将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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 今回はいつも以上にオリジナル色強めなのでご注意ください。


鬼殺隊の最古参の柱は元継子と久方ぶりの任務に出る
前編


 

 年が変わって初めての柱合会議が行われる今日、新しく柱に就任する者の紹介があると連絡を受けた。

 恋柱、甘露寺蜜璃。

 元々は煉獄の継子だったという話は事前に耀哉から聞かされてはいるが、直接顔を合わせるのは初めてだ。聞けば煉獄と並んでも引けを取らない髪色をしているとか。また個性的な柱が増えたな…と、ここまでくるともはや笑えてくるから不思議だ。

 産屋敷邸に着き使用人の案内の元会議が行われる部屋に向かえば、聞こえてくるのは既に到着している柱たちの会話。

 

「怪我をしたなら蝶屋敷に来てくださいと言っているでしょう」

「…悪かったって言ってるだろォ」

「もう…次はちゃんと診せに来てくださいね」

「…」

「来 て く だ さ い ね ?」

「…あァ」

 

「今日はまた随分と機嫌がいいな、旦那」

「宇髄…実はたみこが子を産んでな…」

「それはめでたい事だ!何か祝い物でも贈ろうか」

「む…それならささ身を頼む。好物なんだ」

「いいねぇ。ド派手に祝ってやろうじゃねえか」

「ほどほどで頼む…」

 

 珍しく平和な空気が漂う彼らの会話に口面に隠された口元が緩む。いや、しのぶ嬢からは圧を感じるのだが、それは不死川の自業自得なので気にすることではない。

 声や気配から察するに、伊黒と甘露寺は部屋にはいないようだ。六人分の気配がするからおそらく冨岡はいるのだろう。

 案内してくれた使用人に礼を告げ、襖に手をかけて力を入れる。

「あ。お久しぶりです、一宮さん」

「久しぶりだな、しのぶ嬢。元気そうで何より」

「そういう一宮さんもお元気そうで安心しました。滅多に蝶屋敷に来られないので不死川さんみたいに怪我をしても放っているのかと心配してたんです」

「ははは」

 

 襖を開けて真っ先に目が合ったしのぶ嬢が声を掛けてきたんだが…完璧な笑顔で流れるように毒を吐くからもう笑うしかない。まあ実際、今回俺は怪我をしていないから彼女の毒を一身に浴びているのは不死川一人だけなんだが。

 そんな不死川は俺と軽く挨拶を交わした後は気まずげに顔を逸らしていた。それを苦笑混じりに見やり、残りの面々とも挨拶を交わしていく。そして適当な場所に腰を下ろせば、思い出したと言わんばかりの様子で天元が話を振ってきた。

「そういや、ついに許可出したんだって?無一郎が嬉しそうに手紙で言ってたぞ」

「ああ。もうそろそろいいかと思ってな」

「無一郎くん、どうかしたんですか?」

 

 天元以外で無一郎を知っているしのぶ嬢から質問が飛んできたのでそちらに顔を向ける。

 

「次の最終選別に無一郎を向かわせるって話だ」

「あら、遂にですか」

「うん」

「その無一郎というのは一宮さんが面倒を見ているという双子の少年の事だろうか!」

 

 会話が聞こえていたのだろう煉獄も話に入ってきた。というか、同じ部屋にいるのだから聞こえて当然なんだが。その証拠に残りの柱もこちらに注意を向けているのが分かる。

 

「そうだよ。弟の方だ」

「歳はいくつだ」

「今年で14になる」

「…そうか」

 

 ジャリジャリと数珠を鳴らしながら涙を流す悲鳴嶼は、おそらく無一郎が若い身空で刀を握る事実に胸を痛めているのだろう。

 ままならんな、とは思うが、本人が強く望んでいる以上俺が出来るのは悪戯に命が散らないよう鍛え上げる事だけだ。あの子の想いを、周りが踏みにじる訳にはいかない。

 

「若くはあるが、それを補ってあまりある強さを持っている子だ。足りないのは経験くらいだよ」

「ま、それは今後ド派手に積んできゃいいだけだろ?」

「ああ。…そういえば、お前も昔は経験不足で色々とやらかしてたな」

「ちょっ」

「へぇ?ちなみに、どんなことです?」

「おい!胡蝶!」

「そうだな、あれは確か継子にしてすぐの事だったか…」

「あおいさん…!」

「ははっ、宇髄も師範には敵わないか!」

「つーか、相手が悪すぎんだろォ」

「南無阿弥陀仏…」

「宇髄…子どもだな」

「あ゛ぁん!?」

「あっははは」

 

 柱合会議前にこんな風に騒ぐなんて早々ないが、たまにはいいだろう。普段命のやり取りをする分息抜きは必須だ。張り詰めたままでは視野も狭まる。

 いつになく賑やかな時間を過ごしていれば、二人分の気配が部屋に近づいてきた。一人は伊黒で間違いないから、おそらくもう一人は新しく柱となった甘露寺だろう。

 伊黒が開始時間間際に来るなんて珍しいなという思いと、はてさて新たな仲間はどんな奴かなという思いを抱きつつ、開かれた襖の先に視線を向ければ。

 

「…」

「あ、あの…」

 

 頭部を鏑丸に噛みつかれた伊黒と、そんな伊黒をあたふたとしながら見ている甘露寺(推定)が視界に飛び込んできた。

 思わぬ光景に誰もが口をつぐむ中、声を発した勇気ある者が一人。

 

「…腹が減っているのか?」

「「んふっ」」

 

 冨岡の純粋な疑問がツボに嵌まったのか天元としのぶ嬢が笑いを堪えるように勢いよく顔を背けたのが視界の端に移った。かくいう俺も吹き出さないよう腹に力を込める。よくよく見れば残りの三人もふるふると身体に力が入っているから俺と同じ状態と見た。先程までの会話のせいで全員の笑いの沸点が低くなっている気がする。きっかけを与えたのは俺だが、これは流石に想定外だ。

 いつもと違う様相でいつもと同じように伊黒がネチネチ言っている間にどうにか笑いの波をやり過ごす。気を抜けばまた笑いそうになるが、初対面の相手がいるんだ。初めて会うのに震えながらの挨拶は悪印象だろう。頑張れ一宮あおい。耐えて見せろ。

 ふう、と自身を落ち着かせるために息を吐き出す。もう大丈夫だと判断し、煉獄の近くに座り言葉を交わしている女性に身体を向けた。…それにしても、どこか見覚えのある髪色をしているな。

 

「紹介しよう!彼女が俺の元継子の甘露寺だ!」

「甘露寺蜜璃と言います!恋柱の名を拝命しました。こ、これからよろしくお願いします!」

 

 緊張している様子の甘露寺が俺たちに向かって下げた頭を戻すのを待って、それぞれが軽く自己紹介をする。頬を赤く染めながら一人一人の言葉に返事をする様は、この場にいる柱全員の就任時と比べるまでもなく初々しい。いやほんとに。

 素直な子だなと微笑ましく思いながらしのぶ嬢と話す様子を見守っていれば、唐突に怨念とも言えるようなものが込められた視線が甘露寺の向こう側から飛んできた。ちらりと発生元を見やればそこにいたのは先程まで鏑丸に噛み付かれていた伊黒で。

 

(あー、これは…なるほど?)

 

 どことなく愈史郎を彷彿とさせるその視線に色々と察した。

大丈夫、俺は別に彼女に邪な想いを抱いた訳ではないよと伝えるように伊黒に向かって一つ頷く。若干向ける視線が生ぬるくなってしまった気もするが、きっと気のせいだ。

 いい出会いがあってよかったな、とこれまた微笑ましい気持ちになったところでお館様がご息女たちを連れていらっしゃった。

 入室されると同時に全員で姿勢を正す。

 

「やあ、皆。半年ぶりの柱合会議を新たな柱を加えて迎えられた事、嬉しく思うよ」

「我ら柱一同も、こうして新たな仲間と共に再びお館様と相見えることが叶い、恐悦至極に存じます」

「ありがとう、あおい」

 

 お館様への挨拶は基本的に早い者順だ。全員で空気を読みつつも決して譲らんという強い意思のもと行われた水面下での戦いを今回制したのは俺だった。何人かから不満を抱く気配を感じたが、ここ数年は譲ってたんだ。文句を言われる筋合いはない。

 

「ところで、今日はまた随分と楽しそうな様子だったね」

「ええ。いつになく盛り上がってしまいました。お騒がせして申し訳ない」

「いいや、構わない。そうやって親睦を深めるのも相手を知るという意味でとても大事な事だからね」

「お心遣い痛み入ります」

 

 今日の会議は新たな柱である恋柱の紹介から始まり、彼女が加わった事により変更された警備地区に関する確認、現状判明している鬼に関する情報共有、それぞれの継子に関する報告(大体逃げられているので主に俺からの報告になった)、隠や藤の花の家からもたらされた鬼の可能性がある案件についての話へと移っていった。

 

「とある山里に向かわせた子どもたちが帰ってこないんだ。(かのと)から(ひのと)までの合同任務だったんだけど、20人全員が消息を断った。よって、本件には柱を派遣しようかと思っている。…あおい、天元。頼めるかな」

 

 お館様の言葉に俺と音柱がほぼ同時に頭を下げた。

 

「承知致しました」

「御意」

「ありがとう。詳細はあおい付きの隠に伝達するから彼から聞いてね」

「はい」

「うん。それじゃあ今日の会議はこれでお終い。お疲れ様。また半年後、全員が揃って会議を開ける事を願っているよ」

 

 お館様がご息女たちを連れて出ていかれるのを全員で見送る。

 さて。紅葉への引き継ぎはおそらく既に行われているだろう。なら情報共有はここでやった方が効率がいいな。

 

「音柱。これから紅葉に任務内容を聞こうと思うんだが、時間は平気か?」

「ああ…」

 

 素直に頷く割には微妙な顔をされた事に疑問を覚える。なんだ?

 首を傾げ、先程の会話を思い起こし考えてみる。が、特に思い当たる節はない。

 

「あおいさん?」

 

 いつまでも移動しようとしない俺を不思議に思った天元に名を呼ばれる。そこでふと、そういえばさっき俺は天元の事を"音柱"と呼んだなと気が付いた。なるほど、もしやこれか?

 天元は、俺が仕事中のみ相手を役職名で呼ぶ事を知っている。俺なりの公私の切り替え方法で、柱に就任した直後からやっていることだ。

 今は会議が終わった直後。つまり仕事中ではない。天元がそこに引っ掛かったのかは分からないが、もしそうだと仮定するとこちらを怪訝な顔で見つめる天元が妙に可愛く思えてくる。

 立ち上がり、未だ座っている天元の頭に手を伸ばす。

 

「いや、何でもない。行こうか、天元」

 

 二度ほど弾ませ、他の柱にも声を掛けてから部屋を出る。

 

「~っ」

「耳が赤いですよ、宇髄さん」

「うるせぇよ…」

 

 出ていった後でそんな会話が交わされていた事には、外にいた隠に紅葉の居場所を尋ねていた俺は気付く事はなかった。

 

 

*****

 

 

 件の里に一歩足を踏み入れた瞬間から、どこからともなく視線が飛んできた。こういった場では余所者は非常に目立つ。よくあることだと受け流しながら隣を歩く男を見やった。

 

「こうしてお前と任務に出るのも久しぶりだな」

「そうだな。俺が屋敷を出てからだから…四年ぶり、か?」

「もうそんなに経つのか…俺も年を取るわけだ」

「あおいさんはいつまで経っても顔変わんねぇから安心しろ」

 

 むしろちゃんと年取ってんのか?とでも言いたげな顔をする音柱は俺を何だと思ってるんだろうな。

 今回の任務はお館様から聞かされていた通り、すでに派遣されていた辛から丁の隊士20名が消息を断っている。全員食ったのかただ殺しただけなのかは分からないが、それなりの強さの鬼なのは確かだ。油断することは出来ない。

 

「にしても、本当に曇ってんな」

「ああ」

 

 事前情報によれば、この地域は元々日照時間が少なく、特に冬はほとんど毎日分厚い雪雲が空を覆っているらしい。

 鬼は日の光に当たれば焼け死ぬ。だから基本夜にしか行動しない。しかし、それはつまり日が出てさえいなければ日中だろうと行動は可能だという事を意味している。

 弱点が一つ減るというのは存外厄介なものだ。ただでさえこちら側に不利な条件で戦っているのに、更に"夜間のみ"という時間制限が無くなったのだから。

 …まあ、俺たちがやる事に変わりはない。そう思考を切り替え上空に投げていた視線を前方に戻した。そのまま話ができそうな人物はいないかと、人が疎らな道を二人で進んでいく。どの住民も遠巻きに見てくるだけだから期待は出来ないが。

 それにしても。

 

「情報にあった蔦は見当たらない、か」

 

 紅葉から聞かされた情報は二つ。日照時間が極端に少ない事。そして、相手が"蔦"を使う事。後者は隊士たちに付いていた鎹烏が持ち帰ったもので、気付かぬうちに複数の隊士に蔦が巻き付いていたらしいからそういう血鬼術なのだろう。…モノを操作する系統のものはさして珍しくもないから、今回は注射器を使う事はないか。

 

「てっきり予め生やしてるものだと思ったんだが…」

「随分と地味な事をやりやがる」

 

 嫌そうに眉をしかめて鼻を鳴らす音柱に同意を返す。隊士が20人も消息を絶っているんだ。決して弱くはない鬼だろうに、何故里中に蔦を張り巡らせておかない?何か制限でもあるのか?

 ああでもないこうでもないと二人で意見を交わしていれば「あの!」と声を掛けられた。

 声の主へと顔を向ければ、そこには10代も半ばに差し掛かろうかという年頃の娘さんがいた。

 

「お、お二人はその…鬼狩り様、ですよね」

 

 頬を染め、大きな瞳を僅かに伏せながら問い掛ける姿はなるほど、見ている者にどこか庇護欲を抱かせる。

 

「そうだが…何故俺たちが鬼狩りだと?」

「少し前にいらっしゃった鬼狩り様方と同じ格好でしたので…」

 

 上下黒の洋装。俺も音柱も細かい所は違うが基本的な部分は一般隊士とそう変わらない。しかも俺たちの前に派遣された隊士は20名だ。この里ではさぞ人目を引いただろうな。

 

「それで、俺たちに何の用だ?」

「っ、ぁ…えっと」

 

 俺よりも上背のある音柱が声を掛けたが、びくりと大きく肩を震わせてしまった。そこらの一般人よりかなり体格がいいからな、仕方がない。

 

「見た目は怖いだろうが俺たちは鬼狩りだ。一般人には手を出さないから安心していい」

「は、はい」

 

 一度頷いた娘さんは覚悟を決めたのか真っ直ぐに俺の目を見つめる。

 

「あの人を見つけてください…私の、私だけの大切な人を…!」

「おっと」

 

 先程まで怯えていた様子など微塵も感じさせない動きで俺に縋り付いてきた娘さんを咄嗟に支える。音柱が僅かに身構えたが、自由な左手で軽く制して動きを止めさせた。

 

「その大切な人、というのは?」

「居なくなってしまったんです、もうずっと前に…綺麗な瞳の、私だけの大切な人…」

 

 強く握り込まれた隊服がぎちりと音を立てる。未だに目は逸らされない。

 その様子に対して少し目を細め、俺は落ち着かせるために声を発した。

 

「なるほど、承知した。…大丈夫だ。俺たちが必ず終わらせるから、貴女は一度住まいに帰るといい」

「…はい」

 

 ぽん、と俺の隊服を握り込んでいる手を軽く叩けば名残惜しそうにしながらも大人しく離してくれた。そのまま「よろしくお願いします…」と頭を下げた娘さんは、二度ほど振り返りながらも静かに去って行った。

 その様子を二人で眺め、姿が見えなくなったのを確認してからどちらからともなく足を踏み出した。ついでに先程掴まれて皺になっている部分に手を這わす。指先に触れる湿った感触と僅かに香る独特な臭い。血液だ。

 

「…あおいさん」

「分かってるよ」

 

 名を呼ばれただけだが、付き合いが長いからよく分かる。今のは若干の非難と心配が混ざったものだ。

 それに手の汚れを拭き取りながら苦笑を添えて返せば、盛大な溜め息を吐かれてしまった。自業自得とはいえ心に刺さる。

 

「それで、どうする。このまま行くか?」

「そうだな…」

 

 何度か道を曲がり、少しずつ人里から離れていく。向かう先にあるのは木が覆い茂った山の入り口。

 

「聞く限り、鬼が本格的に動くのは夜だ。加えてそこまで賢くない」

「ああ」

「なら、お前の言うとおりこのまま行くのが最善かな」

「よし!じゃあド派手に行くか!」

「ああ。()も付けられたしな、反撃開始といこう」

 

 任務前は首だけ狩れればいいと思っていたが、前言撤回。是非とも首と血の両方いただきたいものだ。

 

──擬態が出来る能力というのも、なかなかに珍しい。

 

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