将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話 作:シグル
蝶屋敷に駆け込み、待機していた胡蝶姉妹に二人を預ける。そして耀哉宛に文を認め、暁に届けてもらうよう頼んだ。
「すまないな、何度も飛んでもらって」
「大丈夫、コレガ仕事。ソレニ飛ブノ楽シイ」
「そうか」
その主張に小さく笑う。ばさりと音を立てて飛び立つ暁を見送り、一息吐いた。そのまま縁側でぼんやりと月を見続けて暫く。近づいてきた気配に後ろを振り返った。
「──お疲れ、胡蝶」
「お疲れ様です、一宮さん」
しのぶ嬢が屋敷を訪れたあの日。夕方彼女から届いた手紙には、胡蝶が目を覚ましたと記してあった。時間を見つけて見舞いに行き、寝台で身を起こす胡蝶を見た瞬間安堵したのを覚えている。
その後身体の状態が安定し機能回復訓練に進んだものの、やはり呼吸を扱うことは出来なかったようで。家族全員で話し合った結果、蝶屋敷の看護師として鬼殺隊と関わっていくことを決めたのだという。
その過程でしのぶ嬢に鬼殺隊を止めるよう説得し軽い喧嘩が勃発するという事件が発生したのも、今となってはいい思い出だ。
俺は妹がいる身だから胡蝶の気持ちも理解出来るし、その妹を守りたいがために鬼殺隊入りを決意したから、しのぶ嬢の姉の助けになりたいという気持ちも分かるのだ。正直板挟みだった。
しかしどうにかこうにか二人の納得する結果に持ってこれたのは我ながらよくやったと思っている。積極的に思い出したくはないが。
何はともあれ、胡蝶は看護師として相変わらず蝶屋敷の主人でいるし、しのぶ嬢の毒の研究も順調に進んでいると今日の任務で分かったのだから上々だろう。毒については双子の治療が一段落ついたら知らせてやろう。
「身体の方はどうだ?」
「もうすっかり良くなりましたよ。仕事だってちゃんと出来てます」
「なら良かった」
おっとりと笑う胡蝶は以前と変わらない。いや、前よりも吹っ切れた顔をしている気がする。そしてそれはしのぶ嬢にも言えることだ。
お互い腹を割って話したことですっきりしたのだろう。いくら家族で仲が良くても、声に出さねば分からないことだってある。胡蝶が生きていてくれたからこそ実現出来たことだと、改めて安堵の息を吐いた。
「それで、双子の容態は?」
「腕を斬られた子は出血が酷かったんですが、早めに止血出来たからか今は安定しています。けれど暫くは熱が出るだろうし、感染症も怖いから絶対安静ですね。もう一人の子は一宮さんも言っていた通り気絶しているだけで、目立った傷はありません。今は二人とも寝ていますよ」
「そうか、良かった…。ありがとう、胡蝶」
「いいえ、それが私たちの仕事だもの」
「だとしてもだ。礼くらい受け取ってくれ」
改めてありがとう、と軽く頭を下げる。
「…そのお礼、確と受け取りました」
その言葉の直後、胡蝶がふふ、と笑った。口元に手を当てたままにこやかに言う。
「一宮さんって、意外と頑固ですよね」
「…助けられたと感じたら、礼を言うものだろう」
「ふふ。ええ、そうですね」
にこにこと見つめてくる胡蝶に何となく居心地が悪くなった俺は、この場から逃げ出すことを決めた。戦略的撤退である。
「あー…そういえば、しのぶ嬢は今どこに?」
「処置が終わった後も記録を付けていたから、まだ処置室にいると思いますよ」
手伝おうとしたらここはいいから俺を探して状況を説明するよう追い出されたらしい。
困ったように呟く胡蝶だが、どことなく楽しそうだ。俺はお前たち姉妹の仲が相変わらず良さそうで嬉しいよ。
「じゃあちょっと処置室に顔を出してくるかな」
「私もご一緒しても?」
「ああ。むしろ来てくれないと困る」
疑問符を飛ばしながら追い掛けてくる胡蝶を連れて、しのぶ嬢がいるという処置室に向かう。入院患者が多くいると言えど、夜明け前だからかなり静かだ。
「しのぶ嬢、一宮だ。入っても?」
「構いませんよ」
入室の許可を貰い中に入る。椅子に座っていた彼女は少し疲れた様子だが、やりきったというような晴れ晴れとした表情をしていた。
「胡蝶にも言ったんだが、改めて。二人を助けてくれてありがとう」
「これが私たち蝶屋敷の人間の役目です。お構い無く」
言葉は違うものの内容は胡蝶と同じもので、ああやっぱり似てるなと、これまでも何度か感じたことをまた思う。微笑ましくなるも、ここに来た目的を果たそうと姿勢を正してしのぶ嬢に向き直った。
「双子についてはまた後日、目を醒ましてから色々と決めようかと思ってる」
「そうですね、それがいいかと」
「それでだ。双子のことは一旦置いておいて、今日は元々ここに寄ろうと思っていたんだよ」
疑問符を浮かべ続ける胡蝶と、何かを察したのか緊張した顔をするしのぶ嬢。二人の顔を順繰りに見て、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「おめでとう、しのぶ嬢。今回の毒はちゃんと効いたよ」
息を飲む音が室内に響く。目を見開き固まるしのぶ嬢に対し、胡蝶はもう泣きそうだ。目に涙を貯めて勢いよくしのぶ嬢に抱きついた。
「おめでとう、しのぶ…!良かったわね…!」
「姉さん…」
姉の様子にようやっと事態が飲み込めたのだろう。くしゃっと顔を歪ませて胡蝶の肩に顔を埋めた。
「姉さん…やったわ、私…っ」
「ええ、ええ!やったわね…!凄いわ、しのぶ…!」
そうして互いに抱き合っていた胡蝶姉妹は、暫くして落ち着いたのか身体を離し、俺に向かって礼を言ってきた。
「ありがとうございます、一宮さん。貴方から藤の毒について聞いていなかったらもっと時間が掛かっていたわ」
「私からもお礼を言わせてください。妹に手を貸してくれてありがとうございました」
「…ああ、どういたしまして」
二人が顔を上げたところで、しのぶ嬢の僅かに赤くなった目を見つめて改めて問う。
「しのぶ嬢。俺が出した条件を覚えているな」
──決して自身を鑑みずに鬼を狩ることなどしないと。家族と共にこれからも生きるという覚悟を、決めてほしい。
「もちろんです」
強い眼差しを返してくる彼女を見て、もう大丈夫だと確信する。
一月前、しのぶ嬢の目にはある種の覚悟が決まっていた。何としてでも鬼を、上弦の弐を狩るという決意。そのためならば己の身を犠牲にしても構わないと言い出しそうな気配もあった。
けれど今は違う。姉が生きてる。他の家族もいる。鬼を狩る手段も出来た。それらの事実は彼女の心に更なる余裕を生み、後ろではなく前を向かせる鍵となった。どれか一つでも欠けていては駄目だっただろう。それだけしのぶ嬢は思い詰めていたから。
彼女の頭に手を乗せ弾ませる。
「天元にも報告してあげなさい。気にしてるだろうから」
「はい!」
事情は知らないながらも悪いことではないと判断したのだろう。俺たちのやり取りを静かに見守っていた胡蝶に、しのぶ嬢が顔を向けた。
「姉さん」
「なあに、しのぶ」
「私、姉さんの研究手伝うわ」
今度は胡蝶が目を見開く番だった。俺は研究とやらを把握していないので黙っておく。
「姉さんから話を聞いてずっと考えていたの。…正直、鬼が可哀想っていう姉さんの考えは私には分からない。任務に行って鬼に大切な人を奪われた人たちを見る度に、どうしようもない怒りが沸いてくるから。…けど、それと同時に、この悲しみの連鎖を絶ち切りたいとも思うのよ」
ぎゅっと、しのぶ嬢が自身の手を強く握る。
「だから決めたの。鬼を殺す毒が出来たら、今度は姉さんの研究を手伝おうって。…鬼を人に戻す、薬の研究」
鬼を人に戻す薬。その言葉に少なからず驚く。まさか鬼殺隊でそのような研究をしようとする者がいるとは…。ああでも。胡蝶ならやりそうだな。鬼とも仲良くできるはずだと言っていた胡蝶なら。
そして、もしその研究を進めるのだとしたら。まだ直接会えていない段階で考えるのは早計だが、珠世殿と連携すればより早く薬の完成が実現するのではないだろうか。
どうなるか分からないが、一度耀哉に報告しよう。どうせ時透兄弟について直接報告することになるんだ。その時にこの件についても伝えておこう。
手を取り合い微笑み合う姉妹を見つめる。さて、どうやってその研究に俺も参加しようかな。今後について思考を回しつつ彼女たちに声を掛ける機会を伺うのだった。
*****
しのぶ嬢の毒が出来て一月以上が経った。季節は夏から秋へと変わり、息が白くなるのもそう遠い日ではない。
今日俺は、産屋敷邸に来ている。定期的に行っている耀哉の解呪のためだ。
二年前に呪いが発動してから定期的に続けているこの儀式のおかげか、今のところ耀哉に呪いの影響は見受けられない。倒れたのもあの日の一度きりだ。完全に解呪することが出来ていないのは悔しい限りだが、それでも手段が残されているのだから良しとするべきなのだろう。実際、耀哉本人がそう言っていた。
とは言え、そんなことで納得出来るわけもないので、何かいい手はないかと絶賛模索中である。
「今日もありがとう、あおい」
「どういたしまして。まあ俺がやりたくてやっている事なんだけどな」
儀式も終わり違和感がないかの確認も終われば、後はのんびりお茶を飲みつつ報告をして終了だ。そのまま泊まっていくこともあるが、今日は生憎任務が入っているためそうもいかない。
「時透兄弟はどうしてる?」
「相変わらずだよ。有一郎が片腕の生活に慣れるまで、無一郎は傍を離れないだろうなぁ」
怪我をしていなかった子ども──無一郎は、保護した翌日に目を醒ましていた。
片割れの有一郎の腕が無いことを悲しんではいたが、それ以上に二人して生きていることを喜んでくれ、俺にも何度も礼を伝えてきた。11の子どもなのにしっかりとした子だと今でも思う。
その後暫く有一郎に縋り付いて静かに涙を溢していたが、双子故に何かを感じ取ったのか、気絶してから一度も目を醒まさなかった有一郎の意識が僅かに戻った。しかし彼の記憶は鬼に襲われた時点で止まっており、加えて熱で意識が朦朧としていたため起きて早々大変だった。
まあ大変だった甲斐あって、兄弟間の凝しこりも無くなり今ではすっかり仲良し兄弟だ。良いことである。
そんな二人も無事退院し、今は空屋敷で療養生活を送っている。
彼らの血筋の件で鬼殺隊の目が届く所で生活してもらおうと説得している最中だった事や、実際に鬼が襲ってきた事も加味しての決定だ。ちゃんと二人の了承も得ているから何の問題もない。うちも少し前まで宇髄夫婦がいたから勝手は分かるしな。それに、どうやら彼らは二人を助けた俺を信用、というか慕ってくれているようで、見舞いに行く度嬉しそうに受け入れてくれていた。
そういう事情もあり、二人を空屋敷に引き取る事を決めたのだ。
「鬼殺隊との関わり方は有一郎の回復次第、だね」
「ああ」
そうして時透兄弟の近況から始まり、珠世殿との文通の内容、胡蝶姉妹の毒と薬の研究成果といった具合に話が進んだ時、思い出したかのように耀哉から話題を提供された。
「しのぶをね、新しい柱に任命しようと思うんだ」
「…そうか」
胡蝶と合同で狩っていた鬼と、この度完成した毒で狩った鬼の総数がつい先日50を越したそうだ。階級も
「それで、何柱にするんだ?」
しのぶ嬢は花の呼吸を扱っておらず、花から派生したものを使っている。まだ名前が付けていないと言っていたがどうするのか。
「それなんだけどね、蟲柱にしようかと思って」
「…蟲柱…」
それは…どうなんだろう。
確かに名字に"蝶"が入っているし、花に関係するものでもあるが…蟲…。
「あー…ちなみに、理由は?」
「あの子は毒を扱っているし、何より名前に"蝶"が入っている。それに、"蟲"とは元来、多くの小動物が集まっている様子を表す漢字だ。彼女の戦い方に通ずるものがあると感じてね。…一人一人の力は小さくても、それら全てが合わさることで一つの大きなものを作り上げる。彼女の戦い方は、天元とあおいから知識を得て、彼女自身の並々ならない努力と執念の結晶だから。ね?ぴったりだろう?」
そう言われると、確かにぴったりなような気がしてくる。…まあ、気に入らなければ本人がどうにかするだろうと、俺は丸投げすることに決めた。こういうのは本人が決めるのが一番だし。
一人でうんうんと頷いている俺に、耀哉は更に言葉を続ける。
「それと、次の柱合会議なんだけど。槇寿郎の息子の杏寿郎を参加させようかと思うんだ」
「…何かあったのか」
槇寿郎殿本人なら兎も角、その息子を召集するだなんて滅多にないことだ。だから心配して問い掛けたのだが。
「彼の警備担当だった地区で人が消えていると報告を受けていてね。何人か隊士を向かわせたんだけど、誰も帰ってきていない。ただ、烏からの報告によるとどうやら槇寿郎と何かあった鬼のようでね。十二鬼月の可能性もあるから一度話を聞こうかと思って手紙を出したんだけど…」
「断られたのか…」
耀哉は無言で苦笑していたが、その態度がもう答えを示している。
「槇寿郎は欠席するけど、変わりに息子である杏寿郎が出席すると返事が来てね。槇寿郎の近況も知りたいし、了承したんだ」
「なるほどな…」
何をしているんだ、槇寿郎殿…。仮にもお館様からの召集だぞ…。
かつて炎柱として周囲を引っ張っていた姿からは想像もつかない様子に頭を抱えたくなった。やはり待ってないで強引にでも話をするべきだったと、数年前の己の行動を心底悔やむ。
ふぅー、と大きく息を吐き気持ちを切り替える。任務地への移動時間も考えるとそろそろ出なくてはならないのだ。
「…うん。委細承知した。他の柱には伝えるか?」
「…いや。詳細を伝えると先走っちゃう子もいるから、しのぶの柱就任と元炎柱を召集したという旨だけにしておこう」
ああ、そうだな。嬉々として狩りに出掛けそうな奴が二名程いるな。そのうち一名は元継子だから頭が痛い。
「分かった。じゃあ俺はそろそろ任務に行くよ」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「ああ。行ってきます」
部屋を出て長い廊下を進み玄関を目指す。途中すれ違う顔馴染みの使用人たちと挨拶を交わし、そろそろ目的地に着くかという頃。曲がり角の向こうからぱたぱたという可愛らしい足音が五つ、聞こえてきた。
誰であるか瞬時に把握し、顔が綻ぶ。間違ってもぶつからないように足を止めて待つこと数瞬。
「「「「「おじうえ!」」」」」
可愛い甥っ子と姪っ子たちが曲がり角から姿を現した。
「おひさしぶりです」
「お元気でしたか?」
「今日はおとまりしないんです?」
「またいろんなお話きかせてください!」
「わたしたちお料理できるようになったんですよ」
矢継ぎ早に話し掛けてくる子どもたちについ笑ってしまった。可愛がってきた自覚は多いにあるが、ここまで懐いてくれると顔が締まらなくなって困るなと内心ひとりごちつつ、片膝をついてそれぞれの頭を軽く撫でていく。
「久しぶりだなぁ。俺は変わらず元気だよ。お前たちも元気そうで安心した。それと、悪いなにちか。今日はこの後任務があってね、泊まれないんだ。変わりにと言っては何だが、次の会議の日は泊まっていくと約束しよう。輝利哉も、話はその時してあげようね。料理はそうだな。その日の夕餉で何か作ってくれたら嬉しいなぁ」
そう言えば、些か残念そうにしながらも全員が了承を返してくれた。
「おじうえ、何がたべたいですか?」
「がんばって練習します」
「そうだなぁ…あ、白和えが食べたい」
「しろあえ…?」
白和えならば切って茹でて和えるだけだからまだ作れるだろう。火も包丁も扱うから監視は必要だろうが、なんだったら衣を作らせれば問題ない。白和えで大事なのは衣だからな。
それに、と子どもたちの後ろにちらと視線を送る。そこにはこちらの様子を伺っているあまねがいた。
確認の意味も込めて首を傾げると、問題ないというように小さく頷かれる。よし。保護者の許しも得た。
白和えとは…?と互いに顔を見合わせている子どもたちにまた笑ってしまった。
「ふふ、母上に作り方を教えて貰いなさい。楽しみにしているよ」
「はい!」
「がんばります」
「期待しててくださいね」
いってらっしゃい!と声を揃えて送り出してくれる子どもたちに返事をし、出て来たあまねにも声を掛ける。
「それじゃあ行ってくる」
「はい。お気を付けて、兄さま」
背後で子どもたちが白和えについてあまねに聞いている声を耳にしながら、俺は今日の任務地へと駆けて行った。
*****
本日は晴天、柱合会議日和だ。
しのぶ嬢も無事柱となり、その他は特に変わりなく会議が行われる産屋敷邸の庭に集まっていた。
…いや、無事と言うには少々語弊がある。
しのぶ嬢は柱への昇格自体は大変喜んでいた。しかし、"蟲柱"という名に関しては難色を示したのだ。まあ予想通りとも言える。なので予め聞いていた名付けの理由を彼女に説明したら、渋々ではあるものの受け入れてくれた。きっと最後にだめ押しと言わんばかりに胡蝶が以前使っていた羽織をしのぶ嬢に渡したから受け入れたのだと俺は思っている。
「蟲といえば蝶だと皆に認識させればいいのよ!」といつもの調子で言い放った胡蝶は精神的に強いんだと思う。
それはさておき、柱合会議だ。
いつもならば室内で行われるそれは、今日に限って庭での開始だ。何故なら。
「何故柱でもない隊士がここへ?炎柱、煉獄槇寿郎殿はどうされたのですか?」
一般隊士を屋敷内に上げることは基本許可できないのだから。
「彼は槇寿郎の息子の杏寿郎だよ。階級は
今日は槇寿郎の近況を聞くために呼んだんだから。
そう窘めるお館様に、率先して威嚇していた風柱が大人しくなる。圧が消えたことに加えお館様に促されたことにより、煉獄は家での槇寿郎殿の様子を教えてくれた。そして聞いた話に、俺は思わず天を仰ぎそうになった。
何故昼間から酒を…いや、そこはまだいい。問題は任務にまで酒を持ち込んでいたことだ。しかも話を聞くに煉獄は槇寿郎殿に鍛練をつけてもらっていないな?本当に…やはり待たずにぶつかった方が良かったのか…。
などとぐるぐる考えていたらいつの間にか風柱が煉獄に殴りかかっていた。ええー…。
どうやら実力を試そうという意図のようだが、そもそも隊士同士の私闘は隊律違反だということは覚えているのだろうか。
後でそれとなく言っておこうと思いつつ二人のやり取りを目で追っていく。攻撃を加える風柱に対し、煉獄が反撃する様子は一切ない。
…さすが、
それにしても、煉獄はあれだな。実力を試そうと殴りかかった男に対し感謝を述べている辺り、かなりズレている人物と見た。音柱は攻撃を捌ききったことや髪色が派手であることからそれなりに興味を示しているようだ。
一通りやって満足した、というより煉獄の勢いに興が削がれたとでもいうのか、風柱は殴りかかるのは止めたようだ。
そしてその一瞬の隙を見逃さず、お館様が二人に声を掛ける。
「実弥」
「…申し訳ありません、お館様」
勝手をした風柱に対して微笑み一つで不問にしたお館様は、次に煉獄に顔を向けた。
「杏寿郎。柱になるための条件、君ならよく知っているね」
そのまま真っ直ぐ、逸らすことなく続ける。
「実は帝都付近で十二鬼月である可能性が高い鬼の情報が入った。君にはその討伐任務に当たってもらいたい」
十二鬼月ならば俺たち柱の誰かが行くべきなんだろう。しかし元は槇寿郎殿の担当警備地区だ。他の柱を派遣するにも、こちらにもこちらの仕事がある。それに…。
「自身が柱足りえるというならば言葉だけでなく実績で。そうすれば自ずと皆認めてくれる。君の実力を示しておいで、杏寿郎」
「はい!」
あと少しで柱になる条件を満たし、かつその意欲が強いのなら、さっさと柱にしてしまった方が戦力の増強ができていい。
お館様と煉獄の話が一段落着いたとき、よろよろと風柱がこちらに戻ってきた。いつになく消耗してるな。まあ、中々接触しない類いの人間だったから無理もないか。
「そういえば、杏寿郎はあおいに用があるんだったね」
少し笑みを深くしたお館様と目が合う。
「はい!そちら、空柱の一宮あおい殿とお見受けする!」
かつての槇寿郎殿とそっくりの眼差しが俺を見据える。
「…如何にも、俺が空柱の一宮あおいだが」
「母から手紙を預かっております!」
「手紙を?」
そう言って手渡された手紙の差出人には、確かに槇寿郎殿の奥方である瑠火殿の名が記されていた。
「母は貴方に、礼を伝えておいて欲しいと言っていました」
手紙に向けていた視線を再び煉獄に戻す。
「俺は詳しく把握していませんが、以前貴方から頂いたお守りのお陰で心が大分安らいのだとよく申していました。俺からも礼を言わせて頂きたい」
そう深々と頭を下げる姿が、記憶にある彼の父親と重なる。
「──君からの礼、確かに受け取った。瑠火殿には後で改めて返事を送ろう。…励みなさい、煉獄」
「はい…!」
去っていく煉獄を見送る傍ら、岩柱がお館様に問い掛ける。
「お館様にはあの青年が十二鬼月を倒す未来が見えるのですか?勘…ですかな」
「勘というより、確信に近いものを感じるんだ。…ねえ、あおい?」
「…そうですね。さすが親子と言うべきか。そっくりです、かつての槇寿郎殿と」
本当に、そっくりだ。
けれどそっくりなだけではないだろうな。きっと彼には槇寿郎殿にはない心の強さがある。
彼ならばきっと、そう遠くない内に柱として俺たちに並ぶ存在となる。そう確信めいた予感が、俺の胸中に沸き上がった。
「それじゃあ、休憩を挟んで会議を始めようか」
そう宣言したお館様の声を合図に、全員で室内に移動する。
会議が始まる前に目を通しておこうと手紙を開き、そして書かれていた内容に小さく笑った。
「何て書いてあったんだ?」
天元からの質問に口角を上げたまま返す。
「ん?…ちょっとした依頼、かな」
今後のことを想像し、楽しみに思うと同時に少しだけ憂鬱になる。俺が関与していい方向に変わるといいんだが。
「取り敢えず、近い内に煉獄家へ行かないと」
「今日じゃなくていいのか?」
「ああ。今日は先約があるからな」
可愛い甥っ子と姪っ子たちが腕によりをかけて一品作って待ってるんだ。それに沢山話をしてあげる予定もあるし。
俺は伯父だからな。お願いはなるべく叶えるし、親戚の立場を利用して思う存分可愛がるつもりだ。
槇寿郎殿のことは気になるし、俺にも放置した責任があるからちゃんと対処はする。けれどそれは今日でなくてもいい。むしろ。
「不意をつくなら、三日後辺りが有効だろう?」
潜入捜査向いてないのでは…?と思い始めてる人(23)
実は15の時に一度だけ騙し討ちのような形で遊びに行ったことがある。連れ出したのは古風殿(先代風柱)。
お酒は呑むけど酔いはしない。所謂ザル。普段は人に付き合って呑むことが多い。
かつて一緒に仕事をしていた炎柱の現状を知って頭が痛い。酒に溺れるとか…まじか…って感じで割とショック受けてたから実弥の暴挙も止められなかった、というか気づいてなかった。いつもはちゃんと話聞いてるよ。柱合会議をすっぽかしたら何かしらあると身構える可能性を考え、彼が油断しだした三日後辺りに煉獄家に突撃することを決意。
この度空屋敷に居候が増えました。
お師匠にお願い事をした人(19)
絶対遊郭に鬼いる!って調べ初めてとりあえず5つまでは絞った。もう少し絞り込みたかったからオリ主を頼ることに。他の柱?無理だろ。
もしかしたら弟弟子ができるかもしれない。
張見世で声を掛けてきた人がとても綺麗でどぎまぎしてた人(15)
最近客を取り始めた美人さん。顔良し器量良し性格良し芸事良しというオリ主が設定した基準を余裕でクリアしたハイスペック遊女。
客を取り始めたとはいえまだ慣れていないから色々と気遣ってくれたオリ主への好感度はそれなりに高い。
数年後にはときと屋自慢の花魁になる。
おじうえ大好き!な子どもたち(4)
皆すくすく元気に育っております。
いつも優しく抱きしめてくれたり頭ぽんぽんしてくれる伯父さまのことが大好きで屋敷に来るときは大抵そわそわしてる。お仕事のときはちゃんと切り替えてます。4歳なのに偉い。
この度白和えなるものを作る約束をした。ざく切りとかならまだしも細切りはまだ危ないのでやらせてもらえない。でも「白和えは衣が命なのですよ」と言われたので皆してそっちに全力を出す。
会議後はお話聞いたり一緒に遊んだり楽しんでご飯も一緒に食べる。真っ先に白和えに手を付けて満面の笑みで「美味しい」って言ってくれるのでご満悦。
柱合会議すっぽかした人(42)
会議すっぽかしたから何かしらあるかもしれないな、と一応身構えてたら何もなくて拍子抜けしてる。大丈夫、三日したら来るから安心してね。
昔子どもを遊郭に連れて行って怒られた人(34)
男なら一度は行っとくべきだろ?!と反論して更に怒られた。そうかもしれないけどまだ早い。ちなみに怒ったのは鴉経由で話を聞いた当時の炎柱と水柱。要は保護者組。
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以下補足&あとがき
月の周期を調べたら29日くらいなので厳密には月に一度じゃないのかもしれないけど、まあこれフィクションなので。
原作の数年前ということで、この段階ではまだ5つにしか絞れてないってことにしています。遊郭編に突入する前にはどうにかして3つに絞り込む予定。
しのぶ嬢の毒完成しましたね。よかったよかった。ちょっと雑だった気がしなくもないけど、書いてないだけで(おい)それなりの数の試作品を作り同じ数だけ失敗しています。なのでできた時の感動もひとしお。また毒が出来たことにより、ちゃんと自分にも鬼を殺す手段が出来た、という安心と自信を得ました。つまりは心の余裕。これからはお姉さんと共に薬の開発に勤しみます。(対童磨戦での)死亡フラグ回避完了、かな?
そういえば今更なんですけど、あおいは状況によって人の呼び方を変えています。仕事中(任務や会議など)は音柱や風柱といったように役職名で、プライベートでは名前で呼んでいます。自分が今“空柱”なのか只の“一宮あおい”なのかで変わるという。作者が間違ってなければそういう仕様になっています。最後の天元とのやり取りは休憩中だったから名前呼びです。
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『いきなりこのような手紙をお出しして申し訳ありません。けれどどうしても、貴方様のお力をお借りしたいのです。
私が何か申しましても煮えきらぬ返事か機嫌を損ねるばかり。最近では日が出ているうちから酒に溺れるようになってしまいました。
どうか、柱の中でも付き合いの長い一宮様から、一度主人に喝を入れて貰えないでしょうか。何卒、よろしくお願い致します。』
(一部抜粋)