おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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X.ちょっと先の話

 

空気が冷えはじめたある秋の日。

 

異世界に転生し。

無事魔力を手に入れた僕――影野ミノル、改め、シド・カゲノーはいつものように盗賊を収穫しに来ていた。

 

 

「ちょっと、遠くまで来すぎちゃったかな……」

 

 

これも盗賊が悪いのだ。

 

もっと近くを根城にしてくれていればよかったのに。

 

前回ここらへんに来たときに収穫した、いくつかの廃村は、相変わらず廃村のままだった。

なんで、建物や畑がそのまま残っているのにここを根城にしないんだ。

 

生き残りはいませんよ、って一目でわかるように死体を村の入り口に置いていたんだけどな。

部位ごとに分けて箱詰めにしたのがダメだったのかな?

野ざらしにしておいたら野犬とか鳥に持っていかれそうだったんだよね……。

 

おかげで、収穫のために遠征することになってしまった。

 

 

睡眠時間は、魔力を使ったスーパーショートスリープをするから問題ない。

だとしても、まがりなりにも、僕は貴族の子息だ。

 

何かのきっかけで寝床にいないことが露呈(ろてい)したら。

さらには、屋敷のどこにも見当たらないなんてことになったら大騒ぎである。

 

 

貴人の眠りを妨げるなんて首飛んで当然。

みたいな考え方があるから、起床時間になるまでは使用人に気付かれる心配はない。

 

けど、急ぎの用事があったりすると、家族の命令で早朝に叩き起こされることも、まぁまぁあるのだ。

夜の内に届いた伝令を朝一番に報告を、勉強のために()()()()もそれに付き合わせる、みたいな感じで。

 

 

だから、できれば日の出までには帰っておきたい。

 

 

夜空を見上げれば、月がもう結構、西に傾いている。

 

僕は走り出そうとして――

 

上弦(じょうげん)の月……か」

 

――なんとなく、月がきれいで。

踏み出した足を戻した。

 

瞬時に口調を切り替える。

 

「ほぅ、美しいな……」

 

なんか、いいよね。

月を眺めながら感嘆のため息を吐く仕草って。

わかる人間って感じがする。

 

陰の実力者は当然、この世界の隠された真実を余すことなく把握しているレベルでわかる人間だからね。

それほどのわかる人間力(にんげんりょく)があれば、ありふれた自然の光景の中にも美を見出すものなのだ。

 

 

 

そうして、しばらく陰の実力者ロールをしていると。

 

――ふと、背後に違和感(いわかん)がある、ような気がした。

 

バッ、とここで後ろを振り返るのは三流のやること。

おばけなんていない~、と歌いながら振り返らずに手だけ回して後ろを(なぐ)るのは二流。

 

真の実力者はこうするのだ。

 

 

「何者だ? それで、隠れているつもりか?」

 

「…………」

 

よしっ、決まったーっ!

 

これぞ、それでも隠れているつもりかバレバレだぞムーヴ。

 

いつか言ってみたい陰の実力者的セリフの一つ!

いつか本当に使ってやるぞ、絶対!

 

 

そのとき、物音も立てずに、

 

「……」

 

スッ、とこれまで影の一部だったかのような自然さで。

幼い女の子が視界の端に現れた。

 

腰に刀を差した黒髪の子だ。

 

 

「……」

 

(――うわっ、本当にいた!)

 

なんとか気合いで叫ぶのをこらえた。

 

僕は動揺(どうよう)を悟られないように、ゆっくり月から女の子に視線を移す。

 

 

幼いとは言っても、今の僕よりはたぶん年上だ。

パッと見では九歳か十歳くらい、二つくらい上だな。

 

しかし、油断(ゆだん)はできない。

 

どっかの剣術道場の娘さんだろうか?

(たたず)まいが武人のそれだ。

隙がない。こうして目の前にしても気配をほとんど読めない。

 

(――強い)

 

 

「なぜ……わかった?」

 

――来たっ!

 

殺気(さっき)がだだ漏れだ」

 

「殺気……」

 

僕は条件反射(はんしゃ)で、なぜわかったか、の問いに答えていた。

いやもう、これははずせない問答(もんどう)だろう。

 

このタイミングではこれしかない、っていうくらい陰の実力者のテンプレ受け答えだね。

 

なんだ、わかっているじゃないか、この子。

 

 

「息も熱も音も魔力も、自然に()けこませたつもりだったが……」

 

今宵(こよい)の月にはあまりにも、無粋(ぶすい)にすぎた。ただ、それだけのこと……」

 

「月……」

 

風情(ふぜい)の中に野暮(やぼ)がある。それは、()()()だろう?」

 

「っ! 心を読んだ、というのか……?」

 

僕はそれに意味深に笑った。

いや、心とか読めるわけなくね?

 

 

「名は……なんという? 私は……()()()、という」

 

女の子が名前を聞いて来た。

 

ふむ、本名を名乗るのは面白くないな。

かといって、まだ修行中だから、えっと。

 

「名か……そうだな。――るろうに……るろうにミノル、と名乗っておこうか」

 

今宵の僕はるろうにミノル。

さすらいの剣客(けんかく)だ。

 

道場の娘がエンカウントするのは、チンピラかさすらいの剣客のどちらかだと相場(そうば)が決まっているんだ。

そして、僕はチンピラじゃない。

簡単(かんたん)な消去法である。

 

 

流浪人(るろうにん)ミノル……ミノル……」

 

女の子もそれで納得してくれたみたいだ。

名前を教えてもらったことにちょっとうれしそうにしている。

 

 

そうだろう、そうだろう。

 

今は忘れ去られし()き一般モブの名前だが、将来の陰の実力者の思想に大きな影響を与えた人間の名前だからね。

いわば、陰の実力者誕生のきっかけになった人物、みたいな。

 

あ、いいなこの設定、これからも使おう。

 

陰の実力者の誕生の秘密。

それにはある男の死が関係していた!

 

 

一手(いって)仕合(しお)うてもらえまいか」

 

「ほぅ……」

 

女の子が刀の柄に手を置いて、軽く殺気を飛ばして来た。

 

――(するど)い殺気。何もされていないはずなのに一瞬、斬られたような錯覚(さっかく)を覚えた。

 

――初めから感じていたことだけど、初めから感じていた以上に、この子、強いな。

 

 

「わかった。いいだろう」

 

僕の手はまったく意識することもなく、腰の剣に手をかけていた。

 

殺気、殺気とさっきから言っているけども。

この子が明確(めいかく)戦意(せんい)をあらわにした瞬間に、身体が勝手に臨戦態勢(りんせんたいせい)を取っていた。

それほど、この子の殺気は()()まされていて強い。

 

 

剣を抜く。

 

 

ちょっと、時間に余裕がないけど。

陰の実力者ロールプレイを抜きにしても。

 

(――この子とは、ふつうに戦ってみたいな)

 

と、僕も思ったから。

 

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