」

「なにがおめでとうだ…はぁ」

「あら?お疲れですか?」

「あぁ、誰かさんのお蔭でな…」

 

 女神の試練への参加を仕組んだ元凶は悪びれる様子はない。

 

「それで、敵はいつ殲滅する予定ですか?」

「は?」

「アリスはいつでも準備ができております」

「待て待て、誰もそこまでするとは言ってない。それに具体的な段取りを組まないと」

「…そうですか」

 

 なんでそんなに残念そうなんだ。

 

「それより、客人に挨拶しろ」

「そうでした。お初にお目にかかりますアレクシア王女。ご紹介が遅れてしまい申し訳ありません。ネーベル家の当主ジャン・ネーベルの長女アリス・ネーベルと申します。お会いできて光栄です」

「初めまして、アレクシア・ミドガルです。これからしばらくお世話になります」

 

 動揺を見せないアリスの礼儀正しい挨拶に、アレクシアは猫被りモードで返した。

 ミツゴシで十分人当たりの良い王女様というイメージが崩れたというのに。

 

「ときにアレクシア王女、確認なのですが義兄様とは特になにもないのですよね?」

「え?」

 

 いい笑顔で王女相手になんてこと聞くんだ。

 

「学年は一緒でもクラスが別だから話す機会なんてなかったぞ」

「あら?シェリーさんとは楽しくデートする機会があったようですが?お菓子までプレゼントされていたそうで?」

 

 まだその話引きずってるのか。アンナの傍にいたシェリーがデートという単語に反応して顔を真っ赤にしている、

 

「というか、殿下はシドとしばらくの間付き合ってたんだぞ」

「「「え?」」」

「ちょっ…」

 

 オレが告げた事実があまりにも衝撃的だったようで、アリスたちが目を丸くした。

 

「あのクz…クレアさんの弟さんと?」

「今クズって言おうとしなかった!?」

「気の所為です。それより彼とお付き合いしてたと言うお話は本当なのですか?事実なら王族の弱みを握るだけでも極刑ものですよ……」

「脅迫を受けた前提で聞いてくるのね…」

 

 アリスはあの馬鹿のことを目茶苦茶嫌っている。理由は単純に生理的に受け付けないとのことだ。

 

「付き合ってるといっても形だけで、婚約者候補だったゼノンへの当て馬だったみたいだぞ」

「成程、田舎貴族なら別れたあとも後腐れが無くてすむという算段だったと……」

「どうして貴方がそれを知ってるのかしら…」

「シドが口を滑らせたのです」

「そう…………ポチめ、今度会ったら説教ね

 

 なにかボソッと呟いたが聞かなかったことにする。

 シドが犬になった瞬間を見たことは黙っておこう。この王女に何されるかわかんないし。

 

「とにかく、オレと殿下はお前が疑ってるようなじゃないぞ」

「……そうでしたか。これは大変失礼しました」

「い、いえ。気にしなくていいわ」

 

 アリスからの追及が終わった後、アンナとジャン、シェリーも改めて自己紹介をした。

 

「それじゃあ紹介も終わったところで晩御飯にしましょうか。ヴァイスちゃんの試練突破と王女様の歓迎も兼ねて今日は豪勢にいくわ。今日はねぇ、黒トリュフと猪肉のリエットよ」

「えっ、トリュフ?」

 

 子嚢菌の子実体の名前にアレクシアが反応した。

 

「あら?王女様トリュフお嫌いでした?」

「い、いえ好きな方です。ミツゴシで同じ物を口にしたもので」

「………ああ。それはおそらくウチの領地で採れたものですね」

「え?」

「かなり珍しい食材で、この前ミツゴシ商会に見せると100万ゼニーで買い取ってくれました」

 

 ひょっとして、アリスはその金で女神の試練にオレを参加させたのか…

 

「あんなに美味しいものがここで採れるの?」

「はい、ミツゴシの方たちの地質調査によると土の中にまだかなりあるようです」

 

 それは初耳だぞ。

 

「そう…あれがかなり」

 

 王女も美味しい食べ物に目がないって顔をしてるな。

 修行よりもトリュフの採集をしたりしないか心配だ。

 

 

 その後の夕食、生まれて初めて食べるトリュフ料理は絶品であった。

 シェリー達もご満悦のようで、特にアレクシアからは王宮に出てくる料理よりも美味しいと大好評であった。

 

 

♦♢♦

 

 

「え?は?」

 

 翌朝、二人の修行の成果を確認していると、隣にいたアレクシアが目の前の光景を見て鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

 当然だ。グレンとマルコが手を使わず道を歩くように木を登るのだから。

 

「どうだヴァイス?」

「ええ、二人共合格です。もう降りて結構ですよ」

 

 オレの許可で二人共木から飛び降りた。

 予定通り第1関門は突破だな。アリスに任せて正解だった。

 

「…ねえ、なにをどうしたら今のができるの?」

「約束通り説明します」

 

 おさらいも兼ねて、魔力に関することを説明する。

 

「まず魔力とは人間やエルフ、獣人、魔獣といったあらゆる生き物の体を流れている生命エネルギーから生み出されるものです。魔力の有無は才能で決まるといわれてますが、生命エネルギーから魔力へと変換できるかどうかを指します」

 

 よく聞く『魔力を練る』という行為は、生命エネルギーを「原油」として、魔力という「ガソリン」を精製するようなものだ。

 当然生命エネルギーは無限ではない。生物の持つ限りある「生命力」を基にしているため、魔剣士の魔力の大小とはこの精製が上手いか下手かの違いでしかない。

 逆に言えば、不老不死に近い魔人ディアボロスは文字通り無限の魔力を精製できることになる。

 

「生命エネルギーを”スタミナ”としましょう。魔力を使わずに剣を振るう場合は必要な分だけスタミナを自然と消費するだけです。けれど、魔力を使用する場合は違います。魔剣士が身体や武器の強化に用いる場合、必要な量だけの魔力を練らなくてはなりません。使われたエネルギーは消費され、消えて無くなってしまいます。つまり魔力に変えられたスタミナを、もう一度スタミナに戻すことはできません。スタミナが生命エネルギーの源ですので、スタミナ0%、即ち魔力0%で死んでしまいます」

「それは学園の授業で習う前から基本知識として知ってるわ」

「でしょうね。学園の生徒達の殆どは入学する前から魔力の練り方やコントロールをある程度使えるように家で教わったでしょう。ですが”使える”と”極めた”は全然違います」

「え?」

 

 分かりやすいように例を挙げる。

 

「例えば目の前に剣技の技量が同じ敵がいたとします。そいつを倒すのに必要な魔力量を、スタミナの20%だとした場合、身につけた魔剣士はぴったり20%だけ魔力を練ることができ、身体強化に使う時も魔力量を上手くコントロールできるため、20%の魔力をすべて使って敵を倒すことができ、80%のスタミナが温存できます。習っただけでできていない素人は魔力を練るのがヘタなため、20%でいいのに必要以上に40%以上も練り込んでしまいます。コントロールがよくても余分に練り込んだ魔力をスタミナに戻すことはできないので20%の魔力は無駄になって体外へ霧散するし、下手過ぎれば20%分使うべきところを、10%しか使えず相手を倒すことができない」

「同じようにやっても それだけ違うわけか………」

「少し大げさに違いを説明しましたが、オレがいたクラスの連中や選抜大会の参加者、指南役の教師達の殆どははっきり言って前者とは言い難いですね。魔力の性質について仕方ないにしても、魔力の練る量の調整や魔力のコントロールが大雑把でした」

「大雑把って…」

 

 事実なんだから仕方ない。

 魔力の使い方のコツを聞いた時に『魔力を全身に纏わせて、ただ剣を振るう』と答えるだけで具体性のかけらもない。

 そのうえ学園襲撃時に魔力が使えなくなった途端、学園の連中や騎士団はなんの役にも立たなかったし。

 

「けどローズ会長やクレア先輩は上手じゃない」

「あの二人は別です。どちらも才能を持って生まれた人間なうえ、驕らず研鑽を積み重ねていくうちに自然と身に付いたのでしょう」

 

 それでも身体能力や武器の強化以外の手法を見いだせていないが。

 オレ達以外で魔力操作が上手い奴を挙げるとすれば、災厄の魔女アウロラや無法都市にいる絶滅危惧種の吸血鬼くらいだろう。

 

「そういうわけなので、グレンさん達には魔力の細かいコントロールと、足の裏に集めた魔力を維持するスタミナを身につけれるようになるための修行を最初に課したのです。二人共剣に魔力を流してみてください」

「あ、あぁ」

 

 オレの指示通り、グレンとマルコは鞘から剣を抜いて魔力を流す。感知できる二人の魔力は以前確認した時よりも無駄が大きく省かれ、剣の部分にのみ集中していた。

 

「どうです?」

「なんというか、前よりも流しやすくなった気がする」

「お、俺も…」

「それは体の部位に魔力を集中させるで覚を掴んだ影響です。魔力を集める部位が最も難しかった分、他の部位の制御が以前よりも上がるのは必然といっていいでしょう。」

 

 アレクシアも二人の魔力の流れを感知して驚いている。

 

「…ひょっとして、私もこの修行をやるの?」

「まあそうですけど、ブシン祭までの期間があるので3人には剣術の修行を平行してやってもらいます。勿論第一段階をクリアした二人には次へ進んでもらいますが」

「次?」

「あれの更に上があるのか?」

「先にそっちを説明します」

 

 三人を修練場の傍を流れている、川の側に連れて行く。

 

「二人に次に課す修行はこの川の上を歩くことです」

「「「???」」」

 

 三人の目が点になる。

 

「えっと…川の上を?」

「木登りでは魔力を必要な分だけ必要な箇所に集めて、ずっとその魔力量を維持するだけでした。木は固定されているので、吸着しておくだけで良い。これは、一定量の魔力を練り込む修行です。ですが、水面に浮くためには魔力を足から水中に常に適量を放出して、自分の体を浮かせる程度に釣り合わせなければなりません」

「吸着の次は放出か……難しそうだな」

「グレンさんの言う通りこの魔力コントロールは維持するよりも難しいよ。水面歩行は一定量の魔力を放出して使うコントロール修行です。実際にやって見せます」

 

 オレはまず自分の両足の裏に魔力を集めて川の水面へと踏み出す。同時に常に一定量を放出しながら、体重と釣り合うように調節して水面の上を歩く。

 

「えぇ!?」

「………もうなにも驚かないな」

「……慣れって怖いですね」

 

 奇妙な光景にアレクシアが口をあんぐりと開けていた。

 

「とはいえ、一定方向への放出はかなり難しいのでブシン祭までに完全にクリアする必要はありません」

 

 水面から離れて地面に足を付ける。

 

「その代わり剣術の特訓を優先して行います。特訓を始める前に、今日は皆さんの技量を確認したいので軽く打ち合いをしたいのですが構いませんか?」

「あ、ああ……お手柔らかに頼む」

「オリヴィエを倒したヴァイスと打ち合い………?」

「ご心配なく。目的はあくまでも皆さんの技量の確認ですので、学園の実技科目でやるマスと同じ形式でやります」

 

 マスというのは軽い実戦形式の稽古で、お互い攻撃は相手に当てずに、技や返し流れの確認をする感じだ。

 

「殿下もそれでいいですね?」

「……え?あ、ああ。うん、問題ないわ」

 

 オレが声をかけてようやく呆けた状態から抜け出せたアレクシアから了承を得た。

 

「訓練用の木剣をこちらで用意してます。好きなのを選んで下さい」  

 

 昨日のうちに用意しておいた木箱を開けて、長さや形状がバラバラな木剣計20本を三人に見せる。

 

「結構あるな……」

「ロングソードにブロードソード、レイピアまで………長さや形は違えど一本一本丁寧に作ってあるな」

「あら?ねえ、一本だけ失敗したのがあるけど………」

 

 アレクシアが手に取った一本は他とは違い、刃が片側しかなく、刀身部分が弧を描く弓の様に僅かに曲がった形状をしていた。

 前世の木刀を元に作ったやつだな。

 

「ん?ああ。それは意図的にそうしてるので失敗作ではありませんよ」

「意図的に?」

「少し曲がってる方が真っ直ぐな物より素早く鞘から抜くことができるんですよ」

 

 女神の試練で抜刀したときは刀身が半分に折れていたおかげでやりやすかった。

 

「そうかもしれないけど…」

「こんな曲がった形状で攻撃を受けきれるのか?」

 

 この世界では片刃剣やサーベルもあるが、太刀や打刀といった日本刀の類はまだ誕生していない。見たことがないものなだけにすぐには理解できないか。

 

「せっかくなので、それはオレが使いましょう」

 

 見せた方が早い。アレクシアから湾刀型の木剣を受け取りしばらく待つと、三人とも使う武器は決まったようで、揃ってロングソード型を手に持っていた。

 

「1人五分程度です。誰から来ますか?」

「じゃ、じゃあまずは俺から!」

 

 最初はマルコか。

 

「ではグレンさん、号令をお願いします」

「わかった」

 

 互いに一定距離を保って構える。

 

「では、はじめ!」

 

 グレンの号令が修練場に響く。

 号令と同時、マルコが動いた。

 

「はあっ!!」

 

 セオリー通り魔力で身体強化しての突進、からの正面切りか。

 

―――わかりやすいな。

 

 オレは左半身を右足の後ろに引きながら上段から振り下ろされる木剣の平部分に木刀を乗せるように当てがい、当たった瞬間に手首を捻る。

 反りのラインで丸くぶつかりながら角度をかえることで、大きな力を加えずともマルコの木剣の軌道が大いに逸れた。

 

「え!?」

「今なにが!?」

 

 離れて見ていたグレンとアレクシア、眼前のマルコも驚いて固まっていた。

 

「まだ時間がありますよ」

「あ、ああ」

 

 そのまま平突きを放てるが、マスのルールに従い控える。

 距離を取るとすぐさま突貫してくるマルコ。

 パワーで押し込もうと袈裟斬り、胴斬りと連撃を繰り出してきた。オレは距離を取りつつ木刀でそれを捌く。

 

 これは試合じゃない。あくまでも普段どういう風に戦うのか、オレからのカウンターにどう対応できるのかの確認だ。

 5分の間に把握できるよう、こっちも少し仕掛けながら分析に徹する。

 

♢♦

 

 

「凄い………」

 

 ヴァイスの戦いを見るのがこれで3度目となるアレクシアは、3度目でも目を奪われていた。

 魔力を込めず速くもないが、その間合いや剣筋、全てが流動。

 

 速度と威力を上げたマルコの攻撃を最小限の動きで捌き、同時にカウンターを仕掛けるときがある。単純に身体強化で素早く動いてるのではない。まるで次にどう仕掛けてくるかわかっているかのようだ。

 攻撃は控えめだったが、使う武器が違うからか、選抜大会と女神の試練の時とは剣筋が違うように見えた。ロングソードの時は叩いて斬るような動作に対し、刀身部分が曲がっている剣でまるで撫でながら斬ってるかのように綺麗な弧を描いている。こちらの型もあまりに基礎的でありながら、恐ろしい程に無駄無く、隙無く、正確無比。基礎を極めているが故に繊細さと異端染みた流麗さを有していた。圧倒的な程に美しく、アレクシアは思わず見惚れてしまった。

 

(本当にあれで凡人なの?)

 

 無駄を排し、全てが自然体。それは剣術として、理に適った剣裁きだろう。力とスピードのマルコの剣に技量のみで渡り合っている。それは英雄オリヴィエの時も同様だった。

 彼が自称する通り凡人なら、オリヴィエと渡り合える程の領域に到達するまでに、いったいどれだけの鍛錬を積み重ねてきたのか計り知れない。

 真偽がどうであれ、多くの優秀な魔剣士を輩出している学園がヴァイス・ネーベルの退学を選択したことはとんでもない過ちであったことは確かであった。

 

 そう結論が出た時には五分が経過しており、マルコの番は終了した。

 激しく動いたマルコは地面に片膝をついたまま息も絶え絶えになっているのに対し、それを見下ろすヴァイスは、息が上がるどころか汗1つ掻いていなかった。

 

(私もあの剣に――――)

 

 アレクシアは次の番をグレンに譲り、少しでも参考にしようと自分の番が来るまで観察に徹した。 

 

 

♢♦

 

「今後の特訓メニューが決まりました」

 

 手合わせが終わった後、技量を確認したオレは三人を見回す。

 

「三人とも剣術の基礎訓練から始めます。ただし、マルコさんとグレンさんは魔力の使用禁止の制限付きで」

「「え!?」」

「なにか問題でも?」

「あっいや、今までやってきた鍛錬ではそういう制限がなかったからな」

 

 ああ、それが当たり前だったから戸惑ったのか。

 

「手合わせして分かったのですが、二人の動きは力任せなんですよね。魔力操作で身体能力を底上げするのは悪くありませんが、だがオレの目には身体の使い方がなっていませんでした。振る際の重心はぶれているし、歩幅も合っていない。何手も先を読んだりせず、フェイントも何もなく、どこに攻撃するかが丸分かりのテレフォンパンチでした」

「て、てれふぉん?」

「予備動作が大きく、相手にこれから打つことを知らせるようなパンチのことです。型はあっても、魔力で威力と速度が高ければ勝てるだろうと考てるのが見え見えです。同じ型、同じ考え方の相手には今まで通じていたでしょうが、型や考えの違う相手にはそうはいかないでしょう」

 

 まさにあの馬鹿が嫌っている戦い方そのものだ。

 

「単純な力、単純な速さ、単純な反応、そういったフィジカル面の強さに任せきりで、オレの後出し技に対応できてませんでした。その調子じゃ教団の構成員相手にも通じません。というか、マス形式だと先に言いましたよね?」

「…えっ、以前の鍛錬の時もこんな感じだったが?」

 

 マジかよ。

 

「マスはあくまで技の確認。そこに速さや強さは必要ありませんよ」

「そ、それなら指摘してくれれば良かったんじゃ」

「ここは学校じゃありませんし二人とも大人です。そのあたりの分別も自己責任ですよ」

「「うっ………」」

 

 言葉を詰まらせる二人。

 

「それに対し、アレクシア殿下は目的をよく見据えていたようですよ」

「え?」

「魔力をあまり使わない。攻撃は当てないし、動きも遅い。剣は地味………だけど基本に忠実で、基礎を突き詰めている。無駄が排除され、研ぎ澄まされていました」

 

 三人の中で、アレクシアは違った。

 アレクシアの剣は普通にいい剣だった。

 周りから姉と比べられても、剣の才能がないなりに努力したのだとわかった。 

 

「二人共、アレクシア殿下を見習うべきですよ」

「「………」」

「まあ、カウンターへの対処ができていないのは二人と同じですが」

「ちょっ、一言余計じゃないの!?」

 

 事実だから仕方ない。

 

「相手が常に同じ土俵で仕掛けてくるとは限りません。教団やシャドウガーデンが相手なら尚更。学園の時同様アーティファクトで魔力が封じられた状況がまた起これば今度は確実に死にます」

 

 だが、それは今じゃない。

 

「今できることはどんな状況に陥っても死なない術を学ぶことです。ブシン祭まで時間はありませんが、できる限り三人に足りない部分を伸ばすことはできるでしょう。当然かなりきついです。やってられないと思った人は帰って結構です。ただ少しでも今までよりも強いなりたいと思うのなら、オレの修行をやる価値はありますよ?」

「「「………」」」

「さて、帰りたい人はいますか?」

 

 オレからの質問にイエスと答える人間はいなかった。

 

 





アレクシア「手を使わずに木登りや水面歩行をやるって……常識外れにもほどがあるわよ」

ヴァイス「……自分でもそう思います」

そもそもシドが教えてくれた忍者の漫画の内容を参考にしたものだし。

ヴァイス「ところで殿下、その手に隠し持っているスコップはなんですか?」
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