アイドルは成長型コンテンツ
育成で大事なのは経験値だ。
何を当たり前のことを、と思うかもしれないけどその経験値を貯めるために人の上に立つ人はそういうところをしっかりと意識しないといけない。
世界的に有名なモンスター育成ゲームなんかでもそう。
戦わせて指示を出して強いモンスターを倒してレベルを上げる。たまに飴なんかも与えたりしてね。
アイドルとしてバリバリやってる時も私は後輩の新人アイドルとか同じグループのメンバーを育てるために色々なことを実践して経験を積ませてあげた。
そのおかげもあって今私が育てた子たちは割と成功して活躍してるんだけど私が与えた試練や飴よりもモチベーション維持に重要なことがある。
アイドル時代は私がやるべきことじゃなかったからやってなかったけど2年Aクラスのリーダーである私はクラスメイト40人を適切に導いてあげるために2年生二学期からも皆の先頭に立って頑張っていきますか。
と、その前に担任の知恵ちゃん先生のHRをちゃんと聞かないとね。
「今日は沢山お知らせがあるからみんなちゃんと聞いてね……まずは10月には去年もあった体育祭が開かれるわよ。去年とはルールが違う部分もあるから詳細はまた後になるけどその時はきちんと確認しておいて……うっ」
二学期初日。朝のHRで知恵ちゃん先生特有の二日酔い状態の学校からのお知らせが始まる。たまーにあるんだよね。Aクラスにとっては珍しくない光景だ。
なので前列中央辺りの席の子達は酒臭くて可哀想だけど皆あまり気にしない。これが普通って駄目な大人の見本みたいだけど良い反面教師なので問題ない。酒に溺れるとこういうことになるという見本だ。私も成人したら注意したいよね。
「それと11月は初の試み……うぷっ、になる文化祭も開催されるわ……今月から体育祭も文化祭のための時間も取られるし、中間試験や期末試験も普通に行われて……でも先に文化祭の概要から説明するわね……タブレットを見てちょうだい……」
そして口元を押さえて吐き気を我慢してる知恵ちゃん先生は文化祭についての説明を行う。タブレットに表示された概要も含めて、簡単にまとめると文化祭は──
・2年生には各クラスに文化祭の準備だけで使用できるプライベートポイントが1人につき5000ポイント支給されて、その範囲内で自由に使用できる。(ちなみに1年生は5500ポイントで3年生は4500ポイント)
・生徒会での活動なんかで得られる社会貢献や部活動で活躍していれば追加で資金が支給される。
・初期費用と追加資金は最終売上には反映されない。余ったら没収される。
・売上1位から4位のクラスにはクラスポイントが100与えられる。4位から8位のクラスには50。9位から12位のクラスには何も与えられない。
・敷地内の定められた出店場所をポイントを使うことで権利を得られる。他のクラスと被った場合は競りで決める。
ふむふむ。なるほどね。敷地内で働く職員さんや来賓とその家族を招いて売上を競うわけかぁ。
そして初期費用はAクラスだと41人だから20万5000ポイント。そこに生徒会役員である私、帆波ちゃん、隆二くんとか、部活動で活躍するであろう颯くんとか他の生徒の報酬も乗ってくるとして……まあ大体25万くらいあればいい方かな。その予算内でクラスで良い出し物をしないといけない。クラスポイントの100ってのは意外と大きいからね。ここは頑張りどころかもしれない。
しかも──何やっても勝てそうだし。
「こ、これが文化祭の基本的なルールだからいつも通り話し合って何をするか決めてちょうだい。予算配分なんかも当たり前だけど重要だからよく考えて……後は南雲さんお願い……」
「はーい。戻すならちゃんとした場所で行ってくださいねー」
そしていつも通り知恵ちゃん先生から名指しを受けたので返事をしつつ知恵ちゃん先生を気遣っておく。まあ気遣ってるのは教室とか周囲の環境とか生活態度なんだけどそれはいい。
さて、クラス内も文化祭の開催で色めき立ってるし、放課後に早速話し合いを始めますか。
ということで放課後。団結力が凄まじい私のAクラスは生徒全員が残ってくれた。
そんな中で私は前に出て会議の開催を宣言する。気分はまるで教師だし、実際このクラスの舵取りをめちゃくちゃやってるからその表現も間違ってない。
何しろ人事評価すら私が行ってるから
「はい。それじゃみんなちゅうもーく。これから文化祭について出し物を何にするかの会議を行おうと思うんだけどー……」
と、私は一度溜めを作る。
もったいぶってあえて間を作り、そして笑顔。その上で先に皆が楽しみにしてるものを伝えるのだ。
「その前に事前に言ってたOAA評価の高い生徒に対する報酬──プライベートポイントの贈呈行いたいと思います」
「よし来た!」
「確か先にポイントを振り込んでからまた貰う形なんだよね?」
「そうそう。ポイントの履歴は残しておきたいからね。だから今月も徴収してからそれから皆に振り込むよー」
「はーい」
OAA評価に応じたプライベートポイントの贈呈。それは私が今年度からAクラスで行っている報酬制度だ。
人材育成のためのモチベーションとして、なんだかんだお金は1番分かりやすく効果がある。
特に大勢の人間を見なきゃいけない上の人間からすればこうして所得を増やすことはそれだけ意欲を上げてくれるし、成長を促して、組織への忠誠心も高まる。
毎月70%のポイントを徴収してるAクラスだと実入りは少ない──わけじゃないんだけどそれでも本来得ているプライベートポイントと比べれば少なめではあるからね。
今月でいうとクラスポイントは1461だから14万6100ポイントのうち10万2270ポイントの徴収。私を除いて集まったポイントは409万800ポイントだけど1人に与えられるポイントは4万3830ポイントだ。
これでも全然1ヶ月を楽しく過ごせるし、無人島の特別試験の時みたいにボーナスを与えたりもしたからみんな結構貯金してるし、ポイント不足には陥ってはいない。
ただそれはそれとしてポイントが多ければ多いほど欲しいものを購入したり友達と楽しく遊べたりするのも確か。そういう日々の潤いも大切なんだよね。
私も結構お金使いは荒いとまでは言わないけどそういう部分を大切にしてるから理解できる。なので自身の能力に応じてポイントを与えて気持ちよくなってもらい、より能力の向上と私への信頼を維持するためにと思って私はこの制度を敷いた。
ちなみにどれだけのポイントが与えられるかは今から改めて口にする。
「覚えてるとは思うけどもう一度言うね。学力、身体能力、機転思考力、社会貢献性のいずれかの項目でA-以上の評価を持ってる生徒にはその項目1つにつき5000プライベートポイント。そして総合でB-以上の生徒には1万ポイント。総合Bなら2万ポイント。総合B+なら5万ポイント。それ以上なら応相談──ということでこれからポイントを振り込んでいくねー」
「うっ、さすがに足りてないか。あともうちょっとでB-だったんだけどな~……!」
「惜しい~! 私、あと1! あと1で身体能力A-だったのに!」
「あはは、体育祭で頑張るしかないね。私は総合B-だから1万ポイントかぁ……」
「どうも。学力と機転思考力と総合の女。森下藍です。4万ポイントください」
とまあポイントを改めて伝えるとクラス内の成績上位者は色めき立つし、惜しかった人は少し残念がる。ボーナスを与えてるからポイントには困ってないとはいえ貰えるものは欲しいからね。
総合B-に足りてない総合C+の渡辺くんは悔しがるし、身体能力がB+のこずえちゃんはギリギリすぎて更に悔しがってる。麻子ちゃんは総合B-で1万ポイント貰えるし、藍ちゃんは学力と機転思考力でA-。総合がBだから合わせて4万ポイントと突出した能力を持ってる生徒や総合力の高い生徒は良い感じにポイントが貰える。
そして総合B+は学年でも数人しかいないトップの成績なので5万と結構な額を与えてる。Aクラスだと帆波ちゃんと隆二くんの2人だけだね。
ただ2人ともポイントにはあまり興味はないみたいだから周囲から結構な報酬だと囃し立てられても隆二くんは冷静なままだし、帆波ちゃんは苦笑いだ。特に帆波ちゃんは返そうとしてたくらいだからね。
この制度を決めたのが2年生が始まった直後で相談したのは春休みの間だからちょうど帆波ちゃんは学年末試験で負けて2000万を自分のために払わせた直後だったから負い目があったし、それは今も変わってない。ただ制度は制度なのでちゃんと受け取ってもらう。私以外の例外はあまり作りたくないからね。
ちなみにAクラス内だと総合B+で学力、身体能力、社会貢献性の3つの項目でA-の隆二くんが6万5000ポイントで1番貰ってて、次点で総合力B+の学力Aと社会貢献A+の帆波ちゃんが6万ポイントだ。
本当はA評価とかA+はもっとあげてもいいかと思ったけど大体月毎のOAAが更新される度に貰えるわけだしそこそこでいいかと思った。もちろん要求されれば払ってもいいんだけど不満も要求もないから今のところはまだ考えてないかな。
更に言うと私のOAAは二学期が始まってまたかなりやばくなった。どれくらいやばいかと言うとこんな感じ。
2-A 南雲 麗 (なぐも うらら)
学力A+(96)
身体能力A+(96)
機転思考力A+(99)
社会貢献性A+(98)
総合力A+(97)
はい。ということで学年どころか学校で一番だね。さすが私。学力は有栖ちゃんと並んでトップだし、身体能力も須藤くんと並んでトップ。
機転思考力は他の追随を許さないナンバーワンで社会貢献性は帆波ちゃんとのツートップ。そして総合A+は他の生徒と大きく水をあけてのランキング1位。
2学年全体だと総合の2位は帆波ちゃんの79のB+だからね。次いで隆二くん、Bクラスの洋介くんと続く。OAAという分かりやすい指標は本当に良いよね。他のクラスの優秀な生徒を引き抜く時の指標にもなるし。
「それじゃポイントも振り込んだところでそろそろ文化祭の話し合い始めよっか。──帆波ちゃーん。司会進行お願い。隆二くんは書記で」
「わかった」
「あ、うん。それじゃ皆、まずは自由に案を出していく形でいいかな」
と、ボーナスの贈呈が終わったところで改めて文化祭に向けての話し合いの始まりだ。こういう時は私は一旦皆の話を聞きたいし、聞きながら考えるから司会進行を親しみやすく人をまとめる力の高い帆波ちゃんに任せ、隆二くんには教室のモニターに文字を打ち込んでもらう。私はモニターの横で皆の意見をニコニコと聞く。この体制が試験発表直後のAクラスの日常風景だね。
「やっぱ文化祭って言ったら屋台じゃね? 焼きそばとかたこ焼きとかさ」
「食べ物だとクレープとかもいいよね。あ、でも焼くの難しいかな?」
「スムージーとかも良さそうかも」
「お化け屋敷なんかも定番だよねー」
「脱出ゲームも流行ってるらしいけど……」
「無難にカフェとか?」
「私と姫野ユキで漫才を披露しましょう」
「しないから……」
開口一番、颯くんが発言してから皆の口から次々に文化祭の定番の出し物の案が出てくるわ出てくるわ。やっぱりこういうイベントは盛り上がるしみんな大好きなんだよね。中学の時の文化祭は大人しいものになりがちだし、高校生の文化祭の方が自由度は高い。やりたいことってのは無限にある。
でもこれは一応クラスポイントのかかった戦いでもあるので、皆も自由に案を出しながらも売上のことを考えないといけない。
たとえば今出てる案だとスムージーとかは若干原価率が気になるし、お化け屋敷や脱出ゲームは面白くはあるけど回転率の問題で売上が伸び悩みそう。クレープは焼くのが難しいって言ってるようにちょっと練習する必要があって、藍ちゃんとユキちゃんの漫才は……ネタの良し悪しとか技術はともかくとしてそれでお客さんを呼べるかでいうと呼べないよね。
だから原価率が低くて作りやすくて美味しくて匂いで客を呼べる焼きそばとかたこ焼きって案は実はかなり良かったりする。なんだかんだお祭りで食べたくなるのってそこなんだよねー。たこ焼きなんかはシェアもしやすいし、子供にも大人気。大人も好きだし、簡単に作っても美味しい。焼き鳥なんかもあってもいいかもしれない。
「色々と案は出てくるけど難しいところだね。予算はしっかり考えた方がいいのは当然として、売上を考えるならどの層に狙いを絞るのかも大事かもしれない」
「あーそっか。文化祭に来るお客さんって大人の人が多いんだよね?」
「多分そうなんじゃないかな。来賓の人も来るって星乃宮先生は言ってたね」
「おそらくだが政財界の関係者も来るだろう。そういった層にも需要が見込めるものが良いかも知れない」
そして一通り案が出てくると今度はこの案はどうだとか色々と細かい部分に対しての指摘や話し合いが始まる。哲也くんの言う予算やメインターゲットをどこにするかは大事だし、隆二くんの言うように政財界の関係者も来るならやっぱりおじさんが多いからそこを狙うのが売上が出やすいという意見も分かるよね。
ただそれを理解していても何をすれば売上を上げられるのかっていう答えを出すのは難しい。ここにいるのはAクラスの割と優秀な生徒たちだけどビジネスコンサルタントでも何でもないからね。まだ社会に出たことがない子供にマーケティングに関して適切な答えは出せない。
ただそれでもそういうのにある程度詳しいであろう親が会社の社長の隆二くんとか、普通に優秀な帆波ちゃんとか頭の良い子達なら調べたり色々考えてる内に割と良い答えは出てきそうだ。私がいきなり答えを口にしても成長はないし面白くないからね。こうやって話し合う過程を踏むことも組織には大事だ。
「あ……そうだ。もう1つ提案なんだけど……」
「何かな、渡辺くん」
「えっと、南雲がライブをするとか……どう? ほら、体育館とか借りてやったらやっぱ皆来るんじゃないかって思ったんだけど」
と、そろそろ私も発言しようかなーって思ってたところで渡辺くんがそんなことを遠慮がちに口にする。
そして教室内に若干微妙な空気が流れた。引いてるとか嫌な感じとかじゃなくて、皆思ってたけど言わなかったこと。それを口にしたことによって全員の視線と意識が私に向かってくる。なんだかんだで皆そこは気にしていたところなんだろうね。
「えっと……案としては良いと思うけど、それって麗ちゃんに負担になっちゃうんじゃないかなって……どうかな?」
挙句の果てに帆波ちゃんも私にお伺いを立てるように聞いてくる。やっぱり友達とはいえこっちはプロだし、負担になるってことを理解してるからそこで皆遠慮してた感じだ。
ただ私というトップアイドルの存在を文化祭でどう使うかっていうのは避けて通れないし、使わないのが勿体ないので私もちゃんと発言させてもらう。
「そうだね。音楽機材とか楽器はレンタル料を払って貸し出して貰えるから出来ないことはないと思うよ」
「……数に限りがあるから早いもの勝ちとはいえ手を出すクラスは少なそうだ。その点は……まあ確かに問題ないだろうな」
私が間を取った上で出来る出来ないかでまずは答えると隆二くんもその点に頷いた。隆二くんですら若干遠慮してる感じだね。
実際会場は第一体育館とか第二体育館とか使えばいいし、無理ってわけではないんだよね。
かといって問題がないわけでもないけどさ。私は最初はにこやかに。だけど途中から少しだけ雰囲気を変えて鋭く皆に問いかける。
「私は勿論できるしいいよ。ただ……皆は本気でやれる覚悟はある?」
視線で全員をしっかりと捉えながらそう言ってみれば、クラスメイト全員が一気に息を呑んで固まった。
普段は出さない私のプロとしての裏の顔。それをあえて皆に見せる。
なぜなら私にも譲れない一線はあるからだ。
「私は中途半端は出来ない。もし文化祭でライブをするなら絶対に売上1位を取るし、演るなら私は全力で客を呼んで全員を絶対に楽しませる。そのために動くし、皆にもそれを求める。私が出るステージでは、関わる人にも中途半端は許さない」
私は今この時アイドル活動を休止しているが、それでもアイドルであることを捨てたつもりはない。
文化祭の舞台とはいえステージに立つならその瞬間の私はアイドルだ。
そこで魅せる顔。パフォーマンスは『南雲麗』の看板にまた色を付けることになる。
そこに泥を塗ることは絶対に出来ない。泥を塗ることも許さない。
「ただそれが出来るなら1位は絶対に取れるけどね」
ただ自信だけは当然ある。
人を惹きつける舞台は私の何よりも得意なこと。『魅力』は私の持つ最大の武器だ。
はっきり言って綾小路くんだろうが高円寺くんだろうが龍園くんだろうが有栖ちゃんだろうが誰にも絶対に負けないと断言できる。
そして何が起ころうと負けてはならない。
だから文化祭の概要を理解した時点で中途半端にやるくらいなら表には出ないって決めてた。普通に手伝うだけでも私という存在で客は呼べるし楽に勝てる。
「皆はどうしたい? 私はどっちでもいいよ」
だから決めるのは皆だ。
やるならやるし、やらないならやらない。結局はそれだけの話だ。
「……絶対に1位を取れるなら……俺はやるべきだと思う」
そして私からの問いかけに最初に応じたのはやはり勝利への執念を持ち合わせてる隆二くんだった。
勝つためなら困難にも敢えて挑むし、何だってやるという意思は嘘じゃないってことだね。
「南雲。おまえのライブを実現するには俺たちはどうすればいい? 具体的にどう行動に移せばいいのか教えてくれ」
「とりあえず演者を何人か確保する必要があるね。私がボーカルとギターを担当して他はインストでもいいけど生演奏の方が当然良いし」
「なるほど……一応聞くがこの中で楽器経験のある人間は?」
隆二くんがそうやってクラスメイトに問いかければ、殆どの人が目を見合わせるだけで手を挙げなかった。
ただそんな中で吹奏楽部に所属してる女子やピアノをやってた生徒もいるし、何よりも私のよく知る女の子もおそるおそるだけど手を挙げた。
「えっと……南雲さんに遊びで誘われて……ベースをちょっとだけだけど」
「うん。ユキちゃんはやったことあったよね」
去年の夏頃から遊びで私の部屋にある楽器を遊ばせたことのあるユキちゃんなんかは実は結構できる。ベースをやらせてみたんだけどその理由は、リズム感がいいからだ。
ユキちゃんの意外な才能というか、楽器は弾いたことなかったみたいだけどバンドとかは普通に好きみたいでリズム感が良いことには遊んでる内にすぐに気付いた。
だからユキちゃんなら出来なくはないだろう。文化祭まで2ヶ月しかないから常にやらせる必要はあるけどね。
それは吹奏楽部の子やピアノをやってる子にしても同じ。ドラムとキーボードを任せられるにしてもそもそも曲を沢山覚えないといけない。ライブ時間が1時間から2時間くらいだけどどんなに合間を埋めるとしても10曲以上は余裕で必要だし、求められるハードルはかなり高い。
「……一応出来なくはないわけか」
「本当はもう1人くらいギターがいてもいいけど最低限揃ってるね」
当然私がリードギターはやるのでリズムギターはいなくたって構わない。私のスキルならそこは余裕でカバーできる。
だけど──
「私……」
「一之瀬?」
段々と求められる条件や覚悟が定まっていく中、不意に教壇に立っていた帆波ちゃんが声を発した。
それは最初、小さく迷うようなもので隆二くんが聞き返したことですぐに消え入りそうなものだった。
だけど帆波ちゃんは、それを振り払うように自分の中の何かを振り絞るように、私に向けて告げる。
「私が……やってみてもいいかな?」
「ほ、帆波ちゃん?」
友達の麻子ちゃんや千尋ちゃんが心配そうに見ている。私も友達なので当然知ってるけど、別に帆波ちゃんは楽器を弾けるわけじゃない。歌はそれなりには歌えるけどね。
ただそれでもやりたいと私に意思を伝えてきた。その思いは汲み取ってあげる。──それとこれとは別問題ではあるけどね。
「帆波ちゃんは楽器経験ないよね?」
「それでも……やってみたい」
「自分が何を言ってるか理解してるよね? やるなら私は中途半端はなしだよ?」
「分かってる。だから、その……挑戦してみたい」
帆波ちゃんはそこで私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
私もまた見つめ返し、そこでその瞳の奥を覗き込んだ。
見えるのは覚悟を決めようとする意思と不安。
自分の殻をどうにか壊したい。色々な感情がないまぜになって迷いをまだ抱えてる。
だからライブの成功だけを考えるなら──正直、
ただ……私は別の要素を考慮してその答えを出す。
「わかった。いいよ」
「ほ、本当?」
「うん。ま、言っちゃなんだけど最悪出来なくてもギターは私がいるしね。当日までに満足するクオリティに達してなかったらやらせなきゃいいだけだし。この後一緒にギター見に行こっか」
「うん……ありがとう麗ちゃん」
当日はレンタルしたものを使うとしても練習用の楽器は当然買わないといけない。
良いものを買うなら15万ポイント以上は必要だけど、むしろそれくらいのを買わせないとね。そこも覚悟の1つだ。簡単にやめさせないためのね。幸いにも帆波ちゃんは倹約家でポイントの貯蓄は結構してるだろうし、ちょうどボーナスでポイントも振り込んだし。
「皆……どうかな? 私は、やってみたい。麗ちゃんやここにいる全員でステージを成功させてみたい」
「一之瀬……」
「帆波ちゃん……」
そうして帆波ちゃんは私からの許可を取り付けた上で、まだ迷いを持っているクラスメイトにお願いする。
それを聞いた皆は心配しながらも徐々に覚悟を決めていく。仲間思いの帆波ちゃんを助けるために。
ただそれを見て私は思う──これだ、と。
帆波ちゃんには私と同じ、人を惹きつける力を持っている。
カリスマ性。魅力。そういった、人を自分に夢中にさせる力。
だからこそ帆波ちゃんは、
「皆……やってみようぜ!」
「うん……本気でやれば1位取れるんだもんね」
「自分で言ったことだしな……裏方だとしても本気でやらなきゃな」
そして帆波ちゃんのことが好きな颯くんとか友達の皆とか発案者の渡辺くんとかが賛成を出し始めれば、それがクラス全員に広がるのに時間はあまりいらなかった。
「……満場一致の賛成だな」
「うん。皆の気持ちは理解したよ。それなら──本気でやりにいこっか」
私はそこで不敵な笑みを浮かべ、クラスメイトの賛同の声を受ける。
文化祭で私たちがやるのはライブ。
それに合わせて他の出し物も出さないといけないし、ライブのこと以外にも考えることは沢山ある。
何よりも客を呼ぶのに大事なのは如何にそれを広めるか。広告を打ったり宣伝をする必要がある。売上を出すだけならそちらの方がライブの出来よりも何よりも大事なのだ。
そこをどう構築するか。その上で、ライブの出来も完璧にする。
私の中でプランは既に出来ていた。体育祭とか他のことも疎かには出来ないけど問題ないね。私は最強のアイドルで、Aクラスの皆はやるって決めたんだから。何がなんでもやってもらう。どんなアクシデントもお客さんには関係ないからね。
そうしてクラスが盛り上がる中、私は何があってもライブを成功させると心に誓った。
たとえ何が起ころうとね。
今回からは満場一致特別試験編です。体育祭やら文化祭やらもあるけど一旦キツイイベント挟まないとね。
ってことで次回は試験前のあれこれ。お楽しみに。
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