生徒たちが幸せになったり曇ったりする話   作:まにまに先生

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お待たせ致しました(待っているとは限らない)
曇らせシリーズ第2弾です。
ムツキのキャラの解像度が低かったらすまぬ...すまぬ...。

うちのシャーレのムツキがなかなか振袖を着てくれないので痛い目にあってもらいます。
そんなことより限定2人ってマジですか?
大人のカード使いすぎてゲマトリアになるんだが?



浅黄ムツキ
浅黄ムツキは先生に傷を負わせる①


 

 〜シャーレ部室〜

 

 最後の書類にシャーレの承認印を押して大きく伸びをする。

 

「ん〜、今日は早く片付いたし、ゆっくりしようかな」

 

 時刻はまだ昼過ぎ、いつもと比べたら早すぎるくらいの時間に今日の仕事が終わった。

 というのも昨日の当番がカヨコだったのだが、途中から別件で訪ねてきたユウカとアヤネが加わり、今日の分まで前倒しで進めることが出来たからだ。

 

 椅子に深く腰掛け、仕事の締めに少し温くなったコーヒーを一気に喉奥に流し込む。

 さて、ゆっくりするにしてもこのままボーッとして1日が終わるのは勿体無い気がする。ただ何かしようと考えてみたところで、日ごろから仕事ばっかりな生活を送っているから、こういう時に何も思いつかないのが悲しい。

 どうしたものかと考えていると、机の上に置いたスマホが震えてモモトークの受信を伝えてきた。差出人はムツキだ。

 

《先生、今日暇だったら遊びに行こ! すぐそこのコンビニで待ってるね!》

 

 狙い澄ましたようなタイミングでのメッセージに、思わず周囲を見渡してみるがどこかに潜んでいる様子はなかった。

 昨日の当番がカヨコだったから、今日の仕事が早めに終わりそうだと聞いていたのかもしれない。

 

《今からそっちに行くよ》

 

 簡単に一言のメッセージを返すと即座に喜びを表すスタンプが送られてきた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「あ、先生! 早かったね〜。くふふ、そんなに私に会えるのが嬉しかった?」

 

 ビルから少し歩いた位置にあるコンビニの前でムツキは待っていた。手にはコンビニ袋を持っているので何か買っていたのだろう。

 こちらを見つけるなり手を振りながら悪戯っぽく笑う少女。顔立ちは幼いが大の悪戯好きなのだからまさに小悪魔という言葉がふさわしい。

 

 

「ちょうど仕事が終わったところだったからね」

 

「えーっ、そこは肯定するところだよ?」

 

「それで、今日はどこに行きたいの?」

 

「くふふ、そ・れ・は・ね〜ココ!」

 

 

 そう言ってムツキが袋から取り出した一枚のチラシを見せてくる。デカデカと『OPEN!!』の文字が書かれており、メニュー表のようになっていた。

 

 

「ゲヘナの自治区付近に新しい出店が出来たみたいでね、折角だから先生と行ってみようかな〜と思って」

 

「私は勿論いいけど、便利屋の子達とじゃなくて良かったの?」

 

「うん、これはアルちゃんより先生の方が面白そうだから!」

 

「?」

 

「まぁまぁ、とりあえず付いてきてくれれば解るから行こ!」

 

 

 “面白そう”という言葉が引っかかったが、グイグイと手を引っ張ってくるムツキに抗うつもりもなく、そのまま目的地まで共に向かうことにした。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 〜ゲヘナ自治区付近〜

 

「確かこの辺に〜...あった!」

 

 ムツキと共に移動すること数十分、少し広めの公園に隣接する形で見慣れない屋台があった。

 そこそこの人数が集まっておりゲヘナ学園以外の制服も見えることから、学生たちの間ではそれなりに話題になっていた事が伺える。

 

「さ、私たちも並ぼっか」

 

 ムツキに促されるまま屋台に並ぼうと近づいたところで、屋台に取り付けられている旗の文字が目に入った。

 

「なるほど、そういうことか...」

 

 どうりで付き添いの相手に私を選んだわけだ。

 その旗には『運試し!』とか『激辛かも!?』等いかにもムツキが好きそうなワードが並んでいた。

 私の呟きが聞こえていたのか、ムツキが嬉しそうに顔を覗き込んでくる。

 

「気づいた? ハズレは激辛だけどそれ以外のたこ焼きも店主さんがランダムでアレンジしてくれるみたいだから、一度でいいから試してみたかったの!」

 

 ムツキが先ほど見せてきたチラシのあるメニューを指差す。やはりそこには『運試し!』と書かれた複数個のたこ焼きが載っている。

 大方、これで私に激辛たこ焼きを食べさせてリアクションを見たいという魂胆なのだろう。

 

 

「という事はムツキが勝つ前提って事だね..」

 

「あはは! 安心してよ先生〜。今回はこの場で購入するんだから私は何も細工できないよ」

 

 

 ムツキには私の考えていた事が伝わっていたらしい。

 以前、ムツキに呼ばれて便利屋の事務所へ行った時、バレンタインだからと言われてロシアンルーレットチョコで対決したことがある。

 ムツキが同じものを複数購入して全て激辛チョコに入れ替えるという細工を施していたため、先に食べた私だけが被害を受けて、悪戯の張本人には逃げられるという結果になってしまっていた。

 

 その時に限らず度重なる悪戯の餌食になり続けている原因は、ムツキが事前に細工を加えたものを持ち出してきているから。

 そう考えると今回はその場で店主が作ってくれるのだから、彼女が何かしらの手を加える事はできない。フェアではあるだろう。

 

「それに、ちゃんと救済措置も用意してきたよ!」

 

 そう言うとムツキは会った時から持っていたコンビニ袋に手を入れて、『じゃ〜ん!』と全体がラベルに包まれたペットボトルを取り出して見せた。

 

 

「なるほど、ヨーグルトドリンクだね」

 

「そう! 激辛を食べちゃってもコレがあるから何とかなるよ」

 

 

 激辛料理を食べた後で水を飲む人がいるが、あれは辛さが口全体に広がるだけでむしろ逆効果らしい。唐辛子や山椒が水に溶けにくい性質を持つのが原因だとか。

 普段なら悪戯する側のムツキがわざわざ保険として準備してきたのだから、今回は本当に彼女自身が激辛の餌食になる可能性があると言う事だろう。

 

 

「激辛に当たっちゃったらどうしよ〜。その時は先生がヨーグルトを口移しで飲ませてくれる?」

 

「しません」

 

「え〜、つれないなぁ」

 

 

 ちょこちょこ揶揄ってくるムツキを適当にあしらいながら雑談をしているうちに、すぐに自分達の番まで回ってきた。

 

 

「注文は私がしていい?」

 

「うん、ムツキに任せるよ」

 

「くふふ、りょーかい。じゃあこのロシアンルーレットたこ焼きをーーーー」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「先生、奢ってくれてありがと〜」

 

「ううん、思ってたより安かったら気にしないで。飲み物はムツキが用意してくれたしね」

 

「オープンセールだったから2割引きなんだって。ラッキーラッキー♪」

 

 完成したたこ焼きを持って公園内のベンチに並んで腰を下ろす。

 ムツキは例のたこ焼きに加えて普通のたこ焼きも注文していた。本人曰くチラシにオススメNO.1と記載されていたらしく、純粋にこの出店の味も知っておきたかったらしい。

 

 

「じゃあ、メインの前に普通のたこ焼きを食べよっか?」

 

「そうだね。それじゃあいただきます」

 

「いただきまーす」

 

 ムツキと同時にたこ焼きを口へ運ぶ。

 オススメ品だけあって味は純粋に美味しかった。あの長蛇の列を捌きながらこれだけの味を出せるのだから、料理で商売をする人の腕前はやはり大したものだと改めて思う。

 

「ん〜♡」

 

 隣で頬張っているムツキも満足そうに目を細めて口元を緩ませていた。どうやらお気に召したらしい。

 悪戯好きなど子供っぽいところもたくさん見てきてが、こういう表情は初めて見たかもしれない。新鮮な気持ちだが、こんな一面を見れただけでも付いてきた価値はあった。

 そんな私の視線に気付いたのか、ムツキがこちらを見てサッと目を逸らした。

 

 

「も、もう〜先生、乙女の恥ずかしいところをそんなにジロジロ見ちゃダメだよ?」

 

「言い方」

 

 

 色々と誤解を招きそうな発言だが、確かに女性の食べる姿を見つめるのは失礼だ。

 揶揄い気味な発言をしておきながら、その彼女の顔が赤くなっていた事は黙っていた方がよさそうだ。いつもの仕返しとして指摘してみるのもアリかもしれないが、その後の報復悪戯が怖いのでやめておく事にした。

 

「さてさて〜それではお待ちかねのメインだよ〜♪」

 

 そんなことを考えているうちに食べ終わったムツキがもう一つのたこ焼き、ロシアンルーレットたこ焼きを取り出した。

 数は4個、うち1つは激辛で残り3つは店主がランダムで味付けしたものらしい。ランダムとはいえ流石に残りの3つがとんでもない味付けという事はないだろう。

 

 

「さぁ先生、先に取っていーよ?」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 

 今回はその場で購入しここまで持ってきたので、ムツキが何かしら手を加えているタイミングは無かった。

 つまり完全な運試しなので選択肢が多いうちに貰っておこう。1手目はハズレを引く確率が25%なので有利なはず...多分。

 見た目では全く判別がつかなかったので、適当なものに爪楊枝を刺して口に放り込む。

 

 

「くふふ、どう?」

 

「うん、美味しい。チーズがトッピングで入ってたよ」

 

 

 中から出てきたのはチーズの独特な味。こういうトッピングは初めて食べたが意外とイケる。少なくとも辛味は一切感じなかった。

 一方で私がハズレを引かなかったことが不満だったのか、ムツキが頬を膨らませていた。

 

「むー、じゃあ私はこっち!」

 

 躊躇いなく爪楊枝を突き刺して自分の口に入れる。2、3回ほど咀嚼した後に笑顔で親指を立ててきた。

 

 

「セーフ! アボカド入りだったよ」

 

「そっか...じゃあ2択だね」

 

 

 リアクションを見ても痩せ我慢で嘘をついているわけではなさそうだった。

 1週目はどちらも回避。そうなると残っている2つのどちらかが激辛ということになる。

 ここはじっくり考えておきたいところだ。先程から女子生徒の『辛ーっ!』と悲鳴らしきものが時々聞こえるが、恐らくはロシアンルーレットでハズレを引いたのだろう。声に出してしまうくらい辛いのは間違いないらしい。

 

 

「じゃあ私はこっち!」

 

「あっ!?」

 

 

 そんなことを考えている隙を突かれ、ムツキがヒョイっと片方のたこ焼きに自分の爪楊枝を突き刺した。

 先行をもらったのは私のはずなのに、ここでいきなり彼女が順番を無視して動いたということは、先に選ぶ必要があったのかもしれない。つまりムツキはどれがハズレか分かっていて、残っているたこ焼きがーーーー

 

 

「ちょっと待ってムツキ、それはズルい!」

 

「いただきまーす」

 

 

 こちらの静止も聞かず、ムツキの口にたこ焼きが放り込まれてしまった。これで私が残る一つを食べるしか選択肢が無くなってしまい、激辛が確定したことに肩を落とす。

 いや、そもそもルール違反だから罰としてハズレも食べてもらおうか。

 が、しかし

 

「〜〜〜っ!?!?」

 

 その直後にムツキが声にならない叫びをあげて悶え始めた。

 アワアワと手を動かし涙目になりながら、コンビニ袋からペットボトルのヨーグルトドリンクを取り出して一気に飲み始める。

 

「ム、ムツキ?」

 

 いきなり豹変した彼女の動きに驚いたが、このリアクションは間違いなく激辛を食べた時のものだった。

 ゴクゴクと喉が動いている事から凄い勢いで飲み干しているのが分かる。

 やがて、ペットボトルから口を離すと盛大に咳込み始めた。

 

「ゲホッ...えほっ....辛〜っ!」

 

 飲み物を一気飲みしたうえで、未だにやや悶えている様子から相当辛かったらしい。

 

「じゃあこっちが正解...?」

 

 ズルをしておきながら自爆するとはムツキらしくないが、彼女がハズレを引いたということは残る1つはまともなトッピングということだ。

 半信半疑になりながらも最後の一つに手を伸ばして口に入れてみる。

 その直後だった。

 

 

「!?!?!?」

 

 

 脳天を貫くような刺激と共に、痺れるような感覚が口内へ一気に広がっていく。刺激に対して反射で涙が出てくる。やや遅れて漸くそれが“辛い”という感覚だという事に気がついた。

 

「なっ...これ...辛...っ!?」

 

 まともに口も動かせず途切れ途切れになりながら、口の中のたこ焼きを吐き出しそうになるのを手で押さえて我慢する。

 

「あっははは! 引っかかった〜!」

 

 笑い声が聞こえて隣へ目を向けると、嬉しそうに笑うムツキの姿があった。まるで先程のことが無かったかのように。

 

 

「どお? 名演技だったでしょ?」

 

「ゲホッ...始めから...知って...」

 

「店主さんが作ってる時に激辛ソースを入れる瞬間が偶々見えたんだ〜。本当に偶然だけどね」

 

 

 まさかこんなパターンまで用意してくるなんて思わなかった。偶然とはいえ勝負は始めから決まっていたらしい。

 いや、彼女のことだからそもそも偶然という言葉も嘘で、何かハズレを見分ける手段を用意していた可能性もある。

 

「そうだった。はい、先生の分」

 

 思い出したようにムツキが袋からペットボトルを取り出して手渡してくる。

 とりあえずこの辛さをどうにかしないとまともに会話もできない。断る理由もなく手に取って一気に口内へ流し込む。

 その瞬間、口内の刺激が爆発した。

 

「ぶっ...! っ〜!?!?」

 

 辛さが引いていくどころか更に悪化し、思わず水を噴き出してしまった。その隣では再びケタケタと笑う少女の姿があった。

 

「あはははっ! もう先生ったら必死すぎ〜。ちゃんと中身は確認しないと、ね♪」

 

 そう言われて慌てて中身を確認してみると、ヨーグルトのような白っぽい色ではなく透明だった。さらに甘い匂いは全くせず無臭だ。ーーーーつまり今ムツキから貰ったのは相性最悪な水だったらしい。

 

 見事な2段構え。だが、このまま舐められっぱなしなのもアレなので、多少はお灸を据えておいた方がいいかもしれない。

 

 

「ム〜ツ〜キ〜?」

 

「きゃあっ♪ 先生が怒っちゃった、逃げろ〜!」

 

 

 立ち上がってムツキの方へと詰め寄ると、彼女は軽やかに躱して公園の出口へ向けて走り始めた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「あははっ! こんなにあっさり引っかかっちゃうなんて先生可愛いな〜♪」

 

 チラリと後ろを振り返ってみると先生がこちらを追ってきているのが見える。

 ちょっと怒らせちゃったかな。でも先生は優しいから最終的には許してくれるだろう。先生が追いかけてくるなんて珍しいからちょっと楽しんでみたい。

 

「ム...! そっ....見,..!」

 

 先生が何か言っているけど周りの喧騒や車の音でよく聞こえない。

 お互いの距離差が縮まるどころか開いているような気がする。先生もデスクワークばっかりで身体が鈍っているのかもしれない。

 

「先生〜! そんな調子だと永遠に追いつけないよ〜!」

 

 折角だからハンデとして後ろを向きながら走ってみよう。そして追いつかれそうになったらまた全力で逃げて引き離してみればいい。

 そんなことを考えながら後ろ向きで走っていると先生との距離が縮まってきた。やっぱり大人だから私と比べて一歩の歩幅が大きい。

 

「ここまでおいで先生!」

 

 ちょっと挑発混じりに手招きをしてみる。先生は必死な顔で追いかけてくるけど、この状況を楽しんでいるのが自分でも分かった。

 そして互いの距離がさらに縮まったタイミングで、漸く先生の声がハッキリと聞こえた。

 

 

「ムツキ! そっちは危ないから前を見て!」

 

 

 その時だった。

 後ろへ踏み出したはずの右足がそこにあるはずの地面を捕らえられず、ガクンと身体のバランスが大きく崩れる。

 

「うわわっ!?」

 

 反射的に足元を見るとそこは段差になっていた。気が付かずに足を踏み外してしまったらしい。

 急いでバランスを整えようと不恰好なステップを踏みながら正面を向こうとするが、もともと不安定な走り方をしていたこともあってなかなか勢いを抑えられず、そのまま車道へ身を投げ出す形になってしまった。

 

「ヤバっ...!」

 

 冗談ではない焦りの声が口から出た。

 ーーーーその瞬間、大きなクラクションが耳に入った。目を向けた先にあるのは猛スピードでこちらに向かってくる1台の車。

 

「ぁ..」

 

 情けない声が漏れた。

 まだ崩れた体勢を整えきれていない。死にはしないだろうけど、受け身も満足に取れないこの状況で車がぶつかったらただの怪我では済まない。

 そんな冷静な分析はできる癖に身体は満足に動かせず、ただ迫り来る鉄の塊を見つめることしかできなかった。

 

 

「ムツキっっ!!」

 

 

 もうダメだと思った瞬間、先生の声が聞こえてグイッと腕を引っ張られ、私の身体は歩道へと投げ出された。

 何かが衝突する爆音が耳を襲ったのはその直後だった。

 

 

 

 





傷ってレベルじゃねーぞ!
という事で今回は導入まででございます。

どうやって先生に傷を負わせるか悩みました。
始めはムツキらしく爆発物を考えたんですけどね、ムツキってなんだかんだ賢いのでその辺のやらかしは無さそうというのが私の見解です。
ついでに言うとちょっとやそっとじゃメンタル崩れない子なので、先生には盛大にやられてもらう必要があるわけですよ。

じゃあどうすんの?という事で、シンプルに“ムツキちゃんのせいで”事故らせることにしました。
いつまでも振袖で復刻してくれないから先生が犠牲になりました。あーあ、どうしてくれんのムツキちゃん、責任とって絶望して♡
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