彼は相棒のヒカルと共に、怪獣を退治しに街に向かっていた……。
ウルトラマンが現れ怪獣は退治されたが、シンはある男を追って走りだした。
河川敷で睨み合う両者。
一方で、シンの彼女である彩は、ウルトラマンの謎を追っていた。
時に、2027年。
時間はいつものように流れていた。
いつもと違っているのは、最近になってある者の存在が再び活発化し、世間は若干騒ぎ始めていた。
そんな中、一人の男がスマホの画面をスワイプしていた。
しばらくして、男はあるニュース目にして指をとめた。
その見出しには、
『ウルトラマン、またまた大活躍!!』
男はそれを見て、少しだけ口元が揺らいでいた。
そんな中、
「シン先輩!!」
男はその声に振り向いた。
「ヒカルか……」
「ヒカルか……、じゃないですよ!、ニュース見たっしょ!!」
「分かってるよ、ちゃんと行くから……」
そう言うと、シンはヒカルに誘導される形で歩きだした……。
KIMIジャーナルでは、一人の女性がある資料と睨めっこをしていた。
そんな彼女に、上司と思われる男性が声をかけてきた。
「まだ調べているのか……、彩」
そう言われると、彼女は上司に向かって話す。
「むしろ今まで誰も追求しなかったことのほうが驚きです。だっておかしいとは思いませんか?、ウルトラマン、その正体は未だ不明。度々地球で目撃されては人々を救ってきた巨人。そのどれもが同一人物として扱われているにもかかわらず、その姿や戦闘スタイルはまるで違う……。なぜこのような謎に包まれた存在を誰も疑問になんて思わなかったんですか?」
そう言われ、男は答える。
「ウルトラマンは昔から我々人類のために戦ってきた。それこそウルトラマンが地球にはじめて現れた当初は、その存在を疑問視する者もいただろうが、60年くらいも経てばそんな疑問は今更どうでもいい話さ……」
男はそう言うと、その場から何処かへと行ってしまった。
彩は再び資料を見る。
「最初に現れたのは1966年。当時設立間もない防衛軍と共に数々の怪獣を倒していったが、1967年、ゼットンとの交戦で敗北、ゼットンは防衛軍が倒し、そして、ウルトラマンはしばらく姿を見せなくなった……。時が経った1971年、防衛軍が自分達の手で怪獣や宇宙人と戦っていく一方で、ウルトラマンが密かに怪獣と戦っていたという目撃情報が都市伝説のように広まっていた。それは日本だけでなく、世界にまで確認されていた。そして時は2004年、ウルトラマンは再び日本での活動を活発化させていった、その怪獣達との激戦を乗り越えた防衛軍とウルトラマンだったが、再びウルトラマンは日本から姿を消していった……」
彩はチェアーにもたれかかった。
「そもそもなんで2004年からウルトラマンは再び目立った活動をするようになったのよ……、それまでの間になぜ彼は時々しか地球で目撃されなかったのよ……。それにどう見たって目撃情報の写真が何処か相違点があるのも引っかかる……、ますます気になるところだらけだわ……」
彩はそう言うと、いきなり立ち上がった。あまりの勢いに周りは驚いたが、彩は気にせずに席を離れた……。
シンという男はとてもいいとは言えないが悪いとも言えない生活を送っていた。
ほぼ毎週行なわれる地元のヒーローショーで、彼はヒーローにやられていく、いわば戦闘員と呼ばれる役を務めるアルバイトを毎回引き受けながら給料をもらって生活をしていた。
当然、ヒーローがチヤホヤされる一方で、声援を送られることもない戦闘員という役は、そこまで高い給料でもないがある程度生活はできる程であった。
シンは、自分の元に声援が送られることはないのだと分かりきっていた。
それでもいいと、彼は今日もやられ役を引き受けるのである。
ただ、最近になって新たな悩みができ始めていた。
シンには彼女がいた。
きっかけはほんの些細なことで、徐々に仲を深めていき、そして今のような関係となった。だが、彼女はジャーナリストという立派な職に就いているという一方で、自分はこの有様だという不釣り合いが故に、彼は彼女と永遠の愛を育むことに抵抗を感じていた。
彼女は、それでもいいとは言うだろう。しかし、世間体的にはとても厳しい声も貰う可能性は捨てきれなかった。
そしてもう一つ、彼が一歩踏み出せないでいるのには理由があった。
それは、彼が地球人であることを偽って生活をしていたことである。
シンの正体は、宇宙で様々な強敵と戦い続けているヘラクレス座M16惑星系の異星人、グレゴール人だった。
果たしてそれを知った時、彼女はシンという男を本当の意味で受け入れることが出来るのだろうか?。
そんな二つの思いが、シンという男を日々悩ませていたのだ……。
ヒカルに導かれて、シンは街の中心部へと走っていた。
ヒカルが言うように、すでに怪獣は地面から出現し、街はパニックになっている状態だった。
ヒカルとシンは、逃げ惑う人達の間を縫うように、反対方向、すなわち怪獣が暴れているほうへと足を運ばせていた。
「こいつか……」
シンはその怪獣を見つめた。
怪獣は頭に二本の角を生やし、ギザギザな背中と茶色めな体色をした、地底怪獣パゴスであった。
シンはそそくさと人気のない場所へと移動を始めた、そして、
「先輩!、今日もお願いします!」
と、ヒカルが言った直後、シンは右手を上げた……。
『シュアッ!!』
すると、そこには赤と銀の巨人こと、ウルトラマンが現れた。
『ギェェエエエエン!!!!』
咆哮を発しながら、パゴスはウルトラマンへと飛びつこうとするが、ウルトラマンは流れるようにパゴスの首元を掴んで、そのまま体ごと地面へと転がした。
ぐるぐるとアスファルトの道を転がるパゴス。
ウルトラマンは接近し、パゴスの背中に乗りかかっては体に拳を叩きつけていった。
が、パゴスも負けじと起き上がってみせ、その反動でウルトラマンは背中から降ろされてしまう。
怒ったパゴスはウルトラマンにのしかかろうとするが、ウルトラマンはなんとかそれを手で押えた。
パゴスの怪力がウルトラマンを今にも推し潰そうとしていた。
だが、ウルトラマンはパゴスの腹部を蹴りつけて、バタンとたおれた。
ウルトラマンはパゴスの頭部を掴んでは地面に何度も叩きつける。
何度も叩きつけられ思考が回らなくなったパゴスは、アスファルトの上で右往左往に体を揺らすが、すぐに細い糸が切れたかのように力を無くした。
『シュアッ!!』
それを見てか、ウルトラマンは腕を十字に組んで光線をパゴスに向けてはなった。
光線はパゴスの体を燃やしていき、やがてパゴスを爆発四散させた。
街はウルトラマンの活躍で歓声に包まれた。
ウルトラマンは黙って空を見てから、やがて、
『シュワッチ!!』
という掛け声で大空へと飛びさっていった。
シンは走っていた。
やがてたどり着いた場所は、レンガで作られた橋の近くにある河川敷だった。
橋の下まで走るシン、その横で流れる大きな川の先に、一人の男が立っていた。
それに気づいたシンは、その男のほうへと体を向けた。
男もシンのほうへと体を向けて語り始める。
「確かに、街に現れた怪獣を人知れずに変身して倒していくなんて行動は、実にウルトラマンらしい行動だな……」
シンはその言葉を聞いて拳に力が入る。
段々とシンの顔が強ばっていき、気づけば目の前の男を睨みつけていた。
そんな顔をしたシンを見て、男はシンに言い放つ。
「どうした?、何か言いたいのなら受けて立つぜ......?」
シンはそう言われて、強ばらせていた表情を曇らせた。
(俺が……、この男を……!?)
そう思いながら、シンは黙り込んでしまう。
そんなシンを見て、男はさらに言い放つ。
「そこで判断できないようじゃ、ウルトラマンの戦い方とは言えないぜ?」
そして、曇ったままのシンをそのままにして男は去っていった……。
人生の転機だと思った。
いつだったか、ショーのアルバイトの帰り道のこと、
「あっ、すいません……」
一人の男にぶつかった気がした。
そのまま帰っていれば、きっと僕の人生は平凡なままだったのだろうか?。
だがその時の僕は、床に落ちてしまった一枚のDVDを見て、反射的にそれを拾い上げてしまう。
「あの、これ!」
気づいた時にはすでに男の姿はなかった。
交番にまっすぐ届けても良かったはずだった。
しかし、自分にはこのDVDが妙に手放せなくなる程の異質な雰囲気を放っていた。
白いラベルが貼られたディスクに、小さな文字で書かれたウルトラマンという字。
それを見て、僕は非常に中身が気になってしまった。
小さなアパートに帰ってやったことはさっそくそのDVDの中身を拝見したことだった。
そのDVDには4つの映像が映されていた。
ウルトラマンという存在が初めて地球に来た時の出来事、発電所を襲う透明怪獣との死闘、そして、ウルトラマンが地球を一時的に去ることとなったきっかけの事件であるゼットンとの戦い……。
それらが他のどの資料よりも分かりやすい形で映し出されていた。
シンはそれらの映像を見て、少年の頃に感じた憧れと共に、ある感情を思い出した。
父と母もなく、孤児院で育てられていたシン。
ただ、そこはただの孤児院ではなかった。
そこで暮らしていた子供は、異星人と呼ばれる者達の子供がほとんどだった。
その孤児院にはあるルールがあった。
一つ、人間の姿のまま生活すること。
二つ、わがままを言い過ぎないこと。
三つ、誰からも愛されるような人であること。
このルールは、シンを含む多くの子供達の生きる指標になったと同時に、シンにとって、現在の自身を縛りつける鎖にもなってしまった。
ある日、孤児院での友人との会話を思い出す。
「俺たちは大丈夫だってさ。明子さんが言ってた、自分のことさえ黙っていれば、この先も普通に暮らしてけるって……」
そんな友人に対して、シンは、
「でも、それって夢がない話だよな……」
と返す。
だが友人はシンのその言葉に対して再び語りだした。
「馬鹿言うなよ……、俺たちは夢なんて持ってちゃいけないんだ。それが許されないんだよ……、ここでは」
そう、ここでは異星人らしさなど求められはしないのである。
郷に入っては郷に従え、地球人であるからには地球人らしく振舞え、それがこの星の見えざるルールのようなものだった。
そんな中、彼らにとっては目が離せない存在がいた。
ウルトラマン、昔地球を数々の怪獣や宇宙人から救ってきた異星人。
2004年からその日まで、再び日本での活動を活発化させてきたそれは、今となっては誰からも危険視されず、誰からも愛されたヒーローという扱いになっていた。
そんな異星人を、シン達は憧れると同時に憎んでさえいたのだ。
それは、今のシンだって同じことだった……。
休日、シンは特に用事もなかったためネットサーフィンをしていた。
そんな彼の目に、ある情報が映った。
その記事には、山岡で原因不明の行方不明事件が発生しているというもので、依然として原因は掴めないでいるのだという。
こうしちゃいられない!、とシンは、昔の憧れを胸にその行方不明者が相次ぐ山岡へと向かった。
しばらくの時間が経ち、山に着いたシンはその山を登っていくことにした。
だが、やはりというかなんというか、一見するとただの山道であることには変わりなかった。
「やはりただの噂か……」
そう思って引き返そうとしたその時 、
『----ッ!!』
「っ!?」
シンは微かに聞こえたなにかの音を聞いてすぐさまそこへと走り出した。
その場所に近づく度に、段々とその音は巨大な鳴き声であることが分かった。
そして、シンはその場所へとたどり着いた。
『ギェェエエエエン!!』
鳴き声の正体は、ゲロンガと呼ばれる怪獣のものだった。
シンはDVDでの透明怪獣と戦うウルトラマンを思い出す。
もしあの怪獣を倒せる存在が今いるとしたら、それは僕しかいないのではないだろうか?。
シンはそう思うと、右手を上に上げた。
上げた手のひらから光が放たれて、やがてその姿は、赤と銀のあの巨人、ウルトラマンのようなものへと変わった。
『ヘアッ!!』
『ギェェエエエエン!!』
ウルトラマンとなったシンへと向かっていくゲロンガ、シンはDVDのウルトラマンの動きを見よう見まねで戦っていく。
元々グレゴール人と呼ばれる異星人は、戦闘を得意とする種族である。
だからこそ、かなり型にハマった真似事ができていた。
ゲロンガは怪力でウルトラマンを推し潰そうとするが、怪力なのはシンも同じであり、そのままシンはゲロンガを投げ飛ばした。
転がるような倒れるゲロンガ、シンはそこに向かって走り出すが、近づいたところをゲロンガは全身を起き上がらせて放り投げた。
大地に背中を叩きつけられるシン。
ゲロンガはそれに近づき、シンに向かってのしかかった。
ダメージを受けて体力が減ってしまったシンは、ゲロンガの怪力をなんとか抑えるのに必死になる。
だが、先日見たDVDの内容を思い出したシンは、そのまま体を横に傾け、ゲロンガの上に乗りかかってみせた。
そして、ゲロンガにパンチやチョップを何発も当てていき、そのまま後ろへと下がった。
ふらふらとしながらも立ち上がろうとするゲロンガ、シンはそれに対して自らの腕を十字に組んだ。
『ヘアッ!!』
十字の腕から激しい光が放たれ、ゲロンガの体に命中した。
ゲロンガはそのエネルギーに耐えきれず、そのまま爆発した……。
これが、シンのウルトラマンとしての最初の戦いだった……。
彩はある人物に会うために、ある男に会う約束をしていた。
公園に着き、目当ての男を探す彩。
やがて彩は、ベンチに座る一人の男に目がいった。
「あなたが、防衛軍元長官の早田さん……、ですか?」
彩がその男に声をかけた。
「あぁ……」
と、男は返す。
「すいません、随分と待たせてしまったようで……」
「そんなことはないさ、それより聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「はい、ウルトラマンについて……」
早田の口元が緩む。
そして彩を問いかける。
「それで、君はウルトラマンの何を知りたいのかな?」
「全てです」
「全てというと?」
「有機生命体なのかロボットなのか、有機生命体ならどこから来るのか、ロボットなら誰が作り出したのか……」
早田はしばらく黙り込み、そして彩に向かって話す。
「ウルトラマンは、憧れだよ……」
「憧れ……?」
「ウルトラマンが1967年にゼットンに敗れた時、少年達は一斉に夜空を見た。ある子はウルトラマンとの別れを惜しみ、そしてある子は、ウルトラマンのような存在になろうと誓ってさえいたのだ。そのウルトラマンに対する憧れが、集まった結果、今のウルトラマンが生まれたのだ……」
「今の……、ウルトラマン?」
「ウルトラマンに正体などはない。その時その時に、誰かを助けるために動き、何かを決断する勇気を持って戦うという心、それがウルトラマンなんだよ……」
「それが……、ウルトラマン……」
「それは、案外君の近くにもいるのかもしれないな……」
早田はそう言って、その場から去っていった。
「待って!、まだ聞きたいことが!」
そう言った時には、すでに早田の姿は公園にはなかった……。
「どういうことっすかそれ……」
ヒカルは驚きを隠せない顔をしていた。
「言葉通りの意味だよ、僕はウルトラマンを辞める」
と、シンは返す。
ヒカルはそんなシンに対して何度も説得する。
「なんでですか!、先輩なんだかんた言ってしっかりウルトラマンをやれてたじゃないですか!、なんで急に……」
「やれてたか……、だが結局は真似事なんだよ僕は……。ただウルトラマンらしいことをしてただけ……。中途半端だったんだよ、僕とお前はさ……」
シンはそう言って、その場から去っていった。
「先輩……」
それからというもの、シンは再びいつもの日常に逆戻りしていた。
といってもウルトラマンではなくなっただけで、趣味が一つなくなったくらいの感覚に近いものであった。
いつものようにヒーローショーのやられ役を引き受け、それなりの日常の中で、彼女である彩と交流する。
きっと自分には、こんな日常の方が割にあっているのだろう……。
と、シンは思い続けることにしていた。
そんなある日、彩と一緒に寝た時に、ある事を言われた。
「シン、ちょっと前は結構人生を楽しんでそうな顔していたのに、最近のシンは、なんだかその前のような冷めた目をしてるね……」
「そうかな?」
「そうだよ、私さ、今のシンも好きだよ?、でも正直さ、あの時のシンはもっと好きになれた気がするんだ……」
「これでいいんだよ……。今、僕の近くには君がいて、こうしてのんびり過ごせている。僕はそれだけで充分なんだ……」
と、シンはその夜は流したつもりだった。
だが、あの日以来、ヒーローショーでちやほやされているヒーロー役を見かけては、自分がウルトラマンであったことが頭から離れなくなっていた。
その感情は、日に日に大きくなるものだったが、それでもシンは押し殺しながらもやられ役を引き受けていた。
そんなある日、ショーが終わって、夕方の遊園地をなんとなく歩いていた時だった。
シンの耳に、一人の少年の泣き声が響いた。
周りをよく見ると、泣きながら歩いている少年が必死に母親を呼びかける様子が目に映った。
周りの誰もがそれを見ているはずなのに、面倒くさいのかそんな子供を無視して歩いている。
正直、シンもそうしようかと一瞬だけ思ってしまった。
きっと誰かがその子を助けてくれるはずだと。
「……」
本当にそれでいいのだろうか?。
あの時、ある男に言われた言葉を思い出す。
「そこで判断できないようじゃ、ウルトラマンの戦い方とは言えないぜ?」
シンは少年の元へと駆け出した。
「ねぇ、よかったさ一緒に探してあげるよ、お母さん」
少年は泣き止んで、シンの顔を見る。
「ほんと?」
「あぁ、おにいさんに任せてくれ……」
シンとその少年は手を繋ぎながら、歩いていた。
途中、少年はあるものを見て思わず指を指した。
「ウルトラマンだ!」
少年が指さした場所には、玩具の売店があり、そこにはウルトラマンの物もたくさんあった。
「そうだね……」
と、シンは返す。
少年は続けて言った。
「きっとお兄ちゃんみたいな人なんだろうな」
「そうかな……」
「そうだよ!、僕が言うんだもん、間違いないよ!」
やがて二人は、遊園地の入口にたどり着いた。
「英二!、よかった見つかって……!」
どうやら少年の両親は、スタッフに呼びかけようとしていた直前だったようで、そこに二人が間に合ったようであった。
英二の母親が、彼を抱きしめている横で、彼の父親は、
「ありがとうございます!、本当にありがとうございます!」
と、シンに感謝の言葉を述べた。
シンの目の前には、ある日以来見ることがなかった笑顔があった。
いや、ある日以前もその笑顔をはっきり見れていたのかと言われると、断言はできないでいた。
だが、こうして間近で見た時に、はじめて気持ちのいいものだったのではないかと思った。
シンはただ一礼だけして遊園地を出た。
その時、シンの目はどこかまっすぐなものを見ていた……。
いつだっただろうか、シンは先日拾ったDVDを持って交番に届けようとしていた。
さすがにあのまま持っているのもあれだったということもあり、おそらく孫に渡す予定だった可能性も捨てきれずそうすることにした。
だが、
「あっ……」
交番の近くで、シンは見知った男を目撃した。
それは、先日シンとぶつかった通行人だった。
二人はあの後、公園へと移動した。
「これ、返します」
通行人の男はそう言われると、DVDのディスクを受け取った。
「どうだったかな?」
「えっ?」
男からの意外な問いかけに驚くシン。
本来であればこの場合の第一声は決まって感謝の言葉であるはずである。
しかし、男が口にした言葉はDVDの感想であった。
そもそも自分がDVDを見ているのを、まるで知っているかのように問いかけることも不思議でならなかった。
シンは、男の問いかけに答えた。
「色々と込み上げてくるものはありましたよ。憧れも憎しみも色々なものが……」
「そうか……」
しばらくの静寂が流れ、その後にシンが口を開いた。
「正直、見ていて羨ましかった」
「ん?」
「僕や僕の友達は、異星人であることすら否定され、地球人であることを強要されて生きていた。でも彼は堂々とその姿をさらけ出し、人間との信頼を築いている……」
シンは拳を強く握りしめていた。
それを見て、男は語りだした。
「ウルトラマンになりたい、そう思っているんだな?」
「えっ?」
「なら答えは簡単だ……、君自身が戦う意志を持てばいい。かつてウルトラマンと呼ばれた異星人達と同じく、君が彼の志を胸に戦う意志を示せば、君はウルトラマンになることができる……」
「僕が……、ウルトラマンに……」
男は立ち上がり言う。
「ウルトラマンに姿形は無い。ウルトラマンとは、そういう生き方なんだ……」
いつかの河川敷へと足を運ばせるシン。
ふと、なにかに見られているかのような感覚がして、彼は後ろを振り向いた。
だが、結局は誰も見つからず、そのままレンガ造りの橋の下へと移動した。
「……」
まだあの男はいない。
だからといって今は引き返そうとはせずに、その場で時が流れるのを待ち続けていた。
そして、およそ一時間半だろうか、シンの待つ場所から川をまたいで対局線上に、以前同じ場所で会った男が現れた。
男はシンに問いかける。
「いい目をしてきたな……、ウルトラマンのような目だ……。だが、俺が本物のウルトラマンだ……」
男は円柱型のカプセルを手元にだした。
シンは、それに対して、
「いや、僕がウルトラマンだ……」
と返す。
本物のウルトラマンを名乗る男は笑みを浮かべ言う。
「なら、この戦いに勝ったものが、明日のウルトラマンっていうのはどうだ?」
「えぇ……、そのために僕はここに来た……!」
男はそれを聞いて、カプセルを上に上げてスイッチを押した。
対するシンは、右手を上に上げて眩しい光を放った。
「待って……!!」
何者かがそう叫んだ時には、二人は河川敷にはいなかった……。
何者かがその場に崩れる。
「シン……、あなたは……」
その人物は彩だった。
シンのここ最近の行動に若干の疑問を持っていた彼女は、以前会った早田の言葉もあって身近な人物についても追っていた。
その流れで、彩は一番その環境の変化が現れていたと感じたシンを追いかけていたのだ。
できることなら、彼は普通の人間であって欲しい。
その思いも虚しく、彼が見せたのはウルトラマンであるという側面と、同時に異星人でもあるという現実だった……。
彩の目からは、涙が流れていた……。
光のラインがぐるぐると渦を巻いて光を放つ。
その向かい側にも、光のラインの渦が光を放った。
夕日に照らされた街に今、二人の巨人が並び立った。
街はまさかの事態にパニックになった。
レポーターと思われる男性が、カメラに向かって叫ぶ。
「ウルトラマンです!、ウルトラマンが二人現れました!!」
そんな地上の様子に目を向けず、ウルトラマン達は互いに構えた。
『シュアッ!!』
『ヘアッ!!』
本物のウルトラマンと、シンのウルトラマンが同時に走り出す。
シンは本物のウルトラマンに対してパンチやキックを浴びせようとするが、ウルトラマンはそれを軽々とかわし、そのままシンに攻撃をしていく。
地面に倒れるシン。
ゆっくりと起き上がろうとすると、間髪入れずに次の攻撃がシンを襲った。
シンはそれを受け止め、体を捻った。
回転しながら地面に倒れるウルトラマン。
シンはウルトラマンの体を起こそうと近づくが、その前に倒れているウルトラマンからのパンチを受けてしまう。
起き上がったウルトラマンは、再びシンに襲いかかった。
シンは攻撃を防ごうとするも、ウルトラマンはシンの隙を見ては、その隙を的確に狙いにいっていた。
これが本物の戦い方だ……。
まるでそう言われているかのように、次から次へと、シンに対しての攻撃が襲いかかってきた。
『グアッ!!』
強い一撃を受けたシンは、地面に倒れてしまった。
『まだまだだな……』
その言葉を聞いて、シンはゆっくりとだが立ち上がった。
『では無いみたいだな……』
ウルトラマンのその声は、どこか嬉しそうにも思えた。
街の人々は、二人のウルトラマンの激闘を眺めていた。
そんな中、何度倒れても立ち上がろうとするシンのウルトラマンを見て、一人の男が思わず声を漏らした。
「……れ……、頑張れ!!」
「そうだ、まだ諦めちゃダメだ!!」
「立て!、立つんだ!!」
「頑張って!!」
人々が次第に声援を送るようになる。
シンは、思わず声援を送る人達のほうを向いた。
そして、
『何をしている!』
シンがウルトラマンのほうへと顔を向ける。
『お前をこれほど応援している人たちの気持ちを、お前自らの手で踏みにじる気か!!』
シンはそう言われ、強く拳を握った。
そして、
『ウォォオオオオッ!!!!』
気合いを入れるかのように叫んだ。
『そう来なくっちゃな……』
ウルトラマンとシンが再び戦う。
先程とは違い、両者はほぼ互角の勝負を繰り広げていた。
『シュアッ!!』
『ヘアッ!!』
互いの拳が同時に互いの顔面を殴り飛ばした。
両者はそれでもすぐに立ち上がり、戦う。
やがて両者は距離をとった。
互いが相手を睨み合いながら、立ち尽くす。
声援の声さえも静まり返った。
静寂は続いた、さっきまで響いていた地響きも、人々の騒ぎもなく、街は静かな瞬間を迎えたかに見えた……、だが、
『シュアッ!!』
『ヘアッ!!』
二人の巨人が、腕を十字に組んで光線を放ったことで静寂は切り裂かれた。
せめぎあう二人の光線。
両者が負けじと光線の押し合いをするがなかなか力負けを見せる様子がない。
さらに光線の威力を上げていく両者。
それでもなかなか決着はつかずやがて、二人の光線は強い光を放って、街全体を照らした……。
昼のことだった。
道を歩くシンの耳に聞き慣れた声が入った。
顔を向けると、そこにはヒカルの姿があった。
シンとヒカルは、ラーメン屋に入店した。
ラーメンが来るまでの間、シンはヒカルに向かって話す。
「僕、やっぱり勝てなかったよ、自分の気持ちに」
「そうっすか……」
「だから、またそれなりにやっていこうと思ってる」
「そうっすか……。先輩、頑張ってくださいね……、俺みたいに、ウルトラマンに憧れた異星人達の為にも……」
「あぁ、頑張って生きてみるさ……」
テーブルにラーメンが置かれた。
とりあえず、腹ごしらえはしなければならない。
これからのためにも……。
ヒカルもラーメンを啜った。
「美味いっす……、本当に、美味いっす……!」
「これを俺に?」
「あぁ、君に託したい。君の勇気と、諦めない心を見て私がそう判断した。君ならば、彼の志と共に戦っていけるはずだ!」
「彼って?」
「ウルトラマンだ!」
公園のベンチに男が座っていた。
そこに、一人の男がやってきた。
その男は、先に座っていた男の隣に黙って腰掛けた。
「早田さん……」
座っていた男が彼にそう言った。
そして、早田は言った。
「よく頑張ったな……」
それを聞いて、男は久々に涙を流した……。
ある日、街に怪獣が出現した。
防衛軍の戦闘機が一斉に怪獣へと向かっていく中、怪獣の前にぐるぐると光のラインが昇った。
眩い光が輝き、やがてその姿をウルトラマンにした。
防衛軍の隊長が、隊員全体に呼びかける。
「皆、ウルトラマンを援護しろ、それと今度のウルトラマンは……」
怪獣はウルトラマンを睨みつけた。
それを横目で見ながら、隊長は続けてこう言った。
「新型だ……!」
『ヘアッ!!』
[完]
最後まで読んでいただきありがとうございます。
pixiv版には本作の設定資料もあります。
今回読んでみて難解だったと思った方は、pixiv版の設定資料を見て補完すると、さらにこの作品が楽しめるかもしれません。
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