俺 自身がガンダムになることだ 作:解毒剤からビームサーベル
次からは大体二週間おきの投稿に成ります。生きるのって大変……。
松下との問答後、人混みを掻き分けながら突き進む千束。しかしその歩みは遅く、仕方がないとはいえ、介護用電動車椅子という非常に大きな足枷は、彼女達の逃走を重く制限していた。通行人を撥ね飛ばす訳にもいかず、人が乗っている以上、重量的にも安全面的にも速度に緊く制限の掛かかった逃避行は、今も着々と見えない刺客との差が縮まるばかり。そんな焦燥感に焦がされている千束の耳に、切れて久しく感じる無線機から、微かな反応がノイズ混じりにフェードインしてくる。
『━━━ザザッザッ━━答さ━ザッ━━り返す━ジッ━━度、連絡。繰り返す、直ちに応答されたし───
「翡翠っ!?」
思わず人目も憚らず、声を響かせてしまう千束。周囲から怪訝な視線を向けられ、肩身の狭い素振りをしつつも、繋がった通信相手に飛び付く様に話し掛ける。今、この緊迫した形勢でやっと繋がった頼りになる援軍の存在は、それだけで幾分かの肩の重荷を軽くしてくれる心地だった。
「良かった、漸く繋がった……」
『マスター・千束の無事を確認、心より安堵。そして帰投に遅れた事に、深く謝罪』
「そんなのいいからっ!今、たきな達がどうなってるか分かる!?」
自身の安否を憂う言葉を直ぐに打ちきり、情報のすり合わせを行う。翡翠の方は問題なく終わった事。たきな達と連絡がつかなく為った事。そして、今コッチに本命らしき刺客が向かっているらしい事。どこもかしこも無視できない問題ばかりで、もはやどれから手を着けて良いか判らない状況。危険で悪辣な気配がチラ付き、向こうも明らかに只事ではないのは容易に想像が出来る。しかも、翡翠側でも通信環境の悪化が酷いらしく、通信を繋げれたのは逃げ回る千束達を発見して近くまで来れたからだそうだ。
『……報告、短時間且つ、限定的にミス・クルミとの通信回復に成功。しかし、彼女達からの情報ではミス・ミズキが危機に陥ったと推測される情報が伝達された』
良い知らせと悪い知らせは同時にやって来る。一つのお約束とも言えるジンクスは、今の自分達にも適用されているようだ。曰く、翡翠側から一方的に聞こえる通信では、どうやらミズキが何者かの罠に掛かり、車ごと水中に引きずり込まれたらしく、最早一刻の猶予もない事態に陥っているとのこと。
車ごと水中に沈められる、それはほぼ脱出不可能な檻に閉じ込められたも同然の状況。車が水に浸かるということは、単に水圧でドアが開かなくなるだけではない、浸水によって内部機器が瞬時にショートし、電子機器的にも操作そのものが出来なくなるという事だ。そうなれば、唯一の脱出口である窓も動作不能に陥り、どんな凄腕ハッカーでも干渉可能な要素は無くなる。クルミは勿論、たきなも陸とは比べ物にならない程の抵抗が在る水中では、ただの無力な一人の少女でしかない。普通の事故でも、車が沈没時に脱出可能な時間が大凡30秒から2、3分だと言われている事を考えれば、完全に詰んだと言って差し支えないだろう。千束の中で一度は鎮火した筈の燻っていた焦燥感が、さっきよりも更に激しく燃え上がる。聞けば聞くほど絶望的なシチュエーションは、背中に氷柱でも挿し込まれた気分だ。千束の口内から硬質な物を擂り潰すような音が鳴る。
『………提言。マスター・千束が遅滞戦闘を行っている間に、当機がミス・ミズキの救助に向かう
「……え?」
そんな先の見えない暗闇の中、変わらない抑揚で投げて来た言葉に千束は光を見た。
『ミス・ミズキの乗車していた車の構造、事故発生現場、経過時間等を統合計算したところ、まだ生存に充分可能な空気が在ることが推測出来る』
「待っ、待って、何をどうす………まさか、潜れるの?」
『肯定。当機は全領域戦闘を前提に設計されている』
喜べばいいのか、驚けばいいのか、それとも呆れればいいのか……何とも言えない顔に成る千束。その後に続く自己申告では、最低潜航可能深度は500メートルとのことで、乾いた笑いが漏れた。悉く常識を舐めきったその規格外な性能に、『まぁ~た、常識にケンカ売ってらっしゃるなぁ……』と、益体も無い感想が浮かぶ。未だにDAでは翡翠に関する情報や対応策を求めて奔走しており、あまりの進展の無さに、とうとう専門の大規模部署までも立ち上げられたのだとか。ソコにこの情報をぶつければ、ゾンビの様に元気(秘薬:エナドリドーピング投薬済み)に
「……翡翠、ミズキ達を任せていい?」
『
此方を憂慮する言葉。嬉しくはある。だからこそ、今ココで送る言葉は、決まっていた。千束は不敵な笑みを浮かべながら言い切る。
「私が強いのは知ってるでしょ?だからコッチは気にせず行って来て!」
『……
後顧の憂いは既に無い。
隠す事はしても
『マスター、御武運を』
「アリガトッ!翡翠もね!」
■
町とは、無機物の集合体である。木や動植物で構成された森とは違い、一度出来上がれば成長することも枯れる事も無い、鉄とコンクリートを主成分にしたジャングル故の不変の集合体。にも関わらず町は年を、季節を追う毎にその姿を変えてゆく。男女が夫婦となれば住まいが建ち、アレを食べたいコレが食べたいと言う者が集まれば食事処が、より人が集まれば病院が、学校が、ビルが、ありとあらゆる建物が建つ。そうやって何度も 何度も何かが出来上がったり、今在る物のを壊したりして、生き物の様に長い年月を掛けてその姿を変えていくのが町だ。
そんな町の小さな変化の一つが行われている人気の無い工事現場を、警戒しながら横断する刺客の男は着々と標的に迫っていた。
「(……チッ、あの時の監視カメラか?………コレは少々不味かったかもな………)」
今回の依頼はある老人の暗殺。狙われる理由はまぁ、判る。だがその事を成すためのバックアップ、もとい、作戦がキナ臭かった。確実に事を進めるために、複数のチームで陽動、そして本命である自分が仕上げるという内容なのだが、バックアップの者達には作戦を確実にするために全貌を説明していないらしく、依頼主が指定した時間と場所毎に襲撃をしてもらうよう手配をしているそうだ。鈍い者なら“そんなものか”で流してしまいそうだが、男はそうではなかった。
「(確実に殺したいなら、何故全員に情報を共有させようとしない?下手すれば同士討ちになる場合も有るぞ?それに、この妙な指定時間と場所は何だ?………)」
護衛を引き剥がすのは判るが、その戦力と場所が男目線では珍妙すぎた。こういう場合、素人である依頼主本人ではなく、プロである自分達が要望を伺いながら主導で作戦の立案するものだが、それを相手は頑なに拒否。依頼主にも何かしらな理由もあるのだろうし、それを汲むのもプロというものだが、今回の依頼は金の掛け具合にしては本気で殺ろうとしているようには見えない。それなりに戦地を歩いてきたからこそ拭えない違和感。しかし、最早 後の祭りである以上、止めるという選択肢も無い。『今回ばかりは、聞いておけば良かったか?』と、男のポリシーに罅が入りそうになっていたその時、何が変わったのを頭の隅で直感が囁く。余計な事を考えながらも、鋭敏に研ぎ澄ましていた感覚は、確かに自分の身に危険が迫っていた事を教えた。ふと、依頼主のバックアップの一環として、暗殺対象に付けられていた発信器の行方を視れば今まで闇雲に動いていたターゲットが、此方の位置を明確に意識した動きになっており、それを確認して直ぐに護衛が迎撃に来る事を確信。
作りかけの壁を背にし、より五感を張り巡らせて思考を回す。
……あの時から気付かれていた様な素振りは有ったが、コレは確実に此方の今の位置を把握している動きだ。………此処では周囲にドローンや監視カメラの類いは無いはずだが…。……それに、気付いたのに発信器は動き続けている?……どちらにせよもう宛にはならんな。
静かに余裕をもって、されど素早く拳銃を構え備える。第六感とも言える、論理的な根拠に根ざしていない、一見すれば、ただの当てずっぽうような判断。実戦という場で、十把一絡げな凡夫がやればただのピエロにも成れず、不様に屍を曝すだけの行為。しかしそれは、濃密な経験と結果で、今までも、そして今も、実利をもって証明して来た男にとっての信頼できる武器の一つ。相手の動向が変化した時刻、相手と自分の位置関係、対象の護衛人数とその装備と容姿、周辺の地理と構造、雑念を排除してクリアに整理していき、直ぐに大体の目星へと睨みを利かせる。そして予測は見事に当たった。男の視線に炙り出された様に、乱立する武骨な建築中のやや高所の足場から、紅い影が飛び出す。軽やかに、撓やかに、されど鋭く迫り来る影。しかし、距離としてはそれなりに離れており、自身の技量なら十分に射程範囲内という有利な条件。着地を狙い、落ち着いて、冷静に、トリプルタップ。
牽制と目測の為の一発目、当たらないのは想定内。
修正を加えた二発目、これも当たらないが初弾同様これも想定内。
本命の三発目、対象の体がほんの少し傾き、狙いが逸れる。
絶対の自信が覆され、瞠目する。対象が高速で動いている以上、ある程度外すのは想定内だが、全弾全て当たらなかった事は想定外だった。だが、焦りはしない。冷静さを欠いた者から死んでいくのは軍場での掟、故により引き付けて、放つ。が、確殺の狙いは、駆けてくる少女がヒラリと舞うだけで逸れていった。
「──!?」
そこで漸く気付いた、相手が
「ッラアァッッ!!」
「ッッッッーー---!!??」
ボディアーマー越しに連続で叩き込まれた強烈な衝撃は、大の男でも一発で悶絶する程のモノ。ブレる視界の中、それを受けた男は胸襟で己の未熟さに叱責と、相手の少女の特異な戦闘能力を称賛しながら吹き飛び、意識を手放した。
■
「…………ふぅ……」
今しがた撃破した男を見据えつつ周囲も警戒する。正確な射撃と此方の位置を即座に割り出した洞察力に、不利な状況下でも鈍らない判断力は、看板に偽りなしの強かなベテラン。翡翠から、刺客の装備情報の予測や松下の安全確保が出来ていなければ、非常に厳しい戦況に成っていたと痛感させられる相手だった。だがそれも終わり、直ぐにたきな達とも合流しないと、そんな思考に傾き始めたところで、場にそぐわない落ち着いたクラップ音が響く。
「……お見事………そして、ご無事で何よりです」
「……松下さん?………」
振り返れば逃がしたはずの依頼人、松下がそこに居た。何故やって来たのか?そんな当然の疑問を聞く前に松下が先に口を開く。
「……最後に御伺いしますが、本当に“殺し”はしないのですね?………」
「っ!…………うん、しない…………」
再び問われた選択。あの時と同じ無機質な冷気に一瞬、息を詰まらせるも、ソレをキッパリと拒否。より安全を期す事を考えるなら相手の息の根を止めるという選択は、今からでも遅くはない確かな方法だ。だが、“それでも”と、意味を込めて千束は見つめ返す。個人的な願いが多分に含まれているその選択に忍びなく思いつつも、絶対に答えを変えたくなかった。不格好なのも、矛盾しているのも、全て引っ括めて自分で、ココで曲げてしまえば全部嘘に成ってしまうから。
ぶつかり合う視線、実際はほんの数秒にも満たない短く濃密な時間を経て、松下は静かに深く目を閉じ納得するように頷く。
──そしてそれを
「そうですか………成る程、
「………松下さん?………」
松下は徐に、車椅子を刺客の男へと向かわせる。何を言っているのか?そんな事に思考割いて、自分とすれ違い更に刺客へ あと数歩という付近まで接近するのを呆けて観ていた千束は─────
「………動かないで……」
「…………」
今までの会話、松下の真意、そして今回の異常なアクシデントの連続。言い様の無い不安の中、点と点が嫌な予想で繋がっていく考えを振りほどこうとする。やるせない表情のまま千束は護衛対象である松下から銃口を外さずに警告。
「…お願い、松下さん。その人から離れて………」
言葉の先は聞かない、嫌な予感ほど当たるものだから。だが、それは無意味な抵抗だった。なぜなら相手は、
「……貴女こそ、私から離れた方がいい」
そう言うと、手元のパネルを操作してから、緩慢な動きで車椅子から立ち上がり、刺客に更に近付いて行く。
「
構えた銃口がぶれる。続く解説では、起爆自体は手動でするつもりだが、保険として私やコレに少しでも何かが遇れば即座に起爆するようにした、と。「……どうして?…」、溢れた心の悲鳴はとても弱々しく震えた声。距離もあり、小さな声だった筈なのに、後ろを向いたまま松下はそれに答えるように語りだす。
「………私の未練はね……家族の仇を討つ…それだけだったんだよ。……だからこそ、今日まで生き恥を晒してきたんだ。…守れなかった妻も、娘も……この、今日という仇を討つためだけにね………コイツで最後なんだ……コレで……あの日のケジメがつけれる」
「……松……下…さん?…………」
声が震える。今も非力な老人の声量にすら負ける程度のか弱い抵抗は、痛々しさしかなく、時おり吹くそよ風にすら勝てない。
「…君達には悪い事をした……謝って済む問題ではない。……しみったれで傍迷惑な爺からでは大いに不満だろうが、報酬金とは別に用意した示談金は、既に支払う手筈に成っている。……端金だが、受け取ってくれると幸いだ」
「……やめて……」
その語りは、ただ壁に喋っているだけのよう……いや、実際に対話をする気は無いのだろう。先程からチラリとも千束を見ずに一方的に聞かせているだけだ。
「さぁ、離れていたまえ。……私としても、貴女のような器量の良い娘を巻き込むのは本意ではない。……何より、向こうで妻と娘に怒られてしまう……」
「…松下さん……!」
ココで漸くクルリと振り向き、困ったように微笑みながら千束を見て。
「そして、最期に成りましたが…素敵な観光をありがとう──
「松下さ────
最期に張り上げた千束の声は、押し潰すように向かって来る光と音の壁が掻き消す。一際柔らかく微笑んだ松下を見て駆け出そうとするが、その間際、後ろから伸びてきた白く嫋やか細腕が、千束の首に巻き付き、後方へ引き倒して誰かが覆い被さる。それを境に視界が白く暗転した。
■
「………──ち───と!───束────千──………」
何処かで誰かが呼ぶ声がする。明滅する視界、ボヤけた聴覚、ハッキリとしない思考が次第に輪郭を縁取り始め、ある一定の越えた先で、漸く認識出来るようになった。
「───……た…きな……?」
「千束っ!!」
まず目に映ったのは、今にも泣き出しそうに顔を歪ませた たきな だ。そのたきなに支えられ、軋む体に鞭を打ちながら上体を起こせば、次に飛び込んで来たのは濛々とした命を否定する黒い残り火と煙。作りかけだったとはいえ、ヒビ一つ無く、これから何十年もビルや人を支える筈だったコンクリートは粉々に砕け、自分の肩幅と似たような太さの鉄骨まで折れ曲がり、爆発の規模と威力を雄弁に物語る。たかだか人間二人程度なら、欠片さえ残さず消し飛ばしても尚お釣りが返ってくる程の惨状。
「………う、ぁ…ぁ………!」
絞り出すように出てきた呻き声は、後悔と懺悔に塗れていた。もっと上手く出来ていれば、もっと早く気づいていればと、今さら意味の無い感傷で顔が歪み、溢れ出る悔しさは、掌に爪が食い込む形で発露する。
『…………焦らすのが上手すぎじゃないのか?色男』
「肯定。本日の当機は、
空気を読まない軽口が無線機と目の前から飛んで来て、絶望の暗幕が、光る風に吹き散らされる。
ソコには
翡翠の謎の比喩表現に「何だソレ?」と、クルミが喉奥で笑いながら返す。千束は今度こそ全身の力が抜けて、立てなかった。
たきな「皆離れろっ!松下が爆発するぞっ!!」
松下「ホァァァァァァァァァァッッ!!!」
※コレに出てくる松下は原作松下では有りません。次回などに明かしていく予定ですが、原作の『ラジコン松下は出せなかった』というのが本音なんです。なんせ、横に立って魔法のスーパー粒子をチョロっとばら蒔くだけで、ラジコン操作をぶった切れる奴が居るもんで(白目)………。これからも、そういった変更やバタフライエフェクトを意識して書いて行くと思うので、それでも良ければお付き合いください。
※分かり辛かった人の為に再び改変松下を掲載します。
【挿絵表示】
投稿間隔と文章量について:今回のアンケートは文章が短く切りが悪くても良いから少しでも早い投稿が良いか、がっつり読みたいから時間が掛かっても切り良く読みたいか、のアンケートです。他にも、単純に短い方が読みやすいか、長い方が良いか等でも選んでいただければ、と。ただ、リアルでの生活の状況でどうしても遅れたり、ストーリーの進行具合の関係で、一気に投稿したいが為に書き留めする事が有るのをご了承ください。
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切り悪くても早い投稿の方が良い
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時間が掛かっても良いからガッツリ読みたい
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単純に短い方が良い
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単純に長い方が良い