お待たせしすぎて申し訳ない...!
やっと仕事の方が落ち着いてきました...! そして来月からまた忙しくなるという地獄....。
でもこの2ヶ月よりはマシなのでチマチマ進めていけると思います。
ユウカ...土下座するからマジで仕事手伝って...。
生塩ノアは先生を失う①
〜シャーレ部室〜
15時53分12秒、先生が本日5回目の欠伸をした。
「じーっ...」
自分のやるべき仕事を片付けて、お気に入りのメモ帳を手にしながらペンを走らせる。
初めはユウカちゃんから話を聞いただけで、その時の彼女が少し楽しそうに話していたから興味本位で近づいてみたのだが、想像以上に観察しがいのある面白い人だった。
書類整理をしているのに、毎回わざわざ一度ペンを置いてコーヒーカップを手に取ったり、考え事を始めるとボールペンで頬をペチペチと叩いたり、探せば探すほど些細な癖が見つかる。
「...」
無駄な雑音がない静かな空間だからこそ、目の前にいる先生に集中できて細かい動きが良く分かる。
時折、顔の向きを変えずに目だけでチラリと私を見てきていること、ペンの動きから何の文字を書いているのか、どんな書類に対応しているのか。
他の人ならどうでも良いと思うであろう事も、私は全てメモ帳に事細かに書き込んでいく。
そんな私だからすぐに気がついた。
「先生、わざとですね?」
私が指摘すると先生は左手で持っていたコーヒーカップを机に下ろす。そして観念したように苦笑いをコチラへ向けてきた。
「やっぱりバレるかぁ...さりげなくやってみたつもりだったんだけど」
「いつも見てますから。普段よりソワソワしてたので何か企んでいるのも分かっていましたよ?」
「ノアには敵わないね」
そう言うと先生は右手に持っていたペンを置いてコーヒーカップを掴んだ。やはりこっちの方が見ている側としてもしっくりくる。
ここまでじっくり観察したくなるのはユウカちゃんみたいに特別な感情を持っているからなのか、それともただの興味本位なのか自分でも分からない。むしろ親友でもある彼女の恋路を観察しながらも応援しているつもりだ。
でも、今のは記憶力に自信のある私だからこそ出来る先生とのやり取り、特別な会話だと思うと少しだけ優越感が湧いてくる。
「もう私の行動もほとんど把握されちゃったかな?」
「そうでもありませんよ? 最近になってようやく分かってきたこともありますから」
「それなら、いつかはノアに一泡吹かせられるかなぁ...」
「ふふっ、楽しみにしてますね」
半ば諦めたように呟く先生に笑みを返す。
先生と初めてあった時から何度もこうして一緒に仕事をしている。そのたびに新しい発見があって、彼の一挙一動が頭の中にある先生へのイメージに色をつけてくれる。
当番の日は先生の手伝いと言うより、こっちの方がメインになっているかもしれない。未だに好奇心が尽きる事は無いし、観察すればするほどその意欲は湧いてくる。
「そう言えばノア、ひとつ聞いても良いかな?」
メモ帳に視線を戻そうとしたところで名前を呼ばれ、再び顔を上げて先生を見る。
それが億劫だとは微塵も思わない。先生と話す度に新しい発見があるから、今度は何があるのだろうかと逆に自然と笑みを浮かべてしまうくらいだ。
「なんでしょうか?」
「ノアなら私の癖も大体は把握できてるんだよね?」
「そうですね...全てではありませんけど、先生本人よりも把握できている自信はあります。それがどうかされたのですか?」
この先生の声のトーンは真面目な時のものだ。心なしか表情も普段の穏やかな笑みではなく、偶に見せてくれる真剣な表情になっていた。そんな彼の姿を見ていた私も自然と顔が強張るのを感じ、返ってくる先生の言葉を待つ。
「もし気になる癖があるなら教えて欲しいかなって。それで生徒達に不快な思いをさせたくないから」
出てきたのは実に先生らしい言葉だった。それを聞いた途端に顔の緊張がほぐれていく。
常に生徒のことを第一に考えている先生の姿に思わず笑みを浮かべそうになったが、相手が真剣そのものなのでこちらも真面目に考えてみる事にした。
「気になる癖ですか。そうですね...」
ボールペンのノックカバーの部分を唇に当てながら思考を巡らせる。が、間も無く一つの単語が頭の中に浮かんできた。
「浪費癖でしょうか」
「ゔっ...」
心当たりがあると言うレベルではないくらい露骨に視線を逸らされた。
この癖を知っているシャーレの部員がどれくらいいるのかは分からない。ただ私はユウカちゃんと同じセミナーだから散々その件については彼女の口から聞かされているし、なんなら先生の第一印象を聞いた時にユウカちゃんの口から飛び出したのも無駄遣いに関する事だった気がする。
「ちゃんとアプリへの課金は抑えてますか? 5000円以上の買い物は事前にユウカちゃんに許可をとっていますか? 領収書もしっかり保管しておいてくださいね」
「やめて...ユウカがもう1人増えた気分になるから...」
「ふふっ」
耳を抑えて机に突っ伏す様を見る限り、今月もユウカちゃんのお説教コースは確定しているのかもしれない。
先生自身、ユウカちゃんに対して反抗的な気持ちがあるとか、嫌いだとかそういう不の感情は微塵も無いだろう。むしろ全幅の信頼を寄せているのは間違いない。
だからこそ彼女の言いつけを守れない先生の浪費っぷりは、誰が見ても疑いようもなく悪い癖と言える。
生徒会室でプリプリ怒りながら先生の出費を話すユウカちゃんも可愛いので、そういう点では先生の浪費癖を治すのは勿体ない気もするが口には出さないようにした。
「浪費癖は良くない事ですが、それ以外については気にする必要ないと思いますよ。それに治すべきものは別として、行動の関する癖というのは大事なことだと思います」
「どうして?」
「誰だって自覚が無い癖の一つ二つはあります。個人的な考えにはなりますが、その癖は個人を結びつけるために必要なものだと思うんです」
「う〜ん...」
目の前にいる先生が腕組みをして唸り始めた。少し言い方が遠回しすぎたのかもしれない。最近読んでいた本の表現を使ってみたのだが、いざ言葉にしてみるとなかなか使い所が難しい。
「“癖”というのは言い換えればその人の“特徴”の一つでもあります。例えば話し方一つでも語尾を伸ばしがちだったり、特定の言葉を良く使ったり、イントネーションも含めてその人ならではの話し方をする人、先生の周りにもいらっしゃいませんか?」
「確かに思い当たる生徒は結構いるかも」
「その生徒達がもし、いきなり癖のない普通の話し方を始めたらどうでしょう?」
「それは...違和感を感じるかな。何かあったのか心配になるかもしれない」
「それは先生の中で“この話し方=この生徒”という形で結びついているからだと思います。話し方に限らず歩き方や相槌、会話以外の日常的な癖もその人らしさが出てくる部分ですから。癖はその人を認識するための大事な要素の一つ、私はそう考えてます」
当然、先生の癖もたくさん記録してあるし頭の中にも刷り込まれている。
その本人が無意識にとっている行動のどれもが些細であっても大事な事。特に人一倍記憶力がある私だから、その一挙一動を鮮明に憶えてしまっている。
今から無理矢理にでも癖を修正されたら、脳が先生を先生だと認識してくれなくなってしまうかもしれない。
「だから、癖は無理して治す必要は無いと思いますよ。治した分だけ先生らしさが無くなってしまいますから。もし治した方がいい癖が見つかったらお伝えするのでご安心ください」
「分かった。ありがとうノア」
「あ、でも浪費癖は治してくださいね」
「...頑張ってみるよ」
また視線を逸らされたがこれ以上は追求しない。この件に関しては私じゃなくてユウカちゃんの領域だから。
今度からユウカちゃんに先生の毎月の使用金額を聞いてみよう。金額によって怒り方がどう違うのか観察してみるのも面白いかもしれない。
☆☆☆
翌日
〜セミナー生徒会室〜
シャーレの当番から一夜明け、普段通りに生徒会室の扉を開けると先に来ていたユウカちゃんが唸りながら書類と睨めっこをしていた。
「お疲れ様です、ユウカちゃん」
こっそり近づいて耳元で囁いてみようかと悪戯心が湧き上がってきたが、真面目なところに水を差すのは気が引けたので普通に声をかける。
やや遅れて彼女が顔を上げて、フリフリと手を振ってきた。
「ノアもお疲れ様。昨日はどうだった?」
「先生と情熱的な1日を過ごしました♪」
「そう、順調だったのね」
軽い冗談もあしらわれてしまい、せめてもの抵抗としてムッとした表情を向けてみるが彼女は再び書類に視線を落としていた。
ちょっと前まではこの程度の冗談でも動揺していたのだが、揶揄いすぎたせいで慣れてしまったのかもしれない。もしくは機嫌がよろしくないのか、また新しい内容を考えよう。
そのままユウカちゃんの前まで歩き、上から覗き込むように書類を見てみる。
「ユウカちゃん、先程から唸っていたようですが何の書類ですか?」
「ん? あぁ、これの事なら別に大したものじゃないわよ」
そう言うと彼女は私へ紙を差し出してきたので、遠慮なく受け取って文字列に目を走らせてみる。
几帳面な彼女らしく丁寧に書かれた金額と思われる数字と文字、その内容を見た途端にこの書類の意味を理解して苦笑いする。
「ユウカちゃんも苦労してますね」
「やりたくてやってる事だから良いけど...ここまで苦労するとは思わなかったわ...」
ユウカちゃんが唸っていた原因である書類。それは先生の毎月の出費金額と内容をまとめたものだった。
ただ一覧を書いてるだけでなく、毎月の最高出費額や部門毎の出費額、購入回数など彼女なりにいろんな側面から統計を取っている。
「もう、どうして毎回毎回こんなにも衝動買いするのよ...。これを抑えるだけで大幅に出費を減らせるのに」
「ストレスが溜まると衝動買いしたくなる人もいるみたいですね。先生も日々激務に追われているので、それが原因だったりするかもしれませんよ?」
「ストレスね...。それこそ私達に出来ることってあるのかしら?」
「ユウカちゃんが通い妻になって先生を癒してあげれば良いと思いますよ♪」
「かっ...通いづ..」
“通い妻”と言う単語に反応したのか、先程とは違って彼女の顔が明らかに赤くなっていく。もしかしたら、そうなった時の自分と先生のやり取りを想像してしまったのかもしれない。
なるほど、どうやらそういう弄りはまだまだ良いリアクションを期待できそうだ。大袈裟に咳払いしてコーヒーを飲む姿が可愛らしい。
「さ、流石にそこまで時間は取れないから無理ね。それに先生の事だからokを出さないでしょ」
「えぇ、私もそう思います。今のは咄嗟の思いつきなので忘れてください」
そう、この案は誰よりも先生が許可してくれないだろう。
生徒第一に考える先生の事だから、シャーレに通い詰める事でその分だけ生徒の時間を奪ってしまうと考えるはずだ。
そしてもう一つ、特定の生徒がシャーレへ頻繁に出入りすれば先生がその学園へ肩入れしているという誤解を招く可能性。
シャーレは基本的に中立的な存在なので、先生の立場を危うくするだけだ。“誰か”の先生ではなく、“みんな”の先生なのだから。
「明日はユウカちゃんが当番の日ですよね。その時に探りを入れてみてはどうでしょうか?」
「そういうのあまり得意じゃないのよね...。ま、一緒に買い出しへ行く予定だから観察してみるわ」
「あら、デートですか?」
「先生が無駄遣いしないためのお目付け役よ」
やっている事はどう見ても通い妻のレベルを超えているような気がする。ただ、目の前のユウカちゃんは少し不機嫌気味なので、これ以上は弄らないようにしておこう。
なんだかんだ言いながら当番翌日の彼女は機嫌が良いので、今回もきっとそうなるはずだ。
☆☆☆
翌日
〜セミナー生徒会室〜
ユウカちゃんが当番の日は私が代わりに彼女の仕事を行う事が多い。と言っても計算能力やお金のやりくりは彼女の方が上手なので、私がやる事といえばお金関連の仕事を整理しておく事ぐらいだ。
「ほらよ! 今回の請求書だ!」
目の前に勢いよく突き出されたレシートの束を受け取る。やたらと長い請求書、その10項目あたりまで目を通したところで全て読み切るのを諦めた。
「これはまた...ユウカちゃんが頭を抱えそうですね」
「あ? 別に前回より減ったからマシだろ?」
「ネル先輩、普段の請求金額から考えると1000円の増減は誤差の範囲ですよ?」
「〜♪」
お世辞にも上手とは言えない、露骨に誤魔化すような口笛を吹きながらネル先輩が生徒会室から出ていった。と言うより逃げた。
特に追いかけるつもりはない。ここで何か行動を起こしたところで請求額が減るわけではないし、C&Cはしっかり与えられた任務をこなして帰ってきた。
請求書の束をクリップで止め、ユウカちゃんが指定した引き出しの中へしまい込む。
この後は他の部活は顔を出しながら提出書類の確認、ついでに“おいた”をして再び反省部屋に放り込まれたコユキちゃんの様子も見に行こう。
頭の中でこの後のスケジュールを立てながら自分の仕事を片付けていく。そんな時、机の上に置いていた携帯から着信音が響いた。
「っ!?」
それを聞いた途端ドクンと心臓が跳ね上がり、先程までリラックスしていた全身に力が入った。
この着信音はセミナー所属生徒間でのみ使用されている緊急回線の音だ。リオ会長はどこかへ行ってしまわれたので、この緊急回線の発信者は1人しかいない。
「ユウカちゃん...!」
今、ユウカちゃんは先生と一緒にいるはずだ。なのに緊急回線がかかってくると言う事は、彼女1人では対処出来ないレベルの事態が起こったという事。
身体の硬直を振り切り、慌てて机へ駆け寄って携帯を引ったくるように手に取ると、深呼吸を入れて通話ボタンを押す。
「ユウカちゃん、どうしましたか?」
出来る限り冷静な声を出すように意識した。嫌な予感しかしなかったが、受け取る側であるコチラが慌てていたら更なる動揺を与えかねない。
『ノア..』
一瞬だけ別人かと思ってしまった。
聞こえてきた声は掠れていて震えている。間違いなく通話越しのユウカちゃんは泣いていた。
『ノア...どうしよう...』
今まで聞いたことのない彼女の声。この状況で新たな一面の発見を喜ぶほど、非道な人間になったつもりはない。
嫌な予感は大きくなる一方だが、だからこそ冷静にならなければならない。一度、携帯を離して深呼吸をしてから再び携帯を耳に当てる。
「ユウカちゃん、落ち着いてください。何があったのですか?」
『先生が...先生が...!』
その後の言葉を聞いた私はこの後の予定を全てキャンセルし、生徒会を飛び出した。
期間が空きすぎてキャラが崩壊していないか心配ですねぇ!
まーた先生が犠牲になってるよ...。
そろそろ兎隊の続編も来るだろうし、出来ればミヤコを庇って狐隊に撃たれて欲しい。
そして涙を流しながら絶望するミヤコとブチ切れる他3名、そして想定外の出来事に動揺する狐隊(特にニコ)を見たいんだ...。