おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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原作キャラと世界の設定捏造があります。

苦手な方はご注意ください。


11.修羅道

 

エルフにとって大自然(だいしぜん)――森とは、崇拝(すうはい)の対象である。

 

森を尊(とうと)び、森を守り、森と共に生き、森と共に死ぬ。

それがエルフという種族のあるべき姿である。

 

昨今(さっこん)は、貴族の間でも、いまどき古臭(ふるくさ)い思想だと笑われることが多いが。

少なくとも、王族として生まれたベアトリクスは、幼い時分(じぶん)から父よりそういった話を聞かされて育った。

 

もっとも、ベアトリクスの年齢を考えればその幼い時分とやらも、十分に昔と呼べるだろうが。

 

 

ベアトリクスというエルフ個人の意見として、森は崇(あが)めるべき対象であるかと聞かれれば、否(いな)と答える。

 

別に、古臭い思想に嫌気(いやけ)がさしているわけでも、森という環境に恨(うら)みがあるわけでもない。

かといって、敬(うやま)っているわけでもない。

 

(――森は森だ)

 

つまり、ベアトリクスには思想だとか崇拝だとか、古いとか新しいとかはどうでもよかった。

 

 

ただ、ベアトリクスは森のことが嫌いではない。

ともすれば、ライバルか親友に向けるような親(した)しみを広大な大森林に対して抱いている。

 

――武神(ぶしん)ベアトリクス。

 

ベアトリクスはそう呼ばれるようになって、おおよそ対等(たいとう)に自分と渡り合う者がいなくなっていた。

正確には、それよりもしばらく前から、ベアトリクスに敵(かな)う者などいなくなっていたが。

 

そのときはまだ、自分より上の使い手がいる、自分としのぎを削れる者がいつか現れる、という希望があった。

 

その希望が潰(つい)えたのは、ブシン祭――当時はまだ別の呼ばれ方をしていた、ミドガル王都で開かれていた武闘大会で覇(は)を唱(とな)えてからだ。

 

――世界一の称号(しょうごう)を手にしてしまった。

 

それ以降、彼女に敵う者はおろか、彼女に挑もうという者すらほとんど現れなくなった。

 

 

大森林の奥の魔境(まきょう)へ足を運んだのは、そんなときだった。

 

魔境には、自分が知らない生きものがたくさんいた。

魔境には、自分が予想もできないような戦い方をする魔獣がひしめいていた。

魔境では、自分を食い殺そうと挑みかかってくる存在が、絶えることなく次から次に湧いて出た。

 

当時のベアトリクスは、そのことに大きな喜びと感動を覚えた。

足しげく、大森林に分け入るようになり、また、武神と呼ばれるその剣の腕を更(さら)に向上させた。

 

 

 

その日、ベアトリクスは大森林の奥地へ来たのは、しばらくの別れを告げるためだった。

また、訪(おとず)れるようになるかもしれないが、しばらくは退屈(たいくつ)しなさそうだったから、その間はここを訪れる機会(きかい)は減るだろうと踏んでいた。

 

 

妹が産んだ娘。

すなわち、ベアトリクスの姪(めい)。

 

現在3歳の、幼き日のベアトリクスにそっくりな女児に、ベアトリクスは新たな希望を見出していた。

期待と言いかえてもいい。

 

ベアトリクスにはわかったのだ。

姪は、自身よりもさらに濃(こ)く英雄の血を引いていることが。

姪の身体つきや身体の動かし方から、自身を超える才能の持ち主であることが。

 

だから、決めた。

 

(――この子を私より強くしよう)

 

剣を教え、戦い方を教え、相対して磨き、経験を積ませ。

そして、いつか自分を倒すくらいの魔剣士に育て上げる。

 

姪とお馬さんごっこをしながら、ベアトリクスは胸に誓(ちか)ったのだ。

 

 

 

「おかしい」

 

一歩、魔境の土に足を付けて異変を感じとった。

 

明文化(めいぶんか)できる感覚ではない。

しかし、たしかな違和感(いわかん)がベアトリクスを襲った。

 

 

「森で何が……」

 

森で何かが起きている。

 

とんでもない災厄(さいやく)のようなものが、蠢動(しゅんどう)している。

直感だけで、ベアトリクスはそれを確信した。

 

 

トンッ、と。

 

音がしたときには、次の木の枝へ飛び移っている。

 

あまりに自然に、あまりに速い動きに普段(ふだん)、森を跋扈(ばっこ)する魔獣ですら反応できない。

 

 

ベアトリクスは異変が何なのか、魔境で何が起きているのか確認するため、魔境の奥へと這入(はい)っていった。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

地から吹き上がる黒い瘴気が体表(たいひょう)を撫で回っている。

まとった魔力に阻(はば)まれ肉体を冒(おか)すことはないが、生身(なまみ)で受けたら無事じゃすまないのではないだろうか?

 

瘴気(しょうき)からは、生きとし生けるものを蝕(むしば)まんとする、おぞましい意思を感じる。

 

 

頭上から突撃してきた屍鳥のくちばしを躱(かわ)す。

 

躱した先で待ち受けていた、屍狼の群(む)れの連携(れんけい)攻撃をしのぐ。

 

その間に一周して戻ってきた屍鳥のくちばしをまた躱し、今度はカウンターに滅多(めった)斬(ぎ)りにする。

 

追撃(ついげき)の屍狼の群れも同様に、拍子(ひょうし)をズラして連携を崩し、滅多斬り。

 

 

――屍狼のうち一頭だけ心臓を斬り損(き)ねた。

 

ベチャッ、と屍狼が自らはじき飛ばした心臓が、漂(ただよ)う瘴気を吸収し、どんどんと全身を再生させていく。

 

(――泥人形のようだ)

 

 

心臓に斬撃を飛ばし、斬り別(わ)ける。

 

すると、それが止(とど)めになって、屍狼の再生は止まり、瘴気に溶(と)けて消えた。

 

生ける屍は、頭と心臓を同時に破壊(はかい)しないかぎり再生する。

そういう性質をもっているようだった。

 

 

――刀を横に振り、放つ斬撃を推進力(すいしんりょく)に、一気に十歩ほど横へ移動。

 

――バツンッ!

 

直後、さっきまでいた場所に、いつかのように食らいつくヘビの頭の一つ。

 

(――クセは変わっていないようだな……)

 

 

気配は違う、力の質も違う。でも、わかる。

このいやらしさ、このしつこさ、この食(く)い意地(いぢ)。

 

間違いない。

 

姿形(すがたかたち)は違えど、この多頭のヘビはウワバミのなれの果てだ。

 

 

――まさか、死してなお、浮世(うきよ)に執着(しゅうちゃく)するとは……。

 

 

躱した頭に刀を振るう。

 

 

月の呼吸 壱ノ型 闇月(やみづき)・宵(よい)の宮(みや)

 

 

基礎の壱の斬撃が、ヘビの頭の一つを、縦に割った。

 

 

(――他者(ひと)のことは言えないが。これで残り五頭……ん?)

 

私自身の斬撃の威力が上がったのもあるが、それにしても手応(てごた)えが薄い気がする。

 

ウワバミのウロコはもっと硬かったような……。

 

 

斬撃の手応えを私が考えている間にも、当然、生ける屍となった獣や化生(けしょう)から猛攻(もうこう)があるので、それを捌(さば)き続ける。

 

チラ、とさっき斬ったヘビの頭に目を向けると、生ける屍らがそうであったように、再生を始めていた。

 

 

(――斬られても問題にならないほどの再生力か……?)

 

 

どうやら、この多頭のヘビにはウワバミにあったようなウロコによる防御能力はない。

しかし、それの代わりなのか、極(きわ)めて高い不死性(ふしせい)と再生能力を持っている。

 

 

――バツンッ! バツンッ、バツンッ!!

 

今度は一つ、二つ三つ、と躱す余地(よち)を奪(うば)うように、多頭を活(い)かした食らいつきの攻撃。

 

 

それを私はまた躱し、

 

 

月の呼吸 弐ノ型 珠華(しゅか)ノ弄月(ろうげつ)

 

カウンターに三つの頭を同時に斬り落とし、

 

――バツンッ!

 

さらに追(お)い撃(う)ちを仕掛(しか)けてきた四つ目の頭を、上に跳(は)ねて宙(ちゅう)に逃れることで躱す。

 

そのとき宙空(ちゅうくう)から見えた、初めに斬り別けた頭は、再生を終えて私を睨(にら)んでいた。

 

 

(――なるほど、これは厄介(やっかい)だ)

 

 

口端(くちは)が歪(ゆが)むのを感じる。

 

 

極めて高い不死性と再生能力。

多頭を生かした、隙間(すきま)を 詰(つ)めるような攻撃。

生ける屍たちの絶(た)え間ない攻撃。

息もできない、身を蝕む黒い瘴気。

 

 

(――斬り甲斐(がい)がある……っ!)

 

 

久方(ひさかた)ぶりの死闘(しとう)に私は心を躍(おど)らせた。

 

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