サクラコ様の情報をTwitterで眺めてたらいつの間にか天井まで回してました。
アロナ、石ちょうだい♡
頼られる事で側にいたかった。ただそれだけなのに
「はぁっ...! はあっ...!」
突然降り始めた雨にも構わず、シャーレから逃げるように出てきた私はそのまま駅まで走り続けた。シャーレに向かうまでも走り続けていたから体力は限界で、肺が酸素を求めて痛くなってくる。
それでも駅まで足を止めなかった。自分の中にある悪い考えを振り払いたくて、頭の中を空っぽにしてしまいたかった。
改札を抜けて人の少ないホームの端っこでしゃがみ込む。
「はぁっ...ゲホッ...エホッ...」
酸欠状態の肺に酸素を取り込もうとして深呼吸すると逆にむせて咳き込んでしまう。こんなに無我夢中で走ったのは晄輪大祭のリレー以来かもしれない。
でも、今はあの時のような充実感なんて皆無だ。
「何やってるんだろう...」
急用が終わったから本来の予定だったシャーレ当番に向かっただけだ。何もおかしな事ではない。そのまま入室すれば良かっただけなのに、あの場所から逃げ出してこうして蹲っている。これじゃ本当に当番をサボっただけだ。
でも入室したところで意味はあるの?
あの空間に私の居場所があっただろうか。私がいなくても他の誰かが代わりを務めればいい。先生の隣にいるのが私である必要は無い。
頭の中では分かっていた。でも今日それをハッキリと見せつけられてしまい、心に入っていたヒビが砕け散った気分だ。
「もう無理なのかな...」
ちょっとした嫉妬と私欲から全てが崩れてしまった。嘘をついて迷惑をかけて怒られて、その上で挽回のチャンスすら無くなって...1番欲しかった先生からの信頼を自分から手放してしまった。
もう、当番の話は回ってこないかもしれない。私が先生の立場なら、こんな不良生徒は信用できない。先生にとって私はいらない子になってしまったかもしれない。
「何でこんな事になっちゃったんだろ...」
こうなるくらいなら始めから先生の提案に乗って代役を頼めば良かった。そしてセミナーの作業がひと段落してから、堂々と先生へ会いに行けば良かったんだ。
そうすれば失態を犯すことも先生に怒られることも無かったのに。
じわりと涙が浮かんでくる。
空崎ヒナ、彼女は私の代役として先生に指名されていた。頼りにされているんだ。少し前までは私がその役割だったのに。先生の近くにいたのは私なのに。
誰でも先生の手伝いが出来るようになった今となっては他の子たちにはできないような、私だけが先生に頼ってもらえることなんて────────
「...あった」
ひとつだけ、たったひとつだけある。私だけにしか出来ない、自分でも最も自信のある唯一無二の武器が。
一縷の望みに賭け、すぐにスマホを取り出してモモトークから先生との個別ページを開く。
《お疲れ様です。先生、今日はご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんでした。今日予定していた領収書の整理をしたいのですが、明日シャーレに伺ってもよろしいですか?》
平常心を意識したが手の震えが止まらない。誤字と修正を繰り返し、何度も見直してから文章を送った。
これが私と先生を繋ぐ最後の手段。きっと私だけが先生にしてあげられること。今回の件でシャーレの仕事がなくなっても、これだけは先生が私を頼りにしてくれるはずだ。
送信してからまだ数分も経っていないのにモモトークを凝視し続け、意味もなく更新ボタンを連打する。
答えは分かりきっているけど、早く返信を見てまだ私を頼りにしてくれると安心したかった。
そこからさらに数分、スマホからポンと音がして新着メッセージの到着を告げる。
「きた...!」
《ユウカもお疲れ様。領収書の整理だけど出来る限り自分でもやってみようと思うんだ。毎月ユウカに迷惑をかけるのも申し訳ないしね》
そのメッセージと共に領収書と家計簿の画像が送られてきた。
「...ぇ」
何が書かれているのかしばらく理解出来なかった。本能が理解を拒んだのかもしれない。
何で先生が自分から領収書の整理を?
日頃から何回言っても面倒くさがって放置してたのにどうして今になって?
「は...ははっ...」
乾いた笑い声が出た。
良い事じゃないか。普段から領収書の整理を口うるさく言ってきたんだから、ようやく実行に移してくれた事を喜ぶべきだ。なのに...。
「どうしてですか先生...」
ちっとも嬉しくない。大切なものを取り上げられてしまったような喪失感が襲いかかり、空っぽになった心を虚しさだけが埋め尽くしていく。
終わった。これでもう先生が私だけを頼ってくれる事はない。先生の近くにいる理由が無くなった。
きっとこれは天罰だ、嘘をついて大好きな人を裏切った私に対する罰なんだ。こんな私にあの人の近くにいる権利なんて無いんだ。
「嫌...そんなの嫌...っ!」
もう何もしたくない。この先も先生と過ごせない生活なんて考えたくない。
仕事をする先生の姿をもっと眺めていたい、もっとお話ししたい、一緒に買い物に行きたい、したい事なんて山ほどあるのに。
いつの間にか逆になっていたんだ。
“先生は私がいないと駄目”なんじゃなくて、“先生がいないと私が駄目”になってしまっていた。
私の中で何かがプツリと切れる音がした。
フラフラと立ち上がり、電車には乗らずそのままホームを出て歩き始める。降り始めた雨なんてどうでも良かった。
「先生...」
私を頼ってください。
「先生...先生...」
私のことを嫌いにならないでください。
「先生...私は...」
貴方がいないと駄目なんです。
☆☆☆
翌日
〜シャーレオフィス〜
「凄い雨だ...」
今日は昨晩から引き続きキヴォトス各地で雨予報らしい。どんよりとした雲が青空を覆い、薄暗くなった街並みが気分を沈ませてくる。
こういう朝は今日の仕事のことを考えるだけで溜息が出てくる。尤も、私の仕事が生徒たちの為になるのだから頑張るしかないのだが。
エレベーターに乗り込み、シャーレのある階層のボタンを押す。
「今日は何時に帰れるかな...」
昨日、当番の予定だったユウカからミレニアムでのトラブルで大幅に遅れるとの連絡があった。彼女が来れないのは痛かったが、リオの件もあって尋常じゃないくらい忙しい立場だから仕方ない。
偶然にもゲヘナの重要書類を直接持ってきたヒナに頭を下げて代役をお願いし、ミレニアムの方に注力できるようユウカには当番のお休みを言い渡した。
《おはよう先生。困ったことがあったらまたいつでも呼んで》
先程来たヒナからのメッセージに感謝のスタンプだけ送って、スマホをポケットにしまう。
ユウカの方はとりあえず、夜に領収書に関するメッセージが来たからミレニアムのトラブルは解決できたのだろう。
心配なのは彼女の体調だ。真夜中に電話をした時からどうにも様子がおかしい。
依頼同行人の交代を拒否された時は驚いた。合理的な判断を大切にする彼女らしくなかったし、私に嘘をついていたと知った時は衝撃的だった。
保健室で怒った時は涙ながらに謝罪するだけだったが、きっと言い出せない何かがあったのだろう。面倒見が良くて責任感が強く、抱え込みがちな子だから余計に心配ではあるが。
ずっと無理をしていたユウカを少しでも楽にしてあげたくて、今月の領収書整理は試しに自分なりにやってみた。やり方なんてほとんど知らないし、ユウカの見よう見まねだから色々とおかしいかもしれないけど、来月の当番の時に見てもらおう。
『ぜんっぜん出来てません! もう...私が教えてあげますから一緒にやりましょう』
なんて言われたりするかもしれない。プンプンと怒っている姿が簡単に想像できてしまうのは、何度も彼女に怒られている私が駄目な大人の証拠だ。
なんだかんだ言いながら手伝ってくれるユウカは将来理想的な上司になるだろう。まだ2年生だが雑談ついでに進路についての相談に乗ってあげても良い時期かもしれない。
そんなことを考えているうちにエレベーターが止まり、扉が開く。
エレベーターからフロアに足を踏み入れた瞬間、ポケットのスマホがブルブルと震えた。このバイブレーションは着信だ。
「えーと...ノアから?」
こんな時間から連絡が来るなんて珍しい。しかも電話という事はかなり緊急性の高い案件かもしれない。部室へ向かいながら電話に応答する。
「もしもし?」
『先生。すみません、こんな朝から』
「珍しいね。何かあったの?」
『はい、それが...ユウカちゃんは昨日そちらの居住区に泊まりましたか?』
「え? 昨日ユウカは来てないよ?」
『ぇ...』
ノアの消え入りそうな声が聞こえてきた。彼女のこんな反応は珍しい、と思うと同時に嫌な予感が頭の中を駆け巡った。
『ユウカちゃん、昨日から連絡がつかないんです。ミレニアムにも戻っていないみたいで、今朝もまだ誰も見ていなくて...』
つまりは行方不明。
そんな馬鹿な。よりによってあのユウカがそんな事をするなんて想像できない。
『ヴェリタスからも昨日の夜からユウカちゃんが戻ってきた痕跡が無いと...先生...もしかしたらユウカちゃんの身に何か...』
ノアの声に焦りの色がハッキリと現れている。品行方正な友人が失踪だなんてことになればパニック気味になるのも無理はない。
落ち着かないと。確かにあまりにも想定外の事態だが、ここで大人の私が動揺してはいけない。
「とりあえずノアは心当たりのある場所を片っ端から探してみて。私も協力するか...ら..」
『先生?』
「部室が開いてる...」
『え?』
視界の先にあるシャーレの部室の扉が明らかに開け放たれていた。
ゾクリと悪寒が身体中を駆け巡る。この先に何か危険なものが待っているような気がしてならない。
そこでようやく気がついた。部室からずっと非常階段の方へと水滴が続いている。
『まさか侵入者...ですか?』
いや、シャーレ周りのセキュリティがアレなのはチヒロに指摘されていたが、生徒以外が簡単に入れるような場所じゃ無い。ここまでも強引に突破したような痕跡は一切無かった。
「とりあえず覗いてみるね...」
万が一の際にすぐ気づいてもらえるようノアとの通話をつなげたまま、忍足で部室の入り口へと歩み寄る。そのままそっと顔だけ覗かせる形で中を覗き込んでみた。
デスク周り────異常なし
仮眠室付近────異常なし
ホワイトボードや棚周りも一切荒らされた痕跡はない。
「誰もいない...」
安堵と不気味さを感じながらゆっくりと全方位を警戒したまま部室に入ってみる。
その瞬間、視界の端に人影が映った。
「っ!?」
反射的に後ろへ退がって身構える。
しかしその影は動いてくる様子は無かった。小さく丸くなるように膝を抱えている。
少し離れた位置からでも分かるのは、ミレニアムの制服にツーサイドアップの髪型、そして黒に青い線が入ったヘイロー...
「ユウカ!?」
どう見てもそれは失踪したと思っていた早瀬ユウカだった。膝を抱えて頭を埋めているので顔こそ見えないが、見間違えるはずがない。
『先生、もしかしてユウカちゃんがそこにいるんですか!?』
「部室の中にね...何でここに...」
疑問点こそあるがとりあえず不審者では無かったことに安堵し、未だに顔を上げないユウカに近づいて様子を伺う。
近づいてようやく気づいたが髪も制服も湿っている。そして部室から非常階段へと続いていた水滴。
「ユウカ、もしかして昨晩からここに...?」
今朝来たばかりならこんな半端な濡れ方じゃなく、もっとびしょ濡れになっているはずだ。よく見ればカタカタと身体が震えている。濡れたまま一晩過ごしていたのなら、風邪をひいてしまっているかもしれない。
「ユウカ、立てる?」
「...」
至近距離で声をかけてみても反応がない。あのユウカがこんな状態になるのだから、理由こそ分からないが彼女に何かあったのは間違いない。
とりあえず立ち上がらせるために彼女の肩に触れる。
「いったん着替えよう。以前、居住区に泊まったときに置いていった着替えが────」
言い切る前にユウカの手が素早く伸びてきて私の腕を掴んだ。女の子らしからぬ握力に身体が危険を知らせるが時はすでに遅く、次の瞬間には足を払われて私の身体は無様に床へと叩きつけられた。
「ぐっ...!?」
咄嗟の受け身も取れずに全身へ走る痛みで顔を歪める。
『先生!? 何があったのですか先生っ!?』
少し遠くからノアの声が聞こえてくる。顔を横に向けてみると少し離れた位置にスマホが転がっていた。どうやら叩きつけられたときに手放してしまったらしい。
何故だ。どうしてユウカがこんな事を。
普段の彼女とはあまりにもかけ離れた行動に頭の処理が追いつかない。
とにかくこのままでは危険だと立ち上がろうとするが今度は両手首を押さえられ、ユウカが倒れた私の身体へ馬乗りになってくる。
「一体どうしたんだユウ...カ...!?」
抗議しようとして言葉を失った。
目の前には生気を感じない濁った瞳で、両目に涙を浮かべた彼女の顔があった。
ユウカぁ...書いてて辛いよぉ。でも楽しいよ...ボロボロになってるユウカ綺麗だよ...。
という事であと1話だけ続くんじゃよ。ユウカを泣かせた先生は責任とって♡
短編集なので始めは3話くらいで終わらせる予定だったのにどうしてこうなった。推しだから仕方ないな!
前回のアンケートご協力ありがとうございました!
ユウカ依存シリーズ終了後は「ムツキが先生に大怪我をさせてしまう」話になります。(2〜3話くらい)
ムツキちゃん、半分近い得票率でした。これアレですよね、ムツキが曇って精神ボロボロ展開を期待されてますよね。分かる。私も生意気なムツキが曇ってる姿を見てみたいです。
性癖に従いながら頑張って書いてみます! まだ内容は大して考えてませんけどね!
書きはじめるとアイデアは出てくるんですけど、選択肢が多いと最初の題材を決めるのに時間が掛かるタイプなので、誰かからお題をもらうor自分から選択肢を絞って追い込む必要があるわけですハイ。