2度目の人生っていうのは思っているほど良いものではない。
端的に言うと熱意が足りないのだ。1度目の人生は一生懸命に生きたと思う。後悔したことは数え切れないほどあるが、それと同じぐらいやりたい事をたくさんやって色々な挑戦をしてきた。充足感に満ちた幸せな人生だったと思う。
ただ、それも人生一度きりという前提があったからの話だ。これから3度目も4度目も可能性があるというだけで一気に人生の価値が下がる。
2度目の人生に価値を見出す者は1度目の人生を適当に生きていたが故に後悔をした者か若くして亡くなった者のどちらかだろう。私はその両方に当てはまらない。
だからといって自殺しようと思うほど苦痛に感じているわけではないし、今世の私を生んでくれた両親を悲しませるのも本意ではない。それでも決定的に何かが欠けているような感覚が常に胸を支配している。
そんなことを考えていると声を掛けられた。
「怜、相変わらず辛気臭い顔してるわね」
声を掛けてきのは隣の席の城ヶ崎詩織という女。私の唯一の友人だ。勉強では模試1位、運動でもバレー部のエースとしてチームを率い全国大会で好成績を残している。極め付けに学園アイドルのセンターとして圧倒的な人気を誇っている。そんな完璧人間を絵に描いたような女だが、なぜ私のような社会不適合者と友人になったのかは今でも不思議に思っている。
「うん、つまんない。なんで生きてんだろうなって」
「貴方ねぇ......」
詩織は顔を引き攣らせている。本気で言ってるのが分かったのだろう。それだけ付き合いは長い。
「あ、そうだわ怜。そんなに暇ならお願いしたいことがあるのだけど?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる詩織に嫌な予感を覚える。
「今月の文化祭のライブ、出てみない?」
「それって、毎年うちの学園アイドルがでてるやつ?」
「そうよ。そのライブなんだけどね。アイドルグループの一つが色々あって辞退しちゃって枠が空いたのよ。」
うちの高校の文化祭のライブは国内でもトップクラスの規模を誇る。というのも東京の私立高校で資金が潤沢にあることと、うちの学園アイドルがトップアイドルであることに起因する。
学園アイドルとは各学校にある部活動の発展のようなものだ。ここでの活動で好成績を残した者はプロのアイドルグループからスカウトされることもある。そして、成績というのは主にミュージックグランプリでつけられる。
ミュージックグランプリというのは国が主導して開く音楽の祭典のようなものである。その目的はスターの発掘だ。「なぜ国が?」と疑問に思うだろう。私も初めて知った時には驚いたことだ。
まず、この世界は平和で争いが少ない。個人間の争いや事件という者はあれど、現在では国家間の戦争が行われていない。
しかし、昔から争いが起こらなかったわけではないらしい。
ならば、何故ここまで世界が平和になったかというと、『アイドル』が関係している。
大戦が起きる前、世界で初めての『アイドル』が出現した。それ以降、前世ならあり得ないような早さでアイドル文化が広まっていった。
その理由はこの世界の人間の性質に起因する。この世界の人間は好きなものになると性格が変わったかのようにどこまでも熱くなる。そして、アイドルに熱狂した集団、所謂オタクが生まれ世界に溢れた。そんなオタク達の中には各国政府の上層部にもいた。
「推しの活動を応援したい」そんな思いを持つ同志たちは推しの活動を阻害する戦争を恐れ結託。そこから急激に戦争の火種が消火していった。そうして2度起こるはずだった世界大戦を防ぎ、平和な世界を作ったのだった。
そんなわけで、アイドルは歌で世界を救ったヒーローのような扱いを受けていたりする。冗談抜きで戦争の防波堤にもなり、経済を大きく活性化させるスターの発掘というのは理に適っていたりする。
芸能活動は国によって奨励されているので、前世にありがちなストーカー被害や傷害事件など、前世に比べれば圧倒的に少ない。だから、顔を出すのにもあまり抵抗がない。
そして、今回行われる文化祭のライブは他所で行われるようなものとは訳が違う。都内でも屈指の実力と人気を兼ね備えた学園アイドルグループが何組も呼ばれパフォーマンスを披露することになっている。
そう、だからこそ
「私が出てもブーイングを浴びるだけでしょう?そもそも私はアイドルじゃないし、客に喜ばれるようなパフォーマンスは出来ない」
「いいや、怜の作った曲なら絶対いけるわよ。そこらの有象無象など比べるまでもないわ。」
「いや、その自信はなんなの?......大体ライブなんてめんどくさそうなんだけど...」
「怜、お願い...」
「詩織...はぁ、分かった。考えておくよ」
「えぇ、期待してるわ。」
いつも飄々としている詩織にしては妙に必死そうだった。思わず考えておくと言えばキラキラした目で私を見てくる。やめろ、視線が痛い。確かに私は曲は作っているし、時々詩織に聞かせている。
詩織は褒めてくれるのだが、私の曲はこの世界の曲と方向性が大きくずれている。この世界の曲というのは大抵アイドル向けに特化して発達したものだ。それにこの世界の音楽では明るい曲や楽しい曲といったものが好まれる。
対して私は好きなアニメの主題歌を妄想して作ったりしている。正直、アイドルに特化した曲では私の崇拝する神作たちの主題歌に釣り合っていないように思えるのだ。
なので烏滸がましいながらも作品に合うような曲を自分で勝手に作るようになった。前世ではアウトドア派だったのだが引きこもりの今世では重度のオタクになっている。曲作りを始めた経緯はこんなしょうもない理由だ。だから詩織が私の曲を褒めてくれるのは嬉しいがライブ出るほどの自信はない。
帰宅した後、妹に意見を聞くことにした。妹は私よりもしっかりしてるし、困った時はいつも助けてくれる優しい娘だ。
「はぁ。それで、お姉ちゃんはうちに相談しに来たわけね」
「うん。私はどうしたら良いんだろう」
「いつも、引きニートみたいな生活してるお姉ちゃんがねぇ...」
「そ、そこまで言わなくても」
「うーん、動画投稿とかしたら良いんじゃないかな?」
「む、無視......うーん、動画投稿かー。確かにそれなら曲の感想も貰えるかもしれない」
「うん、お姉ちゃんが投稿するならうちがサムネイル描いてあげるよ」
「おぉ、ありがと。由依の絵は最高だもんねー」
「...う、うん」
こうして、妹から必要なものとやり方を教えてもらって動画投稿を始めた。