おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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15.テンプレートてきなシティ

 

翌々日。

 

ベアトリクスとの話し合いは済んだ。

 

 

私がベアトリクスに、呼吸術と魔力による血液操作を教える。

そして、定期的に仕合(しあ)うこと。

 

代わりに、ベアトリクスは私をここから一番近い流通が整った街へ案内し、買いものに協力する。

あと、メラに世の知識、常識を教えること。

 

ちなみに、流通が整った街とは、盗賊団にいた頃のヴェラが拠点にしていた町――とは別の少し離れたところらしい。

 

 

もともと、ただ一方的に鍛えて遊び相手を作ろう、と思って(ひろ)って来たため、そのことに対価はいらない。

のだが、それでは教えられるが納得しない。

ということで、ヴェラの提案で、どうしてもいまの環境では調達できない生活用品の入手に付き合ってもらうことになった。

 

メラ(とヴェラと私)の常識の教育にも。

 

行く行くは、街にメラを連れて行って、人の世で生きる(すべ)を身につけさせたいところだ。

 

 

 

街へ行くなら、距離の関係上、最低でも一泊することになる。

その間、家を開けることが心配だ。

 

そのことを、ヴェラに相談すると、

 

「あ~、あくまさんが、よそのおんなに、ねとられる~~~。のうが……ふるえる」

 

と、棒読みで言ったあとに。

 

喜々として街で買ってきてほしいものを、もらった紙に書き付け始めたので、たぶん大丈夫なのだろう。

 

 

 

「では、行ってくる」

 

 

「行ってらっしゃいっす~!」

 

「おねぇちゃん、気を付けてねー!」

 

「フスッ」

 

 

家にいる者に総出(そうで)で見送られて、山を下り始めた。

 

 

 

街までは、ベアトリクスの脚で走って半日。

魔剣士協会の中堅レベルの脚で走って、三週間以上かかる距離だそうだ。

 

 

我々は半日のペースで()く。

 

私が初めて踏み入る場所もあるようだが、ここら一帯(いったい)のことを知り尽くしているベアトリクス曰く、私なら大丈夫とのこと。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

(――思えば、今世に生まれてからこれほど多くのひとが、一所にいるのを見るのは初めてだ)

 

街のそばに着いたところで歩きに切り替え、(なら)された道を辿(たど)ってきた。

 

石の外壁に空いた出入り口へ続く列に、並びながら感嘆(かんたん)の息をこぼした。

 

 

(――人間、ちゃんと、生きているのだな……)

 

当たり前なのに、妙に感心させられてしまった。

 

 

(――あれが話に聞いていた獣人か。あれがエルフ……本当にベアトリクス以外にも耳が長い人間がいるのだな)

 

 

あちこち見回す私を、隣でくすりと笑う気配は気にしない。

 

 

あっという間に、出入り口の門まで列が進む。

 

門では、槍を手にした男が数名立っており、全員が同じ装いに身を包んでいた。

門番だ。

 

 

「通行料は鉄貨で3枚」

 

と、門に到着する寸前(すんぜん)でベアトリクスに耳打ちされた。

 

門では別れて、別々の門番に通行の手続きを行ってもらう。

 

 

「次、通行料は300ゼニーだ、払えないならガキだろうと通さん」

 

 

私は言われた通りに背負い袋から取り出した財布から、鉄でできた硬貨を三枚取り出し、門番の男に渡した。

 

男は引ったくるように受け取り、手にした硬貨を()めつ(すが)めつする。

 

 

「偽物ではないようだな」

 

 

それでやり取りは終わりになり、無事に街に入ることができる、と思ったのだが、

 

「いい剣、持ってんな。どこから()ってきたんだ? ガキ?」

 

と、やぶ(にら)みをし始めた。

 

 

面倒なことになるのを、私が予感していると、

 

「その子の剣はその子のものだ。私が保証する」

 

隣の門番とのやり取りを終えたベアトリクスが、腕を突き出した。

 

 

私と門番との間に伸ばされたベアトリクスの手には、金属でできた(カード)(つま)ままれている。

 

 

「こっ、これは失礼しました! どうぞ、お通り下さい!」

 

「うん。行こう、クレア」

 

「……?」

 

 

札に軽く目を通した途端に、門番は態度を改めて、震えながら道を(ゆず)った。

 

 

「なにを見せた?」

 

「これ」

 

 

私が()うと、ベアトリクスはさっき門番に見せた(カード)を示す。

 

いや、それは、わかっているのだが……。

 

 

「なんと書いてある?」

 

「あっ、そっか……文字も帰ったら教えてあげよう」

 

 

入ったばかりの広場の(にと)()みを抜け、ベアトリクスは立ち止まり、街の西側へ目を向けた。

 

 

「これは、魔剣士協会の登録証。……あんまり依頼を受けることはないんだけど、旅するなら何かと便利なんだ。

さっきの門番にやったみたいに、身分証にもなる」

 

 

そして、うん、と(うなず)く。

 

 

(きみ)も登録していたほうが便利かも」

 

「できるのか? 公的な(せき)などはないが……」

 

「そういう人がたくさんいる場所だから、大丈夫。そうだね、先にそっちに行こうか」

 

 

仮にも身分を(あか)せるものが手に入るのなら、それはありがたいことだ。

 

ベアトリクスが西へ向けて歩き出しかけて、すぐに止まり、

 

「迷子になるといけない」

 

と、差し出された手に、私も手を差し出した。

 

……迷子になることを心配はしているわけじゃないが。

子どもだけで歩いていると、面倒事に巻き込まれやすいと判断しただけである。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

魔剣士協会の建物は、古びた石の丈夫そうな建物だった。

 

三本の剣の絵の看板が掛かっているが、その下に書いてある文字は読めない。

 

 

開けっぱなしの扉を通ると視線が集中する。

 

戦いを生業(なりわい)にしている者の(さが)だろう。

会う者の力や(よそお)いを反射的に確認してしまうのは。

 

 

「おいおいおい、細い女とクソガキが何の用だぁ? ここは天下の魔剣士ギルドだぞぉ?」

 

視線の中でも特に荒っぽいやつを向けていた男が、前屈みの姿勢でベアトリクスに突っかかる。

 

 

「この子の登録に来た」

 

かなり威圧的な態度で睨む男のことを気にもせず、ベアトリクスは正直に(おう)じる。

 

 

(やなぎ)に風、か」

 

 

まさか嫌そうな顔をされもしないと思わなかったのか、男は少し面食らい、ゴキッと首を鳴らしてこちらへ顔を近付けた。

 

 

「登録だぁ? こんなガキを登録してどうするってんだ? 肉壁にもなんねぇぞ? (おとり)か?」

 

「いや、この子は私より強いから、囮になるなら……どうだろう? 状況次第かな」

 

「はぁ? 何言ってんだ、あんた?」

 

 

ベアトリクスの発言に、男はまた意表を突かれて、バカを見るような目をベアトリクスへ送った。

 

ベアトリクスに気にした様子はない。

 

 

数秒の沈黙があって、首傾げるたびにゴキッ、ゴキッ、と鳴る男の頭が後ろから(たた)かれた。

 

 

「イデッ?!」

 

「何やってんだ! 見るヤツ見るヤツに(から)んでんじゃねぇよ、ボケ!」

 

「カラんでねぇよ! 魔剣士ナメてんじゃねぇって教えてやってただけだ!」

 

「それを絡むっていうんだよ、アホ」

 

「イデッ!」

 

 

男の頭を叩いたのは、二十半ばくらいの女。

腰に剣と手斧を下げた、おそらく女の魔剣士なのだろう。

太く鍛えられた二の腕が、革の服の上からでもわかる。

 

 

魔剣士の女はシッ、シッ、と突っかかっていた男を、隅のテーブル――たぶん、待ち合わせのためのもの――へ追い払う。

 

 

我々に向いて、口を開いた。

 

 

「すまないね。あいつも、悪いやつじゃあねぇんだ。最近、調子くずしてるだけでさ」

 

「そう。じゃあ私たちは登録に――」

 

「あれは、そう、始まりは(むご)い殺され方の死体が裏町で見つかったことだった」

 

「――長くなる?」

 

「心臓をくり抜かれた死体でさ。殺されてたのは立ちんぼの娼婦(しょうふ)だったんだけど。その子があいつのお気に入りで」

 

 

魔剣士の女はこちらが訊ねてもいないのに、何事か語り出した。

 

要約(ようやく)すると。

ここ一ヶ月くらい、この街で。

心臓をくり抜かれた惨殺(ざんさつ)死体が、相次(あいつ)いで発見されているという事件。

 

最初に見つかったのは、裏町で拠点を持たずに娼婦をしていた女。

それから次に、事件の調査に乗り出したこの街の衛兵(えいへい)の死体が、同じ状態で発見され。

これはただ事ではない、といち早く解決するために街長から協会に出された依頼を受けた魔剣士の死体が、また同じ状態で発見された。

 

そのあとは、数日おきに、娼婦だったり魔剣士だったりの惨殺死体が発見されているのだという。

 

 

女はただ語りたかっただけなのだろう。

 

話を終えると、すっきりした表情で魔剣士協会の建物から出ていった。

 

 

話の途中から、さっき突っかかってきた男が着いているのと、同じテーブルの椅子に腰掛けていたベアトリクスはあくびして一言。

 

「長かった」

 

と、だけ言った。

 

 

 

 

「申し訳ない。まさか、年齢に制限があったとは」

 

「身分証明はできるのだから、十分ありがたい」

 

 

少し気落ちした様子のベアトリクスと、魔剣士協会の建物を出る。

 

 

魔剣士協会の登録条件の一つ、15歳以上というものに引っかかり私は登録できなかったのだ。

 

実績と実力があれば、例外措置が認められ早くから登録可能らしいのだが、それも11歳以上という条件が付く。

 

私の年齢は、前世を入れなければ5歳。

言われてみれば、なるほど、戦いを生業にする職に()けるわけがない。

 

 

ただ、後見人や保証人がいるのなら、その弟子というか小間使いのようなものとして、仮登録なるものができるという話だったので。

ベアトリクスはそれに了承(りょうしょう)

 

魔剣士見習いクレアとして、仮登録証が発行され。

身分を証明する(すべ)を手に入れる、という目的は達成した。

 

 

依頼を受けることはできないが、素材の売買などはできるらしいから、十二分とも言える。

 

ちなみに、仮登録のときにベアトリクスが世に名の知れた『武神』であることに受付が気が付いて大層(たいそう)な騒ぎになった。

本当に、有名なのだな、と私は感心させられた。

 

 

「それで、買いものとは、何を買うんだ?」

 

「それなのだが」

 

 

訊ねられて、出発前、ヴェラに渡された紙を取り出す。

 

他ならぬベアトリクスから譲り受けた上質な紙に、買って来てほしいもの(おそらく)が書き(つづ)られていた。

 

 

「読めるか……?」

 

「あぁ、なるほど、貸してほしい」

 

 

ベアトリクスに渡すと、紙の上から下まで目を通し、ん? と首を傾げた。

 

 

「本当にこれを全部、買うのか?」

 

何が書かれていたというのか?

 

 

「内容を教えてもらえるか?」

 

「まず、ダイヤモンドの――」

 

「やっぱりいい。生活に必要そうなものだけを挙げ(ピックアップし)てもらえるだろうか?」

 

「わかった。じゃあ……」

 

 

それから、ベアトリクスが読み上げたものから、確かにいまの生活環境に必要と思われるものだけを残していく。

 

 

「先に宿を取っておこう」

 

という助言に賛成し、宿の部屋を確保してから市場(いちば)へ買いものに繰り出した。

 

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