将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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後編

 

 古風殿から、粂野が蝶屋敷に運び込まれたという連絡を任務先の藤の花の家で受け取った。下弦の鬼が出たらしい。幸い、派遣された隊士たちは全員(ひのえ)以上だったらしく、なんとか犠牲も最小限に抑えられたとか。しかし怪我の状態から今後隊士を続けることは不可能だろうと綴られていた。

 

「…そうか」

 

 今の任務地は比較的離れた場所にあり、かつまだ数件任務が残っている。見舞いに行くのは少し先になりそうだなと考え、耀哉から届いた手紙にも目を通した。

 俺への労い、あまねと子どもたちの近況報告と続き、最後に新しく(きのえ)の隊士を柱へと昇格させる旨が書かれていた。おそらく粂野と共に任務に行き、下弦の首を斬った隊士だろう。次の柱合会議、つまりは明日だが、そこで話をするつもりらしい。俺は今回参加出来ないから、後日天元に話を聞いてみようか。

 そうぼんやりと考えて二日後の早朝。天元から手紙が届いた。烏の様子を見ると相当急いで飛ばしたらしい。着いた瞬間もう無理というように畳にへばりついていた。休憩する間もなく夜通し飛んでいたのだろう。取り敢えず水と木の実をいくつか用意し休ませてから、天元からの手紙を開く。

 …珍しく感情的、というか書きながらキレてるなこれ。

 読んでいくに、新しい柱候補が耀哉に噛みついて、それで腹に据えかねているらしい。

 

 "隊士のことは使い捨ての駒としか考えていない。武術も何も出来ない癖に、安全な場所から指示だけ出していいご身分だな"。

 

 とまあ、要約するとこんなことを言ったようで。…これは…うん。間違いなく俺もキレる自信がある。とはいえ俺は最古参の柱だから、率先してキレるような事があっては他の柱や隊士に示しがつかない。…普段ならな。けど耀哉、ひいては産屋敷家に関することはまた別だ。

 …昔、耀哉が刀を握ったことがある。自分も隊士たちのように人の命を守り、鬼を狩りたいからと。結局、素振りが十回を越える前に脈が狂い、断念せざるを得なかったが。

 あの時改めて誓ったんだ。俺が耀哉の刀になると。耀哉の分も、俺が二人分の鬼を狩ると。あいつがどれだけ悔しい思いを、苦しい思いをしているか知っているから。

 そんなわけだからまあ、示しがつかないと言えどイラッと来たことに代わりはないので。

 

「…ああ、お前か。柱合会議でやらかしたのは」

 

 言葉に多少の棘が混ざるのも仕方のない事なのである。

 

 

 

 長期の任務が終わり、ようやっと粂野の見舞いに行くことが出来た。身体も大分回復しているようで、もう既に機能回復訓練を開始しているらしい。

 

「今後、どうするか決めたのか」

 

 見舞いの品を渡し、思ったよりも穏やかな顔をしている粂野を見つめる。

 

「…はい。師匠の手伝いをしようかとも思ったんですけど、実弥が柱になるって言うから。なら俺はその支えになりたい。もう一緒に鬼を斬ることは出来ないけど、それでも傍にいたいんです。大事な親友で、兄弟みたいな奴だから」

 

 そう告げる粂野は、どこまでも真っ直ぐ前を向いていた。

 

「そうか…。いいと思うよ。きっとその親友も心強いだろう」

「へへ。ありがとうございます」

 

 照れたように頬を掻く様子を微笑ましく思いながら雑談を続けていると、病室の扉ががらりと音を立てて開いた。

 

「匡近ァ。調子はどうだァ?」

 

 室内に声をかけながら入ってきたのは、胸元が肌蹴た傷だらけの男だった。

 

「…ああ?誰だあんた」

「実弥!この人は空柱の一宮あおいさんだよ。前に話しただろ」

「空柱…」

 

 実弥。粂野の弟弟子。そして、天元の手紙にあった男。

 

「…ああ、お前か。柱合会議でやらかしたのは」

 

 少しだけ言葉に棘を含める。さて、どう反応するかな。

 

「…半月程前に風柱を拝命した不死川実弥だ。よろしく頼む」

 

 そう言って軽く頭を下げる姿に面食らう。一度くらい凄んでくると思ったんだが。

 ちら、と粂野に視線を向ける。俺と不死川のやり取りをあわあわしながら見ている様子に、再び不死川に顔を戻した。そして一つ、大きく息を吐き出す。

「はぁー…」

 

 粂野と不死川が肩を揺らした。が、今は放置だ。

 不死川が柱合会議に呼ばれたのは粂野が大怪我をしてすぐ。聞けば、意識が戻ったのは運び込まれて三日後だという。ということはだ。不死川は、親友兼兄弟の意識が戻っているかいないかも微妙なところで召集されたのだろう。つまりは死の瀬戸際。そこでいきなり一人だけ柱に昇格させたいと言われれば噛みつきたくもなる、か。

 しかしここ数年、柱の入れ替わりが激しいのも事実。耀哉―─お館様からしたら条件を満たすのであればすぐにでもその席を埋めたいはず。そして、より多くの鬼を狩ることを望むだろう。

 どちらの想いも分かってしまう以上、俺からは何も言えないな。

 それにしても…。

 

(相変わらず人心掌握術が半端ないな…)

 

 先の不死川の言葉からは、お館様に対する敬意を感じ取ることができた。

 どうやったのかは知らないが、自身に敵対心を持っていた男をここまで飼い慣らすとは流石の一言である。正直ちょっと怖い。

 

「一宮さん…?」

 

 盛大なため息を吐いてから一言も発しない俺を不審に思ったのだろう。粂野が恐る恐る話しかけてくる。

 

「ああいや、すまない。…失礼した、不死川。俺は空柱の一宮あおい。これから同じ柱としてよろしくな」

 

 今度は不死川が面食らったような顔をして黙り込んでしまった。きっと俺も何かしらの苦言を言うと思ってたんだろうなぁ。

 

「あんたは…」

「ん?」

 

 黙り込みながらも何か言葉を探しているようだったので静かに待っていれば、若干目を逸らしながら話しかけてきた。

 

「お館様と付き合いが長いんだろォ?…どんな人だァ」

 

 …どんな人、か。

 

「…そうだな。おそらく、鬼殺隊の誰よりも鬼を滅することへの執念が強い。きっと、そのためなら使える手段は何でも使うだろうな」

 

 それこそ、自分自身の命さえ惜しくはないだろう。

 

「けど、それ以上に愛情深い人だよ。自分より年上の隊士でさえ"大切な子ども"だと言って慈しんでる」

 

 後は、お前が感じたままの人だ。そう言葉を締め括ると、また質問が飛んで来た。

 

「あんたの事も子どもって言うのか?」

 

 その質問への答えは"否"だ。耀哉は俺個人を子とは呼ばない。他の柱と一緒くたに呼ばれることはあっても、俺個人のことは昔から変わらず"友人"と呼ぶ。たまにふざけて"義兄上(あにうえ)殿"と呼ばれることもあるが。

 けれど、その事をそのまま伝えても芸がない。だから敢えてはぐらかすことにした。

 

「さあ、どうだったか。今後もお前が柱として居続ければ分かるかもしれないな」

「…はっ、上等だァ。そう簡単に死にやしねえから安心しろォ」

 

 その返しに軽く笑う。この調子なら大丈夫だな。

 

「ま、励みなさい。若いの。…俺はそろそろ帰る。また見舞いに来るよ、粂野」

「あ、はい!ありがとうございました」

「若いのって…あんたもそんなに年変わんねェだろォ」

 

 扉に向かって歩いていたが、不死川からの言葉に顔だけ振り返る。

 

「ん?俺はもう23だぞ」

「「え」」

 

 二人とも固まってしまった。

 鬼殺隊に入ってもう十二年経つから、最近は新人隊士を見ると眩しくて仕方ない。俺も昔はあんなだっただろうかと考えながら、じゃあなと言って部屋を出る。

 そして廊下で会った胡蝶姉妹に声をかけた。

 

「俺ってそんなに童顔か?」

 

 胡蝶はにこにこ笑い、しのぶ嬢は少し視線をずらしたが答えてくれた。

 

「口面をつけているから正直年齢不詳ではあるかしら」

「雰囲気は大人だけど、話してみると意外と気さくだから判断が難しいです」

「目元だけ見たら10代後半でも十分通じると思いますよ」

 

 そうか…そうかぁ。

 

 

*****

 

 

 今日与えられていた任務を全て終え、そろそろ近くの藤の花の家に向かうかと考えていた。しかしその予定は、どこかに行っていた暁が落とした情報によって変更されることとなる。

 

「此処カラ東ニ約四里。対ノ扇ヲ持ツ鬼ガイルッテ、近クノ猫タチガ噂シテタ」

「!」

 

 対の扇を持つ鬼。かつての水柱、白金殿が言っていた上弦の弐の特徴。

 それを理解するや否や、俺は東に向かって駆け出していた。

 今日の任務は三件。いずれも大した疲労にはなっていない。四里ならばそこまで時間をかけずとも辿り着ける。

 そう判断しそのままの速度で走り続けてすぐ。一羽の烏が飛んで来て甲高い声で叫んだ。

 

「カアァッ!花柱、胡蝶カナエ!現在上弦ノ弐ト交戦中!応援ニ向カエェ!!」

 

 東!東!と続けて叫ぶ声にこちらも叫び返す。

 

「このまま付近の(きのと)以上の隊士と隠を呼べ!それと暁は蝶屋敷に知らせろ!」

「了解!」

「分カッタ!」

 

 暁たちと別れ先程よりも速度を上げてひた走る。数年前よりも初動は早いが、正直間に合うか分からない。

 木や民家の屋根を利用して時間を短縮する。そうして辿り着いた先に見えたのは、今にも花柱に止めを刺そうとする鬼の姿。

 

──空の呼吸 参の型 黒雲白雨

 

 白金殿は氷を吸ってはいけないと言っていた。おそらく空気中に粒子となってばら蒔かれているのだろう。そう予測し、念のため周囲の空気を霧散させるよう空中から複数の斬撃を放つ。そのまま花柱を庇うよう鬼との間に降り立ち、勢いのまま伸ばされていた腕を斬り飛ばした。どちゃっと音を立てて壁の近くに落ちる。

 

「いきなり斬りつけてくるなんて酷いじゃないか」

 

 俺たちから距離を取り、腕を生やしながら苦情を入れてくる"上弦"と"弐"の文字が刻まれた瞳を持つ鬼。その虹色の瞳が暗闇に妖しく光っていた。

 

「い、ちみやさ…」

「喋らなくていい。呼吸で止血は出来るか」

 

 小さく頷くのを確認し、花柱を抱き上げる。どうやら上弦の弐は待っていてくれるようなので、そのまま近くの壁に寄りかからせた。そして羽織を脱ぎ、身体を覆うように被せる。

 

「こちらの事は気にしなくていい。今は止血と体力の温存に専念しなさい」

 

 また小さく頷いて目を瞑る花柱に背を向け、改めて鬼に向き直った。

 余裕の顔で待っている様子が腹立たしいな。

 

「あ、終わった?もう酷いじゃないか!いきなり斬りつけた挙げ句無視するなんて!それに…その子を救うのも邪魔して」

「…救う?」

「そう!その子はもうすぐ死ぬから、早く救ってあげないと可哀想だろ?」

 

 俺と一つになれば苦しみから解放されて、俺の中で永遠に生きられるんだぜ。

 当たり前のことを言うような顔で、狂ったことを宣う。

 

「…五年前、水の呼吸を扱う柱を殺したのはお前か?」

「ん?えーと…水の呼吸を扱う柱…ああ!あの子かな!嫋やかで、でもその中に芯があって凄く綺麗だった…」

「そうか、もういい」

 

──空の呼吸 壱の型 紫電一閃

 

「うわっ」

 

 一瞬で相手の懐に入り刀を振る。上弦が仰け反って避けたところで大きく飛び退き、空中からもう一度参の型で斬撃を浴びせた。

 

「ちょっ、まだ話してる途中だぜ?聞いてきたのはそっちなんだから、最後まで聞いてよぉ」

 

 まあ俺、男には興味ないんだけど!

 そう言って笑う鬼に、こちらもお前の趣味趣向には毛ほどの興味もないよと心の内で返す。…ああでも、お前の能力と他の上弦や鬼舞辻の情報に関しては別だ。だからなるべく多くの情報を落とせこの気狂い野郎。

 

「あっはは!腕もーらった!」

 

 俺の腕に上弦の持つ扇が迫る。なるほど、それはちゃんと武器として使うのか。

 

──空の呼吸 弐の型 行雲流水(こううんりゅうすい)

 

 腕の位置をずらして刀で攻撃を受け流す。

 

「あーあ、駄目だったかぁ。…それにしても君、反応いいね!」

 

 楽しいなぁ!

 そう言いながら連続で攻撃してくる上弦に対し、こちらも全て受けきって流す。

 

「これも受けるのかぁ!凄いね君!」

 

 一度距離を取り、互いに互いの様子を伺う。

 

「前言撤回。君、面白いね!名前教えてよ」

「断る」

「えー!なんでさぁ」

 

 …悔しいが、きっと今の俺ではこの鬼の首を斬ることは出来ない。少なくとも、一人では無理だ。

 悔しい。けれどそれ以上に、俺は俺自身が情けない。背後に人を庇いながら確実に上弦の首を斬れるほどの技量を、俺は持ち合わせていないのだ。これで柱最古参とは片腹痛いな。

 

──きみに…託す、から…

 

 …すまない。白金殿。それでも俺の後ろには胡蝶がいる。瀕死だが生きてるんだ。だから、今は守らなくては。死なせるのではなく、生かすために。

 

「何だい?考え事かな?…随分と余裕だねぇ」

「そんなわけないだろう?お前の攻撃を受け流すだけで精一杯さ」

「普通の人間は受け流す前に俺の血鬼術を吸って肺が壊死して死ぬんだぜ?…ねえねえ、やっぱり名前教えてよ」

「お前たちに名乗るような名などないよ」

「つれないなぁ」

 

 空が白み、夜が明ける気配がする。

 

「んー?あれ、もう夜明け?残念だな、また救い損ねたぜ…」

「…」

「ま、いっか。ねえねえ君!そんなに強いんだから柱だろう?…なら、他の鬼に殺されてくれるなよ?」

 

 急に声が低くなり、纏う空気も変わる。しかしそれも直後には霧散した。

 

「これは置き土産だ。頑張ってね!」

 

 ばいばーい!と言いつつ扇を振るう。その瞬間、ぶわっと湧き出る冷気を纏った煙幕に咄嗟に目を瞑った。

 

──空の呼吸 参の型 黒雲白雨

 

 大きく飛んで空気を散らすために斬撃を飛ばす。身体を地面に戻したときには、上弦の弐は姿を消していた。

 

「ふぅ…」

 

 一度息をつき、血鬼術に晒された身体や目に問題がないか軽く確認する。目元と腕に違和感があるが特に重症ではないと判断し、踵を返して民家の壁に寄りかかったまま気絶している胡蝶に駆け寄った。

「脈が少し弱い…が、生きてはいるか…」

 

 白金殿のように血塗れではあるが、彼女よりはまだ軽傷だ。止血も出来ている。よかった…。

 しかし安心すると共に肺の音に違和感を覚える。おそらく氷を吸ってしまったのだろう。日光浴で良くなるといいんだが…。

 手早く応急処置を施していく。その途中、暁がやって来て肩に止まった。

 

「モウスグ皆来ルヨ。…遅クナッチャッテゴメンネ」

「いいや、ありがとう。十分だ暁」

 

にゃーん

 

 暁に顔を寄せ礼を言った俺の耳に、からんという音と聞き覚えのある鳴き声がした。

 

「お前…。っその紙、鬼の気配が…」

 

 怪我をしていたところを保護し、それ以降たまに屋敷に遊びに来ていた金目の三毛猫。その首に、見慣れぬ紙が鬼の気配と共にくくりつけられていた。

 太陽が顔を出し、俺たちを照らす。ジュッという音がして紙が燃えた。

 

にゃーん

 

「…コノ薬ヲ飲マセロッテ言ッテル」

「は…くすり…?」

 

 暁が訳した言葉に少し混乱する。薬というのは、この足元に転がっている試験管か…?

 

にゃお

 

「血鬼術ノ効果ヲ消ス薬」

「…」

 

 その言葉に、半信半疑ながらも試験管を手に取り、軽く揺する。

 

うにゃん

 

「"珠世"ガ作ッタ薬。早ク飲マセナイトモット酷クナル」

「…何故、これを持ってきた?」

 

 ついこの間出した探し人の名前に、眉間に皺が寄るのを自覚した。

 

にゃあ

 

「前ニ助ケテモラッタオ礼。マダ出来テナカッタカラ」

 

 暁が言い終わると同時に、早くしろと言わんばかりに身体に頭を押し付けてくる。

 試験管の蓋を開けて傾け、少量を掌に出し舐め取った。少し待つと目元の違和感が緩和されていく。

 

「…ふぅ。分かった。…後で話を聞かせてくれよ」

 

うに

 

「イイヨダッテ」

「…ありがとう」

 

 頭を一撫でし、胡蝶の口元に試験管を当てる。ゆっくりと傾け飲み込んだのを確認し、注意深く観察する。…肺の音が良くなったな。

 一先ず問題は無さそうだと力を抜くと、遠くから胡蝶を呼ぶ声がする。しのぶ嬢だ。

 

「姉さん!!」

 

 必死に走ってきたのだろう。顔は青く息も上がっている。一旦落ち着かせようと声をかけた。

 

「しのぶ嬢、一度深呼吸を」

「そんなこと…!」

「いいから」

 

 少し強い口調で伝えると、口を噤み大人しく深呼吸をした。しのぶ嬢の手を取り、胡蝶の首元に持っていく。

 

「大丈夫。君の姉さんは生きてるよ」

「…はい」

「けれど治療が必要だ。切り傷に加えて上弦の血鬼術を吸ってしまったらしい。今は落ち着いているが、肺の音が変だった」

「…はいっ…」

 

 深呼吸で落ち着いた呼吸が、今度は涙によって乱されていく。だがもう大丈夫だろう。泣いてはいるが、先程に比べれば顔色も良くなっているし、目の焦点も合っている。

 

「花柱様!空柱様!」

 

 ちょうど駆け付けた隠たちに二人を託す。

 

「俺は軽傷だ。先に花柱を」

「は、はい!」

 

 取り敢えずこれで彼女は蝶屋敷に運ばれる。そうすれば適切な処置が成されるだろう。

 

「ふぅ…」

 

 流石に少し疲れたな。座り込みたいのを意地で耐え、大人しく座っていた猫を抱いて立ち上がる。

 

「アオイ、アレ」

 

 応援に駆け付けた隠と隊士が事後処理に当たっている中、暁が何かを見つけたらしく小さく囁いた。

 

「ん?あれは…」

 

 上弦の弐の腕。挨拶代わりに斬り飛ばしたものが、たまたま日陰になるところに転がって残っていたらしい。

 

「燃やす…いや、何かに利用出来るか…?」

 

 "珠世"は鬼を人に戻す薬を作ろうとしているらしい。おそらく検体はあればあるだけいいはず。これを手土産に少しでもこちらの心証を良くしておけば、今後協力関係を結びやすくなるか…。いやそもそもの話、果たして鬼の腕で喜ぶのか…?

 まあ何かに使えるかもしれないと、取り敢えず羽織でぐるぐる巻きにして持って帰ることにする。

 

「空柱様。貴方も蝶屋敷に行きましょう」

 

 副音声でさっさとしろと言ってくる紅葉の言葉を無視して、羽織にくるんだ腕を差し出した。

 

「紅葉。この羽織、決して中を覗かずにこのまま俺の私室に持って帰ってくれ。日の光が入らないよう絶対に襖は閉めろ」

 

 唯一見える目は鋭く俺を睨み、眉間には深い皺が刻まれている。こっわ。

 

「…分かった」

 

 渋々、本当に渋々といった様子で羽織を受け取る。…これは後で説教かな。念のため覚悟しておこう。

 

「すまない、ありがとう」

 

 最後にもう一睨みして走っていく背中を見つめ、これは早々に蝶屋敷に向かった方がいいなと判断した。だってあんなに怒ってる姿を見るのは俺が千里眼で無茶した時以来だ。正直滅茶苦茶怖い。

 

「…お前と話が出来るのは少し先になりそうだ。暁と屋敷で待っていてくれないか」

 

にゃーお

 

「別ニ構ワナイッテ」

「…ありがとう」

 

 猫と暁の姿を見送り、念のため隠に背負ってもらい蝶屋敷を目指す。

 夜が短くなる夏の気配が、少しずつ濃くなり始めた日の出来事だった。

 





・怒涛の勢いで物事が進んでいって流石に疲れた人(23歳)
 保護した猫がまさか本当に情報持ってくるとは思わなかった。持ってきたのは情報というより薬だったけど。この後ちゃんと蝶屋敷で治療されて帰って紅葉に説教()される。聞き取り調査はその後かな…。後日しのぶ嬢から上弦の特徴について問いただされる未来があるかもしれない。
 天丼定食食べた。ちゃんと奢った。


・めっちゃ凹んでたけど持ち直した人(17歳)
 柱になれたのに…なんて様だ…てな感じで自己嫌悪ループ入ってたけど、オリ主の話聞いてちょっと楽になったかもしれない。いつまでもくよくよしてるなんて男じゃないな!
 数年後に現れる鬼連れの少年に稽古をつけることになる。
 海老天丼食べた。奢るつもりが気づけば奢られてた…。


・天丼屋さん行きましょう!な妹弟子(16歳か17歳)
 あの人が一宮さん…かっこいいし綺麗な人だね!なお、この日のオリ主は巡回のみの日だったので昼間は普通の着流し姿です。只の綺麗なお兄さんです(※あまね様の双子の兄)。
 天丼食べた。兄弟弟子と割り勘で奢るつもりがさらっと奢られててびっくり。かっこいい…。これが大人…。


・口下手すぎて会話できなかった末っ子弟子(17歳)
 会話できなかったけどお礼も言えた(言えてない)しなんか満足。天丼も美味しいが、やっぱり鮭大根が一番だな。ムフフ。
 この数か月後に柱に昇給するが大丈夫だろうか。この話でもやっぱり「俺は柱じゃない」的なこと言うんだろうか。
 海老天丼食べた。流石(支払いの)手が早いな。
 ──それは、誰よりも冷静に判断し、鬼を絶つ者。


・憧れのお兄さんが思いの外年上で思わず固まっちゃった人その1(18歳)
 いつも優しいオリ主がちょっと棘のある物言いで少しヒヤッとした。あ、この人怒ると怖い人だ。
 えっ23なの?!てっきり20くらいかと…って最後は固まった。


・柱合会議でやらかしてちょっと反省した人(17歳)
 いっぱいいっぱいでプッツンした結果の言動。という設定。オリ主を見て「こいつが最古参?ひょろ…」って最初は思った。けど、匡近やお師匠から話は聞いてたし、お館様とも付き合いが長いというから大人しくしてた。今後どんどん懐く。予定。
 オリ主の年齢聞いて思わず固まっちゃった人その2。え、詐欺だろォ…。
 ──それは、誰よりも鬼を滅する執念を持つ者。


・無事生き延びたお姉さん(17歳)
 オリ主の登場があと数秒遅かったら殺されてた。多分バタフライエフェクト的な何かの影響。まあ間に合ったから問題なし。薬のおかげで血鬼術は消えたけど、壊死した肺胞は治らなかったため柱は引退。蝶屋敷の女主人は継続。多分しのぶ嬢は原作程怒ってない、から藤の花は食べない。きっと。


・にゃーん
 オリ主珠世のこと探してるのか。もう来ない方がいいかな。って悩んでるところにオリ主vs上弦の弐を目撃。更にその奥に倒れているカナエさんを発見。大急ぎで家に戻って薬咥えて戻った。これは助けてもらったお礼。きっと珠世も許してくれる。
 オリ主の優しい手も、柔らかい声も、暖かい瞳も大好き。でも一番は珠世。オリ主が彼女に害を与えるようなら情報なんか話さないけど、「頼みたいことがあるんだ」って言った時の声に嘘は感じなかった。だから、きっと大丈夫。


・挨拶代わりに腕切り落とされた女好き
 あ、可愛い子はっけーん。苦しいね、俺が救ってあげよう!と思ってたら上から人が降ってきた。邪魔されたけど俺は心が広いから待っててあげるよ。後でどうせ救うしね。
 最初は本当に興味なかったけど、どんな攻撃しても流すからなんか楽しくなっちゃった。結果、時間が無くなり帰ることに。名前聞けなかったし、何の柱なのかも分かんなかったな。ま、次に会った時に聞けばいいか!…だから、他の鬼に殺されてくれるなよ?


・割とキレてる隠の人(26歳)
 さっさと蝶屋敷で治療受けて来い。おこ。ちなみにめっちゃ心配してる。任務三件片づけてからの上弦の弐で疲れてないわけない。オリ主は特に疲れてないって最初言ってたけど、柱に渡される任務の時点でお察し。あと重症じゃないって判断するのは医者であってお前じゃないからな?
 この後ちゃんと言われた通り中を見ることなくオリ主の私室に置いて襖もきっちり閉めたし、何なら羽織の上から更に箱で覆っておいた。有能。



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以下補足&あとがき

 捏造を重ねて煮詰めて凝縮して出来たのがきっとこれ。怒られないかな…。

 原作の茶々丸さんって何歳なんだろうね。あとたぶん、というか絶対こんな勝手なことしないだろうなぁと思いつつ、この茶々丸さんは原作茶々丸さんより若いので!多分1歳なったかなってないかの遊びたい盛りなので!きっとお散歩好きだし、怪我してるとこを保護してもらった+優しくしてもらった=優しい!気に入った!好き!ってなると信じてる。うん。
 ところで茶々丸っていつも愈史郎の鬼血術の紙つけてるのかな。つけてるんだろうな。この頃はまだ昼間の散歩のときには外してる設定でお願いします。保護された時はなんか…破れたかしたんじゃないですかね(適当)。

 前話で書き忘れたんですけど、錆兎と真菰は生きてます。あおいが最終選別に行った後に耀哉に手紙で「手が6本生えた規格外特殊性癖鬼がいる」って報告して、その情報を基に当時の炎柱(槇寿郎殿)が斬ってくれました。なので紅葉以降の弟妹弟子は最終選別で死にはしません。これぞ無自覚救済(意味違うかもしれない)。ただ、その後は任務でお亡くなりになったり怪我で引退したりで現役隊士は今のところ錆兎、真菰、義勇のみ。まあ今回で錆兎引退なんですけどね!まあ生きてるだけ御の字ってことで!

 匡近も生きてます。以前最終選別に行く直前にあおいから貰ったお守りはずっと肌身離さず持っていました(5話参照)。「ちょっと良いことがある、かもしれないお守り」。信じてるわけではないけど、考え方次第ってあおいが言っていたので「良いことあったらいいな」という軽い気持ちで持っていました。今回の任務では上級隊士数人と一緒になったり、鬼と対峙中に鬼の上に屋根やら柱が落ちてきて隙になったりと色々あり、怪我と引退だけで済みました。良いことあったかもしれないね。
 不死川さんの口調も性格もわっかんねぇ…。取り敢えず語尾にちっちゃい母音付けといたけど合ってるんだろうか…。今回書いてて苦労したシーンぶっちぎりのNo.1です。おめでとうございます。

 そして童磨!お前も口調と性格難しいんだよ!サイコパァスなのは分かるんだけどね??それを書けるかって言われたらまた別問題なんだよね。取り敢えずこれが私の限界でした。書いてないけどあおいはかなり殺意マシマシです。書けてないけど!
あおいが比較的軽傷なのは、童磨が最初から本気じゃなかったからです。途中で楽しくなってちょっと力出してきたけど、どちらかというと遊んでた感覚。
あと、腕を持って帰られたことは知らないし今後も気づかない。ところで鬼の千切れた四肢ってその後どうなるんですかね。鬼が死んだり日に当たるなりしたら灰になるんでしょうけど、それまで残ってるんだろうか。千切れた手足が転がってるの怖いね。
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