キミがいない世界 作:ラウアキの結末を見届けたい犬人
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト ソード・オラトリア ラウル×アキ アナキティ・オータム ラウル・ノールド
ファミリアの買い出しの付き添いで、アナキティ・オータムは魔道士専門店『魔女の隠れ家』にいた。
「アリシア、シフォン、まだ決まらない?」
彼女は少し呆れながら、店の商品とにらめっこしている2人のエルフに声をかける。
「待ってくださいアキ…此方の品もできれば……」
「アリシアさん!これはどうですか!」
「シフォン!これは貴女には大きいです!もっと小さい杖にしなさい!」
「ですけど!此方の品はデザインが!」
「デザインよりも機能です!だいたい、主な武器としてレイピアも必要なのですから、もっと安いのにしなさい!」
これは長くなるなと、店を見回し始めたアキは1つのアクセサリーに目を奪われた。
深い青の小さめな宝石と銀色のチェーン。
「あ…これ綺麗。」
「流石、御目が高いね
「レノアさん、これいくら?」
「1万ヴァリスで良いよ…魔道具だが、つまらんシロモノさ。」
レノアと呼ばれた女性の言葉に、アキは首を傾げる。
「…魔道具ならつまらない効果でも10倍はすると思うんだけど、もしかして呪いの道具?」
「いひひっ…その魔道具は『身に付けた者に結末を見せる』とされてるのさ。」
「…結末を見せるとされてる?」
「ああ。けれど記憶には残らないか魔法が発動しない……使えないだろ?つまり少し綺麗なアクセサリーさ…」
「どういうこと?」
「買った客がいたのさ。1週間どんな時も着けたが何も起こらなかったってね……あたしも試したが特に何も無かったね。一応、見た目と材質がなかなか良い魔道具だから置いてるだけさ。」
「成る程ね。結末云々は気にはなるけど、好みの色だし貰うわ。はい、お金。」
「ひひっ毎度あり。返品は壊れてなきゃ、8割までなら返してやるよ。錆はしないから安心しな…」
「わかったわ。ありがと♪」
機嫌を良くしたアキは御礼を言って、エルフ組の元へと戻るのであった。
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「ンー良い天気ね!」
ホームの庭に出たアキは青空を見て、思わず背伸びをしていた。最近はいろいろと忙しかったと思い、あれっ?と首を傾げる。
「……何が忙しかったんだっけ?遠征は最近無かったし、ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアのおかげでオラリオも平和そのものだし?あれ?」
何かおかしい…にも関わらず、おかしな部分がわからない。
アキは冒険者として優秀である。だからこそ、ロキ・ファミリアでも2軍のリーダーや準幹部の位置を獲得している。
そんな彼女が感じた違和感は、本来ならば有り得ないものだった。
だが、
「おかしい…覚えてることと時期が合わない。記憶に穴がある。」
故に、正解に辿り着く。
「私の記憶が書き変わって、いや……
自身の記憶に対しての疑問。ほんのわずかな時間で、彼女の頭脳は、疑うべきモノは何なのかを完璧にとらえて見せた。
それから彼女は走り回った。
フィンを初めとした幹部やアイズ逹、リーネやナルヴィ、アリシアなど、自分を知るもの逹から最近の出来事を聞き出した。
もちろんさりげなく、そして気取らないように細心の注意を払ってだ。
「……やっぱりおかしい。全員、記憶がハッキリし過ぎてる。」
自分が覚えていることを、話を聞いた仲間全員が覚えている。それこそ、普段は細かなことを完璧に覚えていない人物の筆頭であるティオナやベートすら、此方の記憶に対しての正否を即座に口にする。
もちろんアキの中で正しいと感じている記憶の方に……
だが、だからこそおかしい。
「少しの間違いもないなんておかしい。ティオナやベート逹がポーションや備品の予備在庫を覚えてるわけない。」
100歩譲って全員が覚えていたとして、あまりにもアキの記憶に対して正確過ぎる。
何よりアキは、この状況にわずかな吐き気すら覚えていた。話を聞くたびに…記憶が上書きされているのだ。
仲間に、いや仲間の姿形をした何かに、穴のある記憶の部分について尋ねると、いつの間にか記憶ができあがっていた。
そして、そうだったと納得してしまいそうになる自分がいる。それがアキには恐ろしかった。
「此処は夢か幻で、私は……何か忘れてる。ううん、誰かを忘れてる。貴方は誰?」
それは泣き顔だった。
情けないのにキレイで、カッコ悪いのにどうしようないくらい胸が高鳴った。
なのに顔が思い出せない。
「どうしたんですか、アキさん?」
アキは少し煩わしい気持ちで声の方に顔を向ける。
頭を抱えるアキに話しかけてきたのはリーネだった。眼鏡をかけていて、髪をお下げにしている少女。
「何でもないわよリーネ。」
「ほんとですか?もし、体調が悪いなら私が治療しますよ?」
「ホントに大丈夫だか……ら。」
追い払おうと素っ気なく応じていたアキは、唐突にとある事実を思い出した。
目の前の少女が此処にいることなど有り得ない。何があっても、自分と最早話すことなどない。なぜなら、リーネ・アルシェという少女は既に死んでいる。
死因は思い出せないが、確かに死んでいる確信がある。
「……アキさん?どうしたんですか?」
不意にリーネの声が揺れると、アキは思わず目眩を感じると同時に目を閉じる。
その瞬間、リーネの声は突然途切れた。
不思議に思ったアキが目を開けると、リーネの姿は目の前から消えていた。
「……私が事実を…ううん、真実を思い出したからリーネは消えた?だけど…それなら此処が現実じゃないのは解ってる。なのに…」
頭に浮かんだ仮説と矛盾する状況にアキは焦りを募らせた。記憶が混ざり合ってしまえば、何が真実なのか解らなくなる。それは、僅かでも今の状況を肯定してしまえば、脱出までの道程が険しくなることを意味している。
「『魔女の隠れ家』で買った魔道具……これが結末?」
アナキティ・オータムは走り出す。
最後のピースを見つけた故に………
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「ひひっ来たかい……」
「貴女は、レノアさんじゃないわね。」
「正解さ。私はそうだね…
「私を現実に戻して。」
「なぜだい?怖くて泣いただろ?ダンジョンになんざ行きたくないと…」
「…悪趣味ね。」
吐き捨てるようなアキの言葉に、レノアの姿形をした
「アタシの力は本来、夢の中で人生が終われば切れるよ。記憶に残ることもなく、現実では一瞬さ……それでも戻るかい?」
「戻るわ。」
「ここには、不都合なんてない、アンタにとって幸せな世界さ。少しくらいは浸ってもバチは…「……幸せなんかじゃない!」っ…」
不意にアキは
何故かはアキにもわからなかった。
言ってみれば、それはただの焦り。
大切な何かを忘れてしまった自分が許せない。
恐らくは、凡人である自分を冒険者足らしめる決意の根底。
誰かがくれた勇気の一欠片。
それがなければ、
「……なぜかねぇ?今までの人間は、幸せな夢に浸って夢であることも気が付かなかったのに……アタシがアンタから忘れさせたのは些細なことのはず何だけどね。」
「……思い出せないけど、些細なことじゃないわ。私にとって何よりも大切なことよ!」
「……いいや、些細なことさ。忘れてもアンタは死ぬ訳じゃない。何より、
「かもしれない…」
アキは
冒険者足らしめるモノを失った自分は、夢の中では遠くない未来に冒険者を止めて第2の人生を歩む。
もしかしたら、今まで言い寄られた男性と夫婦になるかも知れない。誰か器量のよい男性を見つけるかもしれない。
そして、子や孫ができて最期を看取られる。
ああ、きっと幸せだ。
地下に行かずとも、それだけの幸せを掴むことができるなら、充分すぎる。
だが、アキは知っている。
記憶には無くとも、魂や心という不確かで誰にも理解などできない部分で確かな想いが燃えている。
「思い出せないけど、見てやろうって誓ったわ……現実に打ちのめされて、物語の英雄にはなれないって知ったけど。でも!私は!」
「その果ては死だよ。」
「それでも!名もない英雄の仲間として!
わずかな時間、アキを見つめた
「アンタみたいなやつは初めてだよ。今までの数十人は、みんな人生を終えて、何を忘れているかも解らずに夢から覚めたっていうのに……」
「褒め言葉として受け取っておくわ。」
「失いたくないなら、素直になりな。アンタが抱いてる感情は恋じゃない。」
「思い出せないのに、言われても困るんだけど……」
「ひひっ現実ではここで話した事は忘れてる筈さ。」
ならば、素直になれと言われても、意味はないのではないか……とアキが思った時には、景色が消え白い床に1冊の本があった。
「これって…子供の頃に読んでた英雄譚?」
もはや、自分も彼も読むことは無いであろう始まりの本。
かつて終わろうとした自分を繋ぎ止めた、アキにとって無意味であり特別な英雄譚。
「ああ……これが私の原典ってことね。」
胸の中で何かがはまった。
アナキティ・オータムはこの本と附随する、誰かを思い出す。
「お前みたいな頭の良い女は面倒だね……」
どこか遠く声が聞こえる。
その声を最期に、アナキティの夢は終わりを迎えた………
「はぁぁ~~」
「朝からどうしたんすか、アキ?」
「ラウル……」
朝の食堂では、ファミリアのほぼ全員が集まる。だが、珍しく落ち込むアキに話しかけられる人間は限られていた。
偶々、最初に彼女が落ち込んでいることに気付いて話しかけたのは、ラウル・ノールドという青年。パッとしないとファミリアで噂される只人の冒険者にして、ファミリアの苦労人。
「実はね……」
アキは何も覚えていない。
目の前の人物こそ、彼女が夢で忘れた大切であることを。気に入って買った魔道具が、役目を終えて砕け散ったことも……何も知らない。
彼女の冒険はこれからも続いていく。