将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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産屋敷耀哉の初めての友人は妹の旦那の正体を知る
前編


 

 どうも、あおいです。

 久しぶりに会った友人に「柱になって」と頼まれました。いきなりすぎて俺はびっくりしています。

いや、本当に。

 

「…お言葉ですがお館様。俺はまだ14の若輩者です。この歳で柱になった者は俺の記憶にある限りいません。柱とは鬼殺隊の最高位。俺では分不相応かと」

「何事も最初は初めてだよ、あおい。それに君は先日下弦の肆を倒した。入隊してから鬼の討伐数も50を超えているし、階級も甲になっているだろう?柱になる条件は十分すぎるほど満たしてる」

 

 …そうなのだ。休む間もなく任務を熟していたら階級が甲になっていた。

 いい加減休みたいなと思いつつ、鎹烏の(あかつき)の案内で次の任務地に向かっていたのが二週間前。その途中で応援要請が入ったため向かったら、瞳に“下弦”“肆”と刻まれた鬼が恐らく隊士のものであろう足を咥えて小躍りしていたので、死闘を繰り広げた末に首を狩ったのも、二週間前だ。

 脇腹を怪我していたのと血鬼術の影響で幻覚を見続けていたこともあり、隠に家まで運んでもらい数日前まで療養を続けていたのだ。一宮の家が近くにあったのは運が良かったと言えるだろうか。

 その時の怪我が治って今に至るわけなんだが、あの鬼は本当に不愉快だったと、時が経った今でも思う。

 

 

*****

 

 

──その鬼は、嗤っていた。

 

「ふひっ。ひゃははははっ。また鬼狩りがやってきたなぁ。懲りることなく次から次へと…可愛いねぇ可愛いよ。ひゃははっ」

 

 脳を揺さぶる、不快な声。咥えていた足を其処らに放り血に染まった口で歪な笑みを浮かべる姿を見たら、もう駄目だった。

 

「空の呼吸 壱の型 紫電一閃(しでんいっせん)

 

 立っていた場所から一瞬で鬼の眼前まで移動する。そのまま首目掛けて刀を振るうも間一髪で交わされた。

 

「危ないねぇ危ない。あと少しで首が切られるところだった。ふひゃひゃっ」

「…」

「おお怖い。綺麗な顔で睨むなよぉ。勿体ないねぇ勿体ない」

「…うるさい黙れ」

 

 いけない。冷静になれ。視野を狭めるな。感情の波を一定にしろ。

 呼吸を一つ。視線は鬼から外さない。下弦の肆だけあって一切の隙もないが、少なくともこちらを下に見ている限りどこかで必ず隙ができる。

 にたにたとした顔をこちらに向けてくる鬼は、そこで初めて俺と目を合わせてきた。

 

「さぁて、お前はどんな顔を魅せてくれるぅ?」

 

──血鬼術 幻影透視

 

 

 

 気づけば目の前に大きな社が広がっていた。刀を構えたまま、周囲に視線を向ける。足裏から伝わってくる砂利の感触も、どこからともなく聞こえてくる神楽も、記憶にあるものと何ら変わらない。

 

(…血鬼術か。視覚…いや、感覚全てに作用しているんだろうな。どちらにせよ厄介なことに変わりはないが)

 

 さて、どうしたものか。

 下手に動く訳にもいかず、周囲の気配を読むことに徹する。

 すぐに気配が一つ、背後に現れた。

 刀を握り直し、振り向き様に一閃与えようと動き出すその直前。

 

「兄さま」

 

 いるはずのない可愛い妹の声が、聞こえた。

 勢いよく振り返る。

 そこには、白髪の髪を一つにまとめ、控えめながらも上品な着物に身を包んでいる、成長した姿の妹がいた。

 

「兄さま。やっと会えた…もうどこにも行かないでください。他の人なんてどうでもいい。私の、私だけの傍に、ずっといてください…」

 

 涙目でこちらを見上げながら縋りついてくる姿に、手が震えた。

 

 

『いいか、あおい。どんな時でも冷静であれ。一時の感情に呑まれて大局を見誤るな』

 

 

 …わかっていますよ、父上殿。

 しなだれかかってくる華奢な身体に腕を回す。もう離さないというように、強く、強く抱きしめた。…そう簡単に、動けないように。どこまで効果があるかはわからないが、やらないよりはましだ。自分の心情的に。

 

「ごめんな。もう大丈夫だ、どこにも行かない。ずっと傍にいるよ」

 

 刀を握った右手を静かに伸ばし、切っ先をこちらに向ける。

 腕の中で"ソレ"が笑うのを感じながら心の中で呟いた。

 

(空の呼吸 陸の型 光風霽月(こうふうせいげつ))

 

 "ソレ"が大きく口を開けるのとほぼ同時に、刀が脇腹に深く突き刺さった。

 

 

 

「ぎゃっ」

「ぐ、ぅっ」

 

 一応斜めに刺したんだが、目測誤ったな…。めっちゃ痛い。だがおそらく、鬼の方が痛みは強いだろう。この技で斬られると中々再生しないうえ、焼けるような痛みを伴うらしいからな(前に対峙した鬼が言っていた。決して実験したとかそんなんじゃない)。

 予想は当たったようで、再生しない傷口に焦った鬼に隙が生じ始める。

 

「なぜだ…俺の血鬼術は完璧だったはずだぁ。なのに何で騙されない!可愛い可愛い妹なんだろぉ?そんな大事な妹に刀をぶっ刺すなんてなぁ…ありえないねぇありえねぇよ!」

「…お前、何もわかっていないな」

「あぁ?」

「確かに俺は妹が大事だ。死なせたくないし、傷つけるなんて言語道断。だがな…あいつは他の誰かを“どうでもいい”なんて言わないんだよ」

 

 俺みたいに、家族が無事ならそれだけでいいなんて、そんな思考にはならない。

 

「自分だけが満足できれば他はどうでもいいなんて、絶対に言わない!」

 

──空の呼吸 肆の型 迅雷風烈(じんらいふうれつ)

 

 一気に駆け出し、まずは一閃。相手が防御するのを見届ける前に横に飛ぶ。幸いここは周りに木が生えている。利用しない手はない。

 木の幹を蹴り上げ速度を上げる。横から、背後から、正面から休む間もなく斬撃を叩きこみ、余裕を奪っていく。

 

「くっそぉちょこまかと…っ鬱陶しいなぁ!!」

 

 鬼が腕を払う。反応を見る限り、接近戦は得意ではないのだろう。幻術で獲物を惑わしそのまま食っていたんだろうな。…まったく忌々しい。

 

──空の呼吸 壱の型 紫電一閃

 

「ぎゃああ!!!」

 

 脚に力を込めて全力で地面を蹴り、鬼目掛けて刀を振るった。最初の一撃より速度も力も上がっている攻撃に、防御する間もなく首が宙を舞った。

 

「はっ、はぁ、はぁ…ふぅ…」

 

 脇腹の痛みが今になって強まる。汗が吹き出し、呼吸が中々落ち着かない。

 目を閉じてどうにか呼吸を落ち着かせ、刀に付いた血を払う。鞘に収めたところでバサリと羽音がした。鎹烏の暁だ。

 

「アオイ、隠呼ンダ。モウスグ来ルヨ」

「ん…ありがとう、暁」

 

 閉じていた目を開ける。…なんだかぼやけるな。日が昇って来たからそれでか…?

 目を擦ったり、瞬きを繰り返すが元には戻らない。

 

「あおい!!」

 

 そうこうしている内に隠が来たようだ。それもこの声と気配からして紅葉だろう。

 紅葉がいるであろう方向に目を向けて、固まる。もう何年も会っていない長兄がいた。

 

「もみ、じ…?」

「ああそうだよ。ちょっと待ってろ、今止血する。だからお前も呼吸で…」

「本当に…?」

「は?」

「本当に、もみじか…?」

 

 いや、声は紅葉だし、そもそもここに兄上がいるわけない。大方先程の血鬼術だろう。参ったな。中途半端に掛かったまま解けていないのか…。先程久しぶりにあまねの姿を見たから引きずられているんだろうか。勘弁してくれ。

 片手で目元を覆い、溜め息をつく。その様子を止血をしながら見ていた紅葉が、おもむろに口を開いた。

 

「…最終選別でのお前の泣き顔は中々可愛かったな。色々と台無しだったけど」

「次にその話題持って来たら蹴り飛ばすぞ」

「だって一番わかりやすいだろう」

「…まあな」

 

 だからってもう何年も前だろうに。よく覚えてるな…。

 

「とにかく移動するぞ。目がおかしいんなら瞑ってろ」

「たすかる…」

 

 そこで、静かに肩にとまっていた暁が嬉しい情報を落としてくれた。

 

「アオイ、ココ一宮ノ近ク」

「ああ、じゃあそっちに運んでくれ…」

「案内スルネ」

 

 バサリと音が鳴り、肩の重みが消える。傷に障らないようにだろう、ゆっくりと紅葉が俺を背に負ぶってくれた。

 

 

 

「あの家か」

 

 風を切るようにとまではいかないが、それなりの速度で走ってくれたため一宮の屋敷にはすぐに着いた。結構近かったんだな。

 暁が更に飛んでいく音がする。おそらく庭に向かったのだろう。

 

「カア、起キテ。父上殿、母上殿起キテ。アオイ怪我シテルノ。ダカラ起キテ」

 

 中からバタバタと音がする。日が昇ったばかりなのに早起きだなと、見当違いなことを思った。

 

「あおい!」

 

 父上殿の焦った声を最後に、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 それから一週間ほど、俺は熱と幻覚に苦しめられた。

 どうやら俺の身体ごと鬼を刺した時に、体内に少し血が入ったらしい。拒否反応を起こしているのだろうと父上殿が言っていた。

 幻覚の方はもうどうしようもないので、目に包帯を巻いて物理的に見えないようにした。14にもなって母上殿に食べさせてもらったり身体を拭いてもらったりと世話を掛けさせたことは非常に申し訳ない。もはや介護だ。ただ下の処理は断固として拒否した。怪我人にだって人権はある。

 

 

*****

 

 

 そういう経緯を経て下弦の肆を斬ったわけなんだが…駄目だな。思い出したらまた腹が立ってきた。

 落ち着け一宮あおい。お館様の御前だぞ。今は話に集中するんだ。

 

「あおい、私はね。また君に傍で支えてもらいたいと思っているんだ。柱になればそれだけ危険な任務に向かうことにもなるし、責任も増える。君はまだ若いから、他の隊士からやっかみを受けるかもしれない。それでも私は、君に柱になって私を、ひいては鬼殺隊を支えてほしい」

 

 お館様がこちらを見つめる。絶対に引かないって顔に書いてあるな。

 …まったく。どうにも俺は、この年下の友人兼主に弱くていけない。けれど、そうだな。これも何かの縁なのだろうし、ここまで言われて断れるほど俺の意志は固くない。

 それに、他ならぬ耀哉の言葉だ。

 一度目を閉じ、心を決める。再び開けて、頭を垂れた。

 

「…不祥ながらこの一宮あおい。今度ともお館様を初め、人命を守るため、粉骨砕身勤めて参りたい所存です。──柱拝命の誉、有り難く頂戴致します」

「ありがとう、あおい。今後とも他の子どもたちの支えになってくれると信じているよ」

 

 一つ頷きながらお館様はそう仰ると、おもむろに二度手を叩いた。

 隠が一名入ってくる。

 その手には鬼殺隊士ならば見慣れた一本の日輪刀。

 

「今日からこの刀を使いなさい。身長も伸びているし、今の刀は短いだろう。柱の証である“悪鬼滅殺”の字はもうすでに彫ってあるよ」

 

 おい。

 

「俺が柱を断ったらどうするつもりだったんです?」

「え?」

 

「君が私のお願いを断るわけないだろう?」

 

 輝かんばかりの笑顔をこちらに向けるな。

 お前ほんとそういうところだぞ。

 

 

 

 空柱 一宮あおい。

 それは、誰よりも守ることを刀に誓う者。

 

 

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