将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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後編

 

 天元を継子として迎えて、一年が過ぎようとしていた。既に"音の呼吸"という新しい呼吸を作り出した天元は、めきめきとその実力を発揮していた。鬼の討伐数も増えていき、師匠としての贔屓目なしに、このまま行けば柱も遠くないだろうと思う。

 そんな天元と二人、与えられた任務に向かっていた時。もう少しで目的地に到着するという位置で、暁が慌てた様子でその知らせを持ってきた。

 

「アオイ!オ館様ガ倒レタ!呪イ!」

「!」

 

 遂に来た。

 まず思ったのはそれだった。次いで、ここから産屋敷邸までの距離を計算する。…いや、一度屋敷に戻らなくては。準備してきたものを取りに行かなくてはならないし、この近辺に藤の花の家はない。どのみち身を清める必要がある。

 

「っおい!あおいさん!急いで産屋敷邸に…」

「──駄目だ。このまま任務に向かう」

「は?!あんた何言って」

「天元」

「っ」

 

 天元の言葉を遮り、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「呪いの発現は分かっていたことだ。…むしろよくここまで持ったと思うよ、俺は」

「…どういうことだ」

「もっと早いと予測していたんだ。それこそ13か14には呪いの影響が出るだろうと。…それが17まで持った」

「っだから何だってんだ!呪いが発現したのは事実なんだろ?!だったら早く向かわないと…」

 

 その言葉に静かに頭を横に振る。そうしたいのは山々だがな。

 こういう時、柱としての立場が少しだけ煩わしい。守りたい相手が友人で、お館様だとなおさら。

 

「耀哉は…お館様は、それを望まない。自身のせいで狩れるはずだった鬼を取り逃がし、犠牲者が増えることを、決して良しとしない」

「あおいさん…」

「だから今俺たちがすべきは、このまま任務に赴き、出来るだけ早く鬼を狩ること。そして俺は、予定通り行動することだ」

「予定、通り?」

 

 頭に疑問符を浮かべる天元に小さく笑う。

 

「呪いの話を聞いて何年経ってると思う?…対策の一つや二つ、見つけてるよ」

「!」

「ま、本格的な対処は呪いの影響が出てからと言われたんだがな」

 

 苦笑いと共にそう告げると、少し肩を落とした天元が謝ってきた。

 

「…すまねぇ」

 

 親に叱られた子どものようで、見ていて胸が痛む。俺と然程高さが変わらない頭に手を乗せる。

 

「別にいいよ。心配したんだろう?その気持ちは大事にしなさい」

「…ああ」

 

 小さく頷いたのを確認して、よし、と空気を変える。

 

「そうと決まったらさっさと終わらせて、準備を整えて産屋敷邸に向かおうかね」

「…ああ!」

 

 

 

 天元も奮闘してくれ、鬼は速攻で狩り終わった。そして息つく間もなく空屋敷に戻る。

 身を清め、必要な荷物を手に持ち産屋敷邸を目指した。

 天元には今日の警備地区を任せてきた。いつ帰れるか分からないし、いくら継子と言っても基本的に一般隊士は産屋敷邸への出入りを許可されていないからだ。

 暁の案内に従いひた走る。

 冷静であれと思うけれど、どうしても息が上がり冷たい汗が背中を伝って仕方がない。

 そうして辿り着いた産屋敷邸は、不気味なほど静まり返っていた。ここ数年で聞き慣れた子どもたちの声すら聞こえない。

 ああ、嫌な空気だ。

 使用人が俺が来たことを細君に伝えてくると足早に去っていく。

 こうして待たされることは滅多にない。それだけで、異常事態なのだと嫌でも実感させられた。

 

「兄さま」

「あまね」

 

 現れた細君─―あまねは気丈に振る舞ってはいるもののどこか窶れた雰囲気だ。見ていて辛い。

 

「耀哉の容態は」

「…昼過ぎに意識を失われて、まだ目を覚ましていらっしゃいません。初めは熱も出ていましたが、今は落ち着いています。それと…」

 

 そこで一度口を閉ざすが、意を決したように再度口を開いた。

 

「左の米神付近に、呪いの影響と思しき痣が出現しています」

「…そうか」

 

 耀哉が寝ている部屋にあまねと共に言葉少なに向かう。そして開けられた襖の向こうに寝かされている耀哉を見て息が詰まった。

 拳を強く握り、すぐに準備に移る。

 この日のために用意していた護符を耀哉の周囲に散らしていく。

 あの日、耀哉とあまねの婚姻の日。最初に許可をもらった日から一つ一つ丁寧に準備してきた。護符に力を込め、浄化のやり方を繰り返しこの身に叩き込んだ。

 あまねにも時間を作ってあの時神籬の家で読んだ内容を教えたが、片割れはどうやら結界の方に適正があったらしい。今ではこの産屋敷邸を覆う結界の大元は妹だ。一方で俺はどちらかというと護符や浄化が向いているらしかった。通常は多少の向き不向きはあっても大体一人で補えるという。双子の弊害がこんなところに現れるとは思わなかったな…。

 だから今回、主体となるのは俺だ。あまねに周囲を結界で覆ってもらい、俺が解呪─浄化する。

 正直、緊張どころの話じゃない。今回の結果によって、今後の耀哉の、ひいては鬼殺隊の未来が変わるかもしれないのだから。

 

──頼んだよ。あおい。

 

 耀哉の、お館様の言葉が脳裏に浮かぶ。

 ゆっくりと深呼吸をした。手の震えが収まる。指先に体温が戻り、鼓動が正常に戻っていく。

 あまねに視線を向けて、頷きをひとつ。

 護符を一枚手に取り、人差し指と親指を通して己の中を巡る力─霊力を流す。己の熱を分け与えるように。皆みなの願いを込めるように。

 藤の花の匂いが、鼻腔をくすぐった気がした。

 

 

*****

 

 

 ぴくりと指先が震え、呼吸の仕方が変わった。瞼が震え、ゆっくりとその瞳に周囲の景色を写し込んでいく。その顔のどこにも、呪いによって現れた痣は見られない。

 

「…耀哉?」

 

 ぼんやりと宙を見つめる様子に不安を覚える。どこか違和感があるだろうか。

 俺の呼び掛けに答える前に、左側にかかる重みに気づいたのだろう、目を向ける。そこにはあまねが、耀哉の左手を握りながら横になっていた。その身体には俺の羽織がかかっている。

 目を覚ますまで起きていると甲斐甲斐しく耀哉の世話を焼いていたが、全てが終わり安心して気が抜けたのか、気絶するように寝てしまったのだ。無理もないと思う。覚悟はしていただろうが、耀哉が倒れて心細かっただろうから。

 

「あおい…ありがとう」

 

 そんなあまねを見て愛しそうに目を細め、次いでこちらに目を向けて礼を言う。

 これまでと変わらない様子に、つい泣きそうになる。

 

「君たちのおかげで体調に問題はなさそうだ」

 

 ありがとう。

 もう一度小さく、しかしはっきりとした口調で告げる。

 

「っああ、ああ。…本当に、よかった…」

 

 下手くそな笑顔を向けている自覚はある。そんな俺に嬉しそうな笑みを向けて、耀哉は身体を起こした。

 その動作であまねが身動ぎし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。そして瞬時に現状を把握したのだろう。ばっと勢いよく起き上がり、俺と耀哉に交互に顔を向けている。ただでさえ大きい瞳が更にまんまるだ。

 

「あまね」

 

 耀哉が声をかける。俺からはその顔を見ることが出来ないが、その声にはふんだんに優しさと愛しさが含まれていた。

 

「ありがとう」

「…耀哉さま…よかった…っ」

 

 瞳を潤ませ握っていた耀哉の左手を両の手で包む。吐息のような笑いを溢してその頭を撫でる耀哉を見て、静かに部屋から出た。そのまま縁側に向かい庭を眺める。

 …今回、完全に呪いを弾くことが出来たのかは正直分からない。産屋敷家が呪いを受けて、約千年。長い年月をかけて受け継がれてしまった呪いはかなり根深い。おそらく、一時的に抑えることは出来ても、完全な解呪は難しいだろう。

 

「定期的にやっていくしかない、かな」

 

 とりあえず今は、何事もなく成功したことを喜ぼう。

 

 

*****

 

 

 その後、定期的に浄化を行っていくと決めて屋敷に帰り、また鬼を狩る生活へと戻っていった。

 そしてまた時が経ち、天元たちを迎えて二度目の藤の花の季節となった。

 

「おはようございます、あおい」

 

 全員で朝餉を食べ終え、なんとなくそのままのんびりとお茶を飲んでいた時、開いていた襖から耀哉の鎹烏が入ってきた。

 

「おはよう、今日もいい天気だな」

「ええ、本当に。飛んでいてとても気持ちがいい」

 

 いきなり始まった会話に、その場にいた全員の視線が集中する。

 それを気にすることなく、烏は再び口を開いた。

 

「今日は産屋敷から、書状を預かってきました」

「これか」

 

 脚に括り付けられていた書状を取り、読み込んでいく。その内容に思わず声が溢れた。

 

「へぇ…なるほど。委細承知した。二日後、産屋敷邸に伺うとお館様にお伝え願いたい」

「ええ。承知しました」

 

 では、と静かに飛び立っていく姿を見送り、未だこちらに視線を向けてくる全員に苦笑を見せた。

 

「そんなに注目されると話しにくいな」

「そんなことあるわけないだろ。何年柱やってんだ」

「八年だな」

「うわ…」

 

 何でそこで引いたような声を出すんだ、天元。

 

「酷いな、傷つくぞ」

「そんなこと言って笑顔じゃないですか一宮様。信用ないですよ」

 

 うんうんと宇髄夫婦が揃って頷く。

 

「まったく…」

「それで、お館様からの書状にはなんて書いてあったんだ?」

 

 天元からの質問に笑みを深めた。

 

「"空柱継子、宇髄天元。貴方を柱に任命したい。ついては師、空柱一宮あおいと共に明後日(みょうごにち)、産屋敷邸に参られたし"」

 

 ぽかん、と間抜け面を晒す天元。折角の伊達男が台無しだな。

 

「は、柱ですって!!天元様ぁー!!」

「こら須磨!いきなり飛び付いたら危ないだろう!でもおめでとうございます天元様!」

「痛あ!まきをさんがぶったあ!!」

「ちょっと二人とも落ち着いてよ!天元様、おめでとうございます」

 

 わっと一気に騒がしくなる。

 

「柱…俺が…」

「おめでとう、宇髄」

「おめでとうございます、今日はご馳走ですね!ふぐは季節じゃないので、別のものになりますけど」

 

 未だに呆けている天元の前に立ち、その頬を両手で挟む。貴重な美丈夫のおちょぼ口に笑いが止まらない。

 

「あはは!お前折角の伊達男が…っ」

「ひょっ、あおいひゃん!!」

 

 若干キレ気味の天元に頬から早々に手を離す。

 

「たくっ…」

「──胸を張れ、天元」

 

 悪態をつく天元の顔を見やすいようしゃがみ込んだ。

 

「お前は俺の、自慢の継子だ。…俺の誇りだよ」

 

 天元の瞳が僅かに水気を帯びた気がしたが、すぐに姿勢を正し頭を下げてきたので確信は持てなかった。

 

「あおいさん」

「うん」

「今まで、本当に世話になった。…これからは同じ柱として、よろしく頼む」

「──ああ」

 

 本当に、おめでとう。

 

 

 

 この二日後。三年ぶりに新しい柱が誕生した。

 

 音柱 宇髄天元。

 それは、誰よりも派手に戦場を駆ける者。

 

 





・継子が柱になってにこにこの人(20歳→22歳)
 本当におめでとう、天元。初めての継子だったから初めは父上殿から言われたことをそのまま教えていたけど、段々と自分の経験と天元の向き不向きを考えて指導していくようになった。
 ムキムキねずみに関しては全ての思考を放棄した模様。数年後、元継子が祭りの神を自称し始めてどうしようかなってなる。まあでも、自分にとっては可愛い元継子だし、優秀だし、別にいいんじゃないってやっぱり思考を放棄する。
 ご友人の解呪?浄化?には一応成功した。でも完全にとはいかないのでこれから定期的に行っていく。三カ月に一度か、半年に一度か…。まあ期間についてはそこまで重要じゃないのであんまり気にしなくてもオッケーです。
 柱が増える=仕事がちょっと減るという公式に気づき、ほんの少しだけテンションが上がる。


・この度柱になることが決定した元忍(16歳→18歳)
 オリ主に懐いてからは若干少年に戻ってる。今まで抑圧されてたものが信頼できる人たちに出会ったことでうんたらかんたら。…すみません適当です。
 てんげんは にんじゅうを てにいれた !
 ムキムキねずみ、“ムキッ”って鳴くのか“ヂュウッ”って鳴くのか分からなくて後者を選びました。なんかムキッだった気もするけど、個人的な趣味です。
 継子になって一月が経った夜、自分の過去をオリ主に話した。かなり緊張したし、どんな反応をされるのか想像できなくて怖かった。オリ主からの言葉にちょっと肩の荷が下りた、かもしれない。
 現在柱が二人しかいなくて超激務なのを知っているので、少しでも戦力になれるよう頑張っていく所存。その結果がきっとド派手な祭りの神。



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以下補足&あとがき

 今回ふと、紅葉の一人称って"僕"じゃなかった?と気づきまして。1話から順に確認したら4話で"俺"に変わってました。一生の不覚…!
 なので追加設定で柱付きになったときか、二十歳になったときに一人称を変えたってことにしました。
産みの親なのに適当でごめんよ、紅葉!

 えっ、須磨さんって12歳…え?
 原作で19だから、宇髄さんとは4歳差。宇髄さんが嫁をもらったのが15くらいだから…え、やば…忍、いやお父さんやば…
 あーこれ、紅葉たちに自己紹介するとき「えっ幼妻…?」ってつっこみさせた方がよかったかな…
っていうことを今回書きながら思ってました。ちゃんと調べればよかったですね。反省反省。

 そして本当に誰だよ君たち…
 原作キャラ書くのって本当難しいですよね。そのキャラの生い立ちとか思考とか、時にはどこにも書かれていないことを読み取って、想像していかなきゃならない。そんなことは私にはまだ荷が重い。と思いつつも!書けるところまで書き切りたいのが本音!がんばれ私!負けるな私!せめて原作主人公を出すんだ!
 いやーそれにしても…ほんと、文才欲しいー…


 ここまで読んでくださりありがとうございました!また次話でお会いしましょう!



(おまけ)

 天元が部屋に戻った後、ばさりと暁がやって来た。肩にとまり、ぐりぐりと頬に小さな頭を押し付けてくる。

「…難しいなぁ。人に想いを伝えるのは」

 思わず声が溢れる。暁は何も言わない。

「もっと上手いこと言えれば良かったんだが…」
「…キット」

 優しい声が響く。

「キット伝ワッテル。アオイノ想イ。ダカラ、明日カラマタイツモ通リニイレバ、問題ナイ」

 吐息のような笑み吐き出し、暁の暖かい身体を撫でる。

「そうだな。きっと、伝わってる。…ありがとう暁」
「オ礼嬉シイケド、木ノ実クレタラモット嬉シイ」
「ははっ。じゃあ明日やろう。今日はもう遅いからな」
「ヤッタ!」

 立ち上がって部屋に戻る。暁も庭に作った止まり木に既に戻っていた。
 後に残るは、静かに輝く丸い月のみ。


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