おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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幼児期・下
EX1.冗談半分で試してみた都市伝説が本当のことだったときに感じる恐怖は割とシャレにならないよねっていう


 

「はっはっはっ! こりゃーいい! 『悪魔(あくま)()きの肉を食べたら強くなれる』、まさかこの話が本当だったなんてなぁー!」

 

 

「おっおいっ! なんだよこれ?! どうなってんだよ?!」

 

「知らねーよ!」

 

「な、なんだ、この魔力量?! バカな! 落ちこぼれのグズロスがこんなに魔力持ってるはずがない!」

 

 

ミドガル王国、某市街、裏町(うらまち)路地裏(ろぢうら)にて。

 

そこは裏町ではありふれた、どこにも行きつかない、行き止まりの路地裏。

 

 

そこで、その日は――いや、その日も、魔剣士協会に所属する低ランクの若い魔剣士たちが集まってストレスの解消(かいしょう)を行っていた。

 

協会に登録してから何年経ってもうだつが上がらない、才能がない一人の魔剣士を他の魔剣士らがリンチにする。

 

いわゆる、弱いものいじめを行い、日頃(ひごろ)鬱憤(うっぷん)不満(ふまん)余所(よそ)へぶつけているのだ。

 

 

いつもならば、未だ最下位ランクから抜け出せない一番弱い魔剣士が、さんざん(なぶ)り倒されて、(ののし)り倒されて、最後につばを()かれて終わるはずだった。

 

 

「誰が落ちこぼれだってぇ?」

 

「ヒィッ」

 

 

 

 

きっかけは、いじめる側に立っていた魔剣士の一人が「あぁ、そういえば、こんな話知ってるか?」と切り出し、話し始めたことだった。

 

曰く、魔剣士が悪魔憑きの肉を食べれば強くなれる。

 

 

一体、どこからそんな頭がおかしい話を仕入れてきたんだと、同じくいじめる側に立っていた魔剣士たちは(あき)れた。

 

が、その呆れた魔剣士の中の一人が、いいこと思いついた、とばかりに手を打った。

 

 

――そういえば、ここらへんの浮浪(ふろう)(しゃ)のガキにひでぇこぶができて、それが悪魔憑きなんじゃねぇかって、娼館(しょうかん)女将(おかみ)気味(きみ)(わる)がってたぜぇ?

 

 

猿顔(さるがお)の魔剣士の男はニヤニヤ笑みを浮かべながら、ボロ雑巾(ぞうきん)みたいに転がる魔剣士を見る。

 

たったそれだけの所作(しょさ)で、他の魔剣士たちにも猿顔の魔剣士が何を考えているのか伝わった。

 

 

――おお、そりゃあ、大変だ。そうかぁ、あの娼館には俺も世話(せわ)になってるからなぁ。たまには人助けってのも、悪くねぇか?

 

――ま、万年(まんねん)金欠(きんけつ)クソザコ負剣士(まけんし)くんも、強くなれるかもしれねぇし? いいんじゃねぇの?

 

 

()にもあっさりと、非人道的な決断(けつだん)を下す魔剣士ら。

 

さもありなん。

まさかそんな話が本当のことだなんて思わないし。

その決断が、自分たちに破滅(はめつ)をもたらすものであるなどと、予想できるわけはなかった。

 

 

 

そして――。

 

裏町の中でも、(すみ)っこ、不法(ふほう)投棄(とうき)が多発するその場所にいた女の子。

 

黒い猫耳が特徴の10歳くらいの子どもを魔剣士たちは見付け出し、喜々(きき)として(なわ)(しば)り上げた。

 

ぐるぐると()遠慮(えんりょ)に、まるで燻製(くんせい)(にく)を作る下準備のごとく。

黒猫の子どもは当然抵抗するが、低ランクとはいえ複数の魔剣士に(かこ)まれて(かな)うはずがない。

 

 

黒猫少女はそのまま、服を(やぶ)かれて、背中にできた真っ黒いこぶを外にさらされた。

 

 

――うわっ、本当に悪魔憑きっぽい!

 

――ひっでぇこぶ。虫にでも刺されたか?

 

 

少女を縛る彼らは、まさか少女が本当に悪魔憑きだなどと思っていない。

 

悪魔憑きは()むべきものではあるが、同時に売ったら高い値段がつく高級品なのだ。

 

こんなごみ溜めに高級品なんかあるはずがない。

 

そんな先入観(せんにゅうかん)が彼らの目を(くも)らせていた。

 

 

――じゃっ、いただきます、しようかー?

 

 

黒猫の少女が悪魔憑きであろうとなかろうと、どうでもいいのだ。

 

彼らは、鬱憤や不満を吐き出せる先を求めているだけ。そこに面白いイベントが娯楽(ごらく)としてあれば、いい気晴(きば)らしになるというだけ。

ただ、それだけだった。

 

 

そうして、何年経っても安宿(やすやど)の生活を抜け出せない、落ちこぼれの魔剣士は。

 

少女から切り取られた血が滴る肉を口に突っ込まれ。

 

鼻と口をふさがれ、無理やり()み込まされて。

 

――覚醒(かくせい)した。

 

 

 

「おらぁああ!」

 

 

「ぐぁ!」

 

「おいっ、エンチ! よくもエンチを!」

 

「待て! 全員でかかるぞ! いまのあいつは強い! 囲んで急所(きゅうしょ)を狙え!」

 

 

才能があったのだろう。

 

剣の才能も、魔力の才能もなかったけども。

 

暴れる力を(おさめ)めるための(うつわ)としての才能が。

 

 

「――ぐっ!」

 

 

「よし! 聞いてるぞ! このまま押せ押せぇ!」

 

「おらっ、死ねや!」

 

「落ちこぼれ程度がちょーし乗んなよ?!」

 

 

白いところを探すのが困難(こんなん)なほど充血した目。

(ふく)れ上がった筋肉。(あふ)れんばかりの魔力。

 

この姿を見て、取るに足らない弱者であると(あざけ)る者は、この世界にはほとんどいない。

 

 

「っ!! あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

「なんだこの魔力、どこから湧いてきやがる?!」

 

「お、俺は逃げるぞ! こんなのやってられっか!」

 

 

「にがずがぁ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

「ぐぁあ!」

 

「レッチぃ! ぅあ゛?!」

 

 

かくして、その日、その街の裏町では一匹の化けものが生まれた。

 

 

「ぅぁあ! な、んでこんなことに……」

 

 

「ぅぁあああはぁははははは!! あーっはっはっはっはっは!!」

 

 

数年の虐待(ぎやくたい)の日々を()いられ続け、突然、強大な力を手に入れた青年魔剣士。

 

狂気的な哄笑(こうしょう)を上げる彼のことを――。

 

 

――黒猫の少女は光のない黒い瞳で見つめていた。

(あな)()くんじゃないか、というくらいじーっと。

 

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