異能力バトルで推しじゃない方の好感度を上げてしまう男の話   作:二本角

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
エタだけはしないよう、時間はかかっても続けていきたいです。


蠢動

『儀式になにか異常が起きているのは明らかだ』

 

 昼休みのオカ研。

 オレ、黒葉さん、ツキコの3人で弁当を広げると、ツキコはそう切り出した。

 

『怪異の結界もなしに大アルカナが街をうろつく状況など、私も初めて見る。しかも、昨日遭遇した『法王』に、私が倒した『愚者』のどちらも儀式本体からの魔力供給を受けていなかった。小アルカナのような使い捨てならともかく、貴重な大アルカナをそのようなやり方で運用するのはおかしい』

 

 オレと黒葉さんの中間くらいの大きさの弁当箱からから揚げを摘まみながら、ツキコは真剣な表情でそう言った。

 

「・・・前に聞きましたけど、ツキコさんは長い間『月』のカードに宿っていたんですよね?つまりは、儀式と繋がりを持っていた。なら、今も儀式の内情を調べることはできないんですか?」

 

 ここ一週間ほど昼休みにツキコがオカ研に入り浸るようになってからご機嫌斜めな黒葉さんが、今日もやや眉をひそめつつ問い掛ける。

 オレはツキコから魔力操作のやり方を教えてもらっているときに、どうやって白上さんに取り憑いたのか聞いたことがあったが、ツキコが眠っていた月のカードを白上さんが手に入れたために入り込むことができたらしい。

 オレ自身はすっかり忘れていたが黒葉さんとしては『他人に憑依できる条件』を明らかにしておきたかったらしく、改めて問いただしたのだ。

 そして、ツキコの言うとおり大アルカナのカードの一枚に取り憑いていたということは、儀式の様子を探ることもできるのではないだろうか。

 ・・・なんか、黒葉さんの目つきが猜疑心に満ちているというか、内通者を見るような眼をしているけど、もしかしてそっち方面も疑っているのかもしれない。

 

『期待してもらっているところ悪いが、それは無理な話だ。確かにお前の言うとおり、私は儀式と繋がりを持っていたが、今はもう途切れてしまっている。故に調べる手段はないし、現状の私の知識だけでは儀式の異常の原因はわからん』

「・・・そうですか」

 

 黒葉さんは胡乱げな眼差しでツキコを凝視するが、少ししてつまらなそうに目をそらした。

 黒葉さんの眼は嘘を見破る力を持っているということだが、今の反応を見るにツキコの言っていることは真実なのだろう。

 そんな黒葉さんに腹の立つニヤケ顔をしながら、ツキコは言い放つ。

 

『つまりは、事態の原因究明や情報の共有、対策の考案のために誠二とは今のように話し合う場を設ける必要がある。異論はあるか、黒葉の魔女?』

「・・・いえ、ありませんよ。正直認めたくはありませんが」

 

 ツキコがここしばらくこのオカ研に入り浸っている理由。

 それは、今儀式に起きている異常についてプレイヤーどうしで情報を共有し、どう対応していくか決めるためだ。

 黒葉さんも最初は絶対無理だと受け入れる気はゼロだったが、ツキコが偶然『愚者』と遭遇して倒し、そのカードをオレに渡すということがあって、渋々認めるようになった。

 オレたちに協力するという姿勢を示す上で、大アルカナのカードを渡すのは非常に大きな意味を持つからだ。

 これに伴い、オレたちは嘘が混じらないように契約を結んだ。

 黒葉さんはそこでも不満げではあったが、ツキコから情報を得られるメリットと天秤にかけた結果折れたという流れだ。

 まあ、『伊坂誠二、黒葉鶫ならびに伊坂ツキコは儀式の攻略のために有用な情報を共有する』という当初ツキコが提案した内容を黒葉さんが断ったので、黒葉さんが考えた内容で結ぶことになったのだが。

 その内容というのは・・・

 

① 伊坂ツキコもしくは黒葉鶫のどちらかが有用な情報・物品を提供した場合、提供された側は相応の対価を支払う。

 

② このとき、対価が釣り合うかの判断は伊坂誠二が行う。

 

③ 支払うモノがない場合は『貸し一つ』として保留し、貸した側の要望を一つ聞かなければならない。

 

④ ③の場合も伊坂誠二が等価か否かの判断を行う。

 

⑤ ①、③の期限は10日以内。

 

 といった感じで中々オレの責任が大きいモノになっている。

 どうしてこんなややこしい形にしたのか、黒葉さんの真意はよくわからないが、内容そのものは黒葉さんとツキコ双方に公平だ。

 さらに言うと、この契約を結んだのは黒葉さんとツキコであり、オレは契約書にサインしていない。

 なので、どちらかが無理矢理言うことを聞かなければいけない状況になったとしても、オレが『最初に提供された情報は無価値』としてしまえば、オレが内心でどう思っていようが契約を踏み倒すことができるから、オレとしては反対する理由がなかった。

 ツキコも、『この内容でなければ契約は結ばない!!』と頑な黒葉さんに根負けしたのか、最終的に呑み込んだ。

 

(ツキコは、『正義』のカードの権能が使える。もしかしたら契約を無視できるかもしれない。でもこの形なら確実にイーヴンに持ち込める。ツキコも、誠二くんの心証を悪くするようなことはしないだろうから『貸し』をたくさん押しつけて無理矢理要求を呑ませるようなことはしないはず)

(この毒虫、私が正義の逆位置の権能を使えることに気付いているのか?堂々と聞いてこないのは、それで『そんなものは使えない』と誠二の前で証明することを恐れているから・・・私がその眼を誤魔化す手段を持っている可能性にも感づいているな。ならば、ここは下手にごねずに向こうの案に乗るとしよう。最終的にお人好しの誠二が間に入るなら私に損はない)

 

 そのときの2人が一体何を考えていたのかは、オレの頭では想像もできないけど。

 なんだかんだ、儀式について詳しいツキコととても頭のいい黒葉さんなので、話合いが結構有意義に進むことは多い。

 まあ・・・

 

「あなたが嘘をついていないのが前提ですけどね」

『ほう?嘘を見破る眼を持っているくせに臆病なことだな。そんな役に立たない眼はえぐり取ったらどうだ』

 

 ほぼ常時、空気がピリ付いているのがオレの胃にダメージを与えてくるのだけは勘弁して欲しいが。

 しかし、それでもツキコが今のオレたちに有用なのは間違いないのだ。

 なにせ。

 

「ま、まあまあ黒葉さん。確かにコイツはムカつくこともあるけど、今は協力した方がいいと思うよ?前まであった儀式の結界がなくなったんだしさ」

「・・・それは、まあそうだけど。でも」

『ふんっ!!なんだ?そこのおバカでもわかるようなことすらお前にはわからんか?私は構わんぞ?私としては、誠二は必要だがお前はいらん」

「っ!!」

 

 またも腹の立つやけに嬉しそうなドヤ顔で黒葉さんを煽るツキコ。

 それに対して視線で人を殺せるんじゃないかというくらいの形相で睨む黒葉さん。

 しかし、反論はしない。黒葉さんとて、ツキコの魔法の有用性は理解しているのだから。

 

「ほ、ほら!!今は大アルカナだけじゃなくて小アルカナもうろついてるじゃん!?絶対にオレたちで協力した方がいいって!!」

 

 実を言うと、今街にいるのは大アルカナだけではない。

 小アルカナもまた、どこからか湧いてくるようになったのだ。

 それも、昨日の法王との戦いのように怪異の結界なしで。

 塔と戦った日の翌日の夜にわかったことだが、この街で怪異から現われるときにあの紅い結界が展開されなくなった。

 魔力の少ない人からは見えないが、逆に言うと魔力の多い人にはオレたちの姿は見えているし、そうでなくとも音や振動は誤魔化せない。

 そんなときにツキコの魔法である周りから一切感知されなくなる結界はほぼ必須となる。

 そして、万が一オレたちの存在がバレたとしても、ツキコなら遭遇した人たちの記憶を消すこともできる。

 他人の記憶をいじくり回すことは倫理的に完全にアウトだとは重々承知ではあるが、そんなことを言っていられる状況ではない。

 愚者のカードを持ってきたこともそうだが、ツキコと今のように協力体制を築くようになったのは、そうした状況であることも大きい。

 不幸中の幸いは、怪異が現われる時間がこれまでの夕方から、夜になったこと。

 そして、どういうわけか怪異は大通りや家の中にいる人間は襲わないということだ。

 これのおかげで、オレたちは今まで大きな被害を出すことなく怪異を倒すことができている。

 

「それに、黒葉さんも人払いのお香とか作れるでしょ?黒葉さんのお香で人が来ないようにしてから、ツキコが結界貼って見えなくしてから、オレが速攻で倒すってのが一番効率いいでしょ!?」

 

 オレたちのここ最近の戦い方は、まず黒葉さんが人払いのお香を風で散布して出歩く人の数を減らし、アカバさんを偵察に出して怪異を探す。

 そして、見つけた怪異を周囲ごとツキコの結界で覆い、オレがすぐに倒すというもの。

 怪異のほとんどが小アルカナということもあって、成功率は100%である。

 ・・・と、そんな風に今日も今日とてギスギスする2人の仲裁をしようと『今までのやり方でうまくいってるんだし、これからもこれでいいじゃん?』と現状維持をオススメする。

 

「『・・・はぁ』」

 

 そんなオレの必死さが伝わったのか、2人は『仕方がない』と言いたげにため息をついて刺々しい雰囲気を引っ込めた。

 

「誠二くんがこうまで言ってるから、誠二くんに免じてこれからも協力はします。でも、おかしな真似をしようとしたら、ワタシにも考えがありますから」

『ふん。お前ごときの考えとやらで私をどうにかできるか見物ではあるが・・・ここは誠二の顔を立ててやる。ありがたく思うのだな』

(あんまり誠二くんを困らせるのは今後のことを考えるとよくないしね・・・それに、ツキコの魔法が役に立ってるのは否定できない)

(こんな下らんことで誠二の心証を悪くするのは馬鹿馬鹿しい。それに、業腹ではあるがこの女には、正確には黒葉の家の知識には利用価値がある。人払いの香も面倒ごとを避けるには都合がいいのは確かだ)

 

 どうにかこうにか、今日もオレは昼休みの平穏を守ることに成功したようだ。

 オレは、ホッと胸をなで下ろした。

 

「じゃ、じゃあ、昨日大アルカナと戦ったし、改めて今起きてる異常についておさらいしてみない?ツキコが愚者を倒したときと昨日の法王で違うところとかあるとかさ」

『私の見立てでは、愚者も法王も同じように見えたがな。どちらも儀式との繋がりが断たれて魔力不足の状態だった。魔力を求めて素養のある人間を探していたところもな』

「・・・これが一番大きな変化だね。野良の、って言ったら変だけど、儀式からはぐれた怪異がいる」

『ああ。そこが最も顕著だが、怪異の結界がなくなったことも大きい。魔力の足りない大アルカナがいることも併せれば、儀式そのものに魔力の余裕がないのだろう』

 

 黒葉さんが、持っていた鞄からルーズリーフを取り出した。

 そこには、これまでのオレたちの話合いでわかったことや対策しなければいけないことがまとめられている。

 そして、話合いをするという流れになったからか、ツキコも変に突っかからず、黒葉さんが机の上に置いたルーズリーフを見つめながら落ち着いた様子で意見を出す。

 オレも、ツキコと同じようにルーズリーフに目を通した。

 そこには、三つの項目が箇条書きにされている。

 

 

① 儀式からはぐれた怪異がいる。

  怪異が自分から逃げ出したのか、追い出されたのかは不明。

  ※小アルカナについては大本の儀式から離れたのではなく、自然発生した可能性が高い(ツキコさん談)。

  

  メリット。

  魔力の供給がないので弱い。

  

  デメリット。

  魔力を求めて周辺への被害が拡大する危険性大。

  

 

② 怪異の結界の消滅。

 

  メリット。

  なし・・・強いて言えば戦場が広くなった?

  メリットと言えるか微妙だが、①と併せて儀式が魔力不足である証拠と言えるかも?

 

  デメリット。

  周辺への被害拡大。

  ワタシたちの身バレ。

 

③ 怪異の出現時間、出現場所の変化。

  怪異が現われる時間が夕方から夜になった(人と魔が出会う逢魔が時から怪異の時間になった?)

  これまではプレイヤーがいる場所の近くが多かったが、今は規則性なし。ただし、家の中には入れない模様(デパートに怪異が出現した事例はある。今もそうであるかは不明)。

 

  メリット。

  人気のない時間帯なら周囲の被害も軽減できる。

  

  デメリット。

  どこに現われるか予測できなくなったので索敵の必要がある。

  夜間に動き続けることによる体力の消耗。

 

 本当はもっと細かくいろいろ書いてあるページがあるのだが、黒葉さんが概要だけわかりやすいようにまとめてくれたのだ。

 これを見ると・・・

 

「相手が弱くなったけど、オレたちの制限がめちゃくちゃ厳しくなったよな・・・」

 

 確かに、大アルカナにせよ小アルカナにせよ、塔を倒してから現われた怪異は昨日の法王含めて大して強くはなかった。

 だが、怪異の結界がないというだけで、オレたちの戦い方にかなり厳しい制限がかかった状態だ。

 なにせ、これまでは怪異の結界の中で起きたことは結界がなくなればなかったことになっていたが、今はオレたちの魔法であっても建物に当たれば壊してしまいそれきり。

 昨日など、道路のことを気にして全力で走ることさえできなかった。

 『穿(スラスト)』や『大砲(カノン)』は勿論、『(ブラスト)』ですら怪しい。

 魔力制御ができるようになったとはいえ、使った場合シャレにならないことになる『(ブースト)』など論外だ・・・まあ、これはオレに限った話で黒葉さんやツキコは別だが。

 おまけに現われる場所が必ずしもオレたちの近くでなくなったため、探す手間もある。

 今は、アカバさんが偵察に出たり、黒葉さんが風を操って索敵しているが、昨日のように誰かが襲われる危険性は跳ね上がっている。

 

『周りがどうなろうと私の知ったことではないが・・・身バレは厄介だな。人間に我々の存在が知られれば、儀式どころではなくなる』

「・・・オレは最近魔法使いだってわかったからよく知らねーけど、やっぱ魔法使いってバレるのはマズいのか?国の秘密組織的なのに誘拐されて研究されるとか?」

 

 ツキコが眉をしかめながらぼやいていたが、そういえば魔法使いの存在は一般的に秘匿されているようだが、バレたらどうなるのだろう。

 というか、他にも魔法使いっているのだろうか。

 

「誠二くん。前にも言ったと思うけど、魔法使いって基本的に人間に嫌われるんだよ。魅了の魔法はあるけど、それで誤魔化せるのにも限度はあるみたいだし・・・」

『ソイツの言う通りだ。魔法使いは本能的に人間に敵視される。バレれば儀式だけでなく、人間社会を敵に回すことになるだろうよ。単なる高校生に過ぎん私たちがそんな無謀な二正面作戦はできん・・・この国の中枢まで魔法使いの組織が食い込んでいるともなれば話は別だが、この儀式に何の干渉もない時点で可能性はほぼゼロだな』

 

 『魅了があろうと、直接魔法を使うところを見られれば記憶を消すしかない。手間がかかるがな』と、ツキコは肩をすくめた。

 ・・・しかし、ツキコの言うとおりだとしたら、それは確かにバレるワケにはいかないだろう。

 考えてみれば、攻撃に使える魔法をバンバン撃てる存在など、銃を常日頃から隠し持っている危険人物と変わらない。

 例え使う気はなくとも、魔法をよく知らない人間から見れば本能云々関係なく危険視されるのは当たり前だ。

 これまで警察は浅からぬ縁のあるオレだが、単なる巻き込まれではなくガチでご厄介になるのは御免被る。

 魔法使いとはいえ身分的にはただの学生であるオレたちが国家権力を相手にしながら怪異と戦うなど、この現代社会では不可能だ。

 よく創作にあるような、『政府直属の異能集団』みたいなモノがあるのならば庇ってくれる可能性はあったが、そんな都合のいいモノはないみたいだし。そういうエージェント的なモノに惹きつけられる中学二年生の心を残しているオレからすれば少し残念である。

 

「そうなると、怪異に襲われる人含めて周りの被害を抑えるのもやっぱり重要だね。原因不明の騒音とか穴が空いてたり建物が壊れてたりするのが続いたら、監視の目も増えそうだし。死者や行方不明者なんて出たら大変だよ」

『やむを得んな。人目を遮るだけなら私の結界で事足りるが、建物の修理だの道の補修などはできん。出現次第、どうにか人気のない場所まで誘導するか、『(ブレイド)』で暗殺するしかあるまい。愚者はそうやって始末できたから良かったが』

 

 ツキコから聞いた話だが、愚者との遭遇は完全に偶然であり、幸運にも魔力を求めてさまよっている愚者をツキコの方から発見することができたらしい。

 そこで、『(ブースト)』を使い、存在感を完全に消してから背後に忍び寄り、急所をグサリとやったそうだ。

 魔力の量からレベルは大したことがないとわかっていたようで、その一撃で倒せたという。

 周りの被害を考えれば理想的な立ち回りだが、オレでは難しそうだ。

 昨日は法王の逃げ足のせいで失敗してしまったが、人のいない場所に追い込むのがベターだろう。

 あくまでオレ1人ならの話だが。

 

「うん。やっぱりこの3人で動くのが一番でしょ。黒葉さんとツキコで暗殺できるならそうして、無理そうなら人払いしてからツキコの結界に閉じ込めてオレが仕留める。昨日の法王みたいな逃げ足のヤツじゃなきゃこれが確実だと思う」

 

 怪異の出現時間が夜になったのは、理由はわからないが都合がいい。

 これまた原因不明だが、怪異は屋内に入れないようなので、大抵の人が家に帰っている時間帯かつ黒葉さんの人払いのお香があれば少なくとも一般人を巻き込む確率は下がる。

 そこで、オレほど派手ではない黒葉さんか隠密行動が得意なツキコが暗殺できればよし。

 無理そうなら、人のいないところに誘導してからこの中で一番戦闘能力の高いオレが速攻する。

 やはり、今まで通りのやり方が最も有効なのだ。

 

「・・・まあ、しょうがないね。さっきも言ったけど」

『ふん。仕方あるまい』

 

 改めて状況をまとめてみると、2人もわかってくれたようだ。

 いや、頭のいい2人だから、そこは最初からわかっていただろう。

 あとは、どう折り合いを付けるかであって、そこはオレを立ててくれたと言ったところか。

 

「当面の対策はこの3人で動くということでいいですが・・・ツキコさん。この状況はいつまで続くとか、心当たりは?」

『ない。私としても、今回のような事態は初めてだ。だが、すべては儀式の魔力次第だろう。大アルカナが儀式から追い出されたのか自発的に逃げ出したのかは知らんが、今は儀式のコントロールから外れた状態にある。儀式が魔力を取り戻せば、手綱を握り直すであろうし、結界も使えるようになるだろうな・・・まあ、その分強力な怪異が出てくることになるが。しかし、あのレベル9の塔などという化物を生み出し、その上で撃退されたのだ。回復には相当な時間がかかるのは間違いない』

「強い怪異と戦うことになる代わりに周りを気にしなくていいか、弱い代わりにコソコソ戦うしかないか・・・どっちかって言うと、強いのと戦う方がマシだなぁ」

『それはお前だけだ脳筋。普通の魔法使いなら面倒があろうと弱い相手を選ぶ』

 

 今の状況をどうにかするには儀式の魔力が回復しないといけないらしいが、まさか元凶ともいえる存在に魔力を与えるワケにもいかないし、方法もない。

 

『そこの紙にも書いてるが、今の状況は儀式が弱っている証拠でもある。今のうちに怪異を倒して力を蓄えておくのがいいだろう。弱っているとはいえ、それでも儀式は易々と攻略はできんだろうからな。大アルカナは勿論だが、小アルカナを倒す意味も大きい。あの小アルカナはお前たちの戦いから零れた魔力が変質したモノだと思うが、倒してしまえばそのまま儀式の力を削ることに繋がる』

 

 ツキコによると、今街に現われる小アルカナは塔との戦いで発生した魔力が儀式に回収されることなく残ったために生まれるのだそうだ。

 儀式が魔力を取り戻そうとする前に倒せればそれだけ儀式の回復が遅れることになる。

 ・・・今の状況は確かに面倒だが、今後の儀式のことを思えば貴重な準備期間と捉えることもできるということか。

 放っておけば儀式が再び手駒として利用する大アルカナも、エネルギー源になる小アルカナも、とにかく怪異は倒すべき・・・そう思えば今までとやることはそんなに変わらない。

 

「魔力の回復、ですか」

 

 オレがそんな風に考えていると、黒葉さんが顎に手を当てて何事かを呟いた。

 

「儀式に限らず怪異は人間の感情を吸収して糧にできる。儀式の場合は願いを叶えるおまじないが大本だから、『欲』に関わる感情がメイン・・・恐怖とかならともかく、急に増えるような感情じゃないし、そんなにすぐ回復は・・・あれ?欲?まさか」

『ほう?気付いたか』

 

 小声で考えをまとめるようにしていた黒葉さんだが、その途中で何かに気付いたかのように目を見開く。

 そんな黒葉さんを見て、ツキコは珍しく感心したかのような声を上げた。

 どうやら2人は何か重要なことに気が付いたようだが、当然オレにはわからない。

 

「黒葉さん。どうしたの?」

「あ、うん・・・もしかして、なんだけど。もし、『悪魔』が逃げてたらマズいことになりそうだなって」

「悪魔?」

 

 そういえば、ツキコが初めてオカ研に来たときにも悪魔の話をしようとしていたな。

 あのときはオレが急に放送で呼び出されて有耶無耶になり、その後も儀式の異常に対応することに必死で流れてしまっていたが。

 だが、儀式の魔力回復と悪魔になんの関係があるのだろう。

 

『はぁ・・・お前、本当に不勉強だな。悪魔の意味も知らんのか?』

「バカにすんな!そのくらい知ってるっての。えっと・・・」

 

 未だに話の流れが掴めていないオレを小馬鹿にするようなツキコ。

 しかし、オレだって黒葉さんの授業を受けてタロットの基本的な意味くらいは学んでいる。

 それによれば、悪魔の意味は確か・・・

 

「堕落、執着、欲望・・・だったか?」

「だ、大丈夫だよ誠二くん!!ちゃんと合ってるから!!」

『ずいぶん自信がなさそうだが、まあ、その通りだ・・・だが、そこまでわかっているのなら私たちが気付いていることにお前も気付いて然るべきだと思うがな』

 

 オレの死神やツキコの月、塔のように悪魔は大アルカナのカードの中でも珍しく、正位置で悪い意味を持つカードだ。

 正位置では、欲望や本能の赴くままに行動し、堕落する様を表わし、逆位置ではその欲望からの脱却を意味する・・・それは正解だったようだが、黒葉さんが褒めてくれるのに対してツキコは未だに呆れた顔をしていた。

 

「欲望・・・もしかして、悪魔って人間の欲望を煽るみたいな権能持ってるのか・・・?」

「うん。おばあちゃんの日記にも、悪魔については特に警戒しろって書いてあったけど、それは悪魔が大アルカナの中でも、儀式の根幹にある『欲』を司る存在だからなんだよ」

『この儀式は人間の欲望を元にして生まれた怪異だ。人間の欲望があればあるほど成長していく。そのせいなのかはわからんが、欲望を意味する悪魔もまた同じような性質を持っている。言わば、儀式そのものに酷似した怪異なのだ。大アルカナは魔力供給の多寡によって強さが変動するが、逆に言うとそれ以外の要素では強くなることもない・・・ただ一体、悪魔を除いてな。悪魔だけは、儀式から切り離されていようが関係ない』

 

 そこで、ツキコは窓の外に目をやった。

 オカ研は特別棟の四階にあり、ちょうど市街地が見える。

 そうして街を、多くの人間が暮らす場所を見ながら。

 

『儀式にとっても、悪魔にとっても、人間は欲望という餌を産む家畜のようなものだ。そして、悪魔はその家畜を丸々と肥やすチカラを持っている。この街に欲望が溢れかえるようなことがあれば、悪魔のみならず儀式も息を吹き返すだろう・・・いや、もしも悪魔が儀式の束縛から解き放たれているのなら、それはむしろ儀式が健在であるときよりも厄介かもしれん』

 

 普段の軽薄な雰囲気が一切感じられない真剣な眼差しで、ツキコは告げた。

 

『悪魔は成長する唯一の大アルカナにして、最も欲望に満ちた怪異だ。儀式というお目付役がいなくなったのならば・・・あるいは、儀式そのものすら越える怪異になりかねん』

 

 

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「くそっ・・・ふざけやがって」

 

 舞札市の繁華街。

 真っ昼間であるにもかかわらず、人気の少ないバーで中年男性が1人くだを巻いていた。

 夏場が近いためにYシャツにネクタイとスラックスという社会人としてよく見る服装をしているが、その顔はアルコールの大量摂取によって赤らんでいる。

 

「あの女・・・なにが、『この家はあなたの場所じゃない!』だ・・・誰が稼いだ金で飯を食ってたと思ってやがる・・・ははっ!!その金ももう稼げねぇか。クソ上司め。あの女と前々からグルだったのかよ・・・」

 

 一般的な社会人であれば仕事をしている時間帯であるのに、中年男がこんな場末のバーで飲んだくれている理由。

 それは、男がさきほどからブツブツと漏らしているように、彼の妻と職場の上司が原因であった。

 妻が職場の上司と不倫しており、少し前に離婚届を突き付けられたこと。

 そして、勤務先から今朝方に懲戒免職を告げられたこと。

 この二つがダブルパンチとなって男を社会人から飲んだくれにドロップアウトさせたのである。

 

「クソッ!!クソッ!!あの糞野郎どもが!!俺が何したってんだ!?ほんの少し、仕事のできない女の尻触ったくらいだろうが!!それだけでこんな・・・!!」

 

 もっとも、今のご時世、企業が従業員の首を切るのは中々難しい。

 今の男がこんな醜態をさらしているのは、男自身にも原因がないわけではなさそうだ。

 ・・・男にその自覚はないようであるが。

 

『おうおう!!真っ昼間から派手にやってるねぇ、旦那!!』

「ああ?」

 

 そんな絶賛ダメな大人をやってる男に陽気な声がかけられた。

 『自分がこんなに不幸な目に遭ってるのに、どこの誰が機嫌良さそうに絡んでんだ?』と、酔いよ不機嫌さによってより醜悪になった顔で声のした方を見れば・・・

 

『よう!!隣失礼するぜぇ?』

 

 いつの間にか、若い男が1人中年男の隣に座って、アルコール臭のする液体の入ったグラスを傾けていた。

 

「なんだテメェ・・・」

 

 声をかけられた瞬間には『ぶん殴ってやる!!』と気色ばんだ中年だが、いきなり隣にいた男には少しばかり面食らったように気勢を削がれた。

 

(こんなヤツ、さっきまでいたか・・・?)

 

 中年自身に、酔っている自覚はある。

 しかし、真っ昼間でガラガラ、というより自分しか客がいない店内で、誰かが隣に座ってくればさすがに気付くだろう。

 それでも、中年男は声をかけられるまでその男の存在に気が付かなかった。

 

(なんだコイツ?ホストか何かか?まさか、ヤクザか?)

 

 その若い男は奇抜な格好をしていた。

 顔立ちはそこらのモデルが裸足で逃げ出すくらい整っているが、もう夏が近いというのに、コスプレ大会で見るような黒のロングコートに黒のズボンと全身黒づくめ。

 首からは☆を逆さにひっくり返したような形のペンダントをぶら下げ、同じような意匠のアクセサリーが黒いコートのとこどころにジャラジャラと取り付けられている。

 オールバックにした長めの黒髪を後ろに流したその姿は服装も相まってどこかカタギでない空気を醸し出しているが、今も浮かべているヘラヘラとした締まりのない軽薄な笑みがその凄みを緩和させていた。

 ヤクザやチンピラというには雰囲気が軽く、ホストにしては外連味が過ぎる。

 いずれにせよ、街ですれ違えばなかなか忘れられないだろう。

 ますます、こんな男が隣に来たことに気が付かなかったことが奇妙に思える。

 

『俺が何かって?そりゃあ俺にもわからねぇよ。なにせ、俺は型にはまらないのがウリなんでね。まあ、しがない遊び人だと思ってくれや』

 

 遊び人。

 男はそう名乗ったが、中年男にはそれがどうにもしっくりと来た。

 ヤクザなのかホストなのか、いまいち形容するのが難しい空気を纏っているが、危険だとか物騒だとか言うよりも何も考えず気の向くままに遊んでいるだけの人間と言われると、『ああ、そうか』と納得ができたのだ。

 危ない気配はするものの、それを悪意をもってぶつける気がまるでない、遊び感覚で話しかけてきた奴なのだと。

 

「その遊び人様が、何の用だよ?」

 

 遊び人の浮ついた空気にあてられたのか、中年男の中にあった衝動が少し薄らいでいた。

 さきほどまでぶん殴ってやろうと思っていたのに、すんなりと会話に入っていく。

 中年男がのってきたのがお気に召したのか、遊び人の顔に浮かんでいた笑みが深くなったような気がした。

 

『いやいや、用ってほどのもんじゃねぇよ。ちょっと気になっただけさ。こんな時間に1人で酒かっくらってたらなんでか聞きたくなるだろ?』

「っ!!テメェも俺を馬鹿にすんのか!!」

 

 今、中年男がここにいる理由。

 中年男にとっての地雷を踏み抜かれたことで、薄まっていた苛立ちが一気にぶり返した。

 席を蹴飛ばして立ち上がり、遊び人の胸ぐらを掴み上げる。

 

『うおっ!?ちょ、タンマタンマ!!悪かったって!!馬鹿にするつもりなんかなくて気になっただけなんだよぉ!?』

 

 暴力を振るわれる恐れが出たからか、遊び人は大げさな身振りで自分に悪意がないことをアピールした。

 おかしな格好をしているとはいえ、容姿の整った男が己の暴力によってなりふり構わず弁解する無様な姿に、中年男の溜飲が下がった。

 中年男が乱暴に手を離すと、遊び人はよろめきながら椅子に座り込む。

 

『ケホッ、ケホッ!!本当に悪かったって!!一杯奢るから見逃してくんないスか!?マスター!!この旦那に一本高いボトル出したげて!!』

「・・・けっ」

 

 中年男はなおも腰の低い遊び人の様子に毒気を抜かれたように、倒れた椅子を元に戻して座り直した。

 そうする内に遊び人が呼んだバーのマスターがボトルを持ってきて中年男の前に置く。

 

『ほら、これは奢るからさ。暴力はなしで頼むぜ?』

「そんなにビビらなくても、そこまで言うなら見逃してやるよ」

 

 遊び人の言うように、目の前のボトルはそれなりに値の張るモノだった。

 せっかくこんなモノがあるのに、ここで暴力沙汰を起こして台無しにするのも勿体ない。

 そう思った中年男は、寛大な心で遊び人を許してやることにした。

 

『ふぅ~、よかったぁ~・・・じゃ、せっかくだから乾杯しない?』

「・・・お前、どういうメンタルしてんだよ。まあいいけどよ」

 

 中年男に暴力を振るう気配がなくなったのを察してか、遊び人の雰囲気がまた軽薄なモノに戻る。

 中年男は呆れながらも、ボトルの中身をグラスに注いで手渡してくる遊び人と乾杯をした。

 

『ぷはぁ~!!やっぱ金かかってるぶん美味いな!!』

「これ、本当に驕りだろうな?」

『当たり前じゃん?俺、こんなことで嘘なんかつかねーよ・・・あ、そうだ、嘘と言えばさ。さっきのも本当だぜ?俺に旦那をバカにするつもりなんかない。けどよ、何かあったんなら、俺みたいな無関係なヤツにぶちまけるの、結構オススメよ?穴の中に叫ぶみたいにさ』

 

 お互いにグラスの中身を飲み干してから、遊び人はそう切り出してきた。

 

「・・・まあ、そうかもな」

 

 さきほどはカッとなってしまったが、中年男には自分の中に溜まった愚痴を出してしまいたい気持ちもあった。

 それに、中年男が胸ぐらを掴んだときの様子からして、今の遊び人に中年男を侮辱する気がないのは本当だろう。

 

「実は、会社で俺の下に使えねぇヤツがいてよ。一つ、指導ってモンをしてやらねぇといけないと思ってな」

『うんうん!わかるわかる!!それでそれで?』

 

 もしもまた不快な気分にさせるようなら、もう一度わからせてやればいい。

 そう思いながら、中年男は自分に起きた不幸な出来事を遊び人に語って聞かせるのだった。

 

 

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「だから!!俺は悪くねぇ!!悪いのはあの能なしの部下どもと、クソみてぇな会社とあの女だ!!なんで俺が悪く言われなきゃならねぇんだ!!」

『おう!!その通りだぜ!!旦那は悪くねぇよ!!うん!』

 

 しばらく時間が経った。

 もともと酔っ払っていた中年男は、遊び人が驕りだと言ってさらに注文した酒を次々と呑み、みっともないくらいにくだを巻いていた。

 もう何度も同じ話をしているが、遊び人に辟易した様子はない。

 むしろ、何かを愉しむような笑みさえ浮かべている。

 そんな遊び人の態度に乗せられたのか、あるいは酔いのせいか、中年男はまたも話しをループさせていた。

 

『・・・高尚な『願い』とはほど遠いが、こういうジャンクな『欲』もたまには悪くねぇなぁ。テメェのちんけな心やプライドを守りたい欲・・・自己弁護って言うんだったか』

「ああん?なんか言ったかぁ?」

『うんにゃ。何でもねぇよ、旦那』

「そうかぁ・・・まあ、それであの女がよぉ」

『うんうん』

 

 それまで合いの手を打っていた遊び人だが、不意にポツリと小さく何かを呟いた。

 中年男の耳には届かなかったようで、アルコールに脳を支配された男は再び話しを始め、遊び人は延々と相づちを打つ。

 

『うんうん、それは相手が悪いね。じゃあ、仕返ししねぇか?』

「仕返しだぁ?」

 

 またしばらく時間が経った後、遊び人はこれまでの合いの手とは違った言葉を返した。

 

『そう、仕返しさ。旦那は、そりゃあちょっとくらい悪いことをしたかもしんねぇけど、会社をクビにされたり、家を追い出されるほどのことはしちゃいない・・・だったら、やり返すのは当然の権利ってヤツだろ?』

「そりゃ、やり返せるならやってやりてぇが、どうやって」

 

 酔いの回った頭であるが、それでも遊び人の言っていることが現実的ではないことくらいは理解できていた。

 今のご時世、セクハラ、パワハラをしでかした者に世間は冷たい。

 遊び人の胸ぐらを掴んでやったように暴力を使う方法はあるが、そんなことをしでかせば二度と社会のレールに戻れなくなる。

 中年男は粗暴で考えなしの気ではあったが、最後の一線だけは意識する理性はあった。みみっちいとも言う。

 

『へへっ!!いい方法があるぜぇ?ほら、これやるよ』

「ああ?なんだこりゃ?」

 

 遊び人がカウンターの上に置いたのは、一枚のカードだった。

 中年男の方に向かってピンっと突き出されたそのカードを手に取って眺めてみる。

 カードは黒一色の背景に、遊び人が付けているアクセサリーと同じ形のマークが金色で刻まれていて、さらにカードに巻き付くように鎖の絵が表裏をぐるっと一周していた。

 

「おい、これは・・・」

『旦那、よく聞きなよ』

 

 これは何なのか、酔いの回った思考では理解できない。

 遊び人に問いただそうとすると、割り込むように遊び人は小さく呟いた。

 その声はこれまでのような軽いモノとは打って変わって真剣で、中年男は気圧されたように押し黙る。

 

『旦那は、とくに何もする必要はない。ただ、そのカードを持ち歩いて、忘れずに思い続けていればいい』

「思い続ける?・・・何をだよ?」

 

 遊び人の口調は静かで、声も小さい。

 しかし、中年男はなぜかそれを語る遊び人から目が離せなかった。

 

『決まってる。今の旦那の気持ちをだよ。仕返し、したいんだろ?』

 

 そう言うと、遊び人は席を立った。

 

『悪いな旦那。俺はもう行くぜ』

「あ、おい・・・」

 

 中年男が呼び止めるも、遊び人は止まらない。

 しかし、バーの入り口にまで行くと、遊び人は振り返った。

 

『旦那の欲が本物なら、そのカードに注ぎ続ければ、いつか『見返り』が来るぜ。その見返りをどう使うかは旦那次第だが・・・好きに使ってくれればそれでいいさ』

 

 『じゃあな』と言い残し、遊び人は店の外に出て行った。

 

「なんだったんだ、あいつ・・・」

 

 しばらく、中年男は呆けたようにその場に立っていたが、ふと手の中にあるカードに目をやった。

 

「今の気持ちを、忘れずに・・・?なんかの宗教か?」

 

 遊び人が言っていたことは意味がわからないし、渡されたカードはどこか不気味だ。

 ひょっとしたら、自分は何かの宗教のキャッチセールスに捕まったのかもしれない。

 しかし。

 

「まあ、それだけなら別にいいか。あいつの言うとおりになるなら儲けモンだ」

 

 自分をこんな境遇に追いやった者たちに復讐してやりたい気持ちは胸の奥でくすぶり続けている。

 その熱に急かされるように、中年男は黒いカードをポケットにしまうのだった。

 

 

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TIPS1 The Fool 愚者

 

大アルカナの1番目。

旅人の若い男と犬が崖の上を歩いている様が描かれている。

この愚者のカードは始まりのカードであり、このカードに描かれる男が残り21枚の大アルカナを旅していくと言われる説もあれば、他の大アルカナはまったく無関係とする説もある。

旅人は目的も何もなく、目の前の崖にも気付いていない愚か者とされるが、旅に備えた荷物を備えており、まったくの無計画ではない計算高さもあるとされる。

様々な解釈があり、旅人の本質や目的はわからないが、その内側には若いエネルギーが満ち、彼は自由気ままに旅を進めていく。

 

 

正位置では 無限の可能性、無邪気、好奇心、楽天的、純粋など。結果を恐れず、固定観念にも縛られず自由に冒険を始める様を表わす。

逆位置では、無謀、無計画、無責任、わがまま、無気力など。正位置ではいい方向に向かっていた自由さが悪い結果に繋がる様を表わす。

どちらの意味でも『自由』を象徴する。

 

作中では愚者本体は登場していないが、このカードを使った伊坂誠二が風属性の魔法を使用。

伊坂誠二たちと塔との戦いによる影響で儀式から逃げ出すことは叶ったが、手にした自由に伴う責任に彼は耐えられなかった。

逆位置であり、元は豪華だったのが見る影もないボロボロの服と折れた杖を持ったやつれた男の姿で現われた。その足には血まみれの犬が噛みついたまま絶命しており、最後まで忠告を聞かなかった男に恨みを向け続けている。

魔力不足で魔力を持った人間を探して街中をうろついていたところを運悪くツキコに見つかり、月の権能を使われてその存在に気付くことなく暗殺された。

 

レベルは5。

権能は『無謀』。自身にも制御できない暴風を発生させ、身の丈を越えた破壊力を発揮させる。しかし、最終的には盛大に自爆することとなる。その際の威力はレベル+1~2といったところだが、同レベルの塔にはまったく及ばない程度でしかない。

 

ツキコはこのカードに適性がなく、伊坂誠二に譲渡したところ正位置の権能に変化した。

正位置での権能は『自由と始まり』であり、使い手への封印、束縛効果を解除し、扱いは難しいが疾風による大幅な敏捷アップをもたらす。

なお、黒葉鶫もツキコ同様このカードへの適性は低い。

余談であるが、学校のテストの点数は黒葉鶫>=ツキコ>平均>=白上羽衣>伊坂誠二である。

さらに余談ではあるが、伊坂誠二は流転するもの・・・液体、気体を問わず流体操作の才能があり、闇属性に次いで風、水の適性が高い。逆に土や氷は対応する大アルカナを手に入れたとしても最低限の効果に留まるだろう。

 

 

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TIPS2 守護空間

 

家の中というのはその住人にとってはまさしくホームグラウンドであり、魔法的な意味でも家の中にいる者は外にいるときと比べると若干の耐性を持つようになる。

その効果を与える空間はある種の結界であり、弱い怪異は住人の許可なく家の中には入れない。

儀式の怪異は欲望を放つ人間を殺すことを避けるように設計されており、基本的に人が住む家の中には入ろうとしない。

なお、大型ショッピングモールや図書館などの公共施設といった、人が住んでいるとは言えない建物についてはこの限りではない。




この作品、サノバウィッチや仮面ライダー龍騎の影響も受けているのですが、我が魂のバイブルである『黒の魔王』成分もかなり入ってます。
もう一昨年ですが、ハーメルン内でそっちの短編も書いてたりするので興味のある方はご一読を。

https://syosetu.org/novel/360107/

なろう版、カクヨム版でもブクマや評価お願いいたします!!

なろう https://ncode.syosetu.com/n4788ib/
カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817330652846755131

もしもIFルートを書くなら

  • 黒葉さん幼なじみルート(早期に激重化)
  • 伊坂誠二の初期カードが月(ツキコ相棒化)
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