僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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全く別の世界線ですが、ブルーロックの短編書いてみたので良かったら見てください!約2万文字あります。
https://syosetu.org/novel/316028/1.html
【たとえお前が望まなくても】


ネッシー?ああ、良い奴だったよ。

 二次選考を危なげなく突破した水野達一行は、三次選考である「世界選抜戦」を目前としていた。

 

 世界でもトップクラスのストライカーを集めた最強集団(ドリームチーム)と試合をすることが出来ることに心が昂ると共に、少なくない緊張が全身を駆け巡る。

 

『青森のメッシ』として、高校サッカー界では有名な西岡をして、身体が小刻みに震えを見せる。それは武者震いなのか、はたまたテレビで見てきた選手を前にする緊張なのか、それとも恐怖なのか。

 

「水野くん」

 

「ん? 何?」

 

【3RD SELECTION】と書かれた電光掲示板の下に、青い監獄のマークが刻まれた重厚な扉が置かれている。その扉を潜れば、『世界選抜』が既に揃っているのだろう。様々な形で揺らいでいる心を制するため、準備運動などをそれぞれが行っている中で、氷織が水野へと声を掛ける。ストレッチを継続しつつ、水野は氷織の方へと顔を向ける。

 全く緊張などしていないというような水野の顔を見て、氷織は少しの苦笑を零しながら水野にだけ聞こえる声量で話す。

 

「一応確認するんやけどね、今から何するかは分かってるん?」

 

「あー……なんか外国の人とサッカーするんだよな?」

 

「いつも通りで安心するわぁ」

 

「何が??」

 

「いや、なんもないよ……てか、相手が誰かは知ってるん?」

 

「昨日見た奴らだろ? まあ、そうだな……どっかで見た気がしないこともない」

 

「どっちなん??」

 

「テレビかなんかで見たことある気がしないこともないんだよなぁ」と、頭をかきながら口篭る水野はストレッチを終えて後ろにいるチームメイトを見渡すと扉へと向き直る。

 

「行くぞ」

 

「……はぁ」

 

 氷織と話していた時とは打って変わり、低く圧を感じる冷たい声音を放った水野の声に、西岡の身体が先程までとは違ったベクトルの震えを見せる。過去のトラウマがフラッシュバックしたかのような反応を見せた西岡と、そんなことを気にしない(気づいてない)水野を見て、二子は嘆息する。

 

(無自覚なのが尚更タチが悪い……)

 

 二次選考の最後に放った、『なんでお前らサッカーしてんの?』事件。その時のことがトラウマになっている西岡と、そんな意図は一切ない水野との温度差に風邪をひきそうになりながら、先程まで緊張していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる現状に、身体の震えを投げ捨てて水野達の後ろへと着いていく。

 

「氷織、二子。あの髭には気をつけろ」

 

「「っ」」

 

 コートに入り、すぐに目に入ってきたのは五人の超人。

 今までテレビの中でしか見ることのなかったようなスターが目の前にいる事実が現実味を帯びる。

 こちらを品定めするように眺め、そして笑いながら英語で何やら言っているシウバ────の横に立つ、腕を組んでいるアダム・ブレイクを見て、水野は今まで聞いたことの無いような真剣な声と眼差しを見せる。

 

 警戒していることがわかる水野の瞳と声を聞き、二人は思わず強ばってしまう。世界の最前線で活躍するストライカーをひと目見るだけでその危険性が認識できる水野の実力と、そして今まで見てきた、自分達の遥か上に君臨している青い監獄NO.1が警戒している相手とこれから試合をする事実を受止め、これからの立ち回りを頭で反復しようとして、

 

「あいつ……マフィアだっ!!」

 

 思わず水野の背中を蹴った自分は悪くないと、二子と氷織は自分に無罪の判決を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 どっかで見たことあるなとは思ってたが……あいつ、マフィアだったのか!! 

 あの筋肉の付き方、鋭い目付き……なんてやつを寄越してきたんだ、あのクソカッパがっ!!! 

 

『ブハッ! こいつらもヒョロヒョロだな! またクソ面白くねぇ試合になるんじゃねぇの!』

 

『どうでもいい。こんな仕事さっさと終わらせて、昨日ヤリ損ねた日本人女性と着物で×××しに行くんだよ』

 

 発言からしてやべぇ奴らの気配が凄いんよ。あの髭はマフィア。テレビに映ってたマフィアはあんな感じだったから間違いない、そうに違いない。

 隣で爆笑してるチリチリは……ストリートファイターか。それも無差別に襲って身ぐるみ剥ぐ系のやつ。一番タチが悪い。

 

 昨日、あいつらの映像見ながら、ええっと……『青森のネッシー』? ん? 東谷だったか? ……まあどっちでもいいや。途中から何故か俺らのチームに混ざっていたやつが説明してたのを思い出した。確かあのチリチリ、『重戦車』とかいう異名があった。もう完全にパワー系のステゴロですやん。サッカーどこ行ったの。あいつサッカー出来んの? 

 

 あと、さっきからソバカスの子の挙動がいちいちウザイんだが。頬を膨らませてムッてしていいのは可愛い女の子だけなんだわ。アンリさんでも可。

 

 あんな激ヤバ集団にこっちから関わりに行こうとは到底思えない。もしこの場面であいつらに話しかけるような奴がいたら多分そいつは下まつげバシバシなイカレ野郎だろう。偏見だけどね。

 

『まあまあ、話はこれくらいにして早く試合を終わらせよう』

 

 お、あの中では比較的優男に見える金髪の奴が仕切り出した。あいつはあれだな、自分こそ正しいとか思ってるタイプだ。多分性格が終わっているんだろう。そんな感じがビンビン伝わってくる。よく分からんビルとビルの間の溝に溜まってるドブを10倍濃縮したような腹黒さを感じる。

 

 あ、こっち来た。

 

『ごめんね、待たせちゃって。でも安心して! すぐに試合は終わるからねっ! 君達が点を入れられる訳ないし!』

 

 ナチュラルサイコ爆誕してやがる。満面の笑顔でやべえ事言ってんなこいつ。日本勢は英語が得意じゃないのか、あいつの言ってる事が理解出来てないっぽいな。氷織はちょっと聞き取れてそうだけど。めっちゃ目細めてるし。

 

 聞き取れてない奴らも、なんとなくはあいつのサイコ加減が分かったのか、言語が分からないなりに表情が堅い。

 

 ……少し、イラッとした。腐っても、俺はストライカーではある。点を取れないストライカーに価値はない。俺は今、あいつに全てを否定されたようなもんだ。あのどこのナチュラルサイコかも分からないようなやつに。

 

「────殺すか」

 

「「「っ!!」」」

 

 おっと、思わず殺意が漏れた。でも、俺は悪くない。百歩譲って、緩んだ俺の口が悪い。百歩も譲る気は無いが。全部あいつが悪い。あのクソみたいな笑顔で毒を吐くサイコが悪い。そうに違いない。そうとしか言えない。

 

 試合開始の準備をするようにアナウンスが流れる。それに従い、俺は元々決められていたポジションに着こうと後ろを振り返り、なんかめっちゃこっちを見ているヤツらに気づいた。どしたん? 

 

 え、引いてる? ちょっと引いた目で見てるよね? ネッシーなんか、目が合った瞬間めっちゃ足ガタガタいってるんだけど。お前、それでもUMAか。

 

 氷織と二子からも軽く引いた目で見られて若干心に傷を負いながらも、試合開始の合図とともに、謎の激ヤバ集団との試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合続行不可とみなし、青56番、退場』

 

 ネッシ────────────ッッッ!!! 

 

 あんのクソマフィアッ! やっぱりあいつがまともにサッカーするとは思ってなかったんだ! 『どけ』っていいながらネッシーにタックル。ネッシー死す。吹っ飛んでいくネッシーがシュールすぎて5度見したわ。しかも、ファールとは言えない絶妙なプレス。あいつ……出来る!! 

 

 しかもワンプレー目。ゴール前のボールで競り合ってそのままクソマフィアが一点目を勝ち取ってた。ネッシーはピクリとも動かなかった。屍のようだ。く、クソっ! あんなに優しいネッシーを……優しい……優……ん? あんまあいつの思い出無いな。てか喋ってないし。ああ、ネッシー? 良い奴だったんじゃねぇの? 知らんけど。 犯罪者予備軍だけど。

 

 まあそのおかげもあり、奴らの手口はだいたいわかった。ファールにならないギリギリで身体的にこちらを壊していくんだろう。ネッシー、お前の犠牲は無駄じゃなかったぜ。

 

 この状況を見て高らかに笑っているであろうクソカッパの顔面にシュートしたい。

 

「想像以上やなぁ……ただでさえ向こうが格上やのに、人数でも不利なってもうた」

 

「ヤバいですね……どうしますか?」

 

 ネッシーがマフィアに消されて4対5。しかも見た感じ、割と上手い。

 

 さっきのプレーで三人は僅かに萎縮してるな。それほど動いてないはずだが、僅かに汗が見える……緊張か? 

 

 さっきのクソゴミカスマフィアのプレーの善し悪しは置いておくとしても、場の空気はあれで完全に向こう。それは向こうも分かっている。あいつらの目、態度、仕草は、こちらを格下だと嘲笑って脅威なんて微塵も感じていない、そんな馬鹿にしたようにも見えるものだ。

 

 実際、それは正しいのかもしれない。体格は向こうが上、技術もまあまあ高い。連携に関しては即席と感じられるようなものだが、まあ及第点。

 

 奴らの方が総合力では上であり、モニタリングしている河童は高らかに笑う。うん、絶対笑ってんなアイツ。

 

「とりあえず、俺が点を取る」

 

「「「っ」」」

 

 確か、この試合は五点先取。なら、容易に逆転は可能。時間制限もない。

 

 状況の整理。ネッシーが消され、人数不利。相手が一点リードしていて、流れも向こう。こちら側は完全では無いものの、僅かに精神的にやられている。体格は向こうが上、ファールギリギリの接触を狙ってくる鬼畜っぷり。技術もまあまああって……こちらを見下してる。

 

 ボールをセンターマークに置き、上から踏みつける。横には氷織、少し後ろに二子。左サイドには名前を知らない誰か。え、誰? 

 

 前を見れば、ニヤつきながらこちらを見るチリチリ、欠伸をしながら目元を擦るソバカスに、気持ち悪い笑顔がデフォのナチュラルサイコ。そして年齢が近そうで、比較的まともそうな坊主に、タックルしてくるマフィア。態度はそれぞれ異なるが、総じて同じことは、こちらを敵とすら思っていない、言うなれば『獲物(カモ)』とでも思っているんだろう。

 

 とりあえず、ぶち殺し確定なのはナチュラルサイコ、次いでマフィア。チリチリもいっとくか。

 

 強者に許される余裕、とでも思っているのだろうか? まあ間違いでは無いのかもしれない。あいつらの出身がどこか知らんが、海外ではその考えが主流なのかもな。

 

 せっかく日本に来てくれたんだ……ひとつ、覚えて帰って欲しい。

 

 お前らが今してる態度。

 その、相手を微塵も恐れず、格下だと信じて疑わない舐め腐った瞳。

 

 それは────『慢心』って言うんだわ。

 

 電子音のホイッスルと共に、氷織へとボールを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 水野くんがパスを要求してくる時と僕がパスを出そうと思う時は、大抵一致する。

 視線を向けられるわけでも、そういった合図がある訳でもない。なんとなく、「水野くんにパス出さなきゃ」っていうタイミングが自然と分かった。

 

 たったのワンプレーだけで力の差が分かるほどに、世界選抜は遠くにおった。

 

 ただでさえ実力差があるのに、西岡くんは負傷して、人数もこっちが不利。正直、「勝てんわ」って思った。悔しいとも、あんまり思わんかった。

 

 心のどっかでは諦めてたんかも知らん。相手は世界で、しかも今も活躍してるプロで、テレビ越しでしか見れんかった、天と地ほどの差があるストライカーで……

 

「とりあえず、俺が点を取る」

 

 でも……なんでやろな。

 

 相手は世界の中でも指折りのプロで、僕らは高校生で。

 勝てるなんか、考えることも無駄や思てたのに。

 

 あんな、アホみたいな勘違いで自分のこと囚人や思って、周りを振り回すような態度を無自覚に振り撒いて。

 

 アダム・ブレイクのことマフィアなんか言うてるような、アホ惑星から来たアホの子やのに。

 

 水野くんやったらいけるんちゃうかって、思ってしまった。

 

(こういう時は、頼もしいこと言うんやなぁ)

 

 それは二子くんも感じてて。もう一人の……えっと……え、誰? 

 

 まあそれは置いといて。

 今までは、アホみたいなことばっか言うてた水野くんやけど。

 内情知ってからは、どんな行動もアホらしく見えておもろかった水野くんやけど。

 

 今回は、初めて水野くんの真面目なサッカーが見れるんじゃないかって、場違いにも心踊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうした? 笑顔忘れてんぞ? あの気持ち悪ぃ顔はどこいった?』

 

『筋肉しか能のないゴリラが、俺も吹き飛ばせないんじゃただの能無しだろ、雑魚』

 

『見下してたやつに見下ろされる気分どうだ? 教えてくれよ、なぁ』

 

『お前、ソバカスだけで一番空気だぞ』

 

『速いな……うん』

 

 

 

 ネイティブすぎて聞き取れなかったが、世界選抜の表情から感情が抜け落ちてるの見て、またあの子はなんかしたんやろなぁ……と、氷織と二子は遠い目で顔を逸らした。

 

 

 


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