ベアトリクスが森を這入った先で見たのは、
深い森中にぽっかり
しかし、それははるか上空から鉱物が降ってきたことでできた穴では決してなく。
「――っ!」
大穴の中心に、小さな人影が見つけた。
目にした瞬間にベアトリクスは走り出していた。
その人影がまだ子どものもので、こんなところにいるのは危険だから――ではない。
(――あれは危険)
その子どもの人影が手にしている不気味な紫色の
その子どもの顔にまるで悪魔の
第六感ともいうべきものが、それのあまりに異質な気配を読み取ったから。
それが持つ力の濃さ、強さ、大きさに底知れないものを感じたから。
ベアトリクスは
――カキンッ!
「――っ!」
果たして、その判断は正しかったのだとベアトリクスは確信した。
躊躇いなもなく、最速で抜き放った彼女の
握る細剣の切っ先を
即座にくるりと反転した勢いのままに、人影の足を切り落とすつもりで放った剣閃も、
――ヒュッ
と、空気を斬った
そして、
「
人影はいつの間にか、細剣を振り抜いた姿勢のベアトリクスの
顔のすぐそばにある、赤い瞳と目が合う。
「見たところ、
――死ね。
人影が声に出さずに、口を動かした瞬間、
それを、この極限の状況で思い出し、起動してみせたのだ。
――バリンッ!!
起動した
そして、その鋭すぎる斬撃に障壁が大破したのを理解しながら、このときを逃さじと人影の心臓へ細剣を突き込む。
勝利するチャンスがあるとするなら、これが最後だろうと確信した
それは、
「――見事。痣が出ていなければ、刺さっていただろう」
それすらも、空気を貫くばかりで、人影は半身をズラすだけで避けていた。
「
――これは死ぬ。
ベアトリクスは自身の死を
人影は意外そうな顔をした。
そこでようやく、この人影も人間らしい顔を持っていることをベアトリクスは認識した。
あまりに異質で、異常な気配に目に映る情報を一切、信用していなかった自分に気が付いた。
「――鬼、かもしれんな……」
そんな、渇いた、けれど、とても幼い声を聞いて。
ベアトリクスの意識は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
残心を解いてから、毒を解毒していた。
同時に、身体損傷を回復させるため魔力を巡らせて、意識を集中して細かに身体の
(――ん、これは…………)
顔が焼け付くような感覚が、なんなのかは理解していた。
ああ、ならば私はまた前世と同じ道を歩むことになるのかもしれないな、とどこか
そんなとき、巡らせている魔力の淀みがほんのわずかな違和感を
それは極めて
しかし、微細だからといって無視できるものではない。
その違和感は顔の
(――まるで、
身体全体、
目を閉じて、身体の状態を入念に観察してわかったことだった。
そして、それは顔の痣を中心にして、広がっているようだった。
(――これが寿命を縮めるのだとすれば、この損傷を修復できれば、あるいは……)
――カキンッ!
極めて深い瞑想状態にあっても、幾百年に渡り
(――人間の女……? いや、耳が長い……。しかし、構造は明らかに人間……)
防御することで刀の柄にかかった、重さはふいに無くなり、次の瞬間には女の剣は足があった場所を
それよりも前、女が体勢を変えながら身体を回す間に、私は女の死角に入っていたが。
「淀みのない……いい、剣を振るうな」
私は女の懐に入り込んでそう言った。
刀に手をかける。
「見たところ、化生といった風情ではないが……。取りあうのなら、同じこと」
――死ね。
「さて、どうしたものか……」
首を
腰に
そして、そのあとに繰り出された耳長の女の刺突も。
多頭のヘビと
それほど速い刺突だった。
さて、そのあと耳長の女を殺そうと思ったのだが。
反射的なものなのか、上半身と下半身を分断するはずだった一刀は、耳長の女の突き出した剣の鞘とその向こうの脚に防がれた。
魔力を集中させたのだろう。
鞘を握った左腕も、鞘と身体の間に
皮一枚でつながっている、というところか。
それでも、
「二度も、とどめを、防がれたな……」
まだ、耳長の女は生きている。
このまま、
だが、
久しぶりに死闘というものを味わった影響かもしれない。
自身とまともに張り合える者と相対することは、自身の力を再確認するのと同時に、さらなる高みへと
闘争の中でしか得ることができない
たとえ命を落とす危険があろうとも。
力を振るい、次の手を読み合い鍛錬の集大成を形にし、
一瞬の
その快感を思い出してしまったから、この耳長の女を殺すことを、惜しいと感じるのだ。
「生かせば、また――戦えるか?」
実力差はある。
しかし、耳長の女にはまだ伸びしろがあるように思える。
(――呼吸術も習得していないようだったし……)
ちょうど、物心が付き始めたヴェラの娘、メラにも、そろそろ呼吸術を教えようと思っていたのだ。
「持って帰ろう」
私は、耳長の女を