生徒たちが幸せになったり曇ったりする話   作:まにまに先生

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今年の夏はセミナーの水着を拝みたいですなぁ。
そしてノアの水着を褒めまくって赤面した姿を観察するのと同時に嫉妬するユウカが見たい。




生塩ノアは先生を失う②

 

 

 〜D.U.シラトリ区病院〜

 

 ユウカちゃんからの緊急連絡を受け、ミレニアムから飛び出して交通機関を使い夕日が沈み始めた頃、ようやくシラトリ区の病院に辿り着いた。

 受付でユウカちゃんの名前を出し、ミレニアムの学生証を見せると係の人がすぐに案内してくれた。

 

 通された場所は手術室の前、未だに『手術中』の赤いランプが光っており、それを目にした途端により一層強く心臓が跳ね上がる。

 そして、その扉の前で私の大切な友人が蹲っていた。

 

 

「ユウカちゃん!」

 

 

 病院内であることも忘れて大声で名前を呼び、彼女の元へと駆け寄る。

 近寄った彼女の制服は少し汚れており、髪も少し乱れていて几帳面なユウカちゃんらしくない姿だった。

 

「ノア...」

 

 力なく顔を上げた彼女の顔は悲しみと後悔に染まっていた。それだけで先生が非常に危険な状態である事が分かる。

 

 

「どうしよう...私っ....がいたのにっ....先生がっ....あ、頭から血が止まらなくて....っ」

 

「ユウカちゃん...」

 

 

 目に涙を浮かべ、つっかえながら話す彼女の姿は見ていられないくらい痛々しかった。素直な性格で顔に出やすいからこそ、その表情が語る悲痛な彼女の精神状態にこちらも心臓が締め付けられそうになる。

 こんな状態のユウカちゃんをこれ以上傷つけるような真似はしたくない。でも、今のままでは状況が把握できないのも事実だ。

 

「何が...あったんですか?」

 

 私は意を決して彼女に尋ねた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 本日の当番だったユウカちゃんと先生は予定通りに備品の買い出しに出かけた。その帰り道に対立していた不良生徒グループ同士による大規模な抗争に巻き込まれたらしい。

 生徒達が銃を撃ち合う事自体はこのキヴォトスでは珍しいことでもない。実際、ユウカちゃんと先生は冷静に激戦地を避けながら行動していたそうだ。

 

 しかし、不良生徒が戦車を持ち出した事で状況が一変。

 強大な範囲攻撃によって吹き飛ばされた大きな瓦礫が死角から飛んできて、運悪く先生の頭に直撃してしまった。

 先生は意識を失って頭から大量の血が流れ続けていたらしい。そして叫ぶように先生を呼ぶユウカちゃんの声を聞き、近くにいた人が救急車を呼んでくれた結果今に至る。

 

 

「何も出来なかった...っ! 頭が真っ白になって...身体が動かなくて...ずっと先生を呼んでただけで私っ...」

 

「違いますよ。ユウカちゃんが叫んでいたからこそ、近くにいた人が気づいてくれたんです。思うように動けない状態で、ユウカちゃんは出来ることをしたんです」

 

 

 延々と後悔を口にするユウカちゃんを抱きしめながら、彼女の言葉を出来る限り優しく否定する。

 実際、私がその場にいて冷静な対処が出来たかと問われれば自信はないと答える。いきなり先生が血を流しながら倒れたとなれば、パニックに陥るのはおかしな話ではないだろう。

 そんな中でユウカちゃんの叫びは人命の危機を周囲に知らせる役割を果たした。彼女は何も出来なかった訳じゃない。

 

 そんな想いも勿論あったが、それ以上にどんどん後悔の底に沈んでいく彼女の姿を見ていたくなかった。

 

 

「....っ」

 

 

 泣き続けるユウカちゃんの背中をさすりながら手術室の方を見る。『手術中』のランプは点灯したままだ。

 もう何時間も経ったような気がする。到着した時間を記録していないから、実際にどれくらい経過したのかは私でも分からない。ただただ長い時間をこの場で過ごしたような感覚だった。

 

 

「ユウカちゃん、大丈夫...大丈夫ですから」

 

 

 簡潔で何の根拠もない気休めだ。今まで色んな文学に触れて得た語彙力はどこに行ったのか。

 何も出来ずにひたすら待つ事しか出来ない時間が苦しい。余計なことまで考えてしまいそうになる。

 もしかしたら、先生はもう────なんて最悪な考えが浮かんでしまう自分を引っ叩きたくなった。

 

 時間が経つにつれて自分でも落ち着きがなくなっていくのが分かる。それでも取り乱さずにいられるのはユウカちゃんがいるから。今の私の役目は崩れ落ちそうになっている彼女を支えること。その役目が私を支えてくれていた。

 

 

「あ...っ」

 

 

 永遠に続くのかと思える時間を過ごしていると突如、腕の中でユウカちゃんがピクリと動いた。

 

 

「ユウカちゃん?」

 

「ノアっ...消えた...」

 

「消えた?」

 

 

 まるで幼児のように単語だけで話す彼女へ首を傾げたが、その視線は私の方を向いていなかった。

 釣られるようにユウカちゃんの視線を辿ってみると光の消えた『手術中』の看板があった。

 

「あっ...」

 

 図らずも同じ反応をしてしまった。その光が消えたということは手術が終わったことを意味する。

 しかし、その先に待っている結果が必ずしも望んだものになるとは限らない。命に関わる怪我をしたというのなら結果は天国か地獄かの2択だ。天秤は必ずどちらかに傾く。

 

「っ...!」

 

 ユウカちゃんが私の服をギュッと握ってきた。怖がっている。この先に待っている結果を聞くのを恐れているんだ。

 それは私も同じだ。『きっと大丈夫ですよ』、そんな一言だけでも掛けてあげられれば良かったのに、言葉が喉で詰まってしまいユウカちゃんを励ます余裕が無かった。

 

 手術室の扉が開け放たれ、執刀を務めたと思われる人が出てきた。

 そしてその後方、手術室の中に先生を乗せたストレッチャーがあるのが見えた。今すぐにでも駆け寄れば結果が分かる。

 しかし、それを見ようとせずに私は執刀医の方へと向かった。

 

「あ、あのっ...先生は────」

 

 冷静になろうと努めたのにそこから先の言葉が出てこなかった。まるで言葉が喉にへばりついているように、この先を聞けば悪い答えが返ってきてしまうような気がして。

 

 言葉に詰まった私と後ろで座ったまま不安そうに見つめているユウカちゃん。執刀医は私たちを交互に見ると、疲れ切った顔で口を開いた。

 

 

「...一命は取り留めました」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 翌日

 〜ミレニアム生徒会〜

 

 寿命が縮まるような思いをした一件から一夜が明け、私とユウカちゃんはいつも通り生徒会室で業務に励んでいた。

 昨日は途中で仕事を放り出してしまったのでその分も片付けなければならない。ならないはずなのに────

 

 

「ユウカちゃん、少し休暇にしませんか?」

 

「え? う〜ん...もうちょっとだけ頑張るわ」

 

「ダメです。さっきから集中できていませんよね?」

 

 

 私の指摘にユウカちゃんの手が止まった。いや、ほとんど動いていなかったから止まるという表現はおかしいのかもしれない。

 効率よく時間配分も考えて動く、そんな普段の彼女からは想像もつかないくらい業務が進んでいなかった。

 

 

「先生の事が気になるんですよね? 気持ちは分かりますが今のままでは効率が落ちるだけですよ」

 

「...そうね」

 

 

 思いの外あっさりと彼女は業務を中断し、重い足取りでまだ半分も残っているコーヒーのおかわりを注ぎに向かった。

 結果として先生の命は無事だった。手術の時間や担当した方々の疲弊しきった様子からも相当な激闘だった事が分かる。結果を聞いたユウカちゃんは再び泣き崩れ、私も零れ落ちそうになる涙を堪えて彼女を支えていた。

 

 しかし、未だに先生の意識は戻らない。

 

 今の時間を考えれば事故が起きた日からちょうど丸一日経ったぐらいだろう。意識が戻りしだい病院から連絡が来る手筈になっているのだが、ユウカちゃんの携帯が鳴る事はなく、こまめにスマホを確認する彼女の姿を見るたびに私も辛くなってくる。

 頭部への大怪我なのだから多少は仕方ないと分かっている。でも、時間が経つにつれて不安が大きくなっていくのも事実だ。

 

「私の方に連絡が...なんてある訳ないですよね..」

 

 ユウカちゃんにはああ言ったけど集中できていないのは私も同じだ。彼女よりは進んでいるものの普段の6割程度のペース。先生の件を引きずっているのは一目瞭然だった。

 私ですらこの様なのだから、当事者のユウカちゃんの心境は計り知れないものだろう。きっと恐怖や不安だけでなく、あの時の後悔や自身への憤怒に押し潰されそうになっている。

 

 出来る限り表に出さないように努めているのは良くも悪くも彼女らしい。そしてそれが上手く実行できず、側から見ても調子の悪さが丸分かりなところも彼女らしかった。

 

 

「...少し外の空気を吸って来ますね」

 

 

 やけに小さく見える彼女の背中に声を掛けて、返事も待たずに扉を開けて生徒会室から出る。

 外の空気を吸いたかったのは本当だが、それよりも今のユウカちゃんをこれ以上見ている事に耐えられなかった。彼女が1番苦しんでいるのだから、こういう時こそ私が支えてあげないといけないのに。

 

 

「先生...先生ならこういう時どうしますか?」

 

 

 返ってくるはずもない疑問を誰もいない空間に投げかける。

 答えが見つからない。彼女の事は自分が1番分かっているつもりなのに、彼女が落ち込んでいる時にどうすれば良いのか記録していたのに、ここまで追い込まれているユウカちゃんにどう対応すれば良いのか分からない。

 

 こんな時に先生がいれば、なんて都合の良い考えしか浮かばない今の私は無力だ。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 1週間後

 〜D.U.シラトリ区〜

 

 何も策を見出せないまま、時の流れに身を任せるだけの日常は早くも1週間が経過した。

 そして今日は先生が入院している病院へお見舞いに行く日。ユウカちゃんは既に3、4回ほど通っているが私は今回が初めてだ。

 

「ユウカちゃんからの連絡は無し...と」

 

 スマホの通知を確認し、何もない事に少し落胆しながらポケットにしまい込む。

 仮に先生の意識が回復したのなら、すぐに私にも連絡をくれると思う。だから何もないという事はそういう事だ。

 あれからユウカちゃんの笑顔を見ていない。他の生徒と話すときは笑顔を見せるが、それは無理して貼り付けたような薄っぺらいものだった。

 きっと病院にいるユウカちゃんは暗い顔をしているのだろう。そう考えただけで適当な口実を作って引き返したくなってくる。

 

 

「おや〜? そこにいるのはセミナーの書記さんかな?」

 

 

 悪い思考に浸っている私を呼ぶ声があった。

 ハッと顔を上げてみると桃色髪にピンと目立つ大きめのアホ毛、黄色と青のオッドアイ 、そして小さな体にアビドスの校章。

 目の前にいる人が誰なのか見間違えるはずもなく、私は咄嗟に笑顔を貼り付けてお辞儀をする。

 

 

「ホシノさん、お疲れ様です。先生のお見舞いですか?」

 

「そうそう。いや〜、アビドスから結構距離あるからね〜。おじさんに長旅は辛いよ〜」

 

「...歳はほとんど変わらないはずでは?」

 

 

 女子学生らしからぬ発言に思わず首を傾げるが、『うへ〜』なんて言いながら欠伸している姿を見て、先程のおじさん発言は彼女なりのジョークだと気がつくのにさほど時間は掛からなかった。

 

 

「あ、そうそう。入れ替わりでそっちの会計さんが来てたよ。当事者とはいえ随分と暗そうだったけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫、とは言い難いですね...。ユウカちゃんにとって先生はとても大きな存在ですから」

 

「ま、気持ちは分かるよ。大切な人を守れないのは辛いよね」

 

 

 気怠そうな表情から一転、閉じかけていた彼女の瞳が開かれて綺麗なオッドアイが私を見据えてくる。

 急に真面目な雰囲気を纏った彼女の姿に思わず息を呑む。過去に何かあったと思わせるような言葉だ。いや、この言い方は実際にあったのだろう。恐らくこの人は誰かを守れずに失っている。

 そんな私の思考を読み取ったのか、ホシノさんは再び表情を崩してニヘラと緩い笑みを見せた。

 

 

「そう言えば思ったよりココも騒ぎになってないね〜。しっかり情報統制は出来てるんだ?」

 

「えぇ、トリニティやゲヘナ、他の学園も連邦生徒会の指示を守って下さっているようですね」

 

「意外と協力的なんだね? どこかは指示を無視すると思ってたけど」

 

「私もそれは危惧していましたが、今回は対象が先生ですからどの学園も従わざるを得なかったのでしょう」

 

 

 事件の翌日、事態の全容を把握した連邦生徒会は各学園の上層部にのみ事実を通達。同時に他の生徒には一切口外しないよう緘口令を敷いた。

 当然と言えば当然の措置だ。この事実がキヴォトス中に知れ渡れば各学園が混乱を極めるのは目に見えている。それだけ先生の存在は大きいのだから。

 ふと、彼女は腕時計に目をやり、目を瞬かせて「ありゃりゃ」と声を上げた。

 

 

「もうこんな時間だ。病院で時間を使いすぎたかな? そろそろ帰らないとセリカちゃんに怒られそうだし、おじさんは帰るね〜」

 

「はい、お気をつけて」

 

「気遣いありがと〜。アイスでも食べながら帰ろっかな〜」

 

 

 寄り道する気満々な彼女の背中へ向けて手を振り、私もユウカちゃんと先生の待つ病院へ急足で向かった。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 〜シラトリ区病院〜

 

 病院からの指示通りに受付から少し離れた案内所でミレニアムの学生証を見せ、自身がセミナーである事と先生の見舞いに来た件を伝える。

 病院でも情報統制はしっかり行われているようで、そのまま先生の病室へと案内してもらえた。

 

 先生が入院しているのは人通りが少ない病院の最奥。まるで隔離されているような感じだ。

 案内されるまま辿り着いた扉の前に立ち、係の人が離れた事を確認して遠慮がちにノックをしてみる。

 しかし、返事がない。

 

「ユウカちゃん? 先生?」

 

 声をかけてみても返事は無かった。

 おかしい。ユウカちゃんはとっくに到着しているはずだ。それに先ほど会ったホシノさんもユウカちゃんとすれ違ったと言っていた。この場にいないはずがない。

 先生は当然としてユウカちゃんの声も聞こえない事に、思わず嫌な予感が頭の中をよぎる。

 

 その時、扉の向こうからバタバタと駆けてくる音が聞こえ、次の瞬間には目の前の扉が勢いよく開かれた。

 

「ノア...」

 

 扉を開けたのはもちろんユウカちゃんだった。

 私が来るのを忘れていたのだろうか、少し驚いたようなら表情を見せている。そんな彼女の姿を見て少なからず安堵する自分がいた。

 

 

「ユウカちゃん、居たなら返事をしてください」

 

「ごめん。ちょっと...考え事をね」

 

 

 ちょっと怒ってみたがユウカちゃんの反応は鈍いものだった。本当に別の何かを考える事に気を取られているようで、謝りながらも視線は病室内の方に向いている。

 

 

「ユウカちゃん?」

 

「...とりあえず入って」

 

 

 答えはそこにある、と言わんばかりにユウカちゃんはさっさと室内へ戻って行ってしまった。

 落ち込み続けていた今までとは違う、また見たことのない新たな彼女の様子に困惑しながらもその背中を追う。

 そしてそこで私が目にしたものは

 

 

「先生...!?」

 

 

 ベッドから上半身を起き上がらせていた先生の姿だった。

 全く想定していた無かった光景に息が詰まる。見えている範囲で観察してみるが間違いない、私の知っている先生がいま目の前で確かに起きている。

 

 その事を認識した途端にドッと疲労感と歓喜が同時に押し寄せてくる。少なくともこれで一安心だ。ここから退院までまだ時間を要するかもしれないが、時間が解決してくれる問題なら焦る必要はない。

 ようやく目を覚ましてくれた先生に色々とかけたい言葉はあるが今は冷静を装い、こちらを凝視してくる彼の側へと寄って口を開く。

 

 

「良かった...いつの前に目を覚まされたのですか? とりあえず連邦生徒会と各学園にも報告を────」

 

 

 スマホを取り出そうとした手の動きが止まった。

 別に不測の事態が起きたわけじゃない。今も先生は変わらず私を凝視している。

 

 ────いや、それがおかしい。

 

 私の知っている先生は『心配かけてごめんね』や『お見舞いに来てくれてありがとう』と何かしらの一言は言ってくれる人だ。

 なのに目の前にいる先生は私をただ見ているだけだった。まるで小さな子供が初対面の相手を観察するような動きに見える。

 今の先生が普通じゃないのは明白だった。

 

「...ユウカちゃん?」

 

 先生の異常を感じた私はユウカちゃんの方を見てみるが、彼女は先生へ視線を向けたまま微動だにしない。怒りか、困惑か、悲壮か、全てがごちゃ混ぜになっているようなその表情から感情を読み取る事はできなかった。

 だが、恐らく彼女は答えを知っている。そう考えれば先程の彼女の様子にも説明がつく。

 

 そして彼女が私を室内へ招き入れたということは、その答えを今から私へ見せようとしているという事になる。

 

「あ、あの...先生?」

 

 もう一度先生へ呼びかけてみる。出来ればこの嫌な予感が気のせいであって欲しいと願いながら。

 そんな小さな願いに応えるように先生が口を開き────

 

 

「君は...誰?」

 

 

 粉々に打ち砕いてきた。

 





いつも余裕を崩さないノアのメンタルを揺さぶるついでにユウカも曇らせる。
4つお話を書いて3回入院とか先生貧弱すぎませんかね?
ワンパターンになるのはあまりよろしくないのですが、曇らせるのに最も手っ取り早い手段がこれなので...。次(フウカ)とその次(未定)は別パターンで行きたいところですねぇ。


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