すべては終わったことだと語り済ませても、裏側には未練がこびりつく。
そうなっていたら、ならなかったら。
悔やんでも悔やんでも、もう戻らない。
――まったく、余計なことを思い出させてくれる。お陰で苛立って仕方がない。
バイトを終えて帰り道、私は胸の鬱憤を吐き出すように自販機を蹴り飛ばしていた。
八つ当たりには何の意味もない、単なる時間の浪費だ。だけど言語化出来ないししたくもない感情は、無意味な行動でしか祓えない。
ああ、腹が立つ。ナツの彼氏、あいつのせいだ。
あんな奴の為にナツは、諦めたんだ。口ではなんとでも言える、でも私は知っている。ほんの僅かな余所見が、そのまま致命傷になる事を。他をあれこれ楽しもうとした時点で、もう頂点には届かなくなる。
私みたいに形だけ理由をつけ、無理矢理諦めるしかなくなる。
ナツにだけは、そうなって欲しくなかった。もう既に私たちは友達でさえ無いけど、それでも。
私と同じ後悔は、して欲しくない。
ジュニアチームと言うのは、楽しむ場所じゃない。楽しくやりたければ学校なりなんなりでワイワイやってれば良い、それが当然。少なくとも私には、勝つこと以外を考えていられる程の余裕は無かった。
天才を自称し、周りを突き放して孤高のエースで居続けた。でもそれは単に早熟だっただけ、そしてそれを維持するため必死でもがき続けた。
才能が違うから勝って当然、才能があるから成長する、才能サイノウさいのうそればっかり。出来ないやつは、いつも同じことを言う。世の中が才能の有無だけで回っていて、人間は二種類しか無いと思ってるんだろう。それじゃまだ、半分だ。
才能があって努力する人間。
才能があるから努力しない人間。
才能はないけど努力する人間。
才能もないし努力もしない人間。
とは言え誰がどうだろうと、私の知ったことじゃない。
ナツは、才能があるかどうかはともかく誰よりも真っ直ぐだった。ひたすら前だけ見て、止まらず腐らず突き進んでいくその姿。私はきっとナツを――好き、だったんだろう。
だからこそ、私はナツの傍に居辛くなっていったのだけれど。
栄明中に入った頃から、
ジュニア時代にはチームメイトと圧倒的な差があった筈なのに、気が付けばすぐ後ろまで追い付かれていた。上達し続けるナツは、もう私を追い越していた。天井はもう、頭のすぐ上まで迫っていたのだ。
それでもまだ歯を食い縛り、これまで培った力を総動員してどうにかコートに立ち続けた。逃げたくない、負けたくない。身体がバスケに向かなくなったからって、引き下がれない。
だけど、でも。そんなのは全て、無意味だった。
結局栄明中女バスは大きな成果を上げられず、私は自分の限界を悟って逃げ出してしまったのだ。
誰にもなにも言わず、こっそりと外部の高校を受験した。もうこれ以上、ここにいたくない。輝いてるナツを見続けるのは、苦しすぎる。名前通り千回夏が来たような眩さに、心が焼け爛れていく。
だからあの日、何処で知ったのか私を止めようとしたナツに言ってしまったんだ。
「もう飽きたんだよ、バスケも――あんたらのお守りも」
そんなことあるわけない。私はバスケが好きで、ナツのいる栄明女バスが好きだった。好きだからこそ、一刻も早く離れなければ
ナツはどんな顔をしていたんだろう、私はそれを知らない。一言吐き捨てて立ち去った、卑怯者だから。
「……いのまたたいき、か」
今のナツは、良い顔をしていた。あの愛玩動物みたいな彼氏君が、そんなに気に入ってるんだろうか。
バスケで上へいくよりも、オトコを選んだわけか。笑えるな、まったくさ。
もし私が、限界を迎えてもまだ無駄な努力を続けていたら。ナツや渚と一緒に高等部へ行っていたら、どうなってただろう。私たちは本気で全国制覇を目刺し、戦い続けていたのかな。
「未練、だねぇ……。柄じゃないよ」
どうせ私は途中で諦めて、こうなっていたさ。ナツはバカだから、諦める事を知らないだけ。
いっそ私も、あれくらいバカだったら良かったのにな。そうなってれば彼氏君じゃなくて、私が隣に居てあげられたのに。
蹴り飛ばしたショックでか転げ落ちてきた缶コーヒーを取り、私は冬空の下で溜め息を一つ。
さぁ、帰ろう。考えるのはあとで良い、それで良い。
私は何処か満たされない気持ちを抱え、家路を急ぐ。
この感情が何なのか、理解しようともしないままに。