俺 自身がガンダムになることだ   作:解毒剤からビームサーベル

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 大変お待たせしました。(瀕死)
 せめて2話分の文章量と見逃して頂ければ幸いです。(白目)

 ※追伸:想定以上に長くなったせいで、見苦しい所が有れば申し訳ありません。



大丈夫だ、問題ない

 

 

 

───PM 15:23、○○モール周辺域外───

 

 

 

 (せわ)しなく行き交う人と車。慌ただしい怒号。その場はまるで戦場(いくさば)の様な緊迫感────否、事実戦場(いくさば)と言っても過言では無い程の緊迫感に包まれている。何せ最低でも100名以上の命が天秤で揺らいでいるのだから。

 

 

「───駄目です、阿部さん。何処もかしこも“喋れない”の一点張りです……」

 

「だろうな………」

 

 

 そんな場所で、抑えきれない憤りを醸し出しながら戻ってきた三谷と、テープの仕切りの向こう側を険しい目で睨む阿部が居た。何故、阿部達がこんな所に居るのか?というと、特に深い理由は無い。たまたま近くを視察していた彼らも何かしらの騒動に巻き込まれ此処まで流されていた、というだけの話だからだ。

 

 突如一方向から押し寄せてくる人波に、逼迫した様子で駆け回る警官や救急隊員達、そして物々しい喧騒が事件を連想させたのはごく自然な事で、直ぐ様彼らは警察としての責務を果たすべく行動を起こした。しかし、結果から言えば阿部達は何もさせてもらえなかった。

 

 

「クソッ!何なんですか!アイツら………!?」

 

「…………」

 

 

 無線の一切が使えなかったのでその場凌ぎの判断だが、流れてくる人々を一緒に居た警官達と共に捌きながら現場封鎖や避難誘導をし、兎に角場が一通り落ち着かせる事に阿部達は尽力。が、阿部達が動けたのはソコまで。

 

 保護した人や集まった警官達に事情聴取を行おうとしたタイミングで、横破りに現れた聞いた事も無い部署の者達に、有無すら言わせてもらえず阿部達は閉め出され───

 ───そして現在、こうして現場周辺の外縁部にてくだを巻く羽目になっていた。

 

 

「コレ、絶対普通の事件じゃないですよね?」

 

「……そうだな………」

 

「やっぱり、()()()()ですかね?」

 

「……“暴いてやろう”、なんて考えるなよ?少なくとも連中は政府(こっち)側の人間だろうからな」

 

「…っ!……」

 

 

 一切不服を隠そうとしない三谷に阿部が釘を刺す。そもそもこの事件、始まりから妙だった。明らかに尋常ではない騒ぎの規模に、刑事にすら規制された事件の詳細。極めつけは事件発生時から続くほぼ全ての無線が使用不能になる現象。後に唯一伝えられた(というかやや強引に詰め寄って得た)情報は、大規模な人質を捕った身代金目的の立て籠り事件だ、という事のみ。

 

 

「身代金って…あり得ますか?こんな場所で?

 それにこの通信妨害……!」

 

 

 ハッキリ言って、不自然しかない。犯人が高度な電子戦を展開出来た事もそうだが、何故、自分達を聴取も無しに追い出したのか?何故、犯人はこんな守りにくそうな場所を選んだのか?何故、犯人を目撃した者は内側へ誘導されたのか?というか犯人の容姿や凶器は?本当に犯人は身代金目的なのか?等、つつける所が多すぎる。

 

 そう、これではまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいではないか。

 

 それに一部の行き交う警官や保護された被害者から流れていた珍妙な(情報)もあり、三谷の中の不信感は今でも際限なく膨らみ続けている。

 

 勿論、このままでは納得のいかなかった三谷は方々に連絡と確認を行ったが、結果は散々で得られた御言葉は『既に専門家が動いている。お前達は戻れ』、だ。

 

 

「………これって、やっぱりテロですよね?それもかなりヤバめの……」

 

「………」

 

 

 続々と現場に到着する機動隊が、何故か自分達の目の届く範囲で周囲を固めていく様子を観つつ、ほぼ確信している疑問を呟く。脳裏に過るのは先日阿倍に連れられて視察した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 阿部の言っている事は判る。そして自分の事を慮ってのことだという事も。

 もし阿部の推論が正しいのなら、今回の事件に噛んでいるのは自分達とは比べ物にならない程の権力を持つ者達。声一つで(個人)の痕跡をどうとでも消せる存在なのだろう。

 

 三谷とて警察官の端くれ。想像でしか語れないがなんとなくは判る。自分達の世界から近くて遠い権力者達の世界は、深謀遠慮で複雑怪奇。白が黒に、黒が白に幾らでも入れ替わり、(多数)の為に(1人)が無慈悲に切り捨てられる。綺麗事だけではままならない世界だという事くらいは。

 

 だが理解は出きても納得は出来ない。現場を直接視れた訳ではないが、自分はその場に居た当事者で刑事なのだ。

 ならばせめて少しでも何か出来る事が在る筈だと内に秘めた自分が叫ばずにはいられない。

 

 それこそ、あの時引き離された、さめざめと泣く被害者の親御さんに寄り添う事くらい、と。

 

 

「──……俺、やっぱり納得できません……!せめて…せめてなにか──」

 

「やめとけ。俺達に出来ることはもう何もない。下手にでしゃばっても現場を荒らすだけだ」 

 

「っ…!だったら、あの如何にもな連中を信じるって事ですか!?」

 

「俺達じゃあ、力不足だって言ってんだ…!」

 

「そんなの……もしかしたらアイツら、見えないのをいい事に滅茶苦茶するかも知れないんですよ!?」

 

「じゃあ何が出来るってんだ!?この規模の機動隊まで出張って来てるって事は、相手は相当ヤバいもんを持ち込んでるって事なんだぞ!?」

 

 

 ぶつかり合う意見。平行線の議題。阿部も三谷の言わんとしていることが解るからこそ、窘めはしても否定はしない。

 

 阿部とて同感だった。あの時シャシャリ出て来た連中の目は、信用できないと、長年の刑事の勘がそう囁いていたのだから────

 

 

「───………あん?何だありゃ?」

 

「話を逸らそうとしないで下さい!」

 

「いや、マジで何だありゃ?……」

 

「?……───」

 

 

 ────だからこそ、そのまま無為にぶつかり合うだけだと思っていた現状が、唐突に冷や水を浴びせられた事に思考が追い付けなかった。既に阿部の先程までの勢いは完全に鎮火しており、そこには呆然と宙を見上げる先達しか居ない。

 

 そんな阿部の様子を認識したことで、漸く三谷も周囲の異変に気付く。()()()()()()()()事に。

 

 自分達以外は絶対に通すまいと厳戒態勢を敷いていた警備が──

 

 何時どのような事が遭っても即座に突入出来るように構えていた機動隊が───

 

 取り残された我が子の安否を必死に訴えていた親が───

 

 対岸の火事なのをいい事に物見遊山でガヤガヤと集まった野次馬が───

 

 呼び掛けよりも数字を、真実よりも面白さを探していてたマスメディアが───

 

───()()()()()()()()()───

 

 

「────何を言って──…………は?───」

 

 

 そして、三谷も視線を追った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───同時刻、○○モール内イベント広場───

 

 

 

 

 タイルとコンクリートで構成された冷たい床に座らされて居た人々は、震えながら身を寄せ合う。しかしそれは寒さで震えていたからではない、日常ではまず感じる事のない死を匂わせる暴力の気配に脅えていたからだ。

 

 基本的に全員無作為で連れてこられてはいるが、場所が場所だったが故に比較的若い層が多く、大体は高大生の友人グループやデートカップル、他には新婚といったくらいの者達が大半で、皆、一様に恐怖に蹲って耐えている。

 

 その中で、最も幼く、親から引き離されたのであろう玩具を抱きしめて座る男の子に、公安の俺は寄り添っていた。

 

 

「大丈夫…もう暫くの辛抱だよ………」

 

 

 地の低い俺の声でも、少しでも不安を和らげれればと、声を掛けその震える小さな背を摩る。

 

 親という寄る辺を失くし、本当なら今すぐにでも感情のままに振る舞いたい筈。それをしないのは強要(おど)されたからというだけではない。(こら)えているのだ。大の大人でも喚き散らしたくなる程のこの環境で、懸命に。

 

 (………強い子だ……本当に……)

 

 そんな小さな勇者を横目にしつつ、神経を研ぎ澄ませ、決して視線を送らず、されど自然に、細心の注意を払って、ゆっくりと、片手を服の内側へ動かす、が────何処を見ているかも判らなかった異形の犯人の目が、明確に此方へ動いた。

 

(チッ………随分目敏い無人機だ………)

 

 視線一つで行動を潰された事に内心で舌打ちし、上がりかけていた手を戻せば、奴らも此方を見ていた1つ目の視線を外す。

 

 奴らの勤勉で親切な対応に今度こそ舌打ちが表に出そうになるが、下唇を噛んで努めて冷静さを維持。

 しかし、いずれやって来る機を逃さない為に現状を御復習(おさら)いして練っている幾つもの案は、どれも成功するイメージが少しも湧かない。

 此所まで連行されて来た俺達は、座る以外特に命令こそされなかったが、厳しい監視下にあった。

 

 奴らに不審と判断されたり喚いていた者達は漏れ無くテーザーガンや鈍器にも成る腕で乱暴に取り締まられ、そして今言ったような騒ぎを隠れ蓑にして反抗を企てた者達───俺が追っていた本来の犯人(ホシ)の護衛達だが───は、前者の者達以上に加減の知らない取り締まりで、時折微かな呻き声を出すだけの置物として地面に転がされていた。

 

 パッと見でしかないが、死んではいないし命に別状も無いとは思う。が、民間人からすれば相当にショッキングな光景だったのは間違いなく、皆、必要以上に体を強張らせて経過時間よりもずっと心身を消耗している。

 その上そうやってまで判ったのが(不確定要素を多分に孕んでいるが)ルーチンワーク過ぎる対応から『AIによる自立型ではないか?』、というどうしようもない事実だけ。

 

 …………先程もそうだったが少しでも何か出来ることは無いかと模索した故の行動は、藻掻けば藻掻く程に自身の無力さを突き付けられる。

 

(相手は無人機、集中力切れなんて無い………。

 しかもあの重武装だ。外の連中も迂闊に手出し出来ないとなれば、長期戦は必至…………それまで人質達の体力は持つのか?

 そもコレを用意したのは何処の組織だ?それに奴らの目的は?犯人(ホシ)の抹殺じゃない?此所で何が起こっている?何の目的でこんな大それたことを……───)

 

 懸念に心身を削られ、疑念が翻弄し、謎が謎を呼ぶ。劣悪な環境で思考は散らかるばかりで時間だけが無情に過ぎて行く。

 警備体制も秒刻みで管理され万全にして鉄壁。監視員は文字通りネズミ一匹すら見逃さない目の持ち主、隙を探すことすら馬鹿らしい。

 作戦実行日目前で浮かび上がったきな臭い話や急遽の予定変更も脳裏を掠め、思考はズルズルと迷路に引きずり込まれ最早何がベストなのかすら分からない。

 

 そんな頃、眉を顰めて考察がグルグル空回りしていると、摩っていた坊やの背が跳ねた事で現実に引き戻される。

 

 俺達を等間隔で囲う7機中の1機が、定刻通りのローテーションで人質の集まり中を巡回。感情の一切が見えない獄卒が少しずつ近付く度に、坊やの背の震えが大きくなるのが判った。

 ……俺は坊やに聴こえないよう小さく深呼吸し、彼に目線を合わせる。

 

 

「……カッコいい玩具(ロボット)だね、お気に入りかい?」

 

 

 努めて穏やかな声を心掛ける。そうだ。明かせないが此所に居る警官は俺だけだ。ならば俺は俺に出来る事を成さねばならない。幸いな事に、多少の雑談程度ならしょっぴかれないのは確認済み。なら、少しでも彼の気が紛れればとお話する事にした。

 本来であればこの子1人だけでなく他の人達の様子も看るべきなのだが、“流石にこれ以上は……すまない”、と、誰にも聴こえない言い訳を頭の隅に追いやってゆっくり待つ。

 

 

「……コズミックエンペラー……」

 

「あぁ、ギャラクシーレンジャーズか。オジさんも知ってるよ」

 

 

 消え入りそうな凍えた声で返してくれた名詞に、家での記憶を思い出す。今放送中のヒーローモノで、息子にその玩具をよくせがまれたのを。ただ、俺の記憶していた物と違い、本来の赤を主体としたカラーではなく、緑と白のマーカーで塗り直したお手製感が増した品だ。

 よほどのお気に入りなのだろう。年季の入った細かい傷や塗装禿げが如実にそれを示している。

 

 

「……悪い奴らは……コズミックエンペラーがやっつけてくれるもん………」

 

 

 そう言って、一際強く玩具のロボットを掻き抱く。お守りのように。願うように。その姿を見て、実子とこの子を重ねていた事に今さら気付いた。親から引き離されたのはこの子だけだったとか、最も幼い子供だったからとか、幾らでも言い分けは立つが、公私を別けきれていないのは間違いなく、“これではまだまだ半人前だな”、と自笑を溢す。

 

 そんな時だった。

 

 

「うん、そうだね。だからもう暫くの辛「いい加減にしろっ!!!」っ!?」

 

 

 衣擦れや押し殺した祈りしか聞こえなかった空間が引き裂かれ、全員の注目が集まる。発生源である直ぐ隣の初老から中老に差し掛かるくらいの男の、立ち上がっている姿に。

 

 

「──お、お前達の目的は『()()』だろう!?わざわざこんな事をしなくとも用意してやると言っておいていたではないか!?」

 

 

 ワナワナと震えて目を血走らせ、要領を得ない文字の羅列を喚く。端からすれば何を言っているかとんと分からない意味深な文言。それを巡回していた首が異様に突き出た機体に指を差し、烈火の剣幕で訴える男の姿に俺は嫌な汗が滲んでいた。

 そして当の本人はというと、全くの無反応で淡々と業務処理に動き出しており、俺の中の不安はクッキリと輪郭を帯びていく。

 

 

「いいか!?『アレ』の在処、認証キーは私が管理している!つまり私に何かがあれば永遠に失われるという事だ!分かったら私をサッサと解放せんかっ!!」

 

 

 ズンズンと重い足音を立てて近付く獄卒に尚も言い募るが、奴らの反応は変わらない。

 やはりコイツらは犯人(ホシ)とは別件なのか、とか、こんな場所で機密情報を仄めかすな、とか、脅しが通用する相手か!?とか、散文的な考えが泡沫のように沸き上がるが、そんな事よりも俺は今すぐにブン殴ってでも黙らせてやりたい衝動に駆られていた。

 

 今、人質達の精神は微妙なバランスで保たれている。当たり前だが民間人がこのような環境に慣れている訳が無く、彼らが黙れているのは幾つもの偶然が重なったお陰でしかない。現に今にも限界を迎えそうな者がチラホラ見えている。

 故にもしこれ以上何かがあれば、各々が閉じ込めれていた感情が誘爆していくのも、そしてソレを奴らが最初と同じ様に加減下手(べた)の暴力で処置を施していくのも容易に想像が付いた。

 それこそ、今度は死人が出るかも知れないと思わせる程度には。

 

 張り詰めていく雰囲気が──

 

 青ざめていく顔が──

 

 絶叫の前兆が──

 

 見なくても伝わる。膨らみ過ぎた風船が破裂する瞬間のような───その気配が。

 

 

「────ひっ、や、止め─────」

 

 

 やがて獄卒は男の前にたどり着き、武骨な腕を高く、高く、頭上へと挙げ、男の顔に影が落ちる。

 

 足元で俺の服が握られたのが分かり、俺は無意識に坊やを庇う姿勢をとっていた。

 

 最悪の光景を幻視した、その間際────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───粉砕音と土煙が落ちて来て───

 

 

「コズミックエンペラー、参上」

 

 

 ─────獄卒の腕を踏み千切ったナニかが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

───リコリコ、現場突入より少し前───

 

 

 

 

「───…………ココまでやってから言うのも何だけどな。

 やっぱバカだろ、お前………」

 

「はぁ?⤴私のナイスアイディー⤴アにケチを付けたいなら代案を出してからにしてくれますぅ?⤵」

 

 

 思わず洩れたミズキの感想に千束が噛み付く。

 

 荷台の奥で完成させたモノを改めて観察した千束を除いた一同は、一応自身達も納得した上で携わったにも関わらず名状し難い顔になっており、そしてそれは後ろで見ていた連絡員達も似たり寄ったりな顔に成っていた。

 

 その理由は、(こん)作戦の為に全員で協力して新たなる姿となった翡翠の偉容───

 

 

 ───軽量さと丈夫さを兼ね備えた薄いブラウン色の継ぎ接ぎ増加装甲───

 

 ───子供の夢と希望(後序でにパルプ)で力強く大きくなったシルエット───

 

 ───極め付けは胸部にデカデカと「超合金!ギャラクシーエンペラー、参上!!」と、印字された激しい自己紹介───

 

 

───圧巻のビジュアル───

 

 

──フルアーマーガンダム(紙製)にあった!

 

 

 

 ……………無論、コレには真面目な理由が在る。

 

 千束曰く───

 

 ─────ぶっちゃけた話、“あの数のアイツらを相手にしながら人質の安全も”、ってなったら、そんなの出来るのは翡翠だけでしょ?しかも何処に(カメラ)が在るかも分かんないし。

 だったら、『翡翠に身バレ対策をした上で派手に突入してもらう』、って作戦はどう?

 コレなら陽動にもなって私達も動きやすいしね────

 

 ───との事。

 

 そうした経緯を経て小学生の工作レベルで急造されたのがこのフルアーマー仕様(パッケージ)

 

 先ず、主な仕様はというと、GNフルシールドやGNスナイパーは取り外して全身の9割を段ボールで包み、各部の間接や継ぎ目は不透明の黒ビニールを巻き付ける。次に頭部は前面にマジックミラーフィルムを採用したヘルムにする事で視界と偽装を両立させ、後は手に特大サイズの白軍手を被せて概ね完成、といった仕上がり。

 勿論、コレらの処理を要所要所を重ねる事で戦闘時に剥げづらくなる工夫も忘れない。

 

 流石に脹脛のホルスターや腰部後方のGNバーニアは全てを覆う事は出来ないが、基本的に武装関連は民間人に見せる事は無い為問題無しと判断され、そして今に至る。

 

 

「……まぁ、確かに……コレなら正体を隠せるとは思いますが……しかし………」

 

『フッ、見物(みもの)だな?DAの連中がどうコイツを誤魔化すのかが』

 

「「「……………」」」

 

 

 未だに納得し難き表情のたきなに、見物人感を隠そうともしないクルミ。ソレを隣で聞いていたミカは後に来る楠木の苦労を忍び天井を見上げ、連絡員達はクルミが操るドローンにガンを飛ばす。

 ……非常に…非常に度し難いが、千束の挙げた懸念事項と案自体は的を得ている。動く度に空き箱を叩くような音が鳴るコレに作戦の命運を預けるのは不安で業腹だが………しかし、代案も時間も無いDA側に選択肢は無かった。

 

 後にミズキとたきなはこう語る。震える声で楠木(上司)に報告していた連絡員(下っ端)達の姿は、『とても痛々しかった』、と。

 

 

「……あーー、取りあえず……今一番の問題はこの状態でも戦えるかどうかだ………。

 いけるか?」

 

問題ない(ノープロブレム)────』

(大丈夫だ、問題ない────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───全ての時間が止まる。いや、実際には奴等だけは既に動き出していたのだろう。

 

 だが、それよりも─────段ボールマンの方が迅かった。

 

 片腕を失った獄卒が振り向くよりも疾く、膝蹴りが叩き込まれる。生半な銃器では歯牙にも掛けない装甲は紙のように(ひしゃ)げられ、下から上へ、体をくの字にしながら段ボールマンに導かれ共に宙へ。

 

 この時点で獄卒は全身のアチコチから青白い放電と火を吹き出しており、傍目から見ても死に体と分かる有り様───だが段ボールマンは止まらない。

 

(あ、ヨイショオッ!!)

 

 萌葱色の輝きを煌めかせ、空中で体軸を固定したかのように高速回転。一回転挟んで獄卒と向かい合う頃、上段回し蹴りの軌道に沿ったおみ足が獄卒の胴の芯を捉え、元々(ひしゃ)げていた体を更に拉げさせる。

 遠心力以上の運動エネルギーが乗った襲脚は存分に衝撃を出力。小さな爆発を起こしながら優に数百キロは超すであろう金属の巨躯が、物騒な風切り音を唸らせて人質達の上空を通過し、売店へ突っ込み爆散。

 

(先ずは1キル──)

 

 数字で起こせば秒にも充たない一連の出来事。たったそれだけの間に俺達を絡めとっていた悪意の1つが消える。

 

 引き延ばされた時間の中、段ボールマンを凝視する皆が、頓馬顔でへたりこ込んだ男の顔が、そして───漸く段ボールマンの動きに追い付いた奴等の反応(銃口)が視界の端を掠め───

 

 

「────っ、全員伏せろぉっ!!!」

 

(───見えてるからな?───)

 

 

 反射的に叫ぶ。全員が全員俺の声を聞いた訳ではないと思う、が、この際それはどうでもいい。悲鳴を上げつつも奇跡的に皆の動きが揃ったのは僥倖だった。しかし、こんなモノは気休めにもならない。

 奴等は俺達を包囲したままだ。俺達を狙っているのでは無いのだろうが、この状況ではどう動いても流れ弾に当たるし、逃げ場なんて何処にも無い。出来るのは精々奇跡を祈る事だけだ────魔法が掛けられるまでは。

 

 

「──TRANS-AM(トランザム)、及び、GNフィールド、最大拡張(フルエクスパンド)──」

 

 

 着地すると同時に唱えられた呪文が魔法の(ドーム)を作り出して俺達を覆い、直後、四方から耳を劈く火花と爆風が交差して、アチコチで起こるのは悲鳴と火線の大合唱。皆は頭を地面に擦り付け、逃れようの無い凶弾の嵐が通りすぎるのを待っていたが、俺だけは見ていた。呆然と。

 首の突き出た無人機から吐き出される夥しい量の鉛弾が、蕪のような足を持つ無人機が撃ち出したバズーカ砲らしき物の砲弾が、どれ1つとして若葉色に輝く壁を突破出来ずにいた現実を。

 

(────ママから教わらなかったのかぁ?────)

 

 当たれば肉を抉り飛ばす筈の鉛礫は空中で静止するか逸れ、砲弾の爆炎は光の壁の向こう側を焼き焦がすばかりで破片1つすら侵入させない奇跡。

 軈て、俺の様子に気が付いたのか、それとも痺れを切らしたのか、少しずつ悲鳴は困惑へと移っていき────

 

(───人に銃を向けちゃいけません、ってなぁっ!!)

 

 ────奴らとの攻守が入れ代わる。

 

 脹脛の金属ボックスから2挺の特異な大型拳銃を引き抜き、周囲一帯へ光弾を乱射。右へ、左へ、前へ、後へ、二つの銃で大立ち回りを演じ、小気味好く火器を優先してスクラップへ変える。外連味の利いたノールックショット、一見盲撃ちにしか見えない射撃が的確に対象の脅威を削いでいき、序での駄賃と言わんばかりに出来た余剰で本体も蜂の巣にしていく。

 

(────2キル──3キル────)

 

 しかし、穴だらけにされた2機が炎に巻かれた所で不利を覚ったのか、奴らは使えなくなった装備をパージし、俺達の周囲を走り出し始める。

 小賢しく、悪辣な戦術。真面にぶつかればどうなるか学習したのだろう。どう見ても俺達を肉盾にして隙を窺う算段なのは明白。

 俺も含めた皆もフリーズしていてパニックを避けれているのは不幸中の幸いだが、この魔法の壁然り、ずっとという訳にはいかない。

 疲労という概念が存在しないマシンと何の訓練も受けていない民間人。我慢対決なぞ土台からして勝負にもならない。そして此方は幾つもの不安要素を抱えている以上、時間を稼がれるのは致命的で、このままでは奴らの思う壺────ただしそれは、奴らよりも段ボールマンが遅かった場合の話だった。

 

 

「───TRANS-AM(トランザム)解除、排除行動を開始する───」

 

 

 光の壁が消えると同時に一陣の風が走る。

 新緑の風は瞬きより迅く対象へ肉薄、それをギリギリで反応出来た首の突き出た無人機は、走行を中断して右腕を大きく振りかぶって迎撃敢行。しかし、相対速度を計算に入れたドンピシャに見えるカウンターは、段ボールマンのトップスピードからゼロ速へ、当たる寸前にスウェーバックを取り入れた円運動で空を切る。

 ひらりと回っていた体が半身の体勢でピタリと止まり、左腕の銃が突き付け(死神の鎌が添え)られる。

 

 先ずは1射目。伸びた右腕の付け根に1発の光弾が炸裂し、肩部ごと右腕が喪失。

 当然、その(かん)の敵も無抵抗では無い。残った左腕で更に強引な攻勢に出る、が、そんなささやかな反撃も死神は許さない。続く繰り出された拳を自身の脇へ通すように躱した死神は、そのまま片腕で間接を極め、力技の大外刈りで振り回す。

 

(オッラァッ!)

 

 型も術理も無い膂力に物を言わせた荒技が、鉄の塊を玩具のように引き摺り、ホールに響く軋む金属の悲鳴。そして人質達から離れ行く軌道に入った辺りで、空いた腕の銃から両膝に1発ずつ、投げ飛ばすタイミングで肩部間接に1発、計3発の光弾を突き刺され四肢は爆裂し、達磨状態で壁へ激突。

 そこでダメ押しの連射を2つの銃口から浴びせられ、スクラップ達の仲間入りとなる。

 

(───4キル───)

 

 次に遅れて援護に来た同型の2機が迫る。唯一勝る数の利を押し付けるべく、脇目も振らず最短ルートを走る2機に、我に返った人々は慌てて離れ、小さくも充分な()()を担保出来るコロッセオが生まれた。

 鈍重そうな見た目を裏切る軽快な疾駆。勿論愚直に突っ込むような真似はしない。1機が後ろに隠れるように隊列を組んでいた2機は、直前で無拍子の挟み撃ち陣形へ切り替え。

 普通ならワンテンポの遅れを誘発出来る、絶妙なキレのコンビネーション。

 

 だがそれでも、死神とのダンス相手としては相応しくなかった。

 

 2機が左右に展開する一瞬。死神は唐突に、右腕の拳銃を高く、少し前へ、山なりに放り投げる。突然の奇行。モノアイが僅かに揺れる須臾にも満たない切れ間。その(あいだ)を踊るようにすり抜け、2回瞬くはマゼンタ色のテールライト。

 

(───………5キル、6キル!………)

 

 気が付けば、いつの間にか振り抜いていた()()()を仕舞い、落ちてきた銃を悠々とキャッチ。一拍遅れて、其々の胴を抉るような角度で輪斬りにされた2機は、上半身をずり落として炎を上げ、仲間の後を追う。

 

 怒涛の展開、と言えばいいのか、俺はただひたすら見ていた。何も言えず、思考も追い付けず、脳は目の前の出来事を処理するのに手一杯で、周囲を観る事も止めていた────()()()()()()()()()のにも関わらず。

 

(──……まぁ、予想はしてた。その為の人質だもんな?)

 

 不意に段ボールマンが此方を向き、後ろから聞こえてきた、重い駆動音と過剰凶器を構える音。振り向けば、其処に居たのは最後の1機(蕪みたいな足の無人機)。ここに来て漸く頭が回り始め、理解が追い付く。奴らは最後の最後まで俺達を()()()()するつもりだという事を。

 

 手に握られていたのは腰部後方にマウントしていた大型機関銃。

 

 射線上には段ボールマンを挟むように居る俺と坊や。

 

 繰り返される凶行は先程よりも一層明確な死を想起させ────今度こそ逃れようの無い惨劇を予感して坊やに覆い被さり─────ヘルム内でガンカメラが露わになる。

 

 

(───させるかバーカ───)

 

「GNビームピストル、収束率調整───

 ───()()()()()()()を最優先とする」

 

 

 再び放たれる死を齎す嵐を号砲に、新緑の風もまた走る。加減も出し惜しみもない撃ち尽くす勢いの弾幕。しかしそれは───1発たりとも役目を果たす事はなかった。

 

 貴我との距離、約50m。投射される無数の弾丸は、(あいだ)に居る保護対象の目前で、1つ残らず光弾に接触して()()()()()()()

 

 貴我との距離、約40 m。鬩ぎ合う鉛と光の礫。鉛の礫は今尚も間に居る二人の前で消滅し続け、境目は拮抗している。

 

 貴我との距離、約30m。鉛と光のぶつかり合いの境目に、変化が訪れる。鉛の礫が少し、二人から遠ざかる。

 

 貴我との距離、約20m。鉛礫は二人から更に距離が空き、じわじわと離されていく。

 

 貴我との距離、約10m。境目はますます押し込まれ、段ボールマンが二人を追い越した所で無法者の弾倉は空になり───

 

(ちょいさぁっ!!)

 

 ──最後の1機の余命が確定。既に無法者は機械らしい素早く淀みない動作で迎撃態勢に入っているが、それでも遅すぎる。

 障害物も柵も無くなった段ボールマンは、即座に数発の光弾でマニピュレーターごと銃器を爆砕。そして空中でクルリと体勢を変え、瞬時に最高速度となって砲弾の如き飛び蹴りで無法者を壁まで吹き飛ばす。到底打撃音とは思えない轟音と、コンクリートとタイルを割り砕く連続音のコラボが人々の鼓膜を揺さぶる。

 

 軈て、土煙の中から胸部を見るも無惨な形に歪ませた無法者が、壊れかけのブリキ人形を彷彿させる動きと音で健気に立ち直ろうとする姿が映り────────足蹴で粗野に止められた。

 

(───デザートは要らねぇか?)

 

 止めの光弾を至近距離からたらふく食わされ、最後の1機も完全に機能停止となった。

 

 

 

 

 

 

 ────人々の声が徐々に戻ってくる、が、未だに困惑と動揺は抜け切れておらず、戸惑うばかりで誰も動けない………。

 ザワザワと囁かれる疑問の中には、「助かったの?」や「警察……じゃ、無いよな?」等の真っ当なモノから、「……救助に来た特殊部隊の人?」や「何かの番組撮影だったりしない?……」等の頓珍漢なモノ迄、百人百様の様相で、誰もが現状を測りかねている。………かくいう俺も、自分の目で観た筈の出来事を受けきれなかった。

 

 原理不明の現象、SFめいた装備、段ボールマンのコミック染みた挙動や相手の容姿も手伝って、白昼夢でも観ていたんじゃないかと自分を疑ってしまう。しかし、噎せ返る程の硝煙の薫りと受けた傷の数々が、ソレを否定。

 

 言葉が出ず、愕然と膝立ちで立ち尽くす俺の隣を、段ボールマンは武器を仕舞いながら通り過ぎ────ふと、視界の端から坊やが段ボールマンに駆け寄るのが見えた。

 

 

「コズミックエンペラー!!」

 

 

 抱えていた空想のヒーローを、精一杯背を伸ばして掲げる。ソレに対し、言葉による返事は無い。

 

 少しだけ体を坊やの方へ捩り、サムズアップ。

 

 幾ばくか無言の会話を交わし、段ボールマンは空へと昇っていく。

 

 俺はソレを、ただ見送っていた。

 

 

 

 






Q.何で狙撃しなかったの?

A .相手の伏兵を警戒していたのが1つ目。相手が自爆、又は誘爆の懸念が2つ目。何より、相手が『どういう目的』かが分からないので人質の安全を最優先した結果の戦術。後は作中の理由もある。


 投稿者がまだ幼稚園児?か、それくらいの頃の話で、まるで覚えていないのですが、親に連れられて行ったどっかのテーマパークの時の事でした。恐らく、ヒーローショーの準備中か休憩中だったのでしょう、怪人?(もしくは怪獣?)の方に抱き上げてもらったそうです。が、その時の投稿者は「怪人怖いー!」とか言ってギャン泣きしたんだとか。
 もし何処かでその時の中の人に出会えたなら、お礼を言いたい。
 そんな今日この頃。

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