生徒たちが幸せになったり曇ったりする話   作:まにまに先生

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平和なデート回です!
平和なデート回です!(大事なことなのでry



空崎ヒナは過保護になる②

 

 

 部室で昼食を取った私と先生は、その後すぐにデパートへと足を運んだ。

 デパートがD.U.に位置しているからか色んな学園の制服を着た生徒が集まっているが、その中にゲヘナ生徒の姿はない。それに人の数もそれほどでもない。

 たぶん先生は私に気を遣ってわざとここを選んだのだろう。

 

 

「来たのはいいけど何を買うの?」

 

「色々あってね...はい、これ」

 

 

 先生が取り出したメモ用紙を受けとり目を通す。衣類関連の日用品から収納ボックスといった雑貨まで様々な品物が書かれていた。

 量自体がとても多いわけではないけど、嵩張る物がチラホラあるのでいくら先生が大人でも全て抱えて帰るイメージが湧かなかった。

 

 

「これ、私が来なかったら1人で持ち帰れたの...?」

 

「その時は流石に自分が持てる範囲にするつもりだったよ。ヒナが来てくれたから、念のために買いたかった物も揃えておこうかなって」

 

 

 要は荷物持ちの手伝いみたいなものだ。もともと先生の買い物に付き添う時点でその役割は確定しているから文句はない。

 

「なら手っ取り早く終わらせよう」

 

 先生と一緒にいたいという理由で同行したとはいえ、口数の少ない私と仕事以外で長時間一緒にいてつまらない女だと思われたくない。以前にこういう場に来た時も先生はそれを許容してくれたのだが、私自身はどうしても気にしてしまう。

 一緒にいたい気持ちと早めに終わらせたい気持ち、相反する2つの感情の混在に戸惑いながらも先生にメモを返して先を促す。

 

 しかし、先生はすぐには動かず私の方を見て笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「ついてきてくれて助かったよ。せっかくだからヒナと2人きりで買い物を楽しみたかったしね」

 

「っ...!?」

 

 

 一瞬で身体中が沸騰するのかと思うくらいに熱くなる。きっと今の私は顔が赤くなっているに違いない。

 何故この人はいつも私の欲しい言葉をかけてくれるのだろう。先生の優しい笑顔を直視できなくて、思わず顔を背けてしまう。

 ドクドクと音が聞こえてくるくらいに心臓が早鐘を打っている。ちょっと前に似たようなことを言われた時は軽く受け流してたはずなのに、私ってこんなに単純だったのだろうか? 

 

「またそんなこと言って...っ。最初はどこにいくの...?」

 

 先生がこういうことを平気で言う人だって分かっているはずなのに、上擦った声を誤魔化すのも忘れて少しだけ先生を睨む。そんな私の攻撃も全く効いていないようで、ニコニコと微笑ましそうにこちらを見ていた。掌で転がされているようで少し悔しい。

 

「そうだね...じゃあ最初は────」

 

 そこまで言うと先生は一度言葉を区切って、メモ用紙をポケットの中にしまい込んだ。

 

 

「ヒナの洋服でも見ようか」

 

「...え?」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「別に私の服なんて見なくても良いのに...」

 

 先生の突然の決定に戸惑っている間に、私はエスカレーターを上がった2階のアパレルショップまで連れて来られていた。

 

 

「今回の買い物は当番の仕事の範囲外だし、それをわざわざ手伝ってもらうんだからそのお礼ってことで」

 

「でもファッションとかよく分からないから....前も言ったでしょ?」

 

 

 服に大してこだわりを持った事はない。風紀委員長になってからは私服を着る機会がめっきり減ったから尚更だった。

 以前一緒に買い物へ来た時も、気になる服を聞かれて答えられなかった。それを分かってて連れて来るんだから、きっと私に年相応の楽しみ方を知って欲しいのだろう。

 

「でもまぁ...一着だけなら...」

 

 少しだけ間を開けて渋々頷いた。

 好意を無下にしたくなかったし、先生が買ってくれた物ならたまに着ることもあるかもしれない。ちょっとだけ先生に女の子として見てもらいたい気持ちもある。

 

 

「じゃあ改めて、ヒナはどんな服装が好き? 色とかでも良いよ」

 

「....自分でもよく分からない」

 

「じゃあ今まで買ってみた中で気に入った服とかは?」

 

「なんとなくで決めて、あまり気にせず買ってたから...」

 

「街を歩いてて気になる服とか無かった?」

 

「....無い」

 

 

 先生の質問も悉くはたき落としてしまう。

 嘘をついている訳ではない。水着と同じように、昔買った服を未だ着続けているから。同い年の子たちが興味を持つものに見向きもして来なかった。自分を飾る物を最後に買ったのはいつだろうか。

 

「う〜ん...なるほどね...」

 

 先生は困った顔をしていた。ここまで会話が成立しないとは思っていなかったのだろう。困らせている原因は私だ。

 

「っ...ごめんなさい」

 

 ほら、やっぱりこうなった。

 自分磨きとか流行りとかそういうのに疎いから、仕事以外での会話が碌に続かない。つまらない女になってしまう。それでも良いと先生は言ってくれたけど、気を遣ってくれているだけで話の合う子の方がいいに決まってる。

 先程まで暖かかった心が急速に冷え込んでいくのが分かった。先生への申し訳なさと自分への嫌悪感が心を埋め尽くしていく。

 

「謝らないで。私の質問の仕方が悪かっただけだから」

 

 違う、先生の質問は何もおかしくない。私が答えられないのが悪いんだから。こんな事になるくらいなら色々な事に興味を持ってみるべきだった。

 今の顔を見せたくなくて、俯き気味になっていく。

 

 

「じゃあ、ヒナはなりたいものとかある?」

 

 

 先生の声にハッと顔を上げた。視線の先ではこれだけの仕打ちをされながら、全く笑顔を崩さない先生の顔がある。

 

 

「...なりたいもの?」

 

「そう、今ヒナがなりたいもの...目標にしているものでも良いよ。服って自分のなりたい姿になれるものだからね」

 

 

 なりたいもの...なりたいもの...。

 頭の中で復唱しながら思考を巡らせる。先生のためにも『無い』とは答えたくなかった。私のためにわざわざここへ来てくれているのだから、自分で考えた答えを返したい。

 

 

「先生...」

 

「え?」

 

「いつか先生みたいに....なりたい」

 

 

 自然と口が動いていた。

 それが大人への憧れなのか、先生だからなのかは分からない。

 変なところはあるけど大事なところで頼れる存在になってくれる先生。こんな私でも根気強く寄り添ってくれる先生。

 そんな先生に救われたし、褒めて欲しくていっぱい頑張ってきた事もある。

 面倒臭いのは嫌だけど、頼られるのは嫌いじゃない。今の私が目標にするのなら、先生みたいな窮地でも諦めず頼れる、そして誰にでも慕われる存在になる事かもしれない。

 

「そっか...」

 

 短く返答してきた先生の顔はどこか嬉しそうだった。ちょっと照れているように見える。

 

 

「じゃあ、大人っぽい服装を探してみようか」

 

「...うんっ」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 あれから先生と一緒に店内を見て周り、マネキンに着せられている服を参考にしたり、店員にオススメを聞いてみたりと2人で試行錯誤しながら服を選んでいった。

 

 

「ヒナ、どんな感じ?」

 

「ちょ、ちょっと待ってて...!」

 

 

 試着室の外から聞こえて来る先生の声に返事をしながら鏡に映る自分をもう一度見る。

 

「これが...私....?」

 

 シャツはいつも通りの白だけど、その上にブラウンのジャケットを羽織っている。スカートは短めで足を隠すように黒タイツとブーツも履いていた。

 少なくとも普段の自分よりは大人っぽく見える。店員の力も借りたから当然といえば当然かもしれないけど。

 

 初めに感じたのは違和感だった。

 悪い意味ではない。今まで見たことのない自分への違和感に戸惑い、同時に自分でもよく分からない胸の高鳴りにも戸惑う。

 

「先生...開けるね?」

 

 この姿を見てどんな反応をするのだろうか。全部自分で選んでコーディネートしたわけでもないのに期待と不安が混ざり合う。

 そんな感情を吐き出すように深呼吸を一回入れ、勢いよくカーテンを開けた。

 

 

「...」

 

「ど、どう....?」

 

 

 先生は無言でじっと見つめてきていた。恥ずかしさを誤魔化すようにその場でグルリと一回転して見せる。

 

「な、何か言ってよ...」

 

 未だに無言のままこちらを凝視してくる視線に耐えられず、スカートの裾をぎゅっと握って先生を軽く睨みつける。

 もしかして似合ってなかったのだろうか、それとも何か着方に変な部分があったのか。無言の時間が続くほど私の中で不安の方が大きくなっていく。

 その時、先生の手が私の肩の上に置かれた。

 

「凄く似合ってる。雰囲気が一気に大人っぽくなってて、思わず見惚れちゃったよ」

 

 顔を近づけてそう言ってくれる先生。その目と声は真剣なもので、普段の先生を知っていればそこに一切のお世辞がない事が分かるくらいだった。

 

「あ、ありがとう...」

 

 顔が熱くなり、視線を逸らしてつっかえながら一言を絞り出すのが精一杯だった。

 同時に満たされるものがあった。褒められたからというだけではない。少し自分に自信がつくような、先生に一歩近づけたような感覚が私の心を埋めてくる。

 

 

「ヒナはどう?」

 

「え?」

 

「その服、気に入った?」

 

 

 先生に言われてもう一度鏡で自分の姿を確認する。鏡に映っている自分は恥ずかしそうに顔を赤くして...でも無意識に口角が上がっている事に気づいた。

 私、こんな顔もできたんだ。

 その顔を崩さないようにしながら先生の方を向く。

 

「これなら...たまには着ても良いかなって思えるかも」

 

 少し素直じゃない言い方になったけど、自分を飾って気分が高揚するなんて初めてだった。小さい頃ならあったかもしれないけど少なくとも記憶にはない。何より先生に褒められたこの服装を気に入らない訳がなかった。

 すると先生は嬉しそうに頷いて財布からカードを取り出した。

 

 

「じゃあ全部買おうか」

 

「ぜっ、全部!?」

 

 

 まさかの発言に思わず大きめの声が出てしまった。確かにこの格好を気に入ったのは事実だけど、一式全て購入すると相当な値段になるはずだ。

 もともと一着だけの予定だったから、全部先生に負担させるのは流石に気が引ける。

 カードを持ったまま店員を呼ぶ先生を、慌てて腕を掴んで引き留める。

 

 

「ま、待って! 別にそういうつもりじゃ...!」

 

「いいんだよ。せっかくヒナが興味を持ってくれたんだから」

 

「でも値段が...」

 

「何とかなるから、これぐらいは格好つけさせて」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 結局、あの後先生がカードで支払いを行い、店員にタグを取り外してもらって私服のまま店を出た。

 合計金額を見た時に先生の笑顔が若干引き攣っていたけど、ここでまた私が止めたところで同じ流れを繰り返すだけなので心の中で謝罪をした。

 

 そこから数分後

 

「その...ありがとう。アイスまで奢ってもらって」

 

 歩きつつ、先生の横顔を見ながらコーンの上に乗っかったバニラアイスを舐める。

 移動中にたまたま見つけたアイス屋を見ていたら先生が奢ってくれた。これ以上奢ってもらうのは流石に申し訳なくて全力で止めたけど、結局押し切られてしまい意外と自分は押しに弱いのだと思ってしまう。

 

 

「気にしないで。こういうのもあまり経験ないでしょ?」

 

「それはまぁ...確かにそうだけど...」

 

 

 風紀委員の活動として見回りとかしている時に食べ歩きや買い食いをしている生徒はよく見る。

 正直、別に羨ましいとか思ったことはなかった。食べ歩きとか行儀の悪いイメージが強かったから。でも────

 

「意外と悪くない...かもしれない」

 

 風紀委員長の自分がこんな行動をするのは良くないと分かってるけど、同い年の子達が食べ歩きをしたくなる気持ちがちょっとだけ分かった気がする。また一つ、自分の中で新しいものを見つける事ができた。

 

 それに私服で先生とこうして食べ歩きをしているなんて、本当にデートをしているみたいで...。

 

「ヒナ...ヒナちゃん? 大丈夫?」

 

 名前を呼ばれて横を向くと、私の身長に合わせて屈んでいる先生の顔が目の前にあった。

 原因は分かってる、私の顔が赤くなっているから心配したのだろう。変な想像をしたせいで全身が熱い。

 

 

「だ、大丈夫だから。...そう言えば先生、時間は大丈夫?」

 

「え? ...あ」

 

 

 時計を確認した先生がその場で固まった。そのリアクションだけで当初の予定からだいぶ時間が押しているのが分かる。

 思わずため息が出そうになったが、こうなったのは私の買い物に付き合ってくれたからだ。時間管理が甘いのは良くないけど新しい発見もできたし、感謝の気持ちが大きいので責める気は全くない。

 

 

「メモの内容だと手分けをした方が良さそうだし、私はこっちに行くから先生はこっちをお願い」

 

「面目ない...」

 

 

 頼りになる先生も良いけど、抜けている部分がある今の先生も見てて安心する、なんて思っている私は随分と先生に絆されているのだろう。

 少ししょんぼりしている先生と別れ、足早に目的地へと向かった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 先生と別行動を取ってから1時間近くが経過した。いくつかの買い物袋を持ったまま最後に雑貨屋へ立ち寄り、案内板を頼りに必要なものを探す。

 

「あった。これと...後これね」

 

 手頃な大きさの収納ボックスを2つ持ってレジへ向かう。

 メモに必要な収納ボックスの大きさを単位付きで明記してくれていたので、思いの外あっさりと見つける事ができた。

 カウンターに商品を置いて、先生から買い物用として借りているお金を取り出す。

 

「ぁ...」

 

 店員が会計作業をしている最中、レジのすぐ近くに吊り下げられているキーホルダーが目に入った。特にこれと言った特徴がある訳ではない、鳥の形をした小さなキーホルダー。

 少しだけ考えた後、私はそれに手を伸ばした。

 

「これも...ください」

 

 キーホルダーを2つレジカウンターに置いて、キーホルダー代は自分の財布からお金を取り出して払う。

 衝動買いするなんて私らしく無かったけど、ここまでしてくれた先生に何かお礼がしたかった。

 キーホルダーぐらいなら変に先生に気を遣わせる事も無いと思う。2個買ったのは...こっそりお揃いにしたかったから。

 

 店を出て、ショーウィンドウで自分の服が乱れていないか確認してから足早に先生と決めた合流地点へ向かう。

 

 

「何...?」

 

 

 広いフロアを5分ほどほど歩き続けた頃、向かう先に人だかりが出来ていた。先程通った時はこんなに人はいなかったのに何か催し物でもあるのだろうか。

 ────いや違う。人だかりの隙間からヴァルキューレの姿が見える。両手を広げて道を封鎖する姿勢だった。

 ヴァルキューレがD.U.で出勤するということは何か事件があったということを意味する。それも封鎖しなければならないような何かが。

 

「っ...」

 

 嫌な予感がした。

 痛いくらいに早くなる心臓を抑えながら走り寄り、雑音の混じる群衆を掻き分けて前へ前へと進む。

 そうであって欲しくないと願いながら。頭の中で蘇るあの夢を払い除けたくて、騒ぎの正体を確認するために群衆の最前列へ出る。

 

「ぁ...」

 

 目の前にあったのはちょうど誰かが担架で運ばれる姿だった。

 顔まではハッキリ見えなかったがあの体格、あの服装は見間違えるはずがない。1時間前までずっと一緒にいたのだから。

 そしてその近くではヴァルキューレに取り押さえられた生徒と...かなりの量の血溜まりがあった。

 

「嘘....っ」

 

 荷物をその場に落とし、急いでスマホをポケットから取り出す。

 格好は酷似してたけど顔は見えなかった。まだあれが先生と決まった訳じゃない。

 震える手でスマホを操作して連絡帳から先生へ電話をかける。

 

「嫌...嫌っ...先生...お願いだから出て...っ」

 

 その時、着信音が聞こえた。

 ハッとして辺りを見渡してみる。でも誰かがスマホを触っている様子はない。視線を事件現場へと戻す。

 

 

 ────着信音は血溜まりのそばに転がっている鞄の中から聞こえてきた。

 

「あ....ぁぁあ...っ...」

 

 全身に震えが走る、目の前が真っ赤に染まる、頭の中が焼き尽くされるぐらいに熱くなる。

 

「先生ぇぇぇええぇぇっっ!!」

 

 次の瞬間には勝手に身体が動き、封鎖を突破して担架の方へ駆け出していた。

 

 





ヒナちゃんの私服は偶然Twitterで見かけたイラストを参考に文章化しました。実装はよ。

実に幸せなデートでしたねぇ。ヒナの絆ストーリーを妄想マシマシで膨らませる形にしました。ヒナちゃんはもっと女の子らしいことに興味を持って欲しい。
Q:なんで幸せに終われそうなのに曇らせるんですか?
A:性癖だからです。

あっ...あっ...ヒナちゃんの曇らせは辛い...でも素敵...
デートに浮かれて油断するから先生が撃たれちゃいました。ずっと一緒にいれば良かったのに...。
ヒナちゃんさぁ、何で離れちゃったの?

フヒヒ...シロコの曇らせストーリーがいい具合に頭の中で組み上がっております。ヒナとかシロコとかトキみたいな基本無表情の子が取り乱す瞬間っていいよね...。
まだノアとフウカが控えてるのでしばらく先になりますけどね!
最終目標はクズノハを曇らせることです(嘘)
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