俺 自身がガンダムになることだ 作:解毒剤からビームサーベル
お気に入り、感想、誤字脱字修正、毎度有り難うございます。いつもこれらを励みにチマチマ書いております。
今回のは時間がかかった割に文章量はやや少なめです。
建ち並ぶ煌びやかな数々のレストラン。
本来の今頃であれば、多くの人々の活気溢れる喧騒で賑わう筈だったこの場所は、今は客どころか店員すら居ない、荒れに荒れた不穏な景観へと変わり果てていた。
飲みかけのドリンク、調理中だった料理、放り出された食器やぶちまけられたその中身。その光景は、只事ではない何かが有った事を如実に語っており、そしてその惨状は此所だけでなくモール全体へと広がっていた。
だから勘の悪い者でも容易に理解出来てしまう。平穏な日常が、
そんなカメラも監督も居ない無法の舞台を──青の主演女優は駆ける。
「──ッ……!」
女優が滑り込むように引き倒されたテーブルの一つへと飛び込めば、一拍遅れてやって来たのは断続的に連なる重い破裂音と破砕音。音源の正体である鉛玉は、彼女の通ったルートをビスケットのように割り砕いていく。
乱れた息を整える為、深く、しかし最小限の回数に絞った深呼吸を行い、そして足元に落ちていた割れたガラス片を使って背後を見ると、映ったのは光る一つ目を左右に揺らして自分を探す鉄騎兵達。
その場面にタイトルを付けるなら、“放たれた刺客と追われる姫”、といったところだろう。
「(………此方を追って来てくれる確信はありましたし、何かしらの理由も有るのだろうとは思いますが……ここまで素直に追いかけて来てくれると少々不気味ですね………)」
順調に推移している筈の作戦に、確かな手応えと僅かな不安を覚えるたきな。しかし元よりそういった懸念も盛り込んだ上で通された作戦だ、今更引き返すなんて事はあり得ない。
いっそう深く、研ぎ澄ますように息を吐き出し、相手が後ろを振り向いた瞬間を狙って飛び出す。直後、背後から鳴り渡るはガリガリとタイルや石材を削る音と、大気越しでも肌を震わせるほどの吸気音。
繰り返される決死の逃走劇。その道中で、リフレインするのはブリーフィングでの話だった─────
□
「────元来、MDとは、歩兵を機械化する事によって人型由来の汎用性に、機械由縁の大火力と機動力、そして重装甲を付与した新概念の兵器である」
「「「「『…………』」」」」
ブリーフィングの開口一番にて、前提としてもたらされたあまりにもあんまりな情報に全員が眉間を揉む。『トンチキな兵器を作りやがって』とか、『今更だが条約はガン無視か?』とか、『お前の開発者は世界征服でも計画しているのか?』とか、一同は非常に詰め寄りたくなったが、それら全てを鋼の意思で飲み込み続きを聞くと、要点は以下の通り。
その1。今回確認された機種は重装甲に比重を置いた機体であり、特にアンフと呼称される機体は格闘性能、運動性能共に難が有る事。
その2。あくまで所見だが、軽量化やセンサー類の強化を図っていた割に挙動パターンや感知範囲に無理とズレが多く、明らかにAI、又は、処理能力が未成熟で追い付いていない事。
その3。現在現場で展開されている電子攻撃は翡翠でも影響が出る程の強力且つ無差別な代物で、翡翠より遥かに劣ると思われる敵機の性能では、相当に索敵に集中しないと求める効力を得るのは難しい、との事。
その4。それら諸々を統合して推論すると、少ないリソースを効率的に回す為、状況に合わせて持ちうる演算能力を一極化させているのではないか?と考えられる事。
「あーー………つまり?」
「結論。戦闘モードに移行している間は、敵機の探知範囲、感知性能は大幅に低下していると当機は推測している─────」
□
「(情報通り───いえ、それ以上に、
“いける……!”──と、朧気だった自信が確信へと変わり、不揃いに斉射される銃声をBGMにたきなは加速する。
後ろから迫って来ている機体───アンフの掃射がたきなの後を追い、その射線が自身に重なる寸前───ギリギリで十字路にたどり着いて鋭角に進路を右折。掠めた弾丸はたきなの服に焦げ跡を作り、遮蔽物となった曲がり角を景気よく削り取っていく。
後ろに張り付いていたのが再び射線を通すにはあと数秒の猶予が生まれ、そしてその頃にはもう一度同じことを繰り返せれる地点まで行けるが────
『───現在の戦域では敵勢力の妨害工作に加え、遮蔽物の多い地形上、敵機の捕捉に致命的な遅延が予見される───』
────そうは問屋が卸さない。
立ち並ぶ店前を走り抜けようとしたところで、進路前方の店舗の一つが爆散。ガラスやコンクリの粉塵を纏いながら別個体のアンフが現着した。突っ込んで来た姿勢を直し、立ち塞がる障害物を持ち前に堅牢さと馬力で強引に踏破。人外ならではのショートカットと速度で真正面から迫る刺客、このままでは次の瞬間には壁の染みにされるだろう────
『───更に、敵機の走行速度、突破力、奇襲を行うに有利な環境も踏まえた結果、極めて不利と判断。よって───』
だがたきなは────
『────敵機への妨害行動を提案────』
────ソレを読んでいた。
予め引き抜いていたワイヤーガンを脚部目掛けて射出。アンフの両足を縛る様に巻き付いたワイヤーは、ギチギチと嫌な音を立てて目論見通りに対象のバランスを奪い転倒させる。たきなは靴底の小気味良い音でアンフを踏み台に、軽やかに跳び越す。
『───特に、アンフのカスタム機と思われる機体は、運動制御能力の脆弱性から、下肢へのワイヤーガンが効果的と推測』
速度に影響がでない程度に身を屈め、新手によって生まれた数秒分の遅れを
しかし、上手くあしらえはしたが息をついてる暇は無い。吹き抜け通路に出たたきなが走りつつ周囲を警戒していると、自身の居る位置の反対側の通路から再び店舗を破壊して飛び出してきた更に別個体のアンフが出現。
そしてそのまま並走してきた敵機は、上半身だけを此方に向け、其々口径の違う2つの銃口の先を目視で確認してしまい─────
「───ッ!!」
──間一髪で我に返り近くの店に突入して斉射を逃れる。躊躇無くばら撒かれた銃弾は主の意向通りに破壊を撒き散らし、椅子を、壁を、照明を、店内のありとあらゆる物を遠慮無くぶち壊していく。それはたきなが盾にしていた厚めの壁も例外では無い。
「…くっ……!」
割れた破片や掠めた弾丸が柔肌に幾つかの赤い筋を作るが、幸い支障をきたす程のものは無い。今も続く制圧射撃から逃れるべく、体を出さぬよう素早く、されど細心の注意を払って裏口へ移動。そうやって何とか店の反対側に出ると、それと同時に射撃が止み、その事に考えを巡らせようとした瞬間───今度は後方突き当りの壁が爆発。
「………くぅっ……!」
それなりに離れた位置から発生したにも関わらず、叩きつけられた爆風はかなりのもの。体を持っていかれそうになるのを意地で耐え、粉煙の中で蠢く大柄な影の正体を確かめもせずにたきなは再度走り出す。
『────MS-09:ドム。重装甲と機動力を両立するため、脚部、腰部、そして背部に高出力の推進器を搭載。これにより、重量級でありながらホバー走行による高機動を可能とした機体である』
『この見た目で浮くのかよ………!』
『動けるデブ、ってヤツか』
『………どれくらいの速度が出る?』
『当機の記録されている
そして次は目的地まで少し遠回りになってしまう事を受け入れた上で若干の進路変更。より複雑で入り組みやすいルートを脳内で選び、直ぐ様付近の店へ避難。するとアンフよりも更に巨躯な影───ドムと呼称される敵機が、砲弾と見紛うばかりの速度と轟音でたきなの後を追って来ていた。
『───最高速度。約、時速168km』
『…………人の足じゃ先ず逃げれんな』
『肯定───』
追跡者はたきなを捕捉すると同時に、オリジナルより増設された各部のアポジモーターを点火。小刻みに吹かし、姿勢を整える。
───突撃体勢の先には、脆くて遅い標的───
繋ぐ為、生きる為、勝機を掴む為、ブリーフィングでの
『───しかし───』
「───!!」
─────往なす事を選択。
鋭い呼気と共に手近なテーブルクロスを引っぺがし、相手に向けて揺蕩わせるよう投擲。自身の足元からは幾つもの食器やグラスが割れる音が、テーブルクロスの向こう側からはジェットエンジンの咆哮が響く。ほんの数瞬の、敵と自身を別つ仕切りは壁と呼ぶにはあまりに頼りなく、時間稼ぎになるかも怪しい行動。
だがソレが、命運を分けた。
思考すら挟まず身を横へ投げ出すたきな。直後、鉄火場でも尚濡羽色の艶を失わないたきなの髪を数本、
『────ドム・タイプの最も得意とする戦型は平野部等での一撃離脱戦法であり、立体的、且つ、障害物の多い今回の作戦領域では、本来の性能を十全に発揮出来ない』
『………小回りが利かない、ってこと?』
『肯定────』
追跡者は店内の様々な内装をも巻き込み、体中のあちこちから炎を噴出して急速旋回。しかし、明らかに精細をかいたアクションで、結果、たきなは価千金の数秒を勝ち取った。
追跡者がクロスを剥ぎ取る頃にはたきなは既に退店し、刺客達が苦手とするエスカレーターを使って階下の雑貨・インテリアエリアへ到達。だが────
『───補足。今回確認されたドム・タイプが装備している兵装は、対MD戦も視野に入れたマガジン式のロケット推進バズーカであり、高脅威度の兵器である──
──推奨、回避』
『避けれるかバーカ!!』
『人間サイズの装甲車が、連発出来るバズーカを担いで何処までも追いかけて来るとか………普通に悪夢だな………────』
────更に距離を稼ぐべくもう一度エスカレーターに足を掛けようとした瞬間、前方から突然発生した暴風に足を縫い止められる。
「──ぐっ!?………」
反射的に顔を庇っていた腕を下ろし、何が起きたのか────そう逡巡する間も無く理解する。階下へと繋がるエスカレーターが根元から落とされ、ソレを成したであろう追跡者が上階で安全柵を牽き潰して乗りだし、未だ硝煙 煙る大砲を構えていたからだ。
「───ッ………!(やられた……!)」
たきなは迷わずルートを変更、落とされた退路を背に走る。その後、数秒もせずに背後から地響きが広がり、走る足裏でもその振動を感じとれたが、音の正体を確かめるなんて無駄な事はしない。それよりも周りを観察した方がずっと有意義だからだ。
「─────ハァッ、ハァッ、ハァッ─────」
走る、跳ぶ、潜る、乗り越す。陳列された棚を縫うように、隠れるように、左右だけでなく上下も使い立体的に逃走し、決して的を絞らせぬよう立ち回る。だが、遅らせばながら他の刺客達も合流してきており、そんな奴等が散発的に放つ凶弾は少しづつ、たきなへ傷を増やしていた。
「─────ツッ!ぐっ!?────ハァッ、ハァッ─────」
傷の1つ1つはどれも支障が出るほどの物ではない。だがそれは着実に、ゆっくりと、真綿で首を絞めるように、たきなの心身を磨耗させる。
足が重い。肺が痛い。思考が鈍い。当たり前だ。この命懸けの鬼ごっこが始まってからずっと走りっぱなしで、一時も気を緩めれない、限界まで集中力を張り続けているのだ。
恐らく、脳内麻薬もずっと出っぱなしだろうが、それももう限界が近いのも分かった。何せ打ち消しきれていない危険信号が脳へ、体へ、少しづつ届き始めていたから。
だが足を止めることは絶対にしない、したくない。それは単に任務の成否のためだけでは無い、応えたい───
「─────ツゥッ!ハァッ───ゔぅ゙──────」
やがて見えてくる目標ポイント。あまりにも遠く感じる、あと少しの距離へ───たきなは最後の全力を振り絞る。
屋内に造られた、1階から3階までをぶち抜いた吹き抜け構造の第2イベントフロア。その
「────ぅ゙ぅ──あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーーーっ!!」
────翔ぶ。
『更に、補足。ドム、及び、アンフに搭載されている推進器は、あくまで地走、又は姿勢制御用であり、飛行を行える程の推力重量比は有していない』
『ゴテゴテ推進器が付いてるくせに、お前と違って飛べないのか………』
『いや、コイツみたいにビュンビュン飛ばれたらマジでどうしようも無いからな?』
不安定な足場も、万全から程遠いコンディションすらも物ともせず、完璧なフォーム、抜群の安定感で、時が止まったと思わせるほどの滞空。しかし、それはあくまで一瞬の出来事であり、ただの跳躍だ。そしてここは二階で、地上まで高さは軽く見積もっても10mは固い高度、このまま何もしなければこの後どうなるかなど説明不要の状況。
だからたきなは─────再びワイヤーガンを発砲した。
狙いは中央の天井から吊り下げられた巨大アート照明。使うカートリッジも先程も使用した、対MD用に急遽開発された従来器よりも丈夫で長いワイヤーを飛ばす実験装備。それを今度は、弾頭と成る2つ錘を相手に飛ばして巻き付ける本来の運用方法───ではなく、錘の片側だけを飛ばして根元のワイヤーは強く把持した。そして射出されたワイヤーの先端は照明の一部に綺麗に巻き付き、たきなの下への落下運動を振り子運動に変える。
「────ぐぅぅっ!?」
肩が外れたと錯覚するほどの衝撃を呻き声で紛らわせ、ほぼ勘頼りのタイミングで手を離しゴロゴロと───所謂五点接地転回法で見事最小限のダメージで着陸に成功させる。
「…つぅぅ………!」
だが、此処でもまだ止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打って、ヨロヨロと可能な限りその場から離れつつ後ろを観ると、そのタイミングでズズン、ズズンと噴炎と焼煙を発生させながら鉄騎兵達が降り立つのが見える。
焦らず、揺らがず、最初から最後まで、淡々と、機械らしい調子で自身を追い詰める鉄の追跡者達。自然と顔が険しくなる中、そんな奴等にたきなは愛銃を抜き、最後の足掻きを敢行するべく痛む腕を庇うように構え、撃─────
「───流石は我が相棒。完璧な仕事だね───」
───つ事は無かった。突如、耳を劈く金属質な破断音と共に、先頭を行くドムの背中が弾け飛んで煙と炎が辺りに舞う。
後ろからの声にたきなが振り返れば、安堵を主成分とした複雑な色味を帯びた表情で微笑み掛ける千束が居た。
「さてと────随分たきなを可愛がってくれたみたいだからね……ちゃ~んと、
そんな千束はたきなへの視線を目を閉じて切り、次に開いた時には、眼光鋭く下手人を見据え、不敵な笑みでそう宣言した。
補足っぽい何かと生やした設定
MDがやたら節穴な件について
作中で書いていた要素の、現場でのミノフスキー反応の影響にMD達の演算能力不足、そして書けていなかった要素が、リコリスの制服の機能も合わさった結果、という感じで書きました。
深いところまでは分からなかったのですが、何でも、リコリス制服は防刃防弾だけでは無く、対赤外線とかの機能も盛り込まれたハイスペック品だそうで、それらを考慮したら『こんな感じか?』とか思って書いた次第です。(他にも、完全に余談なのですが、『戦闘機同士が戦う際に相手の方が世代上だったりすると、ステルス性能の差で目視出来てもロックオン出来ず、攻撃すらさせてもらえない』とかの話も小耳に挟んで、『じゃあそれ考えたら、この環境の場合こんなもんか?』とかの浅知恵も混入しております。)
“素肌の面積多いやんけ”とか、“動体センサー仕事しろよ”とか言われても仕方ないのですが、そこら辺は『演出』と、流して頂けたら幸いです。
対ガンダムデュナメス(後に『対MD用』と変更される)用拘束銃
対MD、(というよりは対デュナメス用だった)及び、類似兵器への対策案の1つとしてかねてより開発されていた装備。歩兵、というかリコリスだと隠密性の問題から、相手を相当に過小評価しても火器による撃破は現実的では無いと考えらた為、破壊ではなく行動阻害による無力化を主眼に置いた実験装備。
ただし実態はリコリスの装備である元々の原型品より、ケーブルの太さと長さを増やしただけの代物で、材質等はほぼ変わっていない急造品。しかも容量が増えたせいでカートリッジ、及び本体もやや大型化している。