IS×FGO   作:如月/Kisaragi

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お久しぶりです。春は花粉がつらい。

身内の不幸と体調不良が重なり当初の予定より大幅に遅れてしまいました。お待ちになっていた皆様、大変長らくお待たせしました。11話目です。
話のペースがスローすぎて読者の皆様を退屈させていないか心配になっています。いちおう話の終着点は決まっており、そこに向かってのんびり進んでいきますので、これからも気長に応援していただければなと思います。

感想、評価お願いします!

追記:タグに『AC』を追加しました。今後も頻繁にACネタが出てくるかもなので保険として入れておきます。
あと、この作品にアンチする場合は感想欄ではなく私のDMにお願いします。感想欄を見た方が不快にならないように、攻撃の矛先は私にだけむけていただければ幸いです。


#11

──空を、翔んだ。翔んでみせた。

開発を凍結されて、本当ならば産まれることさえできなかったかもしれない私の翼(弍式)が、空を舞った。

 

(凄い。凄い、すごい、すごい!)

 

私も飛べる。私も空を駆けられる。高揚感が身体を巡っていくのをひしひしと味わって、それからこの試験の目的を思い出して、狂熱がすっと冷めた。

 

「待ってたよ簪ちゃん〜、しっかり飛べたみたいでよかったよ」

「はい。……その、ありがとうございました。ダヴィンチさん」

「気にしなくて大丈夫さ。いやーしかし、いつになっても自分の携わったモノが完成した様を見届けるのは楽しいね」

 

ニコニコと笑うダヴィンチさん。彼女はしばらくの間微笑んでから、すぐに顔を変えた。──技術者の顔つき。

 

「さて。それじゃあ、最後の試験を開始しようか」

「はい。……行くよ、弐式。『メインシステム、戦闘モード起動』」

 

心に火が灯る。燃料が投下され、気分が高揚していくこの感覚。

昔には終ぞ感じることがなかったそれに身を委ねる──ことはなく、それを乗りこなすように制御していく。

頭に叩き込んだ機体の情報をもう一度振り返りながら、最終試験という名の戦い(闘争)に身を投じる。

IS操縦者としてあるまじき音声認証は、自分の中に課したルール、いやルーティンのようなもの。私の声だけに反応して、私だけのために用意した、ロマンを動かすためのファクターだった。

 

打鉄・弐式。

主となる武装は、実弾銃の『秋雨』。装弾数40発、セミオートからフルオートまで対応の、ツインバレルリニアガン。

それからもう一つの兵装として左肩の荷電粒子砲『春雷』。大口径の銃口から放たれる火力は、瞬間火力という点において、この機体の搭載火器の中で随一の実力を誇っている。

基本的には左肩のアンロックユニットにマウントしており、使用時には手を使って構えるか、マウントしたままの状態で、本体に仕込んだプログラムを使って動かして撃つ。

 

また別の兵装として、右肩のアンロックユニットに搭載した、48連装プラズマミサイルコンテナ『山嵐』と、12本のソードビット『夏霞』、高周波振動式薙刀の『夢現』がある。

山嵐は最大で48体にロックオン可能なプログラムを搭載した、多数制圧用の兵装だ。もちろん標準状態時、つまりISコア・リミッターを起動してある今の状態ではそんな大人数をロックすることはできない。できてせいぜい4体が限度だ。その上ISにしかロックは効かないので、これの技術が悪用されることはない……と信じたい。ちなみにプログラムを組んだ立香曰く、「やっぱりこれってフリーダm……いえなんでもないですはい」らしい。確かにあの辺の機体はかっこいいからわかる。

 

そしてこの機体の奥の手、と言うほどでもないが重要な役割を担っているのが、12本のソードビットだ。

主武装と対になるイメージで名付けられたこのビット──夏霞は、これまた立香曰く「リスペクト」のこもった兵装だ。元ネタはもちろん、例のロボットアニメで“摂理“の名を冠する機体だ。

基本性能は立香の『真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)』と同じで、私に扱いやすいように脳波操作を調整したもの。ビットの適性はかなり高かったので、それを利用する形でこれは酷使する予定だ。

ちなみに普段は機体の装飾にしか見えないような形で隠されているが、いざ戦闘となった時には射出しなくても射撃が可能だ。その上、一本一本近接兵器として使用できるらしい。

 

それから薙刀の夢現。これは特筆した仕掛けは特にない、近接戦用のブレード装備だ。薙刀は昔から触っていたこともあってかなり手に馴染むから、近接用の武器はこれにしようと前から決めてあった。

 

……改めて思い返してみると、やはりこの機体はどこか価値観が吹き飛んでいる。まるで一国の軍隊相手に戦争を仕掛けるのではないか、と疑うレベルにはスペックがおかしい。

もとはやはり宇宙開拓用に作られたものであるからパワーが強くて当然なのだが、それを抜きにしてもやっぱりカルデアっておかしいという気しか起きない。

 

まあ、今となっては瑣末な問題でしかない。

生まれることができたこの機体を、私は最大限まで使いこなしてみせる。そのために、私は今ここに立っているのだ。

 

「ダヴィンチさん、用意、完了しました」

『よろしい。それじゃあ、こちらで訓練相手を用意させてもらったから、それと戦うといい。きっと経験になる』

「了解しました。……始めましょう」

 

そう言うと、熱源がひとつ接近してくる。

白銀、青の外套、頭頂に輝く王冠。私の兄妹機になる、ダヴィンチさん──カルデアス・コーポレーションの一番最初の機体。

その名は── 常続きし人理の範(ロード・カルデアス)

 

「……立香」

『うん。やっぱり最初は、俺が戦いたいなって思って。──準備はできた?』

 

ピリッとした空気が流れた。はるか昔に消えてしまったはずの火が、次第に灯るのを身体全身で感じる。

闘争の時が、来たのだ。……火をつけろ、燃え残った全てに。

身体中に血が巡る。戦いの渦に身体が沈む。思考は冷徹に、想いは熱いままで、己を奮い立たせる。

 

「「……」」

 

互いに言葉は要らなかった。どちらともなく武器を構えて向き合い直す。

外から聞こえてくるカウントダウンの音はどうでもよかった。──ブザーが、鳴り響く。

 

「「────!」」

 

その瞬間、私と立香が、同時に加速した。

 

 

 


 

 

 

一閃。大剣と、薙刀がぶつかり合う。それから火花を多少ばかり散らして、互いに剣を弾き、射撃戦の間合いへと移動する。

立香はビットを機体の周りに展開し、それをライフルかのように撃つ。それに対応するように、簪は丁寧な照準でリニアガンを単発で丁寧に放っていく。

水色の閃光と、わずかに残る黒色の軌跡が、互いの間で飛び交う。

 

ここまでで双方共に被弾は──ない。

 

簪が銃弾を撃ち尽くし、攻撃の手が緩む。リロードのモーションに入ったのを立香は目敏く見て、ビットを全機簪に向けて放った。主人(マスター)の命令に従って、ビットが簪の機体へと食いついて行く。

複雑な軌道を描きながら接近し、ビームを浴びせるその攻撃は、回避など不能。

 

──故に、簪は回避の手を選ばなかった。

太い極光がアリーナに走る。

例えていうなら、その光は──春雷の煌めき。

 

光が晴れると、立香のビットは残り二機を残して機能停止していた。

簪はその結果を見て少しだけ顔を歪めた。あのコースであれば全部のビットが落ちていたはずだというのに、という悔しさからの表情だった。

 

(……私の技能じゃ、あれは避けられない。だから回避を選ばすに、相手の()()()()()迎撃することを選んだんだけど──流石は立香。被害を最小限に押しとどめられた)

 

対して立香の表情はあまり芳しくない。最悪は回避したが、一気に自分が不利に立たされたのが苦しかった。

 

(──センスが高すぎる。流石に楯無さんの妹、ってことか?それともあの夢の影響……いや、それはないハズだけど……)

 

両者共に互いのセンスが光る戦い。未だに互いの被弾は、ないまま。立香は顔に緊張が走り、簪の顔には笑顔が浮かぶ。普段の簪からは想像のつかないような、獰猛な笑顔。場に少しの均衡が流れるが──すぐに、状況が動く。

 

簪がビットを流す。夏霞は、その名の通りに素早く、立香へと食らいつきにいった。数は──12本。自分の持つビットの全てで仕掛けたのだ。

類稀な脳波コントロールを受けた12本の霞は、初夏の空へと舞った。

射撃が始まる。光の檻を組み上げるように放たれる光線に、立香はなす術もなく被弾する──

 

──()()()()()()

 

「風よ……吠え上がれ!」

 

少女騎士と、青年騎士の声が、重なる。僅か一小節の短い詠唱、それなのにも関わらずそれは絶大な力を発揮する。

簪はそれの正体を知る故に、すぐにビットを引き剥がそうとしたが、その時には手遅れだった。

嵐の錨が、抜錨する。

12本のビットは、全て陥落していた。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)』。風の絶対的な守りが、いま暴力に転じて、相手の身体を刺し貫いた。風の残滓がアリーナに吹く。西部劇の一部始終を思わせるような砂埃が舞い、視界が少しばかりではあるが遮られる。

しかし簪は攻めの手を止めてはいない。次の一手は、すでに放たれていた。

 

ISの優秀さの一つに、使い熟せばサーヴァント並みの感知力を手に入れられる、『ハイパーセンサー』というものがある。悪天候下でも目視能力が落ちることがない上に、暗視や熱源感知、簡易的なロックオン機能、風向風量探知に加えて、さらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そしてそのセンサーで、立香は見た。

──瞬間的に増加して、分裂し接近する、電力と熱源の塊を。

 

「ッ……」

 

その正体こそ、打鉄・弍式の瞬間火力を誇る兵装の『山嵐』。

熱源の量は24個。ミサイルコンテナの内蔵量の半数が、立香を墜とすために接近していた。肉眼で捉えたそれはあまりにも綺麗な水色の雨。それが命を刈り取らんと猛進してきている。

やられる。立香はそう思った。完璧な組み立てだった。間違いなく簪は、己に詰みの一手を突きつけて見せた。

 

だが、それでも、立香は──諦めるという思考には至らない。

瞑目して一呼吸をつく。これまでの命を賭けた旅と比べて、この程度の劣勢は──温い。

負けたくない。人類史最後のマスターとして、己の過去を知っている簪には、常に全力で戦いたい──!

 

魔法陣が展開される。それと同時に、ビットと大剣を媒体として、()()()()()()()()()()

 

「鐘の音、果ての潮騒、嵐の錨、果てへと駆けよ」

 

詠唱は魔術の力を大きく増すことができる。それは聖杯戦争においてサーヴァントを呼ぶ際に詠唱を行いサーヴァントを呼ぶのと同じ原理だ。

言葉には意味があり、魂があり、力がある。

そしてこの機体には、当代最高のサーヴァントと、最優の騎士の意志が込められている。

 

それ故に。この魔術は、本来よりもさらに大きな力を与える。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

先ほどよりも強く、鋭く、大きな一撃。

一小節のみで唱えられたそれとは比にならない威力、完成度。

二度、嵐の錨は抜錨された。ガガガガッ、と削れる音。次の瞬間に、鼓膜と網膜が衝撃を拾う。爆発と轟音と、閃光。

 

その中でもすかさずマルミアドワーズを構え、ハイパーセンサーで捉えてある簪の方へと急接近する。

先ほどのミサイル爆発で電磁波の影響が大きくなっているが──カルデア式のセンサーは、そのような悪条件下であっても、動作に影響を及ぼすことはない。

対峙する簪も、その条件は同じ。接近を確認するや否や、素早く薙刀を構えた。

 

 

 


 

 

 

「……優秀だね。流石に『更識』の血を引く人間、ということか」

 

両者の機体に取り付けられた計器類を眺めながら、独りごつ。

万能の天才である私の目に映っていた、初めて会ったときの(かのじょ)よりも、いまアリーナで戦っている彼女は見違えるほど強い。

立香くんとの接触によって、元のポテンシャル以上の才覚を引き出すことができているのか。その真偽は確かではないが……一つだけ言えることがあるとするのならば、やはり立香くんには、そしてISには、()()()()()ということだけだ。

 

『──楽しい。楽しいよ、立香!』

『うん。俺も、楽しくて仕方ないさ!』

 

だが、いくらなんでもここまで二人が戦いに夢中になるとは予想していなかった。正直、武装の軽い確認だけで済ませようと思っていたのだが、模擬戦でドンパチすることになるとは。ダヴィンチは軽く頭を抱えたが、まあお互いに楽しんでるし想定以上のデータをいただけたのでヨシということにした。モニターから聞こえてくるものすごい剣戟音から耳を背けつつ。

 

ただまあ問題があるとするならば、やはりイカれた立香ファンたち(カルデアスタッフとサーヴァント)が管制塔で大暴れしていることだろう。

 

『美少女が戦いながら獰猛に笑っているの……イイ……』

『簪ちゃんカワイイ……これはいい絵になる……』

『キマシタワーをここに建てよう……』

『これが……愛と希望の物語か……』

 

こいつらはまだマシだ。疲れているからか変なことを口走っているだけで、休暇を取れば治るはずだ。

本命はやはり、脳をコーラルに浸した技術者(ヤツら)の存在だ。

 

『やはりミサイル。プラズマは正義』

『荷電粒子砲でビットを落とした瞬間が最高だった』

『蒼電と風の奔る戦場って感じだ。coolだね』

『パイルバンカーどこ……ここ……?』

『火力はなんぼあってもいいですからね』

『身体が闘争を求めている』

『また貴様か……!』

『火を灯けろ』

『『『『『『『燃え残った全てに』』』』』』』

『コーラル中毒者の集まりかここは……!』

『(天を仰ぎ、カドックの背中をさするエミヤ。目の端からは涙が出ている)』

『気張れよ立香ァ!負けたら一から鍛え直しに行ってやるからな!』

『フハハハハハハハハ!誰か、記録は撮っておるだろうな?撮っているか?ならばよし!戦闘が終わり次第、直ちに映像を編集し、それを以て更識簪のカルデアス入りとするぞ!洒落たものを作れよ貴様ら、わかっておろうな?

……む?倉持との話し合い?そのようなもの疾くに済ませてあるわ、たわけめ!』

『あのコと機体の性能比べをしてもいいかもしれないね。ねえギル、なんとかならない?』

『ハーッハッハッハッハ!誠に良い戯れを見せてくれる。ニトクリスよ、酒を持てぃ!』

『(気絶したゴルドルフ所長)』

『所長が死んだ!?この人でなしたちめ!』

『マーリンシスベシフォーウ!』

 

……うん。見なかったことにしよう。現実から目を背けるようにして──マーリンはフォウくんに華麗なドロップキックを喰らいながら──、ダヴィンチは彼らの存在を脳内で流していった。

 

 

 


 

 

 

激しい斬り合いが続いている。蒼銀と黒鉄が火を散らし、戦場に花を咲かせている。

 

「……どうして」

 

少女は一人、困惑の渦中にあった。

いま目の前で激しく戦うあの機体は、紛れもなく打鉄・弍式だ。それはあのISに搭載されているコアの型番から確証できる。

だが──なぜ、もう機体が完成しているのだ?

あのデータを閲覧した段階では、少なくともあれだけの稼働に持っていけるまでのデータは有していなかった。未だにデバッグの量は足りていなかったはずだ。

 

それに──あれを動かしている操縦者の腕前。

あれが本当に己の妹で、己と血を分かちあっているのだとするのなら。

あの機体の主人が、更識簪であるのなら。

 

一体いつの間に、あそこまで妹は強くなったのだろうか。

 

いつの間にあそこまでの操縦技量を手に入れたのだろう。この短期間でどのようにして機体を完成させたのだろう。いつからあのような芯を手に入れたのだろう。戦いで獰猛に笑うようになったのだろう。

 

どうして──あのような、意志の強い眼をしているのだろう。

 

単純に、少女は一途に、妹のことを愛していた。

その意思が伝わることはなくとも、間違いなく姉として妹を愛していた。

だからこそ、己の家の暗いところに関わらせるわけにはいかなかった。いかなかったから、突き放した。心無い言葉をぶつけた。全ては、彼女を守るために。

そのために、如何にして織斑一夏と引き合わせて、彼女を守ってもらうためにどうするとかを考えていたというのに。

 

簪の対面にいる男子に──藤丸立香に、視線を向ける。

一度目の対面の時、彼女は立香の出すその雰囲気に完全に圧倒されてしまった。

確かに彼は善人なのだろう。しかしその心の奥底には、喩えていうならば、自分の行なってきた外道のその比にならない罪を抱えているような、そんな雰囲気があった。

 

彼についてわかっていることは、少ない。

16歳で天文台のスタッフとなり、そこで勤務していたということは事実だった。

日本に国籍を持つ以上、当然彼の実家に赴き、秘密裏に調査をした。

だが──彼はあまりにも、一般人すぎる。特に秀でた才能もなく、欠点もなく、ただのヒトだ。

だというのにISに選ばれて、導かれるように自分の妹と出会い──そうして、血を分けた妹は、変わった。

 

楯無の知るところではないが、とあるカルデアのサーヴァント──北欧の賢人、最も偉大な神、運命の主神──は、藤丸立香を指してこのような表現をした。

 

『自分に出来る事を、出来る範囲で努力する。

出来ない事なら、出来る範囲に収めようとする。

先達の助けを借りて、未来を夢見ている。

絶望的な状況下でも。人間として正しく抗い続ける。

時折挫けそうになる────振り返りもする。

だが足を止めるのも振り返るのも一瞬だ』

 

だが楯無はそれを知らない。知り得ていない。

藤丸立香という男が築き上げてきた縁を、物語を、そして──その先を。

確かに彼は平凡な男かもしれない。しかしその平々凡々としたその精神性が、彼を未熟ながらも英雄へと昇華させたのだ。

人類史を救った──英雄へと。

 

いつか楯無がそれを知ることになったとして、果たして彼女は、彼に対してどのような感情を抱くのだろうか。

その解を知るものは誰一人としていない。

 

「……知らなきゃ、いけない。あの子のために、そして……私の仕える国のために」

 

ゆえに、更識楯無は──知らずのうちに、深淵へと魅入られてしまうのだろう。

藤丸立香と言う人間が内包する、その奥深くの運命へと。

 

 

 


 

 

 

最後の一太刀が閃いた。

俺の持つ剣は彼女の首筋へ。そして彼女の構える薙刀は、俺の心臓の前へ。

引き分けだった。

 

浮ついた熱が身体からなかなか抜けていかない。

もう一度の打ち合いを、斬り合いを、戦闘を望む自分が、どこかに燻っているのを魂の奥底でかんじていた。

心地よい闘争心。ただそれはしばらくしてから、急速に冷めていった。心のどこかで、彼に処理されたのだろう。

 

武器を量子化して、簪と向き合う。彼女の瞳は、爛爛と輝いていた。紅い眼光が俺の脳裏に届く。その光に、なんだか心地よい気持ちになって酔う自分がいた。

顔には汗を軽く浮かべて、光が反射して照り輝き、それがまたどこか──倒錯的で、扇情的で、そして何よりも美しく思えた。

 

「……引き分け、だね」

 

簪が言う。今回の勝負は確かに引き分けだった。お互いがお互いの、今見せられる全力を出していた。

ただ、今の自分は納得ができないでいる。さっきの勝負はもっと上手くできていたはずだとか、ああすればよかったとか、そんなことが浮かんでは仕方ない。

ここで迷ってしまうと言うことは、俺にもまだ強くなる余地しかないということの何よりの証左だ。

 

「……うん。悔しいけど、今回は引き分けだ」

 

引き分けだと言って武器を下ろした自分の腕は、これまで抱えてきたものと比べると軽かった。それでも、心のどこかで重い。

自分の実力に納得がいっていないし、それに──この内容では、引き分けというよりも『負け』だ、と心の奥の自分が叫んでいる。そんな考えを脳裏に持っていたからこそ、腕があまり動かない。

そうだ。さっき自分で言っていたとおりに、俺は今無性に悔しかったのだ。

 

「立香」

 

対面の簪が瞳を向ける。これまでとはまた違う、瞳。

戦場に高揚する眼ではなく、何かを諦めたような眼でもなく、ただ強い意志がこもっていた。

 

その目つきは、そう、まるで──戦士のような。

 

「ありがとう。これで、私も戦える」

 

そう言って、対面の彼女は静かに微笑んだ。

 

 

 


 

 

 

「……え、誰こいつ。なんでこいつもISを使えてるの?」

 

苛立ちの声が聞こえる。

子供の癇癪のような、静かに滲ませた大人の威圧のような、そんな乖離した印象を抱かせるような、声。

 

「生意気だなぁ。藤丸立香?こいつただの凡人じゃん。なのに国連なんかに守られちゃってさ」

 

キーボードの音が大きくなっていく。

それに比例するように、声にも感情がさらにのる。

癇癪は、今や半分ほどは憎悪に染まっていた。

 

「ふーん。南極の天文台ねぇ。……ま、いいか。今度のトーナメントで適当に潰せばいいし。

というか、今の私の興味はこっちに向いてるんだよね〜」

 

憎悪はぱったりとやむ。人が変わったかのような、まさしく変わり身。

女の手元のそばには、みどり色に輝く『水晶』があった。

 

「周りを汚染していくかのように広がっていくこの水晶。例えるなら、癌細胞?

たまたま南米のあたりの衛星を見てたら見つけちゃったけど、この水晶、束さんをもってしてもどういうものか全くわからないんだよね〜」

 

高速で刻まれていく情報。

そのほとんどの要素は──不明。

これを見つめる科学者・篠ノ之束はふと、思う。

 

まるでこの物質は、宇宙から飛来してきたようだ、と。

 

「……もしそうなら、私としては嬉しいんだけどなぁ」

 

少女のような顔をして、束は静かにそう呟いた。

初めて宇宙を目指したその夢を、この水晶が示してくれていたらいいなと、淡い願いを込めて。

 

──誰もいなくなったその部屋で、水晶が、煌めいた。

 

 

 


 

 

 

「……ふぅ」

 

クラス対抗戦当日。

最近再び始めた朝の鍛錬の途中で、一つ息をこぼす。それだけで、心がクリアになっていくのを感じた。

 

あの日。

セシリアと、立香に負けたあの日のことを、思い出す。

あの日あの時の記憶はほとんどない。ただ我武者羅に動き、己の()のままに動いていた。

その日の動きを取り戻すために、ただ無心を研ぎ澄ませている。

 

ざっざっ、と足音がした。誰であるかの確認もいらない。この足音は、最近聞き慣れた人のものと、何ら違いがないのだから。

 

「朝から精が出るな、一夏」

 

篠ノ之箒。世界がISによって分かたれるより前の、俺の友人。

そして──世界を新生した、篠ノ之束の妹。

 

「ああ。やるからには、みっちりやりたいし。だからここ最近、ずっと手伝ってもらっただろ?」

「うむ。あの頃より太刀筋は鈍ったが、その代わり勘が鋭くなった。今日は全力で行ってこい」

「いや……」

 

クラス代表になってから、セシリアにも、箒にも、よく手伝ってもらった。

ISについてはセシリアに。剣の戦い方を箒に。自分で言うのもなんだが、ずっと貪欲に知識を吸収してきた。

 

息を吸う。鋭く吐く。

 

「──勝つさ」

 

自信に溢れた声色が、喉から生まれ落ちた。

間違いなく、俺は思っていた。勝てないかもしれないが、それで弱気にはなりたくなかった。だからこそ、言ってやった。

それを聞くと、箒は軽く笑って、言うのだ。

 

「一夏、それが言いたかっただけだろう?」

 

ごもっともですとも。

 

 

 


 

 

 

アリーナの観客席には人がごった返していた。熱気も高い。

来賓席には高価そうなスーツを着た要人方が、慇懃そうな態度で座っている。

……というかそのうち一人にこれでもかというほど見覚えがあった。ギルガメッシュ、どうしてそこにいるのさ。

金髪の偉丈夫ってことでかなりの注目を浴びているのに気付きながら、彼は楽しそうにしている。さすが黄金律:A持ちである。

俺は今、カルデアのインカムを耳につけた状態で観客席から少し離れた出口の近くにいる。ダヴィンチちゃん曰く、怪しい動きがあったとかなんだとか。

ホームズとモリアーティーがそれに同意していたので、このタイミングで何かあるに違いないとあたりをつけて、待機中なのだ。

 

対戦カードを確認してみる。

第一戦は一夏と鈴の二人の対戦だ。それの後に、三組と簪の試合。

……間違いない。絶対に、この第一戦で何かが起きる。漠然とした直感が、最大音量でそう告げている。

……これ、簪のデビュー戦のはずなのに無くなってしまうのだろうか。だとしたら王様が怒りそうなものだが。それも盛大に。まあギルガメッシュが表舞台に出てからまだ時間も浅いし、彼の性格を知っての犯行ではないのだろうが。

 

『立香くん、動きがあった。未登録のISコアを搭載した物体が、空から降ってきてる。数は3機、うち一機は他と比べて反応が大きい……気をつけて』

 

ドクターからの通信が入る。世界最高の魔術王ということもあって、やはり途轍もない索敵だ。

出口からは動かない。非常事態が起こった時に、パニックになった人間がここで詰まったら大惨事になる。一夏のことも鈴のことも心配だが──彼らは強い。簪ももちろんだ。

だから俺は、静かに宇宙から飛来するものを待ち続けていた。心に生えた、謎の焦りから目を逸らすように。

 

耳に大きな声が入った。我らが代表の一夏と鈴が入場したようだった。

両者、思うところがありそうな表情で何かを話している。しかし共に静かに武器を構えて──そして、試合が始まるその時を待っている。偃月刀と純白の刀を構えて互いに立つその姿は、俺の目には神聖なものに見えた。

 

カウントが始まる。会場の熱気もぐんぐん上がっていく──

 

「ねえ、立香くん?」

 

──声が、聞こえた。生徒会長の、更識楯無の声だ。

その瞬間に肩を掴まれる。激痛が一気に奔っていくのを堪えて、返事を返そうとして──

 

「ちょっと、時間を貰うわね」




#11、ご読了ありがとうございます。前書きでも申しましたが、感想評価お願いします!

少しだけ感想返信をさせていただきます。

>既に立香にはバレてるし今回の件で簪にもバレるだろうけど楯無はどうするんだろう
このままだと権力を使って日本の代表候補生の機体のデータを盗もうとしているロシアの国家代表って構図になりかねないし

これに関しては次に上がる12話で結末を出していきたいですね。一つ言えることがあるとすれば、楯無は不憫なお姉ちゃん。

>打鉄・弍式の開発元
倉持→カルデアスの認識で相違ありません。ギルさまが利権を買い取った、的なイメージで。

>魔改造
作者のロマン。簪ちゃんにはこういうふうに戦ってほしいなってビジョンを叶えるためにアセンブルしたら、キラくんみたいな戦闘スタイルになりそうだなって思いながらやってました。

あとカルデアスタッフはみんなイカれてるので、身体が勝手に闘争を求めています。
イカれたメンバーを紹介するぜ!(一部の人は本編にはきっと出てこない)
技術主任のダヴィンチ!神造兵器エルキドゥ!パトロンの古代王ギルガメッシュにオジマンディアス!コーラル中毒者!ガノタ!ズラ……じゃなくてアスラン!ロマンに脳を破壊された男!闘争を求める男!火力主義者!他多数だ!
ちなみに他にはスーパーコーディネーター、人類に絶望してたけど立香くんの希望に脳を焼かれた元破滅主義者などがいます(白目)

他にも感想ありがとうございました!次のお話もご期待ください。

追記:TwitterのIDが変わってます。
https://twitter.com/Kisarag1_o ID変えたことをすっかり忘れていました!こちらから私のTwitterに飛べます。くだらないツイートとかいろいろしてます。これからも何卒よろしくお願いいたします。

ぶっちゃけ他作品同士のカップリング(NL)って許せる?

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