将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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中編

 とある列車で40人程が神隠しにあった。その沿線で確認されている切り裂き魔も含めて調査し、鬼であるならば速やかに討伐する。

 今回俺に与えられた任務の概要はそんなものだった。

 その列車──無限列車が運び込まれた整備工場で現れた鬼は切り裂き魔と呼ばれていたものだったが、あの程度の強さなら40人食った鬼はまた別にいるのだろう。あれはあまりに弱かった。

 故に俺は今、無限列車に乗車している。もう一体鬼がいるのなら、それは乗車していなければ遭遇しない筈だ。でなければ乗客が神隠し(・・・・・・)なんて表現にはならない。

 鬼が現れるまでに購入した弁当を食べてしまおうと一つに手を伸ばし胃の中に納めていく。

 うむ、うまい!これはいくつでも食べられるな!

 思わず声に出てしまうがこれは仕方がないだろう。何より素直に感想を伝えるのは大事だ。無言で食べていては口に合わなかったのかと作り手が心配してしまうからな。父上や母上には苦言を呈される事もあるが、千寿郎は嬉しそうに笑ってくれるから今後もやめるつもりは毛頭ない。

 一口ずつ味わいながらそれにしても、と考える。

 まさかあの店主を昔父が助けていたとは。なんとも不思議な縁だ。けれど、父が繋いだ命を今回また繋ぐ事ができてよかったと思うし、かつての父が歩んだ軌跡の一欠片を知る事ができてよかったとも思う。

 もちろん、当時の記憶は今でも鮮明に残っている。弟の千寿郎と俺とに稽古をつけてくれた父はそれは熱心だったし、隊服と羽織を身に付けた父の背中は俺にとっての憧れでもあった。残念ながら任務中の姿を拝見する事は終ぞ叶わなかったが、いつか当時を知る者に話を聞いてみたいものだ。

 何せ父本人は恥ずかしがって絶対に口を開いてくれないので。

 となると当時同じ柱だった一宮さんか不死川の師匠辺りだが…。どちらに聞いても嬉々として話をしてくれる気がする。

 二人が話をして、それを阻止しようと慌てる父上がいて。きらきらと瞳を輝かせる千寿郎と、呆れながらも優しい眼差しで見守る母上。

 これ以上ないしあわせで、守りたい日常の光景だ。

 緩みそうになる口角を弁当を食べる事で耐えつつ、ひたすらその時が来るのを待つ。

 そうして最後の一つを食べ進めていた頃、やって来たのは例の鬼連れの隊士と、その同期だと言う猪頭と黄色の隊士たちだった。

 どうやら俺と合流するよう指令が入ったらしい。

 いい機会だと思った。

 柱合裁判の際は"隊律違反を犯した者と鬼と化した妹"という認識でいたから、俺は彼ら個人に関する情報は一切持ち合わせていない。

 けれどお館様と、あの一宮さんがあそこまで庇っていたんだ。今後の()となるだけでなく、人柄や隊士としても有望なのだろう。

今回の任務で少しでも彼らの事を知れたらいい。

 そんな思いから少年を隣の席に座らせ話をしていれば、"ヒノカミ神楽"について何か知らないかと問い掛けられた。

 ふむ…。

 

「知らん!ヒノカミ神楽という言葉も初耳だ。君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいが。この話はここでおしまいだな」

 

 「えっ」という声が聞こえたが知らないものは知らないんだ。すまんな!

 一宮さんか、元柱であった父上なら何か知っているかもしれないが。

 …そうだ。

 

「俺の継子になるといい!面倒を見てやろう!」

 

 聞けば日輪刀は黒刀だと言うし、うむ!我ながらいい考えだ。この少年の事も知ることができるし、是非とも継子にしよう。

 そう思っての提案だったが、些か急過ぎたらしい。"断る"とは言われなかったが困惑させてしまった。

 仕方がない。この任務を無事に終えられたら再度誘う事としよう。

 そんな事を考えていれば、列車が非常に珍しいのか随分と楽しそうな声が耳に入ってきた。

 列車との競争か。中々いい鍛練になるかもしれないが…今は諦めてもらおう。

 何せ、いつ鬼が出てくるのかわからないのだから。

 その事と併せて任務内容を伝えれば、知らなかったのか急に騒ぎが収まった。

 いや、黄色の少年はひたすら「降りる」と泣き叫んでいるが。

 これだけ叫んでも息切れ一つしないとは…いい肺をしている。

 静かに感心していると車掌が切符の確認にやってきた。特に疑問に思う事なく自分の分を差し出し切り込みを入れてもらう。

 その瞬間、覚えのある声が脳内で再生された。

 

──列車ではなるべく力は温存しなさい

 

 母の──いや。煉獄家の恩人と言っても過言ではないあの人の言葉を、何故俺は忘れてしまっていたのか。

 愕然とした思いでいれば、次第に意識がぼんやりと曖昧になっていく。

 それに疑問を抱く事はない。ただ唯一、胸元辺りが熱を放っている事だけが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 ふと気づけば、自宅の門前に佇んでいた。

 

「…?」

 

 現状をうまく把握する事ができず、左右を見渡し、最後に自身の格好を見下ろした。

 特に代わり映えのない私服が視界に入り、何故隊服ではないのだろうと首を傾げる。そしてすぐに、「蝶屋敷の帰りだからだ」と思い至った。

 俺は先日、下弦の鬼の討伐に成功した。その際負った怪我の療養のため、数日間蝶屋敷に世話になっていたのだ。

 昨日見舞いに来てくれた母と千寿郎が粗方の荷物を持って帰ってくれたため、今はほとんど手ぶらに近い。

 たったそれだけの事なのに、なんだか嬉しくなってしまう。誰一人欠ける事なく日々を過ごしている事が、俺にとってはなにものにも変えがたい幸せなのだ。

 

「あ、兄上!おかえりなさい!」

 

 ガラリと玄関の戸を開いて敷居を跨げば、すぐに出迎えてくれる弟の千寿郎。どうやらここで俺の帰りを待っていたらしい。まったく、俺の弟は可愛いな!

千寿郎と、次いで出迎えてくれた母上に「ただいま帰りました」と返事をする。

 にこにこと満面の笑みを浮かべどこか浮き足だって見える千寿郎と、優しく目元を緩めている母上。

 そこに父上の姿がないことに、想像できたとはいえやはり多少の気落ちはする。

 

「母上、千寿郎。父上にも挨拶と報告に行って参ります」

 

 此度の任務で柱への就任が決定した事を報告した後にそう続ければ、母上は一つ頷いて、千寿郎は少し心配そうにしつつどこか期待の籠った目で送り出してくれた。

 廊下に出て歩みを進める中、ふと思う。柱になると伝えれば、父上は俺を認めてくれるだろうかと。

 父上が俺と千寿郎に稽古をつけなくなってどれだけの年数が経っただろうか。昼間に酒を呑むようになって──全てを否定するようになったのは、いつからの事だろう。

 あんなに情熱的に、熱心に鍛練に励んでいたのに。俺たちにも、先祖代々伝わる呼吸を絶やさないようにと指導してくれていたのに、何故。

 …こんな事、考えても仕方のない事だというのはわかっている。

 母上の言葉でさえ心の奥底には届かないのだ。息子で半人前の俺の言葉では、まず届かないだろう。

 …いや。こんな風に弱気になってどうする。

 柱になったんだ。これからは他の隊士の手本となりお館様を直にお支えする立場になるのだから、心を強く持たなければ。

 それに、たとえ父上が認めてくれなくても、喜んでくれなくても、俺の心の炎が消えることはない。父上から教えられた情熱を、俺が絶やすことは絶対にないのだから。

 そう改めて決意し、辿り着いた部屋の前で一声掛ける。

 返事は返ってこないものと思っていたが、予想に反し小さくもはっきりと「入れ」という声が聞こえてきた。

 それに驚きつつ襖を開けば、記憶と違う光景が広がっていて更に驚く結果となった。

 布団が綺麗に畳まれている。これまでは敷きっぱなしの布団の上で酒を呑むか横になって書物を読むかしていたのに、その布団がなくなっていた。こちらに背を向けてはいるものの、着流しの前部分がきっちりと閉じられているのが後ろからもよくわかる。

 そしてなにより、酒の匂いがしない。たまに母上が換気だと言って障子を開けているがここまで匂いが消えている事はなかった。

 

(一体何があったんだ…)

 

 半ば呆然としながらその背中を見つめるが、すぐに本来の目的を思い出す。そう、俺は父上に挨拶と報告に来たのだ。いつまでも呆けてはいられない。

 一度思考を切り替えるために深呼吸し口を開く。

 蝶屋敷から無事に退院し五体満足である事、十二鬼月を討伐したため柱への就任が決定した事、今後も炎の呼吸を継承する者として精進していく所存である事。

 静かな部屋に自分の声だけが響く。言い終わった後はその声すら途絶え、沈黙のみが場を制していた。

 父上からの反応があったのは、一旦部屋から出た方がいいかと思い始めた時のことだった。

 

「──励め、杏寿郎」

 

 失礼を承知で正直に言おう。幻聴だと思った。

 脳がその音を言葉としてうまく処理してくれないため、返事をするのに数瞬の間が生じる。

 しかし理解した途端、己の身の内に宿る炎が全身に回ったような感覚に陥った。

 たった一言。されどその一言がこんなにも嬉しく、己を奮い立たせてくれるのだから、存外俺も単純な男なのだろう。

 

「──はい!」

 

 高ぶった気持ちのまま大きく返事を返せば鼻を鳴らしたきり黙りこんでしまった。

 うむ!今のは照れ隠しだな!

 自然と上がる口角をそのままに一声掛けて退室する。先程までと違いその足取りは軽いものだ。

 廊下を進み角を曲がれば、その先にひょこりと覗く自身と同じ髪色を見つける。

 名前を呼ぶ前に「兄上!」と駆け寄ってくる弟はどこか嬉しそうで、その様子に自身の顔が未だに緩んでいる事が察せられた。

 やって来た千寿郎と隣に並び、話しながら居間へと向かう。その短い道中で教えられたのは、父上のここ数日の変化とそのきっかけの話だった。

 

「そうか、一宮さんが…」

「はい。父上と話をしてくださいました。どういった流れなのかはわかりませんが、最終的に父上を庭に蹴り飛ばして喝を入れてくださってましたよ」

「…ん?」

 

 再び幻聴が聞こえたかと思ったが、いい人ですね!とにこやかに言う千寿郎に迷わず閉口する事を選択した。

 深く考えたらいけない事もある。

 それに、別段意外という訳でもない。かつて父上は一宮さんの事を「聡明で心優しいがいい性格(・・・・)をしていて大雑把な一面がある」と言っていたし、そもそもただ優しいだけの人が何年も柱としてあれる訳がない。

 そも、あの宇髄の師範であった人だ。それだけでも理由としては十分だろう。

 

「…?」

「兄上?どうかしましたか?」

「いや…」

 

 なんだろう。今一瞬、何かが引っ掛かったような気がしたんだが。

 首を傾げたその瞬間、胸元で仄かに熱を感じた。しかしそこに触れてみてもなにもないため、また首を傾げてしまう。

 そうしていれば先程感じた違和感も次第に霧散していき、別の事が思考を占めていった。

 

「うむ、千寿郎!稽古をつけてあげよう」

「ありがとうございます、兄上!」

 

 満面の笑みで俺を見上げてくる弟は文句なしに可愛い。

 全身から嬉しさが滲み出ている様子が微笑ましくて、つい静かに笑ってしまう。

 こんなに穏やかな気持ちになったのは随分久しぶりの事だった。

 願わくばこの時間がずっと続けばいい。

 そんな事を思いながら、準備をするため部屋の襖をす、と開いた。

 

 

「─ごく。煉獄」

 

 声が聞こえる。己の名前を呼ぶ声。

 聞き覚えのあるそれは任務中にしては柔らかく、しかし普段よりもずっと感情が読みづらかった。

 

「どうした。体調でも悪いのか」

 

 ぱちり、と一つ瞬きをして状況を整理する。

 気づけば千寿郎の姿はなく、代わりに一宮さんが覗き込むようにして俺の様子を伺っていた。

 はて。どういう状況だ、これは。

 いつものように口面をつけている彼の表情は読めない。しかしこちらを見つめるその瞳には、確かに心配の色が濃く宿っていた。

 

「む、問題ない!すまない。些かぼうっとしていた」

「…そうか、何もないならいいんだ」

 

 そう一つ頷いた一宮さんに、今は会議後だと思い至る。

 解散後、日が落ちているから警備をしつつ帰宅しようと考えていた際に話しかけられたのだった。

 …しかし、こんなに明るかっただろうか。もっと、そう。それこそ俺が警備の事を考えるくらいには暗かったはず。

 

「煉獄」

 

 再度、一宮さんが俺の名を呼ぶ。

 

「列車ではなるべく力は温存しなさい」

 

 列車。

 その単語が何故か引っ掛かった。

 おかしい。そう話題に出る事もないのに、最近どこかで聞いたような気がしてならない。

 僅かに首を傾げていれば「その時になったら思い出してくれればいいよ」と一宮さんは小さく笑って続けた。

 …何か、見たのだろうか。

 あまり詳しく聞いていないが、一宮さんは未来がわかると言う。俄には信じがたいが、この人は嘘を吐くような人ではないからそういうものなのだと納得している。とはいえ、それらしい内容を聞いたのはこれが初めてだが。

 …ああ、いや。それよりも列車(・・)だ。俺は一体どこでこの単語を聞いたんだ。

 先程から感じているこの違和感はなんだ。

 無意識に胸元に手が行く。そこから普段感じる事のない熱を感じて焦燥感が増していった。 

 いつもより思考が回らない。

  視界もぼんやりと霞がかっていき、その事に更なる焦りともどかしさを感じる。しかし、こちらの心情などお構いなしに視界と瞼の境目が曖昧になって──。

 

「──しっかりしろ、煉獄杏寿郎。まだやるべき事が残っているだろう?」

 

 柱としての責務を果たせ。

 続けられたその言葉は、やけにはっきりと耳に届いた。

 もはや開く事も困難だったのに、瞬時に視界が開ける。それと同時に思考もはっきりとしてきた。

 そうだ。今は無限列車での任務の真っ最中。これはもしかしなくても血鬼術の類いか。

 ばっ、と正面に立つ一宮さんを見やる。

 どこか満足そうな顔をしているその人に何か言うよりも前に、視界の端に赤がちらついた。

 それに意識を持っていかれてすぐ、俺の視界は暗転することとなる。

 

 

 

 

 

「うたた寝している間に、こんな事態になっていようとは…」

 

 意識を取り戻した時、周囲は異様な光景に包まれていた。

 形容しがたい色合いの、肉の塊。

 周りの乗客が全員寝ているのを見るに、先程の光景は全て夢だったのだろう。

 そっと自身の胸元に手を当てるが、夢の中で感じていた熱は既になくなっている。

 俺が柱に就任した際、お館様より頂いたお守り。

 どこか見覚えのある作りのそれは、母が大事に持っているものと同じだった。

 

「…本当に不思議な人だ」

 

 受け取ってから今日まで必ず胸元に入れていたが、熱を持つなんて事はなかった。

 どういう原理なのかはわからないが、あの夢の内容と感じた熱からして、このお守りが何かしらの影響を与えたと言ってもいいだろう。

 母上が渡されたお守りは気を安らげる効果があったという。

 対してこれは、お館様の屋敷周辺に張ってある結界に惑わされないようにするためのものだとか。

 それ以外の効果は教えられていないが、聞いたら一宮さんは教えてくれるだろうか。

 まあなんにせよ。

 

「今は任務が最優先だな」

 

 乗客に伸ばされていた肉塊を斬り捨てながら周囲を探る。

 共に座っていた少年たちの姿はない。前方車両から複数の気配と共に戦闘音が聞こえてくるので、既に目を覚まして任務にあたっていることが察せられた。

 そしてこの気配からすると例の鬼の妹も戦っているのだろう。

 

「よもやよもやだ。柱として不甲斐なし」

 

 そう呟きながらも知らず口角は上がる。

 油断することなく前を見据え、構えた。

 

「穴があったら──入りたい!」

 

 あの時一宮さんは「手を抜け」とは言わなかった。つまりは通常通りで構わないが全力は出すな、という事。乗客たちに害が及ばないよう最低限の動きで斬っていく。

 途中で竈門少年と猪頭少年に鬼の首を斬るよう指示を出し、ひたすら肉塊を斬る事に専念した。

 斬って、斬って、斬って。

 そうやって眠る乗客たちを守っていれば、凄まじい断末魔と共に大きく車体が跳ねた。おそらく少年たちが鬼の首を斬ったのだろう。大量の腕が乗客たちの首を掴むのをすかさず斬り刻む。これで終わるかと安心したのも束の間、車体が跳ねた影響で列車が脱線したらしい。このままでは横転して死傷者が出るだろう。

咄嗟に型を放ち衝撃を相殺すれば、横転はしたもののある程度衝撃は押さえられたようだった。怪我人はいるが目に入る範囲に犠牲者はいない。

 …一宮さんが言っていたのは、この事だったのだろうか。鬼の首を斬った後に列車が脱線する可能性があるから注意しろと、そういうことなのか。

 なんともすっきりしない心持ちのまま少年がいるであろう先頭部分へ向かう。

 腹部に傷がある竈門少年に回復の呼吸を教えてやれば、すぐにコツを掴んだのか次第に出血が収まってきた。うむ、筋がいいな!

 

「呼吸を極めれば様々な事ができるようになる。なんでもできる訳ではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」

「…はい」

 

 呼吸を自分のものにしようとしているのだろうか。静かに話を聞いている少年に笑みが溢れる。

 未だ気を張っている様子だったため乗客に死者はいない事と、あとは任せて安静にするよう伝えれば安心したような表情を浮かべられる。

 その反応に目尻を緩め、空を見上げた。もうすぐ夜明けだ。

 そうひとつ息を吐いた直後、それ(・・)は現れた。

 

「──!」

 

 凄まじいまでの威圧感。息ができないと錯覚させる程のそれを、俺は今まで感じたことがなかった。

 砂埃が晴れた、その中心地。

 目に入ったのは身体中に浮かんでいる刺青のような紋様。そして瞳に刻まれた特徴的な文字。

 

「上弦の、参…?」

 

 足元から呆然とした声が聞こえる。

 その声に反応したのか知らないが、鬼の視線がゆっくりと少年を捉えた。

 次の瞬間、鬼が一気に距離を詰めてくる。狙いは少年だ。彼は反応できていない。ただでさえ怪我で満足に動けないんだ、無理もないだろう。

 鬼の攻撃から庇うために前に出ようとして、直後。

 視界の先で白色が弾けた。

 

ザンッ

 

 月明かりを反射した刀が振り抜かれる。一度大きく距離を取った上弦の参は、斬られた腕を即座に再生させながら苛立たし気に口を開いた。

 

「…何だ、お前は。邪魔をするな」

「──生憎と、お前らの言う事を聞く義理はないんでね」

 

 刀に付いた血を払って隙なく構えるその姿はとても頼もしい。

 相も変わらず水面(みなも)のようなその気配に感じる安堵をそのままに、俺も気を引き締める。

 

「さて、炎柱。まだいけるな?」

「無論だとも!」

 

 我ら鬼殺隊最古参の柱の登場は、間違いなく俺の肩の力を抜いてくれたし、言葉少なに掛けられた声には無条件の信頼が寄せられていて場違いにも嬉しくなる。

 その嬉しさを闘志に変えながら、俺は再び刀を構えた。

 

 

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