本日、連投です。
ご注意ください。
「見ざる、聞かざる、言わざる、と言ってな。ひとにより
――悪いことを
「はい、おねぇちゃん、『悪いこと』ってなんですか?」
「悪魔にも父親とかあるんすねぇ」
「よい質問だ、メラ。
悪いこととはすなわち、自らの
苦しみ、
自らのもの、他者のもの、どちらでも。すすんで魂を汚した
「たましい……? けが、くるしい? んんぅ……ぅぅ……っわかんない!」
「悪魔先生、あたしもよくわからんっす。第一、悪魔さんが悪とか善とか言っても説得力ないっす!」
教育とは難しいものだ。
3歳となると言葉もそこそこまともに喋るようになり、ぼちぼち
この
おかげで
しかし、
私とヴェラ。
人間にこだわらなければ、未だしぶとく生き残るビーバーのビビンバと、取引を続けて近場に
大問題である。
そこで、ヴェラの娘――
なったが、まさか盗賊の常識を教えるわけにも、奴隷の常識を教えるわけにもいかない。
ビビンバと黒牛は論外。
消去法で、今世の常識がまったくわからないはずの私が常識を教えることになった。
どうしてこうなったのだろう。
「
ひとの世の価値は、自他の
だから私は、まだひとだった頃、父から聞かされた話を思い返し語っていた。
のだが。
「ぅぅううう! わっかんない! わっかんない! わっかんないぃいい!」
「ぁああ、悪魔先生がメラちゃんのこと、なーかーせーたー! いけないんだー!」
そもそも、実感がまったくないものを教えようというのが無理なのか。
常識を教え始めて、メラがまともに覚えた言葉は『ちくしょう』だけだ。
『
ビビンバや黒牛のことだと教えたからだろうか。
自分と関わりがあるから覚えられたのだろう。
ただ、メラという幼児は『畜生』という言葉の意味を、少し取り違えて理解したようだった。
『畜生』とは、『働かずに食っちゃ寝ばかりしても許される
おそるべきは遺伝か。
メラは
ある日、メラはヴェラを指して「今日のママ、ちくしょう!」と言って実の母親を泣かせていた。
が、あれは罵倒していたわけではなく、『幸せそうだねよかったね』と
「今日はこれで
これ以上は教えても
黒髪の幼児はずっと泣いていたのが嘘のように、パッと泣きやんで、はしゃぎ始めた。
「ぅえ? ほんと?! あそぼー、おねぇちゃん!」
「メラー、ママはー? ママもメラと遊びたいっすー」
「フススッ!」
「もー! ママもびんばばも、しかたないなー! メラがなかまに入れてあげるー!」
「わーい! ありがとーっす、メラー!」
「フスゥー!」
だらしなく笑うヴェラたちも、キャイキャイと高い声を上げる。
元気なことはよろしい。
「あまり家から離れぬようにせいよ。私は
「え! おねぇちゃん、あそぼうー?!」
「あれ? 昨日のイノシシ、
「昨日、森に行ったとき気になることがあった。それの確認と、ついでに山いちごを摘んでくる」
「おねぇちゃん!」
「そっすか~。心配ないでしょうけど、気を付けて行ってきてくださいっす」
「あぁ、行ってくる」
私は立ち上がって、石にはまった木の扉を開けて、家を出る。
……ここ三年でだいぶん、生活環境も充実したな。
「あそぶぅーぅ!」
「こら、メラ。悪魔さんのお仕事みたいなもんっすから、邪魔したらダメっすよー」
「おしごとー?」
「そうっす。うちの大黒柱っすからねぇ。
頼りにして仕事を増やすならともかく、邪魔して仕事を減らしちゃダメっすよ~。
仕事がなくなったら、あたしたちも干上がっちゃうんすから~」
「おしごと、ふやす、はいいの?」
「
感じのいい美人のためなら、なんだかんだ理由をつけて男は喜んで働くものなんだって、母ちゃんが言ってたっす!
だから、いいんすよ!」
「メラも、かんじの、びじんー?」
「メラはとびっきりっすよ~」
「かんじのびじん~。えへへ~」
閉じた扉の向こうから、親子の会話が聞こえた。
「……親から子へ、子から孫へか……。……教育に悪いな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の私の目的地は、高原から川を越えた先の森にある。
今回は、川を
修行の一環として、
魔力も、
跳ねたり、体をひねったり、縦に回転したり、
そうしていると、呼吸と魔力が肉体に馴染み、
が、あまりにも不安材料が多い。
だから、まだ実行には移さない。
気づくたび
高原を下り、森を抜け、山と山の間の谷にさしかかる。
その谷は、高原の山から流れる川と、熱水湖の山から流れる川との合流地点にできた谷。
二つの川の温度差で
このまるで視界が通らない谷を、私は
その理由は、この水の
「シィッ」
――キンッ、キンキンッ、キンッ!
私が
刀で弾き飛ばすと、硬いもの同士が弾ける音がする。
霧の中、
――キンッ、キンキンッ、キキキンッ、キンッ!
さらに、それは正面からだけでなく、
それらの姿は霧に隠れて、攻撃の直前まではまったく見えない。
それらから事前に感じとれるのは、ヒュという小さな風の音と、かすかな魔力だけ。
仮に攻撃をしのげても、浮かび上がるのは、刺叉のような影だけであり。
それを弾いても、二弾目、三弾目と次々に方向を問わず攻撃が襲いかかる。
ならば、その攻撃手段の刺叉のような影自体を破壊すればいいのではないか、と刺叉の破壊を実行してもキリがない。
この霧の中に入った獲物を、花を生ける
(――初めて来たときは
ちなみに、この無限の刺突、刺叉のような影の正体は、キノコだということがわかっている。
斬り取った刺叉を拾って、霧の外に持ち出して観察してみてようやくわかった。
石のような、
鹿の角かなにかじゃないかと
さらに、刺突の攻撃をたどって根もとを突き止めると、谷の
この山道を花留めたらしめているのは、深い霧の中で
ヴェラに聞いても名前がわからない魔境の生きものである。
――キンッ、キンキンッキンッ、キキキキンッキンッ!
と、いちいち刺叉の攻撃を破壊していても、キリがない――そもそも
ほぼ垂直の崖面を下りて上って、花留めの谷を
それから登った山を下り、蜘蛛とトカゲの岩石地域を抜け、ぶち当たった熱水湖を
目的地は南の森の
いっとう、まがまがしい気配を
四年前はこんな気配はなかった――そう、この魔境を進むときに通った森の途中だ。
ちょうど、巨大なヘビの
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それはなんと表現すればいいのか。
きっと、
そこは
黒い
頭や腹を失って。
胸に穴が空いたまま
下半身が
――そんな、一目で死んでいるとわかる獣の
なにが面白いのか――ギャハギャハ、ギャハギャハ、
跳ね回る狼の屍体が
「………………」
言葉を口にすることもはばかられる。
四年前、ウワバミを殺したそこは、死んだ獣たちが死してなお
「…………っ」
(――ヘビはしつこいと知っていたが……!)
そして、沼の中心でとぐろを巻く
(――いち、に、さん……六本か……)
頭首が六つ。胴体は太く長いヘビだった。
こぶから流れているとろとろの液体は、血なのか
「…………力が増すと
今この段階でも
おぞましい、という意味でも、単純に強大という意味でもだ。
この黄泉の領域が広がれば、森にまともに食べられるものはなくなるだろう。
さらには、足が届く
後者は修行になるからいいにしても、前者は
さらに成長する前に、あの多頭のヘビは殺すべきだ。
呼吸のリズム、魔力の循環をより深くしなやかに
進む先は、黒い瘴気が満ちる黄泉。
まともに呼吸ができるとは思えない。
魔力と血液を
加えて、魔力による超活性により、血液の
もちろん、
これらで、ガス欠や
呼吸・魔力統一式戦闘態勢。
この状態でいまの私が、無呼吸で月の呼吸を使い続けるとしたら……持つのは
1歳のときから比べれば大幅に成長した。
最後に一吸い、
「ホオオオ……」
沼の中心へ一直線に飛び込んで、
月の呼吸 伍の型
多頭ヘビをも巻き込んで。
前後
とぐろを巻いていたヘビの皮にも大きな傷が入った。
しかし、辺りに飛び散った生ける屍の肉片が
「「「ジャアァアアァ!!」」
「「「ジャアァアアァ!!」」」
悲鳴か怒号かあるいは、
多頭ヘビが六つすべての頭で、おぞましく
魔力が乗った声はそれだけで、指先や耳の奥の細かな
呼吸と魔力で肉体を強化していなければ、神経や
(――これは、どんな攻撃をしてくるか、予想が難しいな……)
相手は、生きものの
隙を見せれば足をすくわれるだろう。