将来妹が鬼に殺されるかもしれないので絶対阻止したいお兄ちゃんの話   作:シグル

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産屋敷耀哉の初めての友人は同僚の最期に託される
前編


 

 産屋敷邸。

 鬼殺隊当主であるお館様が住まわれる場所。鬼に悟られないようにするため、人の出入りは必要最低限で賑わうことはほとんどない。

 しかし、普段は静かなこの屋敷も、今日に限っては笑い声に満ちていた。なんていったって、我らがお館様の婚礼の日なのだから。

 

「いやぁそれにしても!実にめでたい!改めてお祝い申し上げる、お館様、あまね様!」

「ありがとう、槇寿郎」

「ありがとうございます、煉獄様」

 

 主役であるお館様と細君に加えて炎柱、水柱、風柱、そして空柱である俺らのみが集められたこの宴は、完全に身内だけの小規模な祝いの席だ。お館様のことだから柱たちの息抜きも兼ねているのかもしれないが、おそらく細君と柱の顔合わせが主な目的だろう。

 無礼講ということで、柱は全員酒が入っていて大盛り上がりだ。とはいえ、正体をなくすほど飲んでいる者はいない。二日酔いになんてなったら任務に支障が出るからな。流石に自重はするさ。

 柱が順番に挨拶をし、いざ俺の番となったから空柱として口上を述べたんだが…。

 

「改めまして。ご結婚、おめでとうございます、お館様、細君。今後ともこの一宮あおい、お二方を始め、鬼殺隊の支えとなれるよう尽くして参る所存です」

「うん。ありがとう、あおい」

「ありがとうございます。空柱様」

「固いな一宮君。妹君なんだろう?ちゃんと義兄として挨拶しないと!」

「そうだぞあおい。今のうちに兄としての威厳をだな」

「俺たちの存在が気になるのなら耳を塞いでおこう!」

 

 どうにも外野がうるさくて仕方ない。酔ってるのか?酔ってるんだな?いつもそんなに連携してふざけないだろう。

 

「ふふふ。遠慮しなくていいんだよ、あおい。今日は無礼講なんだから」

「…」

 

 にやにやと酔っ払いたちが笑っているのがわかる。これは何か言わないと後がうるさいな。

 仕方がない、と小さく息を吐く。どうせこの宴会が終わった後に言おうと思っていたんだ。今言ったってそう変わりはしないだろう。普段より鈍った思考でそう結論を出し、改めて二人に向かい合う。

 

「…では、遠慮なく」

「うん」

「──妹を泣かせたら、いくらお前でも怒るからな、耀哉」

 

 音が一瞬、止んだ気がした。…ここにいる柱は全員、俺と耀哉の関係を知っている。けれど今まで友人として接している所を見せたことが無かった。だから驚いているのだろうと思う。多分。俺も酔いが回ってきているから自信はない。

 上座に座り、こちらの様子が全てわかっているお館様──耀哉はしかし、大した動揺もなく応えた。

 

「うん。わかってるよ、あおい。大切にする」

「ならいい。あまねも、泣かされたらいつでも言え。駆けつけるから」

「はい、兄さま。ありがとうございます」

「ん」

 

 そうだ、もうひとつ言いたいことがあったんだ。兄として、友人として。さっきのは柱としての言葉だったから。

 視線に、声に、想いをのせる。

 

「二人とも、結婚おめでとう」

 

──どうか末永く、幸せであってくれ。

 

 

 

 酔いを醒まそうと、縁側に出て庭を見つめる。静かに吹く風が心地いい。

 お館様は炎柱と風柱に、細君は水柱と話をしている。俺も先程まで水柱に捕まっていたが抜けてきた。ちなみに水柱は女性だ。同性同士でしか話せない話もあるだろうという意図もあるが、果たして酒の席で話ができるのかは分からない。

 そのまましばらく一人で涼んでいたらお館様がやってきた。

 

「お館様」

「酔いは醒めたかな?あおい」

「ええ、大分。ところで、炎柱と風柱は?」

「話の流れで腕相撲対決に発展してね。それを見ていた瑞乃が二人を瞬殺して再戦を申し込まれていたよ」

「何ですその愉快な展開」

 

 瑞乃とは水柱のことだ。気持ちのいい性格をしていて俺のことも弟のように可愛がって…かわい…うん。とにかくいい人なんだ。

 それはそうと炎柱も風柱も結構がたいがいいんだが…。火事場の馬鹿力ってやつか。見たかった…いや。見ていたら確実に巻き込まれるな。

 

「それで、何か憂い事かな?」

「…さすがお館様。鋭いですね」

「ふふ。大切な子どものことだからね。それに、大切な友のことでもある」

 

 優しく細められた瞳。いつもは何ともないが今回ばかりは居心地が悪く、つい視線を庭に逃がす。

 

「…お館様と細君の見合いの日、与えられた部屋に書物が置いてあったんです」

 

 そのまま独り言のように続ける。

 

「代々神籬家に伝わる書物で、指南書のようなものでした」

 

 お館様は何も言わない。

 

「そこに結界の張り方や、…呪いの、解呪方法が載っていました」

 

 言いたいことが上手く纏まらなくて段々と早口になっていく。

 

「貴方からしたら大きなお世話かもしれない。必要ないことかもしれない。でも俺はっ…大切な友人を亡くしたくない。だからお願いします。解呪を試す、許可を頂けませんか」

 

 …お館様の表情は変わらない。

 

「あおい」

 

 その表情のまま、お館様は口を開いた。強張った身体が、その声でほぐれていく。

 

「その解呪とやらは、君に大きな負担を与えないかい?」

「…始めは慣れないだろうから疲れはするでしょう。子どもの頃、千里眼が現れてすぐはそうでした。ですが、慣れてからはそう苦でもなくなっていましたから、コツを掴めば問題はありません」

「そう」

 

 ゆっくりと頷いて、そして。

 

「──いいよ、あおい。許可しよう」

「!お館様…」

「ただし条件がある。現段階ではまだ呪いは表面化していない。今試してみても効果があるかはわからないだろう。だから、呪いの影響が出始めたら。解呪を試すのは、その後だ。いいね?」

 

 それで十分だった。解呪をしてもいいという言質が取れれば、それで。

 

「承知いたしました。お館様、感謝致します」

「お礼を言うのはこちらの方だよ。…時が来たら、頼んだよ。あおい」

「はい」

 

 

 

「では先に産屋敷邸を隠すための結界を張らせてください」

「え?」

 

 ?何をそんな驚いた顔をしているんだ?何事も下準備は大事だろうに…。

 ああ、柱にはお館様直々に護符の入ったお守りを渡せば問題ない。心からお館様を慕っている連中だから、絶対に失くしたりしないだろう。

 斯くして翌日、無事結界は張られることとなり、柱にはそれぞれお館様からお守りが渡されることとなった。

 

 

*****

 

 

 耀哉とあまねが正式に夫婦となって以降、俺は隊服を着ている間は口面をつけて過ごすようになった。見合いのときに作ったあの口面だ。

 今はまだあまねが俺の妹であることは広まっていないが、今後もそうだとは限らない。ないとは思うが、またやっかみを買うのは面倒だ。俺自身の気持ちの切り替えにも丁度いいし、傍から見ても公私を分けているとわかりやすいだろう。余計な火種は生まないに限る。それに、一回限りとするには惜しいくらい出来が良かったんだ。もったいないだろう。

 初めは驚いていた隊士も隠も、今では慣れたもので特に反応は示さない。…一部を除いて、だが。

 

「いっちみーやくん!奇遇だね!君も任務かい?」

 

 口面をつけ始めて数ヶ月が経ったある日。街中で偶然水柱の白金殿に会った。

 

「白金殿。いえ、ちょうど終わって帰宅するところです。そちらはこれから任務ですか?」

「そうかそうか。お疲れさま。私はこれからなんだよ。ちょっと遠くてね、長期になりそうなんだ。…それにしても、相変わらず綺麗な口面だね。やっぱり私もつけようかな…でもそうすると特徴が被っちゃうよね?柱二人が口面…個性も被るし四人で歩いてたら怪しい集団になっちゃうし駄目か?」

 

 それは言外に俺が怪しいって言ってるのか…?

 

「…まあ、個性とか怪しいとかはともかく、面だと肌に直接当たりますから荒れやすくなるのでは?」

「あー、確かに」

「布って手もありますけど、戦闘中は風で煽られて視界を塞ぐ可能性もありますしね」

「う~ん。要検討ってところだね…って、そろそろ行かないと。予定に遅れるな」

「俺も引き留めてすみませんでした。…ご武運を」

「うん、ありがとう!次の柱合会議には間に合わないかもしれないけど、私のことは忘れないように!じゃあまたね!」

 

 そう言って走り去る背中を見つめる。彼女はいつも去り際に“またね”と言う。彼女なりの願掛けなんだそうだ。鬼殺隊士はいつも死と隣り合わせだから、少しでも生きる理由になるようにと。自分だけでなく、相手への願掛けも入っている。

 

「貴女のような人、中々忘れられませんよ、白金殿」

 

 

 

「炎柱、どうかされましたか」

 

 今日は半年に一度の柱合会議が産屋敷邸で行われていた。水柱と街中で会ってから五日が経っている。彼女は宣言通り間に合わなかったため、柱は三人だけの参加だ。一人減ると不思議なもので、いつもより場が静かで落ち着かない。加えて常日頃から賑やかな炎柱がどこか上の空で発言も少なく、更に場は静かなものとなった。やっと声を発したと思ったら声の張りが無くて、思わず風柱と無言で顔を見合わせるほどには驚いた。

 今回こうして声をかけたのも、心配だったというのももちろんあるが、その風柱から託されたというのもある。ちなみに当人はこの後どうしても外せない用事が入っていてもう既にこの場にはいない。

 

「あおい…ああ、いや」

「…槇寿郎殿。人に心の内を話すだけでもすっきりすることはあります。差支えなければ聞かせていただきたい」

 

 少々強引な気もするが、ここは引かずにいるのが吉と見た。予想通り、槇寿郎殿は小さく息を吐き出すと声を押さえて教えてくれる。

 

「実は瑠火…妻の体調が最近優れんのだ」

「それは…すみません、不躾に」

「いや、構わん。気にするな」

「…お医者様は、なんと」

「それが…原因がわからないと言われてな」

「そうですか…。あの、気休めにしかならないと思いますが、お守りを渡してもいいでしょうか」

「お守り?」

「はい。少々縁があって、最近作り始めたんです。今は手元にないのですが、屋敷に戻ったら暁に運ばせますので…」

 

 そう告げると、槇寿郎殿は迷うように視線を揺らし、ややあって頷いてくれた。

 

「…せっかくだからありがたく頂こう。気遣い感謝する、あおい」

「いえ…」

 

 押し付けがましかっただろうかと、少し反省する。けれど、どうしても何かしたかったのだ。槇寿郎殿にはこれまで本当に世話になったから。

 それに、今回渡すのはただのお守りではない。鎮静効果が見込める護符を入れたお守りだ。不安感を減らすことができると指南書に書いてあった。病に対してどこまで有効かは分からないが、持っていても邪魔にはならないだろう。

 そう判断して、屋敷に戻り暁に頼んで槇寿郎殿に届けてもらう。ついでに桜木殿への紹介状も書いておいた。あの人は確か西洋医学も学んでいたから、もしかしたら何か力になってくれるかもしれない。

 

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