将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話 作:シグル
木々の間を二人で駆け抜ける。といっても、音柱は地面ではなく枝を使っての移動だ。
当たり前だが、上と下とでは見えるものが違うし、それによって得られる情報も異なる。一人でないなら視点は複数あった方が何かと都合がいい。それに俺は
「それにしても、擬態してんなら"蔦を扱う"って情報はガセか?」
「いや、恐らくそっちもあってる。俺に付いてた血がそれだろうよ」
「てことは鬼は二体か。地味にめんどくせぇな」
先程俺たちに話しかけてきたあの娘、アレは間違いなく鬼だった。
話しかけられた時に僅かに感じた違和感と不快感は、人によってはただの勘だと素通りしてしまう類いのものだ。おまけに見た目も気配も一見普通の少女となれば、下の階級の隊士たちが気付かなかったとしてもまあ、仕方がないと言えるだろう。
「っと。あおいさん、約一町先にそれらしいのがあるぜ」
「!分かった」
鬼の気配がする方角に駆け抜けて暫く。
比較的開けたその空間には崩れかけた小屋があり、周囲には濃い血の臭いが充満していた。加えて地面には刀の破片や隊服の一部なども落ちており、その激闘ぶりを伝えてくる。
隣に降り立った音柱と一度頷き合い、さて行くかと刀に手をかけた辺りで異変を察知した。
辿り着いた先。崩れかけた小屋の中から聞こえるのは二人分の言い争う声。
「どうして一人にしか印を付けてこないのよ!あっちもいい男だったんでしょ?!」
「だって好みドンピシャだったのよ?!綺麗な瞳の儚げな若い男!隣の筋肉なんかに意識を向けるわけがないわ!」
「やっぱりいい男だったんじゃない!私が好きなのは筋肉なのよ!ふっとい腕に見事な胸筋!顔が良ければ更に良し!…あ、想像したらよだれが」
「やだ私も」
「…」
「…」
二人揃って肺の中にある全ての息を吐き出し空を見上げる。視界に入るのは元気に成長した木々とその間からちらりと覗く曇天のみ。
何故だろう。酷く頭が痛い。
「…喧しいな」
「…先発隊はこんなのに殺られたってのか?質下がってんだろ…」
「罠の可能性もあると信じたい、が…もうさっさと斬ってさっさと帰ろう」
「だな…」
音柱と共に再度息を吐いて緩んだ気を張り直す。些か緊張感に欠ける現場ではあるが、一応最低でも隊士20名を殺している相手だ。油断していい理由にはならない。…たとえ、自分たちの好みの男を声高に叫んでいたとしても。
もはや据わった目をしている音柱が刀を手に取りこちらを見やる。それに合わせて俺も同様に刀に手をかけ小さく頷いた。
共闘するのは数年ぶりだが問題はない。互いに手の内も、動きも分かっている。こちとら伊達に師弟をやっていないのだ。
──音の呼吸 壱の型 轟
──空の呼吸 肆の型 迅雷風烈
ドォンッ!という轟音と爆風に紛れて一足飛びに進む。目指すは音柱が放った技によってその姿が露になった二体の鬼。
まずは一体。寸分違わずその首に刃をあてがい一気に引き抜く。驚愕の色を乗せた大きな瞳が落ちていく様を見届けることはしない。
空中で態勢を整え横に薙いだ刀を間髪入れずに翻し、残るもう一体の首に叩き込んだ。
「…え?」
「うそ…」
ごろりと転がる首から呆然とした声が聞こえる。…まあ、鬼からすれば突然の轟音と共に住みかが吹き飛び更に自分たちの首も斬られたのだから驚くのも無理はない。
とはいえ俺はさっさと帰りたいので構うことなく血を採取させてもらおう。
懐から注射器を取り出しさくっと刺していると、早々に烏に隠を呼ばせていた音柱が様子を見にやって来た。
「あおいさん」
「お疲れ、音柱。特に問題なく終わったぞ」
「おう、お疲れ」
既にほとんど灰となった元鬼に視線を向けた音柱は、血の溜まった見慣れない注射器を見て小首を傾げ問い掛けてくる。
「あおいさん、血集めてんの?」
「ん、ああ。…珍しい血鬼術を扱うのと、あとは十二鬼月のをな。使い所は結構多いよ」
「あー…胡蝶の毒とかか」
「それもある」
「…ふぅん」
この短いやり取りの間で、集めた血に他の使い道があることに気付いただろう音柱は、それでも深く聞いてくる事はしなかった。
しかしそれは決して興味がないからではないだろう。
「俺も集めようか」
でなければわざわざこんな申し出、この男がする訳がないのだから。
「いいのか?」
「ああ。こういうのは人手があった方が手っ取り早いし、何より」
そこで一度言葉を切った音柱は、俺に視線を戻すとにっと笑って更に続けた。
「あおいさんがやってんなら、それは最終的に鬼殺隊のためになる」
だろ?と自信満々な様子の元継子に思わず笑いが溢れた。
「──ああ、もちろんだ」
俺は本当に、周りに恵まれてる。
*****
俺には、命の恩人と全力で支えようと誓った男がいる。まあどちらも同一人物なのだが。
俺より四つ下で柱なんていう地位にいるそいつが存外寂しがり屋だということは、意外にもあまり知られていない話だ。俺からしたら結構分かりやすいんだけどな…と妻の美鶴に話したら「皆任務中の様子しか知らないもの」と小さく笑いながら返された。なるほど。確かに"柱"としての姿しか見てないなら分からないだろうな。
任務中のあいつは、なんていうか、真っ平らだ。感情の波が一定で、揺らがない。よく「笑ったところを見たことがない」とか「初見だと何を考えているのか分からなくて怖い」とか言われるのはこれが原因なんだろう。どちらも口面を着けるようになる前から隊士と隠の間で囁かれている事だ。とはいえ、後者に関しては怖じ気付かずに話続ければ怖いなんて印象は無くなるんだが。
あいつ──あおいとの最初の出会いは今でも鮮明に思い出すことが出来る。あの、鱗滝さんに異様なほど執着していた鬼。あいつの挑発にのって怒りを抱くと同時に、それを上回る恐怖によって危うく俺まで殺されそうになった時、あおいが助けてくれた。俺よりもずっと小さくて幼いのに、その背中はずっと大きくて、ああもう大丈夫だとそう思ってしまうほどに安心してしまったんだ。
最終選別は突破したものの剣士としてやっていくのは無理だろうと判断して、結局俺は隠になった。それでも変わらず交流が続いて三年後、とうとうあいつは柱になった。当時の歴代最年少だ。11で隊士になるのも十分早いと思ったが、14で柱になるのはもっと早い。実際はそれよりも前から条件を満たしていたらしいが、流石に幼すぎるという理由で保留となっていたらしい。詳細までは知らないが、先輩の隠が言っていたから事実なんだろう。
そんな、全隊員の話題の中心となっていたあおいの専属隠に任命されたのは、俺にとって幸運だった。なにせ一番近くで支える事が出来るんだ。嬉しい以外に感想はない。
とはいえ、柱付きというのは決して楽な仕事ではなかった。任務量は格段に増えたしそれに比例して報告書の数も増えた。屋敷の管理や隊服の調達(成長期ですぐに着れなくなっていた)といった雑務も一手に引き受けたため慣れるまではてんやわんやだったのを覚えている。
あおいもあおいで周囲からのやっかみが酷かったが、それに関しては本人の鷹揚さと他の柱の介入によって比較的早く収束していたように思う。
…鷹揚さ、というか大雑把と言った方が的確かもしれないな。なにせ俺と美鶴に離れを丸々貸し出すとか言うんだから。しかもその離れを建てるために屋敷そのものを改修するとか言い出す始末。あの時は本当に驚いた。いや助けられた立場でどうこう言うつもりはないんだ。ただ"これが柱か…"と改めて実感しただけで。
美鶴もひどく驚いた様子だった。まあ彼女の場合は
鬼殺隊員の多くが、空柱であるあいつを求める。そしてそれは俺も例外ではない。だって、鬼殺隊最高位である柱は俺たちにとって間違いなく光だ。特にあおいは柱になって長い。そして五体満足で上弦の鬼を退けた事もある。当の本人は「遊ばれただけだ」と苦虫を百匹は噛み潰したような顔をして言っていたが。
あの日、任務を終えたあおいの簡易報告の代わりに飛んできたのは"花柱が上弦の弐と会敵。空柱が応援に向かった"という緊急の知らせ。すぐに近くの乙以上の隊士と隠が集められ現場に急行したが、あいつの無事を確認するまで生きた心地がしなかったのを覚えている。
そして到着した先で見たのは血塗れで意識を失っている花柱と、目視では特に大きな外傷は確認出来なくとも決して無傷ではないあおい。他にも花柱の妹と思われる隊士や見覚えのある猫もいたが今は置いておく。
淡々と花柱を隠に預けた後、蝶屋敷に行くでもなく何かをしていたあおいに俺は少なからず怒りを覚えた。死闘の後でも決して柱としての姿勢を崩さない空柱に。自分も怪我をしているのにさっさと治療に行かないあおいに。
分かってる。柱である以上、下の者に示しが付かないような言動は厳禁だ。特にあおいは過去の経験からその考えが強い傾向にある。だから、たとえ座り込みたい程の疲労を覚えていても他の隊員の目がある以上あいつは実行しないし事実しなかった。怪我だって、ある程度の判断は自分で出来るものだ。重症だった花柱の状態も加味して一先ず自身の優先順位を下げたんだろう。柱として冷静で、かつ正しい判断だ。
…それでも俺は、あおいに自分自身を蔑ろにしてほしくなかった。致命傷ではない事を、すぐに治療に向かわなくていい理由にしてほしくなかったんだ。
分かってる。これらは全てただの八つ当たり。隠の仕事中に俺個人の感情など必要ない。必要なのは、冷静に、淡々と仕事を熟すこと。そして
だから俺は、言外に"さっさと蝶屋敷に向かえ"と伝えながらもあいつからの頼みを引き受けた。羽織でぐるぐるに巻かれた"それ"に本能的な恐怖を感じながら、しかし決して失くしてしまわないよう慎重に持ち帰り、ついでに箱で覆っておいた。
鬼の腕を保管するなんて相変わらず考えがぶっ飛んでるなと思う。けれど、指示したのは他でもないあおいだ。お館様に最も近い場所で鬼殺を掲げ、今後の戦況を見据える男が無意味な事をする筈がない。
ならば俺は、その決断を信じて共に歩むだけだ。だって──。
「紅葉。頼みがあるんだが」
あおいからそんな風に話を切り出されたのは、とある任務後の事だった。全ての後処理を終え、簡易報告も済んだことだしそろそろ藤の花の家に向かおうかと歩みを進めた時。
この段階になると、任務が詰まっていなければあおいは"空柱"からただの"一宮あおい"に戻る。なんの実にもならない雑談に花を咲かせるこの場には、最近では珍しく俺たち二人しかいない。美鶴と双子は別の任務に当たっているためだ。
「俺が14で柱になったと、それとなく噂を流しておいてくれないか」
「…無一郎のためか」
あおいは何も言わずに苦笑を漏らしたが、その態度で十分だった。
無一郎が最終選別を突破して早一ヶ月。あの子の討伐数は既に20を越えている。新人隊士にしては上出来過ぎる成績だ。それこそ、あと一月もすれば柱への昇格条件を満たしてしまうのではないかと思える程に。
あおいとの鍛練を間近で見ていたからこそ断言できる。無一郎の剣の才能は本物だ。もちろん、あおいの指導の賜物でもあるし、何より無一郎本人の努力の結果だと分かっている。
あおいの鍛練は、言ってしまえば基本の繰り返しだ。素振り、走り込み、回避訓練、打ち込み。それらをひたすら反復して己の身体に染み込ませる。言葉にすると非常に単純なものだが、実際にやってみるとこれがまたきつい。無一郎はもちろん、あの筋肉達磨の宇髄ですら最初の頃は気絶していた。何せ量が半端じゃないからな。けれどこれらを熟せるようになれば確実に生存率は上がる。だって怪我をしにくくなるんだから。当たり前だが、任務時の状況や鬼の血鬼術との相性なんかも関係してくるから絶対に怪我をしない訳じゃない。それでもあの地獄の鍛練を生き抜けば大抵の攻撃は躱せるようになるし大抵の鬼は斬ることが出来る。事実、あおいが大怪我を負ったのなんて片手で足りる回数だし、一番弟子の宇髄も似たようなものだ。それにしても隊士になって15年以上経つっていうのに、流石柱というべきか。こいつも大概人間やめてると思う。
…まあそれは横に置いておくとして。
そんな、滅多に怪我をしないと有名かつ現役柱な師弟に鍛練をつけられていた無一郎がそうそう怪我なんて負うわけもなく。日々着々と鬼を斬っては次の任務に行き更に鬼を斬る生活を送っていた。
つまりだ。元々あった剣技の才にあおいとの鍛練が上乗せされた結果、あの子はとんでもない早さで出世街道を邁進しているのだ。
もしこのままの調子で鬼を狩り続けたら本当にあと一月程で討伐数が50に達してしまう。階級もどんどん上がっているから
「あの子の活躍は嬉しいものだし俺も鼻が高い。実力も十分過ぎる程ある。…だからこそ、余計な火の粉は出来るだけ払ってやりたい」
その言葉で脳裏にかつての記憶が蘇る。
あおいが柱になった当初。14での柱就任など前例がなく、それなりの隊士が不満を抱きやっかんでいた。あおいは特に気にしてもいなかったしむしろ笑い話にしているが、あの頃は本当に酷かった。本人がいようがいまいが囁かれる悪口に、任務における妨害行為。最悪命を落としていたかもしれないその行為に先にぶちギレたのは当時の柱たちだった。あおい付きの隠なのだから色々と知っているだろうと、妨害行為をした隊士について三人に問い詰められたのは俺の中ではいい思い出となっている。いや、当時はまだあおい以外の柱に慣れておらず、しかも怒りのせいかそれはそれは恐ろしい形相にびびり散らかしたのだがそんな事は今はどうでもいいのだ。
現役の鬼殺隊士にあおいが最古参だということは最早当たり前のように知られているのだが、14で柱になった事実を知る者は少ない。なにせ当時所属していた隊士は軒並み死亡か引退しているので。相変わらず死亡率が高い職場である。
一方で隠の中には当時を知っている者もいるにはいるが、"歴代最年少"よりも"鬼殺隊最古参"の方が話題に上りやすい。
故に、もし仮に無一郎が柱になったとしたら、そのやっかみは全てあの子と有一郎に向かうだろう。かつての俺たちと同じように。
「…そうだな。今度は俺たちが守らないと」
「…ああ」
淡く微笑んだあおいもきっと、俺と同じように当時を思い出しているんだろう。その瞳に懐かしさと共に寂しさがほのかに浮かんでるのを見つけて、不自然にならない程度に明るめの声を意識する。
「隠の中に噂好きの奴がいる。そいつに話せばいい感じに広がるだろ。美鶴にも声を掛けておくよ」
「ん、頼んだ」
「まかせとけ。…相手は鬼殺隊二強の一人である空柱だ。敵に回そうだなんてまず思わないだろうよ」
「ははっ。そうだな」
そう笑い合う俺たちの頭上高く、爛々と輝く月の光を受けながら藤の花の家の敷居を跨ぐ。
近いうちに美鶴を交えて作戦会議をしなければならないが、取り敢えず今は、仕事の疲れを癒すための食事と休息が最優先だ。
なにせこの空柱様、今夜だけで任務を四件片付けているのだ。十分な休息を取らなければすぐに心身共に壊れてしまう。
そんな柔じゃない事くらいこの長い付き合いで分かってはいる。が。
「──俺はお前の隠で…背中、任されてるからな」
ぼそりと呟いた言葉は、俺たちを出迎えてくれた家主の声に紛れ、誰に拾われるでもなく夜の帳に溶けていった。
このやり取りを交わした一月後。
俺たちの予想通り、無一郎の階級は甲に上がり討伐数も50に達した。
鬼殺隊史上最速、二人目の齢14の柱の誕生だ。
・そうだ桜餅、と会議後に気付いた最古参(26)
今度は来るのはどんな柱なんだろうなって楽しみにしてた。後輩たちが揃いも揃って個性的なのばっかりだからその弊害とも言う。結果"髪色は派手だが普通の可愛らしい女の子"という印象に落ち着く。そのうち手合わせしたり話したりで体質の事やら入隊理由を聞いてまた笑う。やっぱり個性的だった。
思わぬ鬼の実態につい天を仰いだ人その①。お館様は知ってて俺たちを派遣したのか…?いやまさかな…。と疑う。産屋敷邸で報告ついでにそれとなく聞いてみるけど笑顔ではぐらかされる未来がある。
この度一から育てた弟子の成長を感じて感慨深い。
・あんた本当そういうところだぞ。と顔を覆った元継子(22)
会議が終わったのに名前で読んでくれないオリ主にちょっと拗ねてたら秒でバレた挙げ句頭をぽんぽんされた。他の柱がいる中での暴挙に恥ずかしくなるが嬉しいのもまた事実なので悔しい。
思わぬ鬼の実態につい天を仰いだ人その②。え、こんなのに殺られたのか…鬼殺隊大丈夫…?って脱力気味。自分で斬りに行くのもいいけどそこまで強くないし今回は任せることにした。オリ主が斬り損ねるなんて微塵も思ってないので、技を放った後すぐに烏を呼んで隠を連れてくるよう伝えてる。
この度血の採取要員に立候補した。
・少女鬼たち
瞳が綺麗な若い儚げな男が好みな鬼(里で話しかけてきた娘さん。蔦を扱う)と、とにかく筋骨隆々な男が好みな鬼(小屋で待機中。擬態させる事が可能)の娘さんたち。
それぞれ血鬼術を扱うのでそれなりの強さを持つ。よって一般隊士程度なら余裕で殺せるが、それは偏に"好みの男がいない"から。
「「好みの男がいたら?そりゃあ大興奮するに決まってるじゃない」」
・年下の命の恩人を全力で支えると決めてる人(30)
この人はこの人で結構な古参。
オリ主と同期で気心知れてる仲だから、周囲との認識にちょっとした誤差がある。
友人というより相棒的立ち位置。オリ主の事は尊敬すべき柱で真実鬼殺隊の光だと思ってるけど、だからと言って自身を蔑ろにしてほしいわけでは決してないし、常に"空柱"でいてほしいわけでもない。だから任務外では"一宮あおい"個人として接すると決めてる。
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以下補足&あとがき
柱合会議は元々3月と9月に行われていましたが、緊急で開かれたらそこから半年後に行う、という設定にしています。つまり現在の柱合会議は1月と7月(上弦の弐と闘ったのが7月という設定なので)。
伊黒さんと甘露寺さんですが、甘露寺さんは先に到着しててお手洗いに行ったら帰り道が分からなくなって迷ってしまう。その際案内を受けていた伊黒さんがやって来て運命の出会いを果たした。という設定です。そしてそんな空気を察した使用人はにっこり笑顔でその場を後にしています。
最初はもっと違う話を考えていたのに気付けば鬼は二体いるし好みの男を大声で叫び合っていたという…。夜中のテンションって怖いですね。
あおいが「賢くない」と言ったのは、「綺麗な瞳の大切な人」の話をしている時に鬼の気配が強くなった事、頑丈に出来ている隊服を皺が出来るまできつく握り締めていた事、分かりやすい箇所に"印"を付けていた事など、色々と総評しての発言です。裏話として、あまりにもドストライクだったために興奮して小さなミスを連発した、というのがあります。つまり恋する乙女()。まあ食べる気満々なんですけど。
ちなみに話しかけてきた娘さんですが、日中は苦手意識からかどうしても力が弱まるので印だけつけて夜になったら発動させる、という裏設定があります。待機してた娘さんは二人同時の擬態は苦手なので、日中はもう一方に任せることにしてます。という話を本編に入れたかった…。
あ、あおいと天元を派遣した理由に鬼の好みが影響しているのかは、お館様のみがご存知です。多分ただの勘です。きっと。
さて、初の紅葉視点です。何でか書くにつれてシリアスに向かおうとするのを全力で阻止してたらこういう形になりました。
紅葉は最初から、"一宮あおい"という個人を知っています。人の事で泣いてくれる優しい子で、一人でご飯を食べるのが得意でない寂しがり屋。そういう認識だったから、柱になった後に周りが色々言ってても「結構分かりやすいんだがな…?」ってなってました。
まあ、あおいが公私をきっちり分けるタイプだからこそ始まった誤解でもありますね。
それと、ここで言う「背中を任された」というのは、4話の最後であおいが紅葉に言った「背中は任せた」を受けての言葉です。本来は互いの命を預ける的な意味で使うと思いますが、あおい的には「後ろには絶対に鬼を行かせはしないから、その間に民間人の保護は頼む」という意味で使ってます。
こういうのもちゃんと本編で書けたら…いいんだけどな…。
思いっきりオリジナルだけど大丈夫かな…まあこれに関しては本当に今更なんですけど。とにかくそんな事を思いつつ、書いちゃったもんはしょうがないよね!という謎のポジティブ思考で投稿してます。
ではでは!ここまで読んでくださってありがとうございました!
~以下おまけ~
至るところで桜の花が咲き乱れる季節になった頃。遂に無一郎を最終選別へと送り出す日がやって来た。
「手拭いは持ったか?」
「うん」
「昼は?」
「ちゃんと持ってる、美鶴さんのおにぎり」
「刀は?」
「あるよ。…ねえちょっと。落ち着いてよ兄さん」
「いやだって…」
「ふふ。落ち着かないんだろう。いつもいる片割れと七日も離れるんだから」
なあ?と有一郎の頭に手を置いてくしゃりと混ぜる。
言い当てられた有一郎は眉間に皺を作りながら「うぐぅ」と呻いていた。
「…そうなの?」
きらきらと目を輝かせる無一郎はどこか嬉しげで。その顔を真正面から向けられた有一郎はまたもや小さく唸りながらぎゅっと眉間に力を入れていた。
「…落ち着かない、し…心配も、してる」
右手を強く握り込みそう呟く自身の弟子に、今度は紅葉が無言で頭を撫でた。
有一郎は既に紅葉や美鶴殿に同行して隠の技術を学んでいる。情報収集はもちろん、避難誘導も何回かしている筈だ。そしてその度に鬼というものがどういう存在なのか、まざまざと感じ取っているのだろう。それこそ、剣士の道を歩もうとしている無一郎よりも。
「兄さん」
静かに響く、優しい声音。
強く握り過ぎて白くなっていた右手をそっと包んだ無一郎は、安心させる、それでいて強い決意が秘められた笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「ちゃんと帰ってくるよ」
「…ああ」
「大丈夫。僕だってあおいさんに鍛えられて強くなったんだから。それに、お守りも貰ったしね」
ほら、と掲げるお守りは、今朝俺が渡したものだ。
「だから、安心して僕が帰ってくるの待っててよ」
ね、兄さん。
「…ふろふき大根作って待ってるから、さっさと帰ってこいよ」
「!うん!」
ぱあっと無邪気な笑顔を浮かべる無一郎に、有一郎も肩の力が抜けたようだ。幾分か柔らかくなった表情に、様子を伺っていた俺を含む三人が気付かれないよう安堵の息を吐いた。
「さて!そろそろ行かないと遅れるな」
「そうね。頑張ってきてね、無一郎くん」
「うん。ありがとう、美鶴さん。紅葉さんも」
それぞれと挨拶を交わし終えるのを見届けて、俺も一声掛けるために名を呼んだ。
「無一郎」
俺の声に反応してこちらを向く頭に手を置いてぽん、と一度跳ねさせる。
「行ってきなさい」
「…はい!」
行ってきます!
大きく手を振り駆けていく小さな背中を見送る。…いや、初めて会った頃に比べれば大分大きくなった。
あの時、ただ怒りに任せて斧を握っていた少年はもうどこにもいない。
稽古を付け初めて約二年。無一郎の成長は凄まじかった。もう気絶する事もないし、怪我の頻度も減った。だから大丈夫などと言うつもりは毛頭ないが、それでも。
「…可愛い弟子を信じて待つのも、師匠の役目の一つだしな」
──それは、一から育て上げた弟子の門出の日。