【2年生編完結】幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。 作:かんかんさば
倉敷での自由散策を終え、今度はバスで今日泊まるホテルがある姫路に移動した。ホテルからは白鷺城という通称で有名な姫路城が見え、その圧倒的な佇まいには息を飲まれる。
「結果が来るまであと1分、緊張するな〜」
『ドキドキしますね……!』
そして今、ホテルのラウンジで未確認ライオットデモ審査の結果発表を待っている。夕食までは少し時間があるので、ビデオ通話を使って遠く下北沢にいるひとりと喜多ちゃんも参加している。
『おっ、おおお落ちたら腹を切らねば……!』
「んな物騒なこと考えるな」
「大丈夫、ダメだったら楓が責任取って紐なしバンジーするから」
「しないから」
送ったデモは結束バンドの全てを賭けた曲だ。だからきっと通ってる、とは言い難いが通ってることを願いたい。結果のメールが届く午後6時まであと1分少々だというのに、そこまでの時間がとても長く感じる。どうか彼女たちが報われますように。今はそう祈るしかないのかもしれない。
「おっ、メール来たよ!どれどれ〜」
虹夏の発言でスマホを開くと、ロック画面の時刻はちょうど午後6時を示していた。未確認ライオットの運営からメールが届いたようだ。虹夏はスマホでメールを開き、読み上げ始めた。
「『結束バンド様 この度は未確認ライオット2023にご応募いただきありがとうございました。厳正な審査の結果、結束バンドは一次審査を通過したことをお知らせさせていただきます』……やった、やったよ!!通過したよ!!」
『やった!やったわよひとりちゃん!!』
「よっっし!!」
「当然のこと……」
嬉しい知らせに俺は思わずガッツポーズが出る。そして当の本人たいも結果に嬉しさを見せて、自分の中でさらに喜びが増していく。結束バンドの実力を世の中に証明する一歩を、今この瞬間確かにみんなで踏み出したのだ。
そして、嬉しい知らせはまだある。それは──
「ここで俺からも嬉しい知らせだ。グループに乗せたリンク開いてくれ」
『これですか?』
「『クリムトの夜、新メンバー加入のお知らせ』……これって!」
「ああ、そうだ。ユニットに加入したんだ」
クリムトの夜加入の知らせだ。ちょうど今日、18時に公式アカウントから発表があった。時刻は6時3分。発表から少ししか経っていないものの、いいねの数は1万をゆうに超えていた。新たにギターを加えた3人体制になることに対し、「めっちゃかっこいい子来たんだか?」や「まさかのギター加入!?楽しみになってきたな」などファンの方々は喜んでいるような反応のトゥイートをしている。
「ま、全くスターリーに来れなくなるとかそういうのはないと思うから今後ともよろしく頼むわ」
『はい! 伊地知先輩、私たちも負けてられないですね!!』
「よーし、あたし達もWeb審査がんばろ〜!! ってことで今日のところは解散っ!!」
それぞれ決意を固めたところで、ビデオ通話は終了した。虹夏の言った通り、未確認ライオットはまだWeb審査とライブ審査が控えている。まだまだ気を抜くことはできない。そして、俺が「クリムトの夜」のギターとして始めてライブに出るのが5月。そこまでの間にタイアップ曲のレコーディングがある。それぞれ違う道を歩くことにはなるが、彼女たちを精一杯支えていきたい。
翌日。
朝に姫路城を散策した。天守閣に登った時の景色はとても綺麗で、思わず見とれてしまった。散策したあとはバスに乗りこんで大阪に移動し、今は回る地球儀が目印のあの遊園地にやってきた。
「おお、これがあのユ○バか」
「なんかワクワクしてきたな」
「よしじゃあ早速入ろ〜!」
ユニ○を含めた大阪府内は班行動でメンバーは自由に組むことができた。最初は蘆名たちと○ニバや大阪市内を回るつもりだったがみんな彼女や部活の仲間とまわるとの事だったので2人と回ることにした。
「で、どこ行こうか」
「まずは昼飯からだろ。地味に腹減ったし」
「お腹空いた」
ちょうどお昼の時間帯なので、昼飯を探すことにした。最も混む時間帯とはいえ、平日の昼間だからすぐに席を確保できるだろう。と思っていたらそうとはいかない。観光客が沢山いて容易に確保できそうにもない。
「混んでるね……」
「ならあそこ行ってみるか? ハ○ーポッターの所。あそこなら昼飯も食えるしアトラクションも乗れるだろ」
「おお、さすが楓。やるね」
中々見つからないので、ハリー○ッターのアトラクションの近くにあるレストランに向かうことにした。そこなら昼食も取れてアトラクションも楽しめて一石二鳥だろう。
昼食を食べ終えたあとすぐに、俺たちは隣接するアトラクションに並んだ。これから乗るのは少し特殊なジェットコースターだ。作品の世界を本当に飛び回っているかのような臨場感が魅力になっている。
「リョウ、お前大丈夫か? ジェットコースター系苦手だけど」
「大丈夫。私は日々成長しているから」
なんだろう、すごくフラグっぽい感じがする。
列に並んで15分、俺たちに順番が回ってきた。4人がけの乗り物に3人で乗り込み、安全装置を装着したらスタートだ。劇中のキャラクターの案内の元、ほうきに乗って空を駆け回るようにコースターは進んでいく。ほうきの動きに合わせてコースターも上下左右に揺れていくので、臨場感が半端ない。
「いや〜、すごかったね〜」
「本当にほうきで空飛んでるのかと思ったわ。……ってリョウお前腰抜けてんじゃん!」
「……ぐすん」
「無理しなくたってよかったのに……」
コースターから降りた後、外に出て近くの売店にやってきた。そして外に出た途端、リョウは腰が抜けてしまった。元々リョウはジェットコースター系がかなり苦手で遊園地に行く時は毎回こんな感じに腰が抜けてしまう。
「とりあえず次のところ行くか…… どうだ、歩けるか?」
「歩けないからおんぶして」
「えぇ……」
そして、このように毎回しばらくおんぶしてリョウを運んであげないといけない。修学旅行でこれをやることになるとは思わなかったな。にしてもここでやるとなると絵面がすごいな。どうにか歩いてもらいたいところだ。
「ほら、はやく」
「いやいや今回ばかりは自分で歩けよ」
「料理番のくせに主人の言うことを聞けないと申すのか」
「言うこととかじゃなくて絵面だよ絵面!」
「絵面はおかしくないと思う」
こんな巨大遊園地で女子高生おんぶする男子高校生とか絵面がおかしすぎるだろ。ラブコメじゃあるまいし。
「いやおかしいだろ!虹夏からもなんか言ってやってよ」
「おんぶしてあげなよ。いつものようにさ」
「ほら、虹夏もそう言ってる」
こうなったら仕方ない。おんぶしてあげるしかない。もう絵面とか知らん知らん。蘆名達に見られたって気にしてたまるか。
「ほら、どうぞ」
「苦しゅうない」
そう言ってリョウは俺の背中に体を預けた。そして、彼女を背負い俺は虹夏と共に歩き始めた。周りから感じる視線と背中からの柔らかい感触を受け流しつつ、次のアトラクションへと足を進める。
「次どこ行こっか」
「そうだな。早いところ上に乗ってるやつを下ろしたいから近いところにするか」
「む、こんな美少女をおんぶできるなんてそうそうないのになんだその言い草は」
「はぁ。虹夏、次も絶叫系でいこう!フライングダ○ナソーとか」
「そんな、殺生な」
「容赦ないな〜」
途中で下ろして置いていかないであげてるだけ感謝しろってんだ。
しばらく歩いて、次のアトラクションの所に辿り着いた。そのアトラクションはこの遊園地の中でトップクラスの人気を誇っていて、平日なのにも関わらず長蛇の列を作っている。流石にこの列に並びながらおんぶするのはしんどいのでリョウには降りてもらった。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるから待ってて!」
「はいよ」
「うむ」
そして今、虹夏が戻るまでアトラクション近くのベンチに二人で座っている。時計を見ると時刻は午後2時を指している。ホテルには午後9時までに戻らないといけない。時間いっぱい楽しむとしても、まだ7時間ほどあるからこういうアトラクションにも気にせず並べる。
「これでまた歩けなくなったらおんぶしてもらうからね」
「はいはい。ってかお前さ、好きな人とこういうところ行ったらおんぶしてもらうつもりか?」
「うん」
「迷いのない答えだな」
「私の好きな人は優しい男だからね。あ、今の次の分のヒント前借りね」
「えぇ……」
自分から言っといてそれはないんじゃないんですかね。腑に落ちないぞ。
「仕方ない。今のはノーカンにしてやろう。そうだ、ユニット加入のお祝いとして1つ質問してもいいよ」
「お、おう…… う〜ん、そうだな。その人との接点は?」
「おお、いい質問だね。まあ、接点としては色々あるけど全部答えたらわかりそうだから一つだけ答えるね」
「わかった。で、接点は?」
「学校が同じ」
「つまり、好きな人は下高生ってことか?」
「そういうこと。はい、終わり」
もう少し知りたいが、しょうがない。にしても下高生で優しい人でギタリストか。なるほどね。悲しいが俺ではなさそうだな。
「おまたせ〜」
「よし、じゃあ並びますか!」
「うむ」
引きずらずに次に行こうじゃないか。くよくよしたってしょうがない。今を楽しむぞ!
翌日。
楽しかった修学旅行もいよいよ最終日を迎えた。結局、昨日はチケット代の元を取る勢いで楽しみ尽くした。その分疲れはしたが、修学旅行の補正なのか朝起きたら疲れは綺麗に吹き飛んでいた。そしてこれから大阪市内を巡ろうとしているのだが───
「お土産買わないでどうするのさ!」
「お土産は写真で十分。それに通天閣が私を呼んでいる」
「2人とも落ち着けよ」
絶賛虹夏とリョウが喧嘩中だ。じっくり時間を使ってお土産を買いたい虹夏と、大阪を楽しみ尽くしたいリョウ。どちらの気持ちもよくわかるが、このまま喧嘩されてると時間がどんどん無くなるから落ち着いて欲しいところだ。
「観光しながらお土産買うでいいだろ。何もそんなに揉めなくたってさ」
「そうしたら観光する時間が減る」
「お土産選ぶ時間だって減るよ!」
「はぁ……」
ああ言えばこう言うな。さて、どうしようか。観光しながらお土産買うっていう一番いい案が却下されたからな。ならばこうするか。
「じゃあ二手に分かれるか。虹夏とリョウ、それぞれで行動するのがいいんじゃないか?」
「確かに。でも楓はどうするの?」
「俺はどっちかについてくわ」
二手に分かれる事を提案してみた。これでいいとは言えないが延々と喧嘩されるよりは何倍もマシだ。ジャンケンで組み分けをし、リョウについていくことが決まった。何をしでかすかわからないし、これはこれでいいか。
「私と二人で大阪デートできるなんて、楓はつくづく運がいいね」
「うるせえ。後で虹夏と合流したらちゃんと謝れよ?」
「善処します」
「はあ。ところで通天閣に行くって言ってたけどそこ以外に行くところはあるのか?」
「あそこ、なんか男の人がバンザイしながら走ってる看板」
「あ〜、あそこか」
おそらく心斎橋のグリコサインのことだろう。あそこも大阪を象徴するような所なので行ってみるとしよう。
「よし、行こう。善は急げだよ」
「そうだな」
意気揚々と歩き出すリョウに着いていくように、俺も歩き出した。
心斎橋のグリコサインで写真を撮ったあと、地下鉄御堂筋線に乗って動物園前駅で降り、通天閣のある天王寺へとやってきた。今は通天閣へと街の中を歩いている。心斎橋もそうだったが、どこを見渡しても東京とは違う雰囲気の建物がそびえ立っている。大阪は初めて来たこともあってか、とても不思議に感じる。
「楓、見てあれ」
「なんだあれ」
リョウが指さした先にはどこか懐かしい雰囲気を出しているガチャガチャのマシンが5台ほど、横並びになっていた。内容を見てみると「カップルが燃え上がるアレ」や「合法のアレ」など、かなりいかがわしいガチャガチャになっている。
「回す?」
「回さねぇよ」
修学旅行来てまでこんなガチャ回したくないわ。
駅から歩いて7分、目的地である通天閣に到着した。窓口で入場料を支払い、エレベーターを乗り継いで展望台に辿り着いた。
「綺麗だな」
「人がゴミのようだ」
「おい」
大阪市内を一望できるこの眺めに息を飲む。江ノ島の時もそうだったが、こういったところから見る景色には心を洗われる。近くの天王寺動物園に遠くの生駒山や六甲山など、ここから見えるものにあっという間に引き込まれていく。
「そうだ楓、写真撮ろう」
「え、ああ、うん」
景色に見とれていると、リョウに写真を撮ろうと誘われた。快諾すると彼女は早速、スマホの内カメを起動してパシャリパシャリと写真を撮っていく。ふと考える。なぜこういうイベントの度、俺と一緒に写真を撮るのだろうか。前にも一度考えたことがあるが、やはり気になる。ダメ元でもう1回聞いてみるか。
「リョウ、なんでこういう時毎回俺と写真撮るんだ?」
「……」
写真を撮る理由を尋ねると、彼女は沈黙した。
「と、撮りたいから撮ってる……だけ」
そして、頬を赤らめながら理由を話してくれた。撮りたいから撮ってるだけ、その理由を聞いて俺はなぜだか少し嬉しく感じた。幼馴染とはいえ、撮りたいと思ってくれているのが嬉しい。
「その……ありがとう」
「へ?」
「と、撮りたいと思ってくれて」
待てよ、よくよく考えたら俺は何を言っているんだ? なんか凄く恥ずかしくなってきたかも。こんなこと口にしない方がいいし、リョウもきっとドン引きしてるだろう。
「……反則」
「え?」
引かれたと思っていたら、リョウはさらに顔を赤くしてそっぽを向いていた。反則ってどういうこと?
「ちょっと待て反則って「教えない!」へ?」
「絶対に教えない。これ以上聞いたら二度と写真撮らない」
「……ごめん」
聞かれたくないのだろう。触らぬ神に祟りなしというし、これ以上詮索するのはやめて切り替えていこう。
展望台から降りてお土産を買った後、通天閣から天王寺公園に移動した。新大阪駅で虹夏と合流する前に一息休憩するためだ。
天王寺公園は広大な芝生が広がっていて、ピクニックなどを楽しむのに最適な場所だ。春の暖かな陽気とともに満喫できる。
「12時半に新大阪駅合流だから50分にはでるぞ」
「わかった」
近くのカフェでコーヒーを買ってしばしの休息だ。平日ではあるものの、そこそこ人がいる。さすが都会の公園といったところだ。ベンチに腰掛けてコーヒーを一口飲む。温かさの中にあるほろ苦い味わいに安らぎを感じる。
リョウもカフェラテ(俺の奢り)を飲んで一息着いているのだが、何が言いたげな様子だ。
「楓、好きな人っている?」
「ぶふぉっ!?」
何が言いたげな様子にしてはとんでもない発言をかましてきた。コーヒー吹きこぼしちまったじゃねぇか。それにしてもリョウまでそんな事を聞いてくるとは思わなかったな。どうしよう、本人に質問されたら答えられる気がしない。
「いるの?」
「え、ああ……」
どうする、上手くはぐらかすか? いや、それはよくない。回りくどいことをしても意味がないだろう。違う人を答えるか? それは嘘をつくことになるし、名前を出した人にも迷惑がかかる。それなら、いっその事ここで想いを伝えてしまおうか。違う、それは最悪手だ。これまでの関係が、日々が全て壊れてしまう。そんな事は絶対に嫌だって、何度も自分に言い聞かせているだろう。
ならば──
「好きな人はいる。だけど、今ここでは教えられない」
「……」
──キッパリと、いることを断言する。そして、教えられないとはっきり伝えればいい。これが最善手かと言うと、決してそうではない。だけど、今はこうするしかないと思う。
「なるほどね。誰かまでは教えないと」
「ごめん」
「大丈夫、私もおあいこだから」
いつものような顔をして、リョウはそう言った。そしてこの瞬間、俺の中には2つの想いが存在するようになった。一つはリョウへの「伝えたい想い」、もう一つは虹夏からの「受け止めたい想い」だ。どちらかを選び、どちらかを断ち切らないといけない。どちらかを選んだ時、きっとこの関係は終わってしまうだろう。
「あ、残高足りない。楓、お金貸して」
「ったく、しょうがねぇな。羽田から下北沢までの分も合わせて2000円渡すからこれでどうにかしろよ?」
今はまだこのままでいい。でも、この関係の終わりはもうすぐ始まるのかもしれない。心地よく吹く春風がそう伝えているような気がしている。
「幼馴染の変人ベーシストの料理番になった件について。」2年生編(後編)、完。
ここまでお読みいただきありがとうございます。作者のかんかんさばです。多忙+亀更新で1年7ヶ月かかりましたが無事に2年生編を完結させることができました。
さて、次回からは完結編となる「3年生編」に突入します。未確認ライオット本選にクリムトの夜としての活動、大学受験、そして2年生編では書けなかった楓くんの過去など、物語の集大成となる内容になっています。更新を楽しみにしていただけると幸いです。
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