おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

14 / 38
12.修羅道2

 

この黒い瘴気(しょうき)の領域内の、生ける(しかばね)はあらかた殲滅(せんめつ)した。

 

たが、だからといって多頭のヘビのみへの攻撃に集中できるようになったわけではない。

 

なぜなら――

 

 

月の呼吸 壱ノ型 闇月(やみづき)(よい)(みや)

 

 

「ギャァアアア!!」

 

――減った分の生ける屍を補充するように、眷族(けんぞく)が増えるからだ。

 

 

一刀のもと斬り落とした頭から血があふれる。

その血は辺りに飛び()り、黒い瘴気と融合(ゆうごう)するとそこから、小さな黒ヘビが形をとって生まれた。

 

この黒ヘビは、どうやら多頭ヘビの眷族かなにかのようで、本体から独立して瘴気の(きり)を泳いでまわり攻撃を仕掛けてくる。

 

これがあるから、生ける屍を殲滅しても、敵の数が減った気がしない。

 

攻撃手段は、濃縮した瘴気を浴びせる毒攻撃と噛みつきの二つのみで、対処はしやすい。

だが、小さな(からだ)を活かした奇襲攻撃は全方位へ警戒を強いられる。

 

厄介(やっかい)だ。

 

 

月の呼吸 ()ノ型 落天(らくてん)崩月(ほうづき)

 

 

全周(ぜんしゅう)へ、複数の斬撃を同座標(ざひょう)(たば)ねた圧縮(あっしゅく)斬撃を、四連続で放つ。

 

 

――圧縮斬撃は、月の呼吸の型の中でも、二回しか使わない特殊な斬撃。

束ねられた斬撃同士が反発を起こして、離れた場所で刃の風車(かざぐるま)を複数個、同心円(どうしんえん)状に展開する性質を持っている。

 

 

肆ノ型はそんな圧縮斬撃の仕組みを利用した型だ。

 

放った四本の圧縮斬撃は、私から少し離れたところでそれぞれ四つずつに分裂(ぶんれつ)し十六の斬撃になり、さらに離れた場所ではまた分裂し六十四の斬撃となる。

離れていく(ごと)に、さらに四倍、さらに四倍と分裂して数を増やしていく。

 

そうして、分裂を()り返し増えながら、全方位を斬撃で制圧(せいあつ)する。

 

それが肆ノ型、落天・崩月。

 

 

当然、分裂するたび威力が落ちるため、一定以上の実力を持つ相手にはまず使わない。

だけども、いまの状況にはおあつらえ向きだ。

 

私から放たれ、無限にも思えるほど数を増やしていく斬撃が、そこら中を泳ぎまわっていた黒ヘビを文字通り(こな)みじんにしていく。

 

 

さらにダメ押しに――

 

 

月の呼吸 肆ノ型 落天・崩月

 

月の呼吸 肆ノ型 落天・崩月・水月(すいげつ)

 

 

――崩月の二連続(わざ)を加えることにより、徹底(てってい)的に眷族の黒ヘビを殺し尽くす。

 

 

「「ジャァアアィァアアアア!!」」

 

続いて、(てん)から(はさ)み打ちに(せま)る二つの頭と、地を(もぐ)り下から仕掛(しか)けて来る一つの頭、合計三つの頭を――

 

 

月の呼吸 弐ノ型 珠華(しゅか)弄月(ろうげつ)微睡(まどろみ)

 

 

「「「ァアア!」」」

 

――斬撃の推進力を利用した変則(へんそく)軌道(きどう)の移動で(かわ)しながら。

頭の数と同じ三つの強力な斬撃を放ち、斬り落とす。

 

落とした頭、三つ。これであと頭、三つ。

 

 

「「「ァアァアアゥィアアィアア!!」」」

 

また、続けて迫る三つの頭によるヘッドバッドによる叩きつけの(めん)攻撃を――

 

 

月の呼吸 (はち)ノ型 月龍輪尾(げつりゅうりんび)

 

 

「「「――――――ッ!!」」」

 

――三つまとめて、巨大な斬撃で斬り飛ばす。

 

加えて頭、三つ。これでもう、頭は残っていない。

 

しかし、頭を落とされた首は動きを止める様子はない。

 

(――わかっている。

この六つの頭を落としただけでは、この多頭のヘビは死なない。

これまでも、何度も試したことだ)

 

 

月の呼吸 拾壱(じゅういち)ノ型 月下微睡(げっかまどろみ)

 

 

ゆえに、刀から連続で放つ斬撃のほとんどを推進力に変えて、多頭ヘビの首の根もとへ。

 

落とした頭から生まれた眷族の黒ヘビたちの攻撃も、致命傷(ちめいしょう)になるものだけを斬り飛ばして、ぐんぐん進む。

 

 

多頭ヘビが頭を再生するとき、魔力の流れが、その首の根もとに(たん)(はっ)していることはわかっていた。

 

この領域を()たす黒い瘴気が、ヘビから吐き出されるものではなく、何かものを経由(けいゆ)して流れ出ているわけでもなく、大地から直接()いているものだとわかっていた。

 

 

(――あれか。多頭ヘビ、いや、この領域の(かく)は……!)

 

 

頭を(うしな)った多頭ヘビの首と眷族のヘビの猛攻(もうこう)突破(とっぱ)し、行きついた多頭ヘビの首の根もと。

 

 

それは、どくん、どくん、と(みゃく)()っていた。

 

それは、ヘビの皮のような色っぽさと()()()()()()()()()図太(ずぶと)さの両方を持ち合わせていた。

 

それは、動物の心臓にも見えたし、植物の根塊(こんかい)にも見えた。

 

 

多頭のヘビのその根もとには、本来あるはずの()はなく、四年前はここにあったはずの()()()()()もなく。

 

――樹木の()(かぶ)に、ヘビを癒着(ゆちゃく)させて融合(ゆうごう)させたみたいな奇怪な物体が存在した。

 

 

「――っ!!」

 

(はっ)せられる膨大な魔力に一瞬、威圧(いあつ)される。

 

 

あの植物質の心臓が、大地から魔力を吸い上げ多頭ヘビへ供給(きょうきゅう)し、再生させ。

また、あそこから発せられた異質な魔力が瘴気となり地下を通り、大地から湧き出ているのだろう。

 

(――とても、まがまがしく、(おぞ)ましい)

 

 

月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月(とこよこげつ)無間(むけん)

 

月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間・水月

 

 

一刻(いっこく)も早く、異常を取り除くべく、(さい)()状の斬撃を連続で重ねて放った。

 

陸ノ型は本来、足を()ろうとする地を這う斬撃を、相手が避けようと飛び跳ねたところを縦の斬撃で斬り()く技だが。

今回は少し工夫して、縦横の斬撃を均等に並べて、細かい賽の目状にした。

 

肉片(にくへん)一片(いっぺん)すら残してもいいことはないと、本能がうるさいのだ。

 

 

しかし、その隙間がない斬撃の面攻撃は、

 

『『『ァアア゛ァアア゛ア゛ア゛!!』』』

 

 

心臓から大地へと根を張っていた、紫色の木の()っこ。

ただ地面から魔力を吸い上げていたはずのそれらが起き上がって、百を超える黒いヘビとなり、斬撃をかき消した。

 

 

(――まだ(ねば)るか……!!)

 

 

大技を()(れん)(がま)えで放ち、隙だらけの私に後ろか多頭ヘビの頭が突撃してくる気配(けはい)

もう、再生を終えてしまったようだ。

 

まだ宙空(ちゅうくう)で中途半端な姿勢でいる私に、食らいつこうとする眷族の黒ヘビたち。

前後左右上下、方向を()わず、距離は間近(まぢか)(かわ)すことはできまい。

 

 

(――まさか、畜生(ちくしょう)相手に抜くことになるとは……!!)

 

「ハァ……ッ」

 

私は大きく息を吐き出した。

 

 

一瞬、(つか)を強く握り、刀へ全意識を集中する。

愛刀、虚哭神去(きょこくかむさり)に走り、流れる、(きん)繊維(せんい)一糸一糸(いっしいっし)、血液の血球(けっきゅう)一粒一粒(ひとつぶひとつぶ)まで把握(はあく)する。

 

自身の身体の血肉(さいぼう)を、血を、血管を、神経(しんけい)を、筋繊維を、魔力で繊細(せんさい)に操作。

 

 

 

今朝(けさ)、メラにあんな話をしたからか、なんとなく思い出すことがある。

 

それは前世の父の言葉だった。

 

 

――武士にとって、体は(いのち)、刀は(たましい)

 

――決戦に(のぞ)むなら、命よりも魂を(とうと)ぶのだ。

 

――刀が折れそうになるなら、身を(てい)してでも刀を守れ。

――腹を斬られることよりも、腕を斬られることを(おそ)れろ。

 

 

――一人でも多く敵を殺せ。一振りでも多く刀を振るえ。

――命が()てるときまで、(けん)()らずに、戦い抜け。

 

 

――武士が刀を抜くとはそういうことだ。

 

――魂のために死ぬ(刀よりも先に死ね)

――命よりも大切な、魂を()けることを決めるということだ。

 

 

いかにも乱世(らんせい)の武士らしい、父の言葉だった。

 

 

 

「――ハッッッ!」

 

抜刀(ばっとう)

 

気合(きあ)いと共に刀の形を変える。

 

直刀の刀身を(みき)として、枝分かれし、(また)をつくる()った刃の刀身を数本()やす。

 

青ざめた刀身が、もっと深く暗くなった。

 

 

五歳の身体に消耗(しょうもう)()いられる。

 

しかし、強烈な喪失感(そうしつかん)と脱力感は、裏腹に湧き上がる久しぶりに味わう全能感と解放感に上書きされる。

 

 

全方位から食らいついて、濃縮した瘴気の毒で肉体を腐らせる黒ヘビたち。

 

 

「「「ィァアアアアァアアア!!」」」

「「「ァアアアアアアゥァアアアア!!」」」

 

ようやく宿敵(しゅくてき)を食い殺せる(よろこ)びに、この日一番の高い声を上げる多頭のヘビ。

 

 

(――私も、同じ気分だっ……!!)

 

刀を構える。

 

 

(――敬意を表する)

 

(――いまの私が弱いことを認めよう)

 

(――貴様が魂を()けるべき相手であると認めよう)

 

 

(――だから……)

 

 

月の呼吸 (じゅう)()ノ型 兇変(きょうへん)天満繊月(てんまんせんげつ)

 

月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月・水月

 

月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月・三夜(さんや)

 

 

(――私の(かて)になって死ね)

 

 

自らを中心に。

天上(てんじょう)から地底(ちてい)まで、前後左右()てしなく。

 

巨大な斬撃を三百本、らせん状に(つら)ねて重ねて解放する。

 

 

「「「ァ?!?!?!?!」」」「「「?!?!?ィ!?ァ!?!」」」

 

 

超高密度の斬撃が物も命も空気も殺し、発生した力場(ちきば)が空間を(きし)ませる。

 

食いついていた子ヘビらも、大口を開けて笑っていた大蛇の頭も、断末魔(だんまつま)すら(きざ)む。

 

代わりに届いたのは、キィキィと耳障(みみざわ)りな空間の悲鳴であった。

 

 

 

「はぁ……ふぅ……! はぁ……ふぅ……! はぁ……」

 

 

ふらつきそうになる足でなんとか、深い地面に降り立つ。

 

 

残心。

 

勢いを殺しきれず、よろけかけても周囲に気を(くば)り続ける。

 

 

クレーター。

 

もともとあった(けが)れた大地はめちゃくちゃに。

()がれ、壊され、攪拌(かくはん)されて、斬り刻まれて、地をくぼませていた。

 

何かが()げるにおい。

何かが()けるにおい。

何かが()けたにおい。

 

そこここから煙が立ち(のぼ)って熱い。

 

 

「はぁ……、ふぅ……! はぁ……、ふぅ……。はぁ……、ふぅ……。ふぅ…………。はぁ……、ふぅ……」

 

 

ゆるやかに肉体をほぐす……。

 

息と共に力を抜いていく……。

 

 

 

「ふぅ……。はぁ……、ふぅ……。はぁ……ふぅ……。

すぅーー……はぁ……ふぅ……。すぅーー……」

 

身体に溜まった悪い空気(にさんかたんそ)をあらかた吐き出し終わったところ。

いい加減、窒息(ちっそく)しかけている身体に新鮮(しんせん)な空気を供給する。

 

 

「すぅーー……はぁ……ふぅ……」

 

 

また、しばらく、まともな呼吸を続けてやっと、脈拍(みゃくはく)と意識と感覚が安定していく。

 

過剰(かじょう)なものから平常なものへ戻る。

 

過熱(かねつ)高揚(こうよう)過敏(かびん)が冷えて(おさ)まる。

 

 

納刀(のうとう)

 

シュゥーーッ、と枝分かれした刀の刃も、一本の直刀に納まった。

 

 

「はぁ……ふぅ……。すぅーー。はぁ……ふぅ……」

 

 

そして、私は残心を解いた。

 





捏造月の呼吸紹介

・月の呼吸 肆ノ型 落天(らくてん)崩月(ほうづき)
……斬撃と斬撃を重ねて放って、斬撃同士を反発させて、離れた場所で刃の風車を展開させる、圧縮斬撃とかいう捏造した謎の技術を利用して放つ技。
放った斬撃が、離れるごとに四倍ずつに増えていって、斬撃で空間を制圧する技。
原作に登場していないけど、()ノ型と拾参(じゅうさん)ノ型って番号の不吉さからして、絶対発動してたらやばい型だっただろ、って思ったらこんなんなった。
今世では魔力で超強化されているけど、前世での血鬼術としての出力は低く、柱レベルの剣士が剣を振れば風圧だけである程度防げた、という設定。

・月の呼吸 拾壱ノ型 月下(げっか)微睡《まどろみ》
……移動技。移動の障害になるものを斬り飛ばしながら、打ち出した斬撃を推進力に高速移動する技。
原作登場初期の善逸が繰り出す雷の呼吸の壱ノ型と同じくらいの速度。
今回は致命傷になる攻撃(障害)以外をすべて無視して、その分のリソースを推進力に回したため、それよりも速い。

・月の呼吸 ○ノ型 ○○○○・微睡(まどろみ)
……○ノ型を、斬撃を推進力にした高速移動を行いながら放つ技。

・月の呼吸 ○ノ型 ○○○○・水月(すいげつ)
……一つ前に繰り出した型と同じ型を続けざまに放つ技。二連撃目。
水月とは、水面に映った月のこと。つまり、同じ景色に月が二つ現れることになるから、二連撃目に採用。
普通に、○○○○・二連、って感じでまとめればいいじゃんと思ったけど、黒死牟さんなら無駄に格好いいネーミングしそだな、と思ったらこうなった。強いていうなら、前の型に続けて次の型を放つ(二連)というよりも、前の型の隙間を埋めるように次の型を重ねて放つ(水月)から、二連とは別のもの扱い。

・月の呼吸 ○ノ型 ○○○○・三夜(さんや)
……一つ前に繰り出した型と同じ型を続けざまに放つ技。順番が違うだけで、水月と内容は同じ。三連撃目。
三夜とは、三日月の夜のこと。また、三夜さま、は月読神社の祭礼。三、という語が入っていて、なにかと月と関わりが深い言葉だったから、三連撃目に採用。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。