将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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後編

 

 その後、任務でも私生活でも鱗滝は勿論、胡蝶にも会う機会には恵まれなかった。そのため、鱗滝と顔を合わすのは今日の柱合会議が初めてということになる。

 夜中から降っている雨が止まず、おまけにかなり冷え込むことから、いつもの庭に面した広間ではなく、少し奥にある広間で会議は行われることとなった。

 公私関係なく、俺一人が産屋敷邸に呼び出された際は案内人が付くことはない。もう何年もこの屋敷には出入りしているし、正直今更なのだ。もちろん、他の柱などと共に複数人で呼ばれた際は使用人が案内人を勤めてくれる。柱内で明確に差別することはあまり好ましいことではないからな。余計な火種は生まないに限る。

 まあそんな事情もあるから、今日も使用人が目的の広間まで案内するのだろうと思っていた。産屋敷邸に着き、俺の姿を認めた顔見知りの使用人が"少々こちらのお部屋でお待ち下さい"と声をかけてくるまでは。

 

(これは何かあったか?)

 

 立ったままなのも如何なものかと取り敢えず適当に座り人が来るのを待つ。

 そう時間が経たない内に一つの気配が近づいてきた。

 

「お待たせ致しました、空柱様。ご案内致します」

 

 まさかとは思ったが細君だった。これは本格的に何かあるなと確信したが、周囲に人の気配がある以上下手に話題を振るわけにもいかない。

 そのまま特に変わり映えしない挨拶を交わし部屋を出る。ゆったりとした足取りで横を歩く細君と他愛ない話をして目的の広間を目指した。

 

「…わざわざ細君が案内するだなんて、何かありましたか」

 

 周囲に誰もいないことを確認して細君に問いかけた。柱の中には耳が良い者もいるため、念のため声は最小限に抑えておく。

 そんな俺に対し、細君も出来るだけ声を抑えて返事をした。

 

「耀哉様が、柱合会議の後に頼みたいことがある、と」

「…どの部屋です?」

「梅の間です」

「承知しました」

 

 最低限のやり取りで会話を終わらせる。その後も特に意味のない話をぽつりぽつりとしていき広間に着いた。中の気配からして俺以外は全員揃っているな。

 

「こちらになります」

「わざわざ案内ありがとうございました」

「いいえ。では、失礼致します」

 

 一度目を合わせてお互いすぐに視線を外した。

 襖に手を掛けながら"頼み事"について考えてみる。いつもみたいに烏を経由しなかったのは、周囲に話が漏れるのを警戒した、というのが濃厚かな。

 まあ聞けば分かるか。

 

「お、やっと来たなあおいさん。遅かったじゃねーか」

「久しいな一宮。お前が最後とは珍しい」

「お久しぶりです、一宮さん」

 

 襖を開けた途端掛けられる声に目元を緩める。

 一人一人に返事をし、最後に見慣れない顔に目を向ける。

 宍色の髪に口元から頬にかけて大きな傷がある男。頭には紅葉のものと似た造りの狐面をつけている。もしかしなくとも鱗滝錆兎だろう。

 

「お初にお目にかかる。貴方が空柱、一宮あおいさんですね。俺は鱗滝錆兎。お館様から水柱の名を賜りました」

「君が鱗滝か。話は聞いている。知っての通り、俺は空柱の一宮あおいだ。よろしくな」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。…あの」

「ん?」

「話、というのは…」

「ああ、お前の兄弟子の紅葉こうようから聞いたんだ。俺付きの隠でね」

「そうでしたか」

 

 なるほど、と鱗滝が一つ頷いたところでお館様の気配が近づいてきた。

 全員姿勢を正し頭を垂れる。

 

「やあ、皆。今日は生憎の天気だけど、半年に一度の柱合会議を新しい顔ぶれを交えて迎えられたこと、嬉しく思うよ」

「…お館様におかれましても、ますますご健勝とのこと。心よりお慶び申し上げます」

「ありがとう、行冥」

 

 その後の流れはいつもと同じものだった。強いていうなら、冒頭で改めて花柱と水柱の就任の挨拶があった程度。それぞれの担当地区の話に、十二鬼月の話。新たな柱もいるため改めて上弦の弐についての情報も共有された。と言っても、全員柱を拝命した日に直々にお館様から聞いている筈だが。

 その後も特に目立った話題もなく、会議はお開きとなった。そのままお館様も退室し解散の流れとなったが、俺はこのまま梅の間に向かわなくてはならない。

 

「あおいさんはもう帰るのか?」

「いや?この後可愛い甥と姪たちに会いに行くよ」

「甥と姪、ですか?」

「ああ」

「この屋敷にいるのか?」

「ん?天元にも言ってなかったか?」

 

 え?と首を傾げるその様子に言ってなかったことを悟る。まあわざわざ言うことでもなかったしな。

 

「…一宮はあまね様の双子の兄だ」

 

 悲鳴嶼からもたらされた情報に固まる男が二人。胡蝶はあら、と片手を頬に当てるだけだった。

 その一瞬後、天元の叫びと鱗滝の狼狽した声が響く。

 

「はあ?!」

「あまね様とは確か、お館様の奥方…。ということは、一宮さん。貴方お館様の義理の…」

「兄に当たるな」

 

 鱗滝の言葉の先を引き継いだらまた固まってしまった。…どうするかな。

 

「聞いてねぇよ!!」

「言ってないからな」

「何で!」

「正直忘れていた。すまない」

「なっ…」

 

 天元は大口を開けてそのまま固まる。俺は最近お前の間抜け面ばかり見ている気がするが、大丈夫か?

 

「甥と姪たち、ということは、お館様のご子息とご息女ということかしら?」

「ああ、そうだよ。もうじき三つになる」

「まあ、可愛い!」

 

 両手を合わせてはしゃぐ様は年相応だ。見ていて微笑ましい。

 

「一宮。顔を見るなら急がねば、寝てしまっているかもしれない」

「そうね。そろそろお昼寝の時間だもの。…ここは任せて、早く行ってあげてください、一宮さん」

「…そうだな、すまない。後は頼むよ」

 

 二人からの申し出をありがたく受け取るが、その善意が少し心に痛い。

 耀哉との話が終わったらちゃんと顔を見に行こう。そう決意し、そのままごく自然に広間から抜け出す。そして念のため大回りで梅の間に向かった。

 今回、気になるのはお館様が細君を経由して伝言を伝えてきたということ。外部に話が漏れるのを警戒したという仮説はほぼ確定だろう。そして会議後も何もなかったということは、他の柱にも内密だということ。つまり、これから俺がお館様と二人で会うことは悟られてはならない。

ならば警戒に警戒を重ねて大回りで向かっても大袈裟ではないだろう。使用人とも顔を合わさないよう、人の気配がする廊下は避けて目的地を目指す。

 そうして暫し練り歩き、尾行も何もないことを確認して梅の間の襖を僅かに開ける。身体を滑り込ませ、素早く、しかし音を立てないよう閉じた。

 中には既にお館様がお茶を飲みながら俺を待っていた。…呑気だな。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「構わないよ、あおい」

 

 そう言ってお館様─耀哉は俺にお茶を差し出した。

 

「さっきあまねが淹れてくれたんだ」

 

 耀哉の正面に座り、遠慮なくお茶を頂く。仄かな甘さが口に広がった。

 

「今日はいきなりすまなかったね。どうしても内密に頼みたいことがあったんだ」

「別にいいよ。今日は特に予定も無かったしな」

 

 その言葉に小さく笑った耀哉は、静かに本題を切り出してきた。

 

「あおいに、人探しを頼みたいんだ。…"珠世"という女性の鬼を探してほしい」

 

 "鬼を探す"という頼みに眉を顰ひそめる。鬼を狩る鬼殺隊で、その言葉は随分と異色だ。ましてや"人"と表現するとは。

 

「…どういう存在なんだ?」

 

 詳細を知らなければ話は出来ない。気になることはあるけれど、一先ず続きを促した。

 

「彼女は鬼でありながら鬼舞辻を抹殺せんとする、とても希有な存在でね。産屋敷家当主に代々引き継がれてきた名前なんだ」

「鬼舞辻を…」

「当時の産屋敷家当主の手記に、本当に極僅かだけど彼女のことが書かれていた」

 

 そこで一度言葉を切り、手元のお茶に視線を向ける。

 

「彼女は、鬼を人に戻す薬を作ろうとしているんだよ」

「?!」

 

 鬼を、人に戻す…?

 それは、もし仮に完成して、人を食う前に投与することができれば。完成しなくとも鬼を弱体化することに成功すれば、上弦だけでなく鬼舞辻だって…。

 

「完成すれば、鬼舞辻を倒す一つの手段になる」

 

 耀哉の声に思考が現実に戻る。

 

「分かっているのは"珠世"という名前と、医者をしていること。そして、定期的に住居を変えていること。おそらくこれは鬼舞辻の追跡をかわすためだろうね。そのお陰で私たちも見つけられていないのだけど」

 

 きっと警戒されてるね、私たちは鬼を狩る側だから。

 いつもの微笑みを苦笑に変えて小さく呟く耀哉に、気持ちを落ち着けるようゆっくり呼吸する。

 

「…その"珠世"という女性を見つけ出し協力を取り付けろ、ということでいいか」

「うん。頼めるかな」

「…探しはする。けど、すぐには見つからないかもしれないぞ」

「それは百も承知だよ。何百年も隠れ続けてるんだ。すぐに見つかるとは思ってない」

 

 そうか。ならば、俺も出来る限りを尽くそう。

 

「わかった。引き受けよう」

「ありがとう、あおい」

 

 お館様の顔に変わる。居住まいを正し、頭を垂れた。

 

「では空柱、一宮あおい。君に、"珠世"捜索を依頼する。くれぐれも周囲の者に悟られないよう、気をつけて」

「承知致しました」

 





・ご友人に新しいお願い事をされた人(22)
 継子が手元を離れて一息ついたらまた別のお仕事を任された。別にいいんだけどね。柱も増えたし。それにしても、これは確かに他の柱はもちろん、鬼を憎んでいることが殆どの鬼殺隊関係者には聞かせられないなと、話を聞いて思った。他言無用とのことで、紅葉たちにも内緒。


・弟弟子が柱になった!ってわくわくしてる人(23)
 俺の!可愛くて優秀な!弟弟子が!
 お酒の席で弟妹弟子たちの話を振ったら永遠話し続ける。君はどんどんキャラが変わっていくな。
 今回オリ主がお館様から密命を受けたことは知らされない。けどきっと察してる(内容までは分からない)。何年一緒にいると思ってるんだ。けど、俺に何も言わないってことは他言無用なんだろ?なら、こっちから詮索することはしないさ。でも、無理だけはするなよ。


・将来上弦の弐と関わりを持つことが決定してる姉妹(姉:16、妹:13)
 この人が最古参かつ歴代最年少の柱…。
 オリ主のことは他の隊士や隠たちが話していたので名前と武勇伝的なことは知ってる。でも見た目の情報が少なすぎた。そのためオリ主を同姓同名の別人だと思ってたら本人でびっくり。全然ごつくない!(オリ主は作者の趣味で細マッチョという設定です。あまね様と双子でムキムキは嫌だった…)
 近いうちに命の恩人になるかもしれない。


・兄弟子から聞いてた人!って実は緊張してた人(16)
 鱗滝一門はきっと仲が良いと思ってるので、頻繁に育手に顔を見せてるし手紙のやり取りもしてる。そのためオリ主のこともちゃんと知ってる。兄弟子の命を救ったことやその他の話を色々聞いて、既に好感度はカンストしてます。
 今回色々あって話せなかったけど、またちゃんと時間を作って落ち着いて話がしたい。きっとその時は二人ほど増えている。


・聞いてねえよ!!な元継子(18)
 二年間一緒に暮らしてたのに知らなくてちょっとむっとなった。後日ご機嫌取りという名目でご飯奢ってもらう。
 きっと今後同じような状況に陥る柱たちをにやにやしながら見ることになる。


・友人にまたお願い事した人(18)
 この人は多分人使い荒い。いや、ちゃんとお休みくれるしお給料やばいし良い人なんだけど、人の限界を見極めるのが上手いから“これくらいなら大丈夫”って思ってそう。勝手なイメージです。
 今回、天元が継子じゃなくなり柱も増えたことから、オリ主にお願いとして人探しを依頼した。すぐに見つかるとは微塵も思ってない。だってこの数百年間接触できてないもの。でもきっとオリ主なら見つけてくれると信じてる。只の勘だよ。



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以下補足&あとがき

 今回ふと気になって時間の表記方法について改めて調べたんですが、明治から"分"や"秒"を使用していたんですね。迂闊でした…。直すのも面倒なので、この世界線ではそんなもの存在しないってことにします。

 しのぶさんっていつ蟲の呼吸使えるようになったんですかね。というか藤の花の毒はいつ開発したの?最終選別のときにはできてるのか?それともカナエさん殺されて怒りのままに開発した?そもそもこの歳で医療行為できるんだろうか…などなど疑問が尽きない作者です。ただの履修不足なのも否定できないのがつらい…。
 取り敢えず、この世界線では患者がいっぱい来るから医療行為はお手の物(法律なんざ知らん)。毒はまだ開発出来ておらず、最終選別はカナエさんと協力して切り抜けたってことにします。その内さらっと毒作ってますね、きっと。

 お館様は別に他の柱を信頼していないわけではありません。けど、鬼を協力者にしたい、なんて言っても反対されるかもしれない。ならば最も信を置くあおいにだけ話して見つけてもらい、他に話すのは事が進んでからでいい。と判断しました。基本的にあおいはお館様のお願いを断りませんからね。鬼に対する憎悪もそんなにないですし。それなりに嫌いですけど。



 ここまで読んでくださりありがとうございます!
 また次回お会いしましょう!
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