ハッピーバレンタイン!(激遅)
今回は平和なお話ですよ!
ムツキのお話はもうちょいとお待ちくだせぇ...。
※注意
短編集なので、前作の「依存ユウカちゃん」とは全く関係のないお話です。別の世界線みたいな感じでお読みください。
2月12日。まだまだ寒い季節が続くなか、キヴォトスは間近に迫った特別な日に浮き足立っていた。
バレンタインデー。お世話になった人や大切な人にチョコを贈る日なのだがその種類は様々だ。
女の子同士で交換しあう友チョコ、異性の友人に対して贈る義理チョコ、自分自身へのご褒美として購入するマイチョコなんてパターンもあるらしい。
〜ショッピングモール〜
「う〜ん...」
自分と同い年くらいの女の子たちでごった返している売り場で、多種多様なチョコレートが並べられたショーケースを前に思わず唸り声を上げてしまう。
選択肢が多くて困るというのも一つの原因だが、それよりも困っていたのが...
「どれも高すぎないかしら...?」
その値段だった。
一年で最もチョコレートが売れるタイミングなので、多少値段を上げてくるのは商売としては至極真っ当な戦略なのは理解している。
ただ、問題なのは去年のこの時期よりも更に値段が上がっていることだ。去年私が注文したのと同じタイプを見つけたが2割も値段が上がっていた。
「もうちょっと安い物を...いやいや、先生に贈る物なのに去年よりグレードダウンはありえないわ。でも高すぎる物を買って重い女だと思われるのも嫌だし...」
金銭面での余裕はある。この日に備えて1ヶ月前から学食で1番安い定食を選んでたし、徹底的に節約しておいたから予算は2万円ある。
ただ、日頃の癖なのかいざ高い物を買おうとすると手が止まってしまう。そうして売り場をウロウロしているうちに気づけば1時間が経過していた。
「ん...?」
うんうん唸っていると、ふと視界の端にやたらと群がっている人だかりが映った。人が多い割に騒がしくなく、集まっている人は揃って真剣に何かを見つめている。
「そんなに良いものがあるのかしら?」
余り人混みは好きではないが、ここまで一際目立つ人だかりがあると気になってしまう。
そう考えているうちに自然と足が動き、いつの間にか比較的見えるポジションを探して人混みの中心を覗いていた。
そこでは1人のエプロンをつけた女性がテーブルの上でボウルの中に入っている溶けたチョコレートを見せたり、それを型に流し込んで説明したりしていた。
「なるほど、手作り教室ね」
周りの人を観察してみれば興味半分で見ている人、真剣にメモを取りながら聞いている人、家族連れやカップルと思わしきペアなど様々だった。
傍には材料になる板チョコや調理グッズ、レシピ本も物販として置いてある。実演してそのまま買ってもらおうという戦略なのだろう。
「まぁ、日頃のお礼ならわざわざ作る必要もないわね」
そもそも先生は今年もたくさんチョコを貰うのだから、わざわざ凝ったものにする必要もない。
市販の売り場に戻ろうと踵を返した瞬間、上の方からぶら下げているポスターの文言が目に入った。
《手作りチョコは貰った側の心に強く残ります! 一年に一度の機会を掴んでみませんか?》
「...ちょっとだけ見ていこうかしら」
☆☆☆
〜1時間後〜
「これは衝動買いじゃない。そう、ちゃんと考えた上で買ったんだから衝動買いじゃないわ...」
手に持っている紙袋の中には数種類の板チョコとレシピ本が入っていた。ポケットにはコツをビッシリと書いたメモ帳も入っている。
結局、ガッツリ実演を見た後に物販で購入していた。私だけじゃなく他の大勢の人も買っていたから、実演の人が上手かっただけだ。
「だいたい、市販で何万もするチョコを買うくらいならこっちの方が数千円で収まるし、その分貯蓄もできるから私のためにもなる。うん、完璧に計算通りなんだから」
自分に言い聞かせながら売り場を出た途端に身体に纏わりついていた熱気が冷えていく感じがした。
他のテナントを見渡してもチョコレート売り場が1番混んでいる。この熱気は人混みだけでなく、集まっている人たちの本気度のせいもあるのかもしれない。
とりあえずミレニアムの誰かに見つかったら揶揄われそうだし、さっさと帰らないと。
「いましたユウカ!!」
「はいっ!?」
ミレニアムへ戻ろうと歩き始めた瞬間に大声で名前を呼ばれ、思わずビクッと肩が跳ね上がる。
後ろを振り返るとパタパタと小走りで寄って来る、床に付くくらい黒く長い髪をした小柄な女の子がいた。
「あら、アリスちゃん。こんなところで偶然ね」
「はい! 今日のクエストのランダムエンカウントはユウカでした!」
「クエスト中? ゲーム開発部で何かあったの?」
「コレです!」
アリスちゃんが嬉しそうに両手で見せてきた物は、何やら少しレトロな雰囲気がするグラフィックをしたゲームのパッケージだった。
そういえばこの前ゲーム開発部の部室へ行った時に、壁に貼ってたポスターの画像がこんな感じだった気がする。
「今日発売の新作パーティゲームです! 発売前から注目されていたのでみんなと手分けをして探していたところ、人混みに紛れたユウカを見つけました!」
「なるほどそういう事ね。じゃあ今から一緒に帰る?」
「はい! 因みにユウカは何を買っていたのですか?」
「わ、私は...えっと...」
思わず口籠もってしまう。計画的にじっくり考えて買ったとはいえ、手作りチョコレートの材料を買ってたと言うのは少し恥ずかしい。
と言っても相手はアリスちゃんだ。ミレニアムの変な部分に染まりきっていない純粋な彼女なら、特に見せたところで問題はないだろう。
何より目を輝かせながら興味津々と言わんばかりに聞いてくる姿には抗えない。
「手作りチョコレートの材料を少しね...」
「チョコレート...なるほど、もうすぐバレンタインだからですね。手作りだなんて凄いです!」
「そ、そう?」
何の含みもない真っ直ぐな褒め言葉に思わず照れてしまう。
とりあえず買った以上は徹底的にやろう。お弁当を作ったこともあるし、それに比べたらチョコ1つ作るぐらいなんて事ないはずだ。
「よかったらアリスちゃんの分も作ってあげるわよ?」
「本当ですか!? また一つチョコをゲットできるフラグを立てることが出来ました!」
どうやら他にもチョコをもらう予定があるらしい。
ミレニアムのみんなに可愛がられているアリスちゃんの事だから、先生ほどではないだろうけど相当な量を貰えそうな気がする。
一段とご機嫌になったアリスちゃんがはしゃぎすぎないよう、手を繋ぎながらミレニアムへ引き返すのだった。
☆☆☆
〜翌日〜
「ユウカちゃんは今年も先生にチョコを贈るんですか?」
「な、何よ急に...」
唐突な質問に電卓を打っていた手を止めて顔を上げると、ニコニコと笑みを浮かべたノアがこちらを見ていた。
この表情はよく知っている。ノアが私を揶揄いにきている時の顔だ。
「だってもうすぐバレンタインですよ? 今年も贈るんですよね?」
「分かってて聞いてるでしょ...。まぁ、その予定だけど。そういうノアだってそのつもりでしょ?」
「はい、お世話になった方と言えばまずは先生に贈るべきですから♪」
バレンタインが間近に迫り、キヴォトス中が浮き足立っている原因の1つは先生にあると思う。正確に言えば先生にチョコを贈ろうと躍起になっている生徒が大勢いる。
昨日買い物をしていた私もその1人なので人のことを言えた立場ではないけど。
「因みに、今年は何円のチョコを買う予定ですか?」
「生々しい話はやめなさいよ...」
去年のバレンタインで先生には1万円のチョコを送った。2分割払いで。
5000円を超える買い物は相談しろと言っている立場上、分割決済で5000円の領収書を2枚作り、そのうちの1枚を先生に見られて5000円のチョコだと主張したのは我ながら狡い真似だったと思う。
でも先生にいいチョコを贈りたかったのは事実だし、だからといって高級チョコを贈りつけてくる重い女だと思われたくなかったから仕方ない。そう、仕方ないのだ。
「って、何で私が去年チョコを買ったって知ってるのよ!?」
おかしい。あのチョコは一人でいる時にネットで買って、先生に渡した時も他の人はいなかったはずだ。ネットの履歴を完璧に消去したのも間違いなく覚えている。
「ユウカちゃんが先生にチョコを渡しに出て行く時に、たまたまお財布から5000円の領収書が見えてましたから。ブランド名もしっかり覚えてます」
「ぐっ...。そんな凡ミスをしていたなんて...」
どうやら分割決済していた事まではバレていないらしいが、自分の支出情報をましてやバレンタインチョコの購入歴を知られるのは流石に恥ずかしい。
「それと...手作りするなら日持ちのことも考えて、なるべく直近のタイミングで作る方がおすすめです」
「確かに実演の人もそんなこと言ってたわね。どうせ今年も先生は沢山もらうから、すぐに食べてくれるとは限らないし────ん? ちょっと待ってノア、今なんて...」
「ふふっ...手作りチョコ、心がこもってて良いと思いますよ♪」
バレてる、全部バレてる。少し自爆した気もするがノアは分かっていたうえで私のことを弄っていたらしい。
楽しそうな友人を睨みつけてみるが、そんな彼女の手のひらで転がされっぱなしな自分も大概だ。
そんな時、生徒会室の扉がノックされる音が耳に入り、ゆっくりと開けられたドアの隙間からひょっこりとアリスちゃんの顔が見えた。
「ユウカ、いますか?」
珍しい来客に席を立って入口の方へと向かう。
「アリスちゃん? どうしたの急に?」
「今日のシャーレ当番、ユウカですよね。アリスも付いて行って良いですか?」
「それは全然大丈夫だけど...先生に何か用事でもあるの?」
「先生に以前貸していたゲームが終わったと連絡があったので、早めに受け取りに行こうかと!」
「そういうことね」
ノアに目配せをすると彼女は何も言わず頷いてきた。今日の仕事はほとんど片付いているし、残りの分は任せてしまっても大丈夫らしい。
「分かったわ。すぐに準備するからちょっと待っててね」
☆☆☆
〜シャーレ部室〜
「先生、明日はバレンタインデーです! 経験値アイテムでもあるチョコをゲットできる大事なイベント! アリスも色んな人にもらいに行く予定です!」
私が机に向かって書類作業をしているなか、向かい側では一緒についてきたアリスちゃんが先生と楽しそうに談笑していた。
先生には仕事して欲しいところだが、今日の分はもうほとんど片付いているし、アリスちゃんの相手をしているのだから大目にみることにする。
「そっか、もう明日だったかぁ。アリスはたくさんクエストを受注してるみたいだね」
「フラグ管理はバッチリです! あ、もしかして先生はチョコ入手のフラグを立ててないんですか?」
「う〜ん...こっちが忙しくてなかなかね...」
アリスちゃんに話を合わせて残念そうに頭を掻いているけど、そもそも先生の場合は何もしなくても超がつくほど大量のチョコレートを渡されるのだから、そもそもフラグ管理とやらが不要だ。
去年、シャーレの部室の一角がチョコで埋まり、しばらく先生の食費が飲料系を除いてほぼ0円になるくらいだったのだから、本人も多分それは自覚していると思う。
「...ユウカー! 素材分けてください!」
「...え?」
唐突に名前を呼ばれて顔を上げると、目の前で何か欲しがるように両手を差し出してくるアリスちゃんの姿があった。
「えっと、ごめんなさいアリスちゃん。途中から聞き逃しちゃったから何の素材か教えてくれるかしら?」
「チョコの素材です! アリスも先生に手作りチョコを渡すクエストを受注しました!」
「あぁ...確か多めに買ってたから多分大丈...夫...」
言いながら別の視線を感じ、そちらの方へ向くと先生がニコニコしながら私の方を見ていた。
「ユウカは今年は手作りに挑戦するの?」
「あ...」
ちょっと待った。
今、アリスちゃんはハッキリと手作りチョコの素材と言っていた。そしてその材料を私に要求してきた。よりによって
つまり私が手作りチョコの材料を買って作るつもりだったということも先生にバレて...。
「あ....ぁぁ...」
首を傾げて頭上に『?』が浮かんでいそうなアリスちゃんを尻目に、一気に顔が熱くなるのを感じた。
「ユウカの手作りかぁ。きっとみんなも喜んで────」
「ち、違いますから! 今回も先生にお渡しするのは去年と同じものにする予定だったのですけど、値段が予想以上に上がってしまっていまして...。いや、それでも買えるぐらいにはお金に余裕もありましたし、そのために節約をしていたわけですけど!? ってそうじゃなくて! わざわざ高いものを買うよりも手作りの方が価格は抑えられますし! 何よりも気持ちがこもってるかな〜なんて...あ、気持ちと言っても感謝の気持ちですよ! バレンタインは感謝の気持ちを伝える日でもあるんですから、日ごろからお世話になっている先生には、やはり手作りでお礼を伝えるべきだと思いまして! ミレニアムのセミナー会計として当然のことをしただけです、何も変な意味はありません! いいですね!?」
「う、うん...とりあえず落ち着こうか...」
「おぉ〜、晄輪大祭の時もそうでしたが、ユウカは高速詠唱のスキルを持っているんですね! 今度ぜひ伝授して欲しいです!」
結局この後の業務には全く集中できなかった。
ユウカの早口しゅきぃ...もっと耳元で囁き高速詠唱して...。
アリスの先ちょを見た時から最後の高速詠唱を妄想してた同志は絶対にいるはず。
という事で「先生、ちょっとお時間いただきます!#4」の補完エピソード的な感じでした。後編を書いて渡す展開までやるかどうかは迷ってるところです。これはこれでオチがついてますからね!
では、これを見てホッコリとした気持ちになった先生方は「ユウカちゃん依存シリーズ」を見直しましょう。
ボロボロなユウカちゃんを見て、もう一度この話を見る。そしてもう一度依存ユウカちゃんを見る事で感情のジェットコースターを楽しめます(多分)。ヤバいですね☆
あ、因みにアリスおりゃん勢です...どうしてウチのシャーレに来てくれないんだよアリスぅぅぅぅ!
一緒にバランス崩壊したいよぉ(謎)